【黒ウィズ】アンダーナイトテイル Story3
アンダーナイトテイル Story3
目次
登場人物
story
ー方、そのころピノキオは、目に止まった演人たちから、童話石を片っ端から奪っていた。
童話石を失った演人は、設置された魔法結界の影響で、絵本に変わってしまう。
違う。なんかぬくぬくが足りない。温もり不足ぎみ~。
今回も外れ……。ざんねーん。
足元には、無数の童話石が転がっていた。すべて、別の演人から奪ったものだ。
ピノキオの探している“ぬくぬく”が、なんのことなのかケットにはわからなかった。
ピノキオは、ただの木にすぎませんでした。
「ようやく村に着いたわね。」
村にやってきたピノキオとケットは、そこで人形師のおじいさんに出会ったのです。
『意思があるとは、不思議な木だ。どこか行きたいところがあるのなら、動きやすい身体にしてやろう』
そして、人形師のおじいさんの手によって生まれたのが、ピノキオです。
「随分、人間らしくなったわね。」
ピノキオは、感謝するということを知りません。心がないからです。
でも、身体は動くので、いつもどこかに行きたくて焦ってます。ただ、どこへ行けばいいのか、自分でもわかりません。
「人間は、それぞれ心という司令塔を持っているのよ。きっとピノキオには、それがないから迷うのよ。」
「こころ……?”こころ”欲しい……。」
自分の心を探すために、ピノキオは旅に出ることにしました。
おじいさんは、まるで本当の子どものように愛情を注いでくれました。だから行くな、と言ってくれました。
しかし、心のないピノキオには、おじいさんの愛情が伝わりません。
「いってきます。」
ピノキオは、自分の手足から伸びていた操り糸を大きなハサミで断ち切り、旅に出ました。
「安心しておじいさん。私がピノキオの保護者になるから。」
そして、ふたりは旅をはじめたのでした。
ぼんやりと噴水の縁に腰掛けるピノキオ。そのポケットから、童話石がこぼれた。
運悪く童話石は、噴水の中に落ちてしまった。
選んだ方を、あなたに差し上げましょう。
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わらわらと演人たちが群がってくる。
スノウが、あみぐるみの戦士たちを放った。
君がカードを抜いて魔法を放ち、メメリーは爆弾を投げた。
ヘンリーは、衝撃で後方に吹き飛び、噴水に落下する。
スノウの掲げた手に、君たちは右手を合せた。ハイタッチというやつだ。
あなたが、落としたのは、この普通のヘンリーと、少しくすんだヘンリーのどちらでしょう?
君は、どちらでもないと答えた。
欲のないお人には、この普通のヘンリー・クロックを差し上げましょう。
いらない、と君は答える。
お仕置きとはいったい……。
噴水の泉が、渦巻きはじめた。
水面に上がってきたのは、行方がわからなくなっていたピノキオとケットだった。
待ってと、君は師匠を後ろに下がらせた。
ピノキオの様子が明らかにおかしかった。
以前は、無邪気な子どものような、あどけない瞳をしていたピノキオだったが、その瞳からは、明確な殺意が放たれている。
選んだ?まさか……。
胸の辺りに本来のものではない、銀色の童話石が埋め込まれている。
心配しないで。君のことは、僕が救ってあげる。
***
ピノキオの大バサミは、ー見、毛糸で編まれたあみぐるみの大敵のように見える。
ハサミで断ち切られてしまえば、それまでの儚い存在――のはずだった。
すかさず、ハサミで切断されたあみぐるみを毛糸と編み棒を使って復元する。
あみぐるみは、切られても切られても、何度も生まれ変わった。
「鏡よ鏡。この国でー番美しいのは誰かしら?」
だから、僕はこの毛糸を使って、身を守る方法を編み出すしかなかったんだよ。
さあ、行け。勇敢な〈ツヴェルグ・リッター〉。可愛そうな傀儡人形を正気に戻してあげるんだ。
7体が息を揃えて、ピノキオに襲いかかる。
ピノキオは大バサミを振って、まとわりつくあみぐるみから身を守るので精いっぱいだった。
放った毛糸が、大バサミの柄に巻き付いた。これではハサミを開くことができない。
たとえ勝っても、君が納得してなきゃ、勝利した意味がないからね。
駆け出したピノキオ。しかし、すぐさま地面に突っ伏すことになる。
ドワーフの戦士たちが、ピノキオの両足に毛糸を巻き付けていた。
ピノキオは、起き上がるなり、胸に埋め込まれている銀の童話石をつかんで投げ捨てた。
選ばなかった、もうひとつの選択肢。それが、金色の童話石。
ピノキオは、何かに取り憑かれたように、金色の童話石を手に取り、それを胸に埋め込んだ。
突然、ピノキオはヘンリーにハサミを向けた。
突然の仲間割れ。君たちにとって、予想外の展開だった。
ピノキオの振る大バサミを、ヘンリーは巧みに避けていた。
ヘンリーは、相手の攻撃を見計らって腕時計に手を伸ばそうとしている。
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君は、魔法を唱えた。ここで、時を止めさせはしない。
ヘンリーは、人差し指に弾力を感じた。
ほこりでも払うように手を払うと、小さなケットの身体は、軽々と吹き飛ばされた。
君は、ケットに駆け寄った。
ケットの傷は、すぐに癒えた。けど、ケットは目を覚まさない。
ピノキオは、胸を押さえて苦しんでいた。金の童話石を胸に埋め込んだ副作用だろうか。
ケットの言葉に、ピノキオは反応しなかった。まるで聞こえていないかのように。
ピノキオには、君の手にいるケットの声は聞こえていない。姿も、見えていないようだった。
君は、ケットの願いを聞き届け、そっとピノキオの肩に置いてあげる。
ケットは、深い森で生きる妖精だった。しかし、人間の世界に興味を持つケットにとって森での生活は退屈なものだった。
その森の妖精には、迷いこんだ魂をあるべき場所に導く役目があった。
でも、その魂からは、人間に戻りたいという強い意志を感じた。
ケットはピノキオを救おうと決意した。
妖精の力を使い、その浮かばれない小さな魂を、森にあるケットがねぐらにしていた木に宿らせた。
元の身体を取り戻すのが無理なら、せめて木で出来た身体を与えてあげたいという思いだった。
不自由な木の身体を、ぴょんぴょん弾ませて、人間の里まで、動きはじめた。
これにはケットも困った。とにかく、彼女のあとを追いかけた。
そして、ピノキオは人間の住む村で、人形師のおじいさんと出会い、その身体を手に入れた。
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私には最後まで、この子の行く末を見守る責任があるの。
だから、ピノキオ。目を覚ましなさい……。そんな偽物の心なんて、さっさと捨てちゃいなさい。
あなたの魂には純粋な心が、きっと宿っている。それに気づいていないだけなのよ。
どこ?どこにいるの?
ケットの姿が見えなくなった理由は――やはり、金の童話石だ。
その娘は、我が輩の操り人形ぞよ。ヴィラード様のために、遊戯(ゲーム)を盛り上げるためのキーパーソンぞよ。
激情して、ケットに手を上げようとする。しかし、寸前で君が止めに入った。
遊戯なんかのために、ふたりの絆を断ち切るのは、やめろと君は怒りを抑えながら言う。
***
ヘンリーを撃破した君たちだったが……。
ケットの姿が、先ほどよりも透明になっている。存在が消え去ろうとしているのだ。
実は、森の木に彼女の魂を宿した時に、妖精の力を使い果たしてしまったの。
力を使い果たした妖精は、消滅する。
今まで消滅しなかったのは、ピノキオに移した妖精の力が、ケットの存在を支えていたからだ。
ケットの姿が、さらに薄くなっていく。
消えゆくケットを引き戻す術は、君にはない。
それができるのは、ただひとり……。
偽物の心を持ったままだと、ケットの姿はずっと見えない。それでいいのかと君は問う。
ためらうことなく、金色の童話石を投げ捨てた。
ピノキオは、ようやく見えたケットを両手で包み込む。
ほんとしぶとい奴だね、と君は指の関節を鳴らした。
許せん!者ども、こやつを成敗するぞよ!
ピノキオはヘンリーたちに反撃しない。手の中にいるケットを必死に守っている。
だけど神様。ケットがいなくなっちゃうのは、嫌……。
これからも、ずっとー緒にいたい。そのお願いさえ叶えてくれるのなら……。
もう“こころ”なんて手に入らなくてもいい。だから、ケットを連れていかないで――
その時、ピノキオの胸の中にこれまで感じたことのない、温もりが宿った。
心は、はじめからあったんです。ただ、それに気づかなかっただけではないでしょうか?
手の中のケットを抱きしめる。
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ふたりが、互いの絆を確認しあっている間に、君たちはヘンリーが放った雑魚を片付けていた。
そういう時は、私にお任せ。ちょちょいの、ちょい!
手早くメメリーの童話石を浄化する。その手並みは慣れたものだ。
雑魚は、片付いた。あとは、親玉を残すのみ。
でも、ガラスの靴は、ここにあるぞよ。
上空から、黒いー団が迫ってくる。
大量のコウモリが飛来する。
君たちの視界は、瞬く間に黒い翼に覆われた。
コウモリの数が多すぎる。視界が、真っ黒でなにも見えない。
身を守る術を持たないアーシュだけでも先に助けて離脱するにゃ!
君は、傷ついたアーシュを抱きかかえると、急いでその場を離れた。
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そういうわけにはいかないよ、と君はコウモリにやられた傷を治癒する。
でも、私がみなさんの足を引つ張っているようでは、シンデレラ失格です。
アーシュには、童話石を浄化してもらって何度も助けられた、と君は言う。
実は……はじめてお会いした時から感じてました。魔法使いさんは、あの人に雰囲気が似てるって。
だから、魔法使いさんといると、私ももっと頑張らなきゃって気分になるんです。
それは、光栄だと君は言う。
怪我の治療は、大方終わった。先はどの場所に戻って置いてきたみんなの無事を確かめたかった。
スノウちゃんや、メメリーちゃんを、助けてあげてください。
すぐに戻ってくると君は約束して、小屋を後にした。
***
コウモリもいなければ、スノウやメメリーたちもいなくなっている。
でも、運良く合流できてよかった。
君は、お礼の代わりにスノウの頭をぐりぐり撫でてあげた。
たったそれだけのことで、スノウは、少し涙ぐむ。
ねえ、魔法使いさん……。アーシュを絶対に死なせちゃダメだよ?
当然だ。どうしてそんなことを言い出すのだろうかと、君は戸惑う。
実は、魔法使いさんたちの知らないところで、僕の濁った童話石を何度も、浄化してくれていたんだ。
魔法使いさんにも見せてあげるね。僕の秘密を……。
スノウは、襟元のリボンを緩めて、胸の辺りをはだけさせた。
肋骨が浮き出た薄い胸板に刻まれた刻印を解除する。
胸の中には、童話石が埋め込まれており、心臓の代りに断続的な明滅を繰り返していた。
童話石の魔力で、命を繋ぎ止めているのだ。君は言葉がでなかった。
ごめんね、驚かせて。でも、大事な人には、知っておいて欲しかったんだ。
これから、戦いはもっと厳しくなるだろうから……。
スノウの心臓を奪ったのは誰、と君は訊ねる。