【黒ウィズ】アンダーナイトテイル Story1
アンダーナイトテイル Story1
目次
登場人物
story
108つの異界のひとつ「童話の住人たちが暮らす異界」。
ストリーからレクチャーされた内容を君は思い返していた。
sここには、普通の住人と、演人と呼ばれる特別な運命を背負った住人がいます。
演人たちの人生そのものが物語となり、童話本や吟遊詩人の歌などで、「童話」として各地に広められているそうだ。
s依頼内容は、吸血鬼に誘拐された童話の登場人物たちの捜索です。
無事でいてくれればいいのですが。
この異界の森の植物は、あまり見たことのないものばかりにゃ。
ん?物音が聞こえるにゃ。
Wそこのお人。逃げてー!
声が聞こえる。だけど君の視界には誰も居ない。
不気味な金属音が、遠くから迫ってくる。君は危険を感じてウィズを懐にかくまった。
こころ……持ってる?
こ・こ・ろってなんにゃ?
嘘はいけない。おしおきしなきゃ~。
切断。切断~♪
楽しそうにハサミをジャキジャキしている。なんなんだこの子は?
あなたのその手にあるのは、童話石じゃない?
キミ、どこでそんなピカピカの石を拾ったにゃ?
知らない。気が付いたら握りしめていた。
それは温かい。ぬくぬくしてる。だから、こころだ。私のこころをよこすの~。
ピノキオ!いい加減になさい。それは、その人の童話石なのよ。あなたの心じゃないわ。
……ケットが言うなら。
君たちは、いったいなにもにゃ?
私は、妖精のケット。ピノキオの保護者みたいなものね。
君は童話石とやらについて訊ねた。
あなた、童話石を知らないの?それを持ってるってことは、あなたも演人のひとりってことよ。
君も、童話の登場人物のひとりだったのかにゃ?
と、訊かれても君は首をかしげるしかなかった。
童話石には、あなたの物語を読んでくれた読者たちの感情が蓄積されるのよ。
前向きの感情だったら石は明るく輝くけど、負の感情ばかり送り込まれると、石は黒く染まっていってしまうの。
演人が自分の役どころを忘れて、わがままに振る舞うと、それだけ童話石は黒くなっていくのよ。
ケットはピノキオの童話石を見せてくれた。
君のに比べてピノキオの童話石は、若干、黒く濁っていた。
ピノキオも演人のひとりなのかにゃ。
捜索している演人に、こんなに早く会えるなんて。幸運を喜べばいいのか、それとも……。
ぴかぴかで温かい……その石、くれ~。
ピノキオは、見てのとおり人形よ。まだ心が未熟だけど、いつか完全な心を取り戻して、人間になりたいと思ってる子なの。
鼻先にハサミの切っ先が突きつけられた。あとちょっとのところで、君は鼻を失うところだった。
ピノキオは私が抑えておくから、いまのうちに逃げた方がいいかもね。
鼻よこせ~。そして、こころもよこせ~。
保護者なら心配ないだろう。君は、お言葉に甘えて逃げることにした。
あなたも、気をつけてね、とケットを気遣ってから立ち去った。
ふふっ。なんだかいい人そうね。あの人たちなら、ピノキオを救えるかも。
***
森の中ぽつんと立つ、古びた小屋を発見した。
君たちは、ひとまずそこに身を隠すことにした。
沢山置いてあるこれはなんにゃ?
本のようなものが山積みになっている。
どうやら絵本のようにゃ。ひよつとして、これが童話の本なのかにゃ?
君は、そのうちのひとつ、女の子が表紙になっている絵本を手に取る。
キミ、そこにもなにか落ちてるにゃ。
絵本の傍に、まばゆく輝く童話石が落ちていた。君はそれを手に取る――
うわっぷっぷっ!なにが起きたにゃ!?
立ちこめる白い煙の向こうに立つのは、絵本の表紙に描かれていた少女と瓜二つの女性。
童話石を拾ってくださり、感謝します。おかげで、元の姿に戻ることができました。
なんてお礼をすればいいのか……。あ、肩でもお揉みしましょうか?叩くより、揉む方が得意なんですよ?
そちらの黒猫さんには、肉球マッサージをしてあげましょう。猫さんの扱いには、自信があります。
どうして絵本に閉じ込められていたにゃ?
それが……思い出せないのです。童話石をうっかり手放したところまでは、覚えているのですが。
あ、立ち話もなんですから、お茶でも煎れましょう。どうぞ、ご休憩なさってください。
君は、勧められるまま席についた。
申し遅れました。私はアーシュ・シンデレラといいます。見てのとおり、なんの取り柄もない女の子です。
童話石を持っているということは、アーシュも演人のひとりだ。
彼女が持っている童話石は、君の童話石よりも、数段まぶしく輝いていた。
じー……。
ど、どうしたにゃ?
その顔は、私みたいな地味で取り柄のない女の子が演人なわけない。変だなと思ってる顔です。
そ、そんなこと思ってないよと君は言う。
おやおや。これは、きれいな童話石ぞよ。ここまで立派な輝きを放つ童話石を見るのは、はじめてぞよ。
なんか変な生き物が現れた。
時計のお化けにゃ!?
失敬な。私の名前は、ヘンリー・クロック。城の主にお仕えする、立派な「時間お知らせ係」ぞよ。
失敬なことを言われた代償として、このきらきら輝く童話石をもらっていくぞよ。
泥棒にゃ!?
アーシュの童話石が、彼女から離れた。そして、アーシュは絵本に戻ってしまった。
この周囲には、不思議な結界が張られているようです。
絵本になってしまうのは、その結界の力なのか。
童話石には、結界の干渉を防いでくれる力があるようだ。
一刻も早く童話石を取り戻すにゃ!
story
にょほほほっ。こんなキラキラした童話石は、見たことがない。主に貢げば、きっと喜んでくださるぞよ。
君は魔法を放ったが、生い茂った樹林に遮られて、なかなか狙いが定まらない。
この森は、我が輩にとって庭のようなものぞよ!
だめだ、このままでは逃げられてしまう。
W困っているみたいだね?良ければ、お手伝いしましょうか?
今度は、なにものにゃ!?
とても美しい子が、闇を掻き分けて現われる。
ドワーフの戦士たち。準備はいいね?
彼女は、小さな人形のようなものを操っていた。
シュツゥルム・アングリッフ(決死の突撃)!僕のために、時計のおじさんを足止めするんだ。
様々な武器を手にした小さな人形たちが、勢いよく放たれる。
こ……こいつら、私にまとわりついてくるぞよ!?
僕の人形たちに掛かれば、こんな奴、敵じゃないよ。ほーら、転んじゃった。
た、助けて……!?
演人にとって童話石は命も同然。だから、他人の童話石を盗む奴は許せないね。
ただの出来心ぞよ。許して欲しいぞよ。
気が変わった。許してあげる。こっちの気が変わらないうちに逃げるんだね。
そう簡単に逃すのかにゃ?
ふふふっ。油断したな?実は、私には切り札があるぞよ。
そうくると思った。見え見えなんだよね~。
ヘンリーの首元に、ドワーフの人形が武器を構えて張り付いている。
ぬぬぬっ!?
その腕時計で、なにをするつもりか知らないけど、指1本でも動かしたら、グサッと行くよ?
やだなあお嬢さん。冗談……。全部、冗談ぞよ。
お嬢さん?生憎だけど、僕は男だよ。
君のような美しい男の子がいるとは。時代の移り変わりは激しいものぞよ。
いやらしい目で見るのはやめてよ……ねっ!
ヘンリーは、奪った童話石を置いて逃げていった。
ヘー……きれいな童話石。これ、あなたのもの?
違うにゃ。その童話石は、彼女のものにゃ。
返して欲しい?
まさか、今度は君が盗人になるつもりにゃ?
そんな心根の卑しいことはしないよ。ただ、返す代わりにお願いを聞いて欲しいんだ。
なんでも、言うにゃ。
僕の名は、スノウ・シラユキ。魔法を使えるあなたと一緒に組みたいな。
この遊戯(ゲーム)を勝ち抜くには、信頼できる仲間が必要だからね?
***
遊戯(ゲーム)?
君たちは、吸血鬼にさらわれてきたんじゃないの?
違うよ、と君は答える。
魔法使いさん。石、石。取り戻した童話石を私に当てていただけると助かります!
そうだ。まずは、絵本になってしまったアーシュを人間に戻さないと。
助かっちゃいました。絵本のままだと、まったく動けないので、腰が辛いんですよね~。
この周辺には、奇妙な結界が張ってあるようにゃ?
やっぱり、なにも知らないんだね?
僕たち演人は、互いに戦い、傷付け合うことを強制されているんだ。
聞かせて欲しいにゃ。なにが起きているのかを。
この森の奥に古びたお城がある。そこの城主が主催する遊戯に、僕たち演人は招かれたんだ。
ただし、招待状の代わりに送られてきたのは、強制的に転移させられる魔法陣……。
僕たちは、無理矢理この場所に連れてこられ、遊戯から逃げられないように呪いを掛けられたんだ。
それが、絵本になってしまう呪いにゃ?
そういうことです。
主催者は言った――童話石を沢山集めろと。一番多く集めたものが、遊戯の勝者だと。
城の主は、童話石を集めるために遊戯とやらを主催したわけか。
確かに童話石からは、わずかに魔力のようなものを感じる。ただの石ではない。
集めたくなる気持ちもわかります。
けど、童話石を集めるだけなら、演人たちを競わせる必要はない。
ただ童話石を集めるだけが、城主の動機ではないような気がした。
でも、これでわかったにゃ。
依頼を解決するには、お城の主とやらに会う必要がありそうだね、と君は言う。
私も、お手伝いします。私たち以外にも、大勢の演人が遊戯に参加させられ、望まない戦いを強いられています。
そんな、理不尽は見過ごせません……。
気持ちはありがたいけどアーシュは、安全なところにいた方がいいと君は言う。
メルヘンライトーシャワーメタモルフォー!
突然どうしたにゃ!?
光の粒子が、アーシュを包み込む。光のベールの向こうで、何かが起きていた。
シンデレラの名前を受け継いだ私は、人々に夢と希望を与えるために存在します。
共に戦い、誘拐された演人のみなさんを救いましょう。
まぶしく輝くドレス。時計の針の形をしたランス。
心なしか顔つきも凛々しさを増している。
そのガラスの靴。シンデレラって、君のことだったのか。
もしかして有名人なのかにゃ?
演人の中では、一番有名な人だよ。というか、知らないの!?
ううう……。
なにかを言い出したくて言い出せない。そんな態度だった。
シンデレラ!あとで、サインください!
いいですよー。サインなんて100枚でも。1000枚でも書きますよ~。
story
深い森を抜けると、見るからに怪しいお城がそびえ立っていた。
城に近づくと、他の演人たちが争い合っている気配を感じた。
ちょきちょきちょき~ん♪
あの大きなハサミは、ピノキオだね?心を持たない戦闘マシーン……。参加者の中で、一番の問題児だと聞いてるよ。
争いが広がる前に、遊戯を止めたいです。
城へ進もうとした君たちの前に無数の影が立ちはだかる。君たちの童話石を狙う演人たちのようだ。
余計な戦いは避けたいところですが、無傷で主のところまで行けるとは、思っておりません。
戦いは好まないが、童話石を奪いに来る者には容赦しない。
私の童話石、奪いたければ奪ってみなさい。
はぁ!
襲い掛る敵を、右手に握ったランスで1体、また1体と片付けていく。
これで最後です。
現われた敵をかすり傷ひとつ負うことなく、片付けた。
またしても、アーシュに活躍を奪われてしまったにゃ。
それは別に構わないのだが……。先ほどから君の童話石が、輝きを失っているのが気になった。
魔法使いさんの童話石、見せてくれる?
さっきよりも、黒くなってるにゃ。読者たちの期待に沿えていない証拠だね。
どういうことにゃ?
僕たち演人は、物語の登場人物。物語ってことは、それを読んで楽しんでいる人たちがいるってわけ。
いまもどこかで、私たちの物語を読んでくれている読者さんがいるのです。
童話石は、読者たちが受け取った感情の受容器。黒く染まるってことは、読者たちの期待に応えていない証拠だね。
確かにキミは、この世界に来てから、いまひとつ活躍できてないにゃ。
きっと読者さんの不満がたまってるんですね。ひとりぐらい、魔法使いさんのために残しておくべきでしたか。
演人ってのは、面倒なんだにゃ。
そのうち悪い奴をすかっと殴り飛ばせば、魔法使いさんの読者たちも満足してくれるんじゃない?
そう都合良く、悪い奴がいるわけ――
先ほどの借りを返しにきたぞよ。
でたにゃ。時計のお化け。
アーシュの童話石を盗んで逃げようとしたこいつなら相手として不足はないだろう。
その顔、我が輩を砥めきっているな?なんの勝算もなく、お前たちに挑むようなバカではないぞよ!
魔法使いさん、あいつの腕時計。なにか怪しい。気をつけて!
魔女マルグリット様から頂いた我が輩の新しい能力。とくと昧わえぞよ!
マルグリット!?
君はカードを手にしようとした。しかし、意思は働いているのに、身体が凍り付いたように動かない。
君だけではない。ウィズも、スノウも、アーシュも……みんな止まっている。
成功成功~♪もう、謝っても許してやらんぞよ!
狙いは、私たちの童話石ですか?それとも、命ですか?
遊戯の勝敗は、童話石の奪い合いで決まるぞよ。さーて、誰の童話石からいただこうかなと。
童話石を奪われたら絵本になってしまう。元の世界に戻ることも、演人たちを助けることもできなくなる。
君は自分の身体に願った。動いてくれと――
ううっ……やっぱりダメにゃ。もう、終わりにゃ。
諦めてはいけません。私たち演人は、人々に希望を与える存在です。
私たちが諦めたりしたら、そこで物語は終わってしまいます。みててください。
アーシュは、目を閉じて全身に意識を集中させる。彼女の童話石が反応していた。
全身を縛り付ける鎖を断ち切るように、無理矢理身体を前に進める――
まとわりついていた魔力の縛めが、ガラスのように砕け散った。
なんと、どうやってマルグリット様の魔法に打ち勝ったのだ!?
動けるようにと、強く願いました。
願いを現実のものにする。それが、シンデレラの奥義です。
ほう……?
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あなたが使った時間停止の魔法を解いてもらいます!
この娘、厄介な娘ぞよ!助けて欲しいぞよ。ヴィラード様ぁ!!
手こずっているようだなヘンリー?
あなたは?
我が名はヴィラード・カーミラ。この城の主であり、遊戯の主催者でもある。
若く、そして端正な顔立ち。肌の色は、陶器のように透き通っており、どこか超然とした雰囲気を漂わせている。
こんなに早く、事件の主犯に出会えるなんて。キミついてるにゃ。
あなたを倒して、この遊戯を終わらせます!
それは困る。目的の童話石を手に入れる前に、遊戯が終わってしまっては、すべてが無駄になる。
あんたの都合なんて、関係ないね。
ヴィラードは、マントを翻す。無数のコウモリが解き放たれた。
コウモリたちは、黒い翼を羽ばたかせて、アーシュに襲いかかった。
この程度!
ランスを振って、コウモリを叩き落としていく。
1匹1匹は、たいした力ではないが、ヴィラードのマントから無限に出現するのが厄介だった。
私は、主催者として全ての演人が、公平に競い合えるような環境を整える立場にある。
願いが実現するというシンデレラの力は、遊戯の公平性を著しく毀損する恐れがある。
アーシュ・シンデレラに告げる!遊戯の公平性を鑑み、お前の持つガラスの靴をこの場で没収する!
さらに大量のコウモリが、解き放たれた。周囲は、闇に染まり、君も視界のすべてを覆われてしまった。
ヴィラード様、ガラスの靴。奪いましたぞよ!
その靴の扱いは、お前に任せる。私は次の客人を迎える準備がある。
お任せくださいぞよ。
コウモリが消え去り、君たちはようやく視界を取り戻した。
返してください……。それがないと私は……ただのアーシュという名前の娘になってしまいます。
ガラスの靴を失ったアーシュは、元の姿に戻っていた。
遊戯の主催者の介入……。そんなのありかよ。
なにもできなかったにゃ。
僕たちのために戦ってくれたのに、アーシュの危機に、見ていることしかできなかった。
僕も協力する。絶対に、奪われたガラスの靴を取り戻そう。
スノウさん。
さん付けなんて水くさいよ。僕たちはもう友達……なんだよね?
友達になってくれますか?
もちろん!
古城を見上げる。この城の中で、繰り広げられる狂った遊戯。
それを止めるために、君は絶対に諦めないことを誓う。
そう教えてくれたのはアーシュにゃ。
そうですね。私たちが諦めたら、物語はそこで終わりです!
城の主たちを追いかけよう!
ねえ、ストル。私たち、いつの間にこんな場所に?
目が覚めたようだね?トルテが起きるまで、その可愛い寝顔を守っていたんだ。
それはいいから。
どうやら、俺たちを誘拐して、この領域に閉じ込めた奴がいるようだ。
ストルは、指先をかざす。僅かに魔力を感じた。この界隈になんらかの結界があるのだろう。
私たちを誘拐して、閉じ込めようって?誰だか知らないけど勇気があるわね。
残虐な笑みを浮かべる。ストルは、そんなトルテにぞわぞわしたものを感じてしまう。
行ってみる?この先のお城に。
当然よ。私たちをここまで連れてきた奴に、一言言ってやらないと気が済まないわ。
じゃあ行こう。なにが待ち受けていても、俺はずっとトルテの味方だ。