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【黒ウィズ】Birth of New Order 3 Story2

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作成者: にゃん
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登場人物




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ふーん。じゃあ魔法使いさんたちは、サンクチュアの兵ってわけじゃないんだ。

私たちは旅人にゃ。インフェルナ、サンクチュア。どちらも無関係にゃ。

ヘー。そういう人っているんだね。でも、歓迎するよ。イスカを救い出してくれた人だしね。

……果たして信じられるか?

このしかめっ面は、クロッシュ兄。まだ魔法使いさんたちのこと疑ってるみたいだけど許してあげてね。

……怪しい動きを見せれば、叩っ斬る。

誤解されやすいけど、根は優しい人だから。こう見えても、ウサギを内緒で飼ってるんだよ。

うぎゃあああ、斬られたー。

 君はもちろん、クロッシュの事も知っていた。

ギガント・マキアでのクロッシュは、大鎌と大剣を振り回し、無数の審判獣相手に互角以上に戦った。

しかし、最後はイスカを逃がすために全身を審判獣に食われてもなお戦い続け……最後は、立ったまま息絶えた。

……その目はなんだ?

元はサンクチュアにいたんだにゃ?家族を殺されて、その復讐のために剣を握っている。そうだにゃ?

……俺のことを知っているのか?

この先、死んだと思っている人と、思いがけず再会することもあるにゃ。その時は、どうか冷静になって現実を受け止めて欲しいにゃ。

 ちょっと喋りすぎなんじゃない?と君はウィズの口を塞いだ。

あ……っ!?ご、ごめんにゃ!

あんな悲劇は、二度と繰り返させてはいけない……。そう思うと言わずにはいられなかったにゃ。

 クロッシュは、死んだと思っていた妻のトロスと思いがけず再会し――直後、彼女を斬った。ウィズはそのことを話している。

だが、まだ起きても居ないことを今話したところで、ちんぷんかんぷんだろう。

あんたたち、もしかして、色々知ってるみたいね。サンクチュアの密偵かな?

 未来のことを明かすのは、少しずつの方がいい。焦っても、向こうの疑念を招くだけだ。


魔法使いさんたちは、未来から来たんだって。

にゃにゃ!?

嘘!?教えて!未来から来たの!?未来ではなにが流行ってるの?

……自動で動く鉄の車とやらはできているのか?

 怪しまれると思ったのに、予想外に食いつかれてしまった。

そ、そこまで未来じゃないにゃ。ほんの数ヶ月先から来たにゃ。

じゃあ、この戦争どっちが勝つか知ってるんだ?あ、でも言わないで。結末を先に知っちゃうとつまんないから。

……小型の通信機器はあるのか?……食べものを暖める箱はどうだ?

めっちゃ食いついて来てるにゃ!未来への興味津々にゃ!?

やっぱり魔法を使うぐらいだから、過去に飛ぶことぐらいなんでもないんだね。

魔法使いって言われるほどだものね。

 魔法が誤解されている。君は、慌ててメルテールたちが抱く魔法への誤解を解いてから仕切り直す。

どうか、私たちの話を真面目に聞いて欲しいにゃ。


 未来で起きたギガント・マキアのこと――そして最悪の事態を避けるためになにをするべきかを説明する。


ギガント・マキア?審判獣が目覚める?なんだか難しくてよくわかんない。クロッシュ兄はどう?

聖典にある最終審判が起きた未来から来たというのか?

 聖都出身のクロッシュは、聖典の内容を知っているため、君たちの話を理解してくれた。

そういうことになるにゃ。私たちも、この目で見たものが信じられないにゃ。

イスカ。この者たちを信じるか?

わかりません。でも、人間同士で争っている場合でないと思いました。

復讐は?サンクチュアヘの恨みは、忘れるの?

簡単に忘れられるものじゃない。だけど――

魔法使いさんが持っている剣に触れた時、私はもうひとつの人生を歩んできたもうひとりの私に出会ってしまったの。

もうひとりの私が言うの。目の前にある恨みや、憎しみだけを追いかけるなって……。

だから戦争はやめた方がいいって……そんな気持ちになったの。

相変わらずイスカは不思議なことを言うんだね。でも、イスカらしいよ。

わかった。イスカが、戦争をやめたいって言うなら……やめよう。戦争。

イスカが望むなら……やめよう。戦争。

軽すぎにゃ!?そんなんでいいにゃ?

あたしは、イスカを支えるだけだよ。それに戦争なんかしたってお金儲けにはならないからね。

俺はイスカを守れれば、それでいい。

 リュオンやサザたちのサンクチュアとは、また違った団結がここにはあった。

考え方の違う、ふたつの勢力。この両者の団結がなければ、ギガント・マキアは回避できない。

さて、どうすれば、両勢力を結びつけることができるだろうか?


 ***


よくぞ無事で戻った。敵の捕虜になったと聞いた時は、心臓が止まりかけたぞ。

心配かけてごめんなさい。

……その者は?

私たちは仲介人にゃ。サンクチュアは、捕虜にしたイスカを傷付けることなくお返ししたにゃ。

その意味は、わかるはずにゃ。サンクチュアは、インフェルナと和平を結びたいと考えているにゃ。

和平じゃと?

義父さん。私からもお願いします。森にいる審判獣が目覚めたら、人間同士で争っている場合ではなくなります。

審判獣はずっと眠っておる。いつかは目覚めるかもしれんが、今はまだ何の予兆もない。心配するな。

それよりも、サンクチュアが、こちらと和平を結びたいと考えるはずがなかろう。きっとなにかの罠だ。

サンクチュア側にも、こちらに恨みを持った人がいました。ですが、その人は、恨みを忘れて手を結びたいと言ってくれました。

ふん、そんなはずがなかろう。イスカはまだ子どもだ。奴らがインフェルナ人をどう思っているのか、これから知るはず。

戦争のことは、頭首のマルテュスと話し合って決めるゆえ、身体を休めておれ。

 イスカは、落胆したように頭を垂れた。

思ったよりも頭の固いお爺ちゃんにゃ。

 イーロスは、元はサンクチュアの騎士。聖皇と聖堂が支配するサンクチュアを変えたくて、インフェルナに寝返った人。

時間を遡る前の世界で聖皇ベテルギウスを斬ったイーロスの姿が、まだ君の記憶に生々しく残っている。

イーロスたちを和平に傾かせるには、やはり、黒幕であるマルテュス――大教主の正体を暴くしかないだろう。

仲介人……のう。

インフェルナの陣営にいた時、確かにマルテュスという男は、頭首としてインフェルナを指揮していたにゃ。

 戦争は、あの男の指揮で行なわれていた。野望をすべてを暴露したのは、聖皇が死んで後戻りできなくなってからだった。

そのマルテュスが、ー方でサンクチュアの大教主としてリュオンたちに命令を下していたなんて信じられないにゃ。

サンクチュアとインフェルナは戦争状態。そう易々と往来できないはずにゃ。どうやって移動していたにゃ?

なになに難しい顔して。もしかしてお腹空いてる?ちょうどご飯にするところだよ。あちちっ。

 熱い取っ手に苦戦しながら熱した鍋を運んでくる。

火傷しちゃう。クロッシュ兄も手伝ってよ!

鍋が熱いぐらいで騒ぐな……熱っ!

早くはやく、そこのテーブルに!

 ふたりで熱々の鍋を運んできた。結果、どちらも手を軽く火傷したが、おかげで中の芋は熱々のまま食卓に届けられた。

芋なら沢山ある。芋の直火焼き。芋の鉄板焼き。芋の煎り焼き。そして芋の蒸し焼き。

焼き芋ばっかり!でもメルちゃんは、お芋大好き!

沢山ある。遠慮せず食え……。

はー。毎日毎日同じ芋ばかり。やってらんねーわ。

インフェルナのお芋は、栄養が少なくパサパサしてたにゃ。でも貴重な食べものだったにゃ。懐かしいにゃ。

 君はメルテールに、サンクチュアと行き来する方法を訊ねた。

聖域の境界線は、聖堂兵が見回っているから許可がない人は追い返されちゃうよ。

ただ、晶血片を取り扱う商人だけは、聖域へ入ることを許されるかな。

 晶血片とは、インフェルナで取れる赤い結晶。死んだ審判獣の血肉が固まり結晶化したもので、様々な力が充填されている。

もしかして、マルテュスは商人に変装して聖域とこちらを行き来していたのかもにゃ。

サンクチュアに帰りたくなったか?

にゃ!?そ、そういうわけでは、にゃははっ。

お前たちは、イスカを助けてくれた。帰りたくなったら遠慮なく言え……。

クロッシュは、口数が少ないけど本当は優しい人にゃ。

ウィズさんと魔法使いさんには、まだいて欲しいです。戦争を終わらせる方法をー緒に考えたいです。

……イスカが、いいと言うまで帰らせはせん。ー生ここにいてもらう。

前言撤回させてもらうにゃ!

クロッシュ兄は、あたしのことは、イスカにだけは素直だよね!?野良猫みたいな扱いなのに!

すいません。うるさくて。

貧しくても明るく生きる。これがインフェルナの本当の姿にゃ。やっぱり平和がー番にゃ。

 両陣営とも根はいい人たちだ。手を結んでもきっと上手くやれるだろう。

だが、両者の間にわだかまる復讐心や猪疑心といった些細な感情を上手く操り、戦争を起こそうとする者がいる。

それが、マルテュス。あの男の正体を、ー刻も早く暴かなければ。そのためには証拠がいる――

突然、武装したインフェルナの兵がやってきた。そして、君たちを取り囲む。

いったいなにごとです?

頭首の命令だ。仲介人とやら、しばらく身柄を拘束させてもらうぞ。


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魔法使いさんたちが密偵だなんて、なにかの誤解です。お願いします。私の話を聞いてください。

ワシとマルテュスがそう判断したのだ。お前は、口出しするな。

 君とウィズは、地下牢へ投獄された。

イーロスはイスカには優しいけど、私たちには優しくしてくれないようにゃ。

 ここにぶち込んだということは、サンクチュアとの和平を声高に叫ばれると、都合が悪く感じる人がいるわけか。

少し、派手に騒ぎすぎたかにゃ?

 そうかもね。けれども、お陰で向こうの魂胆がわかった。

イーロスは、この世の秩序を保持しているサンクチュアを倒したい。その情熱をマルテュスが巧みに利用している。

利用されてるイーロスが、マルテュスの本心に気づいていないことが悲劇だ。

なんとか脱獄できないかにゃ?

 やろうと思えば、鉄の檻を魔法で焼き切れないこともない。

しっ。人が来るにゃ。

いま声がしたが……。誰かと喋っていたのかね?

 君は慌ててウィズの口を塞いだ。喋っていたのは、自分ひとりだと言う。

お前か?サンクチュアから来て未来の予言とやらを触れ回っているのは。

 予言ではない。この目で実際に見たことだと、君は反論するが、ー笑に付された。

我々はいまサンクチュアとの戦争の真っ最中だ。いい加減なことを触れ回って士気を下げるような真似はしないでもらいたい。

聖域の大教主が、なぜインフェルナの頭首面しているにゃ?

 君に口を塞がれていたウィズが、我慢できないとばかりに口を開いた。

その猫は喋るのか?それも、人を騙す手管のひとつかね?

誤魔化さずに答えるにゃ。サンクチュアの大教主が、なぜここにいるにゃ?

なんのことかさっぱりわからんね。大教主とやらが、どこにいるというのだね?

 とても落ち着き払っている。まさか、本当にこの男は大教主と同ー人物ではないのか――

私としては、インフェルナの民を惑わすような真似はやめてもらいたいのだ。ただそれだけだ。

 口元を歪めてから、マルテュスは去っていく。余裕ある態度は、自分が絶対優位にあるという確信から来るものだろうか。

すっとぽけるなんて腹の立つ男にゃ。絶対に尻尾をつかんでみせるにゃ!

 食事が運ばれてきた。ふかした芋とほとんどお湯のようなスープ。

ここはちゃんと食べて体力つけようにゃ。

 さっそく食事に舌を付けようとするウィズを君は慌てて止めた。

どうしたにゃ?くんくん……この匂いは!?

qはい。突然苦しみはじめまして……。

ちゃんと食事に、あの薬を混ぜたのかね?

qしかし、あの薬は――

 マルテュスは、もっていたナイフで兵の喉をかききった。

 冷静な頭首は、インフェルナ人を虫けらのように扱う残忍な大教主へと変貌していた。



旅のものよ。苦しいかね?

 よそ者と黒猫が、重なるように冷たい石畳の上に倒れている。

私の正体をなぜ知っている?お前に教えたものがいるのか?ならば、その者の名前を言え。

解毒剤を持っている。正直に話せば、命だけは助けてやらんこともない。

 毒を盛ったのは、お前だったのかと君は喘ぎながら訊ねる。

随分苦しそうだな?早く言わないと、命を落とす事になるが、それでもいいかね?

 サンクチュアの大教主であるお前が、なぜインフェルナの頭首に化けている?

やはり、聖皇を殺してエンテレケイアを覚醒させるためなのか?

それも予言のひとつかね?私は計画を誰にも打ち明けたことがないはずだ。……やはり、この者は危険だな。

毒を盛って殺そうとするなんて。正体見たりにゃ!

 君は、突然立ち上がってマルテュスに毒入り食事のお礼のー撃を食らわす。

な、なぜ動ける?――まさか貴様!?

食べものに毒をしかけられたのは、これがはじめてじゃないにゃ。同じ罠に二度も引っかかるバカじゃないにゃ!



イスカ!地下牢の方が騒がしいよ!

まさか、魔法使いさんたちが――!?

……伏せろ!

 爆轟により、鼓膜が激しく震動した。遅れて地下牢の辺りから黒煙が立ち上る。

まるで反逆の狼煙のように、インフェルナの空を黒く染めていく。

これまで、計画の邪魔になりそうな奴らは、すべて始末してきた。だが、ここにきてしくじるなど……とんだ失態だ。

 傷だらけの身体を引き摺りながら歩いてくる。爆発に巻き込まれたマルテュスは、全身に怪我を負っていた。

頭首様!今の爆発は!?

バレてしまった以上は、なりふり構っていられんか……。

 怪我の治療を行おうとイスカが近づく。そのイスカの首元にマルテュスは刃物を突きつけた。

なぜ、イスカを!?

そいつは、イスカを人質にとって、逃げるつもりにゃ!!

 黒い煙にひとつの影が浮かび上がる。君たちは、爆風を間近で受けながらも魔法による障壁によって、無傷だった。

私たちにしかけた毒を見破られ、切羽詰まった挙げ句、牢ごと爆破して亡きものにしょうとするなんて……どこまで卑劣な奴にゃ!

すべて順調に掌の上で動いていたのだがねえ!お前のような奴が現われるとは……とんだ誤算だったよ!

 イスカを離せ。狙いはこっちだろと君は冷静に言う。

いくら頭首といえど、イスカを傷付けるものは……斬る。

……そいつはもう、インフェルナの頭首じゃないにゃ。

 頭首マルテュスは、おぞましい悲鳴をあげながら、狂ったように首を振りたくった。

キモコワっ!?なんなのあいつ。おかしくなっちゃったの?

福音を――福音精製技術をー手に握る私が、この地上にいる人間と審判獣。すべてを支配する王になるはずだった……。

 君たちは、肉が急激に膨張していくおぞましい音を聴いた。マルテュスの身体に何かが起きている。

身体が漆黒に染まっていく。影が、マルテュスを飲み込んだように見えたが、そうじゃない。

マルテュスが影を飲み込み、闇へと変貌したのだ。

……その姿、審判獣か!?

 肉体を変異させたマルテュスは、上体を仰け反らせて狂ったような哄笑をあげた。

インフェルナ人のサンクチュアヘの憎しみを利用し、聖皇殺しを遂げさせてやろうとしたのだが。とんだ邪魔が入ったわ!

今、なんと言った!?

お前という駒を操り、聖皇殺しを成し遂げ、そのあと、私が実権を握ったサンクチュアによって敵討ちとして滅ぼされる……。

これは、インフェルナ軍滅亡の筋書きだったのだがね……。結局、舞台の幕が上がることなく頓挫するとは!

では、サンクチュアを打倒し、この大地に新しい秩序を打ち立てるという理想は――

そんなものお前に聖皇を殺させるための方便に決まっているだろ!?騙されていたんだよ、老いぽれめ!

……謀ったのか!?

 これまで散々人を利用し、沢山の人を戦争で死なせておきながら、開き直った態度に君は怒りが止まらない。

元から審判獣だったのかにゃ?あの様子じゃ、きっとそうにゃ。

 ではなぜ、審判獣が人間同士の戦争を焚きつけるのだろう?

イーロスさん!そいつはもう人間じゃないよ!危ないから離れて!

 人質にしたイスカを押し出して盾にしている。君たちは、うかつに手が出せなかった。

頭首様、それが本当のあなたなんですね?

ニュクスの命令により、エンテレケイアを目覚めさせるためにこの男の肉体を乗っ取っただけのこと。

 先ほどとは違う存在の声が、マルテュスだったものの身体から放たれている。

あなたは、誰なの?

我が名はアンラ・マユ。世に陰陽あれば、常に陰に潜り、始祖審判獣ニュクスの手足となって働く審判獣よ。

 イスカは、逃げ出そうと抵抗を試みる。だが、審判獣化していない身体では、ふりほどけない。

エンテレケイアさえ動き出せば、この男は用済み。私は存在すら感じさせることなく、静かに消え去るつもりだった。

しかし、計画に破綻が生じた。ゆえに、私はこの男の意識を取り込まざるを得なかった。

 足元に巨大な影が出現する。マルテュスに取り憑いたアンラ・マユは、水たまりに足を踏み入れるように影を踏みつける。

……イスカを解放しろ!

 君もとっさにカードを引き抜くが、アンラ・マユはイスカを連れたまま影の中に消えた。

 あとには、なにも残らない。気配も、痕跡も。

影を使って移動する審判獣か……厄介な相手にゃ。

奴の行き先はひとつしかないよ。

聖都……あそこなら、まだ奴は大教主にゃ。正体を知るものはいないにゃ。

……助けに行く。

 もちろん、君も付いていく。イスカを取り戻し、アンラ・マユの目的を阻止しなければ。


 ***



イスカを助けるために聖都に潜り込むには、この方法しかない。だから、いいね?

かなり危険な賭けになるけど背に腹はかえられないにゃ。

 それぞれ手に持った得物を叩くなり、地面を踏みならすなりして、大きな音を出す。

あたしたちは、インフェルナの戦士だ!弱虫なサンクチュアの兵め、出てこーい!

……出てこい。

クロッシュ兄、クロッシュ兄。イスカのためだよ。

……サンクチュアの兵ども。俺が相手だ!

Q止まれ。インフェルナ人!この先は、我らサンクチュアの聖域だ。

やっとお出ましにゃ。

 事前の打ち合わせどおり、君たちはサンクチュア兵相手に戦う素振りをみせた。だが振りだけで、実際に戦うわけではない。

Q全員捕らえろ!サンクチュアに逆らう者は、聖堂に連れて行き裁きを受けさせる!

うわあ、離せぇ!

 君も、必死に抵抗するふりをした。下手な芝居だと自分でも思うが、これも狙いどおり。

サンクチュアの兵が……気安く触れるな!

イスカのため……。

……うわあ、やられたぁ。



こうするしかなかったとはいえ、またしても牢の中かにゃ。つくづく牢に縁があるんだにゃ。

 メルテール、クロッシュとは別の牢に入れられた。イスカも別の牢に捕らえられているのだろうか?

魔法で鍵を破壊した君は、他の仲間たちをさがすべく移動する。

よく道がわかるにゃ?

 元いた未来では、長い時間、この牢に入れられていた。

暇だったから、時間を潰すために脱獄の方法を色々考えていた。結局、脱獄はしなかったが、こうして役に立っている。


他の牢を探してもメルテールたちは居ないにゃ。

 諦めるのはまだ早い。聖堂の方へ向かおう、と君は足を速めた。


Q聖域に許可なく足を踏み入れようとした罪深きインフェルナ人よ。聖皇と審判獣の名の下に裁きを下します。

そんなことより、大教主とやらを出せよ!あいつは、イスカをさらったんだ!

Qここは、厳粛なる裁きの場である。許可のない発言は控えなさい!

 君たちが、聖堂の間にたどり着いた時にはサンクチュアの聖職者たちによるー方的な裁きが下されようとしていた。

Qインフェルナの戦士メルテールとクロッシュ。この両名を死罪とする。

予想どおりとはいえ、あまりにも強引にゃ。

 傍聴席の陰から裁判を覗いていた君は、メルテールたちを救い出す方法を思案していた。

魔法使い……戻ってきたのか?

お前が投獄されたと知って焦ったぜ?インフェルナとの和平交渉はどうなった?

 君は、端的にここまで至った経緯を説明する。

大教主に審判獣が取り憑いていただと?

大教主は、イスカをさらって逃げたにゃ。きっと、この聖堂のどこかにいるはずにゃ。

……。

 返事はない。あまりにも、急な話すぎて信じてもらえないか。

マルテュスに審判獣が取り憑いてたなんて、君自身まだ半信半疑なのだから。

あり得る話だな。

こちらも大教主の周辺を調べていた。奴め、サンクチュアを支配しようと様々な工作を高位聖職者たちにしかけていた。

この聖都で実権を握っている奴には、聖皇様も手が出せず、野放しにするしかなかったらしい。

大教主が、ここまでサンクチュアで権力を握れたのは、インフェルナで採れる晶血片を大量に調達し、資金を手に入れたからだ。

 死んだ審判獣の血が凝固して出来る晶血片は、この聖域でも重宝がられている。宝石として。エネルギー源として。

だが、戦争状態のインフェルナとまともに取り引きなど成立するはずがない。

しかしだ。魔法使いの言うとおり、大教主がインフェルナの頭首と同ー人物ならば納得がいく。

そこで俺たちは、大教主の取引ルートを突き止め、インフェルナ側の窓ロとなっている人物をあぶり出すところだった。

この短い期間で、よくぞそこまで調べたにゃ。

 なにより、君の言葉をリュオンたちが信じてくれたことが嬉しかった。

俺たちの副団長様は、優秀だろう?

ぐっ……。げほっ、げほっ。

大教主の正体に疑問を抱かせてくれたのは、魔法使いたちだ。それには、感謝している。

 今は大教主のことよりも、処刑されそうになっているメルテールとクロッシュの命を救いたい。

サザやリュオンの手を借りたにゃ。

わざと捕まってサンクチュアに潜入するなど、無茶なことを……。

でも、ふたりなら絶対に助けてくれる……にゃ?

わかってるじゃねえか。こういうくだらない茶番に横槍を入れるのは、大好物でね。頼まれなくても、首を突っ込むつもりだった。

 サザは、大きく息を吸い込み、そして、審議を中断させるべく大声を張り上げる。

インフェルナ人といえど、そのものたちは戦士!ー方的に死罪を申し渡すのは忍びない!

審判獣エンテレケイアの前において決闘裁判を行い、その結果によって刑を決めるべきだろう!

 執行騎士団長の横槍で、審判はー時中断する。聖職者たちが、顔をつきあわせて相談しはじめた。

Q決闘裁判か……。むしろ、そっちの方が良い見世物になりそうだ。


 聖職者たちが、サザの意見を受け入れるまで、それほど時間は掛からなかった。


Qこのものたちの罪は、決闘裁判によって定めることにする!

(黒猫さんと魔法使いさん。いまのうちにイスカをお願い)

 君は、まかせておけというように、メルテールたちに目で合図を送った。

その時、君の視界にある人物が見えた。執行騎士のカサルリオとティレティだ。

なぜ、あのふたりが聖都にいる?

身の危険を察知して大教主が呼び寄せたのかもしれねえ。抜け目のない男だ。



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 決闘裁判。サンクチュアにおいて捕虜や反逆者たちを裁くために用いられる伝統的な裁判である。

被告は、大審判獣エンテレケイアが見守るこの聖堂の間で、身の潔白を証明するぺく決闘に挑む。

負ければ命はないが、勝てば無罪を勝ち取れる……ことになっている。

裁判には誰も手出しはできねえ。あとは、それぞれの腕に任せるしかねえな。

……。

どこかで見た顔だと思ったら、クロッシュ・トラウか?これは、とんだ巡り合わせだな?

 カサルリオ――その顔を見た瞬間、クロッシュの全身の血が、ー気に熱を帯びた。

ー方、聖堂の間の反対側には、同じく西方執行騎士のひとりティレティが姿を現していた。

Qああ、聖女ティレティ様。噂どおり、お美しい人……。

罪深き者たちを裁きに来ました。インフェルナの娘よ。我が審判獣サヴラによる断罪を受け入れなさい。

あたしの相手は、あんたってわけ?ふーん。ー見、優しそうなお姉ちゃんに見えるけど――

あんたの目、とても冷たいね。ー生懸命笑みを作ってるようだけど、瞳の奥には冷酷な光が宿っているのがわかるよ。

カサルリオ、相手は罪人です。遠慮は無用と心得なさい。

当然だ。戒律に従い、我が審判獣リョダリオが宿る拳で、旧友の絆ごと破壊してやろう。

 メルテールとティレティ。クロッシュとカサルリオ。なぜよりによって、この組み合わせなのか。

この2組の戦いが、どれほど凄惨な結末に終わったか、君たちは知っている。

君が行っている歴史の変更を阻止しようと、見えない力が働いているようにしか思えない。

以前キミは、言っていたにゃ。あのふたりを残酷な狂行に走らせたのは、彼らが持つ武器に原因があると。

 審判獣と契約した執行騎士に対抗するために、インフェルナの戦士たちは、思念獣が宿った武器を手にした。

ふたりが持っている武器を使わずに執行騎士に勝てるにゃ?いや、絶対に無理にゃ。


この5年間、生まれたばかりの子どもと妻を殺された恨みは、ー度たりとも消えることはなかった。

 クロッシュとカサルリオは、かつてサンクチュアの聖堂兵として腕を競った仲だ。

しかし、クロッシュは友だったはずのカサルリオに裏切られた。戒律に背いたとして子どもを殺され、妻も殺された。

決闘の相手がお前とは、これもなにかの縁だろう。俺は、必ず復讐を遂げる――

 剣に宿った思念獣フェンリナルが、血を求めている。人の血も欲しいが、審判獣の血がより欲しいと。

思念獣。恨みを抱えたまま死んだ審判獣の成れの果てか……。死骸に頼るとは、堕ちたものだな。

決闘だ。手は抜かん。

 剣気が膨張する。クロッシュは、背丈ほどもある大剣を片手で振り抜いた。

審判獣リョダリオ――戒律の守護者たる我に悪を裁く拳を与えよ――

 拳と刃が衝突する。火花が飛び散り、お互いの骨に軋みをもたらす。

あの日。カサルリオに復讐を誓った日から、鍛練を怠ったことはない。復讐のために剣を磨き続けてきた。

かつて俺と貴様はともに修練を積んだ仲だった。サンクチュアと聖堂の戒律に、すべてを挿げると誓い合った者同士だ。

それが、今や貴様は罪人。俺は、サンクチュアの執行騎士。運命はどこで違えたのだろうな?

 大剣が、空を切った隙にカサルリオの拳が、数発打ち込まれる。

5年前とは勝手が違った。クロッシュが剣の腕を磨き続けたのと同様に、カサルリオも拳を鍛え続けてきた。

面白い……。

 勝負を賭ける。大剣に宿る思念獣フェンリナルの’力を呼び覚ますことにした。それはすなわち、サンクチュアヘの恨みによる力。

大剣は、怨念の炎を纏い、無数の残影を残して天地を断つ。これぞ、クロッシュの渾身のー太刀。

憐れな男だ。思念獣は、この世に未練を残して死んだ亡霊だ。生きている者が、死んだ審判獣の力を借りるなど、外道も外道。

お前を斬り、妻トロスと子の復讐を遂げる!それさえ成し遂げれば、手段は問わん。

 サンクチュアでクロッシュは愛した女を妻とした。だが、ふたりの間に生まれた子どもは、聖職者たちの審判によって悪の熔印を押された。

悪と審判された者は、サンクチュアの聖域から立ち去らなければいけない。そうやって長い間、聖域の人ロを調節してきた。

クロッシュには、生まれたばかりの我が子をインフェルナに堕とすなどできなかった。だから、サンクチュアに反逆した。

だが、そのクロッシュを止めに来たのは、もっとも信頼を置いていたカサルリオだった。


復讐に身を焦がすクロッシュ――ほんのー時、イスカのことすら忘れ、夢中で大剣を振るう。

クロッシュ、貴様は妻を失ったと……そう信じているようだな?

殺したのは、お前だ!

では、あの傍聴席にいる女は誰だ?

 カサルリオが指差した場所にいるのは、かつて愛した妻トロスだった。

なぜ、生きている……?

彼女は、敬虔な信徒だった。きっと審判獣の加護があったのだろう。

 クロッシュに混乱と戸惑いが同時に押し寄せてくる。握った大剣が、手から滑り落ちそうになった。

だが、子どもは死んだままだ。悪の熔印を押された者に加護は与えられない。

トロスよ……。我が子を殺したサンクチュアに魂を売ったのか……?

答えろぉ!



クロッシュ兄は……負けない、よね?

命が掛かった決闘の最中です。よそ見してる余裕なんてあるのでしょうか?

わざわざ忠告してくれるなんて優しいね?でも、バカねあんた。いまあたしは、わざと隙を見せてたの。

ノコノコ近づいてきたあんたにー撃食らわせてやるためにね!

 メルテールの体格をゆうに超えるハンマー。それは、タイタナスの思念が宿っている武器である。

イスカと共に戦う戦士になるとき、メルテールは、みずから発掘した晶血片に思念獣が宿っていることに気づき、それで得物を造った。

審判獣といえど、あたしのハンマーに押しつぶされたらぺっちゃんこになっちゃうよ?ー生懸命避けることだね!

インフェルナで生まれ育った野蛮人らしい、無粋な戦い方ですね。

本来、あなたのような無作法者とは、口も利きたくないのですが。これも執行騎士のお仕事です

 契約している審判獣サヴラ――まるでトカゲのような格好をした奇妙な形の審判獣が出現した。

あいにく私は、インフェルナの野蛮人と、血で血を洗うしのぎ合いなんてする気はありませんの。

あんたの都合なんて訊いてないよっと!決闘はもうはじまってるんだから!

 傍から見ているとメルテールがー方的に攻撃し、ティレティは防戦ー方……押されているようにも見える。

ええ。ですから、手を汚さずに勝つ方法を考えました。

 ぴーっと、ティレティは指笛を鳴らした。傍聴席に控えさせていた聖堂兵たちが動きはじめる

ひとりじゃあたしに敵わないから、客席からゲストでも呼ぽうっての?それって反則じゃないの?

いいえ。あくまでも戦うのは、私と審判獣サヴラです。私はただ、人質を取らせて頂いただけですよ。

 ティレティは、傍聴席を指さした。聖堂兵に連れてこられたのは――

イスカ!?

 マルテュスに人質として取られ、影に飲み込まれて以来、行方がわからなくなっていたイスカが傍聴席にいる。

イスカ!あたしだよ!声が聞こえないの!?

……。

 おかしい。目の焦点が合っていない。メルテールの声も届いているはずなのに反応しない。

あなたのお仲間は、とても優しい人ですね?あなたが処刑されそうになっていると言ったら、進んで身を差し出してくれました。

イスカになにをしたの!?

私の可愛いサヴラちゃんの卵を植え付けさせて頂きました。

 審判獣サヴラの卵を植え付けられ宿主となったものは、まず全身の神経を乗っ取られる。

すると肉体は、脳の命令を受け付けなくなり、代わりに植え付けられた卵が、脳の代わりに命令を下して肉体を操る。

人を操り傀儡化する恐るべき能力。それが審判獣サヴラだった。

卵を植え付けてから、かなり時間が経ちました。肉体だけでなく、脳までサヴラの卵に乗っ取られたことでしょう。

かわいそうにあのお嬢さんは、生きたままサヴラちゃんに操られるお人形さんになったのです。

それでも、インフェルナの戦士として戦場で命を失うよりは、マシな生き方だとは思いません?

……思うバカ!

うふふ。お下品な人だこと。

あたし……昔、自分のために色々汚いことしてきたから、余生は誰かの為に生きようと誓ったんだ。

その誰かって……イスカなんだよ。あんたはイスカに手を出した。それは私の誓いを踏みにじったも同然だよ。

 メルテールは、全身が焼け焦げるほどの怒りを感じていた。

それが思念獣タイタナスが抱く恨みと共鳴し、正常な思考ができないほどの恨みの熱が全身を焼き尽くす。

あんたは、絶対にぶっ潰す!

ふふふっ。すべて、こちらの狙いどおり……。単純なインフェルナ人は、やはり扱い易いですね。

どうせなら、もっと怒らせてあげましょう。傀儡となったインフェルナの娘よ。私の言うとおりに動きなさい。

……。

あら?おかしいわね。サヴラちゃんの卵は、確実に植え付けたはずなのに……。

イスカを元に戻せ!

ー度植え付けられた卵は、誰にも取り出せないの。残念だけどあなたのお仲間はもう死んだも同然よ。

きぃぃぃぃさああああまああああ――っ!?

 クロッシュとメルテール、どちらも感情が高まり、冷静ではいられなくなっている。

インフェルナの娘は、俺がなんとかする。あのふたりは、魔法使いがなんとかしろ。

 執行騎士のリュオンなら聖堂兵に睨みが利く。任せていいだろう。

君が今すべきは、思念獣という呪いからクロッシュとメルテールを救うことだ。





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