【黒ウィズ】Birth of New Order 3 Story1
Birth of New Order 3 Story1
Birth of New Order 3 Story7
登場人物
story
インフェルナ軍は、リュオンたちの援軍到着によって不利を悟り、一時軍を退いた。
君が知る歴史でのインフェルナ軍は、サザを敗死させた余勢を駆って第4聖堂に攻め込んだと聞く。
ここで軍を退いたとは聞いていない。君が介入したことによって、すでに歴史が大きく変わっている。
今は森で眠っている審判獣も、やがては目覚める。人間たちは、彼らの餌にされる運命。
そうなれば、サンクチュアもインフェルナも関係なくなる。人がこの大地から消えてしまう。
お菓子の一件でリュオンは、君をより警戒するようになった。
安全な奴らだよこいつらは。俺が保証する。
それに団長のピンチを救ってくれた恩人だもの。恩も返さないうちに変人扱いは、ちょっとかわいそうよ。
なんでも好き嫌いせず食べるウィズも、さすがにあのスープは癖にならなかったらしい。
ラーシャは、方舟を巡る戦争でリュオンを庇って死んだ。
それ以前に審判獣との同調のしすぎで、自我が不安定になり……暴走してしまった。素直に打ち明ける気にはなれず、君は躊躇する。
……て、バカね。執行騎士になった時点で人並みの幸せなんて諦めてるわよ。あー、孤独、楽しい。ひとりは最高!
知っている執行騎士団と、雰囲気が全然違うんですけど!?
インフェルナ軍はサンクチュア軍を迎撃するために軍を移動させていると斥候のシリスは報告する。
ついでに大教主からの命令も持ってきた。
両軍が向かい合ってる状況で、君たちの訴えが届くはずもなく、結局、戦争は継続されることになった。
一刻も早く、人間同士で争っている場合じゃないことをわかってもらわないと。
***
ある程度は、予想していたが、やはり、未来から来たという話は信じて貰えなかった。
では、どうやれば両軍の戦を止められるのか、頭を捻るしかないだろう。
彼らの話を聞きながら、君はある大事なことを思い出す。
ここにいない大教主の正体は、インフェルナ軍の頭首マルテュスだった。
彼の目的は、インフェルナ軍に聖都を陥落させ、エンテレケイアの契約者である聖皇を殺させることだった。
彼の目的は、サンクチュア軍の弱体化のはず。ならばこの先には、インフェルナ軍の待ち伏せがあるということか。
君は、この先インフェルナ軍の待ち伏せがきっとあると告げた。
この先の崖は、兵を伏せるには格好の場所だ。インフェルナ軍も気づいているだろう。
だから、俺とシリスが崖の上を進み、伏兵を叩く。
その伏兵を叩く部隊に同行させて欲しい、と君は申し出る。
リュオンたちがやりすぎないように見張りながら、なんとか戦争を終わらせる糸口をつかみたい。
***
君たちは、先行して崖の上を進み、インフェルナ軍の伏兵を捜索する。
前方から、足音を殺して向かってくる者たちがいる。
向こうもこちらに気づいた。視界に捉えているのはイスカと……もうひとり大剣を持った男――クロッシュだ。
story
審判獣イスカよ、目覚めよ。この裁きは悪の熔印を押されし者たちの怒りと知れ!
殻衣(かくい)が、イスカの体表を覆う。指先は、刃物のような爪が。背中からは、一撃必殺の蠍尾が伸びていく。
審判獣の血を引く娘――イスカの審判獣化した姿がここに。
イスカはインフェルナ軍で共に戦った仲ではあるが、この時代のイスカが、そのことを知るはずもなく……。
イスカは、空に舞い上がった。太陽を背にして地上にいるこちらの目を眩まそうとしている。
リュオンが鎖を引いた。その先には、十字刃の執行器具――磔剣が繋がっている。
磔剣は巧みに操作され、意思を持つように宙を旋回し、イスカを狙った。
空中に半円を画いて戻ってきた磔剣を片腕で弾き返す。審判獣の体表を覆う殻衣は、刃など容易く弾く。
イスカの意識は、攻撃に集中していた。その機を逃さず、リュオンは地面を蹴った。
方舟が飛んだあの日も、信じるもののために、ふたりは命を削り合っていた。
鎖に繋がった二刀を抜く。濡れたように美しい刃が、陽光を反射して煌めいた。
それがサザの契約した審判獣アスラのもう一つの姿。契約者だけが手にすることができる執行器具。
クロッシュの大剣は、大気の壁を削るように振り払われた。胴体ごと輪切りにせんとする躊躇のない斬撃。
振り抜いた一撃だったが、あえなくいなされた。おかしいと感じたクロッシュは、つづけて繰り出す。
決して剛強とはいえない薄い刃を操り、その何倍もの重量のある大剣を何度もいなし、弾いている。
決して力任せではない。その剣には、確かな技量と経験に裏打ちされた強さがあった。リュオンがサザの腕を認めるのも当然に思えた。
やはり、止めるべきはリュオンとイスカの争い。君は右手にカードを抜き、左手で磔剣を構えた。
磔剣を操る鎖が、金属音をたてながら、宙を飛び回る十字刃を引き戻す。
サンクチュアヘの憎しみが、イスカに無限の闘争心を与える。
リュオンに無数の細かい刃が襲い掛かる。それは、殻衣の欠片を放射状に飛散させたものだった。
殻衣の薄刃は、リュオンの皮膚に微かな傷を付けただけで、あとはすべて磔剣によって払い落とされていた。
イスカの手に白い光の粒子が集まっていく。審判獣が放つ、裁きの光だ。
***
充填された裁きの輝きは、まさにいま放たれんとしている。
心臓に繋がった鎖をつかむ。リュオンは、審判獣ネメシスに変身して正面から攻撃を受け止めるつもりだ。
させない――君の放った炎の魔法が、ふたりの間で爆ぜ散った。
作法なんかよりも、重要なものがある――君は磔剣を飛ばす。湾曲した軌道を描き、ふたりの間合いを分断する。
リュオンもまた磔剣を飛ばす。君の飛ばした磔剣と空中でぶつかり合って激しい音を立てた。
弾けた磔剣が、イスカの元へ向かう。振り払おうと、君の磔剣に触れた。
君の磔剣に触れた瞬間、ふたりの脳に電流のようにある映像が流れ込んだ。
現在とは違う時空で起きた殺戮と悲劇の記憶。磔剣を通じて矢継ぎ早に流れ込み、争うふたりの記憶として植え付けられていく。
受け取った記憶は、もうひとりのリュオンの記憶であり、もうひとりのイスカとの戦いの記録でもある。
リュオンたちは、身に覚えのない記憶を懸命に頭から消し去ろうとしている。
イスカは、力尽きたように地面に膝を突く。脳裏を巡るリュオン殺害の衝撃に、感情が耐えきれない様子だ。
己の戦いすら忘れてクロッシュは駆け寄る。その首を切り落とす寸前の位置で、サザの刃が止まっていた。
戦いは、決着した。
切実に訴えるような瞳で、君を真っ直ぐに捉えている。
イスカを連れて帰ろうと君は提案する。そうすれば、インフェルナ側も下手に戦をしかけてこれないだろう。
イスカは責任を持って必ず連れ戻す。だから、イスカが戻ってくるまで戦いは止めるようにとクロッシュに言付けた。
***
Q執行騎士様が、インフェルナ軍の審判獣を捕虜にしたらしい。
Q新参者の魔法使いが、相当な活躍をしたそうだ。これでこの戦、勝ったようなものだな。
サンクチュア軍は、君がイスカを連れてきたことで捕虜だなんだと湧き立っていた。
しかし、そんなこと君には関係なかった。
時間を遡って来たこと。もうひとつの未来では、なにが起きたのかなど。
君たちは、イスカにすべてを語って聞かせた。
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それは、聖堂の聖職者たちが、サンクチュアの信徒どもに常日頃、説いて回っている話だ。
その癖、奴らは密かに方舟を建造していた。いざという時は、この大陸から逃走できるように。
リュオンを指さす。
ふたりは敵同士でありながら、互いに理解しあっているように見えた。
だからリュオンは進んで死を選んだ。イスカをその手で殺さないために……。君はそう思っている。
大教主がこの世界の支配者となるためにエンテレケイアを起動させたのが原因。ひとりの男の野望によって世界は滅びた。
信じて欲しい。今のうちに大教主を止めれば、エンテレケイアが目覚めることはない、と君は力強く説得する。
殺されたお母さんのことを忘れて、いますぐサンクチュアと手を結べと言われてもできないわ。
あとで調べたが、俺の両親が死んだ日に、インフェルナの男が聖都に侵入した事件があった。
侵入者は、あちこちに火を放って、ひとりの女と赤子を聖都の外に連れ出したらしい。
俺の両親は、その時の火災に巻き込まれて死んだ。他にも大勢の死者が出た。
幼かった俺は、その時たまたま熱を出して乳母と診療所にいたから助かったそうだ。
イスカは目を伏せたまま、リュオンから顔を逸らしている。
誘拐された女と赤子。聖域の外で女が殺された。イーロスから聞かされている話と重なるところがいくつもある。
ただ、お前たちに戦う理由があるというのなら、こちらにだってある。それを忘れるな。
密書の内容は、端的だった。捕らえた敵の審判獣を即座に聖都まで護送するようにという命令だった。
リュオンとサザのうしろで、シリスが子どものようにぺろっと舌を出しているのを君は見逃さなかった。
きっと大教主に報告したのは、シリスだろう。手紙の到着が早かったのも彼が直接報告したからだ。
いや、と君は首を横に振る。いまのシリスは、まだ大教主の手先だ。下手な刺激はよそう。
魔法使いの話とリュオンの話。両方聞いてお嬢ちゃんなりに思う所もあっただろう。持ち帰って、仲間とよく話し合ってくれ。
サザは、テントの入り口を開いた。いつ出て行ってもいいというメッセージだった。
それは予感とは違います。ただの成長です。
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君たちは、インフェルナの陣営へ向かうイスカを追いかけた。
言葉に多少の輯がある。まだ君たちのことを警戒しているらしい。
でも、生きててくれるだけで嬉しい、と君は言う。
インフェルナの仲間たちとの合流を果たし、イスカは喜びを満面に表した。
巨大な影が、空から落下してくる。
威風をなびかせて地上を見下ろすのは、審判獣アバルドロス。
1番知性があり、イスカとも深い縁で結ばれている審判獣が、なぜこんなところに。
お前たちが、祖先が眠る墓を荒らさなければ、私の怒りに触れることはなかったものを!
墓とは、この場所のことだろうか?言われてみれば、審判獣の死骸や骨が散乱している。
アバルドロスが放った光条は、近づこうとしたメルテールたちの足元をなぎ払い、地中に穴を穿った。
激しい怒りと共に殼衣を着装し、審判獣へと変化する。
危険は伴うが、アバルドロスを抑えられるのは、同じ審判獣であるイスカしかいない。
蠍の尾が素早くアバルドロスの堅い殻衣を穿つ――たまらず呻いた。
鎌首をもたげた蛇のようにイスカの尾が、狙い付けた。
先ほど穿った殼衣にできた穴。もう一度深々と貫けば、いかなる審判獣といえどひとたまりもないはず。
イスカの尾は、なんなく払い飛ばされる。イスカのものよりも重量感があり、ふたまわりほど太いアパルドロスの尾で。
怒気が膨らんでいく。このままでは、両者どちらかが傷つかなければ、戦いが終わらない。
時間を遡る前の世界でマグエルから聞いていた。この審判獣が、イスカの父親だと。
お互いはっとして鋭尖な尾と爪を静止させた。アバルドロスは、難しく呻りながらも声を絞り出す。
人間。いったいなにものだ?
君は、ギガント・マキアが近いうちに起きる。それを防ぐためにやってきたと答えた。
先ほどの戦いも、イスカの腕を試していたんだよねと君は言う。
元いた未来でマグエル先輩から聞いた。アバルドロスは、ギガント・マキアを勝ち抜くために戦力となる相棒を探している。
アバルドロスの足元に、君の持っているものとは別の磔剣が突き刺さる。
執行騎士団が、駆け付けてきた。サンクチュアの陣営近くで、派手に暴れたのだから、気づかれて当然か。
だが、いつの日か、共に戦うことがあるかもしれん。それまで……腕を磨くのだ。
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飛び去っていくアバルドロスを見送ってからイスカは、後ろを振り向いた。
それでも、心の優しいイスカは、責任を感じてしまう。たとえ、聖都から連れ出された赤ん坊が自分ではなくても。
君はぐっと親指を突き立てた。
お礼はいい。それよりも……。
遅かれ早かれ知る事とはいえ、勝手にバラしちゃって悪かったと君は言う。
審判獣なのに人間であるイスカの母と出会い恋に落ちた。世にも珍しい審判獣だ。
元いた未来で、イスカはアバルドロスと手を結んだ。
共にギガント・マキアに参加したが、その選択は間違いだった。
アバルドロスには、すでに往年の力はなく、他の審判獣との争いに敗れて死んだ。
アバルドロスを破ったのは審判獣アウラだった。
審判獣アウラは、アパルドロスの血を手に入れ、それを糧に巨大な力を身につけた。君では太刀打ちできないほどの存在になった。
イスカは、父を殺したアウラに復讐を果たそうとしたが、結局、待ち受けていたのは悲劇だった。
イスカを救うには、やはり歴史を変えて、ギガント・マキアそのものを阻止するしかない。
君の中で、またひとつ決意が固まった。