【黒ウィズ】Birth of New Order 3 Story3
Birth of New Order 3 Story3
Birth of New Order 3 Story7
登場人物
story
クロッシュの振り下ろした大剣は、妻トロスを切り裂いた。
「……心まで悪に染まっていたのね。」
「そうだ。俺は悪だ。ゆえに煉獄を歩いている。」
死んだと思っていたはずのトロスとの再会は、クロッシュに僅かな希望を抱かせた。
だが、トロスはカサルリオの手により、サンクチュアの教義と戒律を叩き込まれ敬虔な信徒となっていた。
自分の子どもを殺した者たちの戒律に従い、そして、それを疑問に思わなくなるまで洗脳されていた。残酷な仕打ちである。
クロッシュの激昂は、サンクチュアに対する怒りでもあった。
傷ついた身体を起こし、トロスの言葉を噛みしめる。
憎むべきサンクチュアの教義に染まり、まるで別人のように変わってしまったトロスにクロッシュは絶望する。
大剣を持つ手が震えていた。フェンリナルの思念が、憎しみを増幅させていく。
大剣の柄を血が潜むほど激しく握りしめる。クロッシュの感情は、臨界に到達しようとしていた。
ここしかない。
トロスを斬る――そのために振り上げた大剣に、君は魔法を直撃させる。
思念獣フェンリナルが宿った大剣は、君の魔法によって弾き飛ばされた。
Q誰だ、決闘裁判に介入するものは!?
濁っていた意識が、鮮明になっていく。クロッシュは、狂気が喪失した目でなにもない手を見つめた。
そして、魔法で弾き飛ばされた大剣の行方を目で追う――
ハンマーを叩きつける。冷静さを欠いた力任せのー撃は、狙いを捉えることあたわず。
大きすぎる力に四苦八苦しているメルテールに運命がいたずらする。
君の魔法で弾き飛ばされたクロッシュの大剣が、目の前に滑り込んできたのだ。
禍々しい怨念を放つ牙のごとく巨大な刃――黒い焔をまとうフェンリナルの思念が、メルテールには見えた。
『煉獄に堕とされ、朽ちていくだけの私の無念を晴らし――
我が使い手として復讐を遂げると誓えば、新たなる力を与えよう』
それは、大剣に宿ったフェンリナルの執念を纏う呪いの言葉。
メルテールは、フェンリナルの大剣を手に取る。それだけで誓いは成立した。
虚ろな目をしたまま、メルテールは左手にタイタナスのハンマー。右手にフェンリナルの大剣を握った。
2体の思念獣は、メルテールに新たなる力を与えるだろう。しかし、その代償も大きい。
メルテールは、勢い余って傍聴席と決闘場を隔てる壁を破壊した。
大剣とハンマーを振るごとに、メルテールの意思が希薄になっていく。
君の存在に聖堂兵が気づいた。脱獄犯を牢に戻そうと大量の兵が駆け付けてくる。
傍聴席にいるトロスをー瞥してから、メルテールの前に立った。
生きていてくれた喜びよりも、憎しみの方が勝っていた。それが、先ほどまでの俺だった。
執行騎士に対抗するために、俺たちは人を超えた力を求めた。
しかし、代償として受けた呪いに心が耐えられなかった……。
平手を振るってメルテールの頬を叩く。小さな身体はあえなく吹き飛び、思念獣の宿った武器は手から離れた。
***
もはや、サンクチュアに恭順を誓うか、死を受け入れるしか残された道はない!
子どもの死因であるサンクチュアの教義に母のトロスが、心酔していることへの戸惑いはあった。
だが、トロスが翻意せざるを得なかったのは、やむを得ない。
この世界では、サンクチュアで生きるか、インフェルナで生きるか、どちらかの道しかないのだから。
烈火のごとく憤怒を纏った拳が、クロッシュ目掛けて繰り出される。
カサルリオの放つ拳を鼻先でかわし、反撃のー手を見舞う。後ろに吹き飛んだのはカサルリオの方だった。
嘘偽りのない本心が、口から自然にこぼれた。自然と両目から涙がこぼれ落ちる。
Q決闘裁判の途中だ!傍聴人と勝手に話すな!
でも、武器もなにも持たないあなたに出来ることはもうありません。すでに勝負は決まりましたね?
メルテールが、フェンリナルの大剣をつかむ。
凄まじい怨念が剣の柄を通して伝わってくる。恨みが、メルテールの感情を焦がしそうになる。
クロッシュが、メルテールの握る大剣の柄に手を置いた。ふたりで、1本の大剣を握る形になる。
ふたりの呼吸を合わせ、握った大剣を振り抜いた。
分厚い大気の波が、ー陣通りすぎたあと、時が止まったように互いの身体が静止していた。
ぐらりとカサルリオの姿勢が崩れた。大剣の背が、ふかぶかと腹部に食い込んでいる。
心に去来するのは、若い頃のふたりの思い出。共に剣と拳を磨き。サンクチュアの理想を追った時の輝かしき日々。
クロッシュは、若い頃のカサルリオを見るような優しい瞳をしていた。
Q執行騎士副団長殿が連れて行きました!
膝を突いて惨めに命乞い。かまわずメルテールは、大剣をティレティに向けて振り下ろす。
大剣は真横を空振り、地面の石畳を割った。ティレティは、白目を剥いて気を失っている。
Qそんな馬鹿な。執行騎士様が負けただと?それに、ふたりで協力して戦うなど言語道断。こんなのは決着とは言えん!
Qですが!
俺は、有望な執行騎士を失いたくないから言ってんだぜ?
Qぐっ……。こんなこと、大教主様に知られたら、私が処罰される……。
クロッシュは傍聴席にいるトロスを見つめていた。今はまだ話かける事はできない――
だが、いつかサンクチュアとインフェルナのわだかまりがなくなったとき、再びトロスに会いに行く――そう心に誓った。
story
聖堂の誰も近づかない区域に調整部屋というものがある。大教主が、子飼いにしている少年たちを己の意のままにするための部屋だ。
調整の方法はさまざまある。もっとも大教主が好むのは、肉体への苦痛よりも、精神を屈服させる方法だった。
「お許しを……!大教主様あっ!」
サンクチュアヘの反逆者――その息子であるシリスは、小さい頃から大教主の調整を受けて育った。
彼の本心はともかく、立場は大教主の忠実な犬だった。
「魔法を使う者の存在を、なぜ報告しなかった!?あ奴のせいで私は……!」
大教主は、シリスがなにをすれば嫌がるのか、すべて知り尽くしている。
「ぐふっ……!げほっ!げほっ!」
こうやってシリスは何度も心を壊されてきた。
「これからは、大教主様にすべてご報告いたします。決して、裏切りませんからぁ……。」
「馬鹿な配下どもが、せっかく捕らえた魔法使いに脱獄されたらしい。どのみちはじめから期待はしとらんがな。
シリス。お前の手で奴を始末しろ。ー緒に捕らえたインフェルナ人も同様にだ。
決闘裁判の結果がどうあれ、この聖都から奴らをー歩も外に出すな。いいな?」
傷ついた身体をベッドに横たえたまま、シリスは壊れたような笑いを浮かべていた。
(今日も僕は、大教主様の犬として働く……。こんな僕の本性を知ったら、団長も他のみんなも、きっと軽蔑するだろうな。
もう、こんな役目は嫌だよ。誰でもいい……誰か助けてよ……)
リュオンは、決闘が行われている会場から、意識を失っているイスカを連れ出していた。
安静に出来るところにイスカを横たわらせ、手早く容態を診察する。
普通の人間ではこうはいかない。まさか娘の身体に流れる審判獣の血が、抗体になっているのか?
審判獣の血を引く人間などリュオンもはじめてだ。戸惑いながらも、サヴラが植え付けた卵の対処を進めることにする。
リュオンは、心臓の鎖を引いた。契約している審判獣ネメシスと同調し、その姿は、人ではないものに変容した。
サヴラの卵は、視認できないほど小さいため、その存在を肉眼で捉えるのは不可能。
福音とは、審判獣の活動エネルギーそのもの。
体内に大量の福音を流し込むことによって、サヴラの卵が孵化する前に燃焼させる――
「……こうすれば、サヴラの卵をあのお嬢ちゃんの身体から除去できるはずだ。なぜ知ってるのかって?
見くびるなよ。俺は執行騎士団長様だぜ?ティレティのやり口は、以前から問題だと認識していた。
万がー、ティレティが敵に回った時のことを考えて対策を練っていたわけよ。」
魔法使いの持つ磔剣に触れた時、他の記憶と共に、イスカと過ごした記憶も流れ込んできた。
体験した覚えのない記憶を信じるわけではないが……あれ以来、イスカのことが気になっていた。
ねえ、私にはイスカという名前があるの。インフェルナの娘じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。巴丿ねえ、私にはイスカという名前があるの。インフェルナの娘じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。
その名前を口にした瞬間、どこか懐かしい感じがした。
リュオンには幾度となく特別な感情を込めてその名前を呼んだ記憶があった。もうひとりの自分の記憶のため実感はないが。
影の中に引き摺り込まれてからは、覚えてないの。気づいたら、あなたが目の前にいて……。
奴の狙いは、聖皇ベテルギウスよ。エンテレケイアを覚醒させようとしているって、魔法使いさんが言っていた。
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小さい手で暗い路地を指し示す。ローブをまとった黒い人影が走っていた。
案内していたのは、むしろこっちの方だよ、と君は毒づく。
Q魔法使い……と聞こえたような?こっちにいるのかもしれん!
「はーい。ハ二ー。今夜の君の美しさは、まるで魔法にかけられたようだぜ?」
「あ~ら、嬉しい。美しいのはいつもどおりだけどどこかの魔法使いが、私に魅惑の魔法をかけたのかもしれないわね。」
「こ……これは、執行騎士のラーシャ様。怪しい者が、こちらを通りませんでしたか?」
「どうやら無粋な蚊が紛れ込んでるようだぜ、ハ二ー?それにしても、君は美しいなあ。」
「あなたこそ。今日はいつもより、体表の湿度が高いようね?
アハハハハハハハッ……。」
「オホホホホホホホッ……。」
「お、お楽しみのところ失礼しました!」
聖都を進む君たちの足元を足止めするように、鎖の先についた小さな剣が突き刺さった。この武器を扱うのはもちちろん――
あいつの目的は、聖皇を殺すこと。エンテレケイアを覚醒させないためにもなんとしても止めたいと君は言う。
いつもは、気配を感じさせないシリスが、珍しく殺気を剥き出しにして向かってくる。
……犬でもなんでも好きに呼べばいいですよ。犬は、犬なりの戦いをしてみせますから。
君は、大教主の正体を知っているのかと訊ねた。
サザの表情から緩みが消えた。2本の刃を握った彼に諦めとある種の覚悟が宿る。
わかっているが、簡単にシリスを殺す決意を固められるものでもない。
あんたがいた未来の俺は、こんな手を使ったかなぁっ!?
***
針のように細い刃を先端に付けた執行器具で、シリスはまず自分の足元を穿った。
地中に潜った〈執刀の針剣〉は、君の足の下を通って背後から出現する。
間ー髪で避けたが、ウィズの警告がなければ、反応が遅れていたかもしれない。
君は、シリスに戦いをやめるように忠告する。大教主は、もはや人ではない。あんなものの命令を守る必要はない。
鎖がまさに蛇のように地上のたうつ。鎖の先端についた針剣は、あくまでも君を狙って執拗に追いかけてくる。
あと少しで、星蝕の夜だったのに……。大教主様の計画が遂行されるはずだった……。でも、あなたの登場ですべて台無しです。
もうー度よく考えて欲しい。本当に大事なものは、なんなのか。君にも執行騎士の誇りはあるはずだ。
僕を執行騎士にした癖に……騎士の誇りなんて真っ先に奪われましたよ。言葉にしがたい、数々の虐待で……。
横からサザが、刀を突き入れる。シリスの鎖は、刃に巻き付いてその勢いを止めた。
あの人は、聖皇の代わりにエンテレケイアと契約すると約束してくれました。現状の腐ったサンクチュアの体制を変革できればいいと。
騙されている。マルテュスは、そんな人間側の都合なんて意にも介さない。
審判獣たちを目覚めさせたいという意思。ただそれのみで動いている。だから目を覚ませ。
手の甲の辺りに微かな痛みが走った。シリスの執行器具――〈執刀の針剣〉がいつの間にか君の手に傷を付けていた。
刃には全身を麻庫させる毒が塗られている。蛇の毒のように獲物から身体能力を奪って時間をかけて殺すための毒だ。
……断る。と君は言った。
君は、破った布で手首を堅く縛り、毒が全身に回らないように処置してからカードを抜いた。
幻惑するように四方に飛ぶ鎖。針剣が、あらゆる場所を飛び回り、君に刺突の軌道を読ませない。
頭上から来る――君は、針剣の突きを避けながら魔法を放った。
鎖がU字を描く。君の背後から針剣が迫る。避けられない――が、君は、なんとそれを素手で受け止めた。
毒を塗られた鋭い剣先が、掌を貫いていた。だが君は、ものともしない。空いた手でシリスを思いっきりぶん殴った。
君は、シリスの胸ぐらをつかんで叫んだ。目を覚ませ――お前は執行騎士だろ!?
1番守らなきゃいけないものはなんだ?サンクチュアの人々であり、この聖都だ。間違っても、大教主の命令なんかじゃない。
やるせなさ、悲しさと共に君の口ら言葉があふれ出た。
聞きたくなくても聞いて欲しい……と、君は言葉を続ける。
ギガント・マキアが起きて審判獣が大陸にあふれ出た。その時シリスは、最後の執行騎士団長だった。
サザは最初からいない。リュオンもサンクチュアの民を守るために死んだ。唯ー志を受け継いだのが、シリスだった。
最後の執行騎士団長として。リュオンが残した磔剣を操って。
荒れ狂う審判獣の大群を相手に、最後まで騎士らしく地上の人々を守って死んだ。
君はもうー度シリスの襟元をつかみあげる。
サンクチュアもインフェルナもなくなった大陸で最後まで希望を捨てずに戦った。
あの時のシリスには、間違いなく死んでいった執行騎士たちの魂が受け継がれていた。
2本の刃を抜く。審判獣アスラが、不明瞭な幻像となってサザの背後に浮かび上がった。
もう戦う意思はないとぱかりに膝を突く。
この先に大教主がいる。行こう――と、君は傷ついた手を庇いながら、先へ進む。
story
シリスの執行器具から受けた毒は、完全にではないが、あらかた魔法で除去した。
少しめまいはするが、甘えたことを言っていられる状況ではない。
君は、真っ直ぐに伸びる影の先に視線を送る。そこには、あの男が立っていた。
A聖皇を守りに来たのかね?
その姿からは、マルテュスの面影は感じなかった。
A聖皇ベテルギウスは、聖皇とは名ばかり。その地位にあぐらをかき、なにもせずに人の善意をむさぽり食っている悪魔だよ。
すでに影と同ー化している。月星の恵みを与えられない場所は、すべてあの男の領域に思えた。
聖皇ベテルギウスが死んで、エンテレケイアが動き出した混乱の最中、大教主は崩れてきた瓦篠に押しつぶされて死んだ。
審判獣アンラ・マユは、エンテレケイアが動き出しさえすれば、もう用はないとぱかりにマルテュスを捨てたのだ。
A間を遡る……?まさか、始祖審判獣ニュクスの仕業ではあるまい?
果たして、いかなる存在か……。ニュクスと敵対するもの?いや、そのようなものがこの世界にいるとは思えん。
影がざわめいている。独り言を呟いている存在は、元の大教主ではなく、彼を乗っ取っている審判獣だと君は感じた。
Aしかし、何者が介入しようと、もう止められん。すでにギガント・マキアヘの扉は開いているのだ!
この両刀を振りかざすー切の躊躇いを吹き飛ばしてくれて感謝するぜ!
意気衝天。地面を蹴り上げ、2本の刃をかざしながら、大教主へと突き進む。
近づいた時には、大教主の姿はなかった。まるで、闇に溶け込むように姿を消した。
影と影の間を自在に行き来できる。そして、イスカのように別の存在を引き摺りこむこともできる。
ー閃、刃が振り抜かれた。
影が、闇から手を伸ばそうとしていた所だった。白銀の月光を宿した刃は、審判獣アンラ・マユの魔手を断っていた。
A浅はかな……。それで私を捉えたつもりか?
影は、闇に潜むからこそ影なのだ。
雲が動き、サザの右半身が影に覆われた。その瞬間、間に半身をわしづかみにされたような感触があった。
サザは、とっさに刃で闇を切り裂いた。しかし、それはただの影。刃は、闇の間を素通りする。
君は右手をかざして魔法を放とうと試みる。その直後、君にも黒い闇がまとわりついてきた。
2本の刃は君を捕まえた影――アンラ・マユを斬った。それが最後の置き土産とばかりに、サザは影の中に引き摺り込まれた。
君は、咄嵯に雷の魔法を放つ。閃光が走り、闇をかき消し、光が満ちた――
けれども、サザの姿はどこにも見当たらない。
A人間特有の感傷という奴か。無駄な抵抗をするから傷つくのだ。大人しく審判獣の餌になっておればいいものを。
人を舐めるなと君は即座に言い返す。
A古の英雄たちが、エンテレケイアを封じるまで地上は審判獣の楽園だった。
被支配者である人間が無駄な抵抗を試み、地上で暮らす権利を手に入れたものの……。
その後は、サンクチュアとインフェルナに分かれ人間同士で殺し合っている。救いがたい愚か者たちだ。
この場にいるのが、たとえ誰かが仕組んだことであっても、君は正しいと思うことをするだけだ。
ありったけの雷を魔法で生み出す。アンラ・マユが、どこにも隠れる場所がなくなるほど激しく照らし出す。
A凄まじい輝きだ。果たして、その力いつまで続くかな?
魔力が尽きる前にアンラ・マユを追い詰めてみせる。
Aどこを狙っている?私はここにいるぞ!?
嘲りが君の耳柔を穿つ。
閃光により闇は大方晴れたが、すべてではない。魔力が尽きる前に必ず奴を探し出す。
視界がかすむ。あと少し……あと少しで、奴を追い詰められる。
「苦戦しているのか?」
この声――風が逆巻く。ふたりは、同時に君の目の前に降り立った。
頭首マルテュス――戦争で亡くなった大勢の人に代わって、私があなたを裁きます!
イスカは、湧き立つ憤怒を闘志に変えて纏う。
Aティレティの審判獣では、お前を傀儡にすることはできなかったか!?
戦争で戦死した者たちの嘆きと哀切――煉獄に堕とされた者たちの苦しみを背負う審判獣イスカが、出現。
大教主を裁くための罪状。それは己が世の中を支配するという身勝手な野望。それは唾棄すべき強慾と傲慢の罪。
審判獣となったふたりが放つのは、放射状に広がる裁きの光。
闇に潜むしかない悪を遠慮なく爽り出す。
Aおのれえええええっ!
***
イスカとリュオン。ふたりが放つ裁きの光は、大教主――審判獣アンラ・マユを闇から引き摺りだした。
A始祖審判獣ニュクスの命令を受けたこの私が……人間ごときに追い込まれるとは……。
月明かりで生じた影が、瀕死のアンラ・マユに救いの手を差し伸べている。
Aだが、この肉体をいくら刻もうと、その程度の輝きでは、影である私を殺すことはできん!
私は、この世界にはじめて始祖審判獣ニュクスが来臨した時に誕生した審判獣。
いわば、始祖審判獣の半身も同然――人ごときにやられてたまるか!
Aすべての審判獣は、彼女より産み出された。生命の母体である。
この世界は、ニュクスと審判獣のもの。人間ごときが、介入する余地などない!
裂帛の気合いと同時に襲い来る。影が巨大な手を広げて君を包み込まんとする。
ネメシスは君を庇い、白銀の輝光を放つ。それは真理の光。刃のように煌めいてアンラ・マユを両断する。
イスカの蠍尾が、アンラ・マユを取り巻く影を穿つ。
Aぐっ――ぎゃあああああっ!
リュオンが放つのは聖なる裁きの雷。イスカが放つのは、煉獄の怒りの炎。ど’二リュオンが放つのは聖なる裁きの雷。イスカが放つのは、煉獄の怒りの炎。
インフェルナを惑わし、サンクチュアで虎視耽々と目的遂行に向かっていた大教主――アンラ・マユ。
その実体ともいえる影が、君とふたりの審判獣によって消滅させられようとしている。
A私を倒したところで無駄だ。エンテレケイアの覚醒は、すでにはじまっている。
ギガント・マキアを起こすための手は、すでに打たれている!
Aはじめてこの世界に降り立った地――原初の地にいまもいるはず。それ以上は、お前の眼で確かめろ。
影は見えないほどの小さな闇となり――君たちの前から消え失せた。
シリスは、力なくへたり込んでいた。両目のまぶたは、泣きはらしたように赤くなっている。
私に適正なんてなかったわ。最終試験でサザに助けられなきゃ、きっと今ごろ死んでた……昔、話したわよね?
シリスには、裏切り者の息子という負い目があった。
大教主に取り入り、彼を後ろ盾にして執行騎士にまでなった。すべて、サンクチュアで生きていくためだった。
本当に騎士になりたかったのかすらも、いまではわからない。
人々を守るためにリュオンさんの磔剣を受け継ぎ、立派に戦ったって……。
聞いた時は、なんて変なこと言う人なんだって思いました。だけど――
熱い感情がこぼれ落ちそうになり、咄嵯に顔を伏せる。
砂埃を払って立ち上がる。
story
聖皇のいる大聖殿に向かう途中――君たちは、人が倒れているのを発見する。
アンラ・マユの消滅により、影に飲み込まれていたサザが戻ってきた。どうやら怪我ひとつなく、無事なようだ。
和みつつある雰囲気の中、大聖殿から、突如大きな悲鳴が聞こえた。
エンテレケイアの覚醒は、すでにはじまっていると奴は言っていた。
抑えようもない不安を飲み込んで、君たちは聖皇のところへ急いだ。
聖皇とおぼしき老人が、奥の皇座に鎮座している。まだ生きていると知り、君は、ほっと息を吐く。
だが、床の上には、聖皇の護衛らしき聖堂兵の死体が転がっていた。悲鳴をあげたのは、彼らだった。
か細くなった影が、聖皇の傍で、不気味に伸びている。
君とリュオン。同時に磔剣を影に向けて投げた。十字の剣が空中で交錯しながら、アンラ・マユを切り刻む。
Aそのような足掻きなど意味はない!
磔剣は、アンラ・マユを貫いた。しかし、刃は影同然の肉体に突き刺さりはしたが、それが深い傷とはならなかった。
Aギガント・マキアを起こし、この地上を人の手より取り戻す!
影が魔手を振り上げ凶行に及ばんとする。
間に合わない!聖皇を守れなければ、なんのために時間を遡って、すべてをやり直したのかわからない。
君は祈る思いで魔法を唱えた。
Aいまさら魔法など無意味よ!!諦めて人類の終幕を迎えられることを素直に喜ぶがいい!
ここまでか――
ありがとうございますと小さく呟いてシリスは、右腕を振るって鎖を波打たせた。先端の刺剣が、音もなく標的に向かって突き進んだ。
シリスの放った鎖が光を放ち影を包み込む。影を閉じ込める光の檻が誕生する。
光に触れると影は消滅する。アンラ・マユの凶手は、聖皇の身体を穿つ寸前で止まるしかなかった。
A口答えとは……また調整部屋に戻りたいかね?それとも、この場でお前を調整して欲しいのか!
Aお前は頭のいい子だ。審判獣に逆らって人がこの大地で生きて行けると思うかね?できないだろ、だったら答えはひとつだ。
人々がこの地上で生きていく――そのために執行騎士がいるんだ!
駆け寄って、アンラ・マユが取り憑いている大教主の肉体に一発、拳を叩き込んだ。
これまでに受けたあらゆる仕打ち。抑えつけられてきた苦衷。全てを晴らすー撃だった。
Aがはっ……。
僕は、執行騎士だからサンクチュアの戒律に従っていただけです。こんな化け物に従う理由なんてありません。
だから……目障りだ。僕の前から消えろよ!
Aもっと賢い子だと思っていたよ……シリス!
契約している審判獣レヴァイアタンに姿を変える。鋭牙が、アンラ・マユごと大教主の肉体を喰らい、破壊し尽くす。
審判獣アンラ・マユは、レヴァイアタンに飲み込まれ、影も形もなく、この世から消え失せた。
大教主――マルテュスが身につけていた僧衣の切れ端が、風に乗って飛んでいく。
そうでも思わないとやるせないですよ。あーあ、父と兄の墓になんて報告しよう……。
シリスの中でひとつ区切りがついたのだろう。姿は恐ろしい審判獣のままだが、口調はどことなく爽やかだった。
君たちは、聖皇ベテルギウスに近づいた。
皇座に座った老人は、先ほどから微動だにしない。目の前で傅いたサザたちに視線を送ることもない。
リュオンが聖皇の肩に触れた瞬間、人形のように倒れ、それっきり動かなかった。
王座の背後に潜んでいたものがいる。紫電を纏いながら、聖皇の殺害者は姿を現わす。
そこにいる魔法使いが歪めようとしている時間の流れを正しきものにするため、私は、未来の記憶を受け継いだ。