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【黒ウィズ】Birth of New Order 3 Story3

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん


登場人物




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 クロッシュの振り下ろした大剣は、妻トロスを切り裂いた。

「……心まで悪に染まっていたのね。」

「そうだ。俺は悪だ。ゆえに煉獄を歩いている。」

 死んだと思っていたはずのトロスとの再会は、クロッシュに僅かな希望を抱かせた。

だが、トロスはカサルリオの手により、サンクチュアの教義と戒律を叩き込まれ敬虔な信徒となっていた。

自分の子どもを殺した者たちの戒律に従い、そして、それを疑問に思わなくなるまで洗脳されていた。残酷な仕打ちである。

クロッシュの激昂は、サンクチュアに対する怒りでもあった。


なんと言った……?

 傷ついた身体を起こし、トロスの言葉を噛みしめる。

w私は生まれ変わったの。カサルリオ様と聖典に導かれて、聖なる帰依をすませたわ。

 憎むべきサンクチュアの教義に染まり、まるで別人のように変わってしまったトロスにクロッシュは絶望する。

昔、俺が愛したトロスはもういないのか……?

 大剣を持つ手が震えていた。フェンリナルの思念が、憎しみを増幅させていく。

貴様も妻トロスを見倣って、頭を垂れてサンクチュアに恭順を誓え。そうすれば命だけは助けてやろう。

断る!

 大剣の柄を血が潜むほど激しく握りしめる。クロッシュの感情は、臨界に到達しようとしていた。

前の悲劇を繰り返させてはいけないにゃ!

 ここしかない。

トロスを斬る――そのために振り上げた大剣に、君は魔法を直撃させる。

思念獣フェンリナルが宿った大剣は、君の魔法によって弾き飛ばされた。

Q誰だ、決闘裁判に介入するものは!?

余計な手出しは無用!

俺は……なにを……。

 濁っていた意識が、鮮明になっていく。クロッシュは、狂気が喪失した目でなにもない手を見つめた。

そして、魔法で弾き飛ばされた大剣の行方を目で追う――


 ハンマーを叩きつける。冷静さを欠いた力任せのー撃は、狙いを捉えることあたわず。

どうして当たらないのよ!?

 大きすぎる力に四苦八苦しているメルテールに運命がいたずらする。

君の魔法で弾き飛ばされたクロッシュの大剣が、目の前に滑り込んできたのだ。

禍々しい怨念を放つ牙のごとく巨大な刃――黒い焔をまとうフェンリナルの思念が、メルテールには見えた。

『煉獄に堕とされ、朽ちていくだけの私の無念を晴らし――

我が使い手として復讐を遂げると誓えば、新たなる力を与えよう』

それは、大剣に宿ったフェンリナルの執念を纏う呪いの言葉。

あの女を倒して、イスカを取り戻せるなら――

 メルテールは、フェンリナルの大剣を手に取る。それだけで誓いは成立した。

これであの女を殺せるんだ……。

 虚ろな目をしたまま、メルテールは左手にタイタナスのハンマー。右手にフェンリナルの大剣を握った。

2体の思念獣は、メルテールに新たなる力を与えるだろう。しかし、その代償も大きい。

きゃっ!ちょっとどこを狙っているんですの?

 メルテールは、勢い余って傍聴席と決闘場を隔てる壁を破壊した。

……逃げるな。

 大剣とハンマーを振るごとに、メルテールの意思が希薄になっていく。

クロッシュ!メルテールを止めるにゃ!

 君の存在に聖堂兵が気づいた。脱獄犯を牢に戻そうと大量の兵が駆け付けてくる。

メルテールは、思念獣に心をやられている……?俺も……そうだったのか。

決闘の途中にどこへ行く!?

 傍聴席にいるトロスをー瞥してから、メルテールの前に立った。

どいてクロッシュ兄!邪魔するつもり!?

先ほど俺は、妻を……トロスを殺そうとしていた。

生きていてくれた喜びよりも、憎しみの方が勝っていた。それが、先ほどまでの俺だった。

執行騎士に対抗するために、俺たちは人を超えた力を求めた。

しかし、代償として受けた呪いに心が耐えられなかった……。

 平手を振るってメルテールの頬を叩く。小さな身体はあえなく吹き飛び、思念獣の宿った武器は手から離れた。

クロッシュ兄……な、なんで殴るの~?

俺もお前も、魔法使いが、思念獣に狂わされていた……。気づかせてくれた。


 ***


妻も子も頼るべき剣さえ、お前の手からこぼれ落ちた。

もはや、サンクチュアに恭順を誓うか、死を受け入れるしか残された道はない!

トロス……。すまなかった。

 子どもの死因であるサンクチュアの教義に母のトロスが、心酔していることへの戸惑いはあった。

だが、トロスが翻意せざるを得なかったのは、やむを得ない。

この世界では、サンクチュアで生きるか、インフェルナで生きるか、どちらかの道しかないのだから。

辛い中、選んだのだろうな。生きるための道を……。

そうだ!子どもを殺したサンクチュアの教義を受け入れたのだ。お前を裏切ってなぁ!

 烈火のごとく憤怒を纏った拳が、クロッシュ目掛けて繰り出される。

その決意。その覚悟を否定する資格は、俺にはない!

 カサルリオの放つ拳を鼻先でかわし、反撃のー手を見舞う。後ろに吹き飛んだのはカサルリオの方だった。

俺は、トロスが1番辛い時に傍にいなかった。夫として失格だ。

wあなた……。

トロス、すべて、悪いのはお前ではない。俺が弱いのがいけないのだ。

wそんな悲しい顔をしないで。私はもうあの子の死を乗り越えたわ。

そうか……。今は……どんな形であれ、生きていてくれて……嬉しい。

 嘘偽りのない本心が、口から自然にこぼれた。自然と両目から涙がこぼれ落ちる。

Q決闘裁判の途中だ!傍聴人と勝手に話すな!

カサルリオ、気を抜くなと言ったはずです。インフェルナ人は、野蛮で抜け目なくて、とっても残忍なのです。

そうだったな……。く、油断した……。

あんたの方が、よっぽど残酷なことをイスカにしてるよね?

私にとってインフェルナ人は、人ではありませんので――あら、怒りましたか?

でも、武器もなにも持たないあなたに出来ることはもうありません。すでに勝負は決まりましたね?

……。

なかなかいい拳だった。だが、もう通用せん。得物を持たぬ貴様たちに勝ち目などない!

……。

クロッシュ兄。どうする。降参する?

俺たちには、まだ切り札が残っている。熱い鉄鍋を思い出せ。

あ……そうだね!

 メルテールが、フェンリナルの大剣をつかむ。

凄まじい怨念が剣の柄を通して伝わってくる。恨みが、メルテールの感情を焦がしそうになる。

心を呑まれるな。

 クロッシュが、メルテールの握る大剣の柄に手を置いた。ふたりで、1本の大剣を握る形になる。

ひとりで思念獣を制御出来ないなら、ふたりで抑え込めばいい。そういうことだね!?

メルテールならば、気づいてくれると思った……。

ふたりでー振りの剣だと?それで満足に剣が振れるわけがない!

俺たちの切り札。それは――

インフェルナで培った、お互いの絆だぁぁっ!

 ふたりの呼吸を合わせ、握った大剣を振り抜いた。

分厚い大気の波が、ー陣通りすぎたあと、時が止まったように互いの身体が静止していた。

ぐらりとカサルリオの姿勢が崩れた。大剣の背が、ふかぶかと腹部に食い込んでいる。

お前は我が子を殺した。殺しても殺したりない男だ。だが、俺は憎しみを糧にするのはもうやめた。だから、安心しろ。峰打ちだ。

 心に去来するのは、若い頃のふたりの思い出。共に剣と拳を磨き。サンクチュアの理想を追った時の輝かしき日々。

クロッシュは、若い頃のカサルリオを見るような優しい瞳をしていた。

先ほどの女を操って……あら、いないっ!?

Q執行騎士副団長殿が連れて行きました!

こ……こうなったら、審判獣サヴラちゃんの卵をカサルリオに植え付けて……ひっ!

追い込まれたら、仲間ですら利用するの?呆れてなにも言えないよ。

……わ、私の審判獣は、直接戦うのに向いていないの……。だ、だから許してぇ……。

 膝を突いて惨めに命乞い。かまわずメルテールは、大剣をティレティに向けて振り下ろす。

大剣は真横を空振り、地面の石畳を割った。ティレティは、白目を剥いて気を失っている。

サンクチュア側のふたりは戦闘不能。つまり、インフェルナ側の勝利にゃ!

Qそんな馬鹿な。執行騎士様が負けただと?それに、ふたりで協力して戦うなど言語道断。こんなのは決着とは言えん!

やめとけ……。これ以上は、危険だ。

Qですが!

ここで終わらせた方が、カサルリオたちのためだ。わからねえのか?

俺は、有望な執行騎士を失いたくないから言ってんだぜ?

Qぐっ……。こんなこと、大教主様に知られたら、私が処罰される……。

その大教主はどこにいる?言えよ。言わねえなら、好きに探させてもらうぜ。

 クロッシュは傍聴席にいるトロスを見つめていた。今はまだ話かける事はできない――

だが、いつかサンクチュアとインフェルナのわだかまりがなくなったとき、再びトロスに会いに行く――そう心に誓った。



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 聖堂の誰も近づかない区域に調整部屋というものがある。大教主が、子飼いにしている少年たちを己の意のままにするための部屋だ。

調整の方法はさまざまある。もっとも大教主が好むのは、肉体への苦痛よりも、精神を屈服させる方法だった。

「お許しを……!大教主様あっ!」

 サンクチュアヘの反逆者――その息子であるシリスは、小さい頃から大教主の調整を受けて育った。

彼の本心はともかく、立場は大教主の忠実な犬だった。

「魔法を使う者の存在を、なぜ報告しなかった!?あ奴のせいで私は……!」

 大教主は、シリスがなにをすれば嫌がるのか、すべて知り尽くしている。

「ぐふっ……!げほっ!げほっ!」

 こうやってシリスは何度も心を壊されてきた。

「これからは、大教主様にすべてご報告いたします。決して、裏切りませんからぁ……。」

「馬鹿な配下どもが、せっかく捕らえた魔法使いに脱獄されたらしい。どのみちはじめから期待はしとらんがな。

シリス。お前の手で奴を始末しろ。ー緒に捕らえたインフェルナ人も同様にだ。

決闘裁判の結果がどうあれ、この聖都から奴らをー歩も外に出すな。いいな?」


 傷ついた身体をベッドに横たえたまま、シリスは壊れたような笑いを浮かべていた。

(今日も僕は、大教主様の犬として働く……。こんな僕の本性を知ったら、団長も他のみんなも、きっと軽蔑するだろうな。

もう、こんな役目は嫌だよ。誰でもいい……誰か助けてよ……)



 リュオンは、決闘が行われている会場から、意識を失っているイスカを連れ出していた。

安静に出来るところにイスカを横たわらせ、手早く容態を診察する。

審判獣の卵を植え付けられたというのに、血色がいい。ティレティの命令にも抵抗していた……。

普通の人間ではこうはいかない。まさか娘の身体に流れる審判獣の血が、抗体になっているのか?

 審判獣の血を引く人間などリュオンもはじめてだ。戸惑いながらも、サヴラが植え付けた卵の対処を進めることにする。

肉体が頑丈ならば、あの方法がいけるかもしれん。

 リュオンは、心臓の鎖を引いた。契約している審判獣ネメシスと同調し、その姿は、人ではないものに変容した。

これより、体内に寄生している卵を肉体から除去する。

 サヴラの卵は、視認できないほど小さいため、その存在を肉眼で捉えるのは不可能。

ゆえに、この娘の肉体に審判獣のエネルギーである福音を流し込む。

 福音とは、審判獣の活動エネルギーそのもの。

体内に大量の福音を流し込むことによって、サヴラの卵が孵化する前に燃焼させる――

「……こうすれば、サヴラの卵をあのお嬢ちゃんの身体から除去できるはずだ。なぜ知ってるのかって?

見くびるなよ。俺は執行騎士団長様だぜ?ティレティのやり口は、以前から問題だと認識していた。

万がー、ティレティが敵に回った時のことを考えて対策を練っていたわけよ。」

やはり、俺たちにはあの人が必要だ。

けほっ、けほっ。

気が付いたか?まずは、この気付け薬を飲め。

うわっ、なにこれ……凄く苦い。

当たり前のことを言うな。薬は苦いものだ。

 魔法使いの持つ磔剣に触れた時、他の記憶と共に、イスカと過ごした記憶も流れ込んできた。

体験した覚えのない記憶を信じるわけではないが……あれ以来、イスカのことが気になっていた。

執行騎士リュオン……あなたが、私を助けてくれたの?

まさか、この俺が、インフェルナ人の娘を助けるとはな。

私も、執行騎士に助けられるとは思わなかった。

ねえ、私にはイスカという名前があるの。インフェルナの娘じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。巴丿ねえ、私にはイスカという名前があるの。インフェルナの娘じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。

イスカ……。

 その名前を口にした瞬間、どこか懐かしい感じがした。

リュオンには幾度となく特別な感情を込めてその名前を呼んだ記憶があった。もうひとりの自分の記憶のため実感はないが。

魔法使いから、おおよそ話は聞いている。大教主に連れてこられたとか?

そうだった。あの男――私たちインフェルナの頭首だったあの男に、審判獣が取り憑いていたの。

影の中に引き摺り込まれてからは、覚えてないの。気づいたら、あなたが目の前にいて……。

まさか、大教主が審判獣と契約していたとは……。

マルテュスは、審判獣に身体を乗っ取られていたようにも見えたわ。途中からマルテュスではない、別の存在が話していた……。

奴の狙いは、聖皇ベテルギウスよ。エンテレケイアを覚醒させようとしているって、魔法使いさんが言っていた。

真相はどうあれ、止めに行くしかないな。

ええ、行きましょう!



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聖都中に、兵士が溢れてるぜ!?

大教主様の命を狙う悪い魔法使いが、脱獄したって聞いたわ。

あいつ、なかなか度胸があるんだな。尊敬するぜ。

 小さい手で暗い路地を指し示す。ローブをまとった黒い人影が走っていた。

こっちの路地はまだ手薄だぜ?

そこは、さっき通った道にゃ。

おっ、いいこと思いついた。この脇道を通ってぐるっとー回りしたら、兵たちに遭わずに進めるんじゃね?

それは今来た道にゃ!リュオンの言うとおり、滅茶苦茶方向音痴にゃ!

サザ。あんたまでー緒になって、なにやってるのよ?

なにって。俺は、命の恩人に頼まれたから聖都内を案内してやってるだけだぜ。

 案内していたのは、むしろこっちの方だよ、と君は毒づく。

執行騎士団長のあなたが脱獄犯を案内って……聖職者たちに知られたら、審判の対象になるわよ?

俺は魔法使いに命を助けられた。その恩、どうにかして返さにゃなんねえ。じゃないと俺の男が立たねえんだ。わかってくれ。

 Q魔法使い……と聞こえたような?こっちにいるのかもしれん!

声デカいんだよ!?

男、男ってうるさいわね。古いのよあんたは。さ、行って。ここは私たちがなんとかするわ。

すまん!


「はーい。ハ二ー。今夜の君の美しさは、まるで魔法にかけられたようだぜ?」

「あ~ら、嬉しい。美しいのはいつもどおりだけどどこかの魔法使いが、私に魅惑の魔法をかけたのかもしれないわね。」

「こ……これは、執行騎士のラーシャ様。怪しい者が、こちらを通りませんでしたか?」

「どうやら無粋な蚊が紛れ込んでるようだぜ、ハ二ー?それにしても、君は美しいなあ。」

「あなたこそ。今日はいつもより、体表の湿度が高いようね?

アハハハハハハハッ……。」

「オホホホホホホホッ……。」

「お、お楽しみのところ失礼しました!」


……なにがハ二ーよ、調子に乗るんじゃないわよ!

ぐへっ。

急いでサザたちを追いかけるわよ。あの人、ほっといたらなにしでかすか、わからないもの。

 聖都を進む君たちの足元を足止めするように、鎖の先についた小さな剣が突き刺さった。この武器を扱うのはもちちろん――

どこへ行くんですか魔法使いさん?

こって決まってるにゃ。大教主のところにゃ。

 あいつの目的は、聖皇を殺すこと。エンテレケイアを覚醒させないためにもなんとしても止めたいと君は言う。

残念ながら、それはできません。あなたたちを足止めするように命令されてますので。

 いつもは、気配を感じさせないシリスが、珍しく殺気を剥き出しにして向かってくる。

どうやら大教主の犬は、シリスだったようだ。お前、そんな生き方で楽しいのかよ?

反逆者の息子が生きていくには、大教主様の後ろ盾が必要だったんです。

お前の事情は知ってるつもりだ。けどよ、ー言も相談がないのは、水くさいじゃねえか。

監視対象とあまり親しくなるなと命令されてました。いつか殺す予定の相手と仲よくなるのは無意味でしょ?

……犬でもなんでも好きに呼べばいいですよ。犬は、犬なりの戦いをしてみせますから。

 君は、大教主の正体を知っているのかと訊ねた。

正体なんてどうだっていいんだよ!俺たちは、執行騎士である以上、戒律に従うしかないんだ!

悪かったなシリス。もっと早い段階で、お前の本性に気づいていれば助けてやれたものを……。

 サザの表情から緩みが消えた。2本の刃を握った彼に諦めとある種の覚悟が宿る。

魔法使い。間違うなよ?お前の目的は、大教主を止めることだ。シリスを救うことじゃねえ。

 わかっているが、簡単にシリスを殺す決意を固められるものでもない。

未来から来た魔法使い。まずあんたから死んでもらう。

あんたがいた未来の俺は、こんな手を使ったかなぁっ!?


 ***


 針のように細い刃を先端に付けた執行器具で、シリスはまず自分の足元を穿った。

地中に潜った〈執刀の針剣〉は、君の足の下を通って背後から出現する。

うしろにゃ!

 間ー髪で避けたが、ウィズの警告がなければ、反応が遅れていたかもしれない。

よく避けた、と褒めてあげましょう。でも、次はどうですか?

 君は、シリスに戦いをやめるように忠告する。大教主は、もはや人ではない。あんなものの命令を守る必要はない。

そんなことわかってますよ。あの男は、猛毒を持つ蛇だ。僕はあいつの毒を食らい続けてきた。もう手遅れなんですよ!

 鎖がまさに蛇のように地上のたうつ。鎖の先端についた針剣は、あくまでも君を狙って執拗に追いかけてくる。

鎖を狙っても駄目にゃ!シリス本体を倒さないことには、終わらないにゃ!

あなたが現れなければ、団長も副団長も、インフェルナと和平なんて言い出さなかった。

あと少しで、星蝕の夜だったのに……。大教主様の計画が遂行されるはずだった……。でも、あなたの登場ですべて台無しです。

奴の野望が成就した世界を知ってるにゃ。だから、台無しにしていいんだにゃ!

 もうー度よく考えて欲しい。本当に大事なものは、なんなのか。君にも執行騎士の誇りはあるはずだ。

……いまさら、くだらない。騎士の誇りだの衿持だのは、とっくに踏みにじられてボロボロです。

僕を執行騎士にした癖に……騎士の誇りなんて真っ先に奪われましたよ。言葉にしがたい、数々の虐待で……。

 横からサザが、刀を突き入れる。シリスの鎖は、刃に巻き付いてその勢いを止めた。

なぜ抵抗しなかった?あのきたねえオヤジにいたぷられて、喜んでいたわけでもあるまい?

……なぜでしょう?僕は、あの人と死んだ父親とを重ね合わせていたのかもしれません。

自分を誤魔化しているだけにゃ!

それでも!僕は、もうあの人に付いていくしかいないんだ……。

あの人は、聖皇の代わりにエンテレケイアと契約すると約束してくれました。現状の腐ったサンクチュアの体制を変革できればいいと。

 騙されている。マルテュスは、そんな人間側の都合なんて意にも介さない。

審判獣たちを目覚めさせたいという意思。ただそれのみで動いている。だから目を覚ませ。

魔法使いさん、僕とのおしゃべりで油断しましたね?

 手の甲の辺りに微かな痛みが走った。シリスの執行器具――〈執刀の針剣〉がいつの間にか君の手に傷を付けていた。

刃には全身を麻庫させる毒が塗られている。蛇の毒のように獲物から身体能力を奪って時間をかけて殺すための毒だ。

なんてことない、かすり傷にゃ。すぐに治療すれば毒も消えるにゃ。

魔法使い、俺が代わろう。聖都内で執行騎士同士が衝突するのは、いささかまずいが、そうも言ってらんねえ。

 ……断る。と君は言った。

案外強情なんだな?じゃあ、ふたりで行くか?

 君は、破った布で手首を堅く縛り、毒が全身に回らないように処置してからカードを抜いた。

バカですか、あなたは!?さっきの毒は、審判獣レヴァイアタンの毒だ。簡単にどうにかできる代物じゃないんだよ!

 幻惑するように四方に飛ぶ鎖。針剣が、あらゆる場所を飛び回り、君に刺突の軌道を読ませない。

頭上から来る――君は、針剣の突きを避けながら魔法を放った。

――戻れ!

 鎖がU字を描く。君の背後から針剣が迫る。避けられない――が、君は、なんとそれを素手で受け止めた。

毒を塗られた鋭い剣先が、掌を貫いていた。だが君は、ものともしない。空いた手でシリスを思いっきりぶん殴った。

こ……こんなパンチー発で勝負を付けたつもりかよ!?

 君は、シリスの胸ぐらをつかんで叫んだ。目を覚ませ――お前は執行騎士だろ!?

1番守らなきゃいけないものはなんだ?サンクチュアの人々であり、この聖都だ。間違っても、大教主の命令なんかじゃない。

やるせなさ、悲しさと共に君の口ら言葉があふれ出た。

私たちがいた未来のシリスは、立派な執行騎士だったにゃ。

お得意の未来のホラ話ですか?そんなの……聞く気はありませんね。

 聞きたくなくても聞いて欲しい……と、君は言葉を続ける。

ギガント・マキアが起きて審判獣が大陸にあふれ出た。その時シリスは、最後の執行騎士団長だった。

サザは最初からいない。リュオンもサンクチュアの民を守るために死んだ。唯ー志を受け継いだのが、シリスだった。

僕が……?執行騎士団長?4愈池丿シリスも、私たちとー緒に戦ったんだにゃ。

 最後の執行騎士団長として。リュオンが残した磔剣を操って。

荒れ狂う審判獣の大群を相手に、最後まで騎士らしく地上の人々を守って死んだ。

そんなの嘘ですよ。

 君はもうー度シリスの襟元をつかみあげる。

誰がなんと言おうとシリスは、最後の執行騎士団長だったにゃ。ー緒に戦った私たちが言うんだから、間違いないにゃ。

 サンクチュアもインフェルナもなくなった大陸で最後まで希望を捨てずに戦った。

あの時のシリスには、間違いなく死んでいった執行騎士たちの魂が受け継がれていた。

そして、今の君にも受け継がれているはずにゃ。

あったとしても……そんなもの、とっくの昔に錆び付いちゃってますよ。

諦めんな。俺がー緒に取り戻してやるよ。

いまさら、団長になにができるんですか?

俺にできることは、シリスを呪縛から解き放ってやることだけだ。そのために大教主を斬る。

 2本の刃を抜く。審判獣アスラが、不明瞭な幻像となってサザの背後に浮かび上がった。

俺はサンクチュアに逆らうんじゃねえぞ?可愛い部下を救うために剣を抜くんだ。わかったな?

あんたたちにあの男は、殺せない……。それでもやるのなら、好きにしてください。僕はもう疲れました。

 もう戦う意思はないとぱかりに膝を突く。

この先に大教主がいる。行こう――と、君は傷ついた手を庇いながら、先へ進む。




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傷は大丈夫にゃ?

 シリスの執行器具から受けた毒は、完全にではないが、あらかた魔法で除去した。

少しめまいはするが、甘えたことを言っていられる状況ではない。

君は、真っ直ぐに伸びる影の先に視線を送る。そこには、あの男が立っていた。

A聖皇を守りに来たのかね?

 その姿からは、マルテュスの面影は感じなかった。

A聖皇ベテルギウスは、聖皇とは名ばかり。その地位にあぐらをかき、なにもせずに人の善意をむさぽり食っている悪魔だよ。

 すでに影と同ー化している。月星の恵みを与えられない場所は、すべてあの男の領域に思えた。

お前の浅はかな野望なんかのためにこの世界を犠牲にはさせないにゃ。

 聖皇ベテルギウスが死んで、エンテレケイアが動き出した混乱の最中、大教主は崩れてきた瓦篠に押しつぶされて死んだ。

審判獣アンラ・マユは、エンテレケイアが動き出しさえすれば、もう用はないとぱかりにマルテュスを捨てたのだ。

私たちは、お前を止めるために遥々時間を遡ってここに来たにゃ!

A間を遡る……?まさか、始祖審判獣ニュクスの仕業ではあるまい?

果たして、いかなる存在か……。ニュクスと敵対するもの?いや、そのようなものがこの世界にいるとは思えん。

 影がざわめいている。独り言を呟いている存在は、元の大教主ではなく、彼を乗っ取っている審判獣だと君は感じた。

Aしかし、何者が介入しようと、もう止められん。すでにギガント・マキアヘの扉は開いているのだ!

どういう理屈だろうと、あんたのその姿は、サンクチュアの大教主には、とても見えねえ。

この両刀を振りかざすー切の躊躇いを吹き飛ばしてくれて感謝するぜ!

 意気衝天。地面を蹴り上げ、2本の刃をかざしながら、大教主へと突き進む。

シリスのために――あ、あら?

 近づいた時には、大教主の姿はなかった。まるで、闇に溶け込むように姿を消した。

気をつけるにゃ。きっと影の中に姿を隠したにゃ。

 影と影の間を自在に行き来できる。そして、イスカのように別の存在を引き摺りこむこともできる。

厄介な相手だな。ますます、斬ってみたくなったぜ。

 ー閃、刃が振り抜かれた。

影が、闇から手を伸ばそうとしていた所だった。白銀の月光を宿した刃は、審判獣アンラ・マユの魔手を断っていた。

姿は見えねえが、居場所ぐらいわかるぜ。てめえで発するおぞましい気配はさすがに消せねえらしい。

A浅はかな……。それで私を捉えたつもりか?

影は、闇に潜むからこそ影なのだ。

右にゃ!

 雲が動き、サザの右半身が影に覆われた。その瞬間、間に半身をわしづかみにされたような感触があった。

サザは、とっさに刃で闇を切り裂いた。しかし、それはただの影。刃は、闇の間を素通りする。

くっ……こいつは!?

 君は右手をかざして魔法を放とうと試みる。その直後、君にも黒い闇がまとわりついてきた。

明かりのある方に逃げるにゃ!

いや、逃げるのはめんどくせえ。どうせなら、このまま影に引き摺り込まれた先で奴をぶった斬る!

 2本の刃は君を捕まえた影――アンラ・マユを斬った。それが最後の置き土産とばかりに、サザは影の中に引き摺り込まれた。

そんな……。

 君は、咄嵯に雷の魔法を放つ。閃光が走り、闇をかき消し、光が満ちた――

けれども、サザの姿はどこにも見当たらない。

本当に、キミを救うために犠牲になったのかにゃ!嘘だと言ってくれにゃ!

A人間特有の感傷という奴か。無駄な抵抗をするから傷つくのだ。大人しく審判獣の餌になっておればいいものを。

 人を舐めるなと君は即座に言い返す。

A古の英雄たちが、エンテレケイアを封じるまで地上は審判獣の楽園だった。

被支配者である人間が無駄な抵抗を試み、地上で暮らす権利を手に入れたものの……。

その後は、サンクチュアとインフェルナに分かれ人間同士で殺し合っている。救いがたい愚か者たちだ。

私たちはその愚かな戦いを終わらせるためにここにいるにゃ。

 この場にいるのが、たとえ誰かが仕組んだことであっても、君は正しいと思うことをするだけだ。

ありったけの雷を魔法で生み出す。アンラ・マユが、どこにも隠れる場所がなくなるほど激しく照らし出す。

A凄まじい輝きだ。果たして、その力いつまで続くかな?

 魔力が尽きる前にアンラ・マユを追い詰めてみせる。

Aどこを狙っている?私はここにいるぞ!?

 嘲りが君の耳柔を穿つ。

閃光により闇は大方晴れたが、すべてではない。魔力が尽きる前に必ず奴を探し出す。

キミ、そろそろ魔力が……。

 視界がかすむ。あと少し……あと少しで、奴を追い詰められる。

「苦戦しているのか?」

 この声――風が逆巻く。ふたりは、同時に君の目の前に降り立った。

インフェルナを間違った道に進ませていた頭首マルテュスは、義父さんをだまし、私たちをだまし続けていた。

頭首マルテュス――戦争で亡くなった大勢の人に代わって、私があなたを裁きます!

 イスカは、湧き立つ憤怒を闘志に変えて纏う。

Aティレティの審判獣では、お前を傀儡にすることはできなかったか!?

この身に流れる審判獣の血よ!審判獣イスカの加護を!

 戦争で戦死した者たちの嘆きと哀切――煉獄に堕とされた者たちの苦しみを背負う審判獣イスカが、出現。

審判獣ネメシス――汝、契約に従い、罪人を処断する力を我に!

 大教主を裁くための罪状。それは己が世の中を支配するという身勝手な野望。それは唾棄すべき強慾と傲慢の罪。

闇よ――

消え失せろ――

 審判獣となったふたりが放つのは、放射状に広がる裁きの光。

闇に潜むしかない悪を遠慮なく爽り出す。

Aおのれえええええっ!


 ***


 イスカとリュオン。ふたりが放つ裁きの光は、大教主――審判獣アンラ・マユを闇から引き摺りだした。

A始祖審判獣ニュクスの命令を受けたこの私が……人間ごときに追い込まれるとは……。

 月明かりで生じた影が、瀕死のアンラ・マユに救いの手を差し伸べている。

Aだが、この肉体をいくら刻もうと、その程度の輝きでは、影である私を殺すことはできん!

私は、この世界にはじめて始祖審判獣ニュクスが来臨した時に誕生した審判獣。

いわば、始祖審判獣の半身も同然――人ごときにやられてたまるか!

始祖審判獣ニュクスとは――どんな審判獣にゃ?

Aすべての審判獣は、彼女より産み出された。生命の母体である。

この世界は、ニュクスと審判獣のもの。人間ごときが、介入する余地などない!

 裂帛の気合いと同時に襲い来る。影が巨大な手を広げて君を包み込まんとする。

させるか!真理の輝きよ、この世の闇を断て――

 ネメシスは君を庇い、白銀の輝光を放つ。それは真理の光。刃のように煌めいてアンラ・マユを両断する。

インフェルナの人々を戦場に向かわせて殺した罪をここで償ってもらいます!

 イスカの蠍尾が、アンラ・マユを取り巻く影を穿つ。

Aぐっ――ぎゃあああああっ!

断末魔の悲鳴にしては、無粋だな。時間が惜しい。そろそろ終わりにしよう。

インフェルナのみんなの気持をこのー撃に込める!

とどめにゃ!

 リュオンが放つのは聖なる裁きの雷。イスカが放つのは、煉獄の怒りの炎。ど’二リュオンが放つのは聖なる裁きの雷。イスカが放つのは、煉獄の怒りの炎。

インフェルナを惑わし、サンクチュアで虎視耽々と目的遂行に向かっていた大教主――アンラ・マユ。

その実体ともいえる影が、君とふたりの審判獣によって消滅させられようとしている。

A私を倒したところで無駄だ。エンテレケイアの覚醒は、すでにはじまっている。

ギガント・マキアを起こすための手は、すでに打たれている!

嘘にゃ!

そのニユクスとやらはどこにいる?言え!

Aはじめてこの世界に降り立った地――原初の地にいまもいるはず。それ以上は、お前の眼で確かめろ。

 影は見えないほどの小さな闇となり――君たちの前から消え失せた。

これで終わりとは思えん。聖皇様のところへ向かうぞ。



シリスは、力なくへたり込んでいた。両目のまぶたは、泣きはらしたように赤くなっている。

いつも余裕たっぷりのシリス君が、こんなところでへたり込んでるなんて珍しいわね。

ラーシャさんは、どうして執行騎士になったんですか?

突然なんだよ?

理由なんてないわよ。父親が、サンクチュアの聖職者だったから、見栄と名誉欲で私を騎士候補生として差し出したの。

私に適正なんてなかったわ。最終試験でサザに助けられなきゃ、きっと今ごろ死んでた……昔、話したわよね?

そうでしたね。騎士になる理由なんてひとつじゃない。ひとそれぞれですよね。

 シリスには、裏切り者の息子という負い目があった。

大教主に取り入り、彼を後ろ盾にして執行騎士にまでなった。すべて、サンクチュアで生きていくためだった。

本当に騎士になりたかったのかすらも、いまではわからない。

魔法使いさんが不思議なことを言うんです。未来では、僕は最後の執行騎士団長だったって。

人々を守るためにリュオンさんの磔剣を受け継ぎ、立派に戦ったって……。

聞いた時は、なんて変なこと言う人なんだって思いました。だけど――

 熱い感情がこぼれ落ちそうになり、咄嵯に顔を伏せる。

僕は……いままで、なにをしてきたんだろう?どこで道を間違ったんだろう……?

人間迷うことなんていくらでもある。けど、これまでもこの先も、シリスはずっと執行騎士だ。な?

そうよ。だから、こんなところで泣いてる場合じゃないんじゃない?

泣いてなんかいないですよ。ただ、これまでの自分とお別れしたい気分だったんです。

 砂埃を払って立ち上がる。

行きます。行って、団長たちを助けてきます。



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story



 聖皇のいる大聖殿に向かう途中――君たちは、人が倒れているのを発見する。

ううっ……頭痛え……。

 アンラ・マユの消滅により、影に飲み込まれていたサザが戻ってきた。どうやら怪我ひとつなく、無事なようだ。

影の中から奴を倒そうと思ったんだが、なにもできなかった。結局また、リュオンに助けられたわけか。

ご無事でなにより。

部下に助けられるとは……。情けねえ団長だぜ。

 和みつつある雰囲気の中、大聖殿から、突如大きな悲鳴が聞こえた。

まさか、聖皇様が――

 エンテレケイアの覚醒は、すでにはじまっていると奴は言っていた。

抑えようもない不安を飲み込んで、君たちは聖皇のところへ急いだ。


 聖皇とおぼしき老人が、奥の皇座に鎮座している。まだ生きていると知り、君は、ほっと息を吐く。

だが、床の上には、聖皇の護衛らしき聖堂兵の死体が転がっていた。悲鳴をあげたのは、彼らだった。

この聖都内で聖皇の命を狙う奴はひとり――

 か細くなった影が、聖皇の傍で、不気味に伸びている。

審判獣アンラ・マユ――まだ生きていたの?

行けっ、磔剣!

 君とリュオン。同時に磔剣を影に向けて投げた。十字の剣が空中で交錯しながら、アンラ・マユを切り刻む。

Aそのような足掻きなど意味はない!

 磔剣は、アンラ・マユを貫いた。しかし、刃は影同然の肉体に突き刺さりはしたが、それが深い傷とはならなかった。

Aギガント・マキアを起こし、この地上を人の手より取り戻す!

 影が魔手を振り上げ凶行に及ばんとする。

間に合わない!聖皇を守れなければ、なんのために時間を遡って、すべてをやり直したのかわからない。

君は祈る思いで魔法を唱えた。

Aいまさら魔法など無意味よ!!諦めて人類の終幕を迎えられることを素直に喜ぶがいい!

 ここまでか――

憐れな人だ……。審判獣を利用していたつもりが、いつの間にか精神ごと乗っ取られるなんて。

その顔。迷いは振りほどけたようだな?

あとは、僕に任せてもらっていいですか?

シリスの好きにしろ。遠慮は無用だ。

 ありがとうございますと小さく呟いてシリスは、右腕を振るって鎖を波打たせた。先端の刺剣が、音もなく標的に向かって突き進んだ。

みずからの野望と共に死んでいけるんですから、あなたには、ふさわしい最後かも知れません。

 シリスの放った鎖が光を放ち影を包み込む。影を閉じ込める光の檻が誕生する。

光に触れると影は消滅する。アンラ・マユの凶手は、聖皇の身体を穿つ寸前で止まるしかなかった。

シリス――私の可愛い騎士よ。この不埓者どもを殺せ!私への忠節を見せてみろ!

嫌だよ。

A口答えとは……また調整部屋に戻りたいかね?それとも、この場でお前を調整して欲しいのか!

……うるさい。

Aお前は頭のいい子だ。審判獣に逆らって人がこの大地で生きて行けると思うかね?できないだろ、だったら答えはひとつだ。

うるさいんだよ!いい加減、黙れよ!

人々がこの地上で生きていく――そのために執行騎士がいるんだ!

 駆け寄って、アンラ・マユが取り憑いている大教主の肉体に一発、拳を叩き込んだ。

これまでに受けたあらゆる仕打ち。抑えつけられてきた苦衷。全てを晴らすー撃だった。

Aがはっ……。

あんなに恐ろしかった大教主の中身が、こんな不気味な化け物だったなんて……。

僕は、執行騎士だからサンクチュアの戒律に従っていただけです。こんな化け物に従う理由なんてありません。

だから……目障りだ。僕の前から消えろよ!

Aもっと賢い子だと思っていたよ……シリス!

すべて終わりにします!あなたの野望も。あなたとの関係も。――レヴァイアタン!

 契約している審判獣レヴァイアタンに姿を変える。鋭牙が、アンラ・マユごと大教主の肉体を喰らい、破壊し尽くす。

審判獣アンラ・マユは、レヴァイアタンに飲み込まれ、影も形もなく、この世から消え失せた。

大教主――マルテュスが身につけていた僧衣の切れ端が、風に乗って飛んでいく。

大教主なんて最初からいなかった……。すべて、あの審判獣に見せられていた悪い夢だったんです。

そうでも思わないとやるせないですよ。あーあ、父と兄の墓になんて報告しよう……。

 シリスの中でひとつ区切りがついたのだろう。姿は恐ろしい審判獣のままだが、口調はどことなく爽やかだった。

俺が斬ってやりたかったんだが……結局、シリスの手で決着を付けたか。

わざわざ団長のお手を煩わせる必要は、なかったですね。

遠回しに、俺を無能扱いしてねえか?俺でも、傷つくことあるんだぜ。

 君たちは、聖皇ベテルギウスに近づいた。

皇座に座った老人は、先ほどから微動だにしない。目の前で傅いたサザたちに視線を送ることもない。

その人……。息をしていないわ。

まさか……。

 リュオンが聖皇の肩に触れた瞬間、人形のように倒れ、それっきり動かなかった。

w……時間の流れに干渉し、歴史を塗り替えようとするものがいる。

 王座の背後に潜んでいたものがいる。紫電を纏いながら、聖皇の殺害者は姿を現わす。

西方執行騎士ケラヴノス。なぜ、お前がここに!?

ニュクスは目覚め、私の審判獣アウラが、彼女の命令を受け取った。

そこにいる魔法使いが歪めようとしている時間の流れを正しきものにするため、私は、未来の記憶を受け継いだ。

まさか、お前も……。

私は、ニュクスの後継者――審判獣アウラ。





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