【白猫】Extend Horizon Story5
目次
story25 弱者の不自由
……はぁ、はぁ……!シロー、そっちは!?
どこにも。
……息が切れておらんな?
ー応、セーブして走ったから。
さっそく活かしおったか。
おねえちゃんたち。
へ……?
おかあさんが、ちょっときてって。
***
……がはぁっ……!
きにせず、たたかってください。
はやく。ふあんなんです。
……アホばっか…………抜かしおってぇ……!
ぬぁあああああっ……!
(ええか……もう、なんでも……)
(ハナっから……やる気があったわけでもなし……」
(生き延びたとこで……なにがあるわけでもなし……)
(希望があるわけでもなし……)
(……フライドエッグじゃ)
(いつかは黄身を、漬されるんじゃ……)
……?
なにをされるがままにしてるの!?
まだ戦えるんでしょうっ!?
セレナか……?
……ワシなんぞに――
構われたくなかった?それはお生憎様。あなたが弱いせいよ。
んじゃとお?
救われる側に自由はないのよ。
…………
だから、託されることにも、拒否権はない……
……でも……だけど……!
「言っただろう、自分で考えろ。努力する、力を鍛える、それだけじゃ意味がねえ。
考えて、見つけろ。お前自身の答えを。」
自分自身で考えれば!託されたものに、答えを見つけられるから!
――あたしは仲間を見捨てない!絶対に助け出してみせる!
仲間の命はあたしのものだ!敵がいるなら、それを滅ぼす!
そして、あたしもー緒に!みんなの元へ帰る!
…………
言うとったっけのぅ……そんなようなこと……
立ち上がらないなら、そこで見ていなさい!
ちっ……このワシとしたことが、ヤキがまわったもんじゃのう……
ケンセイならいざしらず、その舎弟なんぞに、発破をかけられるとは……
舎弟じゃないわ。……後継者よ。
そうか……そうじゃったのう。
――ンだりゃああああ!!!
やれるじゃない。
先に言うとくぞ。こいつら、中身はガキじゃ。
っ!?
じゃが、気にやむな。おどれは、不甲斐ないワシを助けにきただけじゃ。
こいつらは……他に、救う手はなさそうじゃ……
痛みはワシが引き受けちゃる。
……はいそうですか、なんて言えないわね。
あたしも半分引き受けた。
……ええんか?
あの人が目指した『道』は、こんなものじゃないもの。
……上等じゃ。……ガキども……
許せ、なんちゅうムシのええことは言わん。ただ――
もう――眠れ――
***
……終わったわね。
これで全てじゃありませんよ。
<種>はすでに、色々な島に撒かれています。
……久しいのう、サニオ。
光栄ですね、イツァークさん。
数回しか会ったことのない、僕の顔を覚えててくれるなんて♪
story26 <種>
……<種>……?
効果はてきめん。我ながら驚いています。
イツァークさんほどの剛の者にも、伝染するとは……
いや、あなたは単純馬鹿かな?目安にはならないかもね。フフフ……
……ガキどもをもてあそんで……
なんのつもりじゃあ!?アアン!?
責任を取ってるつもりです。
なにがじゃダボがあ!ワシはアホなんじゃ!わかりやすく言えやボケェ!
やれやれ。いいでしょう。何かの練習とでも思って、言葉を選んでみましょう。
未来に希望はありません。
短絡的ね。
おや、参った。そちらのお嬢さんも思ったよりお馬鹿さんか……
馬鹿に説明できないならあんたも馬鹿じゃないの?
人はいつか死にますね?
…………
世界も同じです。いつかは滅びます。それは決まっているのです。
終わりを認識するからこそ、今日何するかを決められる。
イツァークさん。戦で散るなら本望でしょう?
おう、そうじゃあ。
そのために今日も戦う。あなたはその人生を選んだ。
それがなんじゃい?
あなたが戦い続ければ、平和な世界になると思いますか?
ンな簡単なこっちゃなかろうが。アホなワシでもそれくらいはわかっとるわい!
言いましょうソレ、はっきりと。
……なんじゃ。
争いはなくなりません。人はいずれ死にます。世界は滅びます。
未来には不安しかない。
子供たちを騙すのはやめてください。
騙しとるのはおどれじゃろうがあ!
僕は真実を言っています。
生きるのは辛い。将来は不安。希望なんてニンジンは、やがて偽物だとわかる。
やわらげる方法はーつだけ。みんなで不安になればいい。
隣の人も、同じように不安なんだと知ればいい。誰もが不安を抱いたまま、終わりに向かって生きている。
その上で、今日がある。どうですか?わかります?
……勝手な決めつけね。
だけど、あなたたちのように。
アテル・ラナのように。ふざけた理想論で、善人を騙すよりはよほどいい。
そこがわからんのじゃ!
絶対平和にならないのに平和のために戦うって、……ナニソレ?
ぬっ……
実現もしない夢や希望で人を釣る……僕は、その行為こそが。
最低の<悪>だと結論づけました。
だから<種>を撒くんです。不安しかないこの現実を、実感させるため。
…………
理屈はわかったわ。だけど、納得はできない。
納得は感情の副産物です。それぞれで受け取り方が違うのも当然でしょうね。
人には感情もある。そこを論破できないなら、あんたの理論は不完全よ!
……なるほど。そういう考えもあるのか。
あなたの思想はよくわかったわ。
改善の余地の全くない、闇より暗い暴論だってことがね!
そうじゃあああああ!!!なんのかんの言いながらも、やっとることは腐れ外道の所業じゃろうがあ!
あんな不憫なガキどもをこれ以上増やすことは、このワシが許さねえ!
ここでタマ取っちゃるわ!
……サルどもめ。
……っ……!?
まさかっ……!?
それならお望み通り、人間の持つ<感情>とやらに訴えかけてみるとしましょう。
<禁忌>を発展させた、屍術とでも呼びますかね。
……ォ……ォ……
行け。
ォォォォォオオオ……!
卑怯モンがぁああ!!!
僕は術を使っただけ。受け取り方は自由です。
理屈的には、惨殺しても何も問題はありません。
……そうね。
こんなものは、見た目だけっ……!
あ、ご本人のソウルも混ぜこんでありますよ?
!!
嘘つけやぁ!どっから持ってきたっちゅうんじゃ!
そう思うのも自由です。
ォォォォォオオオオオ!!!
story27 まっぷたつ
――――――
「何も出来ず死ぬことが怖い。いいんだよ、それで。俺だって怖いさ。
でもな、周りを見てみろ。期待されてんだ。託されてるんだ。お前ならできるだろってな。
……忘れるな、セレナ。
でけえこと言ったら怖くて当たり前なんだよ。だがそれでも自分で決めた道を突き進む。道がねえなら切り開く。
……恐怖も不安も振り払いたいなら、前に進むしかねえんだ。」
――ダメだ――
――できない――
覚悟していた、はずなのに。
この道を、切り開いて……
……切り開いて、何になるの?
末来は――まっくら。
何も――見えない。
――もう――前になんて――
「断ち切るッ!!」
セレナ!目を開けて!
あなたに刺さったトゲは、深い深いところにあって、ずっと隠れていたけど……
いま、見えた!
セレナ!断ち切ったわよ!私の目に映った、あなたにまとわりついていたしがらみを!
あとはあなたが――信じて!
私を――自分を――!!!
――メア――!
――やああああアアッ!!!
……っはあっ……!
セレナ……
……メア……ありがとう……
……ごめんなさい。したくないことをやらせて……
ううん……いいの……
ずっと……逃げてた……無意識に……目を背けてた……
だけど……本当は…………向き合うべきだった……
今度こそ……ようやく……あたし……
――本当のー歩を、踏み出せた――!
うん……がんばったね……!
…………
さて……
よぉも好き放題、やってくれたのぉおお!!!???
セレナの涙は高ぅつくでぇえええ!!!???
……イツァーク……
達成感か。
馬鹿馬鹿しい。
んじゃとお!?
傷つく。乗り越える。満足する。
それを否定はしない。人生はそれの繰り返しだ。
……でも大袈裟すぎる不必要だッ!
僕の信念は前以上に固まった!
くだらない!くだらないくだらないくだらない!
問題の根本は解決してない!
未来の不安は消えない!むしろ!
瞬間の達成感が!目を曇らせているッ!
いいえ、逆よ。小さな幸せがあるからこそ――
――世界は輝いて見えるの――!
――ぁぁぁああああ……!!!
消えなさい。
あなたあなたの残した痛みも――――引き受けるから。
……じゃのう。セレナよ……
……なに?
謝らねばならんようじゃ。おどれは――
まっこと、ケンセイが命を懸けるだけの価値がある、逸材じゃった。
友として、ワシも……ハナが高いわい。がっはっはっは……!
……イツァーク……
待って!まだ息が!
な、なんじゃあ!?
まさか、この地下ごと自爆する気!?
もう、手遅れ、さ……
<サニオだった……死体は、どさりと倒れた……>
どこまで腐っちょるんじゃ……!
まだ仲間が大勢、残っとるじゃろがぁあ!!!
……急ぎましょう!
見殺しにする言うんか!?
背負うためよッ!!!
!!
あたしたちがいなくなったら、誰がそれをやるのっ!?
セレナ……!
……くぅぅぅぅ……!
……ぉぉぉぉおおおおおおお!!!忘れん!ワシは、決して忘れんからなぁああ!!!
やっとみつけたあ!
みんな!
セダンもいるわよ!
全員、セダンの背に乗れ!
いける!?
いくしかなかろうが!なに、ワシとー緒なら死にゃあせん!
生き延びグセがついとるからのう!
脱出じゃあ!!!
story28 ミッションの結末
あ~~~っ……!
……っぶなかったぁ~……!
だから深追いは厳禁って釘さされてたじゃない!
だって……
だってもヘチマも!
トマトもカカシも!クロカもシローも!
クロカとシローは!?
(流れ……!?)
きっと無事じゃろ。
根拠は!?
……あ、もしかして!あの二人にも、生き延びグセが!?
ビギナーズラックじゃ。
ズコーッ!!!
キャトラ、危ないよ……!背中の上でずっこけるのは……!
……ごめんしたわね。アタシとしたことが、取り乱したわ……
ねえ、ミッションは成功したの?
ー応、ね。ターゲットは始末できたから。
でも……これで終わりとは、とても思えないわ。
なんじゃと?
あれが戦力の全てなら、広域戦は不可能よ。
そうね。きっとまだ、他のところにも……
……クソがあっ……!
いったい……なにがあったの……?
……<闇>を見たわ。
人が……全ての人間が、持ち得てしまうかもしれない、暗い暗い、闇を……
…………
詳しくは戻ってから。
ウン……わかったわ。
オズマとか、他のみんなも、無事だといいけど……
大丈夫よ、あの人たちなら。
簡単に膝をつくような……諦めのいい大人たちじゃあないんだから……
最終話 はるか地の底で
<――ときは少しさかのぼり――>
……地下か……
……ずいぶん深いな……
…………
(……クロカ)
(わかってる。ガブリとな)
(オッケ)
…………
どこまで行くの?
もうすぐつくよ。
…………
(なあ……こいつ、なんかヘンじゃね?)
(モラトリアムか?)
(茶化す余裕ある?)
(全然ない。まるで……
中身は子供のまま、無理やり大人の体を与えられてるみたいなカンジだ)
(……やばいぞ)
(ナーペルを思い出した)
(ウチも。つまり……
あいつにさらわれた子供ってことなんじゃ……)
(……エグイ。
子供の頃よく遊んだ、キューちゃん、覚えてる?)
(覚えてるよ。みんなは家出だって言ってたけど……)
(…………)
(…………)
<クロカとシロの二人は、長い長い階段を下っていく……
<どのくらいの時が経ったのか。地の底までも到達してしまいそうだと思った頃――>
……!?
……なんだここ……
つれてきたよおかあさん。
……いい子ね。行っていいわよ。
はーい。
イツァークさんは……?
イツァークさん……彼も来ているのね。
……俺たちに何の用スか?
知ってほしかったの。
この地下空洞は<エヌマの間>。
……わかりよく言ってもらっていい?
まず、あんたは悪者?
正義や悪なんて存在しない。あるのは立場と思想の違いだけ。
……あんたがサニオか?
いいえ。
呼ばれて急いでぎゃはははは!なんちゅう深ぇ階段だよ!もう足がスティックに……?
……???
久しぶりですね。
……お前……は……!?