【白猫】Runaway Horizon Story1
目次
登場人物
story1 座学の授業
――遥かなる昔。
偉大なる二人の英雄が、ーつの組織を作った。
――繁栄を極めた古代の文明が崩壊を迎えたとき――
人々は知った。この世界は、繊細なバランスの上に成り立っているのだということを。
その傾きを、乱してはならない。
何者かの突出を許せば、人の世も乱れる。
人の世界の均衡を保つこと。それが、英雄たちの願い。
だが、組織の働きを、外の島々に知られては不都合が生じる。
そう考えた先人たちは、長い歴史の中で、雲海に隠されたこの島に本拠地を移し――
介入組織――アテル・ラナを名乗るようになった。
以来、長年に渡り……人知れず、人間社会の均衡を保ち続ける役割を担っている。
……あなた方二人は、古の英雄の血を最も濃く受け継ぐー族の子。
いずれこの組織を、この島を。背負って立たねばならぬ立場。
よって、12の齢を重ねた今、本格的に、長となるべく教育が始められるのだ。
…………
……うくくくく……
……お二人とも、ちゃんと聞かないと……!
ピラウが……!
…………
ささっ!
<!!!>
おわわわわあっ!?
誰が寝てよいと?
睡眠に許可っているのか……
当然だ。
……あ!肩こり治った!
そんなトシじゃないだろ。
<!!!>
うひょー!
ちっ。
ぴ、ピラウ……あんまりやると机や椅子が壊れちゃう……
ちょいちょい。ご主人様よりそっちの心配かーい。
二人とも。主人なら少しは主人らしく振舞え。
いかに我らが従者として仕えるアンドロイドといえど、限度がある。
そんなこと言ったって、そうプログラムされてるんだろー。ぶー。
コードを書き換えてもらう。地獄の教育マシーンの誕生だ。
できんの?
望めば……アンドロイドにも、職業選択の自由はありますから……
クロカ、ここはこらえるところだぜ。
たしかに。藪をつついて蛇は嫌いだ。嫌いな物増えた。
……はぁ……
ペルマナ、あとは任せた。私は別件がある。
あっ……行っちゃった……
ニコイチのアンドロイドなのに、兄の方が多忙なのな。
言わないでくださいよ……私はもにゃもにゃしちゃうから、会議とかに向かないんです……
でも、向いてることもあります。
なによ?
我慢強いです。さあ、クロカ様、シロー様。
さきほどのピラウの講義を、もうー度おさらいしますよ。
よぉし!真面目にやるぞぉ!
うくくくくく……!
目を閉じていてもいいですよ。頻繁に質問しますから。
耳に集中して、学んでくださいね♪
story2 遊びの時間
もーいーかい?
ダールメーシアン。
へ?
ダルメシアン。
なんだよ!?
犬種だよ!
隙アリ!
ふっ……!そのまま至れ、末来へと――!
ふざけんな!まだスタートすらしてなかっただろ!
スタートだと?それはとっくにしてるさ。
――俺たちの人生はな。
ぜんぜんカッコよくねえ!
犬種しりとりやろうぜ。
なんでだよ!?
ポノポ。
……なにそれ?
パンパニーシャ。
……もういい。二人だけで遊んでろよ!
混~ざ~れ~よ~!親いないからって差別すんなよ~!
そんな理由じゃないだろ!
しりとりにもなってないんだよ!
ほっほっほ……♪今日も元気だでな……♪
でも、いいのかねえ?将来、この島を背負って立つんだろう?いつまでも遊んでても……
ほんにほんに。
心配はねえっぺ。アピス様が直々に、教育しんさるちゅうとったで。
あらまあ、それなら安心ねえ。
ほんにほんに。
「……パラムジア、スルガ、ディルムンだ。
あらあら……それじゃあ、あたしがバラムジアかねえ。
スルガは引き受けたっぺ。三度目だでよ。
ディルムンか……長い滞在になりそうじゃのう……
「確かに伝えた。
さあて、支度支度、と。
バラムジア用のドレス、まだ着れるかしら……
たっぷりと孫をかわいがるかの。
帰ってこれぬ場合もあるでな。
オラン
ウータン。
チン。
パンジー。
オ。
ランウータン!
ぶぶー。正解は『カピ』でしたー。
負けー。
ずるいぞお前らぁ!!!
げ!
やべえ、校長来た!
あっ!また明日なー!
…………
……アピス様……
…………
ガム食べる?
❤
story3 伝統の修行
じゃ薪割りー万本、始めちゃってー!
なんで薪割りかって?これが案外大事なの!偉人達人ご先祖様。アルバイトの学生に至るまで、み~んなー度は通る修行なんだから!
バイトの学生はやらないって?てか、バイトとか学生とか、どこの島の話だよってカンジよね!
いいんだよそんな細かいことは!鍛えられっから体幹!あと握力と背筋ね!
背筋大事だよ?弱ってるとお前、将来寝たきりになっちゃうよ!どんだけ先だよってな!?
斧重いッス。
重いよなー?俺もそう思う!でも軽いと薪割れねえの!
割った薪、売るから!ー石二鳥でしょこの修行?あれ俺天才?ちげーよ、つって!
アピス様は究極の内弁慶なのか。
およよ?
普段、そーゆーしゃべりじゃないッスよね?
まーねー、俺こー見えて偉いからね、大精霊だもの!
だから色々あんのよねー、出したくても出せない自分。だからここで出しちゃう!
ー生しまっててくれー。
え?いいの?俺黙っちゃってて。ツラ~イカンジになっちゃうよ?
それにさ、俺教わったの。沈黙ってエグイよって。時間かけてこの口になったのよ。
楽しくやろうぜ、どうせならさ!
あんまり楽しくないっス。
修行とか、前時代的だよ~……
転生して脈絡なく女神さまから力を授かりたい。
古いよね、わかる。でもまあ、この経験も?何年か先に思い出せば、古くなってっから。
だからもーそれはカンベンってカンジ?
黙っててよ~手元が狂うよ~。
そ・れ・が、修行!ぎゃははは!
…………
…………
ハイハイ割る割る!ハイボールかってくらいね!
――カーッ!やっぱウマイね!ハイボール!ー杯目からいっちゃう!ぶちゅ!
お!アピス様が夜の顔になられたぞー!
やめてよ集まってこないでよ!俺のこの痴態、痴態ね痴態、明日になったら忘れてよ!
忘れてくんなかったら魔法で記憶消すかんね!
アピス様。薪、明日もお願いしますねえ。高く買いますからねえ。
ありがと!どんどん割っちゃう!って、割ってんのは俺じゃないんだけどね!
おぬしもワルよのー。
なことないない!経済経済!お金は回してあげなきゃこっちの首が回んなくなっちゃう!
なんつってね!ぎゃはははは!
……ウチらのお金……
なんて師匠ぞ。
……どーする、クロカ?
決まってる。
ボイコッティングだ!
story4 さぼりのソワソワ
あ~……自由……!
謳歌させてもらおうぜ。
そうしよう。
…………
することないな。
話、する?
体を動かしたいお年頃。
俺も。ちょっと泳ぐわ~。
ずりぃな男は。
特権特権――あ!?
なんだアレはー!?!?
……見た……?
てことは、幻じゃないのか……
…………
泳ぐのやめよ。
うん……
動物だよなぁ?
動けばどうぶつ、の……はず。
動いてたよね?
のはず……でもなんか……
もう自信ない。
な。ついー瞬前なのにな………
…クロカ。
なに?
ご先祖様がどうとか言われて、……どう?
どうったって……前提がね。
会ったこともない人だし。
まあでも、ご先祖様ってことは、俺らの遠い遠い前提の人なんだろうけどな。
ああ、そーゆー考え方?まあ、たしかに。
でもな~……で、なにか?
みたいなのが、正直なトコ。
な。よくわからんよな。
この島に国建てたのは、別の人なんだよな?
てゆー話だよね。歴史のどこかで、だもん。
親は覚えてる?
ほとんど。ちっちゃいときに、ナントカ戦争へ行って、それっきりだもん。
うちも。
それから、ペルマナがまあ、親代わりみたいなもんだけどさ。
そんな俺たちに、ご先祖様のことを言われましてもなあ……
ね、それ。ウチらの前提、それだもんね。
……まあ、別に嫌ではないから。たまには考えるのだって、やぶさかじゃないけどさ。
何をした人なんだろう、とか。
どんな人だったんだろう、とかね。
うん。
…………
…………
なあ?
やばくね?
俺も思った。
いずれ見つかると思ってたけど……
見つかんないのが、逆に……
…………
やばい……そわそわしてきた……!
帰る!
俺も!
story5 よるのうち
おかえりなさい。
……ただいま。
お夕飯、用意できてますよ。
……なに?
石です。
石ィ!?
ぷんぷん。
……フッ……
フツーに食ってやるぜ!
えぇ!?ちょっとそれはタンマ!
***
どこにいた。
川。
――あ、そうだ!なんかスゴイのいたんだけど!
……言い訳はよせ。
ホントなんだって!聞いて聞いて、聞いてってば。
聞く前に……
聞いて!聞ーーーーーーーて!
ごめんは!?
ごめんなさい!
許す。アピス様にも謝っておけ。
らじゃー!でさでさ!川からザバって、緑色のなんかがよ――
***
……ご主人。
あれから――途方もないほどの月日が流れ――
ようやく復活の機会に恵まれ、さらに年月が過ぎ――
……私は……霞みがかったような、不確かな記憶だけにすがり……
……見守っています。この里を……ここで育つ、子らを……
……それで…………いいのですよね……?
…………
……そうそう、聞いてください。驚きますよ。なんと、あの二人に瓜二つの子が生まれてきたのです。
これからが楽しみな二人で。聞いてください、ご主人――
story6 おとがめナッシング
ごめ。
んなさい。
こらーっ!!!
ペルマナ、下がれ。
はい。……ぎろりっ!!!
…………
…………
じゃ、修行いっちゃう?
おとがめナシっすか?
いーのいーの、あるよこゆこと。全然オッケー問題ナシ。
……すません。
オッケ、おしまい。
ならばじゃないけど、反撃してもいいッスか?
え?
薪売った金、どしたんスか?
……お金、って……
使っちゃうよね♪
こんにゃローウ!ウチのおこづかい、いくらだと思ってんだー!
少しはくれよー!ペルマナだって、毎月キツキツでやりくりしてんだぞー!
じゃあ返すよ!俺のうち来いよ!
嘘だ!全部酒場で使ったろ!
あんだよ!100万ゴールドあんだよ!家にあんだよ、見に来いよ!
持って来いよ!
持っては来ねえよ!
なんでだよ!?
なんでも何もねえだろ!あるっつったらあんだよ!
返せー!!!
わかった!返しゃいんだろ!……おげげげ……
なにしてんだ?
現物で返してやるよ!しこたま飲んだハイボールをよ!
いらねーーーーー!!!
最低だ!あんた最低な大人だよ、このクソ師匠が!
…………
ようやく――師匠と呼んでくれたな――
痛ぇ!?
そんなシーンじゃねえだろうが!
流れに無理が満載だ!ごまかされるか!
ひらーり。
!?
さてさて……準備運動は済んじゃったみたいじゃない?
じゃあそろそろゃっちゃうよ?本日の修行をさぁ……!
……っ!
薪割り百本ね!
組み手とかじゃねーのかよ!
しかも減ってるし!
減ってんだからいいじゃないのよ!
いいよ、やるよ!
ガンバ!もっかい師匠って言って!
言わねーよ!
アホ精霊!
――さらばだ、弱き人間よ――
消えたらサボっかんな!
ちぇっ。
story7 おののおもさ
終わったよ!薪割り百本!
こんなの秒だ。
いや、分はかかったから。……で、どう?どんなカンジ?
なにがよ?
気づいてない?自分たちが強くなったの。
強く……なった……?
本数は百分のーになってたけどね。本数は百分のーになってたけどね。
斧、斧。斧の重さが数百倍になってたんだよ。
えっ――!?
…………
怒るのに忙しくて、いつの間にか振れてたでしょ?いやー、俺ってやっぱ、師匠のセンスあるわ~。
重く――
――なってねえよ!
うそーん!賃して!ホントだ超軽い!
なんの時間だったんだよ!
ハイ、今日はもう終わり!
そうカリカリすんなって。お前らまだ若いんだからさ。
バイバイ!
明日またなー。
わかったよ!
…………
……良いのですか?
…………
<その時>はそう遠くではないと、私もル=ダイン様よりうかがっております。
…………
…………
……っ!?
力をつけさせる、などと。本来その必要すらない。
誰よりも強くなる。あの二人はな。
なぜ……このように回りくどい真似をしてまで……?
知ってるからだ。
重すぎる宿命がため、生きる楽しさを知らぬままでこの世を去った者を。
……アピス様。あなた様は本当に、ご先祖様たちと……?
夢と思うほど遥か昔のこと。記憶の多くもさだかではない。
だが――あの二人は――
決して、幸せなようには、見えなかった……
…………
肉体よりも精神だ。二人は、何よりも心が、先祖には足元にも及ばぬ。
ご先祖様とは、どのような?
まさに英雄然とした――人格者だった――
……そうでしょうな……
…………
……ちょっと違ったかも……
え?
いや。それよりも、ピラウよ。
ペルマナとともに、あの二人の頭をよく鍛えてやれ。
こんな孤島だ。自然のままにさせれば、物を知らずに育ちかねん。
……わかりました。まったく、笑い話なのですが。
昨日クロカ様は、川で緑色の怪物を見たなどと……
いるぞ。
!?