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story レ・無情
…………
<元魔王の演劇人レザールは、なにも衝動的に逃げ出したわけではなかった。
元々所属している劇団びたーちょこれーと……そこでも色々、あったのだ……
うだつの上がらない仲間たちとの飲み会を重ね、虚しさを積み上げていったり……
また、客演した先で……
自分ではなく他の役者が、たまたま観に来ていた大物プロモーターに気に入られ……
どう考えても運だけで大抜擢をされ、大きな舞台へ羽ばたいて行ったり……
などの様々な経験から、レザールは、どんどんわからなくなっていったのだ。
『小劇場界で成功するには一体どうすればいいのか?』
『結局運じゃないのか?』
『いや、実力だよな?』
『だが、いい舞台を打っても、報われない人間が、どうしてこうもたくさんいるんだ?』
クリスマスに劇場を格安で押さえられ、プロデュース公演が決まったレザールだったが――
――心は疲弊しきっていた。
公演の成功などもうどうでもよくなり……
ただ、金だけを集めて。演劇界をおさらばしようと決心してしまうほどに……
だが――
それでも、演劇の楽しさは麻薬。
レザールは、必死で脚本を書き上げようとしたが――
――ふいに、最後の糸が切れた。全てがどうでもよくなってしまったのた――
『どうせ報われないのなら』と――>
……みなにはすまないが……演出家の降板など、よくある話さ……
俺などいなくとも……ウォルターが上手にやってくれるだろう……

!?
ウォルター……
…………
……俺を呼び戻しに来たのか?……だが……
俺は……もう……
わたくしはビジネスマンです。
これからご提示いたしますのは、あくまでもデータ。
データ……?
辞めるのでしたら引きとめません。ですが、そのデータを、ご覧になってからにして頂きたい。
その、データとは……?
すぐに、届きます。
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story ハウトゥ復活
お待たせー!借りてきたわよー!
借りてきた……?
ほら!これでも読んで、頭を冷やしなさーい!
<キャトラは紙の束をレザールヘ差し出した。>
!!こ、これは……!!
<それは、アンケート用紙だった。劇団ぴたーちょこれーとの、本公演で回収した物だった。>
『ご自由にご意見お書き下さい』とだけ記されたそれには、観客たちの声が詰まっていた。
『舞台、初めて観ました!最高に面白かったです!』
『ずっと笑ってたのに、最後に泣いてしまいました……また観に来ます』
『いつまでもかんばってください。黒い役者さんがカッコよかったです』
『プロデュース公演が本当に楽しみです!絶対行きます!』
年齢も性別もバラバラのアンケート用紙の束は、ーつのことを物語っていた――
――お客様たちは、確かに受け止めていてくれたのだ――
――レザールたち、演劇人の<熱量>を……!>
……コップの水は、あるー定量を超えてから、ー斉にあふれ始めます。
そこまでは辛いでしょう。ですが、着実にコップを満たしていっているのです。
……いかがでしょうか?これだけの声を受け、それでもあなたは、背を向けるのですか?
…………
……この公演を最後に、俺は演劇を辞める。その決断は変わらない。
レザール……
だが……!
!!
冥界の屍風レザール!いまはまだ、小劇場界の演劇人である!
最後の最後まで、全力を出し切り……
有終の美を飾らせてもらう!
はい。わたくしは全力で、そのサポートを行いましょう。
礼を言うぞウォルター!来い、シャグラン!まずは脚本を完成させるのだ!
……これでー安心ですね。
まったく……上手なんだから……
はて?
あれ、『良いアンケート』だけを集めたヤツじゃないのよさ~?
わたくしは、あれがデータの『全て』だなどとは、ー言も申しておりませんが?
モノはいーよーねぇ~。
良いではありませんか。傾きかけた船が持ち直しました。
本番当日が楽しみですね♪
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story 初稿の渡し
<――では、『降りてくる』ことはある、と?>
あたしが使うのもヘンな表現だけど……まあ、あるわよ。
気分がノッて、ガーっとー気に書けちゃうことって、ね。
……まあ、あたしの場合、締切直前に、ー回だけしか経験したことないんだけどね……
<奮起したレザールは台本を、書いた、書いた、書いた!
――そして出来た!>
お待たせしてすまなかった。これが、今回の台本だ……!
<役者たちはそれを受け取り、目を走らせた。>
ふむふむ……
こ、こんなに台詞が……
わあ!コヨミ、ライオンさんだって!たのしそうだね、タロー♪
キューン!
ええと……『どいつもこいつもシケた面しやがって!世界の終りじゃあるまいし!
難しそう……
初めての脚本で、拙い部分も多いと思う。不明点は遠慮なく言ってくれ。
これはまだ初稿だ。稽古しながら仕上げていさ、上演台本へと持っていきたい。
……素晴らしいです、座長。
ふむぅ……!初見の印象はいいわよ!
飛行島に戻ったら、もっと、読み込んでおくわね!
キャトラだけでなく、全員、じっくりと読んでみて欲しい。今日は、解散。
<――かくして――
腹をくくった座長の元、プロデュースユニット『ほわいときゃっつ』は本格始動するのだった……!>
名前がダサイ!
そういう伝統なのだ。
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story 愛――だ
<台本が出来たと聞き、やってきた稽古場は――
――白熱している!>
カレン!また客席におしりを向けているぞ!
で、でも、レーラの方を向くと、必然的に……
カレンさん、教わった通りにするといいですよ。基本は最低45度、ツラの方に体を開いて……
ツラの方にある足を、半歩引いておくのがコツだと思いました!
<ツラ……?なんだっただろうか……?>
ツラっていうのはキャパの方向のことよ。あ、キャパってのは客席ね。
<キャトラが詳しい……!>
キャトラ、私たちにだまって、ちょくちょくレザールさんのところへ来ていたみたいなの。
カレン、君は光をどこで浴びる?
光を、どこで……?
胸だ!胸で浴びるんた!おしりを光らせても意味はない!
わ、私は騎士です!そんなはしたないこと……!
そういうことではない!……胸で光を受け止めれば、結果、顔が一番見えやすくなる。
お客様が見るのは役者の顔なのだ。顔が見えなくなると、お客様はストレスに感じてしまう。
え、ええと……?
落ち着いて、カレン。ひとつずつ行きましょう。
とりあえずこのシーンでは、私の方を向き過ぎないように……
待って、台本に書いておきます……
……レザールさん、厳しいね……
う~ん……カレンはシロートだからねえ……
ちょっと求めすぎよねえ。あとでフォローしとこうかしら。
<キャトラがなんだかすごい……!>
座長。そろそろ照明打ちへ。
もうそんな時間か……仕方ない。
ミサンスづけはこんなとこにしておこう。課題は他にもある。
ミザンスってのは段取りのことよ。
課題……感情解放ね?
みなには初舞台で過剰な要求をして心苦しいが……出来る限り良いものにしたいのだ。
その気持ちはわかります。私も、最大限の努力をします。
コヨミももっとがんばります!
うむ。……舞台の演技、特に初舞台には、『恥』の感情がつきまとう。
それに慣れるよう、しっかりと稽古してもらいたい。
座長。
わかった。では、あとは頼む。
だいじょうぶ!今日はヨシュアがいないけど、このキャトラさんに任せなさーい!
みんなが一人前の女優になるよう、ビシバシしごいておくわ!
<キャトラがなんでも出来る……!>
さて……やりましょうか。
『恥』の感情ね。言いえて妙だわ。だってフツーは、大勢の人が自分のことをずっと見てるなんてないわけだものね。
私は音楽家だから、ある程度経験はあるけどね。
私も、副長として兵の前に立つことはあるのですが……
演技となると、どうにも勝手が違います……
そうでしょうね。だからこそ、稽古が必要なのよ。
どんな稽古をするの?
そりゃ愛の告白よ。
あいのこくはく~!?
ハイストップ!恥ずかしいでしょ!?
そりゃそうだよ!そんなこと、したことないもん!
しかも、みんなに見られるんでしょ!?こんな恥ずかしいことないよ!
そう!そうなのよ!これが一番恥ずかしいのよ!
え……?
だからこそ、なのよ。相手の目を見て、想いを伝える……
この恥ずかしさに慣れておくと、たいていのことにはへいちゃらってワケ。
う、ううん……理屈は間違ってないとは思いますが……
アイリスねーねや主人公にーにに好きだよって言うのとは違うの?
全然違うのよ。
むむむ……!どういうことだろうね、タロー……!
キュウン……
レーラはスイッチ禁止ね。
へ?
素のアンタで、愛の告白をする。その恥ずかしさに耐えること。
え……ええええ!?
やいやいいわないの。ここに、告白シーンの台本があるわ。
おのおのそれを暗記して!ひとりずつ、じっくりと稽古していくからね!
相手役は主人公!お願いね!
が、がんばってね……
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story カレンの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠にょい――
力――――ット!おっし――――ーい!
あと、もうちょっと全体的に感情が乗ってれば、なおよかったんだけどね!
ええっ!?感情、こもっていなかったか?
自分としては、これ以上ないほど気持ちを込めたつもりだったのだが……
うん、アタシはわかるけど、もっと色んな人に伝えるには、もっともっと乗ってるといいわね!
なるほど……勉強になる。
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story ティナの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
ハイカーット!
ものっすごく恥ずかしいんだけど!
それでいいのよ!やった甲斐があるわね!
もうやんないから!
いまはお逃げなさい。でもアンタは、大きな壁を乗り越えたわ……!
これからも稽古、がんばるのよ!
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storyレザールの告白
すまんな。こんなところに呼び出して。
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないが……
お前のことを、いつも見ていた
――好きだ。
これからずっと、一緒にいてくれ――
――永遠に――
カァ――――ット!
ム。
そんなんじゃダメ!ダメよレザール!もっと、もっと出来るでしょ!?
出来る出来ない以前に……他の役者が見てもいないのに、やっても意味がなくないか?
アタシが見てるわ!
いやキャトラでなくて。
ちがうのよレザール!演出家がお手本を見せてしまうのは、良くないじゃない?
たしかに……『自分のマネをしろ』と、手本を見せてしまう演出家は下の下だと言うな。
だからよ!
さすがキャトラだ。わかっているな。
……なあ、演出助手もやってはくれないか?
それはゴメンなのよね……アタシってば、役職があると力を発揮できないから……
なるほど……いるな、そういうヤツ。
でしょう?だから、いまやったことには疑問を持たないでちょうだいな。
わかった。ここは大人しく、煙に巻かれておこう。
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story ウォルターの告白
すいません。このようなところに呼び出しまして。
…………
……急にこんなことを申し上げまして、困惑されるかもしれないのですが……
あなたのことを、いつも見ておりました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてくださいませんか――
――永遠に――
……とまあ、こんなところでしょうか?
ムグーッ!、やるじゃないのよウォルター……!
アンタ……役者もやれば……?
そういうわけには参りません。タスクが山積みでございますから。
では、失礼いたします。
……よく、言われることなのよね……
『スタッフには、役者よりも芝居の上手いヤツがちらほらいる』って……
ヤツが……それなのかもしれないわね……!
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story レーラの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいて……ね♪
――いつまでも、永遠に――
カッツカッッ!カ――ーッッ!
なにやってんのよレーラ!お色気スイッチは。ダメって言ったでしょー!
――あら……入ってた?
入ってたわよもう!そういうことじゃないの!
芝居しないで!芝居しちゃダメなの!
――え……?
ただ、本気で言うの!それだけでいい、それが全てなんだから!
真剣に!集中して!技術なんてね、二の次なんだから!
そっか……そうよね……!
わかったわ!小手先の技に頼らないよう、心がけてみる!
ウム!しょーじんなさいな!
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story オレリアの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
はいオッケー!イェイイェイイェイ♪
イェイはいいんだけど……なんなのこれ?
いやね、みんなにやってもらってるもんだからさあ。
……私、バンドだけど?
やっぱりそこよね!見事な感情だったわ!
え?
音楽もさ、気持ちを込めなきゃ聴いてるひとの心を打たないもんね!でしょう?
そうだけど……なにかひっかかる気が……
気のせい気のせい♪ありかとね~♪
う~ん……
うん、いいもの見れたわ♪
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story コヨミの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
キュウン……
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
…………
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
キュウキュンキュン!
あらあら、もう……!いいカンジだったのに、タローが混ざっちゃダメじゃない、
キュン……
夕ローもおしばいしたい?
キュウウン。
それはいいんかい。
おしばいって難しいね、アイリスねーね、主人公にーに……
コヨミ、もっともっとおけいこするから!がんばるね♪
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story クレアの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
ウーム!満点!
満点だわよっ!
ありがとうございますっ!
おしむらくは、クレアが裏方だってことね……
あの……この告白稽古、私がやった意味は……?
だいじょうぶ!あるわ!とっても参考になったから!
それならよかったです♪
さあ、ルーントレインに乗っておいきなさい!
はい♪出発進行~♪
ウーム……!裏方にしとくにはもったいない才能だったわね……!
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story サウンドオブBGM
<――時間は矢のように流れ――
ついに小屋入り初日を迎えた。>
間もなく、第二便出まーす!
T積み残しはねえか!?忘れてたじゃ済まねえぞ!?
大声出さないで。ちゃんと確認したわ。
Tお、おお……悪イ……
ふわあ…………あ、失礼いたしました。
眠そうだな姫さん。ほら、乗りな。
ありがとうございます。
俺らはこの便に乗ってって、すぐさま建て込みだぜ。
存じております。さあ、時間との勝負ですよ……!
貨物よーし!乗員よーし!
T頼んだぜ!
この俺様に任しておきな!
……ホントは大工じゃねえんだけどな!
出発進行~!
いってらっしゃい!
――バンドのイリはお昼よ。みんな、調子はどう?
私は万全よ。
ピヨ……、バンド、楽しみ♪
クリスマスこそ、ハンドベルの見せ場です!気合入ってます!ラー!
……あなたたちは?
あのクソッタレの聖火が~♪俺を焼き尽くすのさ~♪YEAR!
絶好調みたいね。……あなたはそのカッコなの?
デコ。
ボコ。
彼らの島、オーラ・ムーチョではこの格好が正装みたいだね。結婚式なんかでもこれだってさ。
今のー言にそんな意味が……!?
テステステス、アーアーアー。
あ、ちょっと上手に戻って~!、そこ、ハウってるかも!
アーアーアー!
フットマイクが利き過ぎね。シャグラ~ン、710パー落としてみてー!
アーアーアー!
オッケー!そのまま下手に~!
M音響さーん!灯体の吊り込み始めていい~!
あ、上手の奥からお願いしま~す!
Mは~い!
スピーカーのバトンだけ、ー本外にずらしちゃったけど、大丈夫でしょうか~!?
M平気なはずよ~!主人公、脚立をこっちに~!
アタシのバイト経験が、活さるときが来ちゃったね♪
さあ、照明班!舞台班が到着する前に、全部吊り込むわよー!
<――活気のある、舞台仕込みの雰囲気ー
けっこう好きだ!>
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story 調理場から愛を込めて
<リハーサル室。>
あ、レーラさん、ちょっと待ってください!
え?
ドレスの裾が……
……はい、とりあえず安ピンで留めました。休憩中にちゃんと縫いますね。
ありがとう♪
あーあーあー!ハッ!ハッ!ハッ!
えヘヘ~♪ライオンさんだぞー!悪い子は食べちゃうぞ~?
キャーン♪
ほら、コヨミ、そっち向かないで、前髪直してあげるから……
みなさん、衣装はオッケーですか?では、シーン2のラストから、シーン4の頭までいきまーす!
座長が戻るまで、段取りを全部復習しましょう!
はーい!
ゲネプロは明日のー発勝負です!集中していきましょう!
(お兄ちゃん、頼もしい♪)
――明日の開場は、開演の45分前。受付開始はさらにその15分前となります。
上手の前列二列は、シャルロット様の孤児院の団体予約席です。
他の席も予約で満席ですが、開演五分前になるとキャンセルが始まります。
また念のため、立ち見となりますが当日券も50名様分用意がございます。
こちらへお通しする際は、必ず『立ち見である』旨をお客様に了承頂いてください。
何か質問はありますか?
客席って、お弁当を食べても良かったかしら?
軽食なら構いませんが、周囲を見て、アレでしたらロビーヘ誘導するようにしましょう。
わかったわ♪
また、上演中も、必ずロビーにはスタッフの誰かが残って下さい。
その場合、くれぐれもスピカさんを単体で受付に放置しないように。
え?
えじゃありません。
――ハイ、では15分だけですが休憩となりまーす!
はーい!
キャンキャン!
ご注文は、俺だったな?
バーガーさん?
ふっ……冗談さ。
<バーガーは、トマトとレタスの間にポテトをはさむと、紙袋を差し出した。>
わあっ♪いいにおい♪
差し入れだ。食ってくれ。
わぁ~い♪おなかぺこぺこだったんです!いっただっきま~す!
今日は私たち役者より、スタッフさんたちに……
もう、渡したさ。じゃあな。
バーガーさん……!
…………
カレン、いただかないの?
緊張して、食べられそうにありません……
……そう。
明日は私が、ステージに……!そして、大勢のお客様が、私の演技を……!
大丈夫。自信を持って。あれだけ練習したじゃない?
TOP↑
story オン・ジ・イヴ
<――怒涛のような舞台仕込みは、なんとか時間内におさまり――
セットは完成。照明も音響も今のところ問題はない。
スタッフも役者たちも帰り、あとは明日を待つのみとなっていた、その夜――>
…………
?
シャグランだったか……いまここには、誰もいないことになっているのだがな……
まあ、いいだろう……
見ろ、シャグラン。
未熟なこの俺に、みなが協力してくれ……
こんなにも立派な舞台が、出来上がってしまった……
明日の本番……良い舞台に、なるだろうか……?
信じなさい。
一度は逃げ出したけれど、戻ってきてからのアンタは、あんなに本気だったじゃない。
キャトラ……
みんなね。嫌々付き合っているわけじゃないのよ。
アンタが<熱量>を持ってがんばっているから……
それに心を動かされて、ついてきているんだから。
そうだろうか……?
弱気にならない。座長でしょ?
フッ……!そうだな……!
この冥界の颶風、レザール!
おっ!?
とりあえず、マックスがんばってみた!
あとはお客様の反応を待つだけだ!うう~!怖いなぁ!
ズコッ。、ここでカッコつけないんかい。
いいか、キャトラよ?『カッコをつける』というのは演劇においては最も憎むべき悪しき欲求でな……
……ハイハイ。語ってちょうだいな。
(ようやっと、元のレザールに。戻ってきたみたいね……♪)
<――そして、レザール座長のプロデュースユニット<ほわいときゃっつ>は――
――公演本番当日を迎える!>
つづく――
next HARD