【白猫】劇団ほわいときゃっつ Story2
劇団ほわいときゃっつ Story2
劇団ほわいときゃっつ Story6
story レ・無情
…………
<元魔王の演劇人レザールは、なにも衝動的に逃げ出したわけではなかった。
元々所属している劇団びたーちょこれーと……そこでも色々、あったのだ……
うだつの上がらない仲間たちとの飲み会を重ね、虚しさを積み上げていったり……
また、客演した先で……
自分ではなく他の役者が、たまたま観に来ていた大物プロモーターに気に入られ……
どう考えても運だけで大抜擢をされ、大きな舞台へ羽ばたいて行ったり……
などの様々な経験から、レザールは、どんどんわからなくなっていったのだ。
『小劇場界で成功するには一体どうすればいいのか?』
『結局運じゃないのか?』
『いや、実力だよな?』
『だが、いい舞台を打っても、報われない人間が、どうしてこうもたくさんいるんだ?』
クリスマスに劇場を格安で押さえられ、プロデュース公演が決まったレザールだったが――
――心は疲弊しきっていた。
公演の成功などもうどうでもよくなり……
ただ、金だけを集めて。演劇界をおさらばしようと決心してしまうほどに……
だが――
それでも、演劇の楽しさは麻薬。
レザールは、必死で脚本を書き上げようとしたが――
――ふいに、最後の糸が切れた。全てがどうでもよくなってしまったのた――
『どうせ報われないのなら』と――>
……みなにはすまないが……演出家の降板など、よくある話さ……
俺などいなくとも……ウォルターが上手にやってくれるだろう……
!?
ウォルター……
…………
……俺を呼び戻しに来たのか?……だが……
俺は……もう……
わたくしはビジネスマンです。
これからご提示いたしますのは、あくまでもデータ。
データ……?
辞めるのでしたら引きとめません。ですが、そのデータを、ご覧になってからにして頂きたい。
その、データとは……?
すぐに、届きます。
story ハウトゥ復活
お待たせー!借りてきたわよー!
借りてきた……?
ほら!これでも読んで、頭を冷やしなさーい!
<キャトラは紙の束をレザールヘ差し出した。>
!!こ、これは……!!
<それは、アンケート用紙だった。劇団ぴたーちょこれーとの、本公演で回収した物だった。>
『ご自由にご意見お書き下さい』とだけ記されたそれには、観客たちの声が詰まっていた。
『舞台、初めて観ました!最高に面白かったです!』
『ずっと笑ってたのに、最後に泣いてしまいました……また観に来ます』
『いつまでもかんばってください。黒い役者さんがカッコよかったです』
『プロデュース公演が本当に楽しみです!絶対行きます!』
年齢も性別もバラバラのアンケート用紙の束は、ーつのことを物語っていた――
――お客様たちは、確かに受け止めていてくれたのだ――
――レザールたち、演劇人の<熱量>を……!>
……コップの水は、あるー定量を超えてから、ー斉にあふれ始めます。
そこまでは辛いでしょう。ですが、着実にコップを満たしていっているのです。
……いかがでしょうか?これだけの声を受け、それでもあなたは、背を向けるのですか?
…………
……この公演を最後に、俺は演劇を辞める。その決断は変わらない。
レザール……
だが……!
!!
冥界の屍風レザール!いまはまだ、小劇場界の演劇人である!
最後の最後まで、全力を出し切り……
有終の美を飾らせてもらう!
はい。わたくしは全力で、そのサポートを行いましょう。
礼を言うぞウォルター!来い、シャグラン!まずは脚本を完成させるのだ!
……これでー安心ですね。
まったく……上手なんだから……
はて?
あれ、『良いアンケート』だけを集めたヤツじゃないのよさ~?
わたくしは、あれがデータの『全て』だなどとは、ー言も申しておりませんが?
モノはいーよーねぇ~。
良いではありませんか。傾きかけた船が持ち直しました。
本番当日が楽しみですね♪
story 初稿の渡し
<――では、『降りてくる』ことはある、と?>
あたしが使うのもヘンな表現だけど……まあ、あるわよ。
気分がノッて、ガーっとー気に書けちゃうことって、ね。
……まあ、あたしの場合、締切直前に、ー回だけしか経験したことないんだけどね……
<奮起したレザールは台本を、書いた、書いた、書いた!
――そして出来た!>
お待たせしてすまなかった。これが、今回の台本だ……!
<役者たちはそれを受け取り、目を走らせた。>
ふむふむ……
こ、こんなに台詞が……
わあ!コヨミ、ライオンさんだって!たのしそうだね、タロー♪
キューン!
ええと……『どいつもこいつもシケた面しやがって!世界の終りじゃあるまいし!
難しそう……
初めての脚本で、拙い部分も多いと思う。不明点は遠慮なく言ってくれ。
これはまだ初稿だ。稽古しながら仕上げていさ、上演台本へと持っていきたい。
……素晴らしいです、座長。
ふむぅ……!初見の印象はいいわよ!
飛行島に戻ったら、もっと、読み込んでおくわね!
キャトラだけでなく、全員、じっくりと読んでみて欲しい。今日は、解散。
<――かくして――
腹をくくった座長の元、プロデュースユニット『ほわいときゃっつ』は本格始動するのだった……!>
名前がダサイ!
そういう伝統なのだ。
story 愛――だ
<台本が出来たと聞き、やってきた稽古場は――
――白熱している!>
カレン!また客席におしりを向けているぞ!
で、でも、レーラの方を向くと、必然的に……
カレンさん、教わった通りにするといいですよ。基本は最低45度、ツラの方に体を開いて……
ツラの方にある足を、半歩引いておくのがコツだと思いました!
<ツラ……?なんだっただろうか……?>
ツラっていうのはキャパの方向のことよ。あ、キャパってのは客席ね。
<キャトラが詳しい……!>
キャトラ、私たちにだまって、ちょくちょくレザールさんのところへ来ていたみたいなの。
カレン、君は光をどこで浴びる?
光を、どこで……?
胸だ!胸で浴びるんた!おしりを光らせても意味はない!
わ、私は騎士です!そんなはしたないこと……!
そういうことではない!……胸で光を受け止めれば、結果、顔が一番見えやすくなる。
お客様が見るのは役者の顔なのだ。顔が見えなくなると、お客様はストレスに感じてしまう。
え、ええと……?
落ち着いて、カレン。ひとつずつ行きましょう。
とりあえずこのシーンでは、私の方を向き過ぎないように……
待って、台本に書いておきます……
……レザールさん、厳しいね……
う~ん……カレンはシロートだからねえ……
ちょっと求めすぎよねえ。あとでフォローしとこうかしら。
<キャトラがなんだかすごい……!>
座長。そろそろ照明打ちへ。
もうそんな時間か……仕方ない。
ミサンスづけはこんなとこにしておこう。課題は他にもある。
ミザンスってのは段取りのことよ。
課題……感情解放ね?
みなには初舞台で過剰な要求をして心苦しいが……出来る限り良いものにしたいのだ。
その気持ちはわかります。私も、最大限の努力をします。
コヨミももっとがんばります!
うむ。……舞台の演技、特に初舞台には、『恥』の感情がつきまとう。
それに慣れるよう、しっかりと稽古してもらいたい。
座長。
わかった。では、あとは頼む。
だいじょうぶ!今日はヨシュアがいないけど、このキャトラさんに任せなさーい!
みんなが一人前の女優になるよう、ビシバシしごいておくわ!
<キャトラがなんでも出来る……!>
さて……やりましょうか。
『恥』の感情ね。言いえて妙だわ。だってフツーは、大勢の人が自分のことをずっと見てるなんてないわけだものね。
私は音楽家だから、ある程度経験はあるけどね。
私も、副長として兵の前に立つことはあるのですが……
演技となると、どうにも勝手が違います……
そうでしょうね。だからこそ、稽古が必要なのよ。
どんな稽古をするの?
そりゃ愛の告白よ。
あいのこくはく~!?
ハイストップ!恥ずかしいでしょ!?
そりゃそうだよ!そんなこと、したことないもん!
しかも、みんなに見られるんでしょ!?こんな恥ずかしいことないよ!
そう!そうなのよ!これが一番恥ずかしいのよ!
え……?
だからこそ、なのよ。相手の目を見て、想いを伝える……
この恥ずかしさに慣れておくと、たいていのことにはへいちゃらってワケ。
う、ううん……理屈は間違ってないとは思いますが……
アイリスねーねや主人公にーにに好きだよって言うのとは違うの?
全然違うのよ。
むむむ……!どういうことだろうね、タロー……!
キュウン……
レーラはスイッチ禁止ね。
へ?
素のアンタで、愛の告白をする。その恥ずかしさに耐えること。
え……ええええ!?
やいやいいわないの。ここに、告白シーンの台本があるわ。
おのおのそれを暗記して!ひとりずつ、じっくりと稽古していくからね!
相手役は主人公!お願いね!
が、がんばってね……
story カレンの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠にょい――
力――――ット!おっし――――ーい!
あと、もうちょっと全体的に感情が乗ってれば、なおよかったんだけどね!
ええっ!?感情、こもっていなかったか?
自分としては、これ以上ないほど気持ちを込めたつもりだったのだが……
うん、アタシはわかるけど、もっと色んな人に伝えるには、もっともっと乗ってるといいわね!
なるほど……勉強になる。
story ティナの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
ハイカーット!
ものっすごく恥ずかしいんだけど!
それでいいのよ!やった甲斐があるわね!
もうやんないから!
いまはお逃げなさい。でもアンタは、大きな壁を乗り越えたわ……!
これからも稽古、がんばるのよ!
storyレザールの告白
すまんな。こんなところに呼び出して。
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないが……
お前のことを、いつも見ていた
――好きだ。
これからずっと、一緒にいてくれ――
――永遠に――
カァ――――ット!
ム。
そんなんじゃダメ!ダメよレザール!もっと、もっと出来るでしょ!?
出来る出来ない以前に……他の役者が見てもいないのに、やっても意味がなくないか?
アタシが見てるわ!
いやキャトラでなくて。
ちがうのよレザール!演出家がお手本を見せてしまうのは、良くないじゃない?
たしかに……『自分のマネをしろ』と、手本を見せてしまう演出家は下の下だと言うな。
だからよ!
さすがキャトラだ。わかっているな。
……なあ、演出助手もやってはくれないか?
それはゴメンなのよね……アタシってば、役職があると力を発揮できないから……
なるほど……いるな、そういうヤツ。
でしょう?だから、いまやったことには疑問を持たないでちょうだいな。
わかった。ここは大人しく、煙に巻かれておこう。
story ウォルターの告白
すいません。このようなところに呼び出しまして。
…………
……急にこんなことを申し上げまして、困惑されるかもしれないのですが……
あなたのことを、いつも見ておりました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてくださいませんか――
――永遠に――
……とまあ、こんなところでしょうか?
ムグーッ!、やるじゃないのよウォルター……!
アンタ……役者もやれば……?
そういうわけには参りません。タスクが山積みでございますから。
では、失礼いたします。
……よく、言われることなのよね……
『スタッフには、役者よりも芝居の上手いヤツがちらほらいる』って……
ヤツが……それなのかもしれないわね……!
story レーラの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいて……ね♪
――いつまでも、永遠に――
カッツカッッ!カ――ーッッ!
なにやってんのよレーラ!お色気スイッチは。ダメって言ったでしょー!
――あら……入ってた?
入ってたわよもう!そういうことじゃないの!
芝居しないで!芝居しちゃダメなの!
――え……?
ただ、本気で言うの!それだけでいい、それが全てなんだから!
真剣に!集中して!技術なんてね、二の次なんだから!
そっか……そうよね……!
わかったわ!小手先の技に頼らないよう、心がけてみる!
ウム!しょーじんなさいな!
story オレリアの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
はいオッケー!イェイイェイイェイ♪
イェイはいいんだけど……なんなのこれ?
いやね、みんなにやってもらってるもんだからさあ。
……私、バンドだけど?
やっぱりそこよね!見事な感情だったわ!
え?
音楽もさ、気持ちを込めなきゃ聴いてるひとの心を打たないもんね!でしょう?
そうだけど……なにかひっかかる気が……
気のせい気のせい♪ありかとね~♪
う~ん……
うん、いいもの見れたわ♪
story コヨミの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
キュウン……
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
…………
あなたのことを、いつも見ていました。
――あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
キュウキュンキュン!
あらあら、もう……!いいカンジだったのに、タローが混ざっちゃダメじゃない、
キュン……
夕ローもおしばいしたい?
キュウウン。
それはいいんかい。
おしばいって難しいね、アイリスねーね、主人公にーに……
コヨミ、もっともっとおけいこするから!がんばるね♪
story クレアの告白
……ごめんなさい……こんなところに呼び出して……
…………
……急にこんなこと、困るかもしれないけど……
あなたのことを、いつも見ていました。
あなたが好きです。
良かったら、これからずっと、一緒にいてください――
――永遠に――
ウーム!満点!
満点だわよっ!
ありがとうございますっ!
おしむらくは、クレアが裏方だってことね……
あの……この告白稽古、私がやった意味は……?
だいじょうぶ!あるわ!とっても参考になったから!
それならよかったです♪
さあ、ルーントレインに乗っておいきなさい!
はい♪出発進行~♪
ウーム……!裏方にしとくにはもったいない才能だったわね……!
story サウンドオブBGM
<――時間は矢のように流れ――
ついに小屋入り初日を迎えた。>
間もなく、第二便出まーす!
T積み残しはねえか!?忘れてたじゃ済まねえぞ!?
大声出さないで。ちゃんと確認したわ。
Tお、おお……悪イ……
ふわあ…………あ、失礼いたしました。
眠そうだな姫さん。ほら、乗りな。
ありがとうございます。
俺らはこの便に乗ってって、すぐさま建て込みだぜ。
存じております。さあ、時間との勝負ですよ……!
貨物よーし!乗員よーし!
T頼んだぜ!
この俺様に任しておきな!
……ホントは大工じゃねえんだけどな!
出発進行~!
いってらっしゃい!
――バンドのイリはお昼よ。みんな、調子はどう?
私は万全よ。
ピヨ……、バンド、楽しみ♪
クリスマスこそ、ハンドベルの見せ場です!気合入ってます!ラー!
……あなたたちは?
あのクソッタレの聖火が~♪俺を焼き尽くすのさ~♪YEAR!
絶好調みたいね。……あなたはそのカッコなの?
デコ。
ボコ。
彼らの島、オーラ・ムーチョではこの格好が正装みたいだね。結婚式なんかでもこれだってさ。
今のー言にそんな意味が……!?
テステステス、アーアーアー。
あ、ちょっと上手に戻って~!、そこ、ハウってるかも!
アーアーアー!
フットマイクが利き過ぎね。シャグラ~ン、710パー落としてみてー!
アーアーアー!
オッケー!そのまま下手に~!
M音響さーん!灯体の吊り込み始めていい~!
あ、上手の奥からお願いしま~す!
Mは~い!
スピーカーのバトンだけ、ー本外にずらしちゃったけど、大丈夫でしょうか~!?
M平気なはずよ~!主人公、脚立をこっちに~!
アタシのバイト経験が、活さるときが来ちゃったね♪
さあ、照明班!舞台班が到着する前に、全部吊り込むわよー!
<――活気のある、舞台仕込みの雰囲気ー
けっこう好きだ!>
story 調理場から愛を込めて
<リハーサル室。>
あ、レーラさん、ちょっと待ってください!
え?
ドレスの裾が……
……はい、とりあえず安ピンで留めました。休憩中にちゃんと縫いますね。
ありがとう♪
あーあーあー!ハッ!ハッ!ハッ!
えヘヘ~♪ライオンさんだぞー!悪い子は食べちゃうぞ~?
キャーン♪
ほら、コヨミ、そっち向かないで、前髪直してあげるから……
みなさん、衣装はオッケーですか?では、シーン2のラストから、シーン4の頭までいきまーす!
座長が戻るまで、段取りを全部復習しましょう!
はーい!
ゲネプロは明日のー発勝負です!集中していきましょう!
(お兄ちゃん、頼もしい♪)
――明日の開場は、開演の45分前。受付開始はさらにその15分前となります。
上手の前列二列は、シャルロット様の孤児院の団体予約席です。
他の席も予約で満席ですが、開演五分前になるとキャンセルが始まります。
また念のため、立ち見となりますが当日券も50名様分用意がございます。
こちらへお通しする際は、必ず『立ち見である』旨をお客様に了承頂いてください。
何か質問はありますか?
客席って、お弁当を食べても良かったかしら?
軽食なら構いませんが、周囲を見て、アレでしたらロビーヘ誘導するようにしましょう。
わかったわ♪
また、上演中も、必ずロビーにはスタッフの誰かが残って下さい。
その場合、くれぐれもスピカさんを単体で受付に放置しないように。
え?
えじゃありません。
――ハイ、では15分だけですが休憩となりまーす!
はーい!
キャンキャン!
ご注文は、俺だったな?
バーガーさん?
ふっ……冗談さ。
<バーガーは、トマトとレタスの間にポテトをはさむと、紙袋を差し出した。>
わあっ♪いいにおい♪
差し入れだ。食ってくれ。
わぁ~い♪おなかぺこぺこだったんです!いっただっきま~す!
今日は私たち役者より、スタッフさんたちに……
もう、渡したさ。じゃあな。
バーガーさん……!
…………
カレン、いただかないの?
緊張して、食べられそうにありません……
……そう。
明日は私が、ステージに……!そして、大勢のお客様が、私の演技を……!
大丈夫。自信を持って。あれだけ練習したじゃない?
story オン・ジ・イヴ
<――怒涛のような舞台仕込みは、なんとか時間内におさまり――
セットは完成。照明も音響も今のところ問題はない。
スタッフも役者たちも帰り、あとは明日を待つのみとなっていた、その夜――>
…………
?
シャグランだったか……いまここには、誰もいないことになっているのだがな……
まあ、いいだろう……
見ろ、シャグラン。
未熟なこの俺に、みなが協力してくれ……
こんなにも立派な舞台が、出来上がってしまった……
明日の本番……良い舞台に、なるだろうか……?
信じなさい。
一度は逃げ出したけれど、戻ってきてからのアンタは、あんなに本気だったじゃない。
キャトラ……
みんなね。嫌々付き合っているわけじゃないのよ。
アンタが<熱量>を持ってがんばっているから……
それに心を動かされて、ついてきているんだから。
そうだろうか……?
弱気にならない。座長でしょ?
フッ……!そうだな……!
この冥界の颶風、レザール!
おっ!?
とりあえず、マックスがんばってみた!
あとはお客様の反応を待つだけだ!うう~!怖いなぁ!
ズコッ。、ここでカッコつけないんかい。
いいか、キャトラよ?『カッコをつける』というのは演劇においては最も憎むべき悪しき欲求でな……
……ハイハイ。語ってちょうだいな。
(ようやっと、元のレザールに。戻ってきたみたいね……♪)
<――そして、レザール座長のプロデュースユニット<ほわいときゃっつ>は――
――公演本番当日を迎える!>
つづく――
劇団ほわいときゃっつ Story2
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