【白猫】オズワルド・イン・アンダーランド Story
時の探求者オズワルド――死す!! |
2016/04/18 |
目次
登場人物
story1 悪魔の取引
「いつまで寝てるのよ。ほら、起きなさい!」
「ヌゥ……なんだ、ここは……?小生は一体……」
「ふっふっふっふっ、知りたい? 知りたい?」
「!何者か!」
「見ての通り<悪魔>よ。ソレなかんじの尻尾も、ほら」
「悪魔、だと……?」
「オズワルド、あんたはね、死んじゃったのよ」
「っ!! ならばここは、かのインフェルノか!?」
「正確には、その一歩手前ね。いわゆる生と死の狭間。……まだチャンスはあるってわけ。
あたしの出す試練をクリアすれば、あんたを助けてあげてもいいわよ」
「……試練をクリアできなければ?」
「もちろん魂をいただくわ。地獄行き確定よ~。
まあ、試練はいくつかあるし、負けたら即地獄じゃないから。
あたしってば慈悲深ぁ~い♪」
「小生に悪魔と取引しろと……そう言うのか」
「迷うことなんかないでしょ? 誰だって命は惜しいしね」
「我が命などどうでもよい」
「「は?」
「小生の望みは、我が妹――エシリアと再び相まみえること!
この魂は、そのためにあるのだ!」
「ん? ……んん??
つまり生き返りたいってことよね?」
「否! 我が望みは、永遠なる少女との、ただ再会のみ!」
「い、いやだから、それには生き返らないと……」
「レディデーモン! 貴様との取引に応じよう!その試練、受けて立つ!」
「あ~も~ワケわかんないけど!とりあえず契約成立ってことで!
ふふふ、はたしてあんたに悪魔の試練をクリアできるかしら?」
「どのような苦難が襲いかかろうと、小生は悪魔に屈しなどしない」
「最初はみんなそう言うのよねぇ~。
ま、いいわ。ついてらっしゃい」
story2 荒野の試練
「はい、とうちゃ~く」
「……命の気配なき荒野か。ここでなにを始めるというのだ」
「あんたにはここで7日間過ごしてもらうわ。<飲まず食わず>でね」
「なるほど、断食の試練か。いいだろう」
「あっさり了承しちゃってるけど、飢餓の怖さ、わかってんの~?」
「飢えなど恐るるに足らず。真の恐怖とは、我が聖女との永遠の別離のみ!」
「……ふ~ん、ま、いいけど。それじゃ、試練スタ~ト~」
「……失礼」
オズワルドは、岩の上で座禅を組み、静かに目を閉じた。
「へぇ~、無視ですか~。ま、やせ我慢できるのも今のうちだけどねぇ~」
――<第―の試練>。二日目――
「ふふん、ただの断食と思ったら大間違いよ。見てなさ~い!」
「いかがかしら。貴族でも滅多に食べられない、超高級霜降り牛のお味は」
「美味しい~!口の中でお肉がとろけてとってもジュ~スィ~♪
オズワルド~、あんたも食べる~?」
「ヌゥゥゥ……」
「悪魔師匠!麦茶っぽい飲み物、ジョッキでお持ちしたのです!」
「んぐんぐ……ぷはぁ~!
キンキンに冷えた麦茶っぽいアレ!のどごしすっきりさわやかねぇ~!
オズワルド~、あんたも飲む~?」
「ヌゥゥゥ……」
悪魔が様々な誘惑をけしかける中、ついに7日が経過した――
「……ヌゥゥゥ……どうやら小生の勝ちのようだな」
「ちょ、ウソでしょ……普通なら餓死しててもおかしくないのに……!
てか、なんでピンピンしてんの?少しはダメージあるはずでしょ!?」
「問われれば明かそう。
勝利の鍵は、この<時繰のルーン>にあり。これで<小生の時間>を遅くした。
身心の摩耗、体感時間……それらすべてを減速させたのだ。
この7日間は、小生にとって7分程度の出来事でしかなかったのだ!」
「はあ!? それってズルじゃない! この卑怯者!」
「笑止! 悪魔の取引とは、冷酷無慈悲な賭博と同義!だまされるほうが悪いのだッ!」
「ぐぎぎぎ……! イカサマのツケは高いわよ……!」
「試練はこれで終わりかね? レディデーモン!」
「まだよ! 今のは小手調べ!試練はまだまだ続くわよぉ~!」
story3 選択の試練
「あんた、妹がいるのよね」
「いかにも。小生がつづる物語の主人公――名をエシリアという」
「そのエシリアちゃんってさ~、もしかしてあの子?」
「あんちゃーん!」
「っ!! エシリア!ああ! 輝けるエシリア!!
なぜお前がここに……ヌゥ!?」
「あんちゃ~ん」
「あんちゃん!」
「あ~んちゃ~ん!」
「なんたる奇々怪々……!いや、これはこれで悪くない……」
「さ~て、第二の試練よ。この中から本物の妹を探しなさい」
「ヌゥ、たわけたことを!どれも真物に違いないではないか!」
「姿はそうでも中身は違うわ。でも、兄のあんたなら、見分けられるはずよねぇ~?」
「悪魔め……小生を焚きつけるか!よかろう、受けて立つ!」
(ちょろいなぁ~……)
「あんちゃ~ん」
「あんちゃん!」
「さすがは悪魔の幻術か……小生も全霊をもって見極めねばなるまい……!
……時は告げる!右から2番目のエシリアこそ真実のエシリアだ!」
「ほんとにぃ~?ほんとにその子でいいの~?」
「くどいぞ、レディデーモン!これが世界の選択だ!」
「あ~、はいはい。じゃ、オープン・ザ・答えね」
黒衣の劇団員
「あんちゃ~ん♪」
「…………!!」
「どうだ、俺の迫真の演技は。なかなかのものだったろう」
「あああーーッ!!」
「はい、残念でした~。今回はあたしの勝ちね」
「小生としたことがぁー!!ああ……エシリア……すまない……すまない……!」
「ほらほら、次いくわよ。まだ試練は終わってないんだから」
「ヌゥ! この悪魔め!」
「うふふ、その言葉が聞きたかったのよねぇ!」
「ヌゥゥゥ……まだだ……我が歩みは、止まることなき秒針のごとく……だ!」
story4 勇気の試練
「次なる舞台は……飛行島か!」
「それじゃ第三の試練よ。ここから飛び降りてみせなさい」
「ヌゥ……小生の勇気を試そうということか」
「この高さじゃ絶対助からないわね。どう、オズワルド。恐怖で足がすくんじゃって――」
「いざ、蒼空の彼方へ!!」
「え、ちょ! そんなアッサリ!? 少しは躊躇しなさいよ~~!」
***
「まったく……あんた死ぬのが怖くないの? いや、もう死んでるけどさ」
「レディデーモンよ。この世には死よりもはるかに恐ろしいものがあるのだ」
「なによそれ」
「絶望だ」
「ぜつぼう?」
「時の流れとは残酷にして無慈悲。あらゆる存在を朽ちさせる毒だ。
世界は、その毒によって滅びゆく。かつて小生は、その真実を知り、絶望の闇に心を閉ざした」
「よくわかんないけど、だから死んでもいいって?」
「答えは否。今の小生には、死も絶望も超越した<希望>がある。
それが我が妹エシリアだ。時の滅びから世界を解放する救世女なのだ!
聖女エシリアの存在が、小生に死へ立ち向かう勇気を与えてくれるのだ」
「死んでも妹に会いたいとか、めちゃくちゃでしょ……」
「これが小生の業というものだ」
「…………ほんと、昔から意味わかんないよね」
「……む?」
「キモいことばっか言ってたら、妹に愛想を尽かされるわよ~?」
「定めとあれば受け入れよう。……だが、理由は他にもある」
「ん?」
「……エシリアは、天涯孤独の小生にとって唯一無二の家族。
運命も因果も差し置いても、大切だと思うことは至極当然。
それが兄というものだ」
「…………ふ~ん」
story5 黄泉返り
「……さて、レディデーモン。2勝1敗、というところか」
「うぐぐ……まだよ!まだまだ試練は続くんだから~!」
「魂の輝きある限り、何度でも死地に臨もうぞ!」
『そんなユーチョーなこと言ってていいのぉ~?』
「ヌッ! 何奴!?」
「アンタ、自分がどういう状況か、ちゃんと理解してないのねぇ」
「チェシャ……なのか? それはどういう意味かね」
「コトのはじまりは、アンタのいつものスランプよ。
で、アンタは啓示を得るとかワケのわからんこと言って<魔法キノコ>を食べまくったの」
「魔法キノコ……毒を持つが、食すと自我を無意識に導くという――
はっ! まさか、これは……!」
「そ。これぜーんぶ<アンタの幻覚>ってわけ」
「そうだ……思い出したぞ! 小生はノーマウスたちと森に来て、そして――!」
「現実のアンタは魔法キノコの毒で危篤状態。いつ死んでもおかしくないわ」
「小生の魂に、最初から猶予などなかったということか……!」
「早く目を覚まさないと、ほんとのほんとにあの世行きよ~?」
「ヌゥ……刻限は近い……どうすべきか……!
ええい、レディデーモン! この魂、今すぐくれてやろう!」
「はぁ!?」
「代わりに今すぐ小生に現世への道を示すのだ!
「あ、あんた、言ってることがメチャクチャよ!?
「是か!?非か!? 返答せよ!今すぐナウだ!」
「あーもう! わーったわよ!やればいいんでしょやれば!」
「良し! 恩に着るぞ、レディデ――ヌッ!」
「ガァアアアッ!!」
「なんだ、この魍魎どもは!」
「魂の光とは真逆の闇……いわゆる<死>ってやつじゃない」
「死の体現者、か……
無論ッ! 現世への水先案内、まかせたぞ!」
「……おっけ~」
最終話 少女の導き
「ヌゥゥ、おぞましき者どもめ! 小生の生還を阻むかッ!」
這い寄る<死>の魔手が伸び、オズワルドの足にからみつく!
「なんとぉ!」
「ヌゥ……時は尽きた、か。エシリアよ……すまない……先立つ不幸を許し……くっ!
否ッ! やはり否ッ!小生は生きねばならないのだ!
我が聖女エシリアよ!小生に活路を! 希望を!救済の蜘蛛の糸を与え給え!」
「は~い」
「ヌ!?」
「レボリュ~ションカット~!」
「一条の光が、オズワルドに群がる<死>を薙ぎ払う!」
「だいじょうぶ?」
「あ、ああ……レディデーモン、今のは……!」
「そんなことよりも、ほら」
悪魔の指し示す先には、純白の<扉>があった。
「たまにはごっこ遊びもいいよねぇ。ねね、結構うまかったでしょ? 悪魔役。
主人公役がちょ~っと難アリだったけど……まあ、おもしろかったからいっか」
「悪魔役……主人公……?」
悪魔は、懐からおもむろにルーンを取り出す――
「っ! それは<扉のルーン>!
レディデーモン――いや、お前は……まさか……!」
「物語はここでおしまい。それじゃ、ウチヘ帰ろっか」
<扉のルーン>の光を受け、純白の扉がひとりでに開かれる。
「まったね~、<あんちゃん>」
「ま、待ちたまえ!待ってくれ! エシ――」
…………
……
「エシリアァァ!!」
ぎにゃー―! び、びっくりしたぁ!
オ、オズワルドさん! 大丈夫ですか!?
! チェシャ、アイリーン、ノーマウス……
もう、心配させないでよね! 本気で焦ったんだから!
チェシャよ。お前の助言がなければ、小生は地獄に落ちていた。感謝する!
へ? あ、うん……どういたしまして?
ヌゥッ! こうしてはいられん!
おおう!?
あの世を彷徨う亡霊の男と悪魔に扮したエシリアが、魂を賭けた勝負を繰り広げる!
降臨したぞ……! 我が妹の新たな物語がついに産声をあげたのだ!
オズワルドさん、無事にスランプを脱したみたいね。
ほんと命かけてるわねぇ……
この魂を賭して得た物語を、我が最愛の妹に捧げようッ!
届け! 小生の想い! ヌゥゥゥゥン!!
***
「――?」
その他
白猫 mark