【白猫】オズワルド・思い出
時間の探究者 オズワルド・ファーニス cv.平川大輔 真実にして不朽の美を求める謎の旅人。 <時>に対して尋常ならざる信念を持つ。 | ||
2015/12/24 |
オズワルド・イン・アンダーランド
思い出1
時は満ちた――問おう、諸君。
……へ?もしかしてアタシたちに言ってる?
ここに小生が描いた一枚の風景画がある。この島から見える景色だ。
そこでだ、諸君。この絵と、ここから見える景色。どちらの方が美しいと思うかね?
えーっと……景色かなあ?
私は……両方に、それぞれ違った魅力があると思います。
ふふん。教えてしんぜよう。正解は――<どちらも美しくない>のだ。
え~! なにそれ~!?
『美』の条件とは、朽ちないこと。その美しさが永遠に損なわれないことである。
だが、世に存在する万象は、どうあがいても朽ちゆく運命からは逃れられない――なぜか?
は、はぁ……なぜでしょうか?
<時間>だ。時間という見えざる捕食者によってすべては標的にされているのだ!
この絵画も! あの景色も! 決して不変ではいられない! 時が『美』を喰い荒らす!
なんと嘆かわしい真実か! そうは思わんかね、諸君。
知らん! それは主観でしょ!じゃ、アタシたちはこれで。
ヌゥン! 待ちたまえ。
んん!?一瞬でまわりこんで……いまなにやったの???
先刻は唐突に失礼した。小生の名は、オズワルド。諸君の名を聞かせて欲しい。
アイリスです。
キャトラよ。こっちは主人公。
ふむ、アイリーンにチェシャ、それにノーマウス<無口>か。
…………
わざと間違えたのではない。小生の心がそう呼べと囁くのだ。小生の異端的感性の結果なのだ。
ふーん。
小生は旅の芸術家にして、真世界の求道者、そしてときの叛逆者である。
おうおう、好きにせい。
諸君、忘れてはならない。我らは逃れられない時の運命にあることを……
じゃあ、帰りましょっか。
……ん? チェシャ……?
思い出2
少しよいかね。
ならん!
ヌゥン! 落ち着きたまえ。
ぎにゃー! またまわりこまれた!
すまないがデッサンのモデルになってはくれないか。猫である君にしか頼めないのだ。
そのくらいならいいけど。長いのはやだよ。
3秒で十分だ。
おばかねえ、3秒なんて3秒よ?
<オズワルドは、コートの中から懐中時計を取り出すと――
――我が時は飛ぶ、今を過去に、未来を今に――
<瞬間、オズワルドは目にも止まらぬ速さで絵筆を動かす!
そして……>
はぁ……はぁ……完成だ。君の献身に感謝する、チェシャ。
今のは……?
この懐中時計に込められしは、<時繰のルーン>。
小生の『時』を操ることができる。
さきほどは小生の『時』を早め、己を加速させたのだ。
だからあんな一瞬でまわりこめたのね。
それはさておき、小生の絵の品評を頼めるかね。
さておきって……まあいいけど。さ~て、どんなかんじに……え?
これって……
<オズワルド)の描いた絵には、猫耳をつけた愛らしい少女が描かれていた……>
……アンタにはなにが見えてたわけ?
この絵の女の子は……?
なにを隠そう小生の<妹>だ。チェシャの猫耳を参考に愛嬌を際立たせてみた。
耳だけかい!
これにはわけがある。彼女が最初に君を『チェシャ』と名付けたのだろう。
そんなの理由に……って、アンタ、アタシたちのこと前から知ってたの?
黙っていたことは詫びよう。ところで、諸君は妹のことをどう思うかね?
えーっとね……
否!愚問も愚問であった!彼女への評に答えなどないのだ!
もがー!自己完結してんじゃないわよ!
小生の美学は、我が妹にあり!彼女こそ時の残酷な運命を克服する解放者なのだ。
うつろいゆくこの現世で、妹だけがあせることない。まさに小生が目指す『美』の極致!
ねえねえ、アンタって妄想と現実の区別はつけられる?
無論。妹の実在こそが、小生の希望であるのだ。
ハァン? なにが言いたいワケ?
すなわち我が妹は――
<ジリリリリリ……>
え、なに、なんなの!?
ヌゥ! すまない、シエスタの時間だ。続きは然るべき時の訪れにて。
えぇ~……せっかくここまで付き合ったのに……
芸術とは思考と体力、そして時間をも消費してなせる業の深き御業なのだ。
そんなのなんでもよ。
思い出3
この前はさらっと流されたけどさ、自分の時間を操るってなにげにすごくない?
この<時繰のルーン>は、小生にとって時の呪縛を断ち切る神剣のようなものだ。
ねーねー、またやって見せてよ~。
望みとあれば応えよう!されば開かれん!!
<直後、オズワルドは、目にも止まらぬ動きで絵画、彫像を作り上げていく!
――しばらくして、オズワルドはピタリと動きを止めた。>
……うっ!はぁ……はぁ……!おおお……おおぉぉぉ……
オズワルドさん!?だ、大丈夫ですか?
はぁ……はぁ……こ、これが時に抗いし者の末路時と命を秤にかけた結果だ。
単に疲れたってことでしょ?
この代償は、芸術に命を捧げた小生の聖痕なのだ。
芸術に命を捧げる……?
時間とは無情なもの。我らに限りある生を強要し、永遠の真実から遠ざけようとする。
小生は、永遠――すなわち不変の美を芸術の中に見出そうともがく、陸の魚なのだ。
不変の美……ですか?
芸術とは時間への叛逆である。永遠を遺そうとする我らを時は決して許さないだろう。
そのための『時繰』なのだ。そして、時の流れに逆らえる小生は偶然にも、ひとつの解に至った。
それが――我が妹だ!!
妹がなんなの?永遠に不変だってこと?
大正解ッ!
えぇ!?アンタの思い込みじゃなくて!?
見たまえ、諸君!小生が魂を削って生み出した、この芸術群を!!
<見事な色使いの油絵。精巧にして緻密な大理石の彫像。
そのどれも、無邪気な笑顔の少女がモチーフとなっていた。>
……妹さんの絵や象ばっかね……
妹さんの作品を作ることに、どんな意味があるんですか?
良い質問だ、アイリーンそれは――
<ジリリリリリ……>
え、また!?
ヌゥ! すまない、スコーンを焼いている最中だった。続きは然るべき時の訪れにて。
それはまた家庭的だこと……
思い出4
かつて小生は、命を絶とうとした。
わかげのいたりってやつね。
失礼だよキャトラ。まだ若いよ、オズワルドさん。
時を加速させてる分だけ、ひとより年をとってるのかと……
しかし、絶望の淵にいたのも過去のこと。だが……物語は確かに、<あの時>始まったのだ。
今こそ語ろう。時の運目に絶望した小生と、<永遠の少女>との出会いを。
永遠の……少女?
……あ、この前の続きってこと?
そもそも、小生の妹は血のつながった妹ではない。
ほほう。
さらにはおそらく。人ですらないのだ。
えっ?
小生の故郷には<時計塔クロノス>がそびえ立つ。いつから存在するかも誰一人として知らぬ不可思議の塔だ。
まだ若き身空にあった小生は、機巧入り乱れる塔内部で、不運にも<時繰のルーン>を見つけてしまったのだ。
不運ってどういうことよ?
無知とは罪ではなく幸福。あれ以来小生は時間に囚われてしまった。
時の流れる先には悲劇しかない。腐食、劣化、そして滅亡。この世には美など最初からなかったのだ。
それでも小生は真なる美を求め、創作の鬼となるが、時すでに遅し。小生の魂は、絶望の深淵に堕ちた。
それで命を絶とう、と……
時計塔の頂上から身投げに臨んだ。
だがそのとき?
時計塔の頂上に通じる扉から、後光とともに彼女が現れたのだ!
ムム!? よくわからん!
だが時として戸惑いは真実に追いつかぬもの。小生は少女の存在を受け入れざるを得なかった。
彼女は言葉も話せず、教養と呼べる知識もなく、どこまでも無垢だった。
今でも彼女の正体はわからない。だが、その姿を見て直感した。彼女は――小生の希望になる、と。
ふむぅ……
その後、小生は彼女に仮初の身分と名前を与えた。
服を仕立て、言葉を教え、妹として彼女を育てた――のだが、驚愕すべきは、十数年を経てなお、彼女は当時の姿のままなのだ!
当時と、変わらない……不変の……<永遠の少女>
そうだ、聡明なるアイリーン。彼女は時の流れから隔絶された、時間の摂理を越えた存在なのだ。
小生の直感は正しかった。我が妹こそ真なる時の叛逆者。永遠なる美を司る希望だったのだ。
そして、小生の物語は動き出した!彼女が主人公たる芸術こそが、時間への絶望を払拭する鍵に――!
<ジリリリリリ……>
…………
ヌゥ! すまない、ティータイムの時間だ。続きは然るべき時の訪れにて。
んなのまで時計鳴らさなくても。
思い出5
さらば諸君。記憶集いし異郷にて再び相見えよう。
<オズワルドが飛行船から飛び降りようとしている!>
やめんかーーっ!!
早まらないでください!
止めないでくれたまえ!小生は第二の悟りに目覚めたのだ。
見たまえ、あの美の残滓を!
<オズワルドが指した場所には、彫刻の残骸、破かれた絵画など、ゴミの山がそびえたっていた。>
ようわからん!だからなによ!?
自分で壊したんですか?
いかにも。
あ、わかった。つまりスランプってやつね。
小生は芸術によって妹のいる高みに至ろうとした。それが真実の美に至ると信じ。
ゆえに小生は彼女を観測し続けた。彼女を外の世界に連れ出し、旅路の中で物語をつづった。
でも今は一緒じゃないのね?
別離もまた小生の望むこと。遠いほうがよく見えることもある。
幻惑の城での冒険活劇。盤上のデュエリストとの熱き戦い。妹をつづるに相応しい物語だった。
アンタ、隠れてずっと見てたの?
妹の観測とは、深淵をのぞくこと!その深淵こそ芸術的発想の原点!
……なのだが、つい先日、妹の行方を見失ってしまってな。
ありゃ。
ヌゥ! 我が生涯の起源を……!時の秘密に至る鍵を、小生は失ってしまったのだ!
もう少しで永遠に至れる……かもしれなかったときに限って!小生は痛恨の毒矢傷を――
はっ!!!
今度はなに!?
諸君、聞こえるかね……時の這い寄るおぞましい音が……
<チッチッチッチッ……>
時計の音のことですか?
ヌゥ! おのれ時よ!!嗜虐の笑みを浮かべているな!小生を蝕もうと狂喜しているな!
このままでは世界が朽ち果てる!小生は一刻も早く、永遠の摂理に辿り着かねばならない!
だが、永遠の少女たる妹は神隠し!もはや望みは潰えた!時の侵略を止めることは不可能!
落ち着きなさい。いなくなったんなら探せばいいだけでしょうが!
小生は冷静だ!というわけで贖罪として命を絶つ。では、また来世で――
だからまず探す!!!
思い出6 (友情覚醒)
これは……まさに青天に昇る曙光!我が妹の持つ輝きにも似た高次の波動のようだ!
「――あんちゃん!」
ヌゥ!?次なる奇跡か妖精の囁きか!?否!聞き間違えるはずもない!
――あんちゃ~ん!
おおお、我が妹よ!時と風と海を越えて、小生に掲示を与えようというのか!
――あんちゃん! だ~い好き!
ああ……破滅へ向かう小生を、慈愛の言葉で許そうとは、まさに地母神のごとき包容力!
妹よ、我が物語の聖少女よ!小生に、時に打ち勝つ力を!永久不滅の美を示したまえ!
――あんちゃん、きも~い☆
………………
――あんちゃん、うざ~い!
………………
………………
…………
…………
……ありがとう、ノーマウス。君の言葉なき言葉の力で、小生は悪夢から解放された。
……元気出しなさいよ。きっといいことあるわよ。
あの……どんな事情があっても自分の命は大切にするべきだと私は思います。
……忠告感謝する、アイリーンだが諸君、これでわかっただろう。
差し迫る時間の魔手は、醜く朽ちる世界を人の前にさらす。それを見た者は正気を失う。
正気を取り戻す手段はただ一つ。――それが永遠への到達である。脅威なき楽園への機関なのだ。
ようわからん。
オズワルドさん、少し焦ってるんじゃないですか?
アイリーン。焦燥は精神を蝕む悪魔の筆頭。人をたやすく墜落させるのだ。
だから焦るなと言うのに。
しかし、ノーマウスの機転で小生は正気を取り戻した。遠き地にいる妹から啓示も受けた。
ヌゥ!!!
今度はなに!
この感覚は……!小生の魂が世界と共振するこの感覚はっ!!
時は来たれり!芸術の神よ、永遠をつづれい!
<<時繰のルーン>で加速したオズワルドが、
一瞬にして一枚の絵を描き上げる。>
――諸君に問おう。この絵の妹をどう思うかね?
絵よ。
キャトラったら…………はい、以前の物より、上手に描けていると思います。
その言葉だけで恐悦至極。小生の創作した永遠の少女が、妹に近づきつつある証左だ。
さあ、旅を続けよう。悪しき時の解放者たる妹が永遠の福音を報せるその時まで!
覚醒絵・覚醒画像
時の叛逆者にして解放者