ソウルオブナイツ Story3

我に続け！！

　クライヴに続き、巨大な鳥が大空を通過する。

　帝国軍鳥人飛行団。帝国の虎の子部隊であった。

　迎え撃つは、征討軍飛竜騎兵。

　魔道飛行兵団である。

空で、こんな戦をするなんてな……

　猛特訓の成果であろうか。クライヴは女王より預かった銀竜ヴィエムを乗りこなしていた。

　ヴィエム　

ギュインギュインギュイン……

ギュオオオオーン！！

　ヴェエムが人を乗せるのに慣れているからというのもあるからかもしれない。

　クライヴと銀竜は、颯爽と空を舞う。

　ヴィエム　

ギュオオオー！！

　ヴィエムは、凄まじい凍気の息を放つ！

　基地の一角が、たちまち凍りついた。

　ヴィエム　

ヴオオオーン！！

　クライヴには、要塞の攻略以外に、氷の国より受けたもう一つの使命があった。

　征討軍によって＜闇＞とされ、さらわれた人々の救出である。

ヴィエム、匂いを追え――！

　ヴィエム　

ギュイーン！

　クライヴはヴィエムと、基地内に潜入した。

さらわれた人たちを探さないとな。……むっ。

　近づく気配には、攻撃の意志が感じられなかった。

その紋章、帝国軍の義勇兵の方とお見受けします。

誰だ！？

お世話になっております。

わたくし、ネプチューンＰＬＣ、営業本部、第一戦争支援部、チーフマネージャー、ウォルタ一・スズキと申します。

　ウォルターは、クライヴに名刺を渡した！？

(こ、この力ードは……！？)

　クライヴは、少し躊躇しながら、＜名刺＞を受け取る。

（聞いたことがあるぞ……これは商人たちに伝わる特殊な風習だ！

名前や肩書の書いた紙を、初対面の時に渡す――たしか、そんなやつだ！）

　クライヴは名刺を見た！

ミスター・ウォルター――！

はい、失礼ですが、お名前を伺えますでしょうか。

失礼！

　クライヴは、頭を下げた！

私はバルラ王国騎士団団員、クライヴと申します！

あいにく名剌を……切らしておりまして！

（たしか、名刺が無い時はこういうんだよな！）

当方は気にしておりません。

名剌交換はあくまで商人の間での風習ですので。

そうだったのか。

ところで、クライヴ様は月刊メンズナイツでモデルをされていらっしゃいますか？

しているぞ。最新号にも載っている！

毎号拝見しております。

こうしてクライヴ様に直接お会いできるとは、光栄のいたりでございます。

なんだか照れるな！

ところでウォルター。なんで商人がこんなところに？

　ウォルターの眼鏡か光った！？

もちろん、ビジネスでごさいます！

story

ビジネス……

はい。

ビジネス？

ビジネスでございます。

弊社にとりましても、帝国と征討軍にとっても。

どういうことだ？

ご納得いただきやすいかと思われますのは、征討軍および連邦のビジネスプランです。

ふむふむ。

連邦はこれを機に、＜古の海域＞への進出をオンスケしたとのこと。

（オンスケ……なんだそれは）

狙いは、いままで我々が理解できなかった古代技術です。

古代技術……？

古代技術によりイノベーションをビジネスに活かせば、ドラスティックにソリュ－ションをアップデートできることでしょう。

よくわからんが、得があるんだな。

じゃあ帝国は？　何が得なんだ？

帝国軍内には、戦争ソリューションヘのジョインを待ち望む勢力がいると弊社の古い人間が申しておりました。

わざわざ戦争をしたいやつか。

覚えがないわけじゃないな。

帝国内は獣人、半獣、人間、様々な種族がいらっしゃいます。

この戦いを機に、人間の地位の向上というベネフィットにコミットしたい、そのようなプレイヤーがいるということです。

ええっと……手柄をたてて人間の発言力を増したいのか。

じゃあ征討軍は？

彼らのいわゆる闇討伐プロジェクトには、現時点では未確認な情報が多く、現時点ではこれというお話をすることはできかねる状況です。

あいつらは無関係な人を＜闇＞に感染している容疑でさらって、この島に連行しているんだ。

なるほどクライヴ様は誘拐された人々の救出プロジェクトを進めていらっしゃるのですね。

そうだ……ぷろじぇくと？　なのかはしらんが。

そのプロジェクトには困難が予想されるといわざるを得ない状況でございます。

難しいのはわかってるさ。

そこで弊社といたしましては、クライヴ様とウィンウィンの関係を構築するソリューションをご用意させていただきました。

ソリューション……？

つまり今回のプロジェクトに対しまして微力ながらこの私がご支援をさせていただければと。

そっちの見返りは、なにかあるのか？

弊社にも相応のベネフィットがございます。とだけ申し上げておきましょう。

story

　クライヴとウォルターは、クリストファル要塞内部に侵入した。

すごい規模の基地だな……

飛行島がそのまま収まりそうだ。

最新鋭のイノベーションが使われた、世界有数の要塞と伺っております。

（イノベーションってなんだ）

……こちらには、捕虜の皆様は捕まっていないようですね？

　ヴィエム　

ギュイーン。

失礼します、クライヴ様、一点申し上げたいことが。

なんだ？

ｊｐｇ

こちらのヴィエム様……

今回の潜入プロジェクトには少々ミスマッチでは？

　ヴィエム　

ヴヴヴ……ヴルンヴルン。

そうか。よしわかったぞ。

ヴィエム！

何をされるんですか？

ミュートモードだ。

　ヴィエム　

（…………ギュルーン。）

結構です。

……まあ大丈夫……かなと？

おや……なんだあのでっかいのは。

巨大なタンクですね。ここでビールの醸造でもしているのでしょうか。

ビールだとしたら……醸造は失敗だな。

　ヴィエム　

（ギュインギュイン！）

はい。この場所はあらゆる意味で高いリスクを内包している場所であるかと。

紫金の魔焔――

クライヴ様のビジネスパートナーでいらっしゃいますか。

敵だよ。この場所は、あいつと同じような気配がする。

ではその方は――いわゆる＜闇＞のインフルエンサーということでよろしいでしょうか。

そうだ。きっとおそらく。

どうして連邦軍の施設に＜闇＞の貯蔵庫があるのだと思われますか？

この奥に行けば……その答えがあるんじゃないのか？

面白くなってまいりましたね？

story

　クライヴ達は、目の前の光景に、目を疑った……

　目の前にあるのは、無数の檻。そこに囚われるのは――

なんだこれは――

　魔物達は、檻の中で、身じろぎもせずにいる。

　生物ではない。まるで――機械だ。

こいつら、闇が取り憑いてるな。

なるほど……征討軍が緒戦を有利に進められた理由は、このあたりにありそうですね。

闇と結託してたのか。

アライアンスを組んでいたというわけですね。

ってことになるかな？

　クライヴは、証拠品として奪ったルーンに目をやった。

こいつは何なんだろうな？

これは見たところ、＜吸引のルーン＞かと思われます。

　＜吸引のルーン＞――それは、ある事件に関わった者たちが発見・報告した、＜闇＞を吸い、蓄えるルーンである。

なるほど、こいつで――

＜闇＞を吸引して、あそこに格納をしているのか？

驚くべきイノベーションです。

これは証拠品として押収だな。

　ウォルターは、手にしたアイテムを、巨大なタンクに向ける。

何をしているんだ？

こちらは弊社と契約しております、＜情報の精霊＞様の化身でございます。

＜情報の精霊＞？

精霊は知っているが？

彼女に周囲の光景を記憶していただいているのです。

そんなことができるのか。便利だな。

彼女に何か質問をされては？

質問すると、答えるのか？

はい、ご用件をお伝えください。

……姫にモテるには、どうしたらいい？

まず普通にモテる努力をすべきではないでしょうか？

痛いところをついてくるな。

お役に立てましたか？

場所を移動しよう。

さらわれた人々の救出が先だ。

story

　クライヴとウォルターは、基地の捜索を続けていた。

征討軍・兵士

侵入者だ！　追え！

　ヴィエム　

ギュオオオ～。

ギュルルルーン！！

征討軍・兵士

どこにいった？

　ヴィエム　

ギュオオギュオオン！！

ギュイーン！

征討軍・兵士

……ルーン装甲車を飛ばしてる奴がいるらしいな。

向こうを探せ。

驚きましたね。

確かにドラゴンの鳴き声としてはけっこう個性的だな。

　ヴィエム　

ヴオオオーン！！

しかし、どこにもさらわれた人たちを捕えてるような場所は無いぞ……！

こういう時はリサーチですね。

　ウォルターの眼鏡が光った！

…………

……

　ウォルターは征討軍の兵士に、名刺を渡した！？

（何しているんだミスター！？）

　物陰から眺めていたクライヴとヴィエムは、ハラハラしながら見守っている。

お世話になっております。

わたくしネプチューンＰＬＣのウォルターと申します。

征討軍・兵士

あ、えっと……すいません名刺を切らしておりまして。

私今回のプロジェクトの担当を仰せつかっておりまして……

征討軍・兵士

ちょっと上の者に伝えます。

よろしくお願い致します。

あ……失礼を承知で伺いますが、プロジェクトの素材はどちらに搬入されましたでしょうか。

征討軍・兵士

素材？　あ、＜闇＞が入った人間なら、全員大神殿に移送中です。

左様でございますか。

それではこちらのスタッフと伺わせていただきますので。

征討軍・兵士

よろしく……お願いします？

よろしくお願い致します！

（上手くいった！？）

　ヴィエム　

（ヴルンヴルン！）

…………

……

なるほど、今回のプロジェクトの要は、大神殿ということですね。

ここからだと……けっこうかかるな。

ご無理を承知で、お願いしたいのですが、この私もアテンドしていただけませんか？

こいつの翼を借りたいってことか。

ヴィエム、二人乗りはいけるか？

　ヴィエム　

ギュオーン！！

余裕だそうだ。

ありがとうございます。

story

おっと、この先はドラゴンライダーの発着場か。

おあつらえ向きだな。

いたぞ！　撃て！

これはこれは。先方は要塞防衛プロジェクトにまい進されていらっしゃいますね。

強行突破しかないか。

　ヘクトル　

ここから先は、通行まかりならん。

両手に盾だと……！？

　ヘクトル　

教えてやろうドラゴン乗り。

防御は！　最大の防御！

……は？

お世話になっております！

　ウォルターはヘクトルに名刺を差し出し、一礼した！

わたくし、ネプチューンＰＬＣ、営業本部、第一戦争支援部、チーフマネージャー、ウォルター・スズキと申します。

　ヘクトル　

むう～！？

　ヘクトルは盾の中から名剌を取り出し、一礼した！

　ヘクトル　

征討軍第四軍団指揮官、＜盾の国＞十七代国王、ヘクトル・ヴァランガと申します。

お名刺ちょうだいいたします。

　ヘクトル　

ちょうだいいたします。

……商人風情が我らが要塞にいかなる用向きかな？

あきんどのすることはただ一つ。

ビジネスでございます。

　ヘクトル　

この戦いは、我ら＜征討軍＞にとって、命がけの使命である。

それをもって儲けようとは、誠に許しがたし！

　ヘクトルは、両手の盾をウォルターに突き付けた！

あれで戦えるのか？

いや……＜守る＞といったな。……むっ？

　瞬間、空気が凍った。

　シンザン　

　イヤーッ！！

　裂帛の気合と共に放たれた剣戟は、クライヴの眉間に振り下ろされ――

はーっ！

　寸前、刃はクライヴが手にした槍の柄で止められた！

　シンザン　

シャアアアアア！！

すごい使い手だな。もう少しで真っ二つだった。

　ヘクトル　

シンザン殿の一撃を受けるとは、なかなかに見事な守りよ。いまどき感心な若者だな。

　シンザン　

何故、斬レヌ……！

＜征討軍＞にも腕が立つやつがいるじゃないか。

　クライヴはシンザンに斬られて海に落とされた一件を、すっかり忘れていた！

お世話になっております！

　ウォルターはシンザンに名剌を差し出し、一礼した！

　シンザン　

シャアアアアア！！

　名刺は真っ二つになった！

おやおや、マナーを知らない方ですね。

どうするんだ、ミスター？

　ウォルターの手にした鎌と、ヘクトルの両手の盾が激突する！

おいとましたほうが、よさそうですね？

story

　片や征討軍の将軍――

　片や商社マン――

　二人は戦いながら、峩々たる峰のふもとにまで移動していた。

お世話になっております！

　ヘクトル　

本日はようこそおいでくださいました！

　ウォルターの振るう鎌は、地表の岩をやすやすと切り裂き、＜盾の国＞国王の首級を狙う！

失礼いたします！

　ヘクトル　

用件のみにて失礼します！

やるな！

　ウォルターの鎌は、ヘクトルの盾によってブロックされた！

さすがヴァランガ家の誇る複合装甲ですね。

　ヘクトル　

こちらは弊社の主力商品となっております！

強度！　耐久性！　重量！

いずれも超一級品の品質とお見受けいたします！

　ヘクトル　

過分なご評価いただき、誠にありがとうございます！

ですが――お高いのでは！？

　ヘクトル　

リスクヘッジのコストとお考えください！

　ウォルターは遠心力をかけながら、鎌を全力で振り下ろす！

　ヘクトル　

フルガードオオオ！！

弊社の経済力を威力と変える、弊社の攻撃ソリューションを――！

耐え、凌ぎ、防ぎ、守る！！　それがヴァランガ家の衿持である！

貴様らが……いくら金を積み上げようと！　この守りを貫くことかなわぬぞ！

　ウォルターは、指先で眼鏡の位置を修正した――

その点につきまして、一点わたくしから申し上げておかねばならないことが。

　ヘクトル　

と、申しますと？

ビジネスを――なめないでいただけますでしょうか。

　ヘクトル　

攻めの経営――見せてもらおうか。

この一撃を、ご査収ください！！

story

　鉄壁の守りと攻めのビジネス――両者の戦いは激化していく！

　ヘクトル　

貴様らのビジネスプランは何だ！

＜商社の島＞カンパニアは、＜通商同盟＞の要――

弊社およびカンパニアは、今回の戦争プロジェクトにおいて、ペネフィットをコミットする立場でございます。

　ヘクトル　

帝国と連邦加盟国相手に、多角的なビジネスを行われているとかフルガード！！

その通りでございます。

ですが我々は征討軍の皆様とビジネスを行っておりません。

御社はいかなる手段をもって多額の戦費を調達されたのです？

　その点については、確かにヘクトルも気になっていた。

　盾の製造販売が主産業である＜盾の島＞。ヘクトルはその国王。

　軍というものが資金無しには動かぬものと理解している。

御社のご意見を伺えますか？

弊社の見解では、資金の供給者は――海の底かと。

　ヘクトル　

根拠は何だ！！

征討軍と連邦は、ニアリーイコールなのではありませんか？

　ヘクトル　

御冗談を！

パーフェクト・フルガード！！

　ヘクトルは盾で殴り掛かる！

　ウォルターは鎌で盾の突進を受け止める！

砲撃ソリューション！？

　ヘクトルの背後より、飛行艇が飛来してきた――！

　ヘクトル　

興味深いお話、誠にありがとうございました。

悪く思うな。脅威は排除する！

　凄まじい砲撃が、商社マンに襲いかかる――だが！

イノベーション！！

　ヘクトル　

何ッ！？

　ウォルターは上空を飛来した飛行艇に飛び乗った！？

ｊｐｇ

横から失礼いたします。

征討軍・兵士

何だ貴様は！

　兵士は銃を撃った！

　だがウォルターは一礼して銃撃をかわし、兵士に名刺を渡す！

　そして間髪入れず首筋に一撃！　昏倒させて眼鏡の位置を修正！

誠に恐縮でございます。

　ヘクトル　

どりゃああああ！

失礼いたしますー！

　ヘクトルが、気合で飛行艇に飛び乗ってきた！

ご苦労様です！

　ヘクトル　

そちらこそご苦労様です！

いい加減にくたばれ！

謹んでお断りいたします！

　甲板で戦い合う二人を乗せ、飛行艇は山頂へと飛翔する！

story

　クライヴは、銀竜と共に山脈の上を飛んでいる。

征討軍の航空部隊か――！

　飛来するのは＜征討軍飛竜騎兵団。そして――

追ってきてるのか……！？

　シンザンは、ほぼ垂直の崖を、弾丸の速度で駆け上る！

　ルーンの力を借りれば、決して不可能な芸当ではない。だが――

あれだけ走って、疲れないのか？

　ルーンを使うためには、生命の力。ソウルが必要である。

　シンザンのソウルが無制限なのか。

　それとも――

ルーンの力を使ってない――

　シンザン　

イヤアアーッ！！

何だと――！？

　シンザンは、飛んだ――

　そして空中のクライヴめがけ、その凶刃を振るう！

くっ……！

　ヴィエム　

ギュオーン！！

　クライヴとシンザンは、一撃に弾かれ、急降下する！

　＊＊＊

　切り立った峰の頂点に、剣を極めしものは着地した。

落ちていく敵を、確認すらしない。悪鬼の如き形相は消えている。

　シンザン　

ヴウ……

　シンザンは剣を鞘におさめ、天を見上げた――

三度の激突、いずれもシンザンが圧倒したはずである。

　シンザン　

……ヴウッ……

　もとより敵はーシンザンにとって敵とすら呼べない小物である。

　ドラゴンに乗っていようが。どれだけの資質があろうが。そんなことは問題ではない。

　あれは＜修羅＞ではない。争いに生きる者ではない。

　シンザン　

俺ハ……斬ルッ……

　己を斬るにいたるのは、己と同じ修羅だけであろう。

　シンザン　

斬ルタメニ――コノ俺ハ――

　全てを投げ捨てた――己の命さえも。

story

　岩陰に身を隠しながら、クライヴは荒く息をつく。

　周囲には、凄まじいまでの地吹雪が吹き荒れる――

　ヴィエム　

ギュギュイーン！！

　この嵐の中で飛び立つのは、おそらく自殺行為であろう。

よしよし。

　岩肌に激突する寸前、ヴィエムはなんとか持ち直し、その翼をはためかせて衝撃をやわらげた。

しかし参ったな。こんな山奥で立ち往生か。

　ヴィエム　

ギュイーン！！

＜暖房のルーン＞を持ってきてよかった。でも山で過ごす装備なんかもってないぞ。

　ヴィエム　

ギュオーン！！

携帯食料は……あったあった。

……なっ、凍ってるな。

　クライヴは、凍った携帯食料を、暖房のルーンで温める。

　ヴィエム　

ギュインギュインギュオーン！！

ギュオオオーン！

元気だなお前は。

　ヴィエム　

ヴルン……ヴルンヴルンッ……

ヴウイイーン！！

俺を、励ましてくれてるのか？

　ヴィエムは突然黙った。

ただ鳴いてただけか！？

　ヴィエム　

キュルキュルキュルキュル……

まあいいか……それにしても、さっきの奴……リアムの奴と同じ、ソウルそのものを操る剣技の使い手ってやつか。

ソウルを操れば、柔軟に戦える。修行の厳しさは相当らしいから、一長一短だけどな。

　ヴィエム　

ギュオーン！！

でもさっきのヤツ……ソウルを使う以外にも、何か変な感じがしたな。あれは何だ？

無意識で戦っているというか、変な話だが、眠りながら戦っている感じだった――

…………

……

　シンザンは、峰の上で静かに待つ――

　シンザン　

グフウ……

　シンザンは、瞬きをしない。見開いた眼で、じっと辺りを見据えている――

story

　凍りついた峰の山頂に――何かがある。

　一見すると吹雪にさらされた古木のようだ。だがよく見ると。

　＜それ＞は人型をしている。

　シンザン　

……ヌウウ！

　突如目を見開いた＜それ＞は、跳躍を行った！

……

　クライヴは、ヴィエムにまたがり、山脈を見下ろしながら飛ぶ。

　ヴィエム　

ギュギュギュオーン！！

絶好調だなヴィエム。

……ふー。昨日は寒かったな。

　ヴィエム　

ギュイン？

お前、寒さに強いもんな……！

　ヴィエム　

ギュオーン！

……いいよなお前は。……む。

　――それは、殺気だった。

あいつか――

　――クライヴの目の前に、それは立っていた――

　クライヴは騎士であった。故に迷わない。

　白銀の稲妻となった騎士と竜は、一匹の修羅に突撃する。

行くぞ！！　ヴィエム！！

　シンザンは、抜いていない。

　シンザン　

――ウヴ。

　武人は――考えていた。いや、それは思考というより。白昼夢に似ている。

　剣一筋に生きてきた。剣以外の全てを捨ててきた。故に己は頂にいる。

　一カ一即殺。

　武人が抜いたのは、凶剣である。

　ソウルによって己の抜刀という事象そのものを＜加速＞。

　その一撃はあらゆる事象を追い抜く。

　直感であろうが、予測であろうが、分析であろうが、全ては無効。

はああああ！！

　いかなドラゴンであろうが、騎士であろうが――

　あらゆるものを、両断する！

story

　飛行艇の上での戦いは続いていた。はずなのだが……

　ウォルターは＜情報の精霊＞を耳に当てて＜依頼＞をした。

＜情報の精霊＞様、本社につないでください。

　情報の精霊は、ソウルを通じ、契約者同士の会話をつなげることができる！

ウォルターです。征討軍のキーマンの一人と接触いたしました。

はい、こちらでリサーチを続けさせていただきます。

　ヘクトルは飛行艇の通信機に向けてがなりたてた！

　ヘクトル　

基地の防衛にぬかりはないな。

結構結構。こちらは用件をすませたらすぐに戻る。

おや。

　ヘクトル　

むっ……なんだと！？

　二人の目の前で――山が、横に真っ二つになった！

　＊＊＊

　凄まじい攻撃と共に、寸断された峰を前に――シンザンは、刀の腹で、槍の一撃を受け止める！

　シンザン　

ヌウウウ！！

この一撃に――全てを込める。

ギュオオオーン！

　交差の一瞬、シンザンは悟った。

　己の一撃はたしかに騎士をとらえていた。

　だが騎士は、その一撃を耐えきったのだ。

　飛行艇の甲板より、ウォルターとヘクトルは、成り行きを見守る。

　ヘクトル　

鉄壁、見事なり！

ルーンとソウルをすべて防御に回しての突撃ですか。

ミスタークライヴ、流石です。

　シンザンは見抜いた。起こったのは、ただの威力の激突ではない。

銀のドラゴンライダーは、ルーンとソウルの力で、事象が完結する前に、＜可能性＞を凍らせたのだ。

恐らく、無意識のうちに――

騎士の誇りにかけて！

　誇り――

　己の人生に、そんなものがあっただろうか。

　白銀の騎士の打ち込みをシンザンは受け止める。

　この騎士は――なんと多くのものを背負って戦っているのだ。

むっ……！？

　シンザン　

――ヌ。

おや、これは。

　ヘクトル　

雪崩か！！

story

ぐあっ……！

　逃げ遅れたクライヴとヴィエムは、雪崩に半ば巻き込まれながら、斜面を押し流される！

　シンザン　

ヌウウウウオオオ！！

　修羅の形相のシンザンが、雪崩と共に襲ってきた！

　シンザン　

ジャアアア！！

くそっ、相手をしている場合じゃ！

　一方飛行艇の上では！！

　ヘクトル　

くそっ！飛行艇を傾けろ！

征討軍・兵士

イエッサー！

おっと、これはいけませんね。

　ウォルターは、眼鏡の位置を修正しながら、飛行艇から落下した！

やれやれ。困りましたね。

ミスターウォルター！！

　クライヴは、吹きとばされたウォルターをキャッチした！

お世話になっております。クライヴ様。

　ヴィエム　

ギュオーン！

　ヴィエムは寸前で、垂直に飛んだ！

ヴィエムー！！

　ヴィエム　

ギュルルルオーッ！！

……

　ヘクトルは飛行艇の甲板から、ドラゴンライダーとビジネスマンの動きを追う――

　おかしな連中だったが、とてつもなく、とてつもなく手ごわい！

　ヘクトルは、己の血が沸き立つのを感じた。

　ヘクトル　

シンザン殿も――同じ気持ちであらせられますかー！！

　シンザン　

グォアアアアフアアアアア！！！

　ヘクトル　

……むうっ！？

　それは、ヘクトルが知るシンザンという男ではない。

　修羅が取り憑いているのか。

　それほどまでに、争いに餓えていたのか――

　シンザンの体が、巨大な異形へ姿を変えた！？

　＊＊＊

一点申し上げたいことが。

……どうした、ミスターウォルター。

現在地点は征討軍が支配する

レッドオーシャンでございます。

留まるのはハイリスクかと。

ヴィエムを思い切り

飛ばしていたら、なぜかこうなった。

早急な方向転換が

必要ではありませんか？

　シンザン　

グウオオオ……！

追ってきたか――

　シンザン　

斬ル……！！

ウウグアアアアアア！！

この気配は――！？

成程、そういうことでしたか。

あれほどの武人が――

　＜闇＞は全てを呑み込み、裏返し、覆す――

いかがなさいますか？

ミスタークライヴ？

俺は今、少々腹が立っている。

お気持ちお察しします。

伝説と呼ばれた剣の達人、シンザン・ゼラーグ殿。

不肖このウォルター。

貴殿という脅威の撃退というミッションに、ジョインいたします。

　シンザンは――武人に残された最後の魂は、――笑った。

　目の前には、強者がいる。ならば己は、戦うまで――

BOSS シンザン

story

　シンザンが＜鎖の島＞ゴイゼンに向かったのは、無双の強者といわれていたドレイクという海賊と相対するためであった。

　だが、島には＜罪の教団＞の狂信者たちがいるだけだった。

　シンザンは斬った。襲ってくるものは残らず。

いや、ただ一人……あの小さな赤毛の子供は。

　シンザン　

俺ハ……

　なぜあの子供を、斬らなかった。シンザンは今更ながら。自問自答する。

　あの少年が――背後にいるもっと若い子供たちを守ろうとしていたからだろうか。

　少年の瞳の、純粋すぎる殺意に。己の失った切実さを見たからか。

ハハ……ハハハハ……

勝ったな――

恐らく――

伝説といわれるまでに、極められた剣でも、こんな風に終わってしまうのか。

私のような若輩者が言えたことではありませんが――

人は場違いに生まれ、道半ばで死ぬ。そういうものであるかもしれません。

　上空から、飛行艇と征討軍飛竜騎兵団が迫る！

征討軍・兵士

白き光のために！　＜闇＞を滅ぼせ！

どうぞ、ミスターウォルター。

これは助かります。クライヴ様。

　ウォルターは、ヴィエムの背に乗った！

　ヴィエム　

ギュオオオオーン！！

このまま大神殿までお願いしますよ。

クライヴ様、ヴィエム様。

了解した。

少し骨が折れそうだがな！

　＊＊＊

　飛行艇の甲板上より、ヘクトルは全てを見ていた――

　ヘクトル　

撮影はしたな？

征討軍・兵士

将軍――あれは、シンザン将軍では――

　兵士の手には、ルーンカメラがある。

　ヘクトル　

わからぬ――

あの異形を撃退するとは、敵ながら凄まじい力です。

奴らのようなものを、英雄と呼ぶのかもしれぬな。

　　　　＊＊＊

英雄は竜を駆る。

凍てつく白銀の輝きが、まだ見ぬ明日を切り開く。

英雄は黄金の鎌を振るう。

それは繁栄への祈りにして、栄光の輝き――