空戦のドルキマス Story2
ドルキマス軍への合流
いいか、貴様。ドルキマス国シャルルリエ軍に身をおくのなら、軍の規定は必ず守れ!
ガライド連合王国という大国を、ベルク元帥率いる軍が滅ぼして以降の我々は――
隣国にも、大陸奥にいた強国にも、ドルキマスは危険だと知らしめたのだ。
軍に所属する人間がその体たらくでは、強者であることを示せないではないか!
たとえ貴様が弱かろうと、強者であると誇示し続けなければ、国は守れな――
あー、ドルキマス国シャルルリエ軍整備担当……だったんだが。
だけど、だった……というのは?君は疑問を投げかけた。
ヴィラムは君に近づき、そっと耳打ちをする。
子守……
う、うちの軍は、ほら、荒くれもんが多いから、そいつらを指して――ああ、痛いッ!
クラリアの嘆息とともに、カツン、と小気味よい音が船内に響き渡った。
君とウィズは、知らず背筋を伸ばしてしまう。
無論、その音の正体は――。
君はウィズのぼやきを慌てて止める。
下の人間の軽口を軽くいなして、ディートリヒは君に目を向けた。
……君はこの目が苦手だった。
ローヴィに銃口を向けられていたほうがマシだと思えるほどに。
あのクラリアが萎縮し畏まっている。
ヴィラムの言葉を肯定したディートリヒは、表情を崩すことなく続ける。
言っておきますがね、元帥閣下。俺らの戦力は、今日までにおよそ3割りは削られてる。
戦争において軍の3割程度も削られたら、敗戦を認め、撤退するのか常だ。
ふふ、それに何も理由なき戦いを命じているわけではない。
まずあの拠点には資源がある。そこを押さえることで、不必要な部分を切り捨てることができる。
国の不必要な部分、という意味だとクラリアが教えてくれる。
戦争による爆撃の彫響か、元々の地形のせいか、大陸は歩くには困難な地が多い。
君はそんな話を思い出した。
偵察隊によれば、〈イグノビリウム〉に使われているものの、人がいるとのことだ。
そこを解放すれば、人を取り込むことができる。
小国……ドルキマスだけでは限界であった戦艦の増強ができる……ということだろうか。
あんな軍……それはきっと〈ファーブラ〉や〈ウォラレアル〉のことだろう、と君は察する。
ディートリヒが背を向けたのを見て、君は胸を撫で下ろす。
君も同調し、わからなかった、と口にする。
だけど〈イグノビリウム〉には、攻撃がきかない、というような話を聞いた、と君は言う。
だからぶつけてやるのさ。
ヴィラムが拳を握り、ぶつけあう。
戦艦と戦艦をぶつけて乗り込んでしまえば、アレらはわたしたち同様、生身だ。
太刀打ちはできる。
クラリアの瞳が静かに、しかし強く燃えている。
湾岸造船施設
船の清掃をしている最中、ふと呼び止められた。
しかし、いったいどこの誰なのか、君は思い出せない。
ドルキマス国シャルルリエ軍に所属する――ああ、大尉だ。元は整備班にいたんだが……。
君はウィズが囁いた言葉を、そのまま口にした。
整備の人間が突然ここに配属になるなんて、聞いたことがない。
あっ、これ中将には秘密な。知れたら何されるかわかったもんじゃない。
君は頷く。少し……いや、すごく言葉の“キツイ”女の子だ。
足音を響かせながらやって来たクラリアが、君を見上げてそう言った。
クラリアはつまらなそうに言って、君から目をそらした。
クラリアが声を荒らげることなく、ヴィラムを手で制する。
そのとおりだ、と君は頷き、クラリアに問いかける。
ここに魔道艇を運び込んだとき、君はずらりと並ぶ戦艦を見て言葉を失った。
紛れもない武力と壮観さにアレだけ驚いたのに、クラリアはまだ足りないという。
そもそも〈イグノビリウム〉が持つ戦艦には、火器の類が一切きかないからな。
全く馬鹿げている、とクラリアは呟く。
俺らの技術力、あるいは科学力じゃ防ぎきれないからな。
使えないものだとしたら切り捨てる。使えるのなら、“的"にでもなってもらう。
貴様、覚悟はできているな。
君はクラリアの問いかけを前に、思わず頷いてしまった。
まっすぐ進み、まっすぐ落とせ。容易だろう?
クラリアの言葉を聞いて昂ぶる兵たちが、高らかに叫びだす。
君は首を傾げた。
まっすぐ進めばいいのであれば単純でいいけれど……
ま、中将は見ての通り、“ああいう人"だし、うちの連中も“こういう奴ら"ばかりだ。
ヴィラムが小声で耳打ちしてくれる。
確かに、と君は思った。
クラリアの部下らしい人たちは皆、どこか感情が突き抜けてしまっているような、
そんな言葉にしづらい印象を受けた。
中将たる所以……君にはそれがわからない。
ただなんとなく、ここの兵たちのように、鼓舞されたような……。
“熱さ”を感じてしまった。
君は、はたと思い出す。
銃撃や兵器の類が一切きかない戦艦を持つ〈イグノビリウム〉……。
そんなものを相手に、真正面からぶつかるだなんて、“狂気の沙汰”だ。
君の不安を掻き消すように、ヴィラムが声を発する。
奴らは俺らのように思考することはないが、向かってきた連中を叩くことぐらいはできる。
しかしだからといって、背後に隙があるとは思えん。
どんな技術か、どんな力か、向かってくる者を遥か遠くから察知し迎撃するだろう、アレらは。
君とウィズの驚きをよそに、クラリアは至って冷静に続きを促す。
つまりこれが使えないなら即時撤退、使えるなら囮にして、敵を背後から殴ると言いたいんだな?
君は彼らの話に口を挟もうとするが――。
魔道艇に3隻、我々の戦艦をつける。何があっても生きて戻れ。
……自分たちを囮にするのでは?と君は問いかける。
見極めた上で、ベルク元帥に報告しなければならない。囮などという冗談を真に受けるな。
とにかく魔道艇が使えようが使えまいが、我々が死んでも護り抜く。
いいか、貴様が最優先するべきは、生きて戻ること。そして魔道艇を傷つけないことだ。
君とウィズは、ぽかんと口を開いたままクラリアを見つめる。
君は慌てて、はい!と返答する。
クラリアは満足気に頷き、身を翻した。
君は、そうだね、と口にした。
これから彼らドルキマスが所持していたものを取り返しにいく……
だというのに、ともすれば和やかともいえる空気感はいったい何なんだろう?
いったいどこから現れたのかすらわからないくイグノビリウム〉を、
――いや、銃火器、兵器が一切きかない戦艦を持つ脅威を打破する術を、彼らは持っているのだろうか?
だから恐れず進め。貴様の魔道艇が、〈イグノビリウム〉にとっての脅威だと知らしめてやれ!”
船の上――ちょうど風のあたる場所で休んでいると、ふとぞんざいな声が飛んできた。
君は素直に、休んでいた、と伝える。
“戦った”あとの疲労感と虚脱感が、体に重くのしかかっていた。
敵艦に砲撃がきかないと知っているシャルルリエ軍団は、
自らの戦艦をぶつけることで足止めをさせ、相手側に乗り込み白兵戦を繰り広げる。
それが異常なまでの疲労感の原因だろう。
手渡されたのは水筒のようなものだった。
蓋を開くと、ほのかに甘い香りが漂ってきた。
君は、その茶園はどうしたの?と尋ねた。
忌々しげに吐き捨てるクラリア。
そうだ。
幸いドルキマスの戦艦は沈まなかったけれど、かなり消耗――いや、打撃を受けていた。
それだってヴィラム日く、「奇跡のようだ」という話だ。
貴様はこれ以上にない、我が軍の戦力だ。
どういうわけか――〈イグノビリウム〉の兵は、魔道艇を狙い、そして魔道艇を恐れていた。
そして君自身の魔法も、彼らにはとてつもないダメージを与えた。
だからドルキマスの戦艦が無事であったとも言えるのだが……
得意気に、強気な笑みを見せながらクラリアは言う。
停泊している魔道艇に乗り込んできたヴィラムが、呆れ果てたように口にした。
そうだといいんだけど、と君は呟く。
だけど守られているばかりではダメだと、君は思う。
1日2日でひとつの拠点を落とすことができないとは思っていたけれど、
まさかここまで時間も、人も、そして自分自身の精神も、すり減っていくとは思っていなかった。
まだ近くの拠点をひとつしか落としていない。
大陸には100を超える国があったというし、長い道のりになりそうだ。
君から水筒を受け取ったクラリアが、不敵に笑う。
そうしてクラリアが背を向け歩き出したのを、君はウィズ、ヴィラムとともに跳めていた。
ヴィラムの言葉が、やけに耳に残っていた。
鉱石資源発掘場
ウォラレアルの里
ウィズに言われて、思い出す。
呑気に魔道艇の清掃をしている場合ではない。
突然現れたローヴィが、ほんの少し表情を緩ませてそう言った。
君は曖昧に頷く。
ここに果て何日経ったか覚えていないけれど、魔道艇が使えると考えたらしい彼らは、
ようやく君自身のことを仲間だと認めてくれたらしい。
それは、君がここからクエス=アリアスに戻るためにも、重要な一歩だった。
会話が途切れたにもかかわらず、ローヴィは立ち去らない。
ウィズもどことなく緊張しているようだ。
あの銃で撃たれたことがトラウマとなって、蘇ってきた。
君は仕方なく、どうしてここに?と問いかけた。
君は思わず驚きの声を上げる。
いったいどうして――。
……というのは、あくまでも建前ですが。
建前……というのを、ここで言ってしまっていいのだろうか。
つまり怪しい行動を見せたら、撃つ、ということだ。
全くだ、と君は思う。
だが……だからといって、逃げ出すこともできそうになかった。
***
……む。ローヴィ。何故、貴様がここにいる。
ローヴィ。邪魔だけはしてくれるなよ。仮にも、こいつはドルキマスの戦力だ。
君も同じことを考えていたが、理由は聞くに聞けない。
とヴィラムが囁く。
あえて理由は聞いていないが、まあ、魔法使い殿が気にするようなことじゃないさ。
そう言われてしまっては、やはり口を挟むことはできない。
とうのクラリアは、既にローヴィに目を向けていなかった。
自軍の兵に向け、彼女は声を発する。
だが魔道艇に遅れをとったこと、忘れてはいないだろうな。
たった“1つ”に、貴様らは劣っていると、あの戦いで証明されてしまった。
兵を鼓舞するのは、上官の役目だと言わんばかりに、クラリアは声を張り上げる。
彼らは、君をちらりと見やったあとで、関の声を上げる。
巨大な戦艦が揺れんばかりの声だ。
シャルルリエ軍団を出し抜こうと考える輩も、決して少なくはない。
しかし我々には、魔道艇を含め、過去の戦争で無敗を誇る力がある。
〈イグノビリウム〉の連中を討った先の戦いを思い出せ。
我らの力が、奴らに劣っていないと――いや、奴らよりも勝っていると、貴様らは知った。
いくぞ!次の戦いで我らシャルルリエ軍団の脅威を、奴らの体に刻み込んでやるんだ!
お腹の奥底に響き渡る“少女の声”は、それだけで君にも熱を与えた。
ウィズも例外ではないようだ。
ローヴィの声に頷き、君は魔道艇へと向かった。
ウィズが指しているのは、ローヴィのことだ。
〈イグノビリウム〉という敵との争いなのだから、緊張感はあってしかるべきだが、
無言を貫き、君の背後に立つ彼女の威圧感たるや……
君の視線に気づいたローヴィが、特別気にした素振りもなく問いかけてくる。
君は誤魔化すように〈イグノビリウム〉とは何なのか、というような質間を投げかけた。
しかし、恐らく貴官も見たでしょうが、アしらはまるで灰や塵のように消えていく。
“人間の形”を模してはいますが、我々とは作りが根本から違うようです。
魔法みたいなものを使ってるように見えたけど、誰かが作ったモノのような気がするにゃ。
ウィズの言葉とローヴィの言葉……君はまだ理解しきれていない。
無限ともいえるほどに、どこからか湧き出てくる敵を倒すのに精一杯だったからだ。
そして名を持たぬ者は、瞬く間に勢力――いや、暴力によって大陸に君臨することになりました。
……ドルキマスより遥かに力のあった国々も、“戦い”、そして散っていった………
力があったのに、そんな簡単に負けてしまったのか、あるいは逃げ惑ったのか……
君にとって、それは定かではなかった。
それはもはや戦争と呼べるものではなく、蹂躙。言葉を必要としない暴力でした。
奴ら――大国の連中は、間抜けが過ぎたという話じゃあないか。
どれほどの武力を持とうと、しょせんは貴族だ。礼節を重んじる?ふん、笑わせるな。
運動競技と勘違いしていたんじゃないか?馬鹿者どもめ。礼に始まり礼に終わる戦があるか”
クラリアは、通信機越しに忌々しげに吐き捨てる。
長く戦争を見てるが、未だに手が震える。楽しげだなんて馬鹿言わないでください。
俺は緊張で死にそうだ。要するにそういうことです”
気持ちを強く持つために、無理やり自分を騙している、というような……。
通信機を終えたローヴィが、つまらなそうにぼやいた。
君は、その言葉を聞かなかったことにする。
浮遊する大地
他軍から回すほどの戦力的余裕はなく、何より撤退戦など、あの中将が認めるはずもありません。
そんなに損耗が激しいだなんて……。
君は、2、3割も削られたら撤退を視野にいれる、とヴィラムが言っていたのを思い出した。
何日ぐらい戦ったのか、君にはこの“戦争”が、無限に続くように思えた。
必至に〈イグノビリウム〉に対抗しているのに、そんなに損害が出ていることもショックだった。
役資……そうだ。君は守られていた。
〈イグノビリウム〉は魔道艇を狙い、魔道艇に向かってくる。
その数がひとつ、ふたつ程度なら問題なかったかもしれないが、
無数の戦艦が攻めてくる以上魔道艇が“ひとつ”だけではどうしようもない。
……君は、それはディートリヒの命令なの?と訊いた。
それならばなおさら、君ば守られで戦うべきではない、と考えた。
仲間……と呼べるかはわからないが、君を守るため傷つく人を見たくない。
ディートリヒの言葉を理解できず、君はローヴィを見た。
だが、そんなこと知ったことではない、とばかりに彼女は歩き出した。
ドルキマス国シャルルリエ軍団は、他国との争いに打ち勝ち、
〈イグノビリウム〉の侵略をおさえていた、いわば国内最大の戦力であった。
軍内において“不死身”と、他国からは“戦争狂”と比喩されるクラリア・シャルルリエ。
〈イグノビリウム〉が大陸に降り立って以降、彼らと幾度も相まみえることがあったものの、
その全てで一度の撤退もないドルキマスの武力が今、最大の窮地に立たされていた。
〈イグノビリウム〉は、視界に入った敵を攻撃する、特別な策を練らないもの。
まっすぐに進み、邪魔者を踏み潰すだけのもの。君はそのようなことを聞いていた。
だから向かってくるものを排除しに動く、いわゆる――
前方から無数に押し寄せてくるだけと――もしかすると、侮っていたのかもしれない。
囲み込むように現れた〈イグノビリウム〉が、君たちを撃つタイミングを見計らっている。
クラリアの、よもやあっけらかんとした声音に、君は驚きを禁じ得ない。
君は必死に言葉を探し、そんなことはできない!と叫んだ。
みすみす仲間を見殺しになんて――君にはできなかった。
それは受け入れがたい命令だ。自分も仲間も助ける、君はそう誓った。
……それはたとえ銃を突きつけられても、敵の群れに囲まれても、決して曲げてはいけない――そう思った。
君は、「前へ進む」ことを伝える。
下がって敵に背を向けたところを、狙い撃たれる可能性だってある。
魔道艇は君の魔力に反応するが、魔力がどうあれ、速度には限界がある。
むしろ今こそ――“魔道艇”が囮になる必要があるのではないだろうか。
君は、それを伝えた。
そもそもこうした行動に出るようになった〈イグノビリウム〉が、魔道艇だけを狙うとも限らない。
無謀でも、決して無策ではない。
魔道艇は、〈イグノビリウム〉が持つ戦艦の攻撃に十分耐えうる。
それが1度だけなのか、2度なのかはわからないが、通常の戦艦が喰らうよりはマシだろう。
後頭部に銃を“突きつけられる”感じがあった。だけど君は、かぶりを振る。
“最も重要な戦力だからこそ、最も重要な今この局面で使うのだ”
作戦変更だ。いいか魔法使い、必ず道を開け。それとひとつ勘違いはするな。
撤退ではない。“道を開くんだ”――戦うために。奴らに負けないために!
聖なる天樹
君は頷く。眼前の男性は、普通に“言葉”を喋っているように聞こえるが、
どうやら彼女たちには、わからないらしい。
どうやらアンタらの軍は、今散ってるって言うじゃねえか。
こいつらは能のない連中だが、この程度の情報ぐらいはどうにでもなるわな”
君は、わかる、と口にする。
まァ、アンタらが前に来ることはわかっちゃいたんだ。だから……
“アンタらの持ってる拠点”をひとつ攻めさせてもらったぜ”
君は言葉を失った。
背後にいるクラリアたちには、ただの雑音にしか聞こえていないのかもしれない。
君は、眼前にいる男が言った言葉を、そのまま伝えた。
残念だが、そいつはまたの機会にさせてもらう。大事な仕事はさせてもらったしなァ!”
男は、それだけを言い残し、足早に戦艦へと戻っていった。
仮に“そうだったとしたら”、あの男は死ぬよりも苦しい目にあわせてやる。
魔道艇の外で、かつて拠点だった場所を眺めていると、ヴィラムが話しかけてきた。
クラリアが声を荒らげ、ローヴィに詰め寄る。
苛立ちを抑えきれず、クラリアは地面を蹴り上げた。
あのディートリヒ・ベルクが行方不明だなんて、君にとっても認められなかった。
冷淡な言葉を前に、クラリアの表情が一変する。
また所有していた国土の約3割程度を侵略されたとの報告がありました。
君も、そうだね、と言ってあたりを見回した。
兵の士気が落ちているだけではない。
シャルルリエ軍団も、何とかあの包囲網から逃れることができたが、
ごっそりと戦力を奪われてしまっている。
一時的ではありますが、軍の指揮権はアンタにあるんだ。決めてくださいよ。
君は首を横に振る。
〈イグノビリウム〉の戦艦から放たれる特大の魔法を受けてなお、君の魔道艇は沈まなかった。
身ぐるみ剥がされて、“痛い目”を見るくらいなら、いっそのこと逃げてみますか?
逃げる……ここからどう逃げるというのだろうか?
海の向こう?確かに戦艦なら海を越えることはできるかもしれない。
だがその先に何があるのだろう?まだ平和に暮らしている国々が存在しているのだろうか?
あるいは、既に侵略され、君が見てきたように苦しい日々を過ごす人々が……
“もはやそんな人がいるかさえ、怪しい”とさえ思える状況だ。
ま、ドルキマスにいったいどれほどの人間が残っているかって話ではありますがね。
ヴィラムが髪を掻きあげたその瞬間、
今、退かなければ待っているのは――うぐッ!待ってください、中将。本当に痛い!
ヴィラムのすねを取り飛ばしたクラリアが、君の目の前まで近づいてきて言う。
わたしがいればシャルルリエ軍団が死なぬように、国民がいるうちは国も死なない。
だから命を賭して守る。国と、国に住まう人々を。それにな、貴様ら。わたしは命令を受けたぞ。
撃滅しろと!敵を殲滅し、大陸の全てを取り戻せと!わたしはベルク元帥から命令を受けた!
退けるものか。船を失い、首だけになろうと、わたしは奴らを撃減する!いくぞ魔法使い!
そう言ってクラリアが歩き出す。
――その熱いクラリアの言葉に引っ張られるよう君も歩を進めてしまう。
しかし、国や人々を守ると言われては、その思いを無下にすることはできない。
そう言いながら、残ったふたりも君たちのあとをついてくる。
少なくとも、ドルキマスの要拠点だけは、取り返さなければならない。
ドルキマス要塞
魔道艇を進めながら、君は近づいてくる要塞に目を向けた。
ドルキマス国の前王が、戦争から身を守るために建てさせたという、まるでお城のような建造物。
敵から身を守るだけではなく、迎撃することができる重要な拠点として機能していたという。
君が所属するシャルルリエ軍団、ほか複数の軍が国から離れていたため、今回のようなことが起こった。
人に限らず、近くにあるものを何でもかんでも踏み潰すだけって聞いてたけど、
実際は、作戦をたてる人がいたってことにゃ。
そのとおりだ。君も目の前のことに精一杯で、そこまで考えが回っていなかった。
事実、無数の戦艦、無数の兵たちがただただ攻撃してくる、というだけだったのだから。
突然の質問に、君は答えられずにいた。
怪しい動きを見せたら撃つことも躊躇わないつもりでしたが……
貴官にそのような様子は見受けられません。魔道艇という力があるのに。
君はローヴィの問いに答えず、先行する戦艦に続く。
答えず――ではなく、答えられなかったのかもしれない。
それを察したのか、ローヴィが話題を変えた。
事実、我がドルキマスは過去に例を見ない損害を被りました。
これからどうするの?と君は訊く。
それでいいの?と続ける。
貴官に心配されるまでもなく、これでいいと思うからこそ、私はここにいます。
ドルキマスは、戦わねばなりません。勝つために。
ヴィラムの言葉どおり、要塞は既に〈イグノビリウム〉に占領されていた。
敵艦が周囲を取り囲み、侵入を防いでいる。
そうだ。何度となく戦ってきた相手。
クラリア……クラリア・シャルルリエ中将の言葉で、一層身が引き締まる思いを抱く。
ここに来て、そのテンションを保っていられるのは、シャルルリエ中将だからなのかもしれない。
戦艦をぶつけて敵艦へ乗り込み、敵味方入り乱れての白兵戦。
戦力は削られてしまうが、彼らにとってその手段しかないというのだから仕方がない。
だが……いや、だからこそできうる限り、犠牲を生まないよう、君自身が頑張らねばらない。
心に強い覚悟を持ち、君は魔道艇とともに進んでいく。
敵艦への激突――そして、入り乱れての白兵戦。
互いに折り合い、撃ち合い、時には魔法も飛ぶ乱戦。
クラリエに鼓舞されたドルキマス兵が、勢いを増して突撃していく。
やけに凶悪な武器を携えた男が、ゆっくりと近づいてくる。
君たちを囲み、おびき寄せ、その隙にドルキマスの拠点を奪った男。
君には、男性が――敵意こそあるものの、話りかけてきているだけのように思えた。
だが要塞を奪ったのは事実。君にとっての敵でもある。
巨大な兵器を君たちに向けて、エクサヴェルが口元を笑み歪めた。
君はみんなの前に立ち、カードを構える。
***
BOSS:エクサヴェル
***
爆発音とともにエクサヴェルが吹き飛んでいく。
強力な魔法を受けてもなお、エクサヴェルは立ち上がろうとしていた。
一応、これで抑えたことにはなる……ようだ。
あの方……君はそれが誰なのか、気になってしまう。だが……
そう、エクサヴェルを倒したところで、敵兵の動きは止まっていない。
まずは……この拠点を取り戻すことが先決だ。
君は、大丈夫、と微笑むが……この敵の数を前だと、強がりにも聞こえたかもしれない。
ローヴィに問いかけられ、君はすぐに答えられない。
ローヴィの言葉を遮るように、要塞の奥から爆音が響き渡る。
その声を聞き、君はほっと息を吐く。
轟音が今はとてつもなく心強かった。
ウィズの言葉に頷いて、君はぐっと体に力を込める。
これを乗り切り、拠点を取り戻さなければ……!
story
拠点となる要塞を取り戻した君たちは、敵兵を退け、ようやく一息ついていた。
まだ〈イグノビリウム〉の一部を倒したに過ぎない。それに比べて、ドルキマスの損耗は激しい。
おい貴様。飲め。
そういって手渡されたのは、いつだったかの水筒。
それはどこか甘い香りの、特別なお茶だ。
背後から……あの、低く、それでいて鋭い声が響く。
首をぶんぶんと横に振って、言葉にならない言葉を上げるクラリア。
……君は、あのときディートリヒが言った言葉を思い出した。
“なに、どうせすぐ空けることになるがね”
それはつまり、要塞を手放すという意味だったようだ。
君を見下ろすディートリヒが、いびつな笑みを見せた。
しかし言葉の意味がわからず、君は首を傾げる。
アレに囲まれたとき、貴君は前へ出ることを選んだ。それが私の言葉によるものと気づかず。
あとは――貴君らも知っての通りだ。アレはない頭で考えぬき、ここを落とすことを選んだ。
深追いした結果、背後に大きな隙ができた。
そうして〈イグノビリウム〉かここに乗り込んだときには、既にディートリヒたちはここにいなかったのだという。
結果的に被害を出すことなく明け渡すことになったわけだが……
閉じ込めたうえで逆に取り囲み、一気に叩こうという作戦……だったらしい。
どうしてそんなことを、どうしてそれを言わなかったのか、
君はまくし立てるように問いかけた。
悪びれる様子もなく、それどころか愉快げに笑い、ディートリヒは言う。
シャルルリエ中将。貴君に指揮権を与える。最後まで戦い抜いてみせたまえ。
大将以下の行方が知れなかった将も、ディートリヒとともに“潜んでいた”らしい。
いったいどこに、ということを聞いたところで、はぐらかされるのがオチだろう。
分岐
上記のルートを全てクリア後に開放