【黒ウィズ】空戦のドルキマス Story0
「無限に続く、同国と絶望が蠢く【戦争】──
この刹那に味わい、抵抗し、そして戦い続けたまえよ。」
story1 元帥と呼ばれる男
……困ったにゃ。
君は頷く。
これから私たちはどうなるにゃ……?
…………。
後ろを歩くローヴィの視線を感じる。
──彼女が自らの名を名乗ったのは、数分前。君が拘束されたあたりのことだった。
ローヴィ・フロイセ……それが軍服の女性の名前である。
君は今、両腕を後ろ手に縛られ、軍服の女性の部下らしき男たちに囲まれながら歩いている。
全く見知らぬ土地の、全く見知らぬ戦艦の上……独特の空気が漂っていた。
船が飛んだ……という記憶はある。
貴官には、これからとある人物に会ってもらいます。許可なき発言は許されていません。
立ち止まってください。言うまでもありませんが、余計な行動はしないように。
君は言われるがまま足を止め、重そうな扉を見上げた。
元帥閣下は私のように優しくはありません。
"元帥閣下"という聞きなれない言葉は、何故か君の中に残った。
奥へ進むにつれ、周囲の兵に緊張の色が浮かんできている。
この状態で逃げることはできず、君たちは仕方なく従っていた。
……言葉にしづらい空気にゃ。
総員傾注。
ローヴィの言葉が耳に入ってきたのと同時。
君たちの前から、痩身長躯の男性が近づいてくるのが見えた。
彼の、獣のごとき瞳が左右に動いたあとで、君とウィズをしっかりと捉える。
既にお伝えしたとおり、彼の者があの船を動かした──
男が、ローヴィの言葉を手で遮る。
カツン、と音を立てて、ローヴィが下がった。
君を取り囲む男たちもそれにならって、一歩後ろに引く。
私がドルキマス国元帥──ディートリヒ・ベルクだ。貴君の名は?
まるで遠雷のような、ティートリヒ・ベルクの声が体内に響いた。
道化の装いだが、自らの名を名乗るつもりはない、ということか。
ローヴィ。
はっ。
武具の類は一切持ちあわせておりません。そして、この者は──
〈イグノビリウム〉の兵とは違う魔法を使用していました。
魔法──いつ聞いても、陳腐で、胡乱な言葉だ。
あの船……あれを起動させたのは、この者です。
仮に〈イグノビリウム〉の者でないのであれば、使える可能性があるかと。
発言を許可する。貴君の名は?
君は何とか口を開いて、自分の名を名乗った。
結構。よい名だ。
ディートリヒは続けてこう口にする。
ここでは落ち着かないだろう。ついてきたまえよ。
story2 空戦の異界
貴君がどこから来たかは知らないが、この時期にここへ来た愚かさを呪うことになるだろう。
君は口を開かず、ディートリヒを見ていた。
見透かされるような、それでいて締めつけられるような……強い圧迫感があった。
君はそんな圧迫感を抱きながら、愚かさ?と訊いた。
世界の4割を占めるこの大陸には、1年前まで大小合わせて、およそ100の国が存在していた。
我がドルキマスもそのひとつだ。
ここは空戦による──いわるゆる戦争で国力を誇示しなければならない大陸だった。
それができなかった国は、全て大国、あるいは強国と呼ばれる国々に飲み込まれていく。
戦争……ディートリヒの口から出た言葉に、君は慄然とした。
ある意味では、貴君が今、ここに来たのは幸運かもしれないが。
……いきなり銃を突きつけられて、挙句の果てに拘束されることのどこが幸運なのかにゃ。
ウィズがぼやく。
ディートリヒはそんなウィズを無視して、話を続ける。
戦争は終わった。空戦を繰り広げ、国威を示す時代は終焉を迎えた。
言ったであろう。1年ほど前の話だ、と。
戦争が行われていたのは1年前まで……
要するに、争いがなくなり落ち着いた、ということだろうか。
ローヴィ。
ディートリヒが声を発すると、どこからかローヴィが姿を見せる。
元帥閣下の仰るとおり、戦争の時代は終わりました。
ドルキマスを除いたほぼ全ての国が"飲まれて"しまったからです。
飲まれた……。
君は、瞬時に意味を理解できず、ディートリヒ、ローヴィを交互に見やった。
〈イグノビリウム〉が大陸に降り立ったからです。
〈イグノビリウム〉……その言葉には聞き覚えがある。
〈イグノビリウム〉は一夜にして大陸に広がり、大小問わず、様々な国を壊滅状態にしました。
……戦争ではない、というのはつまりそういうことらしい。
為す術もなく、各国の軍が敗北を喫しました。
現在、抵抗できる戦力を持った国は、我々ドルキマスのみ……。
幸運だったのは、使い捨ての兵を利用し、〈イグノビリウム〉を陽動できたこと。
敵国へ目を向けさせれば、時間は十分に稼げる。
使い捨ての兵……?
ウィズの疑問と君の疑問は、ローヴィの声にかき消される。
何より、船がありました。貴官が"どういうわけか"横になっていた船が。
私たちはアレを"魔道艇"と呼んでいます。
魔法の類が使えないと起動しないものだと、過去の文献に記載されていたな。
他国にどれほど存在していたのか、あるいは我々の国にしかないものなのか定かではない。
造船に優れた国だが、我々では手に負えん代物だ。
廃棄することもできましたが、〈イグノビリウム〉がこれを恐れているのなら……。
使わない手はない、ということ──だとローヴィは言う。
貴君は、魔道艇を使用し、〈イグノビリウム〉を殲滅する。
にゃ!?
君とウィズは、驚きを隠しきれなかった。
何故、自分が戦いに参加しなければならないのか、君は全く理解できない。
もとより選択権はありません。
してもらう、してください、そういう言葉ではない。
あくまで確定していることとして、彼女は話をする。
我々には戦力がある。
〈イグノビリウム〉を撃滅し、大陸を取り戻すだけの戦力が──。
決然と言い放つディートリヒの瞳には、ここまでに見せなかった色が浮かんでいた。
竜騎軍〈ウォラレアル〉、そして貴官同様、さる場所から〈イグノビリウム〉殲滅のために来た、
〈ファーブラ〉という軍が我々と共闘関係にあります。
これから各軍の指揮官と面通しを済ませてもらう。貴君の活躍には期待している。
あまりにも横暴な話だ。
それに魔道艇という乗り物を使って、君たちが逃げないとも限らない。
そういったことを、彼らは考えているのだろうか?
まるで君の心を見透かしたようにディートリヒは続けた。
私は与えてやるのだ。死に場所と、国のため戦い抜いた栄誉を──。
ディートリヒはそれだけを言い残して、君たちに背を向けた。
……いや、ディートリヒが、そんな隙を見せる男とも思えない。
……逃げ出すだけの気力が湧き上がらなかった。
story3 決断の時
いつから曲芸団になったんだ、ドルキマスは!
面会の場に着いた早々、君は少女の怒号を浴びることになった。
彼女はクラリア・シャルルリエ中将。
我がドルキマス、シャルルリエ軍団の指揮官を務めています。
にゃ!?普通の女の子が指揮官なのかにゃ!?
ベルク元帥はいったい何を考えておられるんだ!
吐き捨てるような言葉は悪いけれど、年端もいかない可愛い少女だ。
あんたが噂の魔法使い殿か。俺はヴィラム・オルゲン。
どうやら彼が彼女の副官を務めているらしい。
先ほどからクラリアをなだめようとして、何度も脛を蹴られている。
あなたが魔道艇を飛ばす魔法使い?
長身の女性が、君に問いかけてきた。
ずいぶん面白い服を着ているけれど……もしかしてそれ、メルヘンの真似事?
君は違います、と返答する。
竜騎軍〈ウォラレアル〉を率いるライサ・ナトゥル将。
ええっと、私はキャナル。キャナル・エアガイツ。よろしくね、魔法使いさん。
竜騎軍の副官は彼女だ。君はよろしく、とキャナルに返した。
と、ライサたちの背後に静かに佇む男性……。
天の使い〈ファーブラ〉を率いるルヴァル・アウルム卿。
して、用件は?アウルム卿は、お前と違って暇ではない。
愛想もなく、そう言ったのが〈ファーブラ〉の副官。
プルミエ・シエルだった。
先程も話しましたが、貴官は彼らの軍に所属し、〈イグノビリウム〉を殲滅していただきます。
あなたが本当に魔道艇を使えるのなら、私のもとに来るといいわ。
使える駒ならわたしがもらう!貴様らのような野蛮なものに預けられるわけがない。
お嬢ちゃん、口汚いのは結構だけれど、ならず者を詰め込んだ野蛮な軍はそちらでしょう?
お、お嬢──ッ、き、貴様ッ!
険悪すぎるにゃ……。
卿ら、不必要な争いを続ける前に多少は建設的なことを話したまえ。
ディートリヒ・ベルクが求めているのは、〈イグノビリウム〉の掃討。
卿もそれで利害が重なったからこそ、ドルキマスという小国と共闘すると決めたのだろう?
…………。
〈ファーブラ〉のリーダーと言われた男性が口を開くと、戦艦の中が静寂に包まれた。
彼の声は、不思議と君の心を落ち着かせた。
私も、私の軍もそうだ。卿らにこの軍を預けるのは、目的を同じくしているからに他ならない。
決して平和とはいえないこの異界。
いったいどうしてここに来たのか、何故こんなことに巻き込まれたのか……。
君には考えなければならないことがいくつもあった。
〈ドルキマス〉クラリア・シャルルリエ中将 |
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使える人間なら、わたしのところに来い。戦争の──戦いの本質を知ることができる。
竜騎軍〈ウォラレアル〉ライサ・ナトゥル将軍 |
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戦うのなら、私のところがいいわよ。今度は私たちが全て飲み込んであげるわ。
天の使い〈ファーブラ〉ルヴァル・アウルム指揮官 |
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決めるのは卿次第だが、退くことはできないものと知れ。
三者の視線を一手に集め、君は所在なさげに上を見た。
キミ、どうするにゃ?
覚悟を決めるしかなかった。
***
「人間が行う戦争の重みを、味わわせてやりたまえよ。」
分岐
(上記のルートを全てクリア後に開放)
空戦のドルキマス | |
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00. ディートリヒ 初登場 (ウィズセレ) | 2014 11/14 |
01. 空戦のドルキマス ~沈まぬ翼~ ドルキマス軍 最終戦 | 2015 10/22 |
02. 空戦のドルキマス 外伝集 | 10/22 |
03. 黄昏の空戦記 ディートリヒ編(正月) | 01/01 |
白猫×グリコ コラボ (メイン・飛行島) | 01/29 |
04. 深き黒の意思 ディートリヒ編(GP2016) | 06/13 |
05. ドルキマスⅡ ~昏き英雄~ 序章 1 2 3 4 5 6 7 | 2016 09/23 |
06. プルミエ(4周年) | 03/05 |
07. フェリクス(GW2017) | 04/28 |
08. 対シュネー艦隊戦 ディートリヒ編(GP2017) | 08/31 |
09. ドルキマスⅢ ~翻る軍旗~ 序章1234567 | 2017 09/30 |
10. 空賊たちの空(ジーク外伝) | 09/30 |
11. 赤髭空賊とジーク(謹賀新年2018) | 01/01 |
12. 元帥の不在(5周年) | 03/05 |
13. 空戦のシュヴァルツ 序章 1 2 3 4 5 6 | 2018 05/18 |
14. リボンを求めて(GW2018) | 08/31 |
15. 月夜の思い出 『魔道杯』 | 09/20 |
16. 血盟のドルキマス【コードギアス コラボ】 序章 1 2 3 4 5 6 | 2018 11/30 |
17. 炊事班の空賊見習い ロレッティ編(GW2019) | 2019 04/30 |
18. 新艦長への試練 ローヴィ編(サマコレ2019) | 07/31 |
19. 売国(GP2019後半) | 09/12 |
20. 決戦のドルキマス ~宿命の血族~ 序章 1 2 3 4 5 6 | 2020 04/14 |