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空戦のドルキマス Story4

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん



1 ファーブラ軍への合流

2 占領された空の島

3 壮大な造船施設

4 占領された要塞

5 敵陣急襲

6 敵の猛攻

7 荒らされた岩山

8 狂気の竜使い

9 汚された神樹

10 神々の聖戦






プロローグ


卿、名をなんと言ったかな。

 君はふとルヴァルに呼び止められ、足を止めた。

天の使い〈ファーブラ〉の指揮官――ルヴァル・アウルム

ディートリヒ同様、欠点のない見目形をしているが、彼は優しげな空気を醸している。

君は、自分の名前、ウィズの名前を名乗った。

ははは――失礼。卿は愛猫に名前をつけているのか。この地の人間にしては、珍しい。

 愛猫ではない、と君は否定する。ウィズは、自分の師匠だ、と以前のように口にした。

重ね重ね異なことを。卿、よもや私をからかっているのか?


???

……アウルム卿。

プルミエ。何かあったのか。

 プルミエ、と呼ばれた女性がいつの間にか、ルヴァルの背後に控えていた。

ここの人たちは、音もなく現れるのが好きらしい、などと君は思う。

ディートリヒ・ベルクがアウルム卿にお会いしたい、と。

構わん。通しなさい。

……はい。

 天の使い、というのも頷ける。

羽が生えているとか、そう教えられたからとか、そんなレベルの話ではない。

オーラのような、あるいは超常的な空気感のようなものを、彼らは持っている。


相も変わらず、貴君らは私を毛嫌いしているらしい。

 ディートリヒ・ベルクが姿を見せると、戦艦の空気が一変する。

今にも切れてしまいそうな張り詰め方に、君は息苦しさを覚えた。

卿はそれを自覚してなお、態度を改めるつもりはないようだ。

そうするだけの理由がない。

して、用件は?アウルム卿は、お前と違って暇ではない。

血の気が多いのは結構だが、戦場で野垂れ死ぬ間抜けは見せてくれるな。

 煽るようにディートリヒが言うと、プルミエが自らの剣に手を伸ばした。

用件だけを言いたまえ。卿がここにいると、皆平静を失う。

 そんなまるで人を悪魔のように言わないでも、と君は思った。

悪魔であるなら、幾分もマシなのだがな。

 まるで心を読んだかのように、ルヴァルがそう言った。

貴君らは3日後、シャルルリエ軍団、竜騎〈ウォラレアル〉に合流してもらう。

内容は言うまでもないだろうが、〈イグノビリウム〉が占領する拠点を落としてもらいたい。

……そういえばここの船、人が少なすぎるにゃ。

〈ウォラレアル〉も同様だが、ドルキマス国軍とは違い、戦力に限りがある。

 〈イグノビリウム〉が現れて以降、それを危険視したルヴァルが止めるために来たのだいう。

神や天使も暇な生活を送っているわけではない。

なにも彼ら人間を救うためだけに働いているわけでもない。

だからこの件に割ける人数も限られていた。

貴君らに心酔する者は、決して少なくない。それを使うといい。

人を使う、などと貴様、何を騏っている。

プルミエ、卿は下がっていなさい。どうにも卿は彼に噛みつくきらいがある。

その地には我々が戦うにあたり、取り逃してはならない資源がある。

 ディートリヒが地図を広げて、拠点のある場所を指し示した。

なるほど。ここを落とせば、山を越えることができ、さらにはその先の造船国を利用できる、と。

然りだ。〈イグノビリウム〉によって囚われているものの、人間は生きていると聞く。

 拠点を落としてしまえば、人を解放し、ドルキマスに取り込むことができる。

小国……ドルキマスだけでは限界であった戦艦の増強ができる……ということだろうか。

卿は、やはり生まれる世界を違えた男であるな。まるで悪魔のごとき思想だ。

対して貴君は言動も思考も凡庸たる、まるで人間だ。せいぜい人を使いたまえよ。

……船があり、人がいれば戦力差を乗り越え、“どうとても”なると言いたいようだ。

 唖然とする君に向けて、ルヴァルは言う。

シャルルリエ中将が最も好む戦法ではある。そしてそれはドルキマスに合致した戦い方でもある。

励みたまえよ。私を落胆させてくれるな、アウルム卿。

 ディートリヒが背を向けたのを見て、君は胸を撫で下ろす。

プルミエ。

はい。では魔法使い殿、此度の戦について、最も重要なことを1点、説明させてもらう。

 どこかで待機していたらしいプルミエが再び現れ、開口一番、そんなことを言った。

単純な話をすると、拠点を落とすことにあるのだが、これは知っての通り容易ではない。

 〈イグノビリウム〉には攻撃がきかない、というような話を聞いた覚えがある。

敵戦艦に対して、こちらの戦艦の攻撃が通らないのでは、まるで意味がないとさえ思えた。

それは人が百万いようが千万いようが変わらない、歴然とした”差”だ。

卿の言いたいことはわかるが、ひとつ確実な方法が人間にはある。

船同士をぶつけ、彼らの動きを止めた後、そこに乗り込み切り崩す。非常に単純な戦法だ。

にゃ!?ぶつけるのかにゃ!?

〈イグノビリウム〉の戦艦を損壊させるのは、我々だけであれば容易だ。

しかし我々は人数も少なく、あれらの物量を考慮すると、それは得策とはいえない。

そして幸か不幸か、彼らは生身の肉体であれば、人間同様、傷がつく。

 ……それはつまり。

そう、人であっても彼らを倒せるということ。

 プルミエの言葉に、ルヴァルが頷く。

あまりにも危険な賭けに思えた。

なにせ、遇去にもそれを知って突撃したであろう軍、いや国があったはずだからだ。

彼らの言が事実であるならば、それらは既に〈イグノビリウム〉に支配されている。

もはや人間には、それ以外の有効な手段がないということだ。

卿、恐れることなく戦うというのなら、我々と共に来てほしい。

 だけど君も、ここにきて退くことはできなかった。

既に戦う意志は告げている。それならば、とにかくやらなければならない。

よい瞳をしている。私が知る、戦士の瞳だ。



ファーブラ軍への合流



卿。

 声をかけられ、君は足を止める。

振り返った先には、ルヴァル・アウルムがいた。

卿が、我らファーブラに来てくれたこと、何より心強い。感謝する。

 ルヴァルの言葉には、混じりけのない純粋さがあるように思えた。

君は、まだ何もしていないから……と伝える。

ディートリヒ・ベルクから話を聞いたときは、冗談も甚だしいと考えたが、なかなかどうして。

 ルヴァルは君を見据えたまま視線を逸らさない。

卿の瞳の奥から、並々ならぬ魔力が見える。どこでこれほどの魔道を学んだのだ?

そんなに褒められると、師匠である私も照れくさいにゃ。

 君は曖昧な表情で、自分の国で、と告げる。

魔道、あるいは魔法が滅んで久しい世界だと認識していたが、卿の国には……ということか。

――否。そのようなことはあるまい。私は永くこの世界を見ていた。

 鋭い……のではない。彼は知っているからこそ、そう言えるのだ。

彼らは、天の使いだと言っていた。

ならば人の世を知っていてもおかしくはないし、魔法が使える人間を厨しむのは当然のことだ。

アウルム卿。

どうした?

 答えに窮していると、偶然救いの手が差し伸べられた。

全艦出撃の準備が整いました。ドルキマス国軍も同様、既に出撃態勢を整えています。

竜騎〈ウォラレアル〉は?

彼の者の動きは掴めません。自陣に龍もったまま、出てくる気配がないようです。

あの者たちは、そもそも戦力として計算すること自体が間違っているが……

さあ、我々も行くとしよう。〈イグノビリウム〉という絶対悪を滅ぼさなければならない。

なんだかみんな落ち着いているように見えるにゃ。

 確かに、これから戦争に行く、敵と戦う、そういう雰囲気には見えない。

どこか、ふらりと散歩でもするかのような落ち着きようで、君は逆に不安になってくる。

魔法使い殿。

 プルミエに声をかけられ、ハッと我に返る。

どうしたんだ。行くぞ。

卿、恐怖があるのなら無理に来る必要はない。強要はしない。

どうする?卿、私とともに来るか?

 君は少し悩んだあとで、行く、と答えた。

ここで退くこともできたかもしれないが、何故だかルヴァルのことが気になってしまった。

それはディートリヒ・ベルクから感じたものに近い、ある種のカリスマ性のようなものだった。



story2 浮遊する大地



”まさかこのような大陸に、かくも美しい浮島があるとは”

”なにも驚くことはない。人の世は、我々が考えるより遥かに“不可思議な”力に溢れている。

それは我々が預かり知らぬ神秘だ。――私が言うのもおかしな話ではあるがな”

 確かにこの大陸を見て思ったが、明らかに不思議な島がある。

それは君にはわからない世界なのかもしれない。

”しかし進むたび〈イグノビリウム〉の兵がいるのは、忌々しいことだ”

……ちょっと進むだけで、あんなにいっぱい出てくるなんて、悪夢みたいなものにゃ。

”どうということはない。この程度、過去に幾度も幾度も見てきた”

 ルヴァルの言葉に、憎悪のような感情が宿っているのを、君は感じ取った。

”しかしアウルム卿、だからこそあの方の力が必要だったのではないでしょうか”

”…………”

 ”あの方”というのが誰かはわからないが、ルヴァルが返答しないところを見るに、

あまりいい相手ではないのだろう。

”このまま進軍だ、魔法使い殿”

 プルミエが会話を区切るよう、君にそう声をかけた。



占領された空の島

浮島に降り立て

神秘の浮遊島

謎の眠る島々


>取るに足らんな。



湾岸造船施設



卿――卿の魔法は、この世界に過去にあったそれとはまるで別ものだ。

 初めての戦争を終えた君は、ファーブラの者たちと無事に帰還を果たした。

だがその疲労感は半端ではなく、このまま眠ってしまいそうになっていた。

その眠気を、ルヴァルが吹き飛ばした。

卿は、どこで生まれどこで育ち、どこで魔法を学んだのだ?

 核心を突く問いかけに、君は一瞬、躊躇してしまう。

卿の魔法は、あまりにも特殊だ。魔道艇が飛んだことといい、理解できないことが多すぎる。

答えられないか?

 君は首を横に振った。答えられないわけではない。

しかし、簡単に信じてもらえるとも思えない。

“まるで別のどこかから来たような”違和感が、卿にはある。

逃げられないにゃ。キミ、白状したほうがいいみたいにゃ。

 詰められたままじゃ、どのみちこの先の戦いにも支障が出る。

自分のことを、彼にだけは話しておくべきなのかもしれない。

君はそう考え、自分が来た世界のことを話した。

……なるほど。では卿は、その別世界で魔法を学んだというのだな?

 君は頷く。

彼は、驚くほど早く、そして何の疑いもなく、君の言葉を信じたようだった。

卿の魔法が特殊なものであることも、それで合点がいく。

それがいったいどうして、どういう風に出来上がった世界かは知らないが……

卿のことは、他者には話さないでおくことにしよう。

……どうしてこんな簡単に信じてくれたにゃ?

 君はウィズに、わからない、と囁いた。

魔法を使う者にはやはり話しておかなければならない。

 突然、話題を変えたのはルヴァルだった。

プルミエ。来なさい。

ここに。

 音もなく、君の背後にプルミエが現れる。

ルヴァルの声がなかったら、驚きのあまり倒れていたかもしれない。

我々や〈イグノビリウム〉が使用する魔法……

それは、数百年前、この世界の人間が使用していたものと同じなのだ。



壮大な造船施設

朽ちた戦艦の墓場

戦艦の整備場

基地を取り戻せ


>卿の力は本物だ。



story4ドルキマス要塞



 大空戦によって国力を示し、終わらない戦争を繰り広げてきた大陸。

それは、数百年前のある争いを発端としていた。

魔法が失われたその年の話だって、プルミエは言ってたにゃ。

 かつて魔法が隆盛を極めた際、連合国同士のかつてない争いが行われたという。

結果として国は滅び去り、歪な地形だけが残ることになったのだが――

その国を滅亡させるきっかけとなったのが、魔法により作られた”魔道艇”だったという。

このドルキマスに、これが眠っているとは思わなかったが……

これは人にとって過ぎた力であり、圧倒的な脅威となる武力だ。

 ルヴァルはそう言っていた。

そして最後に、ひとつ付け加えた。


“だから私たちが滅ぼしたのだ”


 ***


魔法使い殿。ここで、いったい何をしている?

 先日の話のせいで、考えがまとまらずぼ一っとしてしまっていた。

戦争……そう、戦争が続いているのに。

〈イグノビリウム〉は人間には対抗できないほどの力を有している。

戦艦を見てもわかるだろう?“中に乗っているのはそうでもないが”。

 確かに、アレを倒したとき、まるで灰のように消えていったのを、君は見ていた。

お前には、アウルム卿も期待している。もちろん私もだ。

だが戦いたくない、というのなら無理強いはしない。私たちはあの男とは違うからな。

 ディートリヒ・ベルクのことを思い出し、寒気がしてしまう。

シエル卿。

お前は……ディートリヒ・ベルクの……。

元帥閣下からの伝言を預かっています。アウルム卿はいらっしゃいますか。

ああ。ついてこい。

 そう言って、君を残しふたりが姿を消した。

キミ、ここの軍はちょっと危ないような気がするにゃ。

 そんなウィズの言葉が、いつまでも君の頭の奥に残っていた。


 ***


〈イグノビリウム〉殲滅に向け、ドルキマス国軍と一部共闘関係を結ぶ。

我がファーブラには、兵が少ないこともある。少なからず力にはなるはずだ。

 そういえば確かにここの軍は、ドルキマスより兵が少ない。

天の使いに限定するなら……恐らく、百にも満たないだろう。

ただ、ディートリヒも言っていたが、彼らに心酔する人間は多いようで、

そこから戦えるものを厳選し、軍として機能させているというのが現状のようだ。

いいか、お前たち! 我がファーブラは敵を討滅し、人の暮らしを取り戻す!

人間のため、この深い闇を切り裂き正しき道を開く!

 プルミエの言葉に呼応するように、兵たちが次々と声を上げる。

熱気だけなら、きっと他の軍に負けてないにゃ。

卿ら。敗北し、死ぬことは許さない。私が望むのは、卿らが争わぬ世界だ。

 心酔する人々は、さらに熱を帯びる。

やはり……ただならぬ空気感が、ルヴァルにはあるみたいだ。

ただ敵はあんなにいるのに、どうやって対抗するにゃ?

魔法使い殿。さあ、行こう。

 プルミエの言葉に頷き返し、君は魔道艇へと向かう。


 ***


これはドルキマスが所持していた要塞のひとつだという。

卿、その話は聞いているか?

 聞いてない、と君は答える。

……そうか。いや、いいんだ。卿が知らないことで不利益が生じることはない。

だがそうだな。卿にも伝えた魔法のことは、他軍へも言っておく必要がありそうだ。

 この世界における魔法は、天の使いであるファーブラと同じものだった。

しかし、魔法という過ぎた力に溺れた人々は、人間との争いに変化をもたらした。

魔道艇――今まさに君が乗っているものを、魔法を使う人間たちが作り上げた。

何故、〈イグノビリウム〉が魔道艇を狙うのかだいたい察しはつくだろう。

魔法こそが〈イグノビリウム〉にとって、最大の敵となる。

お前のそれは、この世界の魔法とは別ものだがだからこそ彼らは耐性を持たない。

 ――というのも理由のひとつにある、ということだ。

魔道艇の練習をしていたときに知ったことだが、魔道艇から放たれるものは、

君の魔力を媒介にしている。

”魔力”であればなんでもいいとなると、それは当然〈イグノビリウム〉の脅威となる。

魔法への耐性が極端に低く、何よりただの兵には銃火器も効く。

魔法により操作されている敵艦だけが、そういった兵器を通さないという仕組みだ。

外だけを塗り固めた見せかけと言ってしまえば、卿にもわかりやすいだろう。

 だがその見せかけこそが、人間にとって最も越えがたい壁となって立ちはだかっている。

敵艦は全て、ひとりの怪物が作り上げたまやかしに過ぎない。

あれだけの数を、たったひとりでなんて笑い話にもならないにゃ。

現在の人間の科学力では、到底追いつけない代物だ。

人間に打破する術がないわけではないが、強引手段を使わざるを得ない。

 船をぶつけ動きを止めた後で、敵艦に乗り込み白兵戦なんて、冗談にしては度が過ぎている。

その点、卿は”狙われる”こと以外、やりやすいものであろう?

 それは、もしかするとルヴァルなりの冗談なのかもしれなかったが、

やはり笑い飛ばすことはできなかった。




占拠された要塞

神々の怒り

敵陣急襲

敵の猛攻


>卿、よもやここまでとは。




貴君ら、十分な戦果を上げていると聞く。

 先の戦いを終え、拠点へと戻った矢先のこと。

何の気まぐれか、ディートリヒが姿を見せ、そんなことを言った。

卿、ここに立ち入ることを許可した覚えはないのだが。

なに、すぐに消える。

 短く制したディートリヒが、君の前に立つ。

貴君、魔法の類を使い、戦艦を撃ち落としていると報告を受けているが。

 君は首を縦に振った。

魔法で戦えるのなら、今いる仲間たちを守らなければならない、と君は前線に立って戦っていた。

結果として、それが功を奏し、こちらの被害は最小限に抑えられている。

〈イグノビリウム〉の行動は、近くにあるものを踏み潰すような、いわゆる“ゴリ押し”という戦法も何もないものだった。

しかしだからこそ、その物量を前に押し切られてしまった国が多いと聞く。

卿のところにいるシャルルリエ中将は、“うまく”やっているようだ。

我が軍の中でも最も好戦的であり、最も鼻が利く軍だ。

〈イグノビリウム〉とは過去にも数度、渡り合っている上、何より相性がいい。

己が部下を、まるで駒のように語るのだな、卿は。

…………。

 ディートリヒは沈黙で返答する。答えるまでもない、らしい。

……用件は?

 ルヴァルもその空気を察したのか、本題を切り出した。

貴君ら、ファーブラに、攻め落としてもらいたい地がある。

ほう。

ひとつ山を越えた先にある、大樹の地だ。

我々が拠点とする場所にほど近い……。

貴君らには、“攻めやすい”場所だ。

〈イグノビリウム〉を海へと逃さないための処置か。

然り。貴君の推察のとおりだ。そして、南下するアレをとめる重要な地となる。

……アウルム卿。

ディートリヒ・ベルクの言葉に嘘偽りはない。

そこから海に出られたら、ドルキマスにとって致命傷となりかねない。

 ディートリヒとルヴァル日く、敵を海へと逃がさないためにも、

大樹のある場所を奪っておきたいのだと言う。

〈イグノビリウム〉が、山を越え動き出した瞬間に、

ドルキマスの基地がある地を乗っ取られてしまう。

いや……既に一度やられているからこそ、ここを奪い取るのは急務とも言えた。

卿にしては珍しい失態だ。何故、要塞を奪われた?

奪われたのではない。頭の回らぬ〈イグノビリウム〉を囲い込むため、くれてやったのだ。

中にいた兵も少なくないはずだ。貴様、それを考慮に入れていなかったというのか?

無論、撤退命令を出した。餌があれば敵を釣りやすいが、戦力を削られるのは痛手となるからな。

…………。

 プルミエはディートリヒを眸睨したまま、口を閉ざした。

あとは取り囲んだ〈イグノビリウム〉を我が軍で潰しただけのこと。

貴君が言っていた造船国と資源のある地を抑えたことで、“モノ”に困らなくなったのは重畳。

 資源、物資、あるいは戦遣そのものを、量産することができる態勢が整えば、

多少、船が傷ついたところで大きな問題にならない、ということらしい。

以上だ。貴君ら、健闘を祈る。

 まるで感情の宿らない冷たい声音で、ディートリヒがそう告げた。 




鉱石資源発掘場



資源……確かにドルキマスには必要なものでしょう。

ああ、押さえておかなければ、力尽きるのは目に見えている。

しかし、あの少女――クラリア・シャルルリエが善戦しているとは、未だ信じられません。

シャルルリエ軍団は、かなり敵軍を押しているって話にゃ。

 クラリア・シャルルリエ率いる、シャルルリエ軍団は、

”人間相手のときよりも、はるかに勢いがある”と国内で評判になっているという。

敵を迎え撃つのではなく、乗り込んで叩くことができる、ということ。

統制という意識がない〈イグノビリウム〉にとっては、相性の悪い相手と言える。

 シャルルリエ軍団の損害も激しいらしいが、次々と重要な地を落としていることから、

国内の他軍も相当な焦りを見せているという。

魔法の必要性がない、と?

あくまで現状は。しかし、あの怪物が動くとなると、話はそう容易ではない。

怪物?

 君も気になっていだ”怪物”という言葉。

実際、それが何なのかはわからないが、ルヴァルの声が緊張感で張り詰めたのは確かだ。

まあ、よい。さあ卿ら。立ち上がれ。我が軍も、他軍には負けていられないぞ!

 ルヴァルは、何かを吹っ切るようにして叫んだ。

だから君は、”怪物”が何かを聞くことができなかった。



荒れ果てた岩山

敵拠点の偵察

敵艦隊包囲網

拠点奪還


>卿のおかげだ。



ウォラレアルの里



 激しい戦闘を終え、帰還した君はルヴァルを呼び止めた。

“だから私たちが滅ぼしたのだ”

あのときの、あの言葉の意味を聞くために。

卿か。

 君は、早速とばかりに質問を投げかける。

……あの言葉。卿は覚えていたのか。

そうだ。私が人の世を亡きものにした。

過ぎた力を使い、自滅した人間どもに救いの手を差し伸べたのが我々だったのだ。

決してアウルム卿が自らの手で滅ぼしたわけではない。

 それは本当なの?と君は問う。

過去、我々を模倣して魔法を学んだこの世界の人間は、力に溺れてしまった。

救えなかったのは事実だ。大地だけが残り、人々は息絶えた。

……アウルム卿。

 君は次の疑問である、何故〈イグノビリウム〉に魔法がきくのかを問いかける。

〈イグノビリウム〉は過去、魔法を使えた時代の人間の残滓だからだ。

思念体と呼べばいいのか、死者が彷徨っているものに近い。

ゆえに通常の人間には〈イグノビリウム〉の言語が理解できない。

そして何より、仮に卿が言葉を理解できたとしても、アレらの話に耳を傾けるな。

死者のごとき敵に誘われ、場合によっては命を落とすことになる。理解できないほうがマシだ。

 〈イグノビリウム〉……名を持たぬ者。

名を持たないのではなく、名を失って久しい、過去の者ということ。

君は、ローヴィの言葉を思い出した。

“失われた技術”、“過去の遺物”、“廃棄された百年”

魔道艇のことを推していると、ローヴィは考えていたのかもしれないが、

それは……〈イグノビリウム〉を意味する言葉だったのではないだろうか?

それが本当なら、どうしてドルキマスの銃が相手にきくにゃ?

 君も同じ疑問を抱いていた。そしてそれをそのままルヴァルたちに尋ねた。

厳密にはダメージにはならない。だが掻き消えることには違いない。

霧散するようなものだ。思念は失せる。

現世にまで縛られ続ける哀れな亡霊。その縛鎖を断ち切らなければならない。

卿、今しばらく私たちの力になってくれるな?

 君は、もちろん、とルヴァルの言葉を受け入れた。



太古のドラゴン

ドラゴンの聖域

遺跡に落ちる暗い影

狂気の竜使い


>最後まで、ともに進もう。我が盟友よ。



聖なる天樹



我々が押さえるべきは、大樹の地だ。卿ら、心してかかれ。

 君の目から見ても、兵の疲弊は明らかだった。

長い戦いの中、どうしても疲労が蓄積されてしまう。

ルヴァルが鼓舞しようとも、限界は近づいてきていた。

まずいにゃ……このままじゃ、どこかでみんな倒れちゃうにゃ。

 君は、そんなことはさせない、と口にする。

ここまできたのだから、重要な場所を押さえて、みんなで戻るんだ、と気合を入れる。

…………。

 ふと視界に入ったプルミエの顔が、青白くなっていた。

どうしたの?と訊いてみる。

……この先からひどく懐かしささえ覚えるような気配が。

いや、忘れてほしい。きっと私の気のせいだ。

 そこで会話が途切れてしまった。

懐かしい気配?というのは、いったい何なんだろうか。




汚された神樹

怒れる天使たち

天樹の頂

 神々の聖戦


 ***


来たわね、ルヴァル・アウルム

アルゼンタム卿……。

 〈イグノビリウム〉を退け、辿り着いた先には、美しく白い羽の生えた女性がひとり。

あなたたちなら、必ずここに来ると思っていたわ!

ここが敵を食い止める拠点になると気づくと踏んでいたのよ!

ふふふ、ルヴァル!あなたの考えることなんか底が知れているの。

あ、アルゼンタム卿……何故こんなところに……。

何故?何故ですって?プルミエ、あなた、いつからそんな生意気言うようになったの?

 君は話についていけず、ルヴァルを見上げた。

トァラ・アルゼンタム。卿にわかりやすく説明するなら……私の同僚だ。

 同僚!?君は驚き、声を上げた。


トァラ。卿、まさか外法に身を売ったのではあるまいな。

あたしを馬鹿にするのもいい加減にしなさい、ルヴァル。あんなのハナから相手にしてないわ。

さすがアルゼンタム卿。討滅のために磨かれた剣に、衰えはない……。

 同僚……つまり彼女も天の使いである、ということだ。

しかし、だとしたら何故?何故、トァラは皆に剣を向けて立っているんだろう?

あなた、あたしを置いていったじゃない!

あたしも行くって言ってたのに、置いていくなんて信じられない!

挙句の果てに……プルミエなんかと一緒に……!

私はしかし……アウルム卿に言われ、ここに来ただけで!

 君は、拍子抜けしてしまった……。

〈イグノビリウム〉がここにいるというようなことを聞いていたため、

今、こうして眼前に立つ女性が全く違う存在だったことで、気が抜けてしまった。

でも考えてみれば、あの子はひとりでここに来たってことにゃ。

それは要するに、“あの敵艦の大群”を押しのけて、居座っているということになるにゃ。

 君はハッとして、トァラを見た。

トァラ・アルゼンタム卿。悪を裁く聖なる剣を持つお方です。

1回斬る!絶対に斬るッ!あたしを置いていったこと、後悔させてやるわ!

よい。これは一度、仕置きを据えてやらなければならん。

 普段の落ち着いた振る舞いとは違い、ルヴァルはほとほと呆れ返っているようだった。

……許さない!ルヴァルもプルミエも、そしてあんたも!

 君はとばっちりを受け、いつの間にか彼女に狙いを定められた。

そしてトァラが君に向かって剣を振り下ろす――!


 ***

 BOSS:トァラ

 ***


くうッ……!

もうおやめください、アルゼンタム卿!

 トァラの剣を受け止めたプルミエが、悲壮な表情で叫んだ。

卿の負けだ、トァラ。

 手強い相手であったことに変わりはない。

それどころか、軍を相手に一歩も退かず戦い抜いた姿に、ある種尊敬すら覚えるほどだった。

だがしかし、そこまでだった。ルヴァルは剣を収め、既に戦う姿勢を取っていない。

戻るぞ、トァラ。卿には話して聞かせるほかない。

……卿。 船に運ぶのだ。

……はい。

 ルヴァル、プルミエのふたりが、頭を抱えている。

よもやここをひとりで落とすとは……。

 トァラの行いはまるで子どものソレだが、拠点にたったひとりで居座るのはすごすぎる。

卿、迷惑をかけた。

 大丈夫、と君は告げる。このくらいなら、むしろ少し和んだぐらいだ。

この後、我らファーブラは、他軍に合流する。まだ戦争は続いている。決して気を緩めるな!

 拠点を押さえたことで、心にゆとりができ、君もほかの兵同様、関の声を上げた。

戦いはまだ終わらない。



>最高の戦果を残せたこと、深く感謝する。




エピローグ


貴君らは、期待に違わぬ仕事を果たしたようだ。

貴様の期待に応えるため、行動したわけではない。

プルミエ。卿は少し落ち着きたまえ。

これから我が軍に合流し、さらに奥を攻める。揮権はアウルム卿、指揮君に与える。

……私の知らぬところで何もかも決めないでもらいたいものだ。

 君は、疲労がようやく抜けたところだった。

長い戦いが終わった、と思ったところだったが、どうやらまだ少し続くらしい。

いや、こんなところで休んでいる暇はない。

まだ大陸――ドルキマス周辺の〈イグノビリウム〉兵を倒しただけじゃないか。

この程度で落ち着いていたら、今も苦しむ人々に顔向けできない。

少しでもはやく、彼らを助けなければ……。


では征くぞ、黒猫の魔法使い。卿の力には、これからも期待している。




分岐




上記のルートを全てクリア後に開放



外伝





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