【黒ウィズ】空戦のドルキマス Story3
プロローグ
あ、あなた。ええっと……ライサさんから聞いてるよっ!
呼び出された場所につくと、少し幼さの残る、優しげな声が聞こえてきた。
??? |
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ええっと、私はキャナル。キャナル・エアガイツ。よろしくね、魔法使いさん。
すごく元気そうな子が来たにゃ……というか、この殺伐とした場所にそぐわない気がするにゃ。
うーん、ライサさん、ちょっと出てるみたい。
そう、ライサ――ライサ・ナトゥル。彼女が確か、〈ウォラレアル〉を指揮している。
あの人、とっても気まぐれで、すっごく変わった人だから……。
あ、魔法使いさん、あなたもこの戦争に参加するんだよね?
君は頷く。
こんな子まで戦いに参加させられる、なんてことを考えたくはなかった。
わたしね、ドラコたちを守らなきゃいけないんだ。そのためにあなたの力を貸してほしいの。
……ドラコ、そういえばさっき大きなドラゴンを見たにゃ。
ここに来る途中、空母と呼ばれていた巨大な船を君は見ていた。
そこには何体ものドラゴンがいて、それはかなり壮観だった。
さ、ついてきて。ライサさんもきっとすぐ戻るし、ベルク卿もいらっしゃるはずだから。
ウォラレアル軍への合流
あら、あなた来たのね。ふふ、待っていたわよ。
言葉そのものの柔らかさとは対象的に、殺気のようなものに充ち満ちている。
ライサ・ナトゥルは、指揮官と呼ぶには、あまりにも凶暴な側面を秘めているように見えた。
あなたが力になってくれて、私は心強いわ。
魔法使いさんが怖がっていますよ。
キャナル。言っているでしょう。これは生まれ持っての性。潜めることなんてできないのよ。
……野蛮な人しかいないにゃ。
貴君らは、己が地を取り戻すため、命を賭して、戦わなければならない。
突如現れたのはディートリヒ・ベルクだった。
〈イグノビリウム〉は、私がいない間を見計らったかのように、故郷に襲いかかった。
許せない。私がいれば……負けることなんてなかったのに。
……実は〈ウォラレアル〉の里は、〈イグノビリウム〉に乗っ取られちゃって。
と、キャナルは〈ウォラレアル〉についてを教えてくれた。
〈ウォラレアル〉が住まう地へと現れたのは、〈イグノビリウム〉の強大な兵だったという。
それはライサというリーダーが故郷をあけて2日ほど経ってからのことだった。
頭のいない〈ウォラレアル〉は、3割近い人数を失い、あまつさえ拠点を奪われてしまった。
だけど仕方ない。あのときは気を抜いだ子たちが悪かったのよ。
あなたに力を貸すのは、戦争に勝つため。決して報復をしたいだけの理由ではないわ。
ディートリヒは、無言でライサの言葉を流し、作戦を口にする。
これから、4つの拠点を落としてもらう。
開かれた地図には、拠点の位置に印がつけられていた。
資源がある地点、それと貴君ら〈ウォラレアル〉の拠点として機能していた地。
1度奪われたものを、取り戻す手間を考えてほしいものだわ。
奴らに貸していたものだと考えればよい。時期が来たから返還を申し出るのだ。
ディートリヒは、口元を笑み歪めて答える。
ドラゴンと対峙するよりも、この男ひとりと向き合うほうがずっと緊張する、と君は思った。
それで、ここを押さえたらいったいどうなるにゃ?
君はウィズの疑問をそのままキャナルに投げかける。
空母ほどの高度は出ないけれど、空を飛べるドラゴンも多い……
拠点をおさえれば、そこを軸としてドラゴンたちを飛ばすことができるの。
空母という巨大な船がなくても移動が可能になって、敵に対抗できるかもしれないってこと。
山を越えれば、かつて最大の造船国であった地もあるわ。
噂によれば、〈イグノビリウム〉が支配しているものの、人間もまだまだ健在みたいね。
小国……ドルキマスだけでは限界であった戦艦の増強ができる……ということだろうか。
船があり、人がいれば”どうとても”なる。
それは、使い捨てることもできるということ。
では私は行く。貴君らの健闘に期待している。
ディートリヒが背を向けたのを見て、君は胸を撫で下ろす。
彼らの戦艦は、通常、我々が使用する攻撃が通らないという話は聞いてるわね?
だけれど、それだけだと勝ち目はないでしょう?
君は首肯する。
あの戦艦に乗り込んでしまえば、中にいるのは私たちと同じ人――
言葉が悪いわね。ふふ、人のような何か、よ。
ライサは何がおかしいのか、頬を緩め笑った。
〈イグノビリウム〉が持つ戦艦より高い位置から降下して戦うのも、私たちの作戦なんだけど………
ドルキマスは戦艦に戦艦をぶつけて、動きを止めてから乗り込んでいくの。
それは戦艦の何たるかについて諌しくない君にとっても、“ぶっ飛んだ”作戦だった。
ああ!心が躍るわ。やられた子たちの分も、奪われた里も、必ず取り戻すのよ!
そのためにはあなた――あなたの力が必要不可欠なの。逃けないでちょうだいね、魔法使いさん。
ライサの不気味な笑みを見て、君は来る場所を間違えてしまったかも……と、思ってしまった。
それにしてもすごいね!魔法の力って!こんな古い船を動かしちゃうんだから!
まったく、あの男の持つ運の強さには、いつも驚かされるわ。
この長い泥沼の戦争で、連戦連勝の負け知らず。その上あなたのような逸材に巡り会うのだから。
ライサさんだって、戦闘で負けたことないじゃないですか。
だけど、里を守ることは出来なかった。
そういって、ライサは寂しそうに天を仰いだ。
上空には、君を見守るように太隠を背負って航行する〈ウォラレアル〉の船団がある。
4つの拠点に向けて出発してからというもの、ふたりは本隊である船団ではなく、
魔道挺に乗り込み、君と行動を共にしていた。
逃げないように監視するため、ということらしいが、そもそも君にそんな気はない。
右も左もわからない異界を彷徨ったところで元の世界へ戻れる保障は何処にもない。
しかも〈イグノビリウム〉という得体の知れない何かにいつ襲われるとも限らない。
この世界での戦い方を知るディートリヒヤライサたちといる方が遥かに安全だ。
とは言え――。
ああ!まだ着かないのかしら?早く実戦であなたとこの船の力を見てみたいわ。
また始まったにゃ。
ライサさん……また魔法使いさんが怖がってますよ。
ちょっと母艦に戻って、航行速度を上げさせてくるわ。
そう言いながら、ライサは魔道挺の舶先に休ませていたドラゴンに跨って、飛び立っていく。
……行っちゃったにゃ。
君は戦いを好む彼女の性格については、まだ慣れることはできない。
そんなに不安そうな顔しないで大丈夫だよ。
君の心中が顔に出ていたのだろう。
キャナルが君に微笑む。
ライサさんはああいう人だけど、戦場で彼女ほど頼りになる人はいないんだから。
それに、ようやく故郷を取り戻せるかもしれないんだもん。
少しはしゃぐくらいは、大目に見てあげてよ。
はしゃぐとは違う気がするにゃ……。
君はウィズに頷くが、
ありがとう。
彼女はそれを自分に対するものだと勘違いしたようだ。
魔法使いさんは、わたしたちの希望なんだ。期待してるよ。
”魔法使いさん、聞こえるかしら?”
魔道挺の通信機を通してライサが君を呼んだ。
聞こえている、と君は答える。
”魔道挺の速度、もっと上げることってできるかしら?”
魔道挺の操作にはもう慣れた。もっと魔力を込めれば、いまより速く進むことも可能だろう。
君はそれをライサに伝える。
”結構。では、全速で目的地に向かうわよ。きつくなったらこの通信機で連絡をちょうだい”
こうして連絡を取ることが出来るのなら、わざわざ母艦へ戻る必要はなかったのでは?
頭上を追い越していく艦隊を見上げながら、君は思わずそんなことを口にする。
いったでしょ?ちょっとはしゃぐくらいは大目に見てって。
君はひとつため息をついてから、魔道挺に魔力を込めた。
遺跡への侵入
それにしてもすごいね!魔法の力って!こんな古い船を動かしちゃうんだから!
まったく、あの男の持つ運の強さには、いつも驚かされるわ。
この長い泥沼の戦争で、連戦連勝の負け知らず。その上あなたのような逸材に巡り会うのだから。
ライサさんだって、戦闘で負けたことないじゃないですか。
だけど、里を守ることは出来なかった。
そういって、ライサは寂しそうに天を仰いだ。
上空には、君を見守るように太陽を背負って航行する〈ウォラレアル〉の船団がある。
4つの拠点に向けて出発してからというもの、ふたりは本隊である船団ではなく、
魔道艇に乗り込み、君と行動を共にしていた。
逃げないように監視するため、ということらしいが、そもそも君にそんな気はない。
右も左もわらかない異界を彷徨ったところで元の世界へ戻れる保障は何処にもない。
しかも〈イグノビリウム〉という得体の知れない何かにいつ襲われるとも限らない。
この世界での戦い方を知るディートリヒやライサたちといる方が遥かに安全だ。
とは言え──。
ああ!まだ着かないのかしら?早く実戦であなたとこの船の力を見てみたいわ。
また始まったにゃ。
ライサさん……また魔法使いさんが怖がってますよ。
ちょっと母艦に戻って、航行速度を上げさせてくるわ。
そう言いながら、ライサは魔道艇の舳先に休ませていたドラゴンに跨って、飛び立っていく。
……行っちゃったにゃ。
君は戦いを好む彼女の性格については、まだ慣れることはできない。
そんなに不安そうな顔しないで大丈夫だよ。
君の心中が顔に出ていたのだろう。
キャナルが君に微笑む。
ライサさんはああいう人だけど、戦場で彼女ほど頼りになる人はいないんだから。
それに、ようやく故郷を取り戻せるかもしれないんだもん。
少しはしゃぐくらい、大目に見てあげてよ。
はしゃぐとは違う気がするにゃ……。
君はウィズに頷くが、
ありがとう。
彼女はそれを自分に対するものだと勘違いしたようだ。
魔法使いさんは、わたしたちの希望なんだ。期待してるよ。
”魔法使いさん、聞こえるかしら? ”
魔道艇の通信機を通してライサが君を呼んだ。
聞こえている、と君は答える。
”魔道艇の速度、もっと上げることってできるかしら?”
魔道艇の操作にはもう慣れた。もっと魔力を込めれば、いまより速く進むことも可能だろう。
君はそれをライサに伝える。
”結構。では、全速で目的地に向かうわよ。きつくなったらこの通信機で連絡をちょうだい。 ”
こうして連絡を取ることが出来るのなら、わざわざ母艦へ戻る必要はなかったのでは?
頭上を追い越していく艦隊を見上げながら、君は思わずそんなことを口にする。
いったでしょ? ちょっとはしゃぐくらいは大目に見てって。
君はひとつため息をついてから、魔道艇に魔力を込めた。
戦争の橋頭保
敵艦との距離を保ちながら、攻撃のできる君の魔法は、確かに効果的だった。
しかし、〈イグノビリウム〉はそれすらも凌駕する圧倒的な数量で魔道挺へと迫ってくる。
キミ、このままだとまずいにゃ。
たった”ー挺”でこの大群の相手をするのはもう限界だった。
だいたいライサたいはなにやってるにゃ!
ウィズの言葉に君は天を仰ぐが、くウォラレアル〉の本隊は沈黙を保ったままだ。
もしもーし!ライサさーん!
ダメだ。全然応答なし……。故障してるのかなぁ?
しばらく通信機に向かって応援を求め続けていたキャナルも、諦めて君の元へと戻ってくる。
この戦闘が始まってから、ライサとの通信は途絶え、君は文字通り孤立無援の状況だった。
ごめんね。力になりたいんだけど、ドラコもこんな様子だから……。
彼女は怯えきった白いドラゴンを撫でながら、申し訳なさそうに言う。
敵艦の数はかなり減らしたものの、魔道挺を取り囲まれ、君の魔力は尽きかけていた。
絶体絶命にゃ……。ウィズがそう項垂れた時だった。
魔法使いさん!あなたの実力は見せて貰ったわ。
ドラゴンに乗ったライサが、魔道挺の直上にいる。
ありがとう。あとは私たちに任せなさい!
ライサさん!
さあ、みんな、お腹いっぱい食べなさい!
そんな彼女の声とともに、空母の甲板からくウォラレアル〉の竜騎部隊が一斉に降下する。
統率のとれた一糸乱れぬ動きで、敵艦を覆い尽くし、戦闘はー気に決着を迎えた。
悪かったわね。あんまりすごい戦いをするものだから、限界まで試したくなっちゃったのよ。
戦いを終え、魔道挺に降りてきたライサが涼しい顔で言う。
まさかこのままやられちゃうとは思わなかったけど、今回は流石に心配しちゃいましたよ。
今回は?ライサはいつもこんな、味方を隔すような戦い方をしているのだろうか?
君はキャナルにそっと尋ねる。
うん。新しい仲間が加わるとね、ライサさんはいつもこうやってその実力を試すんだ。
そういうこと。ようこそ〈ウォラレアル〉へ。改めて歓迎するわ。魔法使いさん。
ライサはそういって優しく微笑む。
あの男、ディートリヒの言っていたことは正しかったわ。
確かにあなたがいれば、この戦争を終わらせることができるかもしれない。
先の戦闘ののち、ライサとキャナルは本隊へと戻っていった。
それにしても――
ドラゴンを自在に操って敵を殲滅するくウォラレアル〉の戦いは圧巻だった。
クエス=アリアスではまずそんなことのできる者はいないだろう。
彼女たちがどうやってドラゴンを従わせるのか、君は通信機ごしにキャナルヘ尋ねてみる。
”ドラゴンと私たちの関係はそういうんじゃないよ。
私とドラコは大切な友だちだもん。これからだってずっと、ね?”
”ドラゴンは、過酷な環境下で生きるから、そこで強者としてのプライドが芽生えるわけね。
それに比べて、キャナルのドラコは育った場所が場所だから、大人しい子になったみたい”
”ドラコはそれでいいもんね?”
通信機の奥から、ドラゴンの声が聞こえてきた。
表情はわからないのに、言葉だけでお互いがお互いを信頼しあっているのがよくわかる。
”ま、私たちも似たようなものよ。使役とか友好とか……
そういうのってお互いのことを考えていなければできないことなの。
……っと、少し喋りすぎたようね。ふふ、戦いの前は、昂ぶるから大変だわ。”
広いね、あの場所。ドラコもゆっくり休めそう!
あら、ドルキマス国が所持するドックだから、戦艦に巻き込まれるわよ。
造船国と呼ばれるだけはあり、さすがに広いドックを抱えている、とライサは言った。
だがそれも〈イグノビリウム〉が来るまでの話だ。
貸しを作っておくに越したことはないわね。
そう、これはウォラレアルにとって”貸し”になる可能性があるという。
ウォラレアルの拠点があった場所へ向かうため、あたりを見回りながら進んでいると、
今の状況に遭遇した。
ドルキマスがあっさり放棄したものかもしれないが、だからといって無下にはできない。
――というのがライサの判断らしい。
誰かいるかもしれないし、ドルキマスの人が困ってるかもしれないもんね!
キャナル。あなた何を呑気なこと言っているのよ。
実際、どれくらい残っているのかは知らないけれど、ドルキマスに貸しができることが重要なの。
手を結んだのだって、ドルキマスと利害が一致したからよ。
それって助けないっていうこと?
さあ、どうかしら。必要ならそうするけれど、私は私の仲間のほうが大切だから。
そう言うのなら、貸し借りがどうこうと言わず、さらりと無視してしまえばいい。
というようなことは、さすがに口が裂けても言えない。
さあもっとよ!もっと喰い散らかしなさい!
ライサの言葉に反応し、ドラゴンたちが叫びながら大きく飛び上がった。
ドラコ!いくよっ!
ドルキマスが所持していたという要塞を物ともせず、“壊していっている”。
全く――面白みのない連中ね、〈イグノビリウム〉
それとも何かしら。許してくれってこと?ダメよ、絶対に許さない。
偶然、ライサの近くに立ったとき、とても楽しげに微笑んで、言った。
血が沸くわね。あなたもそうでしょう?
君は首を横に振った。
でもこれだと共倒れになっちゃうかも……。
ほら、行きなさい!
……ってうわわ!ライサさん深追いしすぎです!
キャナルがライサにつられ、奥へ奥へと進んでいく。
キミ、早く止めるにゃ……。
君は困惑しながら、戦場の奥へと向かっていった。
ライサ・ナトゥルという将が、いったいどうしてディートリヒと知り合ったのか……
性格が合わないというより、人間性が交じり合わないだろう、と不謹慎ながらも思ってしまった。
ディートリヒ・ベルクと知り合った理由なんて、もう覚えていないわ。
ドルキマス国が敵であったか味方であったかも、記憶に残っていないわね。
話によると、ウォラレアルそのものは、好戦的であるせいか、友好国を持たないって。
それはそれでとてつもなく怖い話だ。
近づけば噛みつかれ――るだけで済めばいいのだが。
私たちの仲間、ドラゴンたちが削られたとき、共闘関係を結んだのがドルキマスだっただけよ。
きっとそれ以上でもそれ以下でもないわ。そういう程度の関係ね。
ドラゴンの拠点を追いやられたとき、空母やー時的に拠点となる場所をくれたのが、
どうやらドルキマス国だったらしい。
こんな話を聞いて、あなたどうしたいのかしら?
でもライサさんは、あまり昔話をする人じゃないから。
そんなものを話したところで、なにひとつ楽しくないから仕方ないわ。
あっけらかんと言い放って、ライサがその場を後にする。
戦争好きの、ドラゴン好き。ライサさんはそういう人ってことだね。
まとまってないよ、と言ってみたけど、キャナルは笑ったまま首を傾げるだけだった。
story9 荒ぶる竜たち
眼前に迫ってきたのは、真っ赤な遺跡だった。
燃え立つような――そう、まるでライサとドラゴンたちを指すような、赤だ。
あれが私たち――〈ウォラレアル〉の拠点だった場所よ。
君はその声を聞き、前方に視線を向けた。
眠りながら、静かに鼓動する大地を見て、君は不気昧さを覚えた。
〈ウォラレアル〉は、あるいはこれが平常だと言うかもしれない。
……おどろおどろしい。
とキャナルが言ったのを聞き、君は苦笑してしまう。
……取り戻す。私たちの“クニ”を。
ライサの言葉に続くよう、君は魔道艇を進めた。
そもそも、どうして奪われてしまったのか、君は理由を聞いていなかった。
何かで言ったかもしれないけれど、私がその時、いなかったのよ。
〈イグノビリウム〉はその物量だけで、力づくの行動に出るから……
こちらの統率がとれなければ、どうしたって勝てはしないわ。
被害を受け、飛べなくなったドラゴンもいる。だから――
だから必ず、何があっても〈イグノビリウム〉だけは全て倒さなきゃいけないのよ。
相手がどんな姿形をしていようと必ず。苦しませて、苦しませて……
泣いても謝っても許さないわ。何があっても、大切な仲間を奪ったことを後悔させてやるのよ!
ライサの怒りに呼応して、ドラゴンたちの咆球が間こえてくるようだった。
これは……絶対にあの地を取り戻さなければならない。
彼女たちの家を、拠点を……絶対に――!
”ドロシー参上だ!カモンドロシー!”
くッ……なんて耳障りな音……。
君とウィズ以外には、あれが不快な音に聞こえるらしい。
巨大戦艦の横につけ、乗り込もうとした途端、飛び乗ってきた少女は満面の笑みを浮かべている。
アレが私たちのクニを奪った〈イグノビリウム〉だっていうの?
どうして〈イグノビリウム〉がドラゴンを連れてるの……?
”ドロシー!ドラゴン使う!いっけードロシー!
違うわね。アレは、使役でも友好でもないわ。何か力を使って、利用しているといったところね。
信じられない……。
〈イグノビリウム〉……許せないわ。
ライサが武器を大きく振るう
ドロシーも許せない!ここはドロシーのだ!ドロシーのものだ!
ドラゴンはドロシーのものだ!ドロシーが手に入れたドラゴンだ!
歪な魔力がドロシーの周りに浮き上がっている。
おどろおどろしい……こんなの、ドラゴンが可哀想だよ……
”おどろおドロシー!アハハッ!ドロシーだ!
愉快げに笑いながら、ドロシーはそのようなことを繰り返す。
こんなわけのわからない“ガキ”に、私たちのクニ、私たちの拠点が奪われたっていうの!?
バカバカしくて笑えてくるわ。もうこれ以上、耳障りな音を聞く必要はないわ!
さあ、お前たちッ!出てきなさい!ここから先は、何をしてもいいわよッ!
ドラゴンの咆峰に負けない、“強烈な”ライサの声に、体の奥底が熱くなる。
今にも飛びかかりそうなライサを見やって、あのドラゴンをお願い、と君は言う。
ドロシーと名乗る少女――いや、〈イグノビリウム〉と対峙した。
ドロシーがロットを片手に魔力を込め始めた。
……そうね。苛立っていて我を見失っていたわ。
私たちの大切な子どもたちを助けるのが先決。ええ、そうね。
あの馬鹿なガキは、あなたに任せるわ!
その言葉に大きく頷き、君は、戦う姿勢をとった――
***
爆ぜるような音のあとで、ドロシーが膝をつく。
君は加減をせずに戦ったが、それでもまだ彼女は戦えるようだった。
”あうッ……!くっ……まだやれる!ドロシーは、まだいける!”
ドロシーが叫びながら立ち上がり、再びロッドを構えた。
瞬間――
連れ去りなさい。
巨大なドラゴンが、ドロシーの衣服を掴み、軽々と持ち上げてしまった。
”くぅぅぅ!ドロシーを離せ!ドロシーは自由だ!
負けない!ドロシーは負けない!ノグズエル様に失態は見せられない!”
……ライサの瞳が、かつて敵であったものを眸睨し続けていた。
魔法使いさん、大丈夫?
君は大丈夫、と言う。
さあ、帰るわよ!私たちの里に!
君はほっとして、息を吐いた。
あなたもありがとう。助かったわ。
もちろん、まだ戦争は終わっていないけれど。
みんながウォラレアルの里に向かう中、取り残されないよう君も魔道艇へと走った。
エピローグ
君の眼下に今、ライサたちの故郷がある。
昔は美しいところだったのだろう。
しかし、長く人の手を離れていた為に、家屋は朽ち、土地は荒れ果てていた。
ライサたちは既に船から降り、奪還した里の空気を昧わっているようだ。
やっぱりいいですね!故郷っ!
……そうね。
無邪気にはしゃぐキャナルとは対照的に、ライサの表情は暗い。
ライサさん……?
まだ喜べないわね、やっぱり。
ライサは膝をつき、地面に穴を掘り始める。
……手伝います。
キャナルはそう言うと、瓦篠のなかから手頃な木片を集めはじめる。
随分と長い時間がかかってしまったわ。
キャナルの集めてきた木片をライサが掘った穴に立てていく。
しばらくして、彼女たちは幾つもの墓標を建て終えた。
まだ私たちの戦争は終わっていない……。
長い祈りを捧げたあとで、ライサは君を見上げる。
……魔法使いさん。あなたの力、もう少し貸してもらうわね。
分岐
上記のルートを全てクリア後に開放