【黒ウィズ】レグル&テーラ(謹賀新年2018)Story
2018/01/01 |
目次
登場人物
story1 レグル覚醒
ふあ~ああ……。
あくびと伸びを同時にやりつつ、玄関の扉を開けて外に出る。
新鮮な冬の外気と、ささやかな陽のぬくもりが、起き抜けの身体に沁み込んでいく。
ん~……なんか調子いいや。これなら昼もぐっすり眠れそうだな。
うんうんとうなずきながら目を開くと――
見慣れた自警団の仲間たちが、なんとも言えない表情で、家の前に立っていた。
あれ?どうしたの?みなさんおそろいで。
明けましておめでとう、レグル。
え?
あけおめ、レグル。今年もいっばい魔物を殺しましょうね。
えー? ちょっと待てよ。新年までは、え一と、確かあと3日くらいあったはずだろ。
過ぎたよ。
マジで?
レグル、3日も起きなかったんだよ。
あ、そういうこと?
よ、よかった……私、もうレグルが目を覚まさないんじゃないかって……。
いやいやいやいや、そんな顔するなよテーラ。
たまにあるんだ。こういうこと。年末は忙しかったからなー。身体が休みを欲してたんだろうなー。
まあ、僕らは「またか」ですんだんだけどね。テーラは初めてだから、心配してたよ。
昨年――黒猫の魔法使いがここを訪れるまで、テーラは、他の自警団のメンバーとは離れ、単独でロットを守り続けていた。
だから、レグルがたまに3日間ほどぶつ続けて寝ることがあるなんて知らなかったし、本当に起きるか不安だったのだろう。
心配かけてごめんな、テーラ。
もう……あきれて言葉もない。
はは。ごめんごめん。
じゃ、おれ、二度寝してくるから。またなー。
「またな」じゃないよ!あれだけ寝といてまだ寝足りないのか!
当たり前だ。
真顔で言うな!
冗談だよ。それより、なんでみんな、おれの家の前に集まってたんだ?
決まってるじゃない。どれだけ痛めつけたら起きるか試すためよ。とりあえず3つばかりプランを用意したわ。
……じゃなくて。自警団で、新年のお祝いをすることになったから。レグルもいっしょに、って思って。
お祝いねえ。何やるんだ?
プランA、爪はぎ祭り。プランB、生皮あぶり……。
そのプランは忘れて。
ファルサはさておき――何をやるかなんて、決まってるだろ。
正月と言えば――餅つきだ!
story1-2
レグルたちは、タイシに連れられて、700号ロットの広場までやってきた。
……っていうかさ。ショーガツってなに?
僕の故郷、スザクロッド統治域の伝統だよ。かの英雄キワムたちも行ったと言われている!
タイシって、スザクロッドの出身だったんだ。それでキワムたちが好きなの?
そ。だから、みんなと話が合わないのよね。地元のサッカーチームを応援してた子が、引っ越し先でアウェー感を味わうみたいなアレ。
うわ。んじゃ、スザクロッド統治域には、タイシみたいなのがいっばいいるかもしれないのか……。
アウェー……。
僕がアウェー感を味わってるのは、主にレグルとファルサのせいだからね?
で、モチツキってなに? なにやんの?
レグルの問いに、タイシは鼻息荒く、広場に置かれた木の臼を指差す。
この臼に蒸したもち米を入れて、杵でつくんだ。
そうして塊になった餅に、さまざまな味つけをして食べる!
おお!面白そうだな!
そうだろう!
できたら起こしてくれ!
タイシパンチ!
ごはっ。
餅つきは! みんなで餅をつき!できあがった餅をいっしょに食べて協調性と連帯感を育む行事だ!
スザクロッド英雄譚第53章14節でも、キワムたちが餅つきの果てに熱く絆を深めたとある!
レグル、手を出せ、杵を持て!英雄にふさわしい餅のつきかたというものを教えてやる!!
えー……。
どう、テーラ。あんた、森にいることが多かったから、よく知らないと思うけど。
ウザいでしょ、あいつ。
えーっと……まあ……うん……。
story2 レグルの覚醒
新年、というのがどういうものか、知識としては知っているけど、実感としては、オレにはよくわからない。
人間の言う1年は、オレにとっては一瞬だ。だから、わざわざそれを祝おうなんて、これっぽっちも考えたことはなかった。
だけど、人間であるレグルたちにとっては、きっと大事な節目なんだろう。そのくらいなら、オレにだってわかる。
だからオレは、後学のためにも、レグルたちの正月を観察してみることにした。
……まあ、テーラがあれからうまいこと溶け込めてるか心配だっていうのが、理由の半分くらいを占めてはいるんだが。
さてさて、それより餅つきだ。タイシの説明によると――
餅つきは、ペアで行うんだ。つき手が杵で餅をつき、合いの手が餅をひっくり返す。それを繰り返す。
ふたりのタイミングがズレたら、杵で手を叩いてしまう……。
そう。だから、息の合ったコンビネーションが必要なんだ。わかったかな?
任せて! ぐっちゃぐちゃにしてあげる!
ファルサにだけはつかせないからな! レグル、テーラ! 頼む!
しょうがないなー……じゃ、おれが合いの手をやるから、テーラはつき手をやってくれ。
だめ。私が合いの手をやる。危険度の高いミッションを担当するのは、ガーディアンの私であるべき。
テーラ。ガーディアンか人間かなんて関係ない。これは、おれがやらなきゃいけないんだ。
レグルは、じっとテーラの瞳を見つめる。その眼差しには、確かな強さが宿っていた。
おれはずっとテーラのことを守りたかったんだ。そのために強くなりたいと思ったんだ。
守りたいという、強い思い。レグルの胸に咲く大きな花は、原初の記憶を思い出したことで、しっかり魂に根づいている。
昔なら、テーラは頑固に突っぱねただろう。だけど、レグルの気持ちを知っている今は、困ったような、でもどこか嬉しそうな顔で――
絶対、合いの手の方が疲れないもんな。頼む。こっちをやらせてくれ!
…………。
レグル、おまえさあ……。
いや、理由をつけて、危険な方を買って出たという可能性も――
……いや、どうかなぁ。どうだろうなぁ。
なんだかんだで、餅つきが始まった。
始まったのはいいんだが――
きゃっ。速すぎた!? レグル、大丈夫!?
ん、ああ、当たってないよ。でも危なかったなー。
ふたりの呼吸が微妙に合わず、なかなかうまくいかないようだ。
もっと息を合わせなきゃ。それぞれ声を掛け合ってみるのはどうかな?
タイシの提案で、餅をつくときと返すときに、それぞれ「ぺったん」と言うことになった。
ぺったん。
ぺったん。
ぺったん。
ぺったん。
ぺったん。
ぺったん。
ぺったん。
うわ、危なっ! テーラ、早いって!
レグルこそ、だんだん遅くなってるじゃない!
戦闘では息が合っているのになぁ……。
あーもう。見てられない!
テーラ、〈ぺったん〉!
ぺったん!
レグル、〈ぺったん〉!
ぺったん!
〈ぺったん〉!
ぺったん!
〈ぺったん〉!
ぺったん!
〈ぺったん〉!
ぺったん!
〈ぺったん〉!
ぺったん!
ふたりは完全に息を合わせ、すごい勢いで餅をついていく。
驚くくらいのスピードだった。一段落ついたところで、見ていたタイシが拍手したくらいだ。
急にコンビネーションが良<なったね! どうしたんだい、ふたりとも?
〈声〉が聞こえたんだ。
マジで? 〈声〉ってあれでしょ、カリュプスでしょ? なに? あいつ暇なの? 寝正月なの?
そりゃカリュプスは万年寝正月だろうよ。起きたら大変だろ。
おかげで、なんとなくコツがつかめた気がする。テーラ、いつでもいいぞ!
うん!
ふたりは、怒涛の勢いで餅をつき始めた。この分なら、もうオレが手伝わなくても良さそうだな。。
それにしても、感慨深い。あのテーラが、レグルといっしょに餅をつく日が来るなんて。
オレは、成長した我が子を見守る親の気持ちで、しみじみとふたりの餅つきを見守るのだった。
餅つきが終わり、ほかほかの餅が完成した。
よし、あとは好みの味つけをして食べようか。味噌、醤油、きなこ、いろいろ持ってきたよ。
どばばばばば~。
ファルサくん。なんだいそれは。
見てわからないの? ラー油よ。あとトウガラシ。あったまるわよ~。今日みたいな寒い日には最高ね!
寒いんなら上着くらいはおれよ!
嫌よ。返り血がついたとき、洗うのが大変じゃない。
露出の理由、そんなだったの!?
あ、トリハダ。見る?
見せに来るな!!
しょーがないな、あのふたりは。テーラ、何つけて食う?
中腰になり、そろそろと移動しかけていたテーラが、レグルに声をかけられ、ビクッとなる。
あの、私は、あっちの方で……。
レグルたちの目が、ギラリと光った。
そうはさせないぜ。おれがなんのために、あれだけがんぱったと思ってるんだ?テーラの笑顔を見るためさ!
飴でアレなら、餅ならどうなるのかしらね? レポートがはかどっちゃうわ!
スザクロッド英雄譚第53章18節15行目にあるとおり、ついた餅をみんなで食べるのは英雄の基本だ!
待って! だめだから! これ、においだけでもうだめだから!
なおさら逃がすか!!
ユ、ユースティティア!
待てえー!!
story3 4人の新年
いったい、なんでこんなことになったんだか。
逃げるテーラ。追うレグルたち。どちらもガーディアン・アーマーを展開している。
ロッドの住人たちが何事かと目を見開くなか、逃走するテーラの頭上に、大きな翼が広がった。
逃がさないぞ、テーラ!
ユースティティア! スタンモード!
疾走しつつ上を向いたテーラが、タイシに向けて電気弾を発射する。
電気弾は正確にタイシヘと吸い込まれていくが、タイシは減速と加速を駆使し、鮮やかにこれを回避してのけた。
さすがテーラ。いい狙いだ。しかし、空中機動はフォルティスの真骨頂!
くっ――きゃあ!?
突然、テーラがガクンとつんのめった。
地面から伸びた謎の植物が、アーマーごとテーラに絡みつき、身動きを封じている。
かかったわね。対テーラ専用トラップ、名づけでお靴をお舐めします、クンよ!
ひいいいい気持ち悪い!
べろんべろんいくわよ! べろんべろん! ガンコな汚れもピッカピカ! まるであたしの心を映したようにね!
それならっ!
テーラは、ガーディアン・アーマーを解除した。
アーマーが消えた分、隙間が生じた。テーラはすぐさま、ロイドとともに脱出し、また即座にアーマーを展開して走り出す。
えっ、なにそれずるいじゃない! どうしてそういう技あたしに教えてくれてないの! ずるい! 好き!
わめくファルサを置き去りに、テーラは路地を駆けていく。
アヴリオとの戦いを経て成長した、700号ロッド自警団たちの、お互い持てる技を尽くしての応酬であった……。
いや。本気すぎだろ。おまえら、本気出しすぎだろ。新年早々なにやってんだ。
このまま逃げ切れれば……。
スピードなら、サルヴァトルの方が上だっ!
サルヴァトルを展開したレグルが、猛烈な速度で後ろから追い上げ、テーラの横に並んだ。
来させないっ!
ユースティティアの銃口から電気弾が放たれる。
至近距離からの射撃を、レグルはかいくぐるようにかわし、一気にテーラヘ接近した。
そこだぁっ!
甘い!
テーラはサッと身をひるがえし、突っ込んでくるレグルの勢いをいなすや、華麗に足を払って路上に転がした。
うおっ!?
体術では私に分が……ハッ!?
テーラの顔がこわばり、足が止まる。
その視線の先で、レグルはゆっくり立ち上がった。
……気づいたみたいだな。
あ、ああ……。
テーラは、がくがくと震え、膝をつく。
そう。カウンターを喰らう前提で、テーラの口に餅を放り込む……それが、おれの目的だったのさ。
ああ……おいしい……。
うっとりと口内の餅を味わうテーラに、レグルは、穏やかな微笑みを向けた。
その笑顔だよ……テーラ。おれが見たかったのはさ……。
いやー……おまえらさー……。
…………。
……ま、いいか。
人間とガーディアンが、アバターを駆使して、こんなアホなことをやる。
それって、いい時代になったって証だもんな。
……たぶん。
と、いうことで。
動きを止められたテーラは、レグルたち3人に囲まれ、寄ってたかって餅を食わされた。
はい、きなこ。あーん。
ああ……おいしい……。
あんこもどうぞ。
ああ……とろける……。
あたし、将来の夢、決めたわ。餅食べさせ屋さんになるわ。
普通に餅屋でいいんじゃないかな……。
まだまだあるからなー。たんと食えよー。
やめてええ……太るう……。
むちころテーラ! いいわねそれ! 前人未到の新境地よ!
いやああ……。
自警団4人の奇妙な風景を、通りがかった人々が「なんだあれ」という目で見つめている。
まあまあ、いいじゃないか。大目に見てやれよ。
今日は、テーラが仲間と過ごす、記念すべき最初の正月なんだからさ。
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