【黒ウィズ】SOUL BANKER Out of Control Story3
SOUL BANKER Out of Control Story0
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SOUL BANKER Out of Control Story2
SOUL BANKER Out of Control Story3
目次
story9 幻想銀行の在り方
リニーダ、ティリルカと別れて扉を潜り、また新たなフロアを進みながら――
心のー部を預ける、ということについて、君は思いを巡らせていた。
先ほどは、ウィズだったら認めないだろう、と思っていたが――
ティリルカたちを見ていて、そうでもないかもしれない、と思い直していた。
本来、決して救われるはずのなかった彼女らが、心のー部を預けるというローカパーラの機構のおかげで、新たな道を歩めたように――
やり方次第、使い方次第で、みなが幸せになれる方法を見出すこともできるのかもしれない。
それを見つけるのが賢者たる魔法使いの務めだと――ウィズなら、そう言うのではないだろうか。
君が考え込んでいるのを察したのか、ウィズが顔を覗き込んでくる。
なんでもないよ、と軽くウィズに微笑むと。
いや、平気だよ、と君は、あわてて首を横に振る。
だいじょうぶ、ありがとう、と君は答え、そっちは平気?と尋ねた。
ふたりは常に、君に魔物を近づけないよう配慮しながら戦っていた。肉体的・精神的な消耗は、君の比ではないはずだ。
すごいけど大変だね、と君は言った。
命がけで客を守り、魔物と戦う――それが日々の業務だというのだから、考えてみればとてつもない負担だ。
意義?と問う君に、ヴィレスはうなずく。
決断とはすなわち、数ある道からひとつを選び、そこへ至るための扉を開く行いです。そして重大な決断であるほど扉もまた重く……。
淡々とした――だが、だからこそ虚飾のないまっすぐな言葉に、君は息を呑む思いだった。
君も、人生の岐路と呼べるほどの重い決断をしたことは、何度かある。
たとえば、魔道士の道を志すと決めたこと。
誰でもなれるものではない。努力が足りなければ、諦めるほかないし――念願叶ってなれたとしても、危険な依頼で傷つき、命を落とす危険もある。
本当にそれでいいのか。何度も自問自答した。重い門扉(もんぴ)を、苦しみながら開いていくように。その末に、魔道士ギルドの門を叩いた。
君だけじゃない。きっと誰だってそうだ。
道を選び、重い扉に挑み、本当にこれでいいのか、悩み、苦しみ、歯を食い縛ってきただろう。
彼らは、それを助けてくれる。
どの道を選ぶかではなく。決断それ自体に伴う辛さ、重さを分かち合ってくれる。理解し、支え、戦ってくれる。
命を懸けて。
その言葉に、偽りはないだろうと君にはわかる。彼らが本気でそう思い、全力を尽くしていると、これまでの戦いが証明していたから。
だから、行こう、と君は告げた。
杖を取り戻し、ローカパーラを元に戻すため。ウィズの知性を回収し、彼女を元に戻すため。
この先、どれだけ強い魔物がひしめき、どれほど厳しい戦いが待っているのだとしても。
自分は、その道を選びたい。
ふたりは、真摯にー礼し、再び道を歩き出す。
その背が、無言で告げている。
君の思い、君の決断を支持すると。
君が選んだ戦場を、共に駆けてゆくのだと。
story
たとえばこういう可能性はありませんか?魔法使い様のいらした異界では、杖とはこのようなものを指すという――
違います、と君は言った。普通にこう、長くて細いやつだよ、と。
そうそう、まさにあんな感じ……。
……。
あれだよ!
あれです!
まちがいない、と君はうなずき、杖に向かって足を進める。
と。
ヴィレスが長い腕を伸ばして君を制した。
いつも通りの口調だが。
その目は断固たる確信を帯びて、鋭く杖を睨み据えていた。
突如、愉快そうな少女の声が聞こえた。
かと思うと、地面に転がっていた杖の周囲に、ぎゅるぎゅると強大な魔力が集まっていく。
渦巻く魔力は、やがて人の形を取った。
人の形――をしているだけで、はっきりとした人外の特徴を持つ幼い少女が、ふわりと地面に足をつける。
右手にあの杖を握ったまま、なつっこい笑顔を浮かべ、ひらひら左手を振ってくる。
ここ、会話できる魔物なんてのもいるの?君は問うた。
あきれたように言って、ラシュリィが発砲した。
出し抜けの、抜き撃ちである。あまりに自然な動作だったので、狙われたのが君だったら反応もできず撃ち抜かれていただろう。
しかし、放たれた銃弾は、シャスティを守るように現れた魔物に弾かれ、あらぬ方へと飛んでいった。
さらりと言って、ラシュリィは前に出た。
シャスティは唇を尖らせ、杖の石突きで地面を突いた。
すると、何体もの魔物が地面から染み出し、重々しい雄叫びを発する。
なぜかちょっと役立つ豆知識を口にしながら、シャスティは魔物たちをけしかけてきた。
***
魔物の群れはヴィレスとラシュリィに任せ、君はシャスティに向けて魔法を飛ばした。
火、雷、氷。さまざまな攻撃魔法を矢継ぎ早に繰り出す。
しかしシャスティがクルクルと杖を回すと、みっつの魔法が跳ね返り、君に向かって飛んできた。
あわててかわす君を見て、シャスティはチチチと指を振る。
あ、でも、初手から遅延魔法を使わなかったのは良かったね。跳ね返されたら詰んでたもんね。お利口、お利口。
その言葉に、君は思わず息を呑む。
まさか(・・・)。
いや。ありうるのか。これまでのことを考えれば――
シャスティがぼやいたところで、ちょうど、ヴィレスとラシュリィの銃弾が、魔物の最後の1体を打ち砕いた。
言いつつ、ふたりはシャスティに銃口を向ける。
そのとき、視界の端で何かが動いた。
なんだ――と、そちらに目を向けたときには。
それは、眼前にいた。
獣のごとき雄叫びとともに。
異形の刃が、君へと走る。
ふたりは咄嵯に銃口の向きを切り替え、撃った。
異形は君を手にかける寸前で跳びのき、放たれた銃弾から逃れる。
シャスティは、くるりと身をひるがえした。
待て、と君はカードを構えたが、させじと異形の魔物が立ちはだかる。
シャスティをかばった――というよりも。
爛々と光る眼差しに、君の姿だけを映して。
濁った叫びとともに、魔物は獅子のような俊敏さで突っ込んでくる。
ヴィレスとラシュリィが割り込み、銃撃した。魔物は横に跳んで銃弾から逃れる。
そして、ふたりに狙いを切り替える――かと思いきや。
魔物は、ふたりの横を回り込むようにして、君に向かって踏み込んでくる。
下手に魔法を撃っても、避けられるだけだ――君は魔法を準備しながら、ジッと魔物を待ち受ける。
そして、魔物が跳びかかってきた瞬間、低く滑り込むような動きで前に出た。
跳躍する魔物の下をスライディングで通り抜けながら、真上に向けて魔法を放つ。
空中だ。避けられるはずもなく、魔物は直撃を受けて吹き飛んだ。
直撃だったが、致命傷ではなかった。魔物は憎々しげな唸りとともに起き上がり、君を睨みつけてくる。
狙いを変えるつもりはなさそうだ。シャスティにそう操られているのか、肉弾戦に弱そうな相手から仕留める算段なのか――
ヴィレスが君の前に立ち、淡々と言った。
なぜ――?と君は問う。どうしてそれがわかるのか、と。
ヴィレスは、ー瞬、君に目線を向けて、言った。
ぽかん、と口を開く君に、彼は、あくまでも淡々とした態度のまま述べた。
保管庫に預けておいたのですが。今回のー件で流出し、取り込まれてしまったようですね。
わたくしの預けた〝憎悪〟も。あの魔物に取り込まれているようです。
こちらも、いつも通りの平然たる態度で、とんでもないことを言い放った。
君が唖然としているなか、魔物が腹に響くような叫びをあげる。
おぞましいほどの殺意と、恐ろしいほどの憎悪。
どす黒い叫びを泥のようにまき散らし、魔物は脇目も振らずに君へと駆けた。
story10 業の絆
血を吐くような叫びが響く。
怒りと憎悪にまみれた叫び――溶岩を固めて造った弾丸のような。
答えなさい――ヴィレス・ニュナン!!
過去の映し絵を背に、異形が迫る。
血走る瞳に君だけを映して。たぎる殺意と憎悪のままに。
ヴィレスが割り込む。
振り下ろされるナイフを銃で受け止め――そのまま、邪魔だとばかりに吹き飛ばされる。
受け身を取って立ち上がるヴィレスの後ろで。
いつかのヴィレスが、あっさりと言った。
魔物の猛攻にさらされかけた君を、ラシュリィが横から抱き着くようにかっさらう。
魔物はラシュリィごと君を切り裂こうとしたが、させじとヴィレスが銃弾を連射し、妨害する。
魔物は銃弾をかわしながら突進する。
無欲で、誠実で、いつも自分のことより誰かを助けることを優先し、その結果多くの人に慕われ、愛され、尊敬を集める、聖母のごとき彼女が。
決して誰かに殺される所以などなさそうな彼女が、突如、無惨に殺されたら、どうなるだろうと思いまして――
つい。
魔物が吼える。
命をなんだと思ってるのよ!!
魔物が手にした銃から、憎悪そのもののような銃弾が次々と放たれる。
ラシュリィは君を突き飛ばすようにして銃弾から逃がしつつ、魔物を迎え撃った。何発かの銃弾が、その腕をかすめていく。
魔物の後ろからヴィレスが組みつく。振りほどこうとする魔物へ、ラシュリィはためらいなく銃弾を飛ばす。
たやすく奪っていいものではありません。
魔物は怒りに任せてヴィレスを振りほどき思いっきり振り回して地面に叩きつけた。苦鳴とともに、骨の砕ける音が響く。
魔物が、君の方を向く。
殺してみたくなるのです。
魔物が来る。ラシュリィが向かう。
ー瞬の交錯。邪魔だとばかりに薙ぎ払われる。ラシュリィの身体が棒切れのようにすっ飛び、地面を転がる。
無駄ではなかった。そのー瞬のおかげで、君の魔法は完成を見た。
ぶち込む。
1発、2発、3発、4発――5発。渾身の魔法を、目の前の怪物に叩き込む。
そのー方で――君はどうしても、当惑し、混乱せずにはいられなかった。
今、見えているのは、本当に彼らの過去の情景なのか?
結びつかない。今の彼らと。客のために命を懸けて戦う――そんな彼らの姿とは。
心のー部を預けるだけで、人はそうも変わるのか?
鋭い刃が、煙幕を切り裂く。
奴がいた。耐えていた。
恐るべき執念。それゆえのしぶとさ。
君を殺す――果てしなく研ぎ澄まされたそのー念が、魔力を極限まで活性化させている。
魔物が、左手の銃を君に向けた。
活性化した魔力が、銃口に収束し――光となって放たれる。
まずい、と君は横へ跳んだが、まずいというなら、それこそまずかった。
光の弾丸は、絶対に逃がさないとでも言わんばかりに空中で曲がり、正確に君の心臓を追尾してきた。
君はあわてて障壁を張ろうとするが、遅い。間に合わない。
死を覚悟した瞬間。
割り込んできたラシュリィが、手にした銃で、光を受けた。
詐裂する輝きが、ラシュリィの身体をボールのように跳ね飛ばした。
***
幸い、息はあった。
〈ヴァジュレイザー〉を楯にしたのが功を奏したのだろう。いったいどんな素材で出来ているのか、銃は焼け焦げこそすれ損壊を免れている。
ただ、衝撃までは殺せなかった。壁に叩きつけられたラシュリィの口からは、赤いものが滴っている。
君はラシュリィに駆け寄り、カードをかざして癒しの魔法を使った。
いいから、と君は首を横に振る。
致命傷ではないが、深手である。いくら魔法でも、これだけのダメージをー瞬で回復させることはできない。
彼女を癒している間、どうしても、無防備になる。
魔物は当然、動きを止めた君を狙い、爆発的な脚力でー気に肉薄してくる。
青い影が躍った。
ヴィレスである。ラシュリィが落とした銃を拾い上げ、魔物の前に躍り出るや否や、乱射を見舞う。
ふたつの銃口から飛び出す鉛のあられ。魔物は手にしたナイフでそれを弾きつつ、ヴィレスを回り込むように動く。
が、ヴィレスは、ぴたりとそれについていく。
視線をさえぎり、行き先を阻み、淡々とした表情で2丁の銃の引き金を絞る。
魔物は必ず君を狙うわけだから、それを前提に相手の動きを先読みし、足止めに徹しているのだ。
だが、それも簡単なことではない。
常に魔物の正面に立ち続ける動きだ。ナイフが、剛腕が、邪魔者を振り払おうと唸り、ヴィレスの身体をかすめていく。
手にした銃で防御するものの、しのぎきれない。脇腹を斬り裂かれ、鮮血がほとばしる。
それでも彼は、魔物の前に立ち続けた。
その刃を、君に届かせるまいとして。
かすかな声に、君は振り向く。
ラシュリィは――激痛のせいで汗が流れ、乱れた髪が肌に貼りついた状態で、それでも聖母のような微笑を浮かべていた。
あんな光景を見たらね、と、君は癒しの魔法を維持しながら答える。
不思議かと言われれば、不思議である。
あんな理由で命を奪う人が、命を懸けて君の楯になっていることも。
彼に家族を奪われたラシュリィが、背中を預けて戦ってきたことも。
なぜ、と。思わずにはいられない。
おかげで……妹の仇と肩を並べて業務にあたろうと、何も感じるところはございません。
ここは、そういう場所なのです。魔法使い様。
心のー部を切り離し、預けることで……本来できないはずのことが可能となり……開かないはずの扉が開く場所……。
なら、と君は問う。
ヴィレスば殺意、を預けた結果、善人となり、客のために命を懸けて戦う道を選んだ、ということなのか?
あの人は何も変わってはいません。ただ、゛つい殺したくなる、という衝動がなくなっただけです。
元からああいう人なんですよ……。
好奇心旺盛で、いつも変なことを考えていて、仕事には誠意をもってあたり、困っている人がいれば助け、お客様のため戦う。
それはそれとして、あなたやわたくしの妹のような人間を見ると、つい殺してみたくなってしまう……。
どうやら、そういう人なんです。彼は。わたくしも、一緒に仕事をしてみてそれがわかって、無茶苦茶だと思いましたが。
ラシュリィは、大きなため息を吐いた。
ヴィレスさんは、完全に人道から逸脱した人ですが――
お客様をお守りするためなら、死ねる人でもありますので。
と、言ったところで、ヴィレスがこちらに吹っ飛んできて、近くの壁に思いっきり叩きつけられた。
ごほっ、と血の塊を吐き、彼はつぶやく。
魔物が肉体の魔力を膨れ上がらせる。
ラシュリィは、壁にもたれかかったままのヴィレスから、ひょいと自分の銃を取り返し、ガチンッ!とその場で打ち合わせた。
君めがけて、魔物が突進してくる。
君は動かなかった。動くべきではない、と思ったからだった。
敵は君を狙っている。なら。
君が動きさえしなければ、敵を狙うのは、たやすい。
撃った。
放たれたのは、弾丸ではない。あの魔物が撃ってきたような、魔力の光。
ただし、その規模は比べ物にもならない。
建物ひとつを丸呑みにできそうなほど巨大な光の塊だった。
それは、地面をゴリゴリと削り取りながら直進し、向かいくる魔物へと飛び込んでいく。
魔物は避けようという動きを見せたが、その瞬間、君は遅延魔法を飛ばしていた。
魔物の動きが、ー瞬、止まる。
ー瞬で良かった。
ばかでかい光の塊が魔物を直撃し、その肉体を塵に変えるには、必要充分な時間だったから。
ラシュリィが起き上がり、にこりと微笑む。
半ばぐったりと告げるヴィレスを見下ろし、ラシュリィは聖母のように微笑んだ。
そうもいかないよ、と君は苦笑し、癒しのカードをヴィレスにかざす。
彼の過去には驚いたし、その所業も理由も正直どうかと思うが、ラシュリィの言うとおり、銀行員として戦ってくれることは確かだ。
あのシャスティという魔物と戦うためには、少しでも戦力が欲しい。
ヤーシャラージャの言葉に、君はうなずき、答える。
シャスティは、おそらぐウィズの知性、を取り込んだ魔物だ、と。
〝ウィズの知性〟が資産として封じられたのなら、この混乱のなか、それが流出し、魔物に取り込まれることもありえるはずだ。
なのに、シャスティは杖を使いこなしていた。゛ウィズの知性、――四聖賢の知恵を取り込んでいるなら、それもうなずける。
遅延魔法の弱点を知っていたこともそうだ。クエス=アリアスの精霊魔法の使い手でなければ、そんなことは知らないはずだ。
そういうこと、と言っている間に、治療が完了した。
ヴィレスはすっくと起き上がり、軽く身体を動かして調子を確かめると、まじめなうなずきを送ってくる。
いいから行くよ、と、君はふたりの肩を叩いて歩き出した。
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