【黒ウィズ】SOUL BANKER Out of Control Story2
SOUL BANKER Out of Control Story0
SOUL BANKER Out of Control Story1
SOUL BANKER Out of Control Story2
目次
story7 次なるフロア
君たちはサージュと別れて扉を通り、また新たなフィールドに出た。
魔物はもともと、資産を欲する思念が魔力と結びついて発生するものだからな。
流出した資産など見つけようものなら、喜び勇んで取り込むだろう。
わかってる、と君はうなずく。
資産魔法の強力さは重々承知している。どんな敵であれ、侮るわけにはいかない。
そういえば。
サージュは資産魔法を発動させるのに銃を使っていなかったね、と君は言った。
と、申しますか、合わさることで門となる形状の武器でしたら、実はなんでもよろしいのです。
それでサージュは双剣を使っていたんだね、と答えて、あれ?と君は首をかしげる。
だったらヴィレスとラシュリィも、2丁拳銃にすればいいのでは?と。
サージュのように、行外で活動する銀行員は、行内の資産を活用することができません。
そのため、〈ヴァジュレイザー〉にあらかじめ特定の資産魔法を封じておき、必要に応じて任意に発動できるようにしてあります。
対してヴィレスとラシュリィの場合、多様な魔物と戦うため、そのときの状況に応じて最適な資産を魔法化する必要があります。
資産の魔法化には、綿密な計算と調整、そして強い意思力が求められます。ひとり分の精神では、魔法化自体がままならないのです。
なるほど、と君はうなずく。
すでに魔法化された特定の資産を使うサージュと、敵に合わせて適宜(てきぎ)、資産を魔法化するヴィレスたち。
精霊魔法で例えるなら、契約済みの精霊をカードから呼び出すか、戦いながら新たな精霊と契約するか、だ。
もっとも精霊魔法の場合、新たな精霊と契約するには非常に濃密な魔力の淀みが必要となるため、戦いながら契約できる状況などほとんどないが。
ヴィレスとラシュリィは、ルダンのサポートとふたり分の精神力で、強引に戦闘申の魔法化を果たしている、と思えばいいのだろう。
計算を誤れば、余剰神秘がオーバーフローを起こすため、逐ー排出プランを調整あるいは即席で策定することで、安全性の確立に努め……。
まあ、大変なのも道理かもしれない、と君は思った。
ヴィレスたちが見せた炎の資産魔法にしても、あの魔物の高速移動にしても、かなり強力な魔法だ。
高位の魔道士でさえ本来おいそれと使えるはずのないものを、魔道士でもないヴィレスたちが使えるようにしているのだから、大変で当然だ。
それにしても、と君は言う。
妖精郷から持ち帰った宝箱、なんて資産まであるなんて、この異界には不思議なものがたくさんあるんだね、と。
言ってから、普段ならウィズが訊いていそうな事柄だな、と思った。
だんだん銀行業の方がメインになっていきましたけれどね。
摩詞不思議な資産が封じられた銀行。心や感情のー部でさえ預けられる銀行。
もしこの銀行がクエス=アリアスにあったら、自分なら何を預けていただろう。
考えてみたが、特に思いつかなかった。
考えの甘さや未熟さなど、直したい欠点は多々思い浮かぶが……それを預けるのもどうかと思う。
人の心には、良い面もあれば悪い面もございます。悪い面だけを取り除けば、必然、良い人間になれましょうが――
欠点と向き合い、自らそれを正していこうと努力するからこそ、人は成長できるのです。
安易に心を切り貼りするのは、その努力を怠り、成長の機会を逃すも同然。人として、選ぶべき道ではございません。
ウィズは、ルダンの意見に賛成するだろうな、と君は思った。
彼女は、人の美徳も、そうでないところもひっくるめて個性だと考えている節がある。
欠点や悪癖のない人間なんてつまらない、くらいのことは言うかもしれない。
魔法だって、いい側面も悪い側面もあるにゃ。そういうものだと認め、向き合うことが、魔法使いとして成長するための第1歩にゃ。
と、いうわけで、下水掃除は任せるにゃ。どうせ私がいても役に立たないしにゃ。昼寝でもして待ってるにゃ。おやすみにゃ~。
……金言にかこつけて、このくらいのことは言いそうだな、と思い、君はウィズを見た。
ウィズは、なんだろうとばかりに首をかしげ、ついでのような鳴き声を上げるだけだった。
***
湧き出る魔物を倒しながら進んでいると、不意に、ぞくりという寒気が君を襲った。
物理的な寒気ではない。強烈な魔力の気配を感じ取ったせいだ。
と、ヴィレスが目を向ける先に、いた。
人型の異形――他の魔物とはあきらかにー線を画する存在が。
ラシュリィが、やれやれとばかりにため息を吐く。
魔物もこちらに気づいたらしい。
ゆらり、と非人間的な動きで起き上がり、よたよたとこちらへ近づいてくる。
ラシュリィが無言で発砲した。
銃弾は魔物の額を正確に撃ち抜き、後頭部から大量の血をぶちまけさせる。
あるはずのないものを見たように、ラシュリィは訝しげに眉をひそめた。
次いで、その目が大きく見開かれる。
噴き出した血飛沫が、ぐにゃりとねじ曲がり――同じ人型の異形と化して起き上がるのを見て。
敵来るよ、と君は言った。
***
そうだね、と君は言った。
大して強い魔物ではなかった。動きは鈍いし、反応も遅い。君たちならどうとでも対処できる相手だ。
が、増える。
攻撃すると、傷口から血をこぼし――それが同じ姿の魔物となって動き出す。これが、際限なく続くのだ。
今や、数十という数の異形が、君たち3人を取り囲んでいる。
いろいろ試してはいるんだけど、と君は頭をかく。
血を流すことで増殖するのなら、火の魔法で焼き尽くしたり、氷の魔法で凍らせれば、と考えもした。
だが、どうも効きが悪いのだ。火炎も凍結も、ほとんど有効打にならない。
〝血の泉〟は、土地に豊かな実りがもたらされることを願って、数多の聖者が身を投げた聖地。
清らかな血が、大いなる生命の力を与える――その特性を利用して、再生と増殖を行っているのでしょう。
つまり、めちゃくちゃしぶとい上に、血を流すたび増えていくってこと?と君は訊ねる。
そんな相手、どうすればいいというのか。
つかみかかってくる魔物を前蹴りで吹き飛ばし、ふとヴィレスは眉根を寄せた。
呑気なこと言ってないで何か対策を考えるにゃ!と、君はウィズが言いそうなことを言ってみた。
ウィズが言いそうなことを言ってみる……これは意外と、魔道士として成長するのにいい方法かもしれない。
いや、そんなことを考えている場合ではない。本気で。
と。
突如、右側にいた魔物が数体、あらぬ方へと吹っ飛んだ。
垣根を破るようにして現れたのは、青い制服を着た女性と少女のふたり連れ。
少女が冷ややかに告げる隣で、
女性は凛とした微笑みを浮かべている。
魔物の群れは、当然、彼女らにも襲いかかるが――
少女は、ひらりと攻撃をかわしては足を引っかけ魔物を転ばし。
女性は、向かってくる魔物に対し先んじて強烈な回し蹴りを叩き込んで転がす。
君はうなずき、少女と女性が開いた血路へ飛び込んで、魔物たちの囲みを抜けた。
ヴィレスとラシュリィも、体術と銃撃を組み合わせて魔物を退け、包囲を崩して走り出す。
魔物たちは追いすがってきたが、しぶといだけで動きの鈍い連中だ。風の魔法で転ばせると大きく距離が開いた。
やがて、諦めたのか、魔物が追ってくる気配はなくなった。
君は足を止めて息を整え、ありがとう、と少女と女性に声をかける。
女性は白い歯を見せて笑った。
まぶしいものに好んで顔を向けてきたような、ひまわりを思わせる快活な笑顔だった。
ティリルカ cv.沼倉愛美 | リニーダ cv.羊宮妃那 |
---|
ティリルカは優雅にー礼した。
所作のひとつひとつが、堂々とした貫録と余裕に満ちている。それでいて偉そうなところはなく、むしろ毅然とした謙虚さを感じさせた。
天という高みからあたたかな光を降らせ、それを誇りはしても奢ることなく働き続ける、勤勉な太陽のような堂々たる笑顔だった。
名乗り、少女がー礼する。
慇懃な口調とは裏腹に、抑揚といい表情といい、〝おまえのことなどどうでもいい〟と言わんばかりで、微塵のあたたかみもない。
あたたかな光から顔を背け、霜の降りた地面の下で耐え忍ぶような、冷然たる無表情だった。
こちらは、大きな手持ち金庫を携えている。なんのためのものかはわからないが、この銀行のことだ。ただの金庫ではないだろう。
厄介ごとを持ち込んでくれたものだ――と言外に告げるような冷たい眼差しを受けても、ヴィレスの態度はいつも通りだった。
君は、かくかくしかじか、事の次第を説明した。
リニーダはまるで興味がなさそうだったが。
ティリルカは深く感じ入ったというようにうなずき、ぎゅっとこちらの手を両手で握りしめてきた。
まあ、〝ヴィレスとラシュリィ〟っていちいち言うの面倒だからね、と君は思った。
と、ヴィレスの銃からルダンの声が響く。
で、どうしようか、と君は声を上げた。
ふたりが協力してくれるのは心強いけど、倒す方法がわからないとどうしようもない。
どうでもよさそうに、リニーダは言った。
ラシュリィは、なんだこいっという目でヴィレスを見た。
いったいどうするつもりなの?と、君はリニーダに尋ねた。(そうしないと話が進まない気がした)
リニーダはいかにも面倒そうな様子で、ため息混じりに答える。
その後は、わたくしどもが処理いたしますので。
口調こそ丁寧だが、心底やりたくなさそうな顔をしていた。
story8 決断と覚悟
再び魔物のもとへ戻ってくると、あれだけひしめいていた魔物は、最初の1体だけに戻っていた。
君たちを見るや否や、魔物はまたしても、ゆらりと起き上がり、よたよた近づいてくる。
ティリルカとリニーダが、先陣を切った。
揃いのナイフを手に、魔物の左右に回り、踊るような動きでサクサクと切り刻む。
たちまち魔物の身体から血飛沫が散って、それぞれ新たな魔物となって起き上がった。
増えた魔物にヴィレスとラシュリィが発砲。胸や頭を銃弾で撃ち抜き、さらなる血潮を流させる。
君も、魔力の刃を飛ばす魔法を使い、とにかく血を流させることに注力した。
10、20、30と、魔物の数がどんどん増えていく。
いかに動きの鈍い相手といえど、これだけの数となると、下手をすればすぐに取り囲まれ、なぶられてしまう。
君は常に動き回って敵の魔手から逃れつつ、近づいてくるものから優先的に攻撃した。時には風の魔法で吹き飛ばしもする。
ティリルカの動きは颯爽たるものだった。
果断に敵の群れへと飛び込み、軽やかな動きで翻弄しながら斬りつける。
対してリニーダは精緻(せいち)であり巧妙だった。
最小限の動きで攻撃をかわしながら、すれ違いざまナイフで傷をつけていく。
70、80……魔物の増殖は止まらない。もちろんあえてそうさせているのだが……それにしても、これほどまでに増えるとは。
近づく魔物を長い足で蹴り飛ばし、背後からの敵へは振り向きもせず銃撃を叩き込みながら、ヴィレスが言う。
かかと落としで魔物を地面に叩き伏せ、踏みつけたまま銃弾を撃ち込んだラシュリィが、眉をひそめて問う。
さすがに限界なんだけど……と君は言った。
魔物の数は、とうに100を超えただろう。ひとりあたり20体と渡り合っている計算になる。攻撃を避けるだけでもー苦労だ。
多少は体術の心得もあるとはいえ、魔道士である君には厳しい状況だった。
どうにか耐えられているのは、ヴィレスたちが己の危険もかえりみず、君をかばうように立ち回ってくれているおかげだった。
とは言うが……敵が増えるにつれ、防御や回避に割く手間が増え、攻撃頻度が減って、敵の数を増やしにくくなる。
このままでは、目標数に達する前に、こちらが力尽きかねない。
仕方ない。少し待て!いつもより計算に時間が――
悲鳴のようなリニーダの叫びが聞こえて、君は思わず、ぎくりとなった。
ティリルカが危ないのかと思い、そちらに目をやったが、彼女は相変わらずの奮闘ぶりを見せている。
リニーダにしても、まるで変わらぬ冷ややかな表情のまま、黙々とナイフを振るっていた。
では、今の声は。
ひどく動揺した様子で、切羽詰まった泣きそうな声を上げているのは、民族衣装のようなものをまとったリニーダの〝影〟だった。
リニーダは隠れていて。戦士たちを連れて、あたしが迎え撃つ。
さあ戦士たちよ!槍を持ち、弓を取れ〝血の泉〟を欲する愚か者たちに、あるべき報いをくれてやろう!
資産魔法〈電光石火〉――発動。
ヴィレスとラシュリィが、魔物の攻撃を後方宙返りでかわしざま、空中で、ガチンッ!と互いの銃を打ち合わせた。
たちまち、その身が稲妻と化す。
目にも止まらぬ高速機動。群れなす魔物の隙間を縫って、駆け回りながら弾丸を乱射する。
先ほど戦った魔物が取り込んでいた資産――あれを資産魔法として発動させたのか。
敵がどれだけいようと、捉えられる速度ではない。銃声が、ほとんどひと連なりの轟音となって響き、赤い血潮を雨のように降らせていく。
魔物の数が増えていく。加速度的に。雨が激しさを増すように。
銃声にまぎれ、泣き叫ぶリニーダの声が聞こえる。
少女の影は、ぐったりと倒れ伏したティリルカを抱き起こし、半狂乱となってわめいている。
何重もの雄叫びが上がる。
すでにどれほどの数に達しているのだろうか?200か、それとも300か――
ティリルカとリニーダは、魔物をかきわけるようにして合流し――
互いのナイフを、がちんッ!と打ち合わせた。
リニーダの金庫が、強い光を放った。
同じ光が、合わさった2本のナイフからも放たれる。
爆発じみた哄笑が轟く。
ー瞬、誰の笑いかわからず――そちらを向いて、君はぎょっとなった。
ティリルカが。
その目を爛々と血走らせ、ニイッと刃のように口角を吊り上げて、鬼神のごとき微笑みを浮かべていた。
ティリルカは、目を剥いて舌なめずりをした。
毅然とした気風も貫録もー切が消え失せ、代わりに穿猛な残虐さだけが、その相貌に浮かぶすべてとなっていた。
嫌悪もあらわにリニーダが言うと、
ティリルカは狂おしいほど嬉しそうに笑い、リニーダの手からナイフをもぎ取った。
そして、地獄が始まった。
***
蹂躙と言っていいほどの、圧倒的かつー方的な猛攻だった。
ティリルカは、自らに襲いかかろうとする魔物へ、人間離れした勢いで逆に襲いかかり、手にしたナイフをザクリと突き込む。
刺された魔物はピクリと震え、さらにはギュルリと渦巻いて、ナイフのなかへと吸い込まれていく。
ティリルカは身の毛もよだつ笑みを浮かべ、次々と魔物にナイフをぶちこんでいく。
いずれの魔物も、ー突きで渦と化し、それぞれ瞬く間にナイフに吸い込まれていった。
喰らっている――いや。
取り立てて(・・・・・)いる。
ティリルカのナイフは、魔物の魔力をまるごと奪い――先ほど開いだ門、を通じて、それをリニーダの金庫へ送り込んでいる。
魔力の流れから、君はそう悟った。
見れば、得物を預けたリニーダは、金庫から何やら機械のようなものを取り出し、不機嫌そうな表情でパチパチといじくっている。
ティリルカが魔力を奪い、リニーダがそれを制御する。そうして、魔力を取り立てる。
それが、ふたりの〝仕事〟のようだった。
魔物をこれほど増殖させたのは、1体あたりの魔力量を極限まで減らし、ー撃で〝取り立て〟られるようにするためか。
やりたいことはわかったが、ティリルカのあの変わりようはいったい――
同じ疑問を、震える少女の影が口にしていた。
誰かの首をもぎながら、笑うティリルカの影が答える。
暴れ、ねじ伏せ、引きちぎるそうでもしなきゃ収まらない!フフハハハハハハハハハ!
空気という空気を血色に染めるような咲笑――そのすべてを否定せんばかりに、少女の影は髪を振り乱して絶叫した。
あんたなんか……あんたなんかお姉ちゃんじゃないっ!!
無数の異形に囲まれ襲われる、という地獄は、今や、無数の異形が家畜のように屠殺されていく、という地獄に変じていた。
何百とひしめいていた魔物たちは、すでに何分の1にまで減っている。
ティリルカは、その1匹たりとて逃すまいと、踏みつけては刺し、飛びかかっては刺し、ひねり飛ばしては刺し、引っつかんでは刺す。
魔力を問答無用で〝取り立て〟る力もさるものながら、今のティリルカの身体能力は、完全に人間を超越したものだった。
彼女らは、行外で活動する銀行員だ。つまり、サージュ同様、あらかじめ魔法化された資産を利用しているということになる。
にもかかわらず、資産を発動させるのに、ふたり分の精神力と、魔力の計算が必要だということは――
やがて哄笑が止み、鼻歌が聞こえ始めた。
目の前で行われるのは、もはや戦いですらない。
道端の雑草を意味もなく引きちぎるような、雑で気軽な躊躊と化していた。
不気味なほどゆったりとした静けさのなか、鼻歌に混じって、虚ろな嗚咽が流れてくる。
お姉ちゃんじゃなくなっちゃった……。
ごめんなさい……ごめんなさいぃ……。
もはや、元に戻すことはできますまい。
ルダンの声。銃からではなかった。
誰か――君の知らない銀行員と共に、痛ましげな顔つきで少女の傍らに立つ彼の影が発した声だった。
〝血の泉〟ともども……当行に預けられることを、おすすめいたします。
最後に残った魔物の胴へ、ナイフが無造作に突き込まれる。
魔物は渦巻き、ナイフに吸われ――血のー滴すら残さず、消え去った。
ティリルカは、にこにこと上機嫌に微笑み、リニーダのもとへ歩いていく。
地獄の底から響くような声に、ティリルカは、けらけらと笑い――。
ふと、我に返ったように目を瞬かせた。
太陽のように、ティリルカは笑う。
すべてを血色に染める夕暮れじみた妖気は、もはや微塵も感じられない。
ティリルカは苦笑してナイフをしまい――
まじまじと見つめる君の視線に気づいて、おや、という顔をしてから、穏やかに微笑んだ。
昔は、お姉ちゃんお姉ちゃん、ところ構わず抱き着いてくるく甘えん坊だったんですけどね。
これですよ、とばかりウィンクを送ってくるティリルカを見つめながら――君は、なんとも言えない顔で黙りこくった。
ティリルカは――彼女は知らないのか。自分の身に何が起こったのか。リニーダが、どんな思いでいるのか。
リニーダ自身が、伏せているのか。
仏頂面で機械をいじるリニーダの横顔に、あの影が浮かべていたような弱さはない。
霜の降りた大地のように冷ややかなその相貌は、あるいは、冷えた涙で固められたものかもしれない。
凍てつくほどの覚悟とともに。
あの提案は、あなたがしたものだったのですね。副頭取。
ルダンは、苦い顔で押し黙った。
であれば、止むを得ないことです。むしろ強制的な変質を取り除くことこそ、本来あるべき彼女の精神を保つことになります。
これ以上それについて話す気はないとばかり、苛立たしげに会話を閉じるルダンを見て、ヤーシャラージャはおかしそうに微笑んだ。
SOUL BANKER Out of Control Story0
SOUL BANKER Out of Control Story1
SOUL BANKER Out of Control Story2