【黒ウィズ】SOUL BANKER Out of Control Story
目次
story1 魔杖を追って
君は、ウィズが指示した方角へ雷の魔法を放った。
雷撃は逃げる男の足元に突き刺さり、星の落ちたような光をまき散らして夜間を照らす。
君は、へたりこんだ男へ1歩を踏み出し、観念するんだ、と声をかけた。
男は歯ぎしりをして、細やかな装飾が施された杖をギュッと大事そうに握りしめる。
「魔力を操る力を持つ杖が、何者かに奪われた。捜索に協力してくれるか?」
男の杖は、バロンから聞いた特徴と合致している。
ここまで追ってきた甲斐はあった。
君の肩の上で、ウィズがさきやく。
君は拘束の魔法を準備しながら、男に近づく。
男はビクッと震え、両手で杖をかざした。
杖が、ギラリと光を放った。
周囲の光景が、ぐらりとねじれる。君は平衡感覚を失い、倒れそうになった。
魔道士がやぶれかぶれに叫ぶと、ますます景色の歪みがひどくなり、君は激しい吐き気に襲われた。
待て!と叫んで、君は魔法を放つ。
が、遅かった。
君の放った魔力もまた、ぎゅるりとねじれ、歪んだ景色に溶け込んでいく。
違う――と、君は思った。歪んでいるのは、景色じゃない。周囲の魔力そのものだ。
杖の力で、魔力がねじれ、歪み、暴走して――
そして――
……気がついたとき、周囲の様相はー変していた。
森の中――ではあるが。
先ほどまで君がいた森とは、木々の種類も生え方もまるで異なる。
密林、と呼ぶのがふさわしい場所だった。
君の肩から、トッとウィズが地面に下りる。
彼女が無事だったことに安堵しながら、君は、何が起きたんだろう、と声をかけた。
……。
いや、にゃー、じゃなくて。
いや、にゃー?でもなくて。
大きくあくびをしながら伸びをするウィズを見て、君は、まさか、と底知れぬ不安に襲われた。
いくらウィズがお茶目でいたずら好きと言っても、こんな非常事態に猫のフリをするほどではない。
ウィズ?と声をかけながら抱き上げてみるが、ウィズはきょとんとした顔でこちらを見上げ、首をかしげるだけだった。
まさか……しゃべれなくなった?
それにしたって、猫っぽすぎやしないか?事の重大さをまるで理解していないようだし――
君が戸惑っていると、ウィズはピン!と耳を立て、すばやく君の肩に登ると、フーッ!とあらぬ方に威嚇の声を上げた。
すると、その方角にある草むらがガサガサ揺れて、何かが姿を現す。
得体の知れない形をした生物――おそらく魔物のー種だろう。
それらは君たちを取り囲むように、じりじりと歩みを進めてくる。
どう見ても、好意的な反応ではない。
こんなときに――という思いを噛み締めながら、君はカードを取り出し、身構えた。
story2 幻想銀行
水の魔法が詐裂し、数体の魔物を押し潰す。
良かった、と君は内心、安堵していた。ここがどこかはまるでわからないが、とりあえず魔法は使えるようだ。
魔法を使うには、魔力の淀みが必要だ。幸い、ここにはじゅうぶんな淀みがある。ちょっと濃いな、と感じるくらいだ。
これなら身を守るくらいはできそうだ――という思いが、つい油断を招いた。
ウィズが上を向いて叫ぶ。君は、ぎくりとして顔を上げた。
頭上にかかる枝から、どろりと不定形の魔物が落下してきた。
まずい――と思った瞬間。
重い銃声が響いたかと思うと、2発の銃弾が魔物の身体に突き刺さり、粉々に吹き散らしていた。
固まった君の背に、落ち着いた声がかけられる。
振り向くと、かっちりした青い制服をまとった男女が、君に視線を向けていた。
??? | ??? |
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ヴィレスと呼ばれた青年が銃を下げるー方、傍らの女性は、君に油断のない眼差しを向け続けている。
こちらに銃口こそ向けていないが、君が怪しい動きをすれば瞬時に撃てる――そんな気構えが伝わってくる。
敵対するつもりはない、と君は言った。気がついたら突然ここにいて、ここがどこかもわからないんだ、と。
そのとき、ガサガサという音がいくつも聞こえてきた。
君たち3人は、パッと同時に身構える。予想通り、君たちを囲むようにして、魔物の群れが現れていた。
ふたりの落ち着いた口ぶりからして、魔物との戦いは珍しいことではないようだ。
こちらも異存はないよ、と伝えると、ヴィレスは魔物に銃口を向けたまま言った。
今?と君は思った。思ったが。
それより――幻想〝銀行〟?ここが?……ここが?
問い質している余裕はなかった。
襲い来る魔物たちに対し、君たちはそれぞれの得物を構え、迎え撃った。
***
***
魔物をー掃し、ふうっ、とー息ついてカードをしまう君を、ラシュリィが不思議そうに見つめていた。
そうだよ、と君が答えると、ヴィレスが興味深そうな顔をする。
生?と君は思ったが、深くは訊かないことにした。
ひどく重たい足音が、地面を震わせ、近づいてきていたからだ。
太い樹を、邪魔だとばかりにへし折って現れたのは、巨大なドラゴンだった。
そんなこと言ってる場合じゃないんじゃない?という君の言葉をかき消すように、ドラゴンが激しい雄叫びを上げる。
次いでその口が大きく開かれ、紅蓮の炎を吐き出した。
君たちは3方向に散って、炎をかわす。
地面の落ち葉や雑草が、燃えるどころか焼き尽くされて瞬時に灰となっていた。
ヴィレスが手にした銃に声をかけると、苛立たしげな男の声が返ってくる。
ヴィレスが銃と(?)何事か相談している間に、ドラゴンは木々を薙ぎ倒しながら大暴れする。
君は、当たれば1発で肉塊に変えられそうな尻尾の薙ぎ払いを避けて魔法を繰り出すが、1発や2発で倒れてくれる相手ではなさそうだ。
同じく攻撃をかわしながらのラシュリィの銃撃も、焼け石に水という様子だ。
こんなとき、いつもならウィズが適切な助言をくれるのに――
君が歯噛みしていると、ドラゴンがぐうっと顎を逸らし、大きく口を開いた。
まずい。また火炎の吐息が来る。君は攻撃範囲から逃れようと後退するが――
ヴィレスとラシュリィは、どういうつもりか、むしろドラゴンの正面に移動し、並び立った。
危ない!と君が叫ぶのと同時に。
ふたりは、ガチンッ!と手にした銃を打ち合わせた。
ふたりの銃が、火を噴いた。
比喩ではなく。文字通りに――ドラゴンの炎すら上回る巨大な火炎を吐き出し、ドラゴンの鱗を焼き焦がしていく。
ドラゴンが悲鳴とも驚きともつかぬ声を上げ、たじろぐように後退する。
代わりに、ふたりは1歩、前に出た。
*** BOSS
***
君の魔法と、ふたりの火炎。
その猛攻を受けたドラゴンは、なすすべもなく倒れ伏し――
屍も残さず、消えてなくなった。
胸をなでおろす君に、ヴィレスがー礼する。
ラシュリィ cv.青木瑠璃子 | ヴィレス cv.梅原裕一郎 |
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自分の身を守るためでもあるから、と君は答える。ついでに、敵意がないことの証明にもなればいいけど、と。
と、彼女の手にした銃から、涼やかな少女の声が聞こえた。
そのお方とは、じっくりお話させていただいた方が良さそうですから。
ヴィレスたちは顔を見合わせてから、君の方を向く。
ぜひ、と君は答える。こちらは右も左もわからない立場だ。
そう言って、ふたりは密林の草をかき分け、道なき道へと歩み始める。
行こう、ウィズ、と君が声をかけると、ウィズはひとつ鳴き声を上げた。
まるで本当の猫のような反応に、不安を抱えながらも――君は、ふたりの後を追った。
story3 取り戻すべきは
荘厳な静謐に満ちた青いロビーを見て、君は目をぱちくりとさせた。
あろうことか。密林の奥に、ぽつねんと置かれた扉をくぐった先が、ここだった。
君が茫然としていると。
ルダン cv.鈴村健一 | ヤーシャラージャ cv.東山奈央 |
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幻想銀行ローカパーラの頭取を務めております、ヤーシャラージャ・ローカパーラと申します。
ヴィレスたちと似たような制服をまとった男女が進み出てきて、礼儀正しく名乗った。
ヴィレスたちの銃から聞こえたのと同じ声だ。銃がしゃべったのではなく、彼らの声を伝えていたらしい。
君は自己紹介を返してから、ここは、クエス=アリアスのどのあたりなんでしょう?とヤーシャラージャに尋ねる。
ヤーシャラージャは、きょとんとした表情でその名を転がし、それからにっこり微笑んだ。
幻想銀行ローカパーラについて、君はヤーシャラージャたちから説明を受けた。
ここがあらゆるものを預けられる銀行であり、あの密林のような場所ですら、銀行のー部なのだということ。
預けられた資産は定期的に魔力を発生させており、そのー部が人の思念と結びつき、魔物となって行内に出現すること。
そうした魔物たちを撃破するのが、銀行員(バンカー)であるヴィレスたちの仕事であること。
そして――
突如、行内の魔力が暴走し――封じられていた資産が保管庫から流出してしまったのです。
資産を再封印するため、銀行員を総動員して対処しておりますが――
魔力の暴走に伴い、魔物が強大かつ凶暴になっており、手を焼いている次第です。
なるほど――と、その話を聞いて、君は思ったことを述べる。
魔力の暴走の原因は、君が追いかけてきた杖にあるのかもしれない。
あのとき、追い詰められた魔道士が、魔力を操る杖を暴走させ、周囲の魔力をねじ曲げた。
その結果、異界の歪みが生じてしまい――君とウィズは、この銀行に飛ばされたのかもしれない。
暴走した杖といっしょに。
自分たちの住む世界、クエス=アリアスじゃ、ローカパーラなんて銀行は聞いたこともないからね、と君は答える。
君は、ヴィレスの発言を聞き流しつつ、それと、と言ってウィズを抱き上げた。
このウィズは、本当はしゃべるんだけど、ここに来てからなぜかしゃべれなくなってしまった。心当たりはないだろうか?
ヤーシャラージャは、〝猫がしゃべる〟という奇天烈な話にも眉をひそめることなく、じっとウィズを見つめ――
そして、こくりとうなずいた。
おそらく……あなたがたがいらっしゃった際、魔力の暴走によって当行の封印機構が誤作動を起こし……。
ウィズ様の〝知性〟を資産とみなして、封印してしまったのだと思われます。
そんなことが――と、君は驚いた。
なんでも預けられる銀行だ、という話だったが、〝知性〟なんてものまで預けられてしまうなんて。
しかし、言われてみると納得はいく。
ウィズがまるで猫になってしまったかのような振る舞いをするのは、人間の――それも四聖賢としての〝知性〟を失ってしまったからなのだ。
そして、暴走の原因が異界の杖にあるのなら、まずはそれを回収する必要がありますな。
だったらぜひ手伝わせてほしい、と君は言った。原因のー端を担っている身として、放ってはおけない。
しれっと言ったヴィレスを、ルダンが睨む。
銀行員として、お客様の身をお守りできるよう最善を尽くしてまいります。
女神のように微笑んで、ヤーシャラージャは、やわらかく両手を打ち合わせた。
こちらこそ、と答え――ローブのなかで、君は強く拳を握る。
銀行を正常化し、ウィズの〝知性〟取り戻せるかどうかは、君の努力にかかっている。
なんとしても果たさなければ、と、君は堅い決意を抱いていた。
あらすじ
幻想銀行ローカパーラに封じられていた資産が突如として暴走を開始。
資産は人智を超える力をもった摩訶不思議なものばかり。
このまま銀行外へ流出すれば、世界は未曾有の危機に陥るだろう。
事態を重く見た頭取ヤーシャラージャは、
“差し押さえ”や“融資”を専門とする銀行員を呼び戻し事態の収拾を図るが……
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