【黒ウィズ】SOUL BANKER Out of Control Story4
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SOUL BANKER Out of Control Story4
目次
story11 魔力暴走
君たちは、ルダンの導きに従い、魔力の乱れている方へ向かい――
杖を手に、鼻歌を歌いながらその場でクルクル踊っているシャスティの姿を発見した。
でも、まあじゅーぶんかな。やりたいことだいたいできそな感じだし。
シャスティが、杖の石突きで床を叩く。
すると、すさまじい量の魔力が渦巻き、ほとんど旋風となって君たちの衣服をはためかせた。
淀み。
その言葉を耳にして、君はハッと顔をこわばらせる。
まずい、と君はヴィレスたちに警戒を促す。
クエス=アリアスの魔道士は、強い魔力の淀みを利用して精霊と契約する。
ここには、それができるだけの――新たな精霊と契約を結べるだけの淀みが、じゅうぶんに集まっている。
奴はいま、1枚のカードも持っていない。当然、1体たりとも精霊と契約していない。
だからここで精霊と契約し、カードを作り、魔法使いになろうとしているのだ。
それも――クエス=アリアス最強の魔道士、四聖賢のウィズの知性を使って。彼女と同等の魔法使いに!
させるか!と叫び、君はカードを構える。
君もカードに魔力を込めて、使い慣れた魔法を解き放つ。
…………。
起こらない。何も。
ヴィレスとラシュリィの銃が光ることもなければ、君のカードから魔法が放たれることもなかった。
ラシュリィが呼びかけても、返事はない。合わさった銃は、石のように沈黙している。
シャスティが、あっさりと言った。
だから、このへんの空間まるごと魔力で封鎖して、鍵をかけたの。どこからの力も及ばないようにね。
絶句する君に、彼女は、にっこり微笑みかける。
シャスティが杖を振るうと、淀んだ魔力が波となり、君たちへ押し寄せた。
激しい衝撃が、君の身体を打ち据える。
story12 こじ開けた扉
なすすべもなく、君は倒れた。
君だけではない。
ヴィレスとラシュリィもまた、床に転がり、苦しげな呻きを漏らしている。
シャスティは、まだ魔法を使っていない。ただ周囲の魔力を操って、衝撃波として放ち、あるいは銃弾を防ぐ壁に変えただけのこと。
だが、そのどちらにしても、今の君たちでは対応しょうがなかった。
倒れたまま、君は歯噛みする。
魔法の使えない今の君では、攻撃も防御もままならない。
資産魔法を封じられたヴィレスとラシュリィは、単純な攻撃なら可能だが、そんなものでは、魔力の壁で防がれるだけだ。
精霊魔法か、資産魔法か――彼女の操る魔力を破壊できるだけの力がなければ、どうしようもない。
もう、打つ手はないのか。
ウィズの知性を勝手に使われ、クエス=アリアスの魔法をいいように使われる。それを止めることはできないのか?
いや――と、君は頭を振る。
ウィズならどうする。何を言う?
きっと、ここで諦めたりはしない。考えに考え、逆転への糸口を見出すはずだ。
自分はどうだ?弟子である自分は?
ただウィズの背中を追いかけていただけか?彼女から何も学んでいなかったのか?
そんなことはないはずだ。
いや、そうであってたまるものか。
考えろ。ウィズのように。
考えろ、考えろ、考えろ。
既成概念に囚われるな。固定観念を打ち崩せ。
あるものすべてを利用して、たとえどんなに強引だろうとも、決定的なー手をひねり出せ。
やっぱ強いのがい~かな~。ミカエラかな~。イザークもいいな~。
視界の端。ヴィレスとラシュリィが立ち上がるのが見える。
勝ち目がないのはわかっているはずだ。だが、それでも諦めようとはしていない。その目には、確固たる戦意が宿り続けている。
なぜか。
決まっている。客のためだ。
君のためであり、これまでの客、これからの客――この銀行を利用する、すべての人のためだ。
そのために、どうすればあいつに勝てるか。彼らも必死に考えている。無茶で危険な賭けでもいいから、何か打つ手はないかと。
そんなふたりだとは、最初はわからなかった。あまりに淡々としていて事務的だったから。たまにすっとぼけたことを言ってはいたが。
だが、今は。
今はわかる。知っている。彼らがどんな思いで銀行員として働いているか。こんなときなら彼らがどうするか。
図らずも、彼らの過去を知ったおかげで。本来、到底銀行員などやれないようなふたりが、なぜ銀行員をやっているのか知ったおかげで。
――そうか。
ふと、君の脳裏に案が生まれた。
行けるか?こんな強引な――いや、成功すれば確実なー手。
できるのかどうか……際どいが……やってみる価値はある!
君は息を吸い、そして吐く。
意識を凝らし、集中する。周囲の魔力を感じ取り、己の意思をそこにつなげる。
感じ取る。精霊の問いかけを。
〝我はなんであるか〟という問いに、君は答えを――真名(まな)を――呪文を返す。
我が召喚に応えよ。
闇を開くー閃――ヴィレス&ラシュリィ!
光があふれる。
淀んだ魔力が糧となり――光となって、魔法に変わる。
光は無数の銃弾と化し、目を丸くしたシャスティヘと降り注いだ。
シャスティはあわてて周囲の魔力を集め、壁となしたが、弾丸はそれすら貫通する。
弾丸は、彼女が手にした杖へと喰らいつき、容赦なく粉砕した。
ひどくない、と君は答えて立ち上がる。もともとその杖、君のじゃないでしょ、と。
手のカードが、光を取り戻している。杖が砕けたことで、空間を閉鎖していた魔力がほどけたのだ。
ていうかなんで魔法を……あ!うそでしょひょっとして、この異界の精霊だから?叡智の扉を開かなくて良かったってこと!?
当たり、と君は答えた。
叡智の扉は、異界と異界を繋ぐ扉だ。
通常、異界の精霊の力を召喚するには、叡智の扉を経由するのが必須となる。
だが、同じ異界にいる誰かと契約し、その力を精霊として召喚するのであれば――当然、叡智の扉を開く必要はない。
ついでに言えば――本来、特定の精霊を指定して契約することはできないが、今回ばかりは、それに近いことが可能だった。
空間が閉鎖され、叡智の扉が開かないという事は、ここで契約を行えば、対象となる精霊は、ここにいる誰かに限られるという事だ。
賭けは賭けだが、イチかバチかというほどではない。
だったらまあ、賭けるよね、と君は言った。
シャスティにとって想定外なのは当然だ。クエス=アリアスの魔道士にとって、叡智の扉を開くのは、基本的な原則なのだから。
異界に飛ばされたのでもない限り、叡智の扉を介さず魔法を使おうだなんて、誰も考えたりしない。
ウィズなら思いつきそうなものだけどね、と君が肩をすくめると、シャスティは、頬をふくらませて地団太を踏んだ。
あの魔物、わたくしの〝子供らしさ〟も取り込んでいるようですから。
後方から声が上がる。
にやにやと笑いながら足を進めてくるのは、サージュだった。
別の方向からは、ティリルカとリニーダが現れる。
残るは、その魔物だけ。速やかに対処してくださいね。
「「「「「かしこまりました。」」」」」
銀行員たちが並び立ち、それぞれの得物を、ガチンッ!と打ち合わせる。
君も彼らの横に並び、今度こそ、使い慣れたカードを構えて、行こう、と告げた。
ヴィレスとラシュリィはうなずき、その銃口をシャスティに向ける。
最終話 決着
ティリルカ、サージュの剣舞が唸る。
業務的な二刀と、嗜虐的な二刀。
まるで性質の異なる、だが容赦のなさにおいては同等の刃が、シャスティを襲う。
シャスティは生み出した魔物を楯として、剣舞から逃れる。
そこへ、君は魔法を撃ち込んだ。
1発。2発。
3発。4発。
そして、駄目押しの5発。
シャスティは魔力を壁にして防ぐが――杖を失った今、彼女の操る魔力は、前ほどのものではなかった。
壁が砕け、君の魔法がシャスティを撃つ。
悲鳴とともに、魔物は床を転がる。
シャスティは涙目で起き上がり、ありったけの魔力をかき集める。
まずい。自爆覚悟で魔力を詐裂させる気だ。すぐヤケになる子供っぽさに大魔道士の知性が合わさるなんて、まったくろくなもんじゃない!
だが、君の心配は杞憂だった。
ヴィレスとラシュリィ。あのふたりが、ガチンッ!と互いの銃を合わせ、その銃口をシャスティに向けていた。
放たれたものは、光。
激しい光。巨大な光。何もかもを押し潰し、街だろうと城だろうと跡形もなく消し去りそうな、とてつもない光。
問答無用、容赦なし。業務遂行にあたって障害となるものを、淡々と、だが徹底的に粉砕する意思の象徴のような光が。
シャスティのかき集めた魔力ごと、その身のすべてを消し飛ばす。
やけくその極みのような断末魔だけを残して。
ウィズの知性を宿した魔物は、何も果たせず消え散った。
story13 君の帰還
ウィズは、たいそう不満そうだった。
ローカパーラ銀行の異変が解消され、ウィズの知性が本人のもとへ戻り――
ロビーに戻って事の次第を説明されるなり、彼女が口にしたのがそれだった。
だから、ちょっとくらい見せてもらっても、いいんじゃないかにゃ~?
この瓢々としつつも図々しい感じ、ウィズだなあ、と思いつつ、君は出された茶をのんびり飲んだ。
いいお茶だね、とヤーシャラージャに言うと、彼女は女神のように微笑む。
へえ、と君は驚く。どういう仕組みなのだろう。そういう資産でも使っているのだろうか。
魔力を注ぐとお茶を出してくれるポットとか……この銀行なら、そんな奇天烈なものもありそうな気がする。
ふと別方向に目を向けると、ヴィレスが、ルダンに食い下がるウィズをジッと見つめていた。
どうしたの、と声をかける。
この人の〝つい〟は怖いな、と思いつつ、珍しいから解剖しよう、なんて考えないでね、と君は釘を刺した。
怖い会話を平然とするなあ、と君は思った。
もし、〝殺意〟を預けていないヴィレスと出会ったなら、戦うしかなかっただろう。
あんな風に、命を懸けて守られることも、共に強大な敵に立ち向かうことも、ありえないことだったに違いない。
だが、ここではそれが可能なのだ。
殺人者だろうと復讐者だろうと、客のために戦う。銀行員として雇うことができる場所。
いかなる悪鬼も守護者に変える――ひよっとしたら、それがこの銀行の本質のひとつなのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、君とウィズの身体が、ぼんやり光り始めた。
何かに強く引っ張られるような感覚。元の世界に戻るときが来たのかもしれない。
ウィズは、仕方なさそうに君の肩の上に戻った。
どうもお世話になりました、と君はー同に頭を下げる。
光が徐々に強くなり、やがて周囲の光景も見えなくなっていくなか、最後に、ヴィレスとラシュリィの声が聞こえた。
そのときは、よろしく、と答えて。
君は、光のなかへと消えた。
戦いを終えて
おかげで、資産の行外流出を未然に防ぎ、お客様にご迷惑をおかげすることなく、事を収めることができました。
白湯しか出んぞ。
銀行員たちの会話が、ぴたりと止まった。
ルダンは、じとりとした目で彼らを見やり、ため息混じりに告げる。
新たな魔力が生成されるまで、倹約節制あるのみだ。わかったな。
(・ロ・)
幻想銀行ローカパーラ。
その銀行には、どんなものも預けられる。財産、能力、地位、技術――あるいは心のー部でさえも。
その地を守るは、悪鬼羅刹と夜叉の群れ。本来人に仇なすものが、人の宝を守るため、命を賭して扉を開く。
魔性も外道も使いよう。邪道を是とする銀行なれば、悪鬼の使役もお手の物――
その頃。
こういうときは、セロリといっしょに密閉しておくと、やわらかさが戻るにゃ!
知ってます、と君は答えた。