【黒ウィズ】バシレイデ・バックストーリー
バックストーリー
バシレイデは、目を覚ました時、目の前に広がる世界に息を呑んだ。
無限に広がる空、果てし無く続く大地、そしてそれらを彩る敗々の生命――およそ理解の及ばぬ仕組みがその美しさを作り上げていることに気付いた彼は、産声の代わりに賛嘆の声を上げた。
それがその世界を壊すとも知らずに。
彼の声は空気を揺らし、音が染みるものを全て砂に変えた。
落ちた涙は強烈な毒を生み、草や木を石に変えた。
彼と目の合った生き物は、体に不調をきたし、塩の彫像へと成り変わる。
地に足をつければ、そこは酸を産む土壌に生まれ変わり、空を仰げば汚泥の雨が降った。
しかし、不思議とバシレイデは悲しまなかった。
「ここは、こういう場所なのだ」と彼は認識する。
なぜなら、彼は今しがた生まれたばかり――正しい認識など、あるわけがなかった。
だが、ひと目見た時から、あらゆる意味でバシレイデはこの世界の全てを本質的な意味で愛していた。
自分が影響することで変化していくこの世界を、誰にも渡したくないと考えた。
「この世界を、大切にしよう。誰にも渡さないように、誰にも触れられないように」
不幸なことに、バシレイデには自が神だという認識だけはあった。生まれ落ちた世界を統治し、存続させ、崩壊を阻止する。その目的を果たすため、自分が生まれたという認識だけはあった。
時折、彼に姿形を似せた、よくわからない生き物が邪魔をしにくる。それだけが面倒だったが、概ね義務は果たせているようだった。
怯えたような声を上げるその生き勧に、彼は優しい声をかける。
「大丈夫、僕がきちんと、守ってあげるよ……」
彼はそう言うと、よくわからない生き物――『人間』へと手を伸ばした。
「……?」
その時だった。
『悪い予感』が近づいてくる気配がある。この世界を、バシレイデを侵そうとする、敵の気配。
神としての認識だけがある彼は、無意識的にそれを迎え撃つ構えを取った。
あらゆるものを拒絶する『卵』――自分と世界を守るための殼を備えた、強固な形。
……絶対不可侵の壁の奥で、バシレイデはじっとそれを迎え撃つ計画を立てた。
手を伸ばした『世界の敵』を、完膚なきまでに叩きのめすために。
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