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【黒ウィズ】アルティメットワーキングガールズ! Story3

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きええええええええい!

 アリエッタは魔法書を投げ、教室の壁を破壊した。

見て見てー!昨日は壁を3枚しか突き破れなかったのに、今日は5枚も突き破れたよー!

順調に強くなってる!この調子でいけば、完全体アリエッタになる日も近い!

壁を突き破るのは社会性がなさ過ぎるわよ。はい、すぐ直す。

やばいやばい社会性第ー!黒猫のひと、石材持ってきて!

 アリエッタは突き破った壁を修復すべく、魔道漆喰をこね始める。

壁を突き破ってはいるものの――アリエッタは驚くほど真面目に、職業訓練に励んでいた。

一昨日は郵便配達をやり、昨日は大工をやり、今日はこれから魔道自販機の補充である。

鬼教官に殴られてからというもの、アリエッタは熱心に社会性を求めだした。

強くなりたい。どんな魔道士も当然抱いている感情のように思えるが、アリエッタは例外だ。

始めから最強だった彼女にとって、強くなりたいという感情は新鮮で瑞々しいものなのかもしれない。


強さを求めて努力する日々。すごく健全ね。

 破壊された壁を前にして言うセリフでもないのだが、君も同感だった。

職業訓練をすれば強くなれる。昨日は使えなかった魔法が、今日は使える。駆け出しだった頃の喜びを思い出す。


成長の喜びというのは大事なのかもしれないな。私も年甲斐もなく、うれしくなってしまった。

あら、先生、うれしくなってしまったのですか。初々しくてかわいいですね。いいこいいこしてあげましょうか?

 含みのある笑みを浮かべたサネーが、君たちのもとへやってきた。

協会所属でないとはいえ、ずいぶんな態度だな。

サネー。あなた、先生に対して失礼よ。

あら、ついこの間まで没落ド底辺一族だったエリスさん。

没落ド底辺とは言ってくれるわね。社会性が下がるわよ?

アリエッタ性胃炎を患っているそうで。それでもわざわざ面倒を見に来るなんて、■■■■■■なんじゃないですか?

 君たちはあっけにとられる。突然、サネーがピヨピヨ言いだした。

ああ、これは自主規制の魔法ですわ。品性下劣な言葉を使いそうになったら、ピヨピヨ言うようになっているのです。

今までも下品な言葉を使ってたじゃない!……え、それがスルーされていたってことは、ピヨピヨってどれだけひどい言葉なの……。

 ピヨピヨ暴言を吐かれて動揺しているエリスに、相手にしないほうがいいよと君は耳打ちした。

ふふ。今日も職業訓練に励んでくださいね。まあ、いくら努力したところで私と比べたらカスみたいな社会性ですけれども。

 言ってもセーフな汚い言葉によって、サネーの社会性がじわりと下がった。

しかし、それをものともしないほど、秘めたる社会性は絶大だ。

……挑発されたところで、やることは変わらない。

君たちは職業訓練街に繰り出し、魔道自販機の補充に励む。


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 今日も魔道自販機の補充をやろうと君は思っていた。

ジュースを補充するたびに小気味よく社会性が上がっていく感じが心地よかった。

しかし君たちはソフィに呼び出されたため、職業訓練街ではなく座学ルームに集まっていた。


職業訓練だけじゃない。マナーや礼儀を徹底することでも、社会性は上がるの。

おっはよー!……あ、言われてみればちょっと社会性上がってるかも!

これからは職業訓練だけじゃなくて、マナーにも気をつけていこうね。

でもマナーってややこしいよね。ノックの回数とかも決まりがあるんでしょ?

入室するときは4回が基本です。ビジネスの場では3回に省略する場合も多いですけど。

4回だったのね。この前、国の偉い人と会ったんだけど、ドア突き破ったら無礼だって怒られちゃってさ。

ノックの回数関係ないにゃ。

もしかして私がハーネット商会の採用面接に落ちたのって、ノックの回数が原因?

あれなー。我びっくりした。小娘、ノック1回しかしないんだもん。気持ち悪いだろ1回だけのノックって。

ソフィはノックの回数に厳しいにゃ?

ソフィは気にしないよ。だってノックの音を聞けば、その人が礼儀正しいかどうかくらいわかるから。

 人間の器が大きい。さすがソフィだ。

あと、ハーネット商会トップの親友なのに採用面接に落ちてるリルムも、さすがだ。

ごめんねリルムちゃん。よっぽどじゃない限り採用するって人事部長は言ってたんだけど……。

 よっぽどだったようだ。

ノックとかそういうのはややこしい。挨拶のがいいよ。

でも1回の挨拶で上がる社会性はちょっとなの。もちろんその積み重ねも大事だけど、昇格試験までにたくさん社会性を上げないと。

ソフィになにかいいアイデアがあるわけ?

ただの挨拶だけじゃなくて、魔道百人名刺交換がいいと思う。みんなの名刺はもう準備してあるよ。

 君はソフィから名刺を受け取る。よくよく見れば君の肩書きが〝魔道士協会所属〟かつハーネット商会外部顧問、になっていた。

ソフィもなかなかお茶目にゃ。

魔道百人名刺交換ってハーネット商会でもやってるの?

うちではやってないけど、マドーワークで社会性を上げるためには有効だと思う。

名刺交換のときは、相手の名刺より低く自分の名刺を出すのがマナーだよ。

えっ……イーニアと名刺交換するときも!?名刺交換難しいな……。

 君たちは軽く練習してから、下層の職業訓練街に繰り出していった。



それぞれが別の区域に散らぱったが、なぜかソフィは君についてきた。

魔道百人名刺交換は知らない人にどんどん声をかけないといけないから。

黒猫さんは控えめなところがあるでしょ?遠慮しちゃうかなと思って。ソフィ、離れたところから見てるね!

 この過保護感。新人魔道士どころか、子ども扱いだ。なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。

ここはひとつ、ビシツと名刺交換をしてソフィを安心させよう。

君は前方からやってくるマドーワーカーに声をかける。あの、名刺交換よろしいでしょうか――


シカトされた。

まあ、それはそうだろう。見ず知らずの人間から名刺交換をお願いされて、易々と応じてくれるほうが珍しい。

めげずに別のマドーワーカーに声をかける。突然失礼いたします。名刺交換――


zチッ!うっせーな!

 ……大丈夫。今までいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。君は引き続き魔道百人名刺交換に挑む。


 ***


15人連続で名刺交換を断られた君は、たまらず路上の隅に座り込み、手持ちの力ードの整理をすることにした。

キミ、なにやってるにゃ?魔道百人名刺交換はどうしたにゃ?

 限られた魔力で戦うとなれば、使える力ードも限られてくるから。カードを厳選してるんだよ。

心を無にしてカードの整理をやっていると、ソフィがやってきて、隣にしゃがみ込んだ。

ソフィもハーネット商会を立ち上げたばかりの頃はね、外回りでいろいろ言われたよ。

「粗悪品だから必死こいて売ってるんでしょ?」

「お前の話なんて興味ねえんだよタコ」

……うん、いろいろ言われた。言われたなあ。

 ソフィは噛みしめるようにつぶやき、天を仰ぐ。

もちろん相手側にも事情がある。でも、ひどいこと言われたらつらいよね。ソフィ、黒猫さんの気持ちよくわかるよ。

廃道百人名刺交換なんて無茶なことやらせてごめんね。今日はもう帰ろう?

 ソフィの気遣いが胸に沁みる。そして、へこたれてられないと思う。

こっちこそ心配かけてごめん。もう大丈夫。君は立ち上がり、再び名刺を手にする。

そして果敢に声をかける。恐れ入ります!名刺交換していただけないでしょうか!

zあ、いいですよ。最近、やってる人も増えてるみたいですね。

やったね!黒猫さん!

 君は心を込めて名刺を差し出す。きちんと、相手の名刺より低い位置で。

zなんだお前……。礼儀正しいのに……禍々しい魔力を放ってるぞ……。

 君は名刺と間違えてカードを渡していた。しかも渡したカードはこの異界的にヤバいやつだった。

マドーワーカーはアルガムナドのカードを投げ捨てて走り去った。

君の社会性がごっそり下がる。1周回ってなんだか楽しくなってきた。



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 メリィ・ミツボシは魔道タブロイド紙「マ・ドゥ」の熱心な読者であった。

マ・ドゥといえばゴシップ記事ばかりで、極稀にしかまともな報道をしない低俗な大衆紙である。

ミツボシが下劣な魔道士なのかといえば否。連載小説の「用心棒エーネヤ」を楽しみにしているのだ。

m早くエーネヤ先生の活躍を読みたい……。

 用心棒エーネヤとは、小さくてかわいらしい旅の魔道士が悪を挫く痛快活劇である。

困っている人を助けるときのキメ台詞がたまらない。

エーネヤ。うち、人助けが趣味やさかい。

 たまに入る挿絵にはものすごく見覚えがある。おそらく本人には許可をとっていない。

一番乗りでエーネヤを読みたい。そんな思いでマ・ドゥ社に直接タブロイド紙を買いに来たミツボシは驚愕する。

昨日までマ・ドゥ社があった場所は、更地になっていた。きれいさっぱり、跡形もなく。

mエーネヤ先生はあれからどうなったのでしょう?悪の魔道士に縛り上げられてましたが……。

 などという思考をすぐに振り払い、この異常事態の理由を考える。

mマ・ドゥでは最近サネーさんのゴシップ記事が目立っていました……。

 魔道士サネー・ウェストの転落人生という特集が数日に渡って組まれていた。

mけれど昨日の記事は少々毛色が違ったような……。

マドーワーク新設に隠された黒い計画。魔道史上最悪のスキャンダル!……みたいな感じだったでしょうか……?

 具体的なことはなにも書かれておらず、信憑性は薄かった。そもそもマ・ドゥに信憑性を求める読者はいないが。

m先生たち、マドーワークに行ってますが……。大丈夫でしょうか。

 エーネヤで頭がいっぱいだったミツボシの中で、イーニアたちへの心配が膨らんでいった。



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我だ。魔杖工ターナル・ロアだ。

我は今、もう何度目のことか思い出せないが、売却の危機に瀕していた。

数刻前、小娘は考えた。


ソフィちゃんくらいの社会性をゲットするにはどうすればいいんだろう。

 アホなりに考えた末、ソフィと同じことをすればいいという結論に至った。――起業である。

無駄にフットワークが軽い小娘は起業した。といってそう簡単にできるはずもなく、やっていることはひとり蚤の市である。


売れない……価格設定が強気すぎたかな。杖の人に100万ザッパーの価値はないか。

まず100万ザッパーの価値がわからん。

 アホの極みである小娘だが、唯一、賢さの片鱗を見せた。

小娘は私物を売りに出しているが、その中で一番高額なのは我である。

売ろうとしている時点で論外だが、我に高い値段をつけたことだけは褒めてやる。


まあ、この中だと、杖の人が一番かなー。

しかし他の商品の値段を見ても、いまいち基準がわからんな。

武器にした場合に強い順で値段つけた。主に硬さ。

主に硬さ!?小娘硬さで値段つけてるの!?

 だから我と魔道ナックルダスターの値段がほぼ一緒なのか……。

リボンとか難しかったよね。硬い金属の部分と柔らかい布の部分があるから。

リボンの値段を硬さで決めるのはさすがにアホすぎるぞ。

あ、売り物だから喋らないで。

唐突に会話を打ち切るな!

 それからしばらくの間露店営業をしたが、なにも売れなかった。


小娘は魔道リアカーに商品を積んで、移動販売を始める。

世の中どうなるかわからないもので、小娘の移動ひとり蚤の市はうまくいき、完売御礼となった…………我を除いて。

強気の価格設定が災いしたわけではなかった。むしろ一番最初に値引きとなったのは我だ。

お値段、0ザッパー。投げ売りである。

我は売りに出されても投げられるんだなあと悲しい気持ちになった。しかも投げ売りで売れないという。

売れ残ったかー。魔道リアカー返してくるから、杖の人はここで自分の宣伝してて。

 小娘は我を壁に立てかけ、魔道リアカーを教官のところに返しに行き――

小娘ー?……小娘まだー?…………小娘どこー?

 そのまま帰ってこなかった。結果的に不法投棄である。


 我は荒れた。したたかに酔った。

社会性のないやつにはなあ、我の崇高さがわからんのだあ!

 まあ、したたかに酔ったというか、バーの裏手に捨てられたので、雰囲気に酔ったみたいなところはある。

そんな感じで騒いでいると、バーテンダーらしき男が我を拾おうとした。ので、そのまま精神を乗っ取った。

もう小娘は知らん。我ひとりでマドーワークを卒業しよう。

 〈社会性=魔力〉。マドーワークにおける絶対公式である。

自分で言うのもどうかと思うが、我、社会性はかなりあるほうだと思う。つまり、我は強い。

zお前、見ねえ顔だな。食いもん置いてけよ。

ふん、社会性のないマドーワーカーめ。我の魔法に恐れ慄くが…………あれ?

 しょぼしょぼな魔法しか出なかった。そのしょぼさたるや、マドーワークに来てすぐの怪獣娘レベルだった。

我は半泣きで街を駆けた。


 ***


 ろくに前も見ず夢中で走っていると、誰かにぶつかる。

いたたた……すいません……ってロアちゃん!?

 恥も外聞もなく、我はソフィに泣き言を言った。

小娘に実質的に不法投棄された。それはいつものことだからこの際どうでもいい。問題は我の社会性が低く判定されていること。

どうしてだ?どうして我の社会性が低いのだ?

 ソフィは我の目をまっすぐ見て、言う。

それはロアちゃんが杖だからじゃない?

ソフィ、それは杖差別発言じゃないのか!?そんなことを言ったら社会性が下がるんじゃないのか!?

 しかしソフィの社会性は下がらなかった。むしろちょっと上がった。

社会性が欲しい……。

ロアちゃんも魔道百人名刺交換やってみる?

 そういえば先日、小娘もやっていたが、名刺交換をするたびに社会性が上がっていた。途中で飽きてやめていたが。

小娘は適当な言葉遣いでぞんざいに名刺を渡していたが、あれではいかんな。我が代わりにやりたかったくらいだ。

じゃあさっそくやってみよう!こんなこともあるかと思って、ロアちゃんの分の名刺も作っておいたの!

 ソフィは我が小娘に捨てられることを想定していたのか。……まあ、誰でも想定できるか。


 我は柔和な笑みを意識して、マドーワーカーに話しかける。我の社会性の高さを見せてやる。

お忙しいところ失礼いたします。我、魔杖エターナル・ロアと申しまして、社会勉強の一環でですね、名刺交換を――

zチッ!うっせーな!

 去っていくマドーワーカーの背中が霞んで見えた。

……すまん、ソフィ。これやめていい?これちょっとこれ耐えられないやつだこれ。

うん、大丈夫だよ。耐えられない人も結構いるから。黒猫さんはやり切ったけど。

 別に黒猫の魔法使いに対抗心を持っているわけではない。

しかし、黒猫の魔法使いがやり遂げたものを、我が秒速でリタイアするというのは、ちょっとどうなの、という思いがあった。

もうちょっとだけやってみる?

……もうちょっとだけやってみる。

 我は名刺を低く構えて、街をずんずん歩いた。すると――

あっ!私の杖を頻繁に盗むヘンタイ!

 小娘と再会した。

いつもお世話になっております。あのー、大変恐縮なのですが、我、ヘンタイではございません。

わけわかんないこと言うな!

 自分で言っていて、確かにわけわかんないなと思った。丁寧な言葉遣いなのに全然社会性が上がらない。

こうなったら力ずくだ!

 目を疑った。小娘は酒瓶を握りしめている。あれで我を殴る気だ。

我は走って逃げた。そして機転を利かせる。

路地裏に入った瞬間、バーテンダーヘの精神乗っ取り状態を若干緩めて9割程度にした。

我に精神を乗っ取られると顔も服装も我になるのだが、9割程度なら原型が少しは残るはずだ。

ねえ、この辺で杖泥棒のヘンタイ見なかった?

杖泥棒のヘンタイ?あっちのほうに走っていったぞ。

 服装しか変わってないが、騙せたようだ。それもそれでどうなんだ。

ありがとう……って嘘つけヘンタイ!声が一緒だ!

ちょっと待て!声が一緒だとか言い出したらそもそも杖とも声が一緒だろ!

よーく声を聞け。我、杖だぞ?

人じゃん。

それはなんというかだな……。杖の精神性が人として顕現しているというか……。

私に難しいこと言うのは私を騙そうとしてる人だってソフィちゃんが言ってた。

 ソフィ!小娘向きのいいアドバイスだが今は邪魔だ!

あー、ソフィな。我、ソフィと知り合いだぞ。ソフィだけじゃない、黒猫の魔法使いとも知り合いだし、イーニアとも顔なじみだ。

イーニア・ハーメティック・ソルルスト・ラクトリティシア・ウォルヴィアラ・メメスリスムルナ・ストラマー3世。な?

 よし。どうにか間違えずに言えた。

人脈アピールばっかりの人はあんまり信用しないほうがいいってソフィちゃんが言ってた。

あぁああああああああソフィ!

仮にみんなの知り合いだったとして、私の杖を盗んでいいことにはならないよね?

すっごい正論。

むしろ知り合いなのに盗むとか他人よりひどいよね?

 小娘が酒瓶を握り直す。戦いは、避けられない――


 ***



くっ。9割では分が悪いな。

 我はバーテンダーヘの精神乗っ取りを完全なものにする。

我と小娘はいい勝負だった。魔杖である我と無駄に魔道の才能がある小娘。激戦は必至――

というほどいいものではなく、我も小娘も社会性がないがゆえの泥試合である。

こら、よけるな!

 小娘が酒瓶を振り回す。我は必死でそれをかわし続けた。

酒瓶で殴られたら、痛いだろう。しかし恐ろしいのは最初の一撃ではなく、次の一撃だ。

最初の一撃で砕けた瓶が、鋭利な刃物に変わる。たぶん血とかいっぱい出る。

そして、これが情というやつなのだろうか。

割れた酒瓶で我を刺したら、小娘の社会性がすこぶる下がるだろうなと心配になった。

はぁはぁ……。なかなかやるね、ヘンタイの人。

小娘、まずは酒瓶を置こう。そんなものを振り回すのは魔道チンピラか怪獣娘くらいだぞ。

魔道チンピラじみた真似をしていたら社会性が下がってしまう。社会性が下がったら、マドーワークを卒業できない。

卒業できなかったら魔道士資格剥奪だ。資格がなければ魔杖も使えない。

杖が使えない……それは盲点だった。

 小娘は酒瓶を地面に置いた。それを見た我はだいぶ冷静さを取り戻す。

冷静になって気づいたんだが……ひとつ言っていいか?

なに?

この杖、最初は100万ザッパーだったが、値引きして0ザッパーになったよな?なら、我がもらっても問題なくない?

あ。確かに。盲点だった。

さっきから盲点だらけだな。

 今更気づいた我も大概だが。

……え、じゃあなんで私怒ってんの?バカみたいじゃん。

たぶん、魔杖を売るのが惜しくなったのだろう。うむ、きっとそうだ。この魔杖は返す。

なんか素直で怪しいなー。

これ以上戦ってお互いに社会性を下げるのはよくないからな。

マドーワーク卒業を目指して頑張ろうではないか。困ったことがあったら力を貨すぞ?

マジ?盗みぐせのあるヘンタイだけどいい人だね。

あ、いいこと教えてあげよっか?掃除とかゴミ拾いすると社会性が上がるんだよ。ソフィちゃんが言ってた。

なるほど。それはいいことを聞いた。

あとは挨拶ね。お先に失礼しまーす!

はい、お疲れさまでーす!

 小娘は我に一礼してから去っていった。

……って小娘!?杖忘れてる!我から我を返してもらうの忘れてるから!



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オス、メス、メス、オス、メス……。

 イーニアは魔道ひよこ鑑定士の訓練をしていた。

魔道検索機によればひよこ鑑定士が私向きだというが……どうなんだ、これ。

 魔道ひよこはメスとオスにわけられる。メスは採卵用に育てられ、卵を産まないオスは戦闘用の魔道ニワトリになるのだ。

ああこら逃げるな!お前はどっちだ?ええと、オスか?

 ひよこ相手に四苦八苦していると、相手を見下すような笑みを浮かべたサネーがやってくる。

む、サネーか。魔道ひよこ鑑定は目が疲れる。私よりも若い者のほうが向いているだろう。

 サネーは逃げ出そうとしている1羽のひよこをそっと拾い上げる。

ひよこ鑑定士は先生にぴったりの職業です。多くの魔道士の才能を鑑定してきたでしょう?……私も元ひよこのひとりですから。

 かつてサネーは才能豊かな魔道士だった。それこそレナ・イラプションやメリイ・ミツボシに匹敵するような。

先生は私に目をかけてくださいましたね。実際私にはある種の才能がありました。しかし実戦においては■■以下だった。

随分と懐かしい話だが、あまり自分を卑下するな。……卑下、してるんだよな?

よろしければ今夜……どこか落ち着ける場所でお話でもしませんこと?


 ***


 イーニアとサネーはカウンターの席に座り、バーテンダーにオーダーする。

魔道マティーニ。〝ストラマー〟で。

……ストラマー?私の名ではないか。

本来、魔道マティーニは魔道ジン3に対して魔道ベルモット1なのですが――

ストラマーはその比率が15対1になるハードなカクテルです。

15人の魔道士相手にひとりで立ち向かった先生の逸話が元になったものですわ。ご存知ありませんの?

酒のことはよくわからん。私もサネーと同じものを。

いけませんわ。ミルクになさってください。

 魔道マティーニのストラマーが特別飲みたいわけでもないので、イーニアはサネーの言う通りミルクをオーダーした。

それからふたりは黙ってグラスに口をつける。バーテンダーのグラスを磨く音だけが沈黙の中で響いている。

思うに、私は間違った判断を恐れていたのです。それは戦いに身を置く魔道士にとって、致命的な欠陥。

 グラスに沈むオリーブの実を見つめながら、サネーが言った。

それをカバーする戦術がとれていたではないか。蛇腹杖を使って相手の動きを封じた上で、慎重に最適解を見極めていた。

しかし先生が付き人に選んだのはメリィ・ミツボシ。協会の理事に推薦したのはエリス=マギア・シャルム

それは――

ええ、わかってます。彼女たちのほうが私より侵秀だったというだけの話。単なる嫉妬ですわ。

 サネーは魔道マティーニのストラマーをゆったりと飲み干す。

かわいいひよこ鑑定士さんにラストチャンスを差し上げます。今からでも……私と共に魔道を歩みませんか?

私は私の魔道を歩む。それだけだ。お前や他の誰かは関係ない。

……先生は私を見誤ってしまいましたね。その目は節穴だったようです。

 サネーは音もな<立ち上がると、イーニアの頬を張った。

……この■■■■■■の■■■■■■!

 ほぼピヨピヨな言葉を吐き捨てて、サネーは店を出ていった。


一体なにが言いたかったのやら。……さて、私も帰るとするか。

お支払いがまだですよ、お客様。

 バーテンダーに、というかエターナル・ロアに引き留められた。

お前だったのか。まったく気づかなかった。

魔道マティーニとミルク、それからチャージで、83万ソーシャルだ。

…………この店、ぼったくりなのか。

すまん。我が価格設定したわけではないのだ。

83万も社会性はない。ひよこならあるぞ。ひよこでいいか?

ひよこでいいわけないだろ。

魔杖、この私からぼったくる気か?

でも、お代もらわないと我が殴られちゃう。

殴られる前に殴ればいいだろう。

……それもそうか。我、店長殴って仕事辞める。


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 我だ。魔杖エターナル・ロアだ。我はぼったくりバーの店長を殴ってバーテンダーを辞めた。

どこか清々しい気持ちで佇んでいると、小娘がやってきて魔道キャメラを渡してきた。

私、リポーターが向いてるんだって。ヘンタイの人は魔道キャメラマンやってよ。

 魔道キャメラとは特殊な魔道具で、目の前の光景を離れたところにある魔道ビジョンに映す――

要するに歌って踊るあの世界におけるテレビ放送のようなシステムである。

……という知識はあるものの、我は当然、魔道キャメラマンの仕事などしたことがない。

とりあえずそれっぽく魔道キャメラを肩に担いで小娘についていく。


皆さんこんにちは。グレェェート街角インタビュゥゥウの時間です。

まずは街角で人を探します。あ、人がいました。インタビュゥゥウしていきましょう。

む、リルムか。これはなんの仕事だ?

イーニア先生は、はたらくということについて、どうお考えですか?

ざっくりした質問だな。

そうだな、私にとって、いや、魔道士にとって働くとは即ち――

あ、YesかNoで答えてください。

回答のがざっくりしてたー。

おい魔杖、この娘をしっかり教育しておけ。

 なぜか我が怒られた。それを無視して小娘はずんずん街を歩いていく。

次は消防士のレナさんにインタビュゥゥウです。

インタビュー?いいねいいねー。今回鎮火した火事は魔道寝タバコが原因で――

あ、質問にはYesかNoで答えてください。

じゃあYes!

まだ質問してないのにYesなのか……。

Yes!のほうが爽やかで私っぽいじゃん。

別に爽やかキャラじゃないだろ。

 次のインタビュー相手を探しながら、小娘は不満げなまなざしで我を見る。

……ヘンタイの人、杖の人とキャラ被ってるね。

被ってるというか完全一致だぞ。

そういうの、言うんだよ。このギョーカイじゃキャラ泥棒って杖泥棒でキャラ泥棒――

ちょっとモラルなさ過ぎるよ。

 なんかいろいろ面倒なので、無視した。小娘が我のこと無視してるときって、こういう気持ちなのかなと思った。

お、ソフィちゃんがいました。インタビュゥゥウしてみましょう。

あ、リルムちゃん。お仕事頑張ってる?

ソフィちゃんとは昔、一緒に旅をしてました。質問です。あの頃を振り返ってどう思いますか?YesかNoで答えてください。

YesかNoで!?……じゃあ……Yes

Yesだそうです。

どう受け取ればいいんだ。

 小娘は手持ちのボードのYes側にぺたりとシールを貼った。

……って小娘!違う質問のYesかNoを同じボードで集計してるの!?

というわけで、結果発表ー!この街は、Yesのほうが多いです。Noと言える魔道士になりましょう。

ちなみに私は、はたらくということについて、あまりいい印象は持ってません。




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