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【黒ウィズ】Birth of New Order 3 Story5

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最終更新者:にゃん

登場人物






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その格好は……にゃ!?

ねえ、見て!みんなのために作った、新しい制服よ!

せっかくー緒に戦うんだから制服ぐらい統ーしたいじゃない?だから、頑張ったのよ私。

まさか、ラーシャが全部作ったにゃ?

魔法使いさんの分もあるわよ。これ、着てみて。サイズは、寝てる間に測らせてもらったから、ぴったりのはずよ。

気づかなかったにゃ!

 君は、愛用のローブの上から渡された制服を着用する。

……似合っているぞ。

インフェルナには、制服なんてなかったけど……こういうのも悪くないかもね。

ちょっと動きづらくなるので、僕は前の制服の方がいいですね。ラーシャさんの頑張りは評価しますけど。

おそろいの制服とかあったら格好良いですよね~って言ったのどこの誰だったかしら?

はあ!?いっ……言ってないし!僕がいつ、どこで、何時何分何秒に、そんなこと言ったんですか!?

シリスは照れ屋さんだものね~。自分に正直になれない、難しい年頃だものね~。

うわ~。ウザい!今日のラーシャさん、2割増しでウザい!

昨日、徹夜して作ってたみたいだから。妙に興奮状態なんだ。勘弁してやってくれ。な?

見てみて~。おいらも新しい制服もらったぜ!これでみんなとおそろいだ。

 制服とは不思議なものだ。同じ制服を来ている者には、自然と連帯意識が湧く。

ニュクスを倒す。ひとつの目標に向かう者たちが団結するのに、これ以上ない贈り物だった。


 ***


原初の地か……。そんなものがあるのか?

はじめて審判獣が降り立った地だそうにゃ。

噂で聞いたことがあるわ。いまは誰も足を踏み入れない審判獣の森、その奥深くに太古の遺跡があるって。

それは古代文明の遺跡だと噂されてるけれど、真相は誰も知らない……。

ひょっとして審判獣がかって文明を持っていた……その名残なんじゃないかしら?

おいらも封印される前に、似たような話を聞いたことがある。

審判獣たちは、かつて人と同じような文明を持っていたけど、文明の発展は審判獣同士の争いを激化させて進化を止めた。

だから、審判獣は、文明を捨てて進化する道を選んだと……。

 太古の遺跡は、その際に捨てられた審判獣たちの栄華の象徴というわけか。

遺跡に原初の地があるとするなら、審判獣にとってはきっと特別な場所よ。行けば、きっと戦いになるわ。

 沈黙が流れた。どれだけ激しい戦闘になるか、誰も想像が付かない。

私は行くわ。行ってニュクスと話をする……。人間たちがこの地上で生きていけるようにお願いしてみる。

そんな簡単に話を聞いてくれると思う?イスカはほんと甘いんだからっ!

……だからこそ、俺たちが守る。

はいはい。クロッシュ兄は、いつもそれ。いつもそれーっ!

考えるまでもない。原初の地とやらに乗り込む。それで決着をつける。単純だが、わかりやすい。

かなり危険な旅になるにゃ。それでもいいのかにゃ?

始祖審判獣ニュクスが審判獣の産みの親だって言うなら、倒さないことには、人はこの世界で生きては行けない……だろ?

簡単に言わないでくださいよ。僕は、まだ死ぬ気はないですよ?

でも、このまま座して死を待つぐらいなら、少しでも前に進みたいですね。勝つ可能性は、限りなくゼロに近くても。

それに審判獣を失った副団長が、無謀に挑もうって言うんです。部下である僕たちで守ってあげなきゃいけないでしょ?

言うねえ。

シリス……。ありがとう。

すいませんでしたああああああああああああっ!別人のような笑顔が逆に怖いっ!怖すぎる……!

ギガント・マキアは、ニュクスの後継者を決める戦い。だから、戦う理由はなくなる。ニュクスがいなけりゃ、そういうことだな?

きっとそうなるはずにゃ。

できれば話し合いで解決できればいいけど戦わなきゃいけないときは、私も戦うわ。

リュオン、あなたに助けてもらった借りがあるわ。私の審判獣の力、遠慮なく使って。

使うと言ってもどうやって?スイッチを押せば、飛んでいってくれるのか?

リュオンが望むなら。天の果てまでも。

調子が狂うからやめてくれ。しゅんとしているのは、イスカらしくないぞ。

でもでも!私は、リュオンの助けになりたいの!ネメシスを奪われたのは、私のせい……だし。

 食い下がるイスカのおでこを、リュオンは指で弾く。ぱちんっといい音がした。

そんなくだらないこと気にするな。ネメシスは、己の意思でニュクスのところに向かった。悪いのは、未熟だった俺の方だ。

でも……。

 なおも食い下がろうとするイスカを、リュオンはやんわりと制した。

出陣まで時間がある。それまで、各々大事な用事は済ませておけよ?

リュオン、少し話がしたい。魔法使いたちもー緒に残ってくれるか?

構わないが……?


キミ、どうしたにゃ?さっきから難しい顔してるにゃ。

 心にずっと引っかかることがあった。それは、君を過去に移動させた存在のこと。

君たちが時間を移動したのは、きっと偶然ではない。

何者かが、私たちを過去に移動させたと?そんなことできるのなんて、神様ぐらいしか思い当たらないにゃ。

 始祖審判獣ニュクスは、君たちが時間を跳躍してギガント・マキアを阻止しようとしているのに気づいていた。

その始祖審判獣ニュクスが、私たちを過去に飛ばすわけないにゃ。

 となると、同じ力を持った別の存在――

この異界ではない、別の異界の住人の仕業かもしれない。



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 みんなが立ち去ったあと、リュオンとサザと君たちだけが、この場に残っていた。

団長、話とは?

思う所あって執行騎士団の団長を辞することにした。あとは、リュオンに任せたい。

あんたはいつも唐突だが、今日は特に……だな。

ずっと考えてたんだ。俺なんかよりも、リュオンの方がよっぽど団長にふさわしいって。

これから人類の未来を賭けた大事な戦いがはじまる。

俺よりも、もっとふさわしい者がみんなを率いるべきだ。そう思って、団長をリュオンに任せることにした。

魔法使いたちには、立会人になってもらいたい。そして、これからもリュオンを支えてくれ。

私たちは構わないにゃ。けど、リュオンは、納得していないみたいにゃ。

俺は、審判獣を失っている。聖堂が健全なら、執行騎士の資格を剥奪されていたかもしれない。

ネメシスとの契約を失ったわけじゃないだろ?もしそうなら、今ごろリュオンは、心臓を失って死んでいるはずだぜ?

それに団長の器じゃない。あんたの補佐で十分だ。むしろ、その方が力を発揮できる。

ずっと見てたが、リュオンは副団長という地位に収まる男じゃねえ。もっとデカい器を与えてやれば、その器に見合った活躍をする男だ。

あんたの悪い癖だ。いつも人を過大評価する。俺はまだまだ団長には敵わない。剣の腕も、騎士としても。

お前は十分に強いって。俺なんか、とっくに追い越してるっての。俺が言うんだから、間違いねえよ。

いや、団長の方がまだまだ強い。俺なんかよりも、ずっと!

てめえ……俺が、せっかく褒めてやってるのに嬉しくねえのかよ!?

手合わせでまだ俺は団長に勝ったことがない。そんな俺が団長なんて……とてもそんな資格はないさ。

じゃあ、ここで試してみようぜ。どっちがつえーのか。おら、こいや!リュオンの強さ、見せてみろ!

あんたの方が、絶対に強い!

いーや、お前の方が強いね!

どっちも、相手の強さを認めながら殴ってるにゃ。

 面白い光景だね、と君はのんきに笑う。

くそーっ。良いー発じゃねえか!?やっぱり、リュオンの方が団長にふさわしいんじゃねえか?

ぐはっ……。俺はまだアンタに敵わない……。まだ副団長で十分だ。

くそっ、いてえ……。今のはなかなかいい拳だったぜ。いい加減に自分の強さを認めろや!

ごほっ!ごほっ!団長こそ、これだけ元気があるのに、なぜやめると言うんだ?俺は納得できない!

俺は、俺の限界を知ったんだよ!

やめる……なんて言わないでくれ。俺には、あんたの代わりを務める自信がない!

へっ!それがリュオンの本音か。ようするに自信がないだけだろうがお前は凄い男だ!もっと自信持て!

それでも、まだ団長には敵わないと言っているっ!

そろそろ止めた方がいいと思うにゃ。

 いや、ふたりの気が済むまでやらせておこう。

長い付き合いのふたりの感情は、ー晩でほどけないほど複雑に絡み合っているだろうから。



ぜー、ぜー……。ほら、見ろ……。やっぱり、団長には敵わなかった……。

お前の拳……強烈だったぞ。今日は……このぐらいにしておいてやるよ。

 サザは、傷ついた身体をゆっくりと起こす。ついでにリュオンの手を引っ張って立たせてあげる。

大事な戦いが控えているというのに、出発前からボロボロにゃ。呆れてものも言えないにゃ。

迷惑をかけたな。

お陰で俺はリュオンの本音を知ることができた。だから、安心して団長を任せられる。

団長は、ー度言い出したら聞かないからな。…しょうがない。引き受けるよ。

それでいい。リュオンだったら、俺よりも立派な騎士団長になれるさ。

ただし、ー時団長の座を預かるだけだ。すべて力夕が付いたら、もうー度話し合おう。

団長じゃなくなったのなら、サザはこれからどういう立場になるにゃ?

俺は団長を辞めたあと……総長になる!

は?

これから執行騎士団総長として新米団長をビシビシしごいていくからな覚悟しろよ?

団長をやめたら、執行騎士を去るんじゃないのか!?

いつ、そんなこと言ったよ!これから先も、ここが俺の居場所だ。

 リュオンは、またしてもサザを殴った。

てんめー!総長に向かって何しやがる!?

今日からあんたは、団長でも総長でもない!ただのおっさんだ!

 気の済むまでやらせておこう……。君は、そう言う他なかった。



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 聖都は多くの被害を受けた。家を失った人々は、行くあてを失い、路上を彷徨って、明日をも知れぬ境遇に追いやられている。

審判獣が各地で覚醒している現在、安心して暮らせる場所などどこにもなく、途方に暮れるしかなかった。

wシリス兄ちゃん……。

 シリスは、傷だらけの子どもを抱いていた。エンテレケイアによって聖都で暮らしていた無垢な子どもの命が終わろうとしている。

オフェル……。僕はここにいるよ。

 執行騎士の仕事の合間を縫って、シリスは、子どもたちの遊び相手になっていた。

彼らとの交流は、シリスの心を癒やすことにも繋がったし、騎士としての覚悟や衿持を育てることにも繋がった。

wねえ……みんなどっかに行っちまったよぉ。俺、ひとりぼっちだよぉ。

僕が、探してきてあげる。怪我が治れば、またみんなとー緒に遊べるさ。

wシリス兄ちゃんは、騎士として務めがあるんだろ?兄ちゃんの足を引っ張りたくねえよ。

代わりに、俺たちの家を壊して沢山ひとを殺した奴らをぶん殴ってきてくれよ。

ああ、必ず約束する。だから――

w頼んだぜ……。シリス、兄ちゃん……。

 手当の甲斐なく、少年は死んだ。シリスは、亡骸を優しく横たわらせると涙を流すことなく立ち上がった。

あーあ、遊んでくれる相手が、またひとりいなくなっちゃった。悔しいなぁ。

大丈夫か?シリス?

戦う理由がまたひとつできちゃいました。僕は、楽に生きられない運命らしい。

 袖で濡れていない目元を拭う。

……行きましょう。涙は、すべてが終わってからにします。


 ***


 方舟は、サンクチュアの聖職者たちが、来たるべき破滅の日に備えて自分たちが逃げるために用意した船である。

死亡して朽ち果てていた大審判獣フィレナの亡骸を利用して建造された方舟は、人類が希望を託すにふさわしい威容だった。

Q主機が動いた!高純度晶血燃焼炉が、ここまで上手く作動するとは!

 これだけ早く方舟の完成に漕ぎ着けられたのは、インフェルナの協力を得たことによって上質な晶血片を大量に入手出来たことが大きい。

いよいよ。出発できるわね?

聖職者たちが夜を徹して頑張ってくれたお陰だ。まあ、俺たちが大分急かしたのもあるがな。

 風が吹いた。髪を手で抑えるラーシャの指には、サザからもらった指輪が嵌められていた。

この戦いが終わったら、どうするつもり?

執行騎士団はどうなるんだろうな?サンクチュアは、なくなったも同然だし……。

 そんなことを訊かれているのではないことは、十分承知していた。ラーシャが訊きたいのは、ふたりのこの先である。

焦らしてるのかしら?私が聞きたい返事は、そういうんじゃないんだけど?

いまは、戦いのことしか考えてねえよ。すまねえな。

単細胞なあなたらしいわね。ま、先のことは、お互い無事だったら考えましょうか。

 引っ込めようとしたラーシャの手を、サザが強引につかんだ。

な……なによ?こんなところで……ダメよ?

きっと厳しい戦いになる。始祖審判獣ニュクスのところまでたどりつけるかもわからねえ。

もしもの時は、俺は迷わず捨て石になって若い奴らを送り出す。お前とこうして話せるのも最後かもな。

それがあなたの言う、正義ってわけ?

わかんねえ。けどよ、間違っていたとしても、俺は行きたい道を行く。そう決めたんだ。

じゃあ、私も付き合うわ。

お前まで捨て石になる必要はないんだぜ?

そうしたいのよ。あなたとは指輪を交換した仲だもの。ー蓮托生って奴ね。

じゃあ、俺とー緒に墓場まで行ってくれるか?

拠当然でしょ?

 ラーシャと出会ってサザの人生は変わった。伴侶を持つのは、時には重しにも感じるが、その何倍も人生を豊かにしてくれる。

ラーシャを守ることも、サザが探している正義の持つ意味なのかもしれない。

お前と会えて、なんていうか……幸せだぜ?

なにキザなこと言ってるの?あんたに似合わないのよ、そんな台詞。まったくもう、バーカ。もひとつ、バーカ!

そこまで罵るか!?

ん!?サザ、私があげた指輪はどうしたの?

あれえ~?さっきまで、ちゃんとしてたはずだけどな。

まさか、なくしたなんて言わないわよね!?嘘、信じらんない!

おっかしーな。どこにゃったんだろう?いてて、殴るなって……。


 ***


はあ、今夜も団長が作ったまずいスープか……。出撃の前ぐらいは、もっとマシなものが食べたいよ。

いただきまーす。……痛っ!?なんだこれ!?

……指輪?




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審判獣たちに侵略され、聖域はどこも酷い有様だ。

……そのようだな?

俺は負けた身。いまさら、未練がましいことは言わん。

頼む。この世界を、人の手に取り戻して欲しい。

……わかっている。お前の分も、剣を振ってくるさ。

wあなた。

 カサルリオは、聖都から連れてきたクロッシュの妻トロスを手招いた。

不思議な沈黙が漂う。けれども、不穏な沈黙ではなかった。

戻ってきてから、ゆっくり話したい。これまでのこと……これからのことも……。

w待っているわ。だから、気をつけて。

無事に戻ってくるまで、誰にも触れさせたりはせん。だから死ぬな。

……信じよう。

 大剣を掴んでふたりに背中を向けた。未練を断ち切るように、脚を早める。

トロスは、優しい笑顔でクロッシュを見送った。お互い生きてまた会える……そんな予感がしていた。


 ***


それじゃあ、お姉ちゃんは行ってくる。あとのことは、任せたよ?

wメルテール姉ちゃんが戻ってくるまでに、新しい晶遥片の取引先を見つけておくからね!

w私たちだけで、商売を軌道に乗せて見せるから!

……ったく。たくましい妹たちだね。もし、あたしが戻らなくても、あんたたちだけで十分、食っていけるよ。

wそんなこと言わないで!

w絶対に帰ってこなきゃやだからね!?

 もちろん帰ってくるつもりだ。だけど、万がーのことがある。

そういう本音を飲み込んで、メルテールは妹たちをもうー度しっかりと抱きしめた。

きっと帰ってくるよ。もうー度、あんたたちに会いたいからね。約束する。

 妹たちはそれ以上、メルテールを困らせるようなことは言わなかった。もう別れは告げた。あとは見送るだけだ。

じゃあ、行ってくる!

 タイタナスのハンマーをつかみ、メルテールは歩き出す。



……平気か?

久し振りに涙の味を思い出したよ。

 インフェルナのため、大事な人のために戦いに挑む覚悟はできている。

ふたりは、インフェルナの地を振り返ることなく、方舟が停泊する海岸へと向かった。



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 人の気配のない湖の畔にしゃがみ込み、イスカは星が映る湖面を見つめていた。

日が昇ると同時に原初の地へ向かう。向かった先で、どんな運命が待ち受けているのか、イスカには想像もつかなかった。

水を両足で蹴ってから、おもむろに昔の歌を歌い始める。

忘れ去られた英雄たちへの鎮魂歌。死んだ母親が、イスカに唄ってくれた唄だ。

wこの唄は……。

 唄に誘われるように、湖畔に近づく人影があった。

そこにいるのは誰だ?

私よ。リュオン……。

お互いに姿を確認し、同時にほっと安堵の息をつく。

なかなか上手かった。どこでその唄を?

これは、いつも、私のお母さんとの唯ーの思い出。ひとりになったら唄うの。

本当は誰にも聴かれたくないけど、リュオンにだったらいいかな?

もうー度聴かせてくれ。

 湖畔に腰掛けて、イスカは唄いはじめる。リュオンは、唄にじっと耳を澄ませた。

湖面に小石を投げ込み、浮かぶ波紋をふたりは黙って見つめていた。

唄を聴いて思い出した。この湖には、不思議な言い伝えがある。

聞かせて。

大昔、審判獣がこの湖につかり、人の姿に戻って旅立ったという。

審判獣たちの故郷の水が、天から雨として降ってきて溜まってできた湖だという言い伝えだ。

美しい話ね。でも、私が水に触れても、なにも起きないわ。

 お互い、湖面に手を入れて水をすくって飲む。透き通った水は、心が洗われるようなすがすがしい気分にしてくれる。

魔法使いの磔剣に触れた時、俺はひとつの未来を見た。

かすかだけど私にも見えたわ。

 空気が沈殿する。重い口を開いたのは、リュオンだった。

俺たちは殺しあっていた。あの方舟を巡って。

インフェルナとサンクチュアが、対立しあった先に待ち受ける未来は、悲劇だった――

それを魔法使いさんが変えてくれた。そういうわけね?

そうだ。あいつがいなければ、俺たちはいまだに敵同士だった。

 風が吹いて湖面にさざ波が立つ。

ニュクスの言うとおり、私は人でもなく、審判獣でもない。醜くて、どうしようもない存在なの。

そんな私をリュオンは、何度も救ってくれたわ。

たいしたことはしていない。

 イスカの手が伸びた。リュオンの胸から垂れ下がっている、鎖を手に取る。

だから……リュオン。私と契約して。

契約だと?

失ったネメシスの代わりに、私をあなたの審判獣として使って。

この千切れた鎖と……結びたいと言うのか?

 ネメシスとの契約の証は、切断されたままだ。

信じられない気持ちでイスカを見つめる。だが、その表情に嘘や迷いは感じられなかった。

残念だが、イスカを引き摺って歩きたくはない。こんな大きなペットは、俺には飼いきれない。

ペットじゃないわよ!失礼な言い方!

 ぶーっと、子どものようなふくれっ面を見せる。

私は真面目に言ってるのに~。

そろそろ戻ろう。もうすぐ出発だ。

 東の空が白みはじめていた。

これが人類最後の朝になるのか、それとも新たなる世界のはじまりを告げるものなのか……。



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 広がる水平線に赤い陽光が映し出される。

いままさに審判獣に支配されようとしているこの大地に朝が訪れる。

君たちが乗る方舟は、朝日を浴びながら雲の隙間を飛行していた。

向かうは、古代遺跡。始祖審判獣ニュクスが待ち受ける原初の地ヘ――


深い霧を抜けて、先へと進め。目的の場所は、さらに進んだ所にある。

小型の審判獣が、迫ってきます!

雑魚に構うな。俺たちの目的は、原初の地へ向かうことだ。

無駄な戦闘はできる限り避けましょう。

人間どもめやけに落ち着いているな。頼もしいぞ。

 先ほどからずっとアバルドロスの傍にイスカがついていた。

父親であることを知ってもなお、気持ちはある。とはいえ、割り切れないまったく無視できるような性格でもない。

……。

お願いできる立場ではありませんが、彼女は、あなたを慕っていました。だから……ケラヴノスを助けてください。

このまま審判獣に取り込まれたまま、消えるのはあまりにも不惘です。

審判獣の墓場を抜けた先に、こんな遺跡があったなんて。

古い昔……ここに人間が住んでいた。審判獣から産み出された原始の人間たちだ。

産み出された?

なにも知らんのか?人は、すべて審判獣から生まれたのだ。

審判獣は、超越者となるために濁った欲望や理性では抑えきれぬ感情を捨て去る。その感情の汚泥から生まれたのがお前たち人だ。

つまり、それが、審判獣のいらないもの。あたしたちの祖先ってこと?

存在そのものが欲望に満ち、理性に欠けている。それが人間――原罪を背負って生まれてきたものたち。

だから人は、審判獣に裁かれるべきだと?そう仰りたいのですか?

気に触ったか?人と審判獣、両方の血を引く娘よ。

……審判獣が、人のことをどう思っているか知れてとてもよかったです!

よくぞ、言い返したにゃ。でも、あまり真に受けない方がいいにゃ。

 土から人が産まれる。石に意思が宿り人になる。神の目からこぼれた涙が人になった。似たような伝承は、いくつもある。

そろそろ、おしゃべりはやめた方がいいですよ。僕たちは、奴らの巣に踏み込んでいるんですから。

 暁を覆う霧の向こうから、審判獣が群れをなして飛翔してくる。

どうする?新団長?

避けられない以上、戦う他ないだろう。戦闘用意!

まかせな。団長という重しが取れた俺は無敵だ。思いっきり剣を振ってやるぜ!


こいつら、船を沈めようとしている!

……思念獣フェンリナル!お前の爾芽を奴らに突き立てろ!

人は、お前たちに食われるだけの存在ではない!

 剣光をまき散らしながら、思念獣フェンリナルの咆吼めいた呻り声が駆け抜ける。

無数の審判獣は、あっけなく大剣の餌食となった。

クロッシュに続き、他の者たちも、群がる審判獣を撃破していく。

やはり来たか。人間の分際で、あくまでも我等審判獣の歴史に介入するというのだな?

 その存在は、飛散する雷光を纏って現われた。クロッシュに切り刻まれた審判獣の破片が、雷に打たれ、蒸発した。

やっぱり現われたにゃ!

 審判獣アウラ。別の未来の記憶を植え付けられた、始祖審判獣ニュクスが放った刺客。

ケラヴノスの気配は、前回よりもさらに希薄になっていた。リュオンは、彼女がまだ生きていることを祈った。

全てを超越する者への進化を目指す我ら審判獣が、進化の過程で不要になったものに自我が宿った。

それがお前たち、人間だ。

不要物の分際で、我らの歴史を変え、あろうことか、始祖であるあのお方に牙を向けるなど許せん!

 審判獣アウラの殻衣には、サザに斬られた時の傷が、まだ生々しく残っている。

それでも彼女は、人間の業を粛正しょうと立ちはだかる。

俺たち人間が、審判獣の捨てたゴミ同然の存在だと?ホラ話にしては、おもしれえな。

あまり僕たちを舐めないでもらいたいですね。

人は確かに欲深い、理性もなく、愚かかもしれないけど団結することができるわ。

 リュオンは、君から譲り受けた傑剣の鎖を手にした。磔剣に宿る思念と魂が、リュオンを奮い立たせる。

志を果たすことなく散っていったもうひとりの己とラーシャやサザの思念が、リュオンに力を与える。

これから、貴様を斬る。そしてケラヴノスを取り戻す。

俺たちが捨て去ったゴミかどうか、貴様自身の身体で確かめてみろ――


 ***


 審判獣アウラの亀裂の入った殻衣から、赤い晶血が、止めどなく吹き出ていく。

私は、始祖審判獣の後継者のはず……なぜだ!?なぜ!?

 戦いに敗れた審判獣アウラが、崩れ落ちていく。

それは私が、リュオンたちの魂に呼応したからだ。

 アウラに取り込まれたケラヴノスの気配が突如強く感じた。まさか……まだ自我が残っているのか?

ケラヴノス!そこに居るんだな!?

 崩れ落ちる審判獣アウラの体躯が、再び起き上がる。

始祖審判獣ニュクスは、時空の縛りから解き放たれた超越者。

だが、ニュクスといえども、己の中を流れる時間だけは変えられなかった。

そのために私が後継者に選ばれた。審判獣がこの地で繁栄していくため――2度と人間との争いに敗れぬため――

そして、ニュクスが、大いなる眠りを迎えられるために。人間ごときに後れを取るわけにはいかんのだ!

 審判獣アウラの発した雷鳴が方舟に落ちた。

大気がうねり、至る所で電撃が放射状の雷尾を伸ばして弾けた。

これじゃあ、近寄れねえぞ!?

貴様たちを必ずここで葬る!覚悟しろ!

 放たれた雷雲の威力は、空間をひずませ、嵐に似た大気の壁を産み出す。

方舟は揺れ動き、いまにも転覆しそうだった。

そんな状況であっても、リュオンはケラヴノスの気配を見失わないように神経を研ぎ澄ませていた。

リュオン……。私は……ここだ。ここにいる……。

 ケラヴノスが、リュオンを呼んでいる。

審判獣アウラに取り込まれてもなお、まだ意識を保てているようだ。

審判獣に心酔し、やがて審判獣アウラに取り込まれた愚かな後輩だが、それでも彼女の帰りを待つものたちがいる。

飲み込んだケラヴノスを解放しろ!

聞こえないなぁ!?人間の言葉などなにひとつ聞こえんぞ!

 磔剣を投げつける。アウラが放った雷雲と宙でぶつかり、跳ね返される。

弾かれたにゃ!

 威力が弱い。ネメシスの宿らない執行器具では、これが限界なのか?

リュオン!こういう時こそ、私に手伝わせて!

 赤い髪をひるがえし、イスカが炎のような勢いで飛び立つ。そのまま審判獣アウラに衝突した。

半獣半人が、出しゃばるな!

審判獣の血が燃えれば、私もあなたとなにも変わらない。審判獣イスカとして、あなたを倒す!

 ぼうっとイスカの全身からオーラが放たれる。ー瞬、別の人格が乗り移ったかのように、イスカは制御していた審判獣の習性を解き放つ。

これが私の本性……。凶暴で穿猛な、……嫌いな私。

けれども、何度も助けてくれたリュオンのためにいま、私はすべてを投げ打つ!

 イスカの蠍尾が、審判獣アウラの殻衣を貫く。

信じられぬ!私の殻衣をー撃だと

 動揺する審判獣アウラ。好機が生じた。

リュオンは磔剣をたぐり寄せる。その時、再びケラヴノスの声が耳に届いた。

私がアウラを抑える。その間に磔剣をこいつに叩き込め!

取り込まれた人間が、私に逆らうつもりか!?

 間違いなく、ケラヴノスは生きている。

この剣の輝きは流星。イスカ、力を借りるぞ。この磔剣を追え!

よくわからないけど……任せて!

 リュオンは、君から借りた前世の磔剣を、審判獣アウラに叩き込む。

寸前で審判獣アウラは、雷雲を放ち防ごうとしたが――

これでおしまい……。安らかに眠って……。

 イスカは、磔剣をつかんで押し込んでいく。やがて雷理の障壁を突き破り――アウラを貫いた。

星屑が……月を落とすのか……。

 肉体は、引き裂かれた。晶血が大量にこぼれる。力尽きた審判獣アウラの身体は、そのまま落下していく。

待って!

 磔剣によって引き裂かれた傷に、イスカは迷わず両手を突っ込んで、彼女を引き摺り出した。




 審判獣アウラの体内から、救出したケラヴノスを抱いて、イスカは甲板に着地した。

まだ息があるわ。すぐに手当を。

感謝の言葉が見つからない……。

そういう時は、素直にありがとうって、言つときゃいいんだよ。ありがとな、お嬢ちゃん。

 晶血まみれのケラヴノスは、意識を失っているが、かすかにまぶたを痙摯させていた。

あんな危険を冒してまで、見ず知らずの執行騎士を助けるなんて……。ヒヤヒヤしたよ、もう。

今は仲間だもん。助けるのは当然だよ。

ケラヴノスもこれで懲りただろう。目を覚ましたら、たっぷり叱っておく。

リュオン団長の小言は長いからな。ご愁傷様です。

小言で済むならむしろありがたいわよ。あのまま死んでたかもしれないのだから。

 ケラヴノスを船室に運び込み、治療を受けさせることにした。

方舟は、遺跡のさらに奥へ航行していく。

ここが、審判獣たちの文明の痕跡というわけにゃ?

殺風景だな。奴らの美的感覚は、そうとう乏しいようだぜ?

 奥へ進むごとに審判獣の気配がより濃くなっていく。

息苦しいほどのプレッシャーに君は全身を押しつぶされそうだった。





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