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【黒ウィズ】心竜天翔 Story1

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最終更新者:にゃん


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 からっと晴れた空に雲が流れていた。雲の行方を追うようにふたつの影が飛んでいる。

それは最強の竜人ミネバとその化身アニマだった。

みねば、せとのたに、まだ、とおいとおい?

あにま、おなかぐうぐう。ぺたんきゅー。

そうね、アニマ。もう少し進んだら休みましょう。

やったー。

(アニマの感覚がセトの谷に邪悪な竜力を感じている。行って確かめなければ……)

 ミネバは目指す谷に目を向けた。ふと、流れてゆく雲が自らをどこへ導くのかと、思いを馳せた。

君は迫る魔物の顔面に魔法をぶつける。すぐに魔物の頭を踏み台にして、空中へ逃げた。

君がいた場所に殺到した魔物目がけて、魔法を打ちおろす。

やったにゃ!ー網打尽にゃ。

させるか!

 アデレードは魔物の爪を大楯で受け流し、体勢が崩れた魔物に剣を振り下ろした。

仲間が打ち倒されたことを見て、本能的に距離を取る魔物へ、アデレードが鋭い双眸を向ける。

喰らえ……!

アディちゃん!

 イニューの声でアデレードは思いとどまり、余勢を逃がすように剣をくるりとー回りさせた。

ありがとう、イニュー。

汝、敬神の是のなくぱ、命の熱きを失いて、吹雪く闇路に虚ろうべし!

 季節外れの吹雪が魔物を包んだ。吹雪は氷の彫刻を数体残し、過ぎ去っていった。

吹き飛ベッ!

 少女が黄金の翼を振るうと、その彫刻は跡形もなく砕け、ごっただ微塵となった氷がキラキラと舞うだけだった。

アディ。力を使うのは控えた方が良い。

ああ。わかっている。

なんだいアイツら。竜人かねえ?

 言いながら、背後から襲い掛かる魔物をひらりと交わす。

 まるで道があるかのように魔物の隙間を縫い、群れの中を通り過ぎる。

ま、どっちでもいいか。

 背中の戦輪を取り上げると、魔物たちに背を向けたまま、前方へ投げつける。

高速で回転する戦輪は、少女の真横を通り過ぎて、背後の魔物たちを切り裂く。

戻ってくる戦輪を流れるように受け取ると、

楽できそうだし。

 やる気を見せずに、戦いのない方へとひょこひょこと歩いて行った。

魔物たちが猛烈な勢いで自分に向かってきているのを見て、イケルはミーレンに告げる。

下がっていろ。

承知いたしました。

 と、穏やかにミーレンが返す。

イケルは魔物の突撃に対し、悠然と斧を振りかぶる。

そして、怯むことなく、その斧を魔物に叩き落した。

衝撃が地面に大きな陥没を生み出し、魔物たちを跳ね飛ばす。

お見事です。イケル様。

おだてるな。

ところで、あの魔法使いは無事だろうか?

 まるでイケルの言葉に反応するように、小屋の壁が破裂する。

にゃああ。煙たいにゃ……。もうちょっと手加減するにゃ。

 ごめん、と君はウィズに頭を掻きながら言う。

ふと見やると、イケルとミーレンがこちらを見ている。

あ。しまったにゃ!

 慌てるウィズとは対照的にその反応はそっけないものだった。

その猫、喋るのか?

 君は首肯する。イケルに驚かないのかと尋ねる。

驚く必要があるのか?それよりもまだいろいろと片付けないとな。

 確かにこの世界では竜が話していた気がする。こういう反応が普通なのかもしれない。

おい。来るぞ。

 何気ない調子で戦いを促された。ここでは普通のことなのかもしれない。と君は思う。


 ***


 大方の魔物は倒しただろうか。

戦いの喧騒が過ぎ去った村は、ガランとして静かになった。

終わりか。

アディ。体は平気?

平気だ、リティカ。

人を病人扱いしないでくれ。竜力さえ使わなければ、普段と変わらない。

 翼を持った少女と鎧の少女の会話にイケルが割って入る。

竜人が揃いも揃って……。あんたらー体何者だ?

 イケルの言う通り、彼らのー行だけ風体や戦い方が違った。

何者というほどの者ではない。ただの通りすがりだ。

通りすがり?では王の試練とは無関係なのか?

王の試練?

 要領を得ないー行に、説明する。イケルが試練について、

セトの谷では、新たな王を選ぶ時に試練が行われる。

そして最近先王が崩御し、新たな王を選ぶ試練が今日、ここであるのだという。

だから人相の悪い人たちが大勢いたんだね。納得。

「キュー……。

残ったのは我々だけか?

 小屋のひとつから軽装の少女が現れる。木箱を逆さにして、何かないかと確かめているようだ。

何をしている?

いや、何か目ぼしいものがないかなぁ?と思ってね。

貴様、こそ泥のような真似をして恥ずかしくないのか?

ないよ。それに怒んないでよ。目ぼしいものは何ーつなかったんだから

そんな問題じゃない。随分備えのいい村人たちだねえ。急に戦いが始まったのにさ……。

 その言葉を聞いて、君はあることに思い当たる。

確かに戦いが始まってから、ひとりの村人も見かけなかった。

そう言えば村の人はどこに行ったにゃ?

 痩身の竜人がニヤリと笑って、顎をさする。

なるほどそれで合点がいった。これ自体がその試練とやらのひとっというわけか。

そうかもな。結果的に候補となる者は減ったわけだからな。

 事情が見えてきたことで、わずかに安心感が芽生えた。

それは他の戦士たちも同様である。

ほっとー息つける瞬間に、君は奇妙な光景を見る。

まだ立って歩けるようになったばかりの子供が誰もいない往来をひとりでよたよたと歩いている。

魔物が子供にじりじりとにじり寄った。

あれも試練の何かかな?

 あまりにも奇妙な光景は、理解するのに時間がかかる。

何が起こっているのか分からないのだ。

もっとも早く、気づいたのはアデレードだった。

違うッ!あれは試練なんかじゃない!

 アデレードが魔物と子供の間に体を滑り込ませる。

殺意を帯びた牙は間ー髪、アデレードの盾によって防がれた。

このぉぉお!……グァッ!

 魔物にやり返そうとするアデレードの動きが止まった。

空白。攻防のやり取りにー瞬の空白が生まれる。

魔物は次のー撃の動作に入るが、アデレードは動かないまま。

見て取った君は、魔法を魔物の顔面めがけて速射する。

威力は小さいが、隙を作るのには充分だった。

もうもうとした煙が風で流され、魔物が顔を出した時。

その首はあらぬ方向へと吹き飛んだ。

イケルだった。君が魔法を打つ間に距離を詰め敵を仕留めた。

だがもう一匹。

イケルとアデレードの上に大きな影が覆いかぶさる。

盾を上に向けろ!

ああ!

 上に向けられた盾を踏み台にし、上空から飛びかかる敵をー閃。

第ー波はしのいだ。

君や他の戦士たちはアデレードたちの元へ駆けつけ、戦いの構えを取る。

へえ。息が合うもんだねえ。

何ひとりだけボーっと見ているにゃ。

あ。バレちゃった?楽できると思ったのになあ。

 残るアマイヤもいそいそと戦いの輪に加わると、魔物たちも再度の襲撃を開始した。


 ***


 最後の魔物が崩れ落ちると、子供はまたよたよたと往来を横切った。

小屋のひとつの傍まで行くと、落ちていた人形を拾い、大事そうに抱えて、にっこりと笑って見せた。

すぐに母親らしき女性が駆け付け、精ー杯の力で抱きしめられる。

親の苦労、子知らずね。ね、グリフ?

「ギュー!キュー!

z見事であった。

 どこからか現れた巨漢の竜人がそう言った。

私はガンボ・スヴォラク。セトの王の相談役をやっている。

そして、今回の王の試練を取り仕切っている。

子供のことは不測の事態だったが、無事に親元に返すことができた。

谷の住人として君たちに礼を言いたい。

 と言って、大きな体を折り曲げて、竜人は深々と頭を下げた。

そんなことよりもさ。この後、どうなるか教えてほしいねえ。

まずはセトの谷に向かう。試練については追って説明しよう

 ガンボはちらりとイニュー、サバール、リティカに目をやる。

すでに竜人、あるいは竜力を扱う方々には王となる資格はない。それはご理解いただきたい。

ちょっと待て。我々は王の試練とやらには参加しないぞ。

ここには偶然来たんだ。

私たちはセトの谷にあるという秘法が知りたくて、ここに来ただけなんです。

セトとアーリアの秘法か。それならば王に竜力を授ける竜アレンティノが詳しい。

だが、アレンティノは王となる者にしか会わない、お前には試練に参加する理由があるようだぞ。

それに、長い王の試練の歴史の中には、偶然谷を訪れ、王になった者もいる。

あれ?もしかして私たちも試練に参加することになっているにゃ?

偶然の理に従うなら、その通りだな。

 仕方がないかも、と君は諦めまじりに言った。

ここで王になるより、クエス=アリアスに帰る方が大事にゃ……。

では行こうか。

 竜人は同行を促すように、先へと歩いてゆく。

 君とウィズはその後をついていった。

さあ、イケル様。行きましょう。

分かった。

 ふと、イケルは黒鎧の女に目をやる。

……回り道か。

 ぼそりと何か呟いた彼女にイケルは話しかけた。戦いの中で気になったことがあったのだ。

あんた、怪我でもしているのか?何かをかばっているような戦い方だった。

……大丈夫だ。さっきはありがとう。

 とだけ言って、アデレードはその場を立ち去った。

イケルはその後ろ姿を見送る。

大丈夫ではないだろう、アレは。




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 村を後にし、君は船に揺られていた。

君だけではなく、王の試練を受ける全ての者がひとつの船の上で揺られていた。

自然と話題はお互いの身の上話になっていった。

しかし、こうも偶然でライバルが増えられても困るな。

 君の話を聞いて、イケルは君とアデレードに目配せを送る。

君は頭を掻き、苦笑いを返した。

アデレードは、

運がなかったのかもな。我々のどちらかが。

 と自虐的な注釈を入れた。

イケルはどうして王になりたいにゃ?

家のためさ。王となり、竜力を授かれば、我がロートレック家の名も高まる。

すぐには無理でも、ロートレック家もクロード家のようになれるかもしれない。

 クロード家。ミネバのことだろうと、君は思う。

たしか彼女は最強の竜人と呼ばれていた。

この世界では、彼女の名声は相当なものなのだろう。

王様になりたいというのは、よくわかるにゃ。でもどうして竜力にこだわるにゃ?

別の世界から来たあなた方にはわからないかもしれませんね。

この世界では「力こそが全て」なのです。

竜に竜力を授かり、己の力を高めるのはとても重要なことなのです。

竜力を得て、竜人となれば、その力は何代にも渡り、高められてゆく

クロード家は最も古い竜人の系譜です。だから“最強”なのです。

王の肩書などただの飾りだ。竜力こそが全てなんだ。

持つ者と持たざる者には決定的な差がある。この世界ではな。

 君は隣でぼんやりと空を眺めているアマイヤに尋ねる。

アマイヤも竜力が目的なのか、と。

んー?あたしは竜力なんかどっちでもいいね。

それなら何が目的にゃ?

お金。セトの谷の王になれば、お金がいっぱい手に入って楽できるでしょ。

だ・か・ら。

 彼女はむくりと起き上がって、さらに続ける。

力なんてなくたって、なんとかなるもんさ。危なかったら逃げればいいんだから。

本当の最強は、戦わないことさ。

戦わざるを得なくなったらどうする?そんな状況に陥ることもあるはずだ。

そんな状況になった奴がバカなのさ。

気に食わない考え方だ。

 このふたりは水と油だな、と君は思う。考え方がまるで違う。

君は前甲板で話し込むふたりの竜人を見やる。

せっかくセトの谷に来たのに、また戦いか……。

竜力は使わないように言ってある。それに自分の体のことだ。

自分がー番理解しているだろう。

理解していても、体が動いてしまうのが、アディちゃんだから。

人の身で竜力を使うのは無理があり過ぎたか。


 セトの谷に向かっていたミネバたちは、たき火の前でー休みしていた。

アニマ。熱いから慌てて食べては駄目よ。

 小枝を串代わりにしてあぶった干し肉を、アニマに渡す。

ふー、ふー。ふー、ふー。

 しばらく冷まそうと試みるも、アニマはこらえ切れず、勢いよく干し肉にかぶりつく。

口の中でもぐもぐと噛み、飲み下し、最後に口の周りについた油を舐めとると、満面の笑みを浮かべた。

あにま、ちょーまんぞく!

良かったわね。

 腹が満たされたアニマは、その場にコロンと寝転がり、すぐさまお昼寝の体勢になった。

みねば、おはなしして。

じゃあ、これから行くセトの話をしてあげるわね。

昔、谷にセトという竜がいたの。セトは最強の竜と呼ばれていたわ。

本当に誰も勝てなかったみたいね。でもセトは少女に自らの竜力を授けたのよ。

そのしょーじょ、ちょーつよい?だから、りゅーりょく、もらた?

いいえ、ただの少女だったそうよ。何の力もないただの少女。

なんで?なんで?ふしぎー?

さあ、どうしてかしらね。でも少女のしたことはお話に残っているわ。

 ふと見やると、すでにアニマは瞑目し、寝息をたてている。

ミネバは優しくほほ笑み、細い枝をたき火に投げ入れた。



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そろそろか。

 そう言うと、ガンボは呪文の詠唱を始める。

指先からこぽれる光が船を包むと、船はゆっくりと浮上を始めた。

水の上から離れたにゃ。

 そのまま船はゆっくりと前に進み始める。詠唱を終えたガンボが君たちの方へ向き直り、言った。

これより次の試練を始める。

 唐突な宣言に船上が緊迫する。

セトの谷には、この峡谷を抜けていく。

だが、ここには魔物が多く生息している。本来なら魔法を使い、ー気に抜けるが……。

それでは試練にならん。だから、この船はゆっくりと峡谷を進む。

魔物のいい餌食だ。

速度を上げる方法ならあるぞ。

候補であるお前たちがひとり船上からいなくなるごとに速度は上がる。

たったひとりとなれば、十分な速度が出るだろう.

邪魔な奴は叩き落せ、ということか?

どうするかはそれぞれの選択だ。辿り着いたのが死者だけを乗せた船だったこともある。

魔物にやられたか。あるいは殺し合ったか。ですね。

では候補者以外は別の船に乗ってもらおう。

 ガンボに促され、リティカたちは別の船に移動した。

ふーん……。


 船はなおもゆっくり進んでいる。魔物の巣となっている峡谷にじりじりと近づいていた。

さて、どうする?

ー戦交えて決めるくらいの時間はありそうだな。

 船の速度を見て、イケルが言った。だがアマイヤは知らぬ顔で船の縁の方へ歩いていく。

あたしは降りるよ。

王の座は諦めるか。お前らしい判断だな。

 くるりと振り返り、アマイヤは言う。

いや、それも諦めない。

 とそのまま背中から倒れて、見えなくなってしまった。

にゃ!

いや、よく見ろ。

 アデレードの言葉を聞いて、君はアマイヤの立っていた場所を見た。そこにある船の帆柱に鎖が結びつけられている。

その鎖を追っていくと、船の下でアマイヤがぷら下がって、

予想が当たったねえ。

 と呑気に呟いていた。

予想?ー体何のだろうと君は首を傾げる。

この船、速度が上がっていませんか?

その通りさ。

 船の下から飛び上がり、アマイヤが舞うように甲板に降り立つ。

竜人たちが降りた時にピンと来たんだよねえ。なんで速度が上がらないのかってね。

 君はなるほどと思う。

竜人が下船したことで、速度が上がらないということは、魔法の条件は重量ではない。

つまり自分たちが乗っていること自体が、船を遅くしている理由である。

それにあのおっさん、船上としか表現してなかったのよ。

つまり船の上からいなくなればいいにゃ?

ぶら下がるのはいいと言うわけか。意地の悪い仕組みだな。

それならひとり甲板に残し、他の者は降りよう。

そしてー気にここを抜ける。

誰を残す?

あたしはその魔法使いを推すね。

 とアマイヤは君を指さす。

ひとりで色んな状況に対応してもらわなくちゃいけないからね。

我々よりは適当だな。

色んな魔法を使えるキミにふさわしいにゃ。

では俺たちの命を預けるぞ。生きて城までたどり着かせてくれよ。

 君は責任の重さを感じながら、深く頷いた。

魔物の巣は目前に迫っていた。

ギリギリまで近づき、最大速度で突っ切る。

他の者は皆、船の縁でその瞬間を待っている。

君はカードを持った右腕をあげる。それが合図だった。

行きましょう。

さーん。

にぃ。

いちッ!

 仲間たちがー斉に船から飛び降りる。船は唸りをあげて峡谷に向かっていった。


 ***


 君は前方の魔物に魔法を乱れ撃つ。

すでに数えきれないほどの魔物を撃ち落としていた。

時折、防御魔法を展開し、後方で追いすがる魔物を振り払う。

みんなを気に掛けたいが、そうも言ってられなかった。

キミは自分の仕事に集中するにゃ!

 君はひとつ頷いて、さらに魔物を撃ち落とす。


はあッ!

 アデレードが向かってくる魔物を薙ぎ払う。

思ったよりも戦いにくいな。

 猛烈な速度で進む船にぶら下がりながらの戦闘。

アデレードほどの実力者の「思ったよりも」は只事ではないということだった。

それに想定外の出来事も。

ん?あれは……。

 巨大な岩壁がアデレードの正面に迫る。船の通り道は開けていても、船の下まではその通りとは限らない。

なにしろここは狭い峡谷であった。

砕くか。……いや。

 すぐに剣を握りしめた手から力を抜く。彼女の中に迷いが生まれた。

出来る限り、竜力の使用は避けた方がいい。彼女の身体がそう告げていた。

仕方ない!

 アデレードは前方に盾を出し、身構える。

さあ、来い!

 衝突の瞬間、盾を滑らせるような角度で岩壁に押し付ける。

うおおおおおおおおお!

 衝撃は後ろへと逃がされ、盾を緩衝にして、そのまま岩壁を滑るように進む。

ありゃ人間かねえ?バケモノの類じゃないの?

 ほどなくすれば岩壁は終わる。アデレードがそう思った矢先。

小さな突起が目の前に現れた。

何ッ!

 突起にぶち当たった盾はバランスを失い、アデレードを弾き飛ばす。

ぐあッ!

 岩壁と船底に何度か打ち付けられ、アデレードはだらりとぶら下がっていた。

ありゃりゃりや。大丈夫……なわけないか。

ミーレン。……アデレードを助けに行く。

かしこまりました。

 イケルは船底にナイフを突き刺すと、命綱の鎖を外した。

そしてナイフひとつを頼りにして、じりじりとアデレードの方へと向かって行った。

シビれる展開になってきたねえ……。

 アデレードの傍に辿り着いたイケルは、大声で彼女に呼びかける。

アデレード!返事をしろ!

 ぶら下がったままのアデレードから返事はない。

駄目か。

 すぐにイケルはアデレードの鎖に飛び移り、彼女の傍まで下りていく。

う……ん?お前!どうしてここに!

お前が気を失っていたからだ。

くそ……体がまだ……。

お、おい……。

何だ?

 とイケルは前方を見た。今度は下から突き出た岩が迫っていた。

なんてことだ。上に上がるぞ。

私を抱えてか?無理だ。ひとりで行け!

それじゃあ、何のために来たのか分からん!

 アデレードを抱え、鎖を昇る。だが間に合いそうにもなかった。

すると、どこからか飛んできた鎖がふたりに絡みつく。

なんだこれは?

 鎖の行方は、アマイヤに辿り着いた。

彼女はこちらを見て、

にやり。

 と笑う。そして手に持った鎖の端を岩壁に投げつけた。

先端の分銅が船と同じ高さの岩に突き刺さる。すると、船が進むごとに後方に引っ張られて、イケルたちの身体が持ち上がった。

イケルたちは、下から突き出た岩の上を超えていく。

ヒュー、助かった……。

頭を使いなさいよ、頭を。


下が騒がしいけど、大丈夫にゃ。

 信じるしかない、と君は前を見据える。

峡谷の終わりは目の前まで来ていた。


 ***


アディちゃん、大丈夫かな?

大丈夫。そんなに弱い人じゃないでしょ。きっと無事だよ。

どうやら帰って来たようだ。

 峡谷の真ん中にポツンと船が浮かんでいた。

船上には黒猫と魔法使い。

……だけではない。他の候補者たちもくたびれた体を休めるように、腰を下ろしていた。

全員残ったか。素晴らしい。だが、実に惜しい。

この中から選ばれるのは、たったひとりだけ。

……惜しい。

なぜ私を助けた?

不愉快か?お前はプライドが高そうだ。

余計なお世話だったかもな。

違う。不可解なんだ。放っておけば候補がひとり減ったんだぞ。

そんなこと思いもしなかったな。

 とイケルは少し笑った。

他人に言われて、自分でも初めて気づいた。そんな笑いだった。

あそこで見捨てるのは俺の趣味ではない。勝手に体が動いた。それだけだ。

 気取りもてらいもない態度だった。少なくともアデレードにはそう見えた。

そしてそれは、満足のいく答えだった。

そうか。まだ礼を言ってなかったな。

……ありがとう。

ああ。


下ではそんなことがあったにゃ……。

 案外、船上にいられたことは幸運だったのかもしれない。と君は思った。

まったく無謀なことするもんだよ。

それがあの方の性分なんです。

イケル様は、戦争でご両親を亡くされ、しばらく孤児として生きていました。

その後、ロートレック家に養子として引き取られたのです。

ご自身の境遇もあって、ああいう状況では自然と体が動いてしまうのでしょう。

生まれてきた環境が性格に影響するのはよくあることにゃ。

そういうのは中々変えられないものにゃ。

イケルが家名とかにこだわってるのもそういうことか。

 アマイヤはごろりと後ろに転がり、勢いそのままに立ち上がる。

青い。とおっしゃりたいのですね?

いや。大変だなあ、って思っただけ。

 それ以上の感想はない、というように気の無い返事を残して、アマイヤは立ち去った。

ミーレンは君を見て、言った。

ですが、あの方ならきっと良い王になられます。

そして、私はあの方の手となり足となり、あの方の夢を叶えたいのです。

それが私の夢です。

こう言っていいのなら、私たちの夢です。

 立派ですね。と君は返す。ふとミーレンは何かに気づいて、ほほ笑んだ。

そう言えば、あなたも候補のひとりでしたね。こんな話はふさわしくないですね。


みねば、みねば、ここに“あれんていの”いる?ほんと?

そのはずなんだけど……。様子がおかしいわね。

 竜の住処というには、そこは汚れていた。汚れ過ぎていた。

この地で起こる竜力の乱れについて、ミネバは土地の古竜アレンティノに話を聞きに来た。

だが、そこは思い描いていた場所と違った。

わるいりゅーりょく、ぱんぱん。あたま、くらくら。

 奥の方で何かが動いた。ミネバはすぐさま身構える。

魔法を放ってしまってもよかったが、状況を教える手がかりも何もない状態である。

見極める必要があった。

何者ですか!?

 岩場の陰から、まず手が出た。岩を掴むその手は人のものではなかった。

そして……。

オォオオォアアォアー!

 耳をつんざくような奇声が洞窟内に響き渡る。

オォオオォアアォアー!

くッ!馳せよ迅雷、荒べ風烈!

 ミネバの指先から放たれた光がー条、怪物の頭をかすめ天井を穿つ。

狙ったというよりは、外した。だが、魔法の威力が天井の岩盤を砕き、怪物の頭に岩の雨を降らせる。

グァオオアオァァアー!

 何度か岩が頭を打っと、怪物は予想以上に苦しみ始めた。

頭イタイ、イタイ。頭ダイジーィィ!

 そして狂乱のていで手足を振り乱し、ミネバに向かって突撃してくる。

アアオアオアアオァー!

ああおあおああおぁー!

アニマ、こっよ!

 アニマをひっつかんで、怪物の突撃をかわす。体を翻し、反撃の構えを取るが……。

アアオアオアアオァー!

 怪物はそのまま洞窟を抜けて、どこかへ行ってしまった。

どうしたのかしら?

 瞬間、ミネバの背筋が凍った。

背後にいる何者かによって、まるで自分が殺されたような、そんな感触があった。

すぐさま振り向くが……。

馳せよ迅雷……!

 すでに遅かった。

みねば!!みねばー!



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