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【白猫】ジルベスタ物語 Story4【後編】

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最終更新者:にゃん

2019/05/31



目次


Story17 混迷の序曲

Story18 誇りと正しさ

Story19 爆ぜる

Story20 なんのために

Story21 襲撃

Story22 哀哭

Story23 脈動する陰謀

Story24 信じてくれよ!

story25 義勇


story17 混迷の序曲



<ロレンツ・アインヴァッカが倒れたあの晩から、数日後――>


「……本当に申し訳ございません。このようなことになって……」

「――お慰めの言葉もありません」

「それで、結果は?」

「医師や宮廷魔術士たちが遺体を調べましたが、不審な痕跡はなにも見つかりませんでした。

――兄は、病死です」

「……もともと病気だったことは聞いてました。

でも、いきなりあんなふうに――」

「構いません。僕も、暗殺の可能性をまず疑いました。

……ですが、その証拠は何も見つかりませんでした」


 ***


「どう思う、カレン?」

「……遺体を調べていた現場は、ファフナーに見張らせていた。

フリント殿の言葉に……偽りはない。だが――」


 ***


「………く、くく……

ははは……はははははははは!!!

――笑えるよ、本当に!!

あんたとは、国のために……一生かけて対立すると思って――

なのに……兄上だけが……先に楽になってどうする……!?

どうして……ッ!」



 ***


「……ユーカ。勝手に入ってすまない」

「………カレン……」

「駄目じゃないか、食事をちゃんととらないと。倒れてしまうよ」

「父上は……ユーカが……ころしたのじゃ……

ユーカが心配ばかりかけたから……父上は、きっと……」

「違う。君のせいじゃない」

「ユーカの母上も、もともと体が弱かったんじゃ……なのに、ユーカを産んだせいで……」

「それは、違う」

「ふたりとも……。ユーカが……ころして……」

「――違う」

「ユーカは……ユーカはぁ……」

<カレンは、ユーカを抱きしめた――>

「――うぁぁあああああっ……」

「――――」


 ***


「集まってくれてありがとう、騎士諸君。

さっそくだが――兄上の指揮下にあった騎士たちは以後、僕の指揮下に入ってもらう」

「僣越ながら、どうか――認めていただきたいことがございます。

今後も、無償で貧民街の警らを継続することを、お許し願えませんか」

「……悪いが、認められない。兄上が行っていた、各地の貧民街への配給や騎士の配備もすべて打ち切る。

それらの予算はすべて、軍事費へと回す」

「そんな……!」

「いくらなんでも、性急にございます……!」

「兄上の崩御は、すぐさま他国に知れ渡るだろう。

生じた混乱の隙を突かれる前に、指揮系統を統一し、防備を整える必要がある」

「承服できません……!! 何とぞお考え直しを――!」

「そうだ!そんなの、騎士としての誇りに――正しさに反して――!!」

「誇りと正しさで、国が守れるのかい……?

僕が、貧しい民に無関心だとでも思っているのか……? 無心で切り捨てているとでも、思っているのか……!?」

「それ……は……」

「騎士には常に選択が求められる。守る選択、戦う選択、退く選択、見捨てる選択――

……騎士団長時代の話だ。魔物討伐のため派遣された島で、僕たちは二つの小さな集落を見つけた。

騎士としてすべてを守る……驕った僕は、騎士団の戦力を。分散させてしまった。

結果、予想をはるかに上回る規模の襲撃を受け、部下は死んだ。二つの集落も、滅んだ……

……無駄死にだ。切り捨てる覚悟さえあれば、片方の集落も、部下たちも……僕は、守れた。

騎士の正しさとやらに――誇りとやらに縛られた結果だ!」

「フリント様……」

「その過ちを、二度と繰り返さない。それが、僕が兄上に払える最大の敬意と礼儀だ」

「そうです!!それが国を守る者としての正しき姿でございます!!」

「……国の混乱は、避けられませんぞ」

「承知の上だ」


 ***


「まだ噂だけど……実際、騎士がこの辺りから一人もいなくなってて……」

「王弟の……フリントの指示らしい……!」

「ざけんなよ……ありえねえだろ、そんなの!!」




見捨てられた場所

>魔物も増える一方だ……!

>追撃しよう!


>……大変なことになったな。

>今はボクにできることを……!

>ああ、いくぞ!



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story19 爆ぜる


「みんな、知ってるか……? 正式な布告はまだだが――」

「ええ、ロレンツ国王が崩御されたって噂が――」

「いったいこの国は、どうなるんだろうな――」


 ***


……さすがに、城下町の方も騒がしいね。

配給の打ち切り――そして貧民街周辺の騎士の完全撤退、か……

――どうなってるんだ、この国は。

ひどすぎるわ……いきなり、そんなの……

……ガフはとこへ行ったんだ?

貴族街へ向かいました……おそらく、食料を盗みに……

……大丈夫かな。ただでさえ、街が昆乱しているのに……

――心配だわ。追いましょ!

俺とブライは残って、みんなを守ろう。

そうだね。魔物の襲撃も、日に日に激しさを増しているから……

すまないが、頼んだぞ。みんな。

諸君はなにも心配せず、無事に彼を連れ戻したまえ!

どうかお願いします。ガフは、口は悪いがいい子です……

幼い子どもたちどころか。こんな年寄りにまで、あの子は尽くしてくれる……

……優しい子ですね。

まっかせなさい! さっさと連れ戻して、ついでに食べ物買ってくるわ!


<一方その頃、別の貧民街では――>


「……もう。もう……おしまいだ……」

「――我慢できねえ。このままじゃ俺たちは、飢えて死ぬか魔物に食われて死ぬかしかねえ……

俺はもう、好きにやる……俺らを馬鹿にし続けた貴族どもに、復讐してやる!!」

「「「オォォォオオオオオオオー!」」」



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story20 なんのために



「ヒャッハー!!!」

「なにをする!? そこはうちの蔵だぞ!!!」

「うるせえぁああ! 奪え奪えーー!!!」


「ははは、燃えろぉ!! ぜんぶ燃えちまえェーーー!!」

「あ、ああ……私の屋敷が……!」


「てめぇ、前に俺をゴミみたいに使い捨ててくれたよなぁ……」

「げ、下品な貧乏人め……! 私を殴ったらどうなるか――」


「鎮圧だ!! 暴徒どもを取り押さえろ!!」


 ***


「フリント……! あれはいったいどういうことじゃ!?」

「……ユーカレア様。もう、体調は――」

「説明するんじゃ……!! 城の外の、あの有様はなんなのじゃ……!!」

「姫様。実は――」


 ***


「そんな――そんなことをすれば、貧民街の者らは混乱するに決まっておろう!?」

「だからこそ、一刻も早く国を一つにする必要があります。この動乱は必然です。

膿は、吐き出さなければなりません。他国につけ込まれる前に」

「膿、じゃと……? 貧しき民のことを、膿と……そう言ったのか、お主は!?」

「否定は……いたしません。言い訳も、ございません」

「――もう我慢ならん。これからは……ユーカが国を束ねる! 騎士を束ねる!!

父上と母上は言っておった! ユーカに――国を託すと!!じゃから――」

「………姫様」

「お気持ちはわかります。ですが、あなたはまだ幼すぎます。

いずれ治世を委ねる日も訪れるでしょう。でもそれは、今ではない……」

「……フリントぉッッ!!」

「――あなたに憎まれる覚悟など、僕はとうにできているッ!!」

「!!」

「評議会との合議により、すでに決定した事項ですが……姫様にも改めてお伝えします。

明日、曙光がこの国を照らすと共に――

国民に対し、フリント・アインヴァッカの王位継承を布告します」


 ***



「チクショウ! 離せェエ!!」

「黙れ、おとなしくしろ!!」


「すげえ騒ぎだが……おかげで盗み放題だぜ」

「……抵抗するな。盗んだものを置いて……おとなしくしろ」

「俺を、捕まえるかよ。騎士さんよ?」

「……ッ。僕は……なんのために……!」

 「おい、カシス! そっちはどうだ!?」

「こちらは異常ないッ! すぐに戻るッ!!」

「…………」

「――すまない」

「……ちくしょう」


「ガフ!? やっと見つけたわ!」

「……戻りましょう。ひとりでいたら危ないわ」

「――あァ。わかったよ……」


 ***


「………いるか、ユーカ?」

「――くそっ」



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際限なき獣

>くそ、まだまだだ!

>みんなは安全なところに!


>魔物の襲撃に、国の動乱……

……ボクは、作為を感じるよ。

>同感だ、偶然とは思えない。

だが今は、住民たちを守る!




story21 襲撃


くそ……! なんだ、この魔物の数は!?

それに凶暴性も増しているようだ……! 明らかに異常だよ!

ここは死守するぞ、ブライ!!

言われるまでもないさ!!

気張っとるやないの! うちらも助太刀するで!!

ヴィクトール殿、エイス殿!

どうしてここに!?

ユーカレア様が、城から消えた。捜索中だ。

そうか……とにかく、助かった。礼を――

ねえ、クライヴ、ブライ……

爺ちゃんが、出て行ったきり戻ってこないんだ……

……安心したまえ! このボクが必ず無事に――

チッ……また増えたか!

こんな時に……!

――二人は行ってくれ。ここは俺とエイスが引き受ける。

お前たちの方が、この辺の地理に詳しいだろう。

そやね。姫ちゃんも近くにおるかもしれん。頼んだで!

考えてモノを言いたまえ! この数を君たちで――

……じゅうぶん、だね。うん、そうだった……強いなぁ……

恩に着る!


 ***


はぁ、はぁ……っ! なんじゃ、この有様は……!

あれは……! 見つけたよ、クライヴ!

お主らはたしか……クライヴにブライ……

ここは危険です。ブライ、お前は彼女を。安全な場所へ!

じゃが……! 貧民街のみんなが……!!

レッカちゃん……!

おお……無事だったか!?

――後ろだ!!!

くそ、間に合わない……!

ぬぉおおっ!

<老人は、子どもをかばって魔物の前に躍り出た――>

あ――うぁぁああああああ……!!



静かなる氷嵐

――いくぞ、エイス。


>これより先、一歩も通さん。

>まとめてかかってきいや!

片っ端から氷漬けにしたる!!

>いくぞ――エイス!!



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story22 哀哭(あいこく)



いったいなんだ、この魔物の死骸の数は!

ディーン、見つけたぞ! あそこだ!

ユ……じゃねえ、レッカ!! やっぱりここにいたか!

……ディーン。カレン……

な……爺さん……!?

――どいてくれみんな! 私が治療を――!

……カレンちゃん。もう――

…………

嘘、だろ……

ぼくの……ぼくのせいだ……

ぼくが、指輪なんて取りに戻ってなければ……

その指輪は……

ガフと二人で取り戻した、爺さんの奥方の形見じゃ……

ぼくのせいだぁ……うぇぇぇえええん……

違う、少年……

――守れなかった、俺の責任だ。すまない……

…………

なんで、だよ……ッ。

どうしてこいつらが、こんな目にあわねえといけねぇんだよ……!

…………


戻りました。ガフくんも無事に――

……!? これ、は……

ガフ!! きちゃだめ……!!

――んだよ、これ。

なんで爺さんが、死んでんだよ……

ガフ……ガフぅ……

俺とエイスは、一度彼女を家まで送り届ける。

……頼む。


――ちくしょォ……!



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story23 脈動する陰謀


うぇぇええん……パパぁ、ママぁ……

へへ……恨むんならこの国を恨むんだな……!

寝てろ。


……申し訳ありません。国賓であるあなたたちを、国の動乱に巻き込んで……

気にすんな。フリントさんは渋々だが許可してくれたし、黙って見てるのはガラじゃねえ。

一騎士として、友邦の危機を傍観しているわけにはいきません。

「あの……例の貧民街の住人たちは……?

ディーンたちやブライたち、みんなのポケットマネーで貴族街の宿屋一軒、まるまる貸し切ってくれたのよ!

……みなさん、ありがとうございます。

根本的解決にはなっていない。とにかくまずは、この混乱をどうにかしなければ……

そーね! 向こうはクライヴたちに任せて、アタシたちはあっちの方に行ってくるわ!

……僕も、いきます。明日の式典までに、この騒ぎをおさめなければ……


「……式典、か。

「どうした、カレン?

「……あの日からずっと、腑に落ちないことがある。

「……ロレンツさんが、死んだ時のことだろ?

「ああ。状況も、タイミングも、あまりに出来すぎていた。

「だよな……だけど、誰が何をやったって証拠がねえ。

「あの城は、今もくまなくファフナーに調べさせている。怪しい物も、人物もいない。

だが一箇所……強固な魔術防護の施された部屋を、先ほどファフナーが見つけた。彼にも侵入できない。

「……なんだって?


 ***


(……死ぬ気になりゃ、忍び込めるもんだな。二度目はねーだろうけど。

真正面から訪ねたトコで、フリントとは会えない……

なら直接ツラ合わせて説得するしか……貧民街を助ける方法はねーだろ……!

聞かねーなら……無理やりにでも……!


 ***


(クソ……どこにいやがる、迷っちまった……)

――

(っぶねえ。………なんだ、アイツ。

よくわかんねえけど、……肌で感じた。たぶん、ヤベェやつだ)

「――ようやく話をする時間ができましたね。いかがでしたか、私の手並みは?」

(声は……どうにか聞こえるな)

「――気に入っていただけたようで、何よりでございます……」

――――?

 (もうひとり、いるのか)

「――ええ、ええ。誰も、夢にも思いますまい。

ロレンツ様の死が、『死体にいっさいの痕跡を残さぬ呪殺』だとは……」

 「……ッ!?」

「使用した呪具はすでに、湖の底に沈めております。ええ、森の中の

――そればかりはお許しを。あればどの大掛かりな呪具を、そこいらで破壊処分するわけにはいかなかったのです。

魔力の残滓を、あの影の精霊に感知されぬとも限りませんから。

心配せずとも、術式自体は、明日には湖底で溶けてなくなります。

――すべて、あなたの思惑通りでございますよ。――――様」

(嘘だろ……どうする……どうする……!?今この場で、コイツらを――

――ダメだ。きっと、無駄死にだ。それなら……!)



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story24 信じてくれよ!



「ハァ、ハァ……クソ……全身が、痛ェ……」

(四階から飛び降りることになるたぁ……入るのに命がけなら、出るときも命がけってか……

でも、これで……誰かに伝えられる……あのことを……!)


「お前ら、ここを制圧したら、次は西4番地区だ!! 急げェ!」

「おい!!」

「……なんだ貴様。貧民街のガキか?」

「どうでもいい……それより、聞いてくれよ!!

王様は……ロレンツは、殺されたんだ!! ――暗殺だったんだよ!!」

「はぁ?」

「頼むよ、信じてくれ!! 俺は、聞いたんだ、さっき……」

「おい離せ。意味がわからん」

「森の奥の湖に、殺したやつが、証拠があるんだ! 沈めたって!」

「黙れ、コソ泥!! デタラメで国を混乱させたスキにたんまり盗み取ろうってハラなんだろうが!」

「ちげーよッ!! 頼む、誰か聞いてくれ!!

王様は殺されたんだよ!! 誰か俺と――!」

「……お前、ガフか。薄汚い盗っ人が……!!」

 「がっ……!」

「お前ら貧乏人ともに! うちの蔵は燃やされたんだ!!」

「さらに国を混乱させようってのか!」

「死んで償え!!! この! この!! この!!!」


 ***


「……ハァ、ハァ……貧民街に帰れ、貧乏人め」

「…………」

「明日には式典がひかえてるのに、余計な仕事を増やしおって。来い、地下牢にぶちこんでやる」

 「その、手を――離さんか……!」

「え……は……?」

「くるのじゃガフ。ここではすぐ気づかれる」


 ***



「……これでよし、と。城から外を眺めていたら、お主の姿が見えての……

――どうしたのじゃ。そんなボロボロになって……

「いや……お前がどうしたんだよ……

さっきのカッコ……それに今、城からって……

「ええい! そんなこと、今はどうだってよいのじゃ!! レッカ! 実は! 王女! おしまい!!」

「……いやいや。はぁあ……?」

「さっき、なにか皆に訴えていたな? 話してみるのじゃ。」


 ***


「……なんじゃと? 父上が……殺された……?

しかも……だって……そんな……っ」

「はは、信じらんねえだろ……いいよ、それで。俺はひとりでも――」

「――馬鹿者」

「………え?」

「なに呆けた顔しとるのじゃ。信じるに決まっとろ?」

「だって……俺は、貧民で……お前は……王女で……」

「誰かを信じることに、身分など関係あるものか。

……よく、真実を突き止めてくれたの」

「レッカ……」

「森の奥の湖に、証拠があるのじゃな?」

「ああ……でも、明日には消えちまうって……」

「ならユーカがひとりで、取ってくるのじゃ」

「魔物がうじゃうじゃいるんだぞ!? つーかお前なら、騎士を動かせるんじゃないのか!?」

「……お主の話が真実なら、城の騎士たちの誰が裏切り者かもわからぬ……

カシスたちならば信頼できるが、すぐには連絡がとれん。この混乱のさなかでは、ディーンたちも同様じゃろう…」…

「…………」

「……終わりに、するんじゃ。ユーカはもう、誰ひとり。死なせたくない……!!」


 ***


「……ファフナーか。

――なんだって!?」




信じるぞ!

ユーカが……国を救うのじゃ!


>――あのよ、レッカ……

じゃなくて、ユーカレアか……

>ユーカでよい。どうしたのじゃ?

>……ありがとな。信じてくれて……

>かしこまるでない。気色悪いぞ。

>あァ!?


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story25 義勇



「初歩の偽装魔術でも、案外いけるもんじゃの……こっちで合ってるのか、ガフ?」

「ああ。湖まで、あと二時間ってとこだ」

「……その怪我じゃ歩くのも辛かろ? 無理をしおって……」

「お前ひとりじゃ、迷子になって遭難すんのがオチだろ。……?

――

今の黒ローブ……! さっき城にいた――」


「きゃあっ……!?」

「こいつら、どこから……! どけよ!!」

「あ、ぐ……逃げるんじゃ、ガフ……」

「うるせえ! お前こそ早く逃げろ!!」

「じゃが、足が……っ!」

「ぐぅ……! そいつに……手を……出すなァ……ッ!」

「やめろガフ! 逃げろ……頼むから……」

「誰が……逃げるかァ……!」

「……っ! 誰か――!」


「「はぁあああああああ!!!」」

「「うぉぉおおおおお!!!」」



「お前ら……遅……えよ……」

「よく……守った!!」

「一人の騎士として……敬意を表するよ、ガフ」


「せあッ!!!」

――

「消えた!?」

「……手応えがなかった。逃げられたようだ」

「二人が無事ならとりあえずいい。……やっと追いついたぜ、ユーカ、ガフ」

「ディーン、カレン……みんな……どうしてここが……」

「君が城から抜け出したことに、ファフナーが先ほど気づいたんだ。

君の偽装魔術の痕跡を追ってきたが……間に合ってよかった」

 「う……」

「……ガフも、気絶しているだけだ。私が治療するよ」

「遅くなってすまねえ。……よくがんばったな、ユーカ」

「うわぁぁあああああん……!」



 ***



「――と、いうわけじゃ。ガフがすべて聞いておった……」

「やはりか」

「ならとっとと、回収しようぜ。その証拠とやらをそしたら――」

「ちょい待って。

ここから先は、立派な内政干渉や。治安維持の手伝いとか、そんなレベルやない」

「「…………」」

「うちらやディーンちゃんたちは国賓や。それぞれの国の代表としてこのジルベスタに来とる。

一歩間違えれば、国際問題や。自分の国、巻き込むことになる。

ことと次第によっちゃ、姫ちゃんまで責任問われる可能性もある。

酷なことやけど……行動移す前に、ちゃんと考えなあかんよ」

「……エイスの言うことは、もっともじゃ。

じゃからこそ――聞いてほしい。ユーカの考えを」


 ***


「……オーケーだ。俺は乗ったぜ。ユーカと一緒に、最後まで戦う!

「なにが、乗った、だ。最初からそうするつもりだろう、お前は。

「まーな。カレンやキースがなんとかしてくれるって、信じてたしな♪

「まったく……

そういうことだ、ユーカ。<剣誓騎士団>の名にかけて、我らは最後まで君と共に戦おう。

「ディーン、カレン……!!


――

「……ヴィクトール殿? なにを書いているんだ?」

「――エイス。フォントネル家の守護竜として、この誓約書を受諾してほしい。

<北方氷槍騎士団>における全権、及びフォントネル家の家督を、今この時より、妹――アメリア・フォントネルに移譲する。

これより先の我が行いは、<氷の国>及びフォントネル家とは一切関係のない、独断だ」

「……ヴィクちゃん。ええんやね?」

「――協力要請を受諾します、ユーカレア様」

「じゃ、じゃが……! お主、自分の地位を捨ててまで……!」

「捨ててはいません。勝てばいいだけです。

……それに、貴国の動乱は、<氷の国>にも無関係ではないと判断しました」

「……よっしゃ。ヴィクちゃんがそう言うなら、うちから言うことはなんもない!」

「ヴィクトール、エイス……」


「俺たちは……言わずもがなだな」

「無論さ。誇りある騎士として、力を尽くそうじゃないか!

それにボクらは、あくまでただの旅行者だからね♪」

「ああ。旅先で、助けを求める人に出会ったから手を貸す。それだけだ」

「クライヴ、ブライ……!!」


「よし、これで方針は決まったな!」

「ああ――行こう、湖へ」




進め、暗き森を



>よっしゃ、いこうぜ皆!

>ああ、陰謀を暴いてやる!

>ガフも無事でよかったよ……

>ユーカレア様、お手を。

>うむ、かたじけないのじゃ……

>ヴィクトール殿は優しいのだな。

>ヴィクちゃん、ほら笑って!




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