一歩の距離

年が明けて数日、世間では休暇の余韻が漂う中で、私は山積みの仕事に忙殺されていた。

アンナ「社長、提携先から電話があって質問が……」

クミ「いっけなーーいっ！！」

ユイの大声に、社員全員が動きを止めた。彼女は慌てふためきつつやって来て、1枚の書類を私の前に置く。

ユイ「社長、早くこれを見てください！」

私「どうしたの？」

書類を見ると、それは私たちと恋花テレビの重要なコラボ番組だった。その企画案は半年も前に出来上がっている。

ユイ「企画のシークレットゲストの依頼を忘れてました。でもあと数日で番組の撮影が始まっちゃいます！」

私「大丈夫、シークレットゲストならとっくに……」

そこまで言って私は固まり、ぼんやりと記憶を掘り起こした。とっくにゲストの依頼は出したはずだけれど……今、その人物とは連絡が取れなくなっていたのだった。

ユイ「社長？」

私「大丈夫、全部予定通りに進んでるから、シークレットゲストは私に任せて。」

・・・

この件を引き受け、私はまた別の緊急を要する書類の処理に取りかかった。そして、それが終わった頃には深夜近くになっていた。

私「次に片付けなくちゃいけないのは……そうだ、シークレットゲストね……」

私は引き出しを開け、中から1枚の白いカードを取り出した。

「キラの番組招待券――本券でキラを番組収録に1回招待できます。キラは拒絶不可能です」

裏を見ると、見慣れた綺麗な字で数行書かれている。

1)有効期限：キラの芸能人生が続く限り永遠に有効。2)約束通り、必ず使用すること。3)頑張ってね。負けないでポテチ姫。

私（負けたりしない）

心の中でそっとつぶやくと、私はカードをしまった。そして、振り向いて窓の外の満天の星空を見上げて、エネルギーをチャージする。

まずは、目の前の問題を解決しなければ。

撮影は順調に終わり、シークレットゲストとして招いた番組の初代プロデューサーと初代MCは、観覧客を大いに盛り上げた。

改めてスタッフ全員にお礼を言い、私は片付けを済ませて現場を離れようとした。

？？？「□□？」

驚いて顔を上げると、しばらく会っていなかったシンさんが目の前に立っていた。ベテランマネージャーの風格は相変わらずだ。

シン「驚きましたか？用があってテレビ局に来ていたんですが、あなたが番組の撮影をしていると聞いて、見に来たんです。」

シン「すっかりプロデューサーらしくなりましたね。」

思わず初めてキラを番組に招いた時のことを思い出し、私は慌てふためいた。

私「日々精進しています……テレビ局にいらしたのは、キラと関係があるんですか？」

シン「ええ、そうです。なるべくたくさんの仕事を確保しておいて、あいつが戻って来たらしっかりオファーをもぎ取るつもりですよ。」

自分の予想が当たり、私は少しためらいながら手にしたファイルを握りしめた。

私「キラは……帰ってくると思いますか？」

答えを聞く前に、手にしていた書類がうっかりファイルから抜けて床に散らばり、あの白いカードが一番上にひらひらと落ちた。

私はあわてて腰をかがめて拾い集め、それからシンさんの懐かしそうな顔を仰ぎ見た。

シン「キラが書いたそのカードを、まだ持っていたとは思いませんでした。」

私「ええ、この番組のシークレットゲストになってもらおうと思っていたのですが……」

シン「じゃあ、さっきの質問は俺が答えるべきじゃないですね。キラが戻って来たら、またシークレットゲストとして呼んでやってください！」

シン「あいつの悪いところはいくらだって言えますけど、約束したことは絶対に守る奴ですから。」

私「はい、私は彼を信じています。」

私はシンさんの目を見て、しっかりと頷いた。

なにより……私とキラの約束は、永遠に有効なんです。