【白猫】Flower of Grace Story2
story5 孤島の花畑
<ハーヴェイとディーラ、レナの出会いより、数ヶ月……
彼らの降り立った無人島には、一面の花畑ができていた>
不思議なものだな……これもレナの力なのか。
草花にとって良いものを引き寄せ、悪い物を退けた結果だろうな。
レナの力は大きすぎる。力を狙う者がいないとも限らない。
力が暴走する危険もある。我としては、街よりもよほど過ごしやすいがな。
おかーさん、はいっ!
<レナはディーラに花冠を被せた>
ありがとう。レナ。
おかーさん、きれい♪
<レナは、ディーラの鼻面にほおずりをした>
我を綺麗というのは、お前くらいなものだ。
おとーさん、今日は何をつくるの?
今日は机を作る。
毎日毎日、懲りずによく作るものだ。
<花畑の中央には、大きな扉をもつ、簡素な住居があった。
ハーヴェイとディーラが作った家である>
季節が変わる前に、ベッドも作らないといけないな。
レナ、乾草のおふとんも好さだよ?おかーさんと一緒に寝れるから!
ベッドは……いいものだぞ。
ハーヴェイ、明日はギルドの仕事だ忘れるなよ。
わかってる。
お仕事……じゃあ明日は、カシノキ村に行くの?
ああ、買い物もしなければならないからな。
やったあ!
……元気だな、レナは。
……
…………
わからぬな。実にわからぬ――しかし、しかしだ。
わからぬというのは実にいい。何一つわからぬからこそ。このグレゴールは、首領に忠誠を誓っておるのだ。
――私は、何をすればいいのですか?
見つけ出せ。お前に宿りし<共鳴>の概念をもって。
何を――?
遥かなる古の時代に栄えた智の王国。<統合機関>。かの国の賢者は一つの予言を残した。
白き彗星が、青き星と重なる時、大いなる<恩恵>、再び地上に現れん――
大いなる<恩恵>……
我らはその恩恵をもって、世界を啓蒙する。
…………
……
「……星を見ているのか、ディーラ」
「お前は覚えているか?我らがいたあの世界の星空を」
「覚えていないな」
「我もだ――あの世界では、夜空を見上げる余裕などはなかった」
<ハーヴェイは、ディーラの鼻面に触れた>
「何をしているのだ、お前は」
「ディーラ。魔竜と呼ばれる以前のことを、覚えているか?」
「覚えていることは、ただ一つだ」
「何だ……?」
「卵だ――
我はそれを、温めていた。不安で、心細くて――そしてとても、愛おしくて――
なぜこんな話をさせる」
「聞いておきたかった」
「お前は?ハーヴェイ。我にだけ話させるのは、不公平というものだ」
「私は――かつては人間だった。おそらく……きっと、ネクロニアを倒すために、概念固定手術を受けた。
ネクロニアにさらわれた妹を取り返すために――」
「ほう?」
「だが奴らは、私を倒すために、妹を利用した――
ネクロニアは……妹に呪いを植えつけた。お前がされたのと同じ呪いをな」
「お前は、妹をどうしたのだ」
「送ってやったさ――何もない、静かな場所に」
…………
……
私の中にある、共鳴のカ――導いて――
<恩恵の概念>の元に――
<シオンに与えられた力は共鳴。あらゆるものと響きあい、存在を感じることができる>
そこに……いるのね。
story6 笑顔に誘われて
えへへ。今日は何をして遊ぼうかな~♪
あれあれ?
この島のどこかに……<恩恵の概念>を持つ者が――
でも私は――それから、どうすればいいの?――私の、役目は――
こんにちは、おねえちゃん!
女の子……この子は――
ねえねえ見て!きれいでしょ、このお花畑!
きれい……?
<シオンは、花畑を見つめる――>
このお花さんはねー。甘-い匂いがするの♪
……甘い……?
おねえちゃん、お花好き?
好き……?好きって……何?
……我らの島に何の用だ。
私はシオン――旅をしているものです。
旅か……なるほど君も、いわゆる冒険家という手合いか。
はい――あてどなく旅を。
この島には、冒険家の興味を引くようなものはないと思うが……
そんなことはありません。……ここは、素敵な島です。……とても。
おねえちゃん!レナが、島をごあんないするね!
<レナは、シオンの手を握った>
レナ……あなたは、レナっていうの?
…………
……
<レナは、シオンと手をつないでいる>
鼓動が伝わってくる……レナの鼓動が――
楽しかったね!シオンおねえちゃん!
レナは今、楽しいのね……?じゃあ、私は――
ねえ、シオンおねえちゃん?
何?
えっとね、おねえちゃん、今日はどこにお泊り?
船に泊るわ。
おねえちゃん!今日は……一緒にお泊りしない?
……一緒に?
……好きにすればいい。だが、家に泊るなら、手を動かしてもらうぞ。
…………
……
このふかしたイモを、つぶせばいいんですか?
ああそうだ。それがいわゆる、マッシュドポテトというものだ。
おとーさんたち、おイモばっかり買ってくるの。
イモはいいものだ。茄でれば食べられるからな。
なるほど……そうなのですね。
……いつも、大騒ぎでな。
いいですね……にぎやかで。
そんなものかな。ああ、次はサラダを頼むぞ。
わかりました。おまかせください。
ナイフのもち方が逆だぞ。
おねえちゃん♪レナが、おしえてあげる!
…………
……
むにゅむにゅ……
眠ったか……レナ。
シオン……君が良ければ、また来てくれないか。
来ても……いいのですか。
君が来てくれると、夕食が一品増える。レナは育ち盛りだからな。
では、また来ます……
君は――何も聞かないのだな。
何を……?
いや、いいんだ。――お休み。
ハーヴェイ、ディーラ、レナ。生まれも、種族も、何もかも違うのに――
響きあっている――どうして……?
――私は――探して、そして――どうすればいいの――
story7
シオンおねえちゃん!ご本を読んでっ♪
じゃあ、おひざに座って。
うん!
あるところに、とっても大さなくじらさんがいました……
シオンおねえちゃん、くじらさん、見たことある?
……どうだったかしら。
レナは今日もシオンと一緒か。
そうらしいな。レナもすっかり懐いているらしい。
まるで、姉妹のようだな――
こんな日々が、いつまで続くと思う?
さあ、な――
今でも我らは、敵同士か?
敵同士ならば、戦うだけだ。私達の有り方はそう――家族というのではないか?
家族……?
いうにことかいて家族か。焼きが回ったな、ハーヴェイ。
……そろそろ出かけよう。シオン、レナを頼むぞ。
……わかりました。
おとーさん、おかーさん、いっちゃうの?
すぐに戻ってくる。心配は無用だ。
…………
……
見つけたようたな、シオンよ。我らが人形よ。
お前の思考は<掌握>している。それにしてもわからぬな。人形が――何を迷う。
わからぬ。わからぬが――舞台装置は組みあがった。始めるとしよう。ははは。
…………
……
統合機関やネクロニアという国は、現在知られている海域には存在しません。
でも……エルフ族の伝承に、<束ねられし民の国>と、<死者の王国>が古の時代に争っていたという伝承があります。
古の時代だと……!?
<考古学者クリストファーは一枚の写真を見せた。石板の写真である。石板には文字が刻まれている>
エル・ギリカ碑文。<束ねられし民の国>の数少ない遺物の一つです。
『自由とは服従である。平等とは管理である。博愛とは奉仕である』
読めるんですか?
……ああ。
すごい……数万年前の文字を読めるなんて!
ハーヴェイ、これは……!
ここは、数万年後の世界だ――私達は、未来に飛ばされたのだ。
…………
……
おねえちゃん、おねえちゃん♪おとーさんたち、お夕飯には帰ってくるよね!
ええ、きっとね。
おみやげ買ってきてくれるかなー?
<シオンは、レナの頭を撫でた>
何――!?
<島に、一台の飛行艇が降り立った>
誰――!?
久しいな人形よ。よくやった。実によくやったぞ。お前は見事に探し当てた。
おねえちゃん――?
連れていくのですか。
そのために、そのために来たのだ。
どうして?
おお。わからぬことをいう。この娘は我らのものだ。
ハーヴェイとディーラは、レナを<家族>だといっていました。
家族……?家族だと?これまた、わからぬな。
<恩恵>の概念使いに家族がいるとすれば、それは我らだ。
おねえちゃん……レナ、行きたくないよ。
レナ……
嫌だよ、おねえちゃん!
レナは、嫌がっています。
わからぬ。わからぬな。だからどうしたのだ?
うっ――
<シオンは、その場に倒れた!>
おねえちゃん!
このグレゴールは、<掌握>の概念を使う。私が理解しうる全てを掌握し、意のままにする。
お前の意識を<掌握>した。しばらく頭を冷やすがいい。
娘と人形を連れていけ。ああ、それから――
焼き払え。何も残すな。