【白猫】Flower of Grace Story
遠く彼方より来たりし戦士、ハーヴェイ。
死の王国が遣わした魔竜、ディーラ。
恩恵を与える少女、レナ。
世界と響きあう少女、シオン。
世界のどこにも居場所の無い彼らが出会う時、物語が始まる――!
story
自由とは服従である。平等とは管理である。博愛とは奉仕である。
私には、準備ができております。いつでも敵を駆逐できます。
ご命令を、機関局員殿。この私に、<統合機関>の敵を葬れと命じてください。
ハーヴェイ、お前は良く切れるナイフだ。それは認めよう。だが、ナイフを持つのはこの俺だ。
しかし機関最高会議<レヴナント>は、敵を倒して功績を上げているのは、ナイフの方だと考えている。
全ては、機関局員殿の功であります。
わかりきったことを言うな!お前は廃棄する!これは決定事項だ!
<――>
――何だと――!?
…………
……
また我は殺すのか――奴らに命じられるがままに。
いいだろう。この身を縛る忌々しき呪いよ――我に狂気をもたらすがいい!
<統合機関>の痴れ者ども!!魔竜ディーラが焼き尽くしてくれる!
…………
……
撃て!!撃ち落とせ!!
ヒィギャアアアア!!
ネクロニアの魔竜……!!どうしてここにぃ!?俺は機関局員だぞ!
<機関局員は、巨大な彫像の背後に隠れた。黒い合金製のそれは<統合機関>指導者の像である。>
フンッ!!
<尾の一撃で像は倒れ、機関局員は押しつぶされた!>
ぐぁああああ!
ネクロニア軍の侵攻を許したか。通常ならば迎撃すべきだが、私は廃棄処分をされる身だ。
自己の判断で迎撃を行えば、命令違反となる。かといって、何もしなくても処分は免れない。
いずれにしても廃棄処分ならば、この私は何をすべきか?
グッ……呪いが全身に……!!ネクロニアの魔道士どもめ……ここで我を使い切るつもりか……!
我に戦いを強いるばかりか、力を暴走させ、我もろともにこの島を滅ぼすつもりか!
ネクロニアの最終生物兵器――呪術によって戦う道具にされたあわれな生物のなれの果て。
放置することはできない。その呪いが解き放たれる前に、仕留める!
魔竜の鱗を貫くとはな、褒めてやるぞ、<統合機関>の下僕よ!
このハーヴェイに与えられた概念は<突破>。我が一撃は、汝の心臓を貫くだろう。
概念の力を操る改造種か――惨めな一生を終わらせてやる!
だめっ……
この少女は……!?
子供はどいていろ!
何っ……!?
これは――!?
うっ……
うええーん!!
なっ……何だッ!?
これは――!?
…………
……
……何が、起こった……
私は――どうなったのだ。いったい、この場所は……?
海が、汚染されていない……!?
あれは植物だ――それにこの空気――瘴気が含まれていないだと……!?
……グゥゥゥ……お前は……いったい何を……
お前もここにいたか、竜よ。
人間ッ……!!
そうだ――ここがどこかなど、私には関係ない。私は義務を果たす。
だぁめ!!
……この少女は!?
邪魔だ、どけ!
危ない、この場から離れろ!
けんかしちゃだめ!!
ガァアアッ!!
!!
なんだ、こいつらは……?他にも生物兵器がいたのか!?
フン、うるさい奴らめ!我の戦いに水を差すか!
竜よ、ひとまず貴様との決着は後回しだ――
story2
うぁあああーん!!
泣き止むがいい。小さな人間よ。
……うん。
……君の名前は?
レナ……
わかった……レナ。向こうに行くんだ。
もう、けんかしない?
ネクロニアの魔竜は危険だ。すみやかに対処せねばならない。
よかろう、その愚行、我が前に立つ身をもって思い知れ。
この少女には、手出しはさせん。
この我が、小さな人間をわざわざ踏みつぶすとでも?
あくまで敵は私ということか。――よかった。
よかっただと?お前は何をいっている?
竜よ。もしもお前が勝ち、私が倒れたときは、お前があの少女を助けてくれ。
なぜ我が、小さな人間を助けてやらねばならぬのだ。
私も自分が何をいってるか、よくわからん。だがお前は信用できる。
おかしな奴だ。お前、兵器としては不良品だな。だいたい我は人間を見境なく襲う呪いを――
――ぬ?体が軽い――どういうことだ……呪いが、消えているだと――!?
おじちゃん、りゅうさん!
なんだちいさな人間。いまは取り込み中だ。
はい!
<レナは、赤く色づいたコケモモの実を、ハーヴェイとティーラに渡した。>
これは……植物の果実か?いったいどこに生っていたのだ?
甘くておいしいの!食べて!
我ら竜が、木の実など口にすると思うのか。
食べて!ね?
……それで気が済むなら、食べてやる。……ムグ
……おいしい?りゅうさん!
……甘いな……何かを口にしたのは、いつぶりだったか……
おじちゃんも!
私は、許可なく栄養を摂取することを禁じられている。
美味しいのに……
しかし私は――いや、そうだった。私はすでに、廃棄が決定した身なのだったな。
<ハーヴェイは、コケモモの実を口にした。>
……これが、自然に実る果実の味というものか。悪くはないな……
<統合機関>の下僕よ。ここはどこだ?
――わからない。こんな場所は見当もつかん。
お前たちはそうだろうな。憐れなやつらめ。
聞き捨てならないな。
お前たちの魔道科学は。自然のソウルを食い尽くす。汚れた空と海しか知らぬのも道理というわけだ。
環境が汚染されたのは、お前たち<ネクロニア>の呪術兵器が原因であろう。
わかっておらぬな。お前たちもネクロニアも、同じ穴のムジナよ。
ふあ……!りゅうさんの羽根、とってもきれい!
――この我を恐れぬのか、まったく……
竜よ。私はこの少女を巻き込みたくはない。
だったら早くこの娘を追い払うがいい。
わかった。この少女を安全なところまで連れていく。それまで手を出すな。
…………
……
なんということだ……!この島は植物で溢れている……!
みんなでおさんぽ、たのしいね♪
だが、人間どもの姿が見えんな。
無人島だったか。どうしたものだろうかな?
……お前、まさかこの我に期待をしているのか?
その翼、飾りではなかろう?
story3 与えられし恩恵
<ディーラは、ハーヴェイとレナを乗せて、人里のある島にまでやってきた。>
うわーい!!レナ、お空を飛んだの初めて!
私もドラゴンの背に乗るのは初めてだ。貴重な体験をした。
ありがとう、りゅうさん!
さっさと降りるがいい。全く……どうしてこの我が。
<ハーヴェイは周囲を見渡した。>
ここもか……水も空気もまるで汚染されていない。これはどういうことだ?
概念使い。お前は知らぬだろうが、この空と海こそが、本来あるべき自然の姿なのだ。
ならば、ここは……
疑問など無意味だ。さっさと子供をあずけて来い。我はそこの森で待っている。
……
…………
なんだと……この村では、こんなに新鮮な作物を供給しているのか?
なかなかいいイモだろ。安くしとくぜ。
いよいよわからなくなった……一体ここはどこなのだ。
あんた、よっぽど田舎から来なすったんだねえ。
レナ……もしや、君が私達をここに飛ばしたのか?
そうだよ!
どうして、そんなことを――
おじちゃんとりゅうさん、悲しそうだったから。たから<おんけい>をあげたの。
恩恵……?
わるいものを吹き飛ばして、いいものを引き寄せるの。それがレナの<がいねん>なんだよ?
――レナも、私と同じ、<概念使い>だったのか。
がいねんつかいって、なあに?
己に込められた概念の力を引きだせるように、改造を受けた人間のことだ。
概念使いは最高会議の意志の元、<統合機関>の敵と戦わねばならない。
んーっと、わかんないけど、レナはおじちゃんと同じなのね♪
おかーさーん、まってー!
待ってるわよー。今日のご飯、何がいい?
シチューがいい!
……親子か。
おやこ……?
恐らくあの少女は、先ほどの女性から産まれたのだろう。
産まれた……おじちゃん、レナは誰から産まれたの?
おそらく、君には……
<鐘が鳴った。その音に、村の人々は一斉に聖堂へ走る。>
どうしたのだ――!?
!
<ディーラが、その場に飛んできた。>
ええい!うるさい獣どもめ!我が眠りを妨げるとは!
りゅうさん、お昼寝してたの?
ディーラ、あの獣たちを追ってきたのか。
この私が、焼き尽くして――むっ?
鱗が汚れそうだな……おい、ハーヴェイ。我を手伝うがいい。
どうするつもりだ?
我の背の上で戦い、寄ってきた魔物を追い払うのだ。とくにあのねばついた奴は近づけるな。
確かに、私には人々を防衛する義務がある。竜よ。力を賃してもらうぞ。
story4 寄る辺無き者
これで最後か――
おかげで助かったぜ、あんた、ドラゴンライダーだったんだな。
やるわねアンタら。おかげで助かったわ!
♪
ありがとうございます。お怪我はありませんか?
君たちは……?
アタシたちは冒険家よ。ひょっとして、アンタたちも?
冒険家……?
うわあ!ねこちゃん!おしゃべりしてる!
<レナは、キャトラを抱きしめた!>
かわいい~♪
人気ものは辛いわね~。
少し――聞いていいだろうか。
なに?
…………
……
はむ、はむ、はむ。おいしい~!
<レナは嬉しそうにサンドウィッチを食べている……>
本当にいいのか?
持ち合わせがないなら、仕方ないでしょ。
♪
だが、こんなに豪華な食事、どんな対価を払えばいいのだ。
フツーのご飯だけど……?
これが普通だというのか。これほど新鮮な食材を使った食事は、機関局員でもなければ口にできないはずだ。
大変だったんですね……
君たちも、<統合機関>を知らないらしいな。
ごめんね。飛行島でいろんなところにいったけども、そんな名前の国、聞いたことないわ。
そうか……恐ろしく遠くに飛ばされてしまったのだな、私達は――
…………
……
なるほど……それでお前は、どうしてレナを誰にも預けずに連れ帰ってきたのだ。
レナには身寄りがない。この世界には、誰も――
それは我も、そしてお前も同じだ。ここは――我らのいた世界とはまるで違うらしい。
ああ、そうだな……
あ、おじちゃん、りゅうさん!小鳥さんがいるよ!
小鳥……?
<枝の上に、小鳥の巣がある。
見れば小鳥が、ひな鳥にエサをやっている……>
あの小鳥さんは、おとーさん?それともおかーさんかな?
レナ……
レナには……おとーさんもおかーさんもいないの……
いいなあ……
……うっ……うっ……
うわあああああん!!うわあああーん!!
やぁだよ……ひとりぼっち、やぁだよ……
泣くな。
うわあああーん!!
だったらこの我が、お前の<お母さん>になってやる。
えっ……りゅうさんが……?
……我ながら、つまらぬ冗談だな。
おかーさん!
<レナは、ディーラに抱きついた!>
おかーさん……!おかーさんだ……!
これは――どういうことだ?
私にもわからない。だが――なぜだろうな……それでいい、そう思う。
だったらハーヴェイよ。貴様は<お父さん>だ!
私が――?
そうだ。我にだけ押しつけるな。
おじちゃんが、おとうさん……?
私は<概念使い>だ。私は機関の所有物であり、<家族>をもつことなど許可されていない。
おじちゃん……
だが、私は<統合機関>の<概念使い>として、レナを守るという義務がある。
私はレナの<お父さん>だ――君を守るものという意味でだが。
おとーさん!!
<レナは、ハーヴェイに抱きついた……>
おとーさん、おとーさん……!
やれやれ……どうしてだ?どうしてこうなったのだ?
わからない。
たが――これはこれで、いい。この子が悲しむよりはな。