【白猫】Flower of Grace Story3
story8
統合機関。ネクロニア。いずれも遠い昔に滅んでいたとはな。
我にかけられた呪いがなぜ解けたか、これではっきりした。
ネクロニアの呪術は占星術を応用したものだ。長き時の流れで星の位置が変わり、呪術が意味を為さなくなったのだ。
――だったらディーラ。私にお前と戦う理由は無い。
我にはあるぞ。お前には、手傷をくれた怨みがある。
許せ。
いちいち不器用な男だな、お前は。む……?ハーヴェイ、あれを!
何……!
……これは……
<花畑、小屋――机に、ベッド……レナが作り上げた花畑も……>
レナ――!
<――全てが、灰になっていた>
誰が――誰がやった!!
<ハーヴェイは、灰の中から、イヤリングを拾い上げイヤリングを拾い上げる>
シオンが、身につけていたものか?
”――ブロンシュテイン島。――クライムシンク要塞”
イヤリングから声が?
<シオンはイヤリングと己の心と共鳴させ、メッセージを残していた>
”――レヴナント――レナは、もう――ごめんなさい――”
レヴナント……だと?
…………
……
……うっ、うっ……おとーさん、おかーさん、おねえちゃん……
<レナは、巨大で醜悪な機械に接続されていた……>
いいぞいいぞ、すばらしい。我が首領もお喜びになられよう。
――人々は目覚める。光や闇などという蒙昧なる迷信を捨て去り、<智>こそが力であると理解するだろう。
――何を、するつもりですか。
<シオンの体は拘束されている>
あの娘の身を案じているのか。いつまで家族ごっこを続けるつもりだ。
私は家族という単位に所属していません。私はレヴナントです。
――それでいい。お前はそこで見ていろ。
おねえちゃん!
<恩恵>の概念使いよ。汝を<掌握>する――!
やだぁ……やだよう……
お前は恩恵を与えはしない。奪うのだ。不当にして忌まわしきかの恩恵をな!
うわああああ!
…………
……
おかしいわね。どうしたのかしら、このルーン。
火がつかないの?
不良品なのかしら?
あいたたた……腰が急に痛みだしたぞ!?……痛み止めのルーンが聞いておらんのか?
<空を行く、飛行艇でも――>
ど、どうしたんだ!?エンジンが動かないぞ!?
不時着します!
どうしてだ!ルーンが……効いていないというのか!?
!?
どうしたの、主人公。早くやっつけなさいよ。
大変、ルーンが……ソウルを送っても、反応しないわ!
エエッ!?
…………
……
<概念使い>の力を拡大せしめる我が発明。完璧に、完璧に作勤しておるぞ。
何をしたのですか。
概念使いはな、概念を逆に使うこともできる。お前もよくわかっていよう。
世界から、ルーンの恩恵を奪った。今はまだ島の周辺だけだが、効果範囲は拡大し続ける。
これが、レヴナントのやり方?
そうだとも、そうだとも。ルーンなどに依存するから、人間は堕落したのだ。
人間は再び己の叡智だけをもって運命に立ち向かうべきなのだ。ふは、ふははは。
いやだぁよう……!みんなが……レナのせいで……!
レナ……
ふは、ふははは。新しき時代の夜明けだ。ふはは。くだらぬな。ああ全くもって不条理だ!
統制官殿!アンノウンが急速接近との報告有り!
――何だと。
story9 突破
<青い空を、銀の流星が貫く――>
レナ……シオン……!
<眼下を見れば、大型の飛行艇が海面に不時着している>
……五隻目だ。原因はレナか?
<恩恵>を与えるのが可能なら、奪うこともできるだろう。
レナをさらった連中は、そのことをわかっていた。
ああ、そうだな。統合機関がレナについて残した情報を知っているのだろう。
<二人の目の前に要塞が見えてきた>
ハーヴェイ、今お前は、誰のために戦っている?
<要塞から、激しい砲撃が浴びせられる!>
――誰のためでもない。これは、私の意志だ。
…………
……
防衛網、全て突破されました!
ほう。わからぬものだな。ここにきて妨害か。
ぐぅああああー!!
レナを返してもらうぞ。
邪魔するものは全て、焼き尽くしてくれる!
おお、あれなるはネクロニアの魔竜ではないか。かの国の遺産がまだ地上に残っているとはな。
それにしてもわからぬ。いかなるルーンであれ、もはや使い物にならぬはず。
いかにして、いかにして突破を為し得たのか?
……おとーさん……!
――レナ!
<ハーヴェイはレナの元に走る。だが――>
うっ……うぐっ……
つまり、つまり妨害者は<概念使い>ということだな。くくく。
ならば<掌握>してやるぞ――
ぐっ……ぐあああっ……!!これは――!
ハーヴェイ!?――操られているのか!?
うっ……ぬううう……はああっ!!
そのドラゴンを始末してくれたまえ。<概念使い>……それで、万事が解決の運びとなる。
ドラゴンは――<掌握>できるか微妙なところなのでな。くくく。ははは。
こんな形で<決着>とはな……ハーヴェイ……!
ディ……ラ……!私を……殺せ!
――ハーヴェイ、まだ……ならば!先にレナを!
<ディーラはレナの元へ飛ぶ。だがティーラの体は、見えない障壁に阻まれた!>
ぐあああっ!!<概念障壁>か――!統合機関の技術を!
ハーヴェイ……ディーラ……
くそっ……これしきの壁……!
……二人だけで、レナを――助けに来たの――?
戦え戦え。くく、ははは。
ううううっ……
はああああ!
ぐあああ!!
――どうして?
レナは――我らの娘だ!
――ディーラ。だったら、私に――助けさせて。
<ディーラは、シオンの目を見た。少女の瞳には決意があった>
……フンッ!!
<ディーラは、尾の一撃でシオンを拘束する器具を破壊する>
ハーヴェイ……あなたの想いを――
人形よ、人形よ。掌握済みといっただろう。お前も、その竜を排除せよ。
掌握の概念……!心が、塗りつぶされる……なんて……悲しい心……
グフッ……!
<シオンは、倒れた構成員の武器を拾い、ディーラの腹に突き立てる!>
……ふふ、魔竜ディーラが……人間などを信じるとはな。だが――
そのトカゲの首を落とせ。
お前のその想い――無駄にはしないぞ!行け!!ハーヴェイ!
何ッ!?
……<共鳴>の概念……
私の心は、ディーラと共鳴した。もはや誰にも掌握はできない。
私達の――想いは一つ!!
いかん。これはいかんぞ!
レナーッ!!
<ハーヴェイは、見えない障壁を<突破>した!>
おとーさん……!
<ハーヴェイは、レナの体を、機械から引き離す――>
はあああ!!
<ハーヴェイは、巨大な機械を一撃で破壊した――!>
くく、はははは。やるではないか。やるではないか。
ぬう……お前、何を!?
どうして……<掌握>の概念を解いたの……?
舞台装置はまた作ればいい。邪魔者は、排除すればいい。
この響き――<掌握>の力を結集しているのね。
出でよ……我が切り札よ!魔道科学の結晶よ!奴らを討ち果たせ!
――まだ、動ける――だから……私は、共鳴する。
ディーラの、レナの、ハーヴェイの想いに――
おとーさん、おかーさん、おねーちゃん!レナも、お手伝いする!
<統合機関>の亡霊ども。覚悟はよいな!
私は今、幸福な状態にある。私の決意は、私の行動と完全に一致している。
お前を突破する。征くぞ!
最終話 我が家へ
やったか――!
ハーヴェイ!奴はまだ!
わからぬものだ。まったく、わからぬものだ。
はーっ!!
しかし、しかし、それがいい。くくく。まさに不条理だ。
一つだけ問う。お前たちは<統合機関>のものか。
おお、<統合機関>とはな。我らが理想たる<智>の王国の名ではないか。
遥か昔に滅び去り――そして今まさに蘇らんとする、人類の理想郷。
統合機関は、理想郷などではない。
理想郷などありはせぬよ。このグレゴールが、わかっておらぬとでも!?
……ここはもう持たぬな。ははは。
娘は返してもらう。
娘……その憐れな人形を、娘と呼ぶか。わからぬな。……わからぬものだ。
黙れ!命をもてあそぶ下郎が!
……連れていくがいい。悪党を倒して、望みを果たせ。
お前なりに衿持があるらしいな。誇りを持ちながら、なぜ逸脱した。わからぬな。……わからぬ。今となってはな……
<怪人は、爆風の中に消えた――>
レナ!
おねえちゃんが!
レナ、幸せになって――
おねえちゃんも、いっしょじゃなきゃいや!
でも――私は、レナを――
乗れ。お前も……行くところが無いのだろう。
私達は、寄る辺無き身だ。だから共に生きることに、差支えはない。
生きる――?
<レナは、シオンの手を握った!>
おねえちゃん!いっしょに帰ろ!
…………
……
<銀色の竜が、爆発する基地より飛び出した――>
レナ、手を離さないで。
うん!
ディーラ、離脱するぞ。
ああ、しっかり、つかまっていろ!
…………
……
この島に、アンタたちの家があったのね……
レナちゃん……
……レナ、ぜったい、泣かないよ。泣かないもん。
偉いわ。レナ……
<島にはもう、何も無かった>
いい島だったな……だが……
ああ、この島は――
<ディーラは、海岸の土を掘り起こした>
何してるの、ディーラ?
そこに……あるのか。
匂いからわかるのは、金属の塊があるという事だけだ――だが、おそらくな。
これは……
!
<土の中から現れたのは巨大な彫像である>
おとーさん、これは何?
<それは、<統合機関>指導者の像であった――
遠い昔にいた、とてもかわいそうな人だ。
アンタたち……すごい昔から来たっていってたわね。もしかしたら、その時代の?
そういうことになろうな……
あの<レヴナント>は、私とレナがいた国の末裔だ。
奴らの理想とするのが、あのような世界なら、私はそれを否定する。
これからどうする。ハーヴェイ。
どこかに、新しい家を建てよう。
レナのお部屋、おねえちゃんと一緒がいい!
私も……?
ああ、君がよければ。
私はレヴナントの概念使い。あなたたちとはいられない。
おねえ、ちゃん……
シオン。私も同じだった。
あなたには、ティーラとレナがいる。
違いはない。みんな一人だった。
私も、いていいの?
おねえちゃん!!
<レナは、シオンを抱きしめた>
ハーヴェイ、我らに安住の地など、あると思うか?
私の意志は決まっている。
…………
……
良いものを引き寄せ、悪い物をはねのける――それが、レナの力だという。
引き寄せること、はねのけること。それは恐らく同じことなのだ。
ディーラにかけられた呪いが発動すれば、<統合機関>の島の人間はまとめて息絶えていた。
レナは、自分と私ごとディーラをこの時代に飛ばすことで、人々を生かし、未来へとつないだのだろう。
おとーさん、おかーさん、おねーちゃん!えヘヘ……だーいすきだよ!
好き……?この気持ちが、<好き>……なのね。
なんともおかしな家族だな。それにしても、この我が家族か――
さあ帰ろう。私達の家に――
Flower of Grace -END-
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