【黒ウィズ】黄昏メアレス2 Story1
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状況は不明だが、門を目指し、〈メアレス〉たちと干戈を交える相手の心当たりなど、ひとつしかない。
〈ロストメア〉と思しき5人へと、君は続けざまに牽制の魔法を放つ。
先頭の男が腕を振った。君の放った魔法は謎めいた力の影響を受け、虚空へと逸らされてしまう。
だが直後、男の左腕を雷撃が直撃した。
どういうこと?と尋ねながら、君はリフィルの隣に並ぶ。
ぞっと間合いを詰めたラギトが、男の構えた機械の塊を蹴り弾く。
こちらにウィンク、あちらに銃弾。男の防御に入ろうとしていた少年を精確な銃撃で牽制し、動きを封じる。
コピシュは両手に剣を構えた。狙いは、ぎょっとなった〈ロストメア〉の少女。
少女が放った魔力を、コピシュは剣一閃で砕く、その刃自体に魔力を乗せたことで、魔力そのものを断ち斬ってみせたようだ。
少女の助けに入るべく、女が、目の前のミリィを突破せんと挑む。
人間離れした速度で繰り出される蹴打と拳打。ミリィはそのすべてに反応し、杭打機で防ぎつつ、隙を見て反撃を繰り出す。
そして君は、リフィルとともに〈ロストメア〉の男へと魔法を放つ。
言いながら、敵は何かを生み出した。小型の異形――〈ロストメア〉の分身たる〈悪夢のかけら〉たちだ。
君はうなずき、カードに魔力を込めた。
***
ルリアゲハの言葉通り、太陽が沈みつつあった。
黄昏が終われば、門が閉じる。それまで門を守りきれれば、こちらの勝ちだ。
不意に、〈ロストメア〉の女が動きを変えた。
ミリィを攻撃する――と見せかけてフェイント。反射的に防御姿勢を取るミリィの脇をすり抜け、門へと疾走する。
言い捨てて、ラギトが女の後を追う。〈ロストメア〉の力をまとった肉体が、弾丸のごとき加速を見せた。
女がすべてを振り切り、門に触れた――瞬間、ラギトが装甲から魔性の鎖を伸ばし、女を絡め取る。
そのまま剛力で引き寄せ、遠心力を利用して豪快に振り回し、逆方向へとぶん投げた。
女は空中で手刀を振るって鎖を砕くが、その間に、広場の入口付近まで放り投げられていた。
号令一下、〈ロストメア〉たちは後退していく。
ミリィの武器が火を噴いた。ドン、と腹に響く重々しい音を立て、〈ロストメア〉たちの背へと砲弾が飛ぶ。
最後尾の少年が、くるりと振り向いた。楯をかざし、砲弾の直撃を受け止める。
聞き覚えのない声が、真上から降った。
魔力の光を伴う、強烈無比なる一撃とともに。
楯で止めた少年が、たたらを踏んでよろける。手にした楯が、あまりの衝撃に砕け、半壊していた。
それほどの威力を生み出したのは、機械の弓――のような武器を持った若者だった。
その通りだった。彼は、魔力の光を放つ弓で殴りつけた。それがとてつもない威力を発揮し、楯を砕いた。
若者は冷たい目で少年を見据え、弓を振りかぶる。
そのとき、〈ロストメア〉の男が逃げながら腕を伸ばした。
すると、少年の姿が瞬時に男の方へと引き寄せられた。若者の振るった弓は虚しく空を裂く。
リフィルが驚きの声を上げている間に、〈ロストメア〉たちは広場を離れていく。
それを見届けて、ミリィがぺたりと地面に座り込んだ。
ウィズの言葉にはまったく同感だが、それはともかく、みんなが無事で本当に良かった。
ほっとした顔を見合わせていると、
先ほど現れた若者が、仏頂面で近づいてきた。
言われて、君たちは背後を振り向く。
ようやく太陽が沈み、黄昏が終わった。都市には静かなる闇が訪れつつある。
なのに――
***
うなずいて、〈ロードメア〉は一同を見回した。
〈ラウズメア〉は、ふるふると首を横に振り、心配そうに見つめてくる〈レベルメア〉の髪を優しくなでた。
だって、仲間といっしょにがんばる方が楽しいじゃん!
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夜が来てから少し経ち、門はようやく光を失った。
それを見届けた君たちは、〈メアレス〉行きつけの定食屋、〈巡る幸い〉亭に場を移した。
俺はレッジ。門を管理するー族の人間だ。
どこからともなく現れて笑うアフリトを無視し、レッジは仏頂面で話を続ける。
だが、今回はそうも言っていられん。門の力を引き出す……そんな〈ロストメア〉が現れたからにはな。
門に触れ、その力を引き出した……おそらく〝引き出す〟ことが奴の能力だ。あの動きも〝己の力を引き出した〟結果だろう。
しかし、その〈ラウズメア〉とやらにまた力を引き出されたなら……最悪、永遠に閉じなくなることもありうる。
レッジは、〈メアレス〉たちに鋭い視線を向ける。
粛然とうなずきかけたコピシュを、リフィルが身振りで止めた。
どうしてもと言うなら、あなたに同行する期間中、〈ロストメア〉撃破の報酬とは別に、拘束料を支払ってもらう。
毅然たる物言いに、レッジは強く眉をひそめ、撫然として答える。
お互い言うだけ言って、静かに視線をぶつけ合う。見えない火花がこちらまで飛んでくるようだった。
そんな話には興味ありませんとぱかり、ウィズが、あくび混じりに声を上げた。
レッジは、思いのほか律儀に質問に答えた。
そういえば、この世界の魔法が廃れた原因は、人々が魔力を失ってしまったから、という話だった。
〈ラウズメア〉は高い身体能力を誇るそうだな。なら、変幻自在の魔法で集中砲火をかけるのが最も効果的だろう。
〈黄昏(サンセット)〉と、黒猫の魔法使い。おまえたちに同行してもらう。
レッジは、しれっと告げるリフィルを睨んでから、渋々うなずいた。
方針を確認し合うや否や、レッジを除く〈メアレス〉たちは、そろって君の方を向いた。
突然注目され、目をぱちくりとさせる君に、意味深な笑みを向けてくる。
明日も早いからほどほどにね、と、君は苦笑しながらうなずいた。
***
翌朝。予定通り、君たちはレッジに呼び出された。
レッジはそう言って、熊手から取り出した車輪を弓に差し込み、手で回転させる。
つぶやきに、車輪が応えた。魔力の光が浮かび上がり、針状となって微細に揺れ始める。
と――揺れ動いていた針が、突然ぴたりと止まり、激しい明滅を始めた。
叫び、レッジが走り出す。君たちも、その後に続いた。
驚き顔の人々が道を開けていく。その向こうに、見覚えのある背中がふたつあった。
〈アイアンメア〉と〈ラウズメア〉――こちらの接近に気づいたふたりが、通りの奥へと逃げ出していく。
リフィルはうなずき、魔法陣から光の糸を引き出す。
そして、追跡行が始まった。
***
大通りにいた人々は、騒ぎが起こるや、そそくさと手近な店舗に身を隠していった。〈ロストメア〉の出現には慣れているらしい。
コピシュの背から針のような剣が鞘走る。それは人気の絶えた通りを駆け抜け、正確に〈ロストメア〉を追撃した。
レッジは別の車輪を弓に組み込み回転させる。すると弓に光の矢が生まれ、高速で〈ロストメア〉たちに迫った。
君のような異界からの来訪者は別として、夢を持つ人間は、見果てぬ夢である〈ロストメア〉とまともに戦うことができない。
こうして攻撃できるということは、やはり、レッジはまぎれもなく〈メアレス〉なのだ。
しかし、門を管理する一族だという彼が、どうして夢を失ってしまったのだろうか――?
疑問に思いつつ、君も魔法で援護する。リフィルとルリアゲハも魔法と銃弾を浴びせた。
しかし、そんな君たちの攻撃を、〈ラウズメア〉は機敏にかわし、〈アイアンメア〉は楯で防ぎながら逃走する。
レッジが車輪を変えた。
その身が魔力の光をまとい、瞬時に加速――一気に〈ロストメア〉たちを追い抜き、彼らの前に立ちはだかる。
いきおい足を止める〈ロストメア〉たちを、君たちは挟み撃つ格好になった。
***
いずれ劣らぬ強敵とはいえ、数の差はいかんともしがたいようだった。
二刀を手に、〈アイアンメア〉へ向かうコピシュ、君はその動きに合わせて魔法を放ち、〈アイアンメア〉を防戦一方に追い込む。
その間に、残る〈メアレス〉たちは〈ラウズメア〉を三方から挟撃している。
ルリアゲハの射撃。〈ラウズメア〉は後退し、すばやく射線から逃れる。
その脚が、何かを踏んだ。リフィルが形成していた魔法陣だ。
魔法陣から伸びた光の鎖が、〈ラウズメア〉の脚を絡め取った。
動きを封じられた〈夢〉の背後に、弓を手にしたレッジが躍る。
車輪が回転し、魔力が高密度に収束。〈アイアンメア〉の楯さえ砕いた一撃が、逃れようのない距離で迫る。
〈ラウズメア〉は背後を振り向き、防御の姿勢を取ろうとする。
激突の寸前――間近で〈ラウズメア〉の顔を直視したレッジが、眼を見開き、硬直した。
そこへ。
雄叫びとともに、〈アイアンメア〉が割り込んだ。
君とコピシュの攻撃を受け止めた楯を捨て、レッジの前に駆け込んだのだ。
一瞬遅れたレッジの一撃が、〈アイアンメア〉の背中を直撃する。
同時に、〈アイアンメア〉の剣が、〈ラウズメア〉を縛る魔力の鎖を断ち斬っていた。
想いを振り切るような表情で、〈ラウズメア〉が真上に跳び上がった。その足元を、魔法と銃弾がかすめる。
楯もなく〈クラッシュウィール〉の直撃を受けた〈アイアンメア〉は、そのまま魔力と化し、霧散していった。
弓を手に、茫然と立ち尽くしていたレッジは、
リフィルの声に、ハツと顔を上げ――痛みをこらえるような顔で、頭を振った。
皮肉に、レッジは言い返すこともできず、うつむく。
あのとき彼が硬直しなければ、〈アイアンメア〉がかばう余地も与えず、〈ラウズメア〉を倒せていたはずだ。
どうしてレッジは、動きを止めてしまったのか。
考えられる理由は――
淡々と、しかし容赦なく、リフィルは問うた。
レッジは、恒梶たる思いを顔にのぞかせ、うめくように答える。
隠しきれない苦渋の色が、声と表情ににじんでいた。ルリアゲハが肩をすくめる。
レッジは君たちに背を向け、苦渋と痛みをまとめて吐き捨てるようにつぶやいた。
***
わだかまる闇に、静かな吐息が響く。
人ならぬ者の死を悼む、やるせない吐息が。
うつむく〈ラウズメア〉を、〈レベルメア〉がおろおろと慰める。
〈ラスティメア〉が皮肉げに言う隣で、しばし黙祷を捧げていた〈ロードメア〉が、ゆっくりと目を開いた。
例の件――行けそうか?〈ラスティメア〉。
ひらひらと手を振り、〈ラスティメア〉は背を向けて歩き出す。
他の3人から離れたところで、その顔からスッと表情が消えた。
長い長い嘆息をこぽしてから――〈夢〉は、我知らず伏せていた顔を上げる。