【黒ウィズ】黄昏メアレス3 Story1
目次
登場人物
story1 夢と現実の狭間の地
ついてきて。落ち着けるところまで案内するわ。
言われるまま、君は〈ピースメア〉についていく彼女は慣れた足取りで森の奥へと進んだ。
ここは、都市の外なのかにゃ?
そう。〝夢と現実の狭間の地〟……その片隅にある森のなかよ。
考えてみれば当たり前だけど、都市の外にも土地があるんだにゃ。
ええ。山も森も、海だってあるわ。人間たちは、そういった野外の開拓を試みているけど、今のところ、うまくいっていないわね。
〈ロストメア〉は狭間の地に生まれて門を目指す、都市の外の方が〈ロストメア〉が多いの。当然、開拓も簡単じゃない。
この森にもたくさんいるんだね、と君は言う。
うん。特に、あなたたちの言う人擬態級がね。集まって暮らしてるの。村みたいなものかな。
淡々と答える〈ピースメア〉の背中を見つめ、君は、聞いていいのだろうか、と思いつつ、浮かんだ疑問を口にした。
門を目指そうとはしないの?と。
ここにいる人擬態級は、それができない〈ロストメア〉ばかりなのよ。
〈ピースメア〉は、やるせなく吐息した。
〈夢〉として生まれた以上、自分を叶えたい。〈見果てぬ夢〉のまま終わりたくない。だけど――
私は〝争いを止める夢〟だから。そのために誰かと争うなんてことは、できない。
他にも、いろんな〈ロストメア〉がいるわ。臆病で傷つくのが怖い〈夢〉や、〈メアレス〉に負けて、叶うことを諦めてしまった〈夢〉……。
どこにも行けなくなって――仕方がなくて、ここにいる。
でも、それは――という君の言葉を、〈ピースメア〉は、ため息交じりに継ぐ。
〈ロストメア〉としては死んでいるのと同じ。人間で言うなら、自殺志願者……あるいは無気力な世捨て人ってところかしら。
人が生きることを諦めるように――叶うことを諦めた〈夢〉。
7まるで〈メアレス〉のようだ、という言葉を、君は呑み込む。
〈ロストメア〉の〈メアレス〉――
そうそう、気をつけてね。私の〝争いを止める〟力は、話の通じる相手にしか効かないから。
人擬態級以外――会話できるほどの自我や知性を持たない〈ロストメア〉は止められない。
なら、悪いけど、普通の〈ロストメア〉が出てきたら、こっちは魔法でやっつけるしかないにゃ。
悪いなんて思わなくてもいいわ。私も、人擬態級以外の〈ロストメア〉に仲間意識を持っているわけじゃないから。
〈ピースメア〉は、そっと目を伏せた。
彼らは、魔力を得るためなら、共食いも辞さない。
〈夢〉は、互いに喰らい合うものだから。
story2 戦いは静寂を引き裂く
そういえば、〈ロードメア〉と知り合いなんだったにゃ。
ええ。〈ロードメア〉と〈レベルメア〉とは、もともと面識があったの。いっしょに門を目指さないか、って誘われたこともある。
門を通ったか、敗れて倒れたか……どちらにしても会えないと思っていたのに、名前をつけて帰ってくるなんてね。
ふたりは今、ここにいるの?と君は問う。
ううん。もう行っちゃった。この森の奥に。
〈絡園〉を探す、って言って。
〈絡園〉……?
聞いたことのない単語に、君とウィズが顔を見合わせたとき。
大変だ!
ひとりの男が血相を変えて飛び出してきた。
どうしたの?
〈メアレス〉だ!〈メアレス〉が来た!仲間が襲われてる!
わかった。私が止めるわ!
〈ピースメア〉は真剣な表情でうなずき、男が指し示す方へと走り出す。
君はあわてて、その後を追った。
こんなところまで、私たちの居場所を奪いに――
くそっ、やるしかない!こうなったら!
怒号。悲鳴。戦いの喧騒が、森の静寂を引き裂いている。
戦場に辿り着いた君は、見た。
人擬態級の〈ロストメア〉たちと、相対する、5つの影を。
修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!
指先から魔力の糸を伸ばした少女が、骨骸の人形を操り、雷撃の魔法を放つ。
森だと勝手が違うわね!
右手に刀を、左手に銃を手にした女が、木々を跳び移りながら銃撃を見舞う。
おわっ、えーと、そこぉっ!
白い霧を吹きかけられた少女が、ほとんど感覚だけで杭打機をぶん回し、〈ロストメア〉の横っ面を殴り飛ばす。
クレイモア!
大量の剣を背負った少女が叫ぶと、地面に置かれていた大剣が跳び上がり、数体の〈ロストメア〉の接近を阻む。
くわばらくわばら、ぱんぱかぱーん!
蝶のような羽を生やした少女が手を叩くと、大きな金ダライが落ちてきて、〈ロストメア〉たちの頭部に直撃する。
リフィルたちにゃ!
そう。リフィル、ルリアゲハ、コピシュ、ミリィ、リピュア――かって共に戦った仲間たちが、人擬態級の〈ロストメア〉たちと交戦している!
あなたたちの知り合い?なら、お願い!止めるのを手伝って!
君はうなずき、悲鳴の響く戦場へ飛び込んだ。
***
とにかく派手に1発決めるにゃ!
そんな師匠のアドバイスに従い、君は最大の魔法を放った。
リフィルたちに、ではなく、開けた空に向かって。
轟音が鳴り響き、森を揺るがす。その場の誰もが、ハッと君の方を向いた。
魔法使い?
君の姿を認めたリフィルが、半ば唖然と、半ばあきれて声をかけてくる。
あなた、なんでこんなところに?
気がついたらいた、と言いながら、君は〈ピースメア〉とともに、〈メアレス〉と〈ロストメア〉の間に割り込む。
そして、〈ピースメア〉と出会った経緯や、彼女たちに敵対する意志がないことをザッと説明した。
心門を目指さない〈ロストメア〉……。
リフィルは厳しい表情で相手方を見回す。
〈ロストメア〉たちは、あるいは敵意、あるいは恐怖を顔に浮かべ、じっと成り行きを見守っている。
信じるかどうかはさておき。ひとまず矛を収めてもいいんじゃなくて?
そうですね。わたしたち、別に、〈ロストメア〉退治に来たわけじゃないですし。
武器よこせー、とか、縛らせろー、言われちゃうと困りますけど、とか、そうでないなら、あたしもオッケっす。
魔法使いが変な能力で操られているって可能性もあるけど。とりあえずは、承知したわ。
リフィルたちが構えを解いてくれたので、君はホッとした。
リフィルたちは、どうしてこの森にいるにゃ?
アフリト翁の許可を得て、都市の外の探索に来たんです。
リフィルさんが、探したいのがあるそうなんで。外の調査もろくすっぽ進んでなかったし、ついでに誰か行かないかって声かけてもらって。
探したいもの?とリフィルを見ると、彼女は〈ロストメア〉たちに目を向けて、少し意味深な口調で告げた。
ろいろあってね。〈絡園〉というのを探しているの。
あなたも?
あなたも、って……他にもいるの?
リフィルと〈ピースメア〉が、互いにまじまじと見つめ合う。
その話を、魔法使いさんたちにもしようとしていたところなの。よかったら、あなたたちもどう?
リフィルは、森のように深い瞳を見つめ、数秒の沈黙のあと、うなずいた。
story3 〈見果てぬ夢〉たち
どうぞ。
森のなかの、一軒の小屋へと案内された。周辺には、似たような木造の小屋が何軒か立ち並んでいる。
怪物の住みか――にしてはあまりにも素朴な室内を見渡して、リフィルが不思議そうに言う。
〈ロストメア〉も家を建てるのね。
野ざらしで寝るのは、さすがにちょっとね。〝最高の家を建てる夢〟が、建ててくれたの。
いい夢ね。
自然な相槌に〈ピースメア〉は、きょとんとした、〈メアレス〉にそんなことを言われるなんて、思ってもいなかったのだろう。
一同が席に着くと、〈ピースメア〉は申し訳なさそうに切り出した。
さっきはごめんね。みんな殺気立っちゃって。前に、外の調査に来た〈メアレス〉と遭遇して、戦ったり、仲間を失ったりしてる人もいるから。
気にしないで。こっちだって、あなたたちが止めに入らなかったら、彼らを殲滅していただろうから。
〈メアレス〉と、〈ロストメア〉。〈夢見ざる者〉と、〈見果てぬ夢〉。両者の間には不思議な距離感があった。
その距離感を測るような口調で、〈ピースメア〉は問う。
〈黄昏〉リフィル……よね。あなた。
あなたたちのことも〈ロードメア〉から聞いてる。もしかすると、彼女たちも〈絡園〉を目指すかもしれない、って。
……前に、〈ロードメア〉たちと共に、〈オルタメア〉と戦ったとき。
リフィルもまた、どこか言葉を選んでいる。事情を知らない君の方に目線を送りつつ、説明を始める。
魔法で門から力を引き出したら、いっしょに〈絡園〉のイメージも流れ込んできた、漠然とだけど。
それが何かはわからない。でも、知らなければならない。そう思った。
そのイメージのなかに、アストルムの魔法陣が見えたから。
アストルム。魔法を保存し続けることを使命とし、リフィルを〈代替物〉たらしめた一門。
それが、〈絡園〉とやらに関わっているのなら、確かに彼女にとっては他人事ではないだろう。
〈ロードメア〉が〈絡園〉を知っているのも、そのせいかもしれないわね。彼は、アストルムの当主が捨てた〈夢〉だから。
〈絡園〉を探すために、この森に?と君が尋ねると、リフィルは、こくりとうなずいた。
〈絡園〉について調べているうちに、気づいたの。門から、とても細い魔力の糸が――アストルムの〈秘儀糸〉が伸びていることに。
その糸を辿って着いたのが、この森よ。糸は、森の奥に続いている……。
〈ロードメア〉たちがここに来たなら、やっぱり、正解だったってことですよね。
そういえば、ラギトたちはいっしょじゃないのかにゃ?
外の調査なんて何が起こるかわからないから、できれば連れてきたかったんだけど。
ラギトさんは都市を守るために残ってんです。
レッジも、門を守らなきゃいけないからだめー、って。
お父さんは、最初、来るって言ってたんですけど――
どうせなら女衆で固まった方が気楽だろう、アフリト翁がね。
ゼラードは剣以外ほんとにからっきしだから、対応力の高さって意味じゃコピシュの方が良かったっていうのもあるけど。
お父さんをひとりで残していくのも、心配は心配なんですけどね。
大丈夫でしょ。もともと、ひとりで〈メアレス〉をやっていたんだから。
いえ、普段の生活の方がです。
それは、保証できかねるわね……。
女衆は、うんうんとうなずき合った。
それからリフィルは、改めて〈ピースメア〉に向き直る。
ここに来た理由は、いま話したとおりよ。
門を目指さない〈ロストメア〉と戦う気はない。だから、あなたたちに手は出さない。
その代わり、というわけではないけど――
いいよ。案内してあげる。
思いのほか、あっさりと〈ピースメア〉は答えた。
〈絡園〉のことは知らないけど、〈ロード〉たちが向かった森の奥は、ちょっと危険だから。
……ありがとう。
こちらも思いのほか素直に、リフィルが礼を述べた。
少しだけ待ってて。他のみんなに話してくるから。
そう言って〈ピースメア〉が小屋を出ていく。
穏やかな静寂のなかで、リフィルが、ぽつりとつぷやいた。
ああいう〈ロストメア〉ばかりだったら……なんて思ってしまうのは、人間の傲慢ね。
しょうがないんじゃなくて。
ルリアゲハが、あっさりと肩をすくめた。
あたしたちだって、きっと誰かにこう思われてるわ。〝あいつらが〈メアレス〉でよかった〟ってね。
story4 過去の残響
〈絡園〉……。
〈ピースメア〉は小首をかしげ、その言葉を口のなかで転がした。
聞いたことはないけど。本当に、この森の奥にあるの?
確証はない。
素朴な木造の小屋のなか。木のテーブルを挟んで〈ピースメア〉の向かいに座した〈ロードメア〉が、首を横に振る。
俺自身は〈絡園〉を知らない。だが、俺という夢を抱いた人間――その記憶のなかに、〈絡園〉に関する知識があった。
〈オルタメア〉に言われて、初めて思い出したが。
思い出した?
俺の〝記憶〟は多くが欠落しているんだ。魔法で封印されていたせいだろう。
だが、きっかけがあれば思い出せる。〈絡園〉についても、徐々にだが思い出してきた。
この森の奥にあるはずだ、ってこととかね。だから戻ってきたの。
〈ロードメア〉の隣の椅子に腰かけた〈レベルメア〉が、ぶらぶらと足を宙に遊ばせながら言う。
〈ピースメア〉は視線を外し、つぶやいた。
本当に、あるのかな。私たちに……救いなんて。
わからない。だが、知らなければ判断しようもない。
〈ロードメア〉は毅然と言って、傍らの〈レベルメア〉に視線を向けた。
〈レベルメア〉には、付き合わせてしまって悪いと思っているが……。
んもう。そんなの気にしないでよ、〈ロード〉。
〈レベルメア〉は、ニッと歯を見せて笑った。
あたしも、救いがあるってんなら見てみたいし。さすがに、ひとりで門を通る自信もないしね。
そして、〈ピースメア〉にも同じ笑みを見せる。
もし、門を通らなくても叶う方法があるとか、そんな〝救い〟だったらさ。みんなでいっしょに叶つちゃおうよ、〈ピースメア〉。
そうね。もしそんな救いがあるなら、どんなにいいかしら。
あるかどうかわからない救いより、〈レベルメア〉の気遣いがうれしくて、〈ピースメア〉は口元をほころばせた。
あなたたちなら、だいじょうぷだと思うけど。気をつけてね。ふたりとも。
ああ。ありがとう、〈ピースメア〉。
こちらこそ。
〈ピースメア〉は、にっこりと微笑んだ。
素敵な名前を、ありがとう。
story5 夢の蝶のはばたく森
〈ピースメア〉の案内で、君たちは森の奥へと踏み入っていく。
進むにつれ、不思議な気配が濃くなっていくのを君は感じた。
ただ魔力が濃いというのではない。まるで、あたたかな水に身を包まれるような頼りない浮遊感を覚える。
海のようだ、と君は思った。森という海。広く、深く、あたたかく、暗い……。
いやー……なんか雰囲気ありますねー。きれいだけど落ち着かないっていうか、すごいけど不安になるっていうか……。
魔力が濃すぎて、くらくらしますね……。
なんか、光ってるのが飛んでるけど……あれ、蛍じゃないわよね。ひょっとして、蝶?
触らない方がいいわ。ただの蝶じゃないから。
とう!
〈ピースメア〉が言ったときには、リピュアが、ひょいっと蝶に触れていた。
ちょっと、リピュア――
瞬間、さあっ、と目の前が白く染まった。
音が消え、風が失せ、ただ光だけに包まれる。
魔力の光だ。そう感じた君の耳に――いや、心そのものに、声が響いた。
ぼく、大きくなったら車掌さんになりたい!だって、すっごくかっこいいもん!
脳に、ぱっと何かのイメージが閃く。唸りを上げて走る鉄の箱。それに乗り込む自分。制服の感触を誇らしく思いながら――
光が弾けた。君はハッと我に返った。
今の……夢?
リフィルも同じものを見たのだろうか。戸惑うように瞬きを繰り返している。
あれは、誰かの夢や願いを乗せた、魔力の蝶。森の奥から、こぼれてくるの。
だから言ったのに、とでも言いたげな顔で、〈ピースメア〉が告げる。
ただ――こぼれてくるけど、森を抜けることはない。延々と、森のなかをさまようだけで。
出口、わかんないのかな?森って、どこもかしこもおんなじに見えるもんね。
夢の蝶のはばたく森……ね。そんな秘境があるなんて、さすが、夢と現実の狭間の地だわ。
〈絡園〉と関係あるんでしょうか?
森の奥から来る――というなら、その可能性が高いわね。
行く手を見据え、リフィルは歩みを再開する。
何が起こるかわからない。気を引き締めて行くわよ。
***
夢の蝶だけでなく、〈ロストメア〉が現れ、襲いかかってくることもあった。
君はリフィルたちと力を合わせて〈ロストメア〉を撃退した。
打ち砕かれ、叫びながら散っていく〈ロストメア〉を、〈ピースメア〉は哀しい瞳で見つめていた。
本当に、同じ〈ロストメア〉にさえ襲いかかってくるのね。
倒した〈ロストメア〉の魔力を吸収しながら、リフィルが言った。
彼女の魔法を受けて散ったその〈夢〉は、〈ピースメア〉を喰らおうと狙ってきたのだ。
魔力が増えれば増えるほど、現実に出た時に叶う夢の規模が大きくなるから。
そうだった、と君は思いだす。〈オルタメア〉が門の魔力を欲したのも、大きすぎる夢を確実に叶えるためだった。
夢は互いに喰らい合うもの、という〈ピースメア〉の言葉は、彼女らにとっては比喩でもなんでもないのだ。
あたしたちにも襲いかかってくるのは、〈ロストメア〉を倒して魔力を貯めてるせい?
それもあるけど。〈見果てぬ夢〉の多くは、人間を憎んでいるの。自分を捨てた人間という存在そのものを。
あー……そりゃ恨みますよねえ……。
どこかしょんぼりと言ってから、ミリィは、きょろきょろと首を振った。
にしても、この森、〈ロストメア〉多すぎません‘都市から2週間は旅してきましたけど、他じゃ、こんなしょっちゅう戦わなかったっすよ。
ここが、故郷なんだ。
リピュアが、ぽつりと言った。その場の全員が、彼女の方を振り返る。
妖精の少女は、いつになく神妙な顔で、蝶の舞う森の奥を見つめている。
みんな、ここで生まれるの。この奥で。ふつうの夢は森を出られないけど、〈ロストメア〉だけは出られる。
捨てられた夢だから。自分が行かなきゃ、もう叶いっこないって、知ってるから。
だから、なにがなんでも森を出ようとするの。
沈黙が降りて、帳のように場を覆う。
それを払うのは己の役目だと言うように、リフィルが静かに口を開いた。
そう感じたの?リピュア。
うーん……なんだろ?なんとなく、わかったっていうか、そんな気がするっていうか……。
かつて、〈ロストメア〉であったという妖精。失われたはずの記憶――その残滓が、彼女にそう告げさせたのか。
その子の言うとおりよ。すべての〈ロストメア〉は、ここで生まれて、ここから旅立つ。
この森は、願いの融け合う森なの。
出口を見つけられず、さまよううちに、他の願いと融け合って、自分がどんな夢だったのかさえ忘れてしまう。
捨てられた夢だけが、その呪縛を抜け出せる。忘れてなるものか。忘れさせてなるものかって。そう叫んで……〈ロストメア〉になる。
言っておくけど、この森を焼き払って〈ロストメア〉を潰そうとしても無駄よ。できるなら〈オルタメア〉がとっくにやってる。
でしょうね。それにきっと、原因はこの森そのものじゃない。
リフィルは、かぶりを振って、森の奥へと視線を戻す。
この森の奥。そこに何かが――
――えっ?
その表情が、茫然と固まった。
視線の先にあるのは、森ではなかった。
あまりにも見慣れすぎた黄昏の街並みが、広がっていた。