【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story5
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君とエウブレナ、ネーレイスは垂直離着陸機で海上に出ていた。この海底深くに、アトランティス遺跡はある。
そのわずか前のこと。ポセイドンⅡはポセイドンフォース本部ビルの屋上に立っていた。
右手に握られているのは名高き大海神の武器。神器〈トライデント〉。
ポセイドンⅡは、彼方に霞む洋上にその矛先を向けた。
ポセイドンⅡは現場に立たない。それは力の衰えによるものだと人々は噂する。だが、実情は少し異なる。
力は衰えぬまま、精妙なコントロールが効かなくなっていたのだ。守るべき街で振るうことができぬほどに。
だが、広大な海の底に眠る、巨大な遺跡が標的ならば問題はない。
英雄庁創設当時、初代ゼウス1と最強の座を争った荒ぶる海神の力。その全力が――
数年ぶりに解き放たれた。
それは言わば、誘導式の掩蔽壕破壊弾。
数マイルの距離を音の壁を突き破って飛来した三叉の鉾は、目標地点の真上まで来ると、物理法則を無視して真下へと方向転換。
洋上に着水すると、周辺の水を巻き上げ、渦を成し、海底へと突き進む。
そして数瞬の後、水底に達し、遺跡の障壁と接触。
海が爆ぜた。
君たちの眼下の海の真ん中に、ぽっかりと巨大な穴が開き、海底の遺跡をあらわにしていた。
ふいに恐怖を思い出したように身を震わせるネーレイスの肩に、エウブレナが手を置いて笑う。
素直じゃないけど素直なんだな、と君は思い、エウブレナと目を見交わして苦笑した。
***
ヴィランの首魁と平然と言葉を交わすふたりのヒーローに、焼け付くような視線を向ける少女がいる。
因われたアレイシアだ。
他はすべて判断を鈍らせるノイズに過ぎない。年齢も立場も性別も関係ない。より多い数の人間を救う。それだけが正義の基準だ。
わかっていたよ。ボクがヒーローになれたのはボクの力じゃない。店長が力をくれたからだよね。だから、信じたかったんだ……。
悲しげに瞳を伏せるアレイシアに、プロメトリックは優しく告げる。
いまこそ君に聞かせてあげよう。神話の真実を。
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アレイシアの神話特性はハデスと判定された。そのためにハデスフォースで新人研修を受けていたのだが……。
その事実が示すことはひとつ。英雄庁には、プロメトリックの息がかかっている。
本来の神体測定データを見てもわからねえか。クソッ、いったいなんだってんだよ。アレイシアのあの力の源は。
神話還りの力を増幅させるのは神器や人造神器だ。そして変身中のアレイシアは、髪飾りが変形した頭部から力を発している。
バイトテロクレスとの戦いの後、気絶したアレイシアを確保したソエルは、真つ先に髪飾りを調べた。徹底的に。
結果はシロ。あの髪飾りにはなんの力もない。材質がずいぶん古いらしい、という以外になんの変哲もない、ただの髪飾りだった。
……チッ。時間がねえ。原因追求はやめだ。方針変更。やれることをやる。コリーヌ!準備はできてるな?
kへい、バッチリっすよ。この日のために、ずっと備えてましたからね。
***
君たちは立ちふさがる敵と戦いながら海底遺跡を進んでいた。
ネーレイスの放った水流が敵の動きを止める。君はすかさず雷の魔法を放ち、その敵を仕留めた。
頬を染めて顔を逸らすネーレイスに苦笑しながらも、君は感心した。
はじめは自分が前に出ようとして失敗の多かったネーレイスだが、いまは君のサポートに徹することで、能力を発揮している。
5枚のカードを同時に使うのが、君の基本的な戦い方だ。精霊たちの5つの力は、どれが欠けても成り立たない。
ヴァンガードもきっとそうだ。アレイシア、エウブレナ、ヴァッカリオ、ゾエル、ハルディス、コリーヌ、そしてネーレイス。
だれが欠けてもいけない。全員の力を合わせてこそ、道を切り開く先駆者なのだろう。君はその気持ちをネーレイスに伝えた。
……でも、だったら早くアレイシアを助けなくてはなりませんわね。全員そろって、はじめてヴァンガードなのですから。
それと、忘れていませんこと?あなた方もヴァンガードのー員ですからね!
言うなり、顔をそむけたまま走り出すネーレイスを追いかけて、君とエウブレナは苦笑いのまま走り出した。
***
この世界はオリュンポスの神々によって統治されていた。その中でも主だった神は12神と呼ばれ、人々の崇拝を受けていた。
ゼウスを筆頭に、ポセイドン、ヘラ、デメテル、アポロン、アテナ、アルテミス、アフロディテ、ヘルメス、ヘパイストス、ディオニソス――
そして――戦神アレス。
オリュンポスの神々は政治屋でね。己の功績を顕示し、権勢を競う俗物ばかりだった。
だが、アレスは違った。清廉にして実直。ただ人々のために力を振るい、それを誇ろうともしなかった。
オリュンポス1の美貌を持ちながら、女遊びも男遊びもすることもなく、正義のためだけに戦い、生きていた。
それを疎ましく思ったのは、父であるゼウスだった。なにせゼウスは好色極まりない俗物。彼と正反対の存在だ。
正妻ヘラとの間の子であるアレスは、いわぱ正統な世継ぎでもある。皮肉にも、それがゼウスを脅かしたのだろうな。
ゼウス自身、父クロノスを殺すことで覇権を手に入れた男だ。子によって玉座から追放されることを恐れたのだろう。
ゼウスは彼に汚名を着せようと画策した。オリュンポスで起きた醜聞を彼になすりつけ、彼の英雄的行為を他の者の手柄と喧伝したのだ。
女神との不義。半神への敗北。巨人の虜囚……。すべて偽りだ。彼のやったことではない。
なのに人々を守った手柄はアテナのものにされ、彼の成した偉業はヘラクレスやペルセウスに取って代わられた。
彼が私を救ってくれた件も、そうした出来事のひとつだ。
当時、私はある事からゼウスの怒りを買い、山頂に磔にされ、生きながら鷲に臓腑をついばまれる極刑を受けていた。
その事を知ったアレスは、ゼウスに逆らうことも厭わず、私を解き放ってくれた。そして、私たちは友となったのだ。
――だが、この出来事すらも、ゼウスはヘラクレスの偉業として世に広めた。
私は彼に問うた。君の真実が歪められ、君が受けるべき称賛が掠め取られている。悔しくはないのか、と。
彼は笑って言ったよ。
「称賛や感謝が欲しくて戦ってるわけじゃねえよ。だれかの役に立てたなら、それで充分だ。
それに――どう伝えられようと。お前の友になったのはオレだ。違うか?」
アレスはそんな男だった。ゆえに、私は彼を友として愛したのだ。
彼の犠牲のもと、オリュンポスは栄華を誇った。巨人との間に起きた大戦も制し、ゼウスの天下は永遠に続くとさえ思われた。
あの怪物があらわれるまでは。
怪物たちの父にして王。〈神話に終焉を告げる獣〉――テュポーン。奴がオリュンポスに戦いを挑んできたのだ。
テュポーンの力は圧倒的だった。これまでの敵を遥かに上回っていた。
だが、決して勝てぬ相手ではなかった。!2神が総力をあげ立ち向かい、ゼウスが前線に立てば、退けることはできたはずだ。
しかし、ゼウスは人間のために命を張る道を選ぱなかった。代わりに選んだのは、この世界を捨てることだった。
世界はひとつではない。無数の異なる世界――異界が存在するのだ。
オリュンポスの神々は、テュポーンと戦い傷つくよりも、この世界を捨て、別の異界に移住することを選んだのだよ!
私は反対した。神や力の強い半神はともに行けるから良い。だが、普通の人間は異界渡りに耐えることはできない。
神が異界へ渡るのは、この世界の人間たちを見捨てることを意味している。許されてはいけない。
だが、私の制止も虚しく、12神は神々と英雄を連れ、この世界を去った。
テュポーンと戦うために残った神は、私と――アレスだけだった。
私たちとテュポーンの戦い――その詳細を告げるとあまりにも長くなる。結論だけを告げよう。
私たちは勝利した。――アレスの命と引き換えにね。
戦いが終わった後、私は友を弔い眠りについた。深く傷つき、長い眠りを余儀なくされていたのだ。
長い眠りだった。数千、数万、あるいはそれ以上の、あまりにも長い時が流れた。
そしてついに力を取り戻し、目覚めた私が見たのものは――この世界を見捨てた12神をいまだに崇める人間の姿だった。
その中から、アレスの名は消えていた……。
自らを捨てた神々を崇め!自らを救ってくれた神の名を忘却した!なんという許しがたき愚かさ!
あるいは彼ならば、そんな愚かさすらも笑って許したかもしれない。だが、私は許すことなどできない!
Sそうか……店長は……神話還りなんかじゃなくて……!
君たちに叡智を与えた神であるこの私――プロメテウスがね!
***
もっとも罪深いものは決まっている。人間と彼を見捨て、異界へと渡ったオリュンポスの神々だ。
ならば人類の贈いは、神々を罰することでのみ成される。
ゆえに私は作ることにした。神を討っために、神の力を持った人類――神話還りをね。
私が集めていた神や英雄の力の欠片。それを飲食物に混ぜて人間に摂取させた。そうすれば、適性のある者は神話還りとなる。
当人に適性がなくても、子孫に適性のある者が生まれれば、その者が神話還りとなる。
計画を速やかに実行するために、私はこの巨大都市にー大チェーンを創設した。エリュシオンマートだよ。
エリュシオンマートを利用した者の中から、次々と神話還りは生まれ、彼らはヴィランやヒーローと呼ばれるようになった。
そうして神話還り同士は相戦い、力を強めていった。私の思惑通りにね。
特にゴッド・ナンバーズ。彼らは素晴らしい。オリジナルである12神に近い力を手に入れるまでに至っている。
10年前のディオニソスⅫなど、その最たるものだ。あの力をもってすれば、神をも討てるだろう。
ゆえに、私はあの時、彼らの力を高める最後の仕上げをした。ティターン族の力を持つ神話還りを率い、ヒーローと総力戦をした。
そう、君たちがティタノマキア事変と呼ぶものだ。あれを潜り抜けたヒーローならば、神と戦う資格がある。
わかるかね、アレイシア。全ては私が創ったのだ。ヒーローとは私の道具。神殺しの武器なのだよ!
***
できる……。魔法使いさんは異界から来た……。
プロメテウスは囚えたアレイシアから離れ、遺跡の中枢へと移動した。
この遺跡は巨大都市であると同時に、ひとつの装置であった。起動した時、真の姿をあらわにする。
プロメテウスは中枢に触れ、自らの力のー部を注ぎ込む。神の力、それこそが、この遺跡を目覚めさせる唯ーの方法なのだ。
Eい、遺跡が……浮いてる!
さあ、すべての神話還りよ私のもとに集うがいい。英雄大戦の始まりだ!
***
時をわずかにさかのぽり、オリュンポリス、アポロン区にて。
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ネクタル・オーバードライブ、発動!再誕せよ、神剣ザグレウス!
さあプロメトリック!このティタノマキアを終わらせようか!俺と貴様の死をもってな!
ハアアアアアアアアアアア!!
君が万全の状態なら、の話だがね。
あの瞬間、巨神と化したヴィランの変身は解け、ティタノマキア事変は終息した。
だが、プロメトリックが落ちたはずの場所に奴の死体はなかった。
プロメトリックは姿を消した。漆黒神器によるヴィランの暴走もなくなった。だが、奴の生死は不明なままだった。
後に残ったのはひとりのゴッド・ナンバーズが仲間に討たれ、その仲間殺しもぶっ壊れた、という事実だけだ。
……ハデスIVは強かった。本当に強かったんだ。だからあの戦いで俺は限界を迎え、プロメトリックとの戦いで限界を超えた。
医者にも学者にも言われたよ。次に神器を使えば命の保証はできないってね。
わかるだろう、お兄ちゃん。こんな事実は公表できるわけがない。市民に不安を与えるだけだ。
プロメトリックは討ち果たした。ハデスIVは名誉の殉職を遂げた。そう公表してもらった。
これがあの時に起きたことのすべてだよ。
どんなに多く見積もっても、3回。あと3回も変身すれば、確実に死ぬだろうね。
無事だと言えば戦わないと不自然。いないと言えば悪に〝最強〟の不在を教えてしまう。ディオニソスⅫは曖昧であるべきなのさ。
弱い者を守るのはルールだ。ほとんどの人間は、それで救われる。お兄ちゃんの生き方は正しいよ。
けど、なんでだろうね。血を分けた兄弟だってのに、おいらにゃそれができない。神話特性だって、アポロンとディオニソス。正反対だ。
けど、そんなおいらにだから、救うことのできる命がある。多分、どっちも間違つちゃいないんだ。
おいらみたいなのは、押さえつけたって絶対に出てくる。戦えないなら、せめてそいつらの居場所を創りたいと思ったのさ。
アポロニオの頬に、滂沱たる涙が流れる。
オリュンポリスには、最高のヒーロ――ーアポロンVIがいたからね。安心して任せられたさ。
その時、大地が鳴動した。
「さあ、すべての神話還りよ!私のもとに集うがいい。英雄大戦の始まりだ!」