【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story4
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状況は、絶望的というほかなかった。
プロメトリックにより漆黒神器を与えられ、自我を失ったヴィランはー斉に巨神となり、オリュンポリスの全地区で暴れだした。
無論、英雄庁は最大レベルのエマージェンシーを発動。全ヒーローが事態の鎮圧に当たったが――
全部隊でほぼ同時に人造神器の暴発や故障などのトラブルが頻発。さらに各地で機械が暴走を開始。
人造神器の全てを知り尽くした工学者、ヘパイストスXIの仕込みだとすぐに判明したが、天才の工作を破ることができずにいる。
事態を収めるべきゴッド・ナンバーズはアテナV11、ヘパイストスXIが裏切り、アポロンVIは敵にやられ行方不明。
欠番のIVとXIIを合わせおよそ半数のナンバーズが不在となった英雄庁は、残りのヒーローで迅速な立て直しを図るが……。
で、Ⅷとあーしがあちこち回んなきゃならないわけ。だからあーたたちは自分でなんとかして欲しい感じ。じゃね~。
アフロディテIXは軽い口調でそういって消えたが、その瞳には静かな怒りが燃えていた。
君たちはなんとかヴァンガードの本部に撤退していた。ゾエルは苦虫をドカ食いしたような顔をしている。
ハルディスが少数だけ用意できた特殊端末で、ヴァンガード隊の通信網は確保できたが、正規部隊は連絡手段を断たれ危機に瀕している。
アポロンフォースはトップを失い、統率の欠けた状態で渦中に叩き込まれた。手助けが必要だ。
それに、ヴァッカとVIはたぶん。アポロン区まで吹っ飛ばされている。探さにゃなんねえ。生きてるか知らねえがな。
ハルディス。アンタはここでXIが仕掛けた工作の解析に専念しな。
ヴァンガード、スクランブルだ!
***
それでもやるしかないよ、と君はカードを構える。ひとりでも多くの人を救うために。
***
10年前……あのティタノマキア事変でいったいなにが起きたのだ!
我が同志ハデスIVは死に、我が弟は堕落した。その理由を英雄庁もお前も語ってくれない。
そこまでの犠牲を払い倒したはずのプロメトリックは復活し、いま最悪の事態が起きている。なぜこのようなことになったのだ――
わかったよ。こんな事態だ。英雄庁も許してくれるだろうしね。 ――教えるよ。10年前のあの時、なにが起きたのかをね。
***
君たちは暴走する巨神ヴィランと機械に満ちたアポロン区を進んでいた。
***
ティタノマキア事変――あの時、俺はプロメトリックと相対した。だが、奴とすぐに戦うことはできなかった。
奴の放ったヴィランが、オリュンポリス周辺の町や村を襲撃し始めたからだ。
オリュンポリスの混乱の中、英雄庁が他の町に救援を出す決定をするわけがない。俺が行くより他になかった。
だが、目の前のプロメトリックを放っておくわけにもいかない。どうすべきか迷った俺の背を押したのは――ハデスIVだった。
駆けつけたIVは言った。「プロメトリックは私が抑える。君は早く人々に救いの手を」――俺はその言葉に従った。
知っての通り、未熟な新人だった俺を神器に認められるまで育ててくれたのはハデスIVだった。だから信じられた。
……俺は甘すぎたんだ。あの人の覚悟に、気づきもしなかった。
周辺の町を襲うヴィランの掃討は、速やかに終わった。被害は出たが、多くの人を救うこともできた。
だが、浮かれた気持ちでオリュンポリスヘと戻った俺を待っていたのは――
正気を失い、敵味方の区別なく襲いかかるハデスIVの姿だった。
ヘカテー。その身に狂気の神を宿し、代償として命を失うハデスヒーロー最強の技。IVはそれを使ったんだ。
思えば、俺を送り出した時からそのつもりだったんだろう。IVがプロメトリックと渡り合うには、それしかなかったんだ。
それを利用された。ヘカテーの狂気を宿したIVを、プロメトリックはなんらかの方法で暴走させたんだ。
俺の目の前で、IVは逃げ惑う市民に襲いかかろうとしていた。
――IVは家族と市民をだれよりも愛していた。あの事変の数日前に飲んだ時も、6歳になったという娘の自慢話ばかりをしていた。
そんなIVが、愛する市民を手にかけることなど、自分に許すはずがない。
殺したんだ。生涯の友を、エウブレナの父親を……俺は、この手で殺したんだ。
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君の勘が危険を囁いた。とっさに全力で障壁を張る。
音速の銃弾が弾かれたのは、その直後だ。
もっとも、僕はできる男だからね。せっかくお会いできたついでに、君たちも片付けることにするよ!
ヘパイストスXIの指が銃爪に伸びる。まずい、と君は思った。自分は障壁で守れるがエウブレナとネーレイスが危ない。
輝く布が、ひらりと舞う。銃弾は吸い寄せられたようにその布に当たり、はらりと落ちた。
けど、裏切り者を始末するチャンスを逃すほど、あーしは甘くないんだよね!
新人ちゃんたち!いっしょにやるよ!合わせな!
***
はい!ネーレイス、合わせて!
あらゆるものの恋心を操る魔法の宝帯〈ケストス〉。それがアフロディテIXの神器である。
その力は、武器防具までをも魅了し、限界まで能力を飛躍させる。
出現した水壁を撫でるように輝く布が舞うと、ー瞬にして数倍に強度が増し、放たれた銃弾をすべて弾き返した。
うなずき、君はカードを構える。力を解き放て……超越の金剛龍――インフェルナグ!
放たれた雷撃は輝く布が舞った瞬間、幾倍にも力を増して敵へと襲いかかる。その威力は、放った君がおどろくほどだった。
だが当たる寸前、飛び出してきたマシンセントールが身代わりとなり、ヘパイストスXIは無傷だった。
その言葉を言い終わる頃には、ヘパイストスXIは姿を消していた。
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「あれ?ここは……。」
「よう、目は覚めたか?
……ってのも変な話か。こいつは夢だからな。」
「あ、これ夢なんだね。どうりで見覚えがない場所だと思ったんだ。で、だれですか?」
「はじめまして……って、これも変な話だな。お前さんとオレは、初対面つちや初対面だが、よく知ってるっちゃよく知ってる仲だ。」
「いや、全然知らんです。」
「ハハハハハハハ!だよな!
なあ、アレイシア。お前さんはこれからちっとぱかしショックな話を聞くかもしれねえ。けどな……。
できたらアイツを嫌わないでやってくれ。」
「アイツって、ドイツでしょうか?」
「じゃあな。会える時を楽しみにしてるぜ。遠くないだろうしな。」
「あ、ちょっと!一方的過ぎだぞ!おーい!うおおおおおおおおい!」
***
あれ?ここどこ?
ようこそ、アレイシア君。去りし神々の都――アトランティスヘ!
***
ポセイドン区――大いなる海神、ポセイドンの名を冠するこの地区は、海に面している。
そこから数マイル離れた沖の海底に、ひとつの遺跡があることが、近年の調査で明らかになった。
海に沈んだ伝説の都市、アトランティス。遺跡はそう呼ぱれたが調査は捗らなかった。謎の力が侵入を阻んでいたからだ。
考古学者どもは実験を強く主張したが、英雄庁は失敗したときのことを考え、首を縦に振らなかった。
が、仮説は正しかったってわけだ。観測していた力の推移を見れば、XIが神器をぶっ放して入ったのがわかる。
英雄庁の最長老、ポセイドンⅡが現場に立たなくなって久しい。
老いによるためとも、親友であったハデスIVを亡くしたショックのためとも言われているが、真相を知る者は少ない。
ヴィランの襲撃により、自らの区が大混乱に陥ったいまも、ポセイドンⅡは座したまま部下に指示を出すだけだ。
愛娘が姿をあらわしたのは、そんな最中だ。
開ロ一番、そう言った愛娘に、ポセイドンⅡはおどろいた。
ポセイドンⅡのひとり娘は、甘やかされてワガママに育った、と噂されているのは知っている。だが、実際は逆だった。
愛娘は気高く育った。育ちすぎて、頼みごとが下手だった。なんでもできると意地を張るばかりだった。
そんな娘の願い事など、何年ぶりかのことだったのだ。
口早に、何度も舌を噛みながら事情を説明した愛娘は、下唇を噛みながら頭をさげる。
少し見ないうちにずいぶんと変わったね、と声をかけると、愛娘は震える声で言った。
思い知ったのです。わたくしは弱い。力も心も、ナンバーズは愚か、ヴァンガード隊のだれよりも劣っている。
けれども、エウブレナがアレイシアを助けたいと願うなら、わたくしはそれを助けたい!わたくしもだれかの力になりたいのです!
子供は少し目を離すと、すぐに成長する。それを促したのがハデスIVの娘だとするのならば、時が来たのだろう。
そう思ったポセイドンⅡは、愛娘の手にひとつの小さな包みを握らせ、行きなさい、と告げた。
ポセイドンⅡは笑う。娘の願いを断れる父親など、この世のどこにもいない。どれほど強い英雄だとしても。