【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story4
story
状況は、絶望的というほかなかった。
プロメトリックにより漆黒神器を与えられ、自我を失ったヴィランはー斉に巨神となり、オリュンポリスの全地区で暴れだした。
無論、英雄庁は最大レベルのエマージェンシーを発動。全ヒーローが事態の鎮圧に当たったが――
全部隊でほぼ同時に人造神器の暴発や故障などのトラブルが頻発。さらに各地で機械が暴走を開始。
人造神器の全てを知り尽くした工学者、ヘパイストスXIの仕込みだとすぐに判明したが、天才の工作を破ることができずにいる。
事態を収めるべきゴッド・ナンバーズはアテナV11、ヘパイストスXIが裏切り、アポロンVIは敵にやられ行方不明。
欠番のIVとXIIを合わせおよそ半数のナンバーズが不在となった英雄庁は、残りのヒーローで迅速な立て直しを図るが……。
ちゃけ、参ってんのよね。ⅢとVは後方支援が専門。Ⅱは半隠居。Xは連絡がつかず、Ⅰはいうこと聞きゃしない。
で、Ⅷとあーしがあちこち回んなきゃならないわけ。だからあーたたちは自分でなんとかして欲しい感じ。じゃね~。
アフロディテIXは軽い口調でそういって消えたが、その瞳には静かな怒りが燃えていた。
×××××××!完全にしてやられた!
君たちはなんとかヴァンガードの本部に撤退していた。ゾエルは苦虫をドカ食いしたような顔をしている。
急に通信がつながらなくなってなんの障害かと思えばヘパイストスXIの工作かよ。厄介すぎんだろ。
ハルディスが少数だけ用意できた特殊端末で、ヴァンガード隊の通信網は確保できたが、正規部隊は連絡手段を断たれ危機に瀕している。
まさか店長がプロメトリックだったなんて……。早くアレイシアを助けに行かないと!W・でも、どこにいるかわからないことには助けようがありませんわ。
でも、どこにいるかわからないことには助けようがありませんわ。
その辺はアタシが探っとく。魔法使い。悪いがエウブレナたちを連れてアポロン区へ行ってくんな。
アポロンフォースはトップを失い、統率の欠けた状態で渦中に叩き込まれた。手助けが必要だ。
それに、ヴァッカとVIはたぶん。アポロン区まで吹っ飛ばされている。探さにゃなんねえ。生きてるか知らねえがな。
ハルディス。アンタはここでXIが仕掛けた工作の解析に専念しな。
ひ、ひひ、簡単に言ってくれるよなあ。やるしかねえけどよ。
コリーヌ、お前はアタシについてこい。
了解っす!ボスはウチが守るっすよ!
いいかテメエら、ここが正念場だ。自由に動けるヴァンガード隊の真価が問われてんだ。気合入れてけよ!
ヴァンガード、スクランブルだ!
***
これが……あのアポロン区?ひどい……。
こんなの……わたくしたちだけでどうにかできるような状況ではありませんわ。
それでもやるしかないよ、と君はカードを構える。ひとりでも多くの人を救うために。
***
う……く……ここは……。
目覚めたかい?VIIとXIの必殺技を両方喰らったのに、タフだねえ。
貴様……ヴァッカリオ!どうして……。そうだ!オリュンポリスはどうなって……!クッ!
あわてないあわてない。いくらお兄ちゃんでも、もうちょっと回復しないことにはただの足手まといにしかならないって。
……貴様はなにをしていた……!
おいらだって療養中だよぉ。VIIったらいきなり全力だもん。ホントに空気読まないね~。大変だ、こりゃ。
そうではない!貴様はこれまでずっと、なにをしていた!
え、ちょっと、お兄ちゃん。いま話すことじゃないでしょ?落ち着こ、ね?
なぜ堕落した!なぜ戦わない貴様とてヒーローだろう!
10年前……あのティタノマキア事変でいったいなにが起きたのだ!
我が同志ハデスIVは死に、我が弟は堕落した。その理由を英雄庁もお前も語ってくれない。
そこまでの犠牲を払い倒したはずのプロメトリックは復活し、いま最悪の事態が起きている。なぜこのようなことになったのだ――
……。
なぜ……なにも語ってくれぬのだ……。
お兄ちゃん……泣いてる?
お前は私の誇りだったのだ……。お前とふたりならいつまででもこの街を守っていけると思っていた。だというのに……。
参ったなあ。お兄ちゃんって、昔からこういう時に男泣きするんだもん。ずるいよ。
わかったよ。こんな事態だ。英雄庁も許してくれるだろうしね。 ――教えるよ。10年前のあの時、なにが起きたのかをね。
***
君たちは暴走する巨神ヴィランと機械に満ちたアポロン区を進んでいた。
こ、これ……数が多すぎますわキリがありませんの!
ネーレイス!あまり前に出ないで魔法使いさんを中心に動くのよ!
あーもう、暴力反対!ディベートでバトルして欲しいですわ!
そしたらまたネーレイスが秒で負けるにゃいまの方がまだマシにゃ!
そんなことありませ……ひゃあ!
ネーレイス!大丈夫!?
あなた、元気ね……。なんでこんな事態にそんな前向きでいられますの?
決まってるじゃない。アレイシアだったら、この程度じゃ絶対に諦めない!さあ、みんな!行きましょう!
***
ティタノマキア事変――あの時、俺はプロメトリックと相対した。だが、奴とすぐに戦うことはできなかった。
奴の放ったヴィランが、オリュンポリス周辺の町や村を襲撃し始めたからだ。
オリュンポリスの混乱の中、英雄庁が他の町に救援を出す決定をするわけがない。俺が行くより他になかった。
だが、目の前のプロメトリックを放っておくわけにもいかない。どうすべきか迷った俺の背を押したのは――ハデスIVだった。
駆けつけたIVは言った。「プロメトリックは私が抑える。君は早く人々に救いの手を」――俺はその言葉に従った。
知っての通り、未熟な新人だった俺を神器に認められるまで育ててくれたのはハデスIVだった。だから信じられた。
……俺は甘すぎたんだ。あの人の覚悟に、気づきもしなかった。
周辺の町を襲うヴィランの掃討は、速やかに終わった。被害は出たが、多くの人を救うこともできた。
だが、浮かれた気持ちでオリュンポリスヘと戻った俺を待っていたのは――
正気を失い、敵味方の区別なく襲いかかるハデスIVの姿だった。
ヘカテー。その身に狂気の神を宿し、代償として命を失うハデスヒーロー最強の技。IVはそれを使ったんだ。
思えば、俺を送り出した時からそのつもりだったんだろう。IVがプロメトリックと渡り合うには、それしかなかったんだ。
それを利用された。ヘカテーの狂気を宿したIVを、プロメトリックはなんらかの方法で暴走させたんだ。
俺の目の前で、IVは逃げ惑う市民に襲いかかろうとしていた。
――IVは家族と市民をだれよりも愛していた。あの事変の数日前に飲んだ時も、6歳になったという娘の自慢話ばかりをしていた。
そんなIVが、愛する市民を手にかけることなど、自分に許すはずがない。
だから、俺が止めた。……いや、いまさら言葉を飾ってもしょうがないな。
殺したんだ。生涯の友を、エウブレナの父親を……俺は、この手で殺したんだ。
story
君の勘が危険を囁いた。とっさに全力で障壁を張る。
音速の銃弾が弾かれたのは、その直後だ。
いい勘してるじゃない。なかなかの経験を積んでいるようだ。
ヘパイストスXI……!私たちを始末しに……!
自意識過剰だよお?君たちなんて放っておいても問題ないさ。探しているのはVIの死体だよ。
もっとも、僕はできる男だからね。せっかくお会いできたついでに、君たちも片付けることにするよ!
ヘパイストスXIの指が銃爪に伸びる。まずい、と君は思った。自分は障壁で守れるがエウブレナとネーレイスが危ない。
エンチャント・エロス。
輝く布が、ひらりと舞う。銃弾は吸い寄せられたようにその布に当たり、はらりと落ちた。
おやおや、忙しいだろうに過保護だねえ。そんなにこの子たちが大事なのかい?ヒーローが依怯晶厦はよくないよお?
あーしの目的はあーたとおんなじ。VIだっての。ここで会ったのはぐーぜん。
けど、裏切り者を始末するチャンスを逃すほど、あーしは甘くないんだよね!
新人ちゃんたち!いっしょにやるよ!合わせな!
***
束になって襲ってきても無駄だよお。全部撃っちゃえばいいんだからねぇ!
エウブレナちゃん、ネーレイスちゃん、アケローンを。
で、でもあれでナンバーズの攻撃を防げるとは……。
いーから早く!
はい!ネーレイス、合わせて!
人造神器、連結起動!
アケローン!
上出来よ。エンチャント・エロス!
あらゆるものの恋心を操る魔法の宝帯〈ケストス〉。それがアフロディテIXの神器である。
その力は、武器防具までをも魅了し、限界まで能力を飛躍させる。
出現した水壁を撫でるように輝く布が舞うと、ー瞬にして数倍に強度が増し、放たれた銃弾をすべて弾き返した。
魔法使いちゃん!いまよ!
うなずき、君はカードを構える。力を解き放て……超越の金剛龍――インフェルナグ!
エンチャンドタナトス!
放たれた雷撃は輝く布が舞った瞬間、幾倍にも力を増して敵へと襲いかかる。その威力は、放った君がおどろくほどだった。
あっぶないなあ。そんなことすると死んじゃうよぉ?
だが当たる寸前、飛び出してきたマシンセントールが身代わりとなり、ヘパイストスXIは無傷だった。
やめた。帰るよ。弱い者いじめしょうと思ってたのに、武闘派のIXが相手じゃやってられないよ。
その言葉を言い終わる頃には、ヘパイストスXIは姿を消していた。
あーし、嫌いなのよね。
え、なんの話ですか?
カートゥーンやコミックでもさ、すぐにああやって消えるでしょ?ヴィランってインチキかよ。やるだけ無駄じゃん。
いいや、そうでもないぜ、IX。いまので掴めた。
ボス?掴めた、というと……。
奴らのヤサだ。ある程度、絞り込めてたんでね。XIの退却に合わせて網を張ったら、ヒットだ。
ど、どこなんですの?
それは――
story
「あれ?ここは……。」
「よう、目は覚めたか?
……ってのも変な話か。こいつは夢だからな。」
「あ、これ夢なんだね。どうりで見覚えがない場所だと思ったんだ。で、だれですか?」
「はじめまして……って、これも変な話だな。お前さんとオレは、初対面つちや初対面だが、よく知ってるっちゃよく知ってる仲だ。」
「いや、全然知らんです。」
「ハハハハハハハ!だよな!
なあ、アレイシア。お前さんはこれからちっとぱかしショックな話を聞くかもしれねえ。けどな……。
できたらアイツを嫌わないでやってくれ。」
「アイツって、ドイツでしょうか?」
「じゃあな。会える時を楽しみにしてるぜ。遠くないだろうしな。」
「あ、ちょっと!一方的過ぎだぞ!おーい!うおおおおおおおおい!」
***
うおおおおおおおおおおおおお!
あれ?ここどこ?
やあ、お目覚めかい?寝顔も良かったが、やはり君は起きている方がずっと魅力的だね。
店長……!
話したいことは山程あるのだが、まずは歓迎の言葉を。
ようこそ、アレイシア君。去りし神々の都――アトランティスヘ!
***
ポセイドン区――大いなる海神、ポセイドンの名を冠するこの地区は、海に面している。
そこから数マイル離れた沖の海底に、ひとつの遺跡があることが、近年の調査で明らかになった。
海に沈んだ伝説の都市、アトランティス。遺跡はそう呼ぱれたが調査は捗らなかった。謎の力が侵入を阻んでいたからだ。
アトランティス遺跡に入る方法に、ひとつの仮説があがっていた。神器のフルパワーをぶつけることだ。
考古学者どもは実験を強く主張したが、英雄庁は失敗したときのことを考え、首を縦に振らなかった。
が、仮説は正しかったってわけだ。観測していた力の推移を見れば、XIが神器をぶっ放して入ったのがわかる。
じゃあ、アレイシアを助けに行くには、神器の持ち主を海底に連れていって、使ってもらえばいいにゃ。
無理を言わないで。この混乱よ?ゴッド・ナンバーズが街を離れるわけがないわ。
……わたくしに任せてちょうだい。なんとかしてみせますわ。
英雄庁の最長老、ポセイドンⅡが現場に立たなくなって久しい。
老いによるためとも、親友であったハデスIVを亡くしたショックのためとも言われているが、真相を知る者は少ない。
ヴィランの襲撃により、自らの区が大混乱に陥ったいまも、ポセイドンⅡは座したまま部下に指示を出すだけだ。
愛娘が姿をあらわしたのは、そんな最中だ。
お父様、お願いがございます。お力をお貸しください。
開ロ一番、そう言った愛娘に、ポセイドンⅡはおどろいた。
ポセイドンⅡのひとり娘は、甘やかされてワガママに育った、と噂されているのは知っている。だが、実際は逆だった。
愛娘は気高く育った。育ちすぎて、頼みごとが下手だった。なんでもできると意地を張るばかりだった。
そんな娘の願い事など、何年ぶりかのことだったのだ。
口早に、何度も舌を噛みながら事情を説明した愛娘は、下唇を噛みながら頭をさげる。
ポセイドン区を守るお父様の使命は重々承知しております。けれども、アレイシアを助けるチャンスを下さいまし!
少し見ないうちにずいぶんと変わったね、と声をかけると、愛娘は震える声で言った。
思い知ったのです。わたくしは弱い。力も心も、ナンバーズは愚か、ヴァンガード隊のだれよりも劣っている。
けれども、エウブレナがアレイシアを助けたいと願うなら、わたくしはそれを助けたい!わたくしもだれかの力になりたいのです!
子供は少し目を離すと、すぐに成長する。それを促したのがハデスIVの娘だとするのならば、時が来たのだろう。
そう思ったポセイドンⅡは、愛娘の手にひとつの小さな包みを握らせ、行きなさい、と告げた。
これは……もしかして?お父様、わたくしの願い、聞いて下さいますの?
ポセイドンⅡは笑う。娘の願いを断れる父親など、この世のどこにもいない。どれほど強い英雄だとしても。