【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story3
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あれ~?ねえ店長~。パワフルワンないんだけど、売り切れ~?
はい、あれ、あんまり仕入れてないんですよ。全然売れないので。
うそお?あんなにおいしいのに?
度数がきつすぎて、まともな方は飲まれないんだと思います。というか、あなた以外に買っているお客様はいません。
あ、そう?おかしいな~。でもさ、店長、仕入れもするようになったんだね。
私もこのお店で働きはじめてから、短くありませんので、任されてしまいました。
ま、そうだよねえ。いつからだっけ?アレイシアがヒーロー研修のために、この辺りに引っ越してきた直後ぐらいからだっけ?
あははは。そうでしたっけ?よくわかりません。
店長さ、この仕事、好きでしょ?いつまでもこんな生活が続けばって思ったりしない?
はは、どうしたのですか、急に?
おいらは店長とのいまの関係、わりと気に入ってるって話。
ありがとうございます。けど、私もいい歳ですからいつまでもアルバイトというわけにはいきませんよ。
やりたいこともありますしね。
……あっ、そう。そりゃ残念。んじゃ、今日は帰るわ。パワフルワン、入荷したら教えてね。
ありがとうございました~。次はなにか買っていってくださいね。
***
お、アレイシアたちの最新情報だ。なになに、ヴィランを追ってアテナ区へ?うえ、よりによってそこお?
やっぱおいらも行かなきゃなんないよなあ。やれやれ、お兄ちゃんの機嫌。よければいいんだけど。
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君たちはヴィランを追ってアテナ区へと移動していた。
エウさん、アテナ区って確かヒーローの能力制限がゆるい地区だったよね!?
ええ。ヒーローなら速度制限、跳躍制限、飛行制限が免除されていて、業務上の器物損壊も多くの部分が不問にされているはずよ。
あ、待って。いま今回のヴィラン追跡に対する特別制限の変更が通達されたわ。えーと……うそ、神器使用が無制限!?
アレイシア、英雄庁に神器使用の許可を取ってみて!
やったことないけど、できるのかなあ……。アレイシアより英雄庁へ。神器使用を申請します。
『承認。神器の使用を許可する。』
おお、ホントだ!よっしゃあ起きたらんかい神器!ヒーローの時間じゃあぁぁぁぁぁ!
あ、ちょっと、先走らないでってば!アテナ区はアテナ区で気をつけなきゃいけないことがあるんだから!
エウブレナ、魔法も使って大丈夫にゃ?
ええと……禁止項目にはないから大丈夫のはずよ。
君はウィズとうなずき合い、よーし、魔法使いの時間だあああと叫びながら、駆け出した。
あの子のテンション、伝染るのかしら……?
あーもう!ヒーロー・パンクラチオンにだけは気をつけなさいよ!
***
***
ヴィランの姿を探し、アテナ区を移動する君たちの前に、ふいに人影があらわれた。
おやおや、どなたかと思えば、ヴァンガードの諸君じゃないか。ごきげんよう。
レプリ・パンドラ人造神器マスター!お、お初にお目にかかります!ヴァンガード所属、ハデスD962と申します!
そぉんな固くならないでよお。老人扱いされてるみたいで落ち込んじゃうからさあ。
だれだろう、と君が思っていると、相手は仰々しい仕草で帽子をとり、丁重な礼をした。
はじめましてかな?僕はアイスキュロス。見ての通りただの強くてイケてるおじさんさ。たまにヘパイストスXIとも呼ぱれているけどね。
君が自己紹介を返そうとすると、ヘパイストスXIは帽子を左右に振った。
あ~結構だよ。僕は忙しいからね。つまらない相手は名前も素性も覚える気がしないんだ。
それに、今回の僕はただの見届け役。主役は彼女だからね。
XI。くだらぬ話をしたいなら置いていくぞ。
場のすべてを凍りつかせるような冷たい声音と鋭い視線。それは戦場に吹く風を思わせた。
うおお……アテナVIIさん正々堂々勝負じゃの!
勝負?なにを勘違いしている。私が出る以上、貴様らにチャンスなどない。
自信に満ちた言葉に、それほどの実力者なのだろうかと思い、君は隣のエウブレナに聞く。エウブレナはハッキリとうなずいた。
強いわ。戦女神アテナの名に恥じない方よ。けど、強さ以上にあの方はなんというか……アレイシアと真逆なのよ。
真逆とはどういう意味だろう、と君が思っているうちに、アテナⅦはそのまま去ろうとする。
アテナⅦさん!おんしはたいしたヒーローじゃ!けんどワシも正義の心はだれにも負けん!
ほう。私よりも、正義の心が勝る、と。それは神の名にかけて誓えるか?
誓えるぞ!オリュンポスの神々の名にかけて!心だけはだれにも負けんのじゃああああ!
いけない、アレイシア!その言葉はヒーロー・パンクラチオンの……!
え?……あ!?
聞いていたな、XI。立会人を頼む。
はいはい、了解ですよ、っと。
善良なるアテナ区の市民の皆々様に、新たなるヒーロー・パンクラチオンの開催をお知らせするよ。
朗々と響きわたるその声への反応は劇的だった。街のそこかしこにある巨大なモニターがー斉にアレイシアとアテナVIIを映し出す。
対戦カードは――我らがアテナⅦVS期待の新星アレイシア!さあさあ、お立ち会いだよ。
周囲の建物という建物の扉と窓がひらき、何百人もの人間が姿をあらわす。いずれのまなざしも、期待に満ちている。
い、いったいなにごとにゃ!?ヒーロー・パンクラチオンってなんにゃ!?
ここは戦女神であるアテナ神を奉じる地区。そのため、ヒーロー同士の試合が推奨されているのよ。
それが栄誉ある戦い――ヒーロー・パンクラチオン。
いまはそんなことをしている場合じゃないにゃ試合なんてやめるにゃ!
無理ですわ。あの子はアテナVII様に向かって、自分の方が優れていると言った。しかも神に誓って。
看過すれば敗北を認めることになりますわ。ヒーローの誇りにかけて、そんなことは許されません。
手早く終わらせるとしよう。アテナⅦより英雄庁へ。神器の使用許可を。
『承認。神器の使用を許可する。』
了解。覚醒せよ、神器。起動せよ、人造神器。
アテナⅦからエネルギーが斑る。それは先に見たアポロンVIに勝るとも劣らぬほどの、圧倒的な神の力だった。
ナンバーズと……トップヒーローと試合こんないきなりなんて……。
燃えてきたああああああああ!いくぞ、アテナⅦさああああああああん!
安心しろ。命までは取らん。ただお前の心に刻みつけるだけだ。私の強さと、正義への想いをな!
***
アテナⅦは強かった。
うおらっしぇいいいいいいいいい!
無駄だ。
アレイシアの槍を防ぎ、拳をかわし、ドロップキックを避けざま、斬撃を叩き込む。
その動きにはー切の無駄も躊躇もない。戦いの教科書とでも言いたくなるような、冷静で堅実な戦い方だ。
さすがじゃのお!ほんならこれじゃあ!せいいいいいいいいいいいいい!
無駄だと言っている。
アレイシアが全力で投げ放った槍が、難なく盾に弾かれ、地に落ちる。その守りの硬さは卓越していた。
アテナ神の神器、〈アイギスの盾〉さ。世界最強の防具だよ。どんなヒーローだって、アレばっかりは砕けねえ。
だらんぱああああい!ほなら拳で語り合うだけじゃのお!アルティメット・ナックル……!
断る。グラウクス。
突進するアレイシアをひらりとかわし、アテナⅦは剣を振る。切り裂かれた宙から、羽根が舞い散り、アレイシアに襲いかかる。
うおおおおおお!ちょっと痛いけど、そんな小細工、効かんぜよおおおおお!
それは良かった。
アテナⅦの剣が背後からアレイシアを襲う。羽根の嵐にまぎれて移動していたのだ。
どわあ!マント君、ナイスガード!
確かに、アテナⅦは強い。だが、それ以上に――と君が思っていると、師匠がこくりとうなずいた。
アレイシアの調子がおかしいにゃ。いつもならもっとパワフルにゃ。
やっぱり……アレイシアにとってアテナⅦ様は、相性最悪の相手なのよ。
どういうことにゃ?
研修中によく戦っていた私にはわかるわ。アレイシアと戦っていると、気がつくとあの子のペースになっているの。
いままでのヴィランも、あの子のフルパワーと正面からぶつかって敗れてきたわ。
けど、アテナⅦ様は違う。あの方の戦い方はアレイシアの真逆――相手の強さを引き出さない戦いなのよ。
アテナⅦはただ淡々と自分のリズムで戦いをこなす。相手のリズムを狂わせる。そうして最少の力で戦いを制す。
要するに――アテナⅦは空気を読んでいなかった。
負ける正義に意味はない。ゆえに負けぬことが我が正義の心の証明だ。理解したか?
まだじゃあ……まだワシは負けちょらん!負けても勝つのが正義なんじゃあああああ!うおおおおおおおおお!
おぉ……お?
突然、アレイシアがガクリと片膝をつく。またエネルギー切れだ。
いつもなら君が魔力で補充するところだが、これは1対1の試合。手出しはできない。そう思っている内に――
トン、と。輝く剣がアレイシアの首に添えられた。
終わり、でいいな。
「「「アテナⅦ!アテナⅦ!アテナⅦ!アテナⅦ!アテナⅦ!アテナⅦ!」」」
ま、まだじゃあ……まだワシは……。
ダ~メダメ~。ほら、見てみなって。
ヘパイストスXIの指差す先で、巨大モニターにアテナⅦの顔が映り、彼女を称える言葉が並んでいた。
市民はもう勝者を決めてしまった
どういう意昧にゃ?
パンクラチオンはただの戦いじゃねえ。観客の大半が勝ちって思ったら、そいつが勝ちなんだよ。
強さだけではなく、どれだけ市民に支持されているかが勝負を決める……。それがヒーロー・パンクラチオンなのよ。
わかってるよね?それとも、こんな遊びじゃなくて、ヒーロー同士の殺し合い、市民に見せたい?
そ、そんなこと……あるわけないけど……。
じゃ、いいじゃないの。どうせこれは余興。なんの意味もない試合なんだからさあ。
終わりだ。私は行く。XI、遊びたいなら置いていくぞ。
はいはい、いま行きますよ。ネルヴァちゃんてばせっかちなんだからあ。でも、そういうとこも素敵だと思うよ?
市民たちの大歓声を受けアテナⅦは去っていく。その背がー瞬だけ立ち止まり、つぶやいた。
アレス零――この程度か。
それきり、すべての興味を失ったというように、ー度も振り返ることなく、大通りの向こうへ姿を消した。
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つっよいなあ、アテナⅦ!知ってたけど!あ、魔法使いさん、回復ありがとうございます。
そりゃ強えよ。10年前にディオニソスXIIが失踪してから、だれが最強のヒーローかはよく議論されてるけどさあ……。
必ず候補に挙がるのがアテナⅦとアポロンVI。単純な戦闘能力ならアテナⅦが有利とも言われていますわね。
神器を覚醒させながら、同時に人造神器も起動させる。そんなことができるヤベエ奴はアテナⅦくらいだもんなあ。
わかっていない者が多すぎますわね。最強はお父様に決まっていますのに。
ひひ、ポセイドンⅡはイカしてるけどさ、さすがに歳が歳だろ?半分引退してるようなもんだしさあ。
し、失敬ですわ!お父様はまだまだ現役です!
そんなふたりの会話に参加もせず、アレイシアはなにかを考え込んでいる。どうしたの?と君は声をかけた。
う~ん、なんでもないけど……。この力――アレスって、結局なんなんだろって思って。
この世界の神の力ではないの?と君が訊ねると、エウブレナは複雑な顔をして君に説明をした。
多分そう……なんだけど、よくわからなくて。
神話還りは神話の神や英雄の力を持っている。その中でももっとも力が強いのが12神と呼ばれる神の神話還りだ。
アレイシアが言うには、彼女の神の力はアレスだというのだが……。
そんな神様が、いないにゃ?
ええ。少なくとも文献や伝承にはアレスなんて神の話は残っていないわ。
別の神様と間違えてる可能性はどうにゃ?
それはないぞ。この力に目覚めた時に、ハッキリとわかったんだ。「ボクはアレスだ!」って。
そういえば、さっきアテナVII様が去っていく時、アレス零ってつぶやいていたわね。関係あるのかしら。
アレス零ってのは、アレイシアのコードネームだよ。
隊長!本部で待機していたのでは?
アテナ区に入ったって聞いて心配でね。パンクラチオンになる前に止めようと思ってさ。
思いっきり手遅れ……役立たずですわ。
最近の新人はみんなキツイねえ。ま、いいや。――アレイシアの力は、これまで確認されたどの神話特性とも違う。
そのくせ、パワーだけは明らかに12神のトップヒーローに並ぶ。おかげで英雄庁も頭を悩ませていてね。
それでコードネームをつけたのさ。存在しないはずのナンバーズ、零。アレス零ってな。
は、初耳ですわ、そんなの。
そりゃそうだ、機密だもの。あ、おいらから聞いたって言っちゃダメだからね。
隊長……そういう機密に触れられるポジションだったんですね。
ま、そんなわけだ、アレイシア。お前さんの力についちゃ、英雄庁ですら把握できちゃいない。あまり気にするな。
……ウン、わかった。いまはヴィランに集中する。よっしゃあああ!いくぞおおおお!ヴィランはどこじゃあああああい!。
あ、ちょっと待ちなさい!さっき負けたばかりなんだから、ひとりで先行しないで!
***
***
歓声が聞こえた。大通りの左右に、民衆が整然と並び、ひとつの名を呼んでいた。HERO of HEROESの名を。
「「「アポロンⅥ!アポロンⅥ!アポロンⅥ!アポロンⅥ!アポロンⅥ!アポロンⅥ!」」」
彼の通るところに人垣ができ、彼の声にだれもが耳を澄まし、彼の視線をだれもが求め、彼の庇護をだれもが信じている。
それはまさしく天の太陽を仰ぐのに等しい、無条件の信頼と崇拝のあらわれであった。
彼もまた、暖かな眼差しを人々に向け、柔らかな言葉で声援に応えていたが、その眼尻が、ふいに鋭くなる。
酒精の不浄な臭いがすると思えば……。そこにいるな、ヴァッカリオ。
うえ、見つかった。しょうがないなあ……。ども~、こんにちは~。元気してた?
昼間から酔っているな、この愚か者め。いや、醒めていても愚かなのは変わらぬか。なにをしに来た?
なにって、だって勝負してるじゃないの。ウチと、お兄ちゃんたちとでさ。負けられないからねえ。
ハッハッハ、あまり笑わせるな。堕落した貴様が出来損ないの部隊を率い、私に先んじてヴィランを捕まえられる、と?
おいらはともかく、部下は優秀なんでね。意外といけるんじゃないかなって思ってるんだわ、アポロニオお兄ちゃん。
汚物が人の名を気安く呼ぶな!
物理的な衝撃をともなうぽどに鋭い罵声を、ヴァッカリオはへらへらと笑って流す。だが――
ヴァカ隊長をバカにするなあああああ!
アポの人!確かにぬしゃあぽっけえヒーローじゃ!
アポの人?ちょっと待て!それはまさか私のことか!?
けんど隊長をバカにするっちゅーことは、ワシらをバカにするっちゅーことじゃ!
ちょっ、アレイシアさん?おいらのことはいいから……。
だっしゃしょかあああああ!こいはもう他人事じゃなか!アポの人!これ以上隊長を侮辱するなら……。
……するならどうだというのだ?私は真実を告げているまで。前言を覆すつもりは毛頭ない。
決まっとるじゃろがあ!わかり合えるまで拳のぶつけ合いじゃあ!
その挑戦、受けよう。IX。
あ、と君が思った時には遅かった。高層ビルの屋上から、アフロディテIXがふわりと舞い降りてくる。
そマ?あーし、余計な仕事はしたくないんだけど。
なんのためのジャッジだ。IXの数字を背負う者の責務を果たせ。
VIちゃん、学生のころ、ぜったい生徒会長してたでしょ?
やっていたが、それがどうした?
真面目に答えてるし。そういうとこだよ?ま、いっか。そんじゃ市民のみんな~、ヒーロー・パンクラチオン、始めるよ~。
対戦カードは~、ぎゃんかわアレイシアちゃんVSみんなの生徒会長アポロンVI。
おいおい、アレイシア。お兄ちゃんの相手は無理だってば。どうやったって勝てやしない!
はい、準備はできた?それじゃ、試合開始~。
しゃあ!ヴァカ隊長に謝らせちゃるけんのお!
ヒーローの神髄を見せてやろう。来い。
***
試合開始が告げられた後も、アポロンVIは何事もなかったかのように、悠然と立っていた。
どうしたんじゃ?神器は使わんのか?
ヒーローの力は天より与えられしもの。必要以上に使うものではない。
ほんなら、必要と思わせるだけじゃあああ!
アレイシアは槍を構え、前方に駆ける。巨神すらもひるませる必殺のー撃がアポロンVIに襲いかかった。
どっせぇぇぇぇぇぇぇぇい!
だがアポロンVIはわずかに身を逸らして、それを躱す。両者の距離が、格闘の間合いとなる。
やった!遠距離ならアポロンVI様の圧倒的な有利だけど、接近戦なら!
ドつき合いなら、ワシのもんじゃあああい!
アポロンVIはそれを片手で捌いた。
遅いな。
まだまだぁ!!
アレイシアは拳を、蹴りを、止めることなく矢継ぎ早に放つ。しかし、アポロンVIは顔色ひとつ変えることなく、あるいは躱し、あるいは捌き、剛力を受け流す。
巧い、と君は思った。アレイシアの攻撃は見た目ほどには雑ではない。アポロンVIが巧みすぎるのだ。
単純な力や速さではない。実戦の積み重ねによってのみ得られる歴戦の巧妙さが、あらゆる動きに垣間見える。
気持ちが足りんかぁ。ほならこれで……どがいぜよぉ!
アレイシアはガードを捨て、さらに踏み込み肘。――を防がせて、ガードに下げさせてからの、天を衝くようなアッパーカット。
アポロンVIはそれを難なくガード――というよりはその力に乗って跳躍し、宙で両手を合わせた。
双掌が狙いを定めるのは――アレイシアの頭部。
ヒュペリオン・レイ。
次の瞬間、アレイシアを襲ったのは烈しい閃光。太陽を直接見てしまった瞬間の衝撃を万倍にも濃縮させたような光条だった。
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
アレイシアのマントが咄嵯に動き、直撃は防ぐ。だがそれでも、衝撃は肉体を貫き、近くの壁にまで押し込まれた。
や、やるのぉ……。じゃが、勝負はこれから……。
はい、そこまで。アレイシアちゃんの負け。
な、なんで!ボクはまだ……!
なんでって……アレアレ。
アフロディテIXの指差した先――そこには市民に囲まれ、大歓声を浴びるアポロンVIの姿があった。
「さすがアポロンVI様!お見事でした!」
「絶対に勝っと信じていました!」
頭上の巨大モニターでは、大きく映されたアポロンVIの顔が、きらきらと輝いている。――WINNERの文字とともに。
ま、まだ勝負は始まったばっかなのに……。
だーって、VIって市民人気最強だもん。パンクラチオンじゃ無敵よね。ちょっと優勢になったらそれで勝負ついちゃう。
アレイシアとて、市民に支持されていないわけではない。彼女の戦いを見たものは、その姿勢に魅了され、彼女の名を呼んだ。
だが、いくつものルールを破り、公にできない戦いを繰り返すヴァンガードの存在は、現場に立ち合った人間にしか認知されていない。
対して、英雄庁の顔として長年活動を続けているアポロンVIは、オリュンポリスで知らぬ者がいないと言われるほどのヒーローだ。
ただ強いだけがヒーローではない。市民にいかに愛されるか――その差が如実にあらわれたのだ。
じゃ、そういうことで。あんまり気落ちしないでね。おつかれちゃ~ん。
ありがとう、みんな。すまないが、道を空けてもらえるか?私は行かねばならないのだ。
そう言った瞬間、観衆が離れアポロンVIの前に無人の道ができる。だれも彼のいく道を阻むことなどできないというように。
理解したか、ヴァンガード隊。これが、ヒーローだ。
王者の風を漂わせ、アポロンVIは去っていった。
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お兄ちゃんとぶつかればこうなることがわかってたから止めに来たんだけど……なんか悪いな。
くつ……お正月のPR作戦の失敗が、こんなところで響いてくるなんて……。
焼け石に水だと思うよ?お兄ちゃんの人気、半端ないからね~。
隊長はどっちの味方なんですか!
しょぼくれてんじゃねえぞ!最後に勝ちゃあそれでいいんだ。ー発逆転のチャンスだ。例のヴィランを捕捉した。
本当ですの?そんな情報、流れていませんわ。
当たり前だろ。コリーヌをパシらせてアタシが直々に集めた情報だ。地図を送る。端末を使いな。
エウブレナが手元を操作すると、宙に周辺の地図が表示された。
点滅してる赤い光がヴィランだ。で、予測される移動ルートがこれだ。
これ……いけるわ!この先を封鎖すれば先回りできる!
でも、挟み撃ちにする必要がありますわ。だれかが後ろから追わないと。
でも、凄い速度で移動しているわ。これに追いつくなんて……。
どうやらボクの出番だね。エウさん、練習していたアレを使うよ。
アレって……アレ?ちょっと待ちなさい!貴方、アレを使うと……。
出番じゃあ!出ろお!ジャスティス・チャリオオオオオオット!
アレイシアは槍を振り回し、地面に叩きつける。すると――
巻き上がる炎が、輝く馬と戦車の形となった。
これに乗れば、追いつけるはずだぞ。
でも貴方、それを出すと、エネルギー切れで動けなくなるんじゃなかった?
ウン、なった。
アレイシアは戦車の足元で大の字になっていた。
それじゃ意味ないじゃないですの!
そんなことないぞ。いつもならこのままなにもできないけど、いまは魔法使いさんがいるからね。
そういうことか、と君が魔力を送ると、アレイシアは飛び上がり、そのままチャリオットに騎乗した。
サンキュー!さ、魔法使いさんも乗った乗った!
君はうなずいて、アレイシアの隣に腰掛ける。神の力で象られた馬がいななき、輝く蹄を地に打ち付けた。
それじゃボクはヴィランを追うから――
よしきた。おいらたちは先回りして道を封鎖する。エウブレナ、ネーレイス、行くぞ。
え、あ、はい!……隊長に隊長っぽいことされると、調子狂うわね……。
よっしゃああああ!アキレラレウス逮捕に向けて、いざしゅっぱぁぁぁぁぁぁつ!
***
***
チャリオットは飛ぶように走った。通常では考えられない速度だ。というか時々、実際に飛んでいた。
それだけにエネルギーの消耗が激しいらしい。君は絶えずアレイシアに魔力を送らなければならなかった。
その甲斐あって、しばらくすると、猛スピードで走るバイクの背を捉えることができた。
アアアアアアアアアアアアアアア!ドケドケドケドケエエエエエエエエ!
ヴィランのバイクは、巨大な獣が足元の虫を押しつぷすように、道をさえぎる全てを撥ね飛ばし、混乱を巻き起こしながら疾走る。
遠目にも、ひとめでわかった。さきほどにも増して、常軌を逸している。とても正気とは思えない。
これは……やっぱりこれまでのヴィランさんとおなじ……!
こうしちゃおれん!全速だあぁぁ!
君とアレイシアを乗せた戦車が隣に並ぶ。すかさず、アレイシアが叫んだ。
止まるんじゃ!アンタ、やりすぎとるんよ‐!
邪魔……スルナァァァ!
バイクが幅寄せをしてきた。車体と車体がぶつかり、火花をあげて弾き合う。止まる気はないらしい。だが……。
もう止まるしかないにゃ!
道の前方に、輝く水の壁があった。
現世と冥府を隔てる嘆きの川、アケローン。エウブレナがハデス神の力で顕現させたバリケードだ。
エウブレナ!大丈夫ですの!?
いまの私にこの技は苦しいけど……。貴方の力も借りてるもの。少しの時間ならなんとか!
ヴィランさん!この先には進めんもう諦めるんじゃ!
ミンナ……ミンナ……邪魔ヲスル……。イツモ……イツモ……。モウ……サセネエエエエ!
水壁を確認したバイクはより速度をあげた。冥府へ渡ることを望むように。
そうか……自分じゃ止まれんのじゃな。わかった。ならもうええ。
ヒーローがぶん殴ってでも止めちゃるだけじゃあ!魔法使いさん!いくぞおおおおお!
了解、と答え、君は構えたカードに魔力をこめた。
***
プロメトリックの与える漆黒神器。それは神話還りの力を極限まで高める代償に、その胸に抱いた想いを暴走させる。
疾走のうちにプリセイスの意識は消えていた。混濁する思考の中で、ただ怒りと悲しみを叫んでいた。
ずっとずっと我慢をしていた。ルールを守って、いい子でいようとした。なのにいつも、利用されるだけだった。
いつもそうだった。ルールなんて、守っても損するだけ。得をするのはルールの隙間を縫う小狭い奴らばかり。
それがわかっていても、気の弱い彼女は正しくあろうとし続けた。そして利用され続けた。
そんな彼女が初めて抱いた強い衝動。彼女のバイク、彼女の恋人、かけがえのないペンテシレイア。
ずっと乗っていたいと思った。どこまでもふたりで走りたいと思った。
けれども、その願いは砕け散った。いまのペンテシレイアは、漆黒神器の力でー時的に動いているだけ。
アクセルを止めてしまえば、おしまい。彼女にはそれがわかった。だからもう――止まれない。
それで良いと思った。この世界で唯ー愛したマシンとともに散れるのなら、なにも悔いはない。そう思った。
どこにもない……この街のどこにも……私の居場所なんてなかった!私が消えても、だれも悲しみやしねえ!
だから――行こうぜペンテシレイア!エンドマークの向こう側まで!お前とならスチュクスだって越えてみせる!
ボクが悲しいでしょうが、このバカちんがあああああああああああ!
ナァッ!?
アレイシアはバイクの後部に乗っていた。近づいた瞬間、君の魔法障壁でがードし、その隙に飛び移ったのだ。
ハ、ハナセ!ハナセエエエエエエ!
ヴィランが身をよじるが、アレイシアの両手は相手の腰に回って、がっちりと組まれている。文句なしのタンデム姿勢だ。
悲しいエキゾーストじゃの。辛いことがあったんじゃろ。わからんけど、わかるぞ。おんしゃ、ずっと泣いとる。けんど……。
離れるわけなかあああああ!ワシらはー度、全力でぶつかり合ったダチ公じゃろがあ!ひとりで勝手にいかせんばぁぁぁぁい!
アレイシアの両手に力がこもる。抗うように、ヴィランの背が丸まりハンドルにしがみつく。
ワタシハ……ワタシハ……ペンテシレイアトォォォォォォォォォ!
させんとよおおおお!どんな悲しみだって、ぶっこ抜いてみせる!ボクは、アレスだああああああ!
ヴィランの耳元で熱い叫びが詐裂する。それは、彼女の生涯で初めてぶつけられる想い。その刹那、心に迷いが生じた。
(こんなにも私を想ってくれる人がいるなら……ダメ!ペンテシレイアは裏切れない!いっしょに逝くと誓ったんだ!)
その瞬間、バイクに異変が起きた。チャリオットとぶつかった衝撃でひびわれた車体の隙間から、オイルが散ったのだ。
それは固くハンドルを握った彼女の掌の隙間に入り込み、わずかにその手を滑らせる。
別れを告げる、涙のように。
ペンテシレイア……。
次の瞬間、アレイシアの両足が車体を蹴り、そこから爆発が起きた。
ヒーローは、へそで投げる!いくぞおおおおおおおおおお!マイティ・ボンバー・スープレックスじゃああ!
爆発の衝撃を利用し、四散するバイクからプリセイスを引き剥がしたアレイシアが、宙に美しいアーチを描く。
うぉぉぉぉ……なんとかなったあヴィランさん、大丈夫!?
アレイシアに抱きかかえられたまま、ヴィランは気絶していた。駆け寄った君が、急いで脈を診る。
――生きている。大きな怪我もない。無事だ。衝撃で意識を失っただけだろう。
みんな!大丈夫?
なんとかね、と君が答えると、エウブレナは呆れたように笑った。
ふたりとも、無茶しすぎよ。本当に、アレイシアと貴方がそろうと、心臓がいくつあっても足りないわね。
でも、これでこの事件は終わり。ナンバーズとの勝負も、わたくしたちの勝ちですわね。
……と、いうわけにはいかないかもな。
ヴァッカリオの言葉にこたえるように、その姿は悠然とあらわれた。
まずはよくやった、と称賛しよう。見事なチームワークだった。私はお前たちを見くびっていたようだ。
思うところはあるが、勝負は勝負だ。敗北は認めよう。
やった!これでヴァンガード隊は正式に存続できるわ!
そうだな。そのための正式な手続きだ――ヴィランの息の根を止めろ。
な……なに言うとるんよー!
まさか、理解していないのか?説明しても良いが、私よりも公平な立場な者の言が良いか。 ――Ⅸ。
はいはい、やだなあ、貧乏くじ。アレイシアちゃん、気持ちはわかるけど、これは法に定められた正式な裁きよ?
そのヴィラン、やりすぎなのよね。第8条、第11条、第67条、第97条――キリないか。そんで、ここの地区ね。
そうか、ここはアテナ区だから条例の3が適用されて……!
そそ。ー度捕まってから脱走し、再犯。しかも漆黒神器の浸食度、甘く見積もってもステージ3はイッちゃってるしー。
更生の余地がない凶悪犯。市民の安全のため見つけ次第処断すべし……。
は~い、よくできました~。ま、そゆこと。この場でトドメを刺さないと、法を破ることになっちゃうよ。
で、でもこの人は、きっともう……。
きっと?そのような曖昧な判断で市民を危険に晒せはしない。お前たちが出来ないというのなら、いい。
私がやる。
アポロンVIの両手に光が宿る。アレイシアを撃ったものよりも遥かに強烈な神の力だ。
意識を失ったプリセイスに、裁きの光が容赦なく向けられる。
せめてもの慈悲だ。痛みを感じる間もなく逝かせてやろう。ショット・ザ。
させんとよぉ!
身体を大の字に広げて、少女は光明神の裁きに立ちはだかった。身体を大の字に広げて、少女は光明神の裁きに立ちはだかった。
なにをしている。退け。
どかん!ワシや納得しとらんけえのぉ!
一個人の気持ちなど関係ない。これはルールだ。乱すことは許されない。
そんなん知るかあ!絶対にどかん!
ゴッド・ナンバーズに逆らうなんて、あの子、なにやっていますの!?ええい、仕方ないですわ。
アポロンVI様、お待ちを!ヒーロー同士、ルールに対する解釈が異なる場合は、公正な立場の者が判断を下すはずですわ!
あなたと同格の、つまりゴッド・ナンバーズの同意が得られない限り強行は許されませんわ!わたくしの主張、論破できまして!?
(よし、これで少しは時間稼ぎができますわ!)
先程、IXの判断を仰いだはずだが?
ネーレイスの時間稼ぎは秒で終わった。
それに、他のナンバーズも来たようだ。
あれ~?まだ殺ってないの?アポロンVIくんさあ、サボりすぎじゃない?
悪を殺せない者は消えろ。すべての悪は、私が斬る。
か~、VI、VII、IX、XIが揃い踏みかよ。クライマックスが過ぎんでしょ。……いよいよおいらも正念場かね?
彼の言葉は間違っていた。この日のクライマックスは――次の瞬間から開幕されたのだから。
いい見世物だね、ヒーロー諸君。だが、そろそろ私も舞台に上がりたい。構わないかな?
story
最初に動いたのは、アポロンVIだった。両の手に溜めていた神の力をー気に放つ。
ショット・ザ・ヘリオス!
それは大地を遍く照らす太陽光。逃れるものをどこまでも追う見敵必中の10の光弾。ゆえに巨魁は避けずに受け止める。
おやおや、まさかこの程度で私を倒せると……。
思っちゃいない!アポロンVIより英雄庁へ!
最大の力を解き放つべく、英雄庁へ許可を申請。神器の使用を決定。その動作に淀みはない。が――
起きる時間だよ、神器。
(なっ!英雄庁の承認なしに神器を非常事態とはいえ、XI !あとで喚問を……)
思考の合間にも、燃え壊るヘパイストス神の力は顕現し、最大の火力を込めて銃弾は放たれる。
遊びの時間は終わりさ!プロドスィア・エクリクスィ!
アポロンVIに向けて。
貴様ァ!なにをする――
鈍いねえ、HERO of HEROES。最近、機械の暴走事件が多すぎると思わない?プロメトリックの復活がそれと同時期とかさ。
そうなると、怪しいのって工学者だよね。そして、オリュンポリス1の天才は――ま、僕だよね。
裏切ったのか!我々をオリュンポリス市民を!
ダメじゃないの、ちゃんと疑わなくちゃ。いくらお仲間でもさあ!
ふたたび銃弾が放たれる。今度は3発。音速を超えるそれを椴しながら、アポロンVIは叫ぶ。
英雄庁!神器使用の許可を英雄庁!
ダメだって。世界ーの天才が相手だよ?通信に細工してないはず、ないじゃないの。
神の力で象られた銃弾に弾切れはない。追い詰めるように立て続けに放たれるそれは、しかし不壊の盾に受け止められた。
覚醒せよ、神器。
Ⅶ!お前まで神器の無断使用を!
生真面目が過ぎるな。プロメトリックを逃してもいいのか?
くっ、致し方あるまい!VII!XIの相手は頼んだぞ!私はプロメトリックを!
アポロンVIとアテナⅦ。最強に手が届くと評されたふたりのヒーローが背中合わせに立つ。
この街に住むものならば、だれもが頼もしく思うであろうその光景は――
生真面目が過ぎるといったぞ、Ⅵ。疑うことを覚えろ。
ー瞬で失われた。
Ⅶ……き、貴様も……か!
神器をまとったお前と戦うことを想定していたのだが、想像よりも遥かに愚かだったようだ。
なぜだ……なぜ……正義を裏切る……!
裏切ってなどいない。私は私の正義を為す。そのためにプロメトリックの協力が必要なだけだ。
論弁を……ほざくなあ目覚めよ!
遅すぎだ!
神器〈アイギスの盾〉が光を放つ。極限まで力の高まったそれを、アテナVIIは力任せに叩きつけた。
アペルピスィア・アイギス!
最強の奥義が全力をもって放たれ、無防備なアポロンVIを完膚なきまでに打ち砕く、その寸前――
お兄ちゃん!
長身が割って入り、奥義を全身で受け止める。
ヴァッカリオ、お前……おおおおおおおおおおおお!
だが神にも等しい力のー撃はとどまることなく、兄弟の肉体をもろともに吹き飛ばした。
――2。
***
隊長!
動くな!危ない!
アフロディテIXは君たちを後ろに回し、周囲を威嚇するように眸睨する。
XIが怪しいのは気づいてたけど、まさかⅦまでとはね。あーしを前にして裏切りとは、やってくれんじゃん。
見逃せないんだよね……。そーゆー曲がったことはさあ!おっきしなさい、神器ちゃん!
なかなか勇ましいね、アフロディテIX君。だが、やめておいた方がいいね。私とナンバーズふたり、同時に相手できるとでも?
悪の首魁の言葉に、アフロディテIXは奥歯を噛みしめる。敵の言うことは正しい。ひとりで勝てる相手ではない。
ましてや、彼女の背後には守るべき後輩たちがいるのだ。いまは退却の機を窺うべき。彼女の明晰な頭脳がそう告げている。
だが、その計算は崩される。守るべき者によって。
トリおじさあああああああああああん!!
やっていいことと悪いことがあるでしょうがぁ!
力の使いすぎだよ、アレイシア君。そんな状態で私に挑むなんて、無謀が過ぎる。
けど、嬉しいね。この短期間で、よくそこまで力を目覚めさせることができたものだ。これならば――
プロメトリックの手が、アレイシアの頭に触れる。そして――
予定通り、計画を最終段階に進められる。
パ、神器が……砕けた!?
な、なんで……!
そう不思議がることもあるまい?私にはその権利があるはずだ。
あの髪飾りは私が君に贈ったものなのだからね。
て、店長!?なんで。
く……意識が……遠のく……。き……きあ……い……。
強制的に変身が解除されたことにより、急速に力を失ったアレイシアの肉体は意識を手放した。
その小さな肉体を優しく受け止めると、胸の前で抱えあげ、プロメトリックは浮かび上がる。
アレイシア!くっ、敵わないまでも……!
焦るものではないよ、新人君。君たちの相手はちゃんと用意してある。
漆黒神器全開放。
その声が、終焉のはじまりだった。
巨神の神話還り!?こんなにもたくさんいったい何事ですの!?
叶えてあげたのだよ。この街が法の名のもとに抑圧してきた、虐げられし人間の希望をね。
巨神の増加は止まらない。街はたちまち混乱に陥る。無理もない。それをおさめるべきヒーローは、いま、悪の首魁のもとにいる。
準備は整ったようだな。行くぞ。
早く連れてってくれないかなあ?みんな怖い顔してるんだもん。
いいとも。さあ、始めよう。神話の時代の再来だ。ふはははははははははははははは!!
高笑いとともに、3人の姿が宙に消える。意識を失ったアレイシアをともなって。
それはさながら、神話に伝わる光景。開けることを禁じられた箱がひらかれ、世界に災厄が満ちる。そして残されたのは――
アレイシア!こんな……ことって……。
絶望だけだった。