【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story7
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まだ戦いが足りないに違いない。君は戦神だ。物足りなかったのだね。だが安心するといい。ほら、見たまえ。
〈扉〉はもうすぐ完全にひらく。否が応でも神々との戦いが始まる。そうすれば君の記憶も戻るだろう。
プロメテウスの手に炎が宿る。地上の全てを焼き払い、新生することすら能う極熱の炎。
放たれた炎がまっすぐにアレイシアヘ向かう。それは戦いというより審判の光景。人を創りし神による、滅びの宣託だ。
その裁きの炎を、槍のー閃が断つ。
華麗なー撃だった。滾る力はその内に秘め、ただ槍先に戦意が迸る。
振り下ろした槍から放たれた真紅の炎が、2羽の猛禽を包み込み、恐怖に駆られた黒鷲と白鷹は消え去る。
君は絶えず魔法を放ち、アレイシアに力を送り込む。だから槍は止まることなく、美しい軌跡を描き続ける。
それはまさしく戦いの芸術。見る者の心を奪い、奮い立たせる神の御業。君の心に、自然とひとつの言葉が浮かび上がる。
GOD oWAR。この瞬間、まさしく彼女は戦神アレスの化身だった。
さあ、人間よ。君たちの希望を、このプロメテウスに見せてくれたまえ!
***
炎を裂いて放たれた槍のー撃が、プロメテウスを穿つ。翼により防がれたが、衝撃は神の肉体を吹き飛ばした。
中枢がつなぐ異界への〈扉〉。それはもはや、完全にひらこうとしていた。この戦いはただの時間稼ぎだったのだ。
アレイシアの槍が中枢を穿つ。だが、依然として〈扉〉はひらきつづける。
ー閃したのは、絶望を断つ刃。
次の瞬間、〈扉〉もろとも、空中神殿アトランティスは両断されていた。
神話の時代は、終わったんだよ。
叫ぶなり、プロメテウスは姿を消す。すぐに通信音が鳴り響いた。
滅びよ、オリュンポリス!全てを創りしこのプロメテウスが、貴様らに滅びを与えてやろう!
飛び立とうとしたヴァッカリオは、顔を歪めて膝をついた。
アレイシアはしゃがみこみ、ヴァッカリオと顔の高さを合わせて、ニコリと笑う。
だから――後はボクに任せて!
アレイシアは立ち上がり、プロメテウスのいるであろう方角――オリュンポリスを見やった。
もちろんだよ、と君はうなずく。ありがとう。
え?
と思ったが、君はすぐに思い当たる。アキレラレウスに追いついた時のあの戦法、爆風で瞬間的に移動するやつの応用だ。
君はうなずき、とっておきのカードに魔力をこめる。
熱いHEARTを見せてやれ。けんか魔帝――クィントゥス・ジルヴァ!
君の放った全力の魔法を受け、アレイシアは吹っ飛んでいく。きっとオリュンポリスに届くだろう。
安心した君はその場に膝をつく。あの魔法を放つとしばらく動けないのだ。後はアレイシアに託すしかない。
自分もヴァンガードのー員だからね、と君は笑い、ヴァッカリオに尋ねる。店長の正体に気づいていたの、と。
本当はな、アレイシアに接する奴の姿を見ていて、思っちまったのさ。こいつを救えるのは俺じゃない、ってね。
近づいてくるVTOLに向かって手を振るヴァッカリオに、君はもうひとつ尋ねる。
そういえば、なんでマスクをしていたの?
恥ずかしいじゃん。
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HEARTにHEATが灯るじゃろがああぁぁぁぁぁ!
降り立ったのは、オリュンポリスの摩天楼。英雄庁本部、その外壁。見上げた空には、創滅の魔神。
天より放たれる滅びの炎。アレイシアの槍がそれを華麗に切断――しない。突き出されたのは、左の拳。
すまんのぉ、アレッさん!HEARTを抑えんのは確かに強いが、やっぱワシはこっちじゃあ!
命を懸けてヴィランと戦い続けた君を、この街の人間は知りもしない!君の戦いも忘却されるだけだ!
前方に集中していたアレイシアも、そこでようやく気づく。
「「「アレスちゃん!」」」
オリュンポリスの街中のモニターに映る自分の姿に。
「「「アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!」」」
割れんばかりに響く、己の名に!
ヴァンガードに見習いとして雇われて以来、コリーヌはー般市民がこっそり撮ったアレイシアの活躍の映像を集めていた。
いざという時のため、市民感情を味方につけるためのゾエルの仕込みだ。それがいま、〈アリオン〉を通じて都市中に流されている。
アレイシアが駆け抜けたヒーローの日々。それは見る者すべての心に強く訴えかける。
アレイシアの戦いにわずかでも触れたものは、ヒーローに頼れない絶望的な状況のなかでも戦い続けた。
アレイシアの生き様が、人々の胸にHEATを灯した。その熱が彼らのHEARTを衝き動かした。彼らは知ったのだ。
「「「ヒーローはここにいる!」」」
***
確かに人間はアレッさんを忘れてしもうたかもしれん。じゃけんど、その意志は残り続けとる!
アレッさんから、アレッさんの戦いを見た人へ。その人から、次の人へ。その次の人から、また次の人へ。
つながってつながって、ディオニソスⅫへ。ディオニソスⅫからボクヘ。そしてボクからこの戦いを見ている次の人へ!
理由なんかいらん!特別である必要もない!守りたいから守るんじゃ!
それがアレッさんの残したもの――つながっていくヒーローの意志!せやろが!店長!
駆け上がる。駆け抜ける。ビルの壁を、炎のように。天へ向かって。神に向かって。
慟哭のような叫びとともに、巨大な火球があらわれる。叡智の炎。受けた者の身を滅ぼす、過ぎた力。
この世界をまるごと焼き尽くしてもなお足りぬほどの熱を秘めたその力が、アレイシアに向かって放たれた。
アレイシアは止まらない。曲がらない。拳を握り、まっすぐ前へ。天へ。未来へ進む。
「「「アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!」」」
創滅の炎を突き抜けて、アレイシアはなお走る。その手には槍。宿るのは戦神の力。余力はない。放てるのはー撃だけ。
もう目の前に、神がいる。全てを失った嘆きの神。だったら全てをぶつけるまで。
みんなのために!みんなといっしょに!ボクは未来を切り拓く!それが!
放つのは、ただ全力でぶち当たる、いつも通りのー撃。そんなものにつける名前があるとしたら、きっとそれは、これしかない。
「なあ、プロメテウス。なんでお前は人間に叡智を授けたんだ?親父(ゼウス)が怒り狂うってわかってたろうに。
「私はね、人間が可愛いのだよ。あの身勝手で、なのにとても優しい生き物が、どうにも好きでたまらないのだ。
「ハハッ!なんだ。オレとおんなじか。そんじゃ、今日からオレとお前は友達だな!
アレイシアの槍はプロメテウスの胸を貫いた。そこにあるのは神の力の源。その紋様が、砕けて消える。
力を失った神は、ゆっくりと手を伸ばすと、自分を倒したヒーローの頭を撫で――
――それが創滅の魔神、最期の瞬間であった。
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数日後。英雄庁本部。〈神卓の間〉にて――
そのことを思えば、新たなⅣをヴァンガードに配することも、悪い方策ではあるまい。
**
ただ……「ちゃん」はやめてくれ。私は子供ではないのだ。
***
しょ、しょれに、リーダーのわたくしがいなくなったら、みなしゃま、お困りににゃられるのでは?
君は笑ってうなずく。
全員がバラバラのように見えて、おなじ正義を見つめている。本当にいいチームだ。
そして、おなじ正義だけではない。アポロンⅥやアフロディテⅨたちもまた、異なる形で正義に向き合っている。
正義の形はひとつではない。だれもが自分の正義を掲げている。だから時にぶつかり合う。
けれども、その想いが強いからこそ、真の危機に手を携えることができるのだ。
きっと、自分はこれを見届けに来たのだろう、そう思っていると、白い光が君を包み込む。
どうやら帰る時間のようだ。それを告げると、仲間たちは寂しそうに、けれども笑みを浮かべて見送ってくれた。
勢いにつられて、意味もわからず挙げた君の掌に――
アレイシアの熱い拳がぶつかり、気持ちの良い音が空に響く。
またね、という笑顔と返事をともに、君の姿はオリュンポリスから消えた。
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「どこどこ、どこかな?急いで見つけないと!
ねえねえ、そこの人たち!黒猫を連れた魔法使い見なかった?
「ウソウソ!?もういなくなっちゃってる!?
ムリムリがムリムリだよ~。早く次の異界に行って捜さなくちゃ。
消えたぁ!?
ね~え、パワフルワン、ちゃんと仕入れておいてくれた?――店長。
アレス・ザ・ヴァンガードⅡ
~END~
短編集
NEXTイベント
ARES THE VANGUARDⅢ
~ジャスティスカーニバル~
01. ARES THE VANGUARD 1・2・3 | 2019 10/07 |
02. 巨神vs戦神 | 10/11 |
03. アレイシア&エウブレナ編(謹賀新年2020) | 01/01 |
04. ARES the VANGUARD(魔道杯) | 02/21 |
05. ARES THE VANGUARD Ⅱ ~英雄大戦~ 序章・1・2・3・4・5・6・7 | 2020 03/30 |
06. アポロニオ&ヴァッカリオ編(GW2020) | 04/30 |
07. アレイシア編(GP2020前半) | 08/31 |
08. ヴァッカリオ編(GA2020後半) | 09/17 |
09. ARES THE VANGUARD Ⅲ ~ジャスティスカーニバル~ 1・2・3・4・5・6・7 | 2020 11/13 |
10. アレヴァン編(8周年) | 2021 |
11. ~RAGNAROK~ -鼓動-(魔道杯) | 06/25 |
12. ARES THE VANGUARD Ⅳ ~RAGNAROK~ -終焉- 序章・1・2・3・4・5・6・7・後日談 | 06/30 |