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【黒ウィズ】空戦のドルキマス4 Story1

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん



目次


Story1-1 前線の兵士たち

Story1-2 ドルキマスの膨張

Story1-3 レベッカのアジト

Story1-4 目覚め

Story1-5 追っ手



story1-1 前線の兵士たち



 何者かに奪われたグラールの原石を求めて君たちは旅を続けていた。

雨雲が見えるにゃ。そろそろ冷たい風が来そうにゃ。

 君もウィズも、この異界の空模様にすっかり馴染んでしまった。

かといって喜んでもいられない。

聖なる石の〈原石〉を奪い返さないことには、クエス=アリアスに戻れないのだから。

うううっ……。冷え込んできたにゃ。

 気流が乱れてきた。嵐が来そうだ。

いったん地上に降りてやり過ごそう。君は魔道艇を着陸させることにした。


俺たちはドルキマス兵だぞ。おののきやがれ!ひれ伏しやがれ!

荒くれ者たちが騒いでるにゃ。

 浜辺のちっぽけな村で、軍服姿の男たちが横暴に振る舞っている。

こいつは旨そうな肉だな。こいつは、徴発させてもらうぜ。

wそれは、大事な冬の蓄えなんです。もっていかれると子どもたちが飢えちまう。

ほう?戦場で戦う俺たちが飢えてもいいってのか!?

wひええ……。そういうわけでは……。

キミ。

 言われる前に君は、村の人たちを助けるために歩き出していた。

ドルキマスの兵士も随分と質が落ちたものにゃ。ディートリヒがいなくなったせいかにゃ?

てめえ……俺たちを侮辱しているのか!?

やっちゃっていいにゃ。

 君は、音のない足さばきでドルキマス兵を名乗るならず者たちに接近し――

散々に懲らしめた。

強ええ。なんだこいつ!?

 通りすがりの魔道士だよ、と君は答える。

手応えのない奴らにゃ。本当にドルキマス軍の兵士なのかにゃ?

俺たちは4ヶ月前に徴兵された新兵で……。上からの命令で食い物を探しに来ただけだ。

もう、この村で食料は奪わないから許してくれえ!

ディートリヒがいなくなってまだそんなにたっていないはずなのに、こうも規律が乱れるなんてにゃ。


 軍規の乱れは、軍の弱さに繋がる――

ディートリヒは、略奪や占領地での兵たちの振る舞いを厳しく取り締まっていた。

そのディートリヒはドルキマス軍から姿を消した。どこにいるのか、いまだに行方が知れない。


あの男の気配が、大陸のどこからも感じとれない。ひょっとして、すでに死んでいるのかもしれん。

だとしたら〈原石〉は、いま誰の手元にある?あの男以外に考えられないのだが……。

 〈原石〉を追っていけば、自然と失踪したディートリヒにたどり着けるんじゃないかという淡い期待はあった。

だが、いまのところどちらも空振りがつづいている。

w黒猫。ようやく見つけたぞ。

にゃっ!?

はあ……はあ……。この毛並み、肉球の感触……たまらないっすべて俺のものにしたい!

へ、変質者にゃ!

 やあ、ジーク。相変わらず元気そうだね、と君はさりげなく師匠を奪い返す。

魔法使いをずっと探していた。俺と取り引きしろ。

 取り引き?師匠を譲れという要求以外なら話を聞くけど?

俺は、ドルキマスを潰す。手を貸せ。

なにがあったにゃ?

事情を話す前に……くっ……。くそ、まただ……。

 発作が起きたようにジークは悶えはじめた。とても辛そうだ。

ひょっとして病気にゃ?

ああ……。治すには、黒猫のぷにぷにしたお腹に顔を埋めるしかない!俺を助けろ!

 鬼気迫る表情で師匠にすがりつこうとするジークの横面を、君は思いっきりビンタした。

痛いっ!?



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story1-2 ドルキマスの膨張



 ローヴィに連れられて、ジークはドルキマス王宮にやってきた。

ドルキマス国王アルトゥールは、玉座を下りて目の前に控えていた弟王子の手を取った。

母こそ違うが、お前もグスタフ・ハイリヒベルクの血を引いている。誰がなんと言おうと私の弟である。

会えてとても嬉しい。

ローヴィ・フロイセ。よくぞ、ジークユーベルを連れ戻してくれた。

まだ、失踪した元帥閣下の行方を突き止めておりません。引き続き、捜索にあたります。

ジークユーベルよ。我がドルキマス王国は、重大な岐路に立たされておる。

ドルキマスの国民と伝統を守るためにお前の力を貸してほしい。

……あのよ。

ドルキマスがどうとか、王子がどうとか、どうでもいい。俺には、関係ない。

王の御前である。口を慎みなされ。

クレーエ族の生き残りは、俺以外いないものだと思っていた。

だが、ある墓守が言っていた。俺の母親リントが生きてこの城にいると――

俺は、クレーエ族の生き残りとして同胞を救いに来ただけだ。ドルキマスのことなど知ったことではない。

殿下。お控えください。

確かに……前王グスタフ陛下の側室であったそなたの母上はまだ生きている。

どこにいる?さっさと会わせろ。

後宮にて手厚く保護している。しかし、後宮に足を踏み入れることのできる男は王族のみ。

母親に会えるかどうかは、空賊の真似事などやめて、お前次第だ。我が覇業を手助けすると誓え。

 合図と共に、ジークの子分たち。空賊ナハト・クレーエの面々が引っ立てられてきた。

どういうつもりだよ?

Gお前ら勇気あるなでゲビス!縄を解くでゲビス!

Nおかしらぁ~。ごめん、捕まっちゃった……。

Pドルキマス兵として働いてきた実績も考慮してよね!?

……くだらない。それが王族とやらのやり方か?

我が弟が、空賊など聞こえが悪い。ドルキマスの名を貶める風評が立つ。すぐにやめろ。

 言葉を失うほどの凍り付いた視線が向けられた。まるで母と子分たちの命は、自分のー存で決まると言わんばかりだった。

ジークユーベル殿下。あなたに流れる血は、変えられません。運命を受け入れなされ。

 ジークの堅く握りしめた拳が、怒りで打ち震えた。

俺は空賊……。やがて大空を支配し、邪魔な軍人どもから空の自由を取り戻すつもりだ。

今更、この生き方を変えるつもりはない――

それでこそ、俺たちのお頭だ!

G高濃度粒子煙幕散布でゲビス!

なんだこれ!げほっ!げほっ!

N今のうちにおかしらだけでも逃げて!

Pお母上は、私たちが絶対に守ってみせるから!

必ず……。必ず助けに戻る。

アルトゥール王よ。このジーク・クレーエを敵に回したこと、いつか後悔させてやろう。


 ***


つまり、ジークはドルキマスに追われる身ということにゃ?

アルトゥール王は、空賊の恐ろしさ、執念深さを知らんらしい。

仲間を取り戻すためにドルキマスに喧嘩を売ると言うことにゃ?

 ドルキマス兵から軍服を奪い、変装して逃げてきたのだと言う。

軍服を奪って着るのは、いかにも空賊らしい、と君は思った。

いますぐ、王都を火の海にしてやろう。

落ち着けにゃ。

 人質を取ってしたがわせようなど、アルトゥール王のやり方は確かに汚い。

でも、ジークひとりで、あのドルキマスに対抗できるわけがない、と君は言う。

イグノビリウムとの戦いで大陸の各国は戦力を大幅に失った。今や、まともな空軍戦力を持っているのは、ドルキマスぐらいだ。

イグノビリウム戦後、空軍戦力を喪失した各国の空にドルキマスは艦隊を派遣した。

ドルキマス軍は、容易く大陸各国の制空権を手中に収めることができた。

いま思えば、この状況を作ることすら、ディートリヒの作戦のうちだったのか、とすら思えてくる。

いまや超大国となったドルキマスに喧嘩を売るのは無謀にゃ。

だから、魔法使い。お前の力を貸せと言っている。

もちろんタダでとは言わん。取り引きだ。俺は、聖なる石の〈原石〉の行方を知っている。

本当にゃ!?

協力してくれるなら、場所を教えてやってもいい。さあ、どうする?


 ***


クラリア・シャルルリエ中将。参上しました。

お入りなさい。

 執務室に入って来たのは、第3艦隊提督クラリアと、副官のロレッティのふたり。

クラリアは、失踪したディートリヒ元帥が手塩に掛けて育てた子飼いの提督のひとりである。

参謀総監カミル・ゼーゼマン殿。今日はひとつ、あなたに忠告しにやってきた。

聞きましょう。

もはや、この大陸に我々の敵はいない。我がドルキマス軍が大陸を支配するのも時間の問題だろう。

それもこれも、前の大戦でみなさんがイグノビリウムと戦って勝利したからですよね~。

だが、急速に戦域を拡大したせいで前線の兵の質が落ちている。その問題は、ご存じであるな?

報告は入っております。

知っているなら、手を打つべきじゃないですか?

兵の略奪や占領地での横暴な振る舞いを見逃していてはドルキマス軍の評判が下がる。

ひいては、ドルキマス王アルトゥール陛下の名誉も揺らぎかねない。

クラリア公爵様のお気持ち……痛いほどわかります。私も、色々と手を尽くしているのですが……。

悠長に構えている場合ではない。共和派が、アルトゥール陛下の首を虎視耽々と狙っているのだ。

ドルキマスの評判が落ちれば、逆に奴らの評判があがることになるよね。

ご提言痛み入ります。来週の参謀会議で議題にあげて対策を講じましょう。

来週では遅いのだ!

 クラリアは、机に身を乗り出してカミルを睨み付けた。それをロレッティが後ろから制する。

そうだ。頂いたチョコレートがありました。よかったら、持っていきますか?

チョコレートなど、いまはどうでもいい。

遠慮せずにどうぞ。


 ***


ナッツ入りのチョコだって。こんな高価なもの頂いちゃっていいのかなー?

元帥閣下だったら前線の略奪行為など放っておかなかっただろう。カミルごときでは、元帥閣下の代わりは務まらん!

どういう人なんですか?あのカミルという人は。

元帥閣下が去られてから頭角を現わした男だ。アルトゥール陛下の信頼を勝ちとり、あれよという間に参謀総監だ。

ヘー。優秀な人なんだね。それにチョコくれるなんて、とても良い人。

私から見れば、出世能力に長けただけの無能だ。あんな優男。戦場ではきっと役に立たん。

 現在、ドルキマス軍の大陸支配は、すべてあのカミルという男の指揮で行なわれている。

アルトゥールとユリウスは、カミルの能力を買っているらしく、全幅の信頼を置いてると聞く。

カミルー派がのさばってきたせいで、我々第3艦隊はいまや蚊帳の外。重要な作戦からは、全て外されている。

元帥閣下の時代が懐かしい……。昔に戻りたい。

そう言わないで新しい時代に適応していきましょうよ。若者は柔軟なのが売りでしょ?

……うむ。そうだな。チョコレート、やっぱりもらおう。

……ごめんなさい。全部食べちゃいました。

この野郎。



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story1-3 レベッカのアジト



ジークは、本当に〈原石〉の行方を知っているにゃ?

黒猫。なぜ、俺の膝の上に乗らない?俺のここは、空いている。受け入れ体勢ばっちりだぞ。

 それは君ががっちり、ウィズをキープしているからだ。

まじめに答えるにゃ。

各国の軍需工場で破棄されたジャンク品を闇市で取り引きしている空賊が知り合いにいる。


zいや、儲かってしょうがねえぜ!

いきなり大口の取引先ができてよ。普通じゃさばけないような高額なパーツを大量に買ってくれるお嬢さんがいるんだ。

なんでもドルキマス南方の孤島で、人知れず研究に没頭したいそうで、どの国からも援助を受けずにやってるらしい。

何という名の女だ?

z名前は教えてくれなかったが、ドルキマス訛りが強かったぜ。あと、自動で動く小さいロボを連れていたな。

 少ない情報だが、君には思い当たる人物がいた。

ドルキマス研究主任レベッカ・アーレント

聞いた話では、ディートリヒ失踪後、しばらくして彼女もまたドルキマスから姿を消したそうだ。

ドルキマスで彼女を使いこなせる人はいなかったから、失踪してもそんなに大事にはならなかったそうにゃ。

 自分に正しい評価を下してくれる場所。やりたい研究を自由にやらせてくれる場所なら、どこへでも行くだろう。

きっと、レベッカのところにディートリヒはいるにゃ。そして〈原石〉もそこにあるにゃ。

そろそろ、南の孤島に到着する頃だ。野郎ども着陸の準備だ。

 と、ジークは誰も居ない場所に向かって声をかけた。

いつもー緒にいるはずの子分たちは、ドルキマスにとらわれの身だったことを思いだす。

そうか……。野郎どもは、いないんだったな。

 悲しげなジークに、君もウィズも同情を寄せる。

俺の心を癒やせるのは、黒猫しかいない!頼む、俺のものになってくれ!

お断りするにゃ!


z侵入者を発見。警告!警告!

〈メカシャルルリェアー改2〉警告を止めなさい。

お客さんが来るって言ってあったでしょ?

zソウデシタ……。2名と1匹。ご来客デス。

 君たちは、孤島にある洞窟に足を踏み入れた。内部は設備が整った研究所になっていた。

レベッカ・アーレント……。やはり、ここにいたな?


あなたたちは、どちらを探しに来たのかしら?

聖なる石の〈原石〉?それとも失踪したディートリヒ・ベルク

両方にゃ。

 やはりここにディートリヒがいるんだね、早く彼に会わせて欲しいと、君は食いつく。

焦らないの。あと少しで、私の発明が完成するのよ。それまで待っててくれないかしら?

それに、その研究は、ディートリヒ元帥閣下の依頼でもあるのよ。

いったい何を研究している?

あれよ。

 レベッカは、背後にある巨大な設備を指差している。

部屋ー面を埋めるその巨大な物体は、この研究所の主のように鎮座している。

それが何に使うものなのか、君には皆目見当がつかなかった。



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story1-4 目覚め


私が、この研究所で元帥閣下に命令されて作っていたものはふたつよ。

ひとつは――〈高出力エネルギー砲〉。前の大戦で作った対イグノビリウム兵器の巨大版とでも言えばいいのかしら。

ー撃で都市ひとつを消滅させることができるほどの威力を発揮するわ。

それが完成すれば、戦争など割に合わず、誰もやろうと思わないだろう。

ふふっ、元帥閣下はそれが狙いよ。

もうひとつはなんにゃ?

次元の壁を越えて、こことは異なる世界へと渡る装置よ。

にゃっ!?

元帥閣下は、私たちが今いるこの世界とは、異なる別の世界が存在するという仮説を立てられたわ。

でも、私の研究では、異世界へ向かうには、次元の壁を越えなきゃいけない。

それには、膨大なエネルギーを高濃度に圧縮し、空間の歪みを人為的に発生させる必要があるの。

 まさか、ディートリヒとレベッカは、異界に渡ろうとしているのか?

その装置に送るエネルギー源として、聖なる石の〈原石〉が必要だったというわけにゃ?

ご名答。おふたりを騙すことになったのは心苦しいけど、私の発明を完成させるにはどうしても必要なものなのよ。

〈原石〉は、本来クレーエ族が管理すべきものだ。だが、異なる世界へ行けるというのなら見てみたい気もする。

話のわかる人はキライじゃないわ。

それを作らせた張本人は、どこにいるにゃ?異界の行き来は、興味本位で行なってはいけないにゃ。

私がひとことビシッと言ってやるにゃ!

 ディートリヒは、いったいどこにいる?ルヴァルは、この大陸のどこからも気配を感じないと言っていた。

この研究所にも、レベッカ以外の人の存在を感じないが……。

あら、気付かない?元帥閣下は、あなたたちのすぐ傍にいるわよ。

 いったいどこに……。

いい加減なことを言うなにゃ。ディートリヒは、どこにもいないにゃ。

 そういえば、先程から師匠は、巨大な箱のようなものに座っている。

君は、師匠を少しどけてみる。

どうしたにゃ?

 それは箱ではなかった。硝子張りになっている蓋のついた――一言で言うと棺桶だった。

中で眠り続けているのは、あの――

ディ……ディートリヒにゃ!?もしかして死んでいるのかにゃ!?

死んでないわ。仮死状態のまま冷凍してあるの。

そうしてくれと言ったのは、元帥閣下よ。

冷凍睡眠というやつか?そのような技術があると噂では聞いていたが……なぜだ?

私に依頼した発明が完成するまで、眠っていたかったみたい。元帥閣下にとってもう、この世界は退屈なところだから。

 君には、ディートリヒの気持ちがわかるような気がした。もう、戦争や政治のごたごたに巻き込まれたくないのだろう。

外が騒がしいな。

〈メカシャルルリェアー改2〉なにがあったの?

z敵襲です!ドルキマスの艦隊に囲まれてイマス!!

 まさかあとを付けられたのか?と、君はー瞬考えたが、ジークが尾行に気付かないはずがない。

囲まれているとなれば、戦うか、降伏するか。どちらかしかないな。

魔法使いは、どっちがいい?

 降伏は絶対にしない。ドルキマスに仮死状態のディートリヒを渡すわけにはいかない。

それに〈原石〉も奪われてしまうにゃ。

だったら、戦って包囲を突破するしかないわね。

 ドルキマス軍のすべてを知り尽している男が、君のすぐ傍で眠っている。

魔法使い。お前が選べ。ディートリヒ・ベルクという災厄を復活させるか、このまま眠らせておくか。

 場合によっては、この大陸に今以上の混乱を招いてしまうことになる……かもしれない。

どうするにゃ?この窮地を乗り越えるには、ディートリヒの知恵を借りるしかないにゃ!

 施設全体が揺れ動いた。敵は、威嚇のための砲撃を行なっているらしい。

ちなみに元帥閣下の寝起きは、めちゃくちゃ悪い……とだけ言っておくわ。

やっぱりこのまま眠らせておくにゃ!

 レベッカの発明が完成する前に起こしてしまったら、激怒されるかもしれない。

怖い……。

けど、このままでは、研究所ごと吹き飛ばされてしまう。

悩みに悩んだあげく、君はレベッカに教えてもらった解除ボタンに指を置いた――



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story1-5 追っ手


あの小島に大量のジャンク品と物資を運んだと?間違いないのだな?

z受取人は、ドルキマス訛りの女性でした。

それが、レベッカ・アーレントならば、おそらく元帥閣下も共におられるはず。

ついに突き止めた。元帥閣下の居場所を……。

???

”ローヴィ少佐。目標は、あの小島でまちがいないのだな?”

はっ。すぐさま揚陸艇を出して確認を急ぎます。

”どう動いてくるかわからん男だ。くれぐれも気をつけろ”

お任せください。


 ***


……諸君らの顔色でおおよそのことは察した。

 冷凍睡眠状態から復帰したディートリヒは、取り乱すでもなく、落ち着いた様子で状況の把握に努めていた。

ふう、そこまで機嫌が悪そうに見えないにゃ。

元帥閣下。現在、この島はドルキマスの艦隊に包囲されております。

敵の数を正確に教えたまえ。そして、こちらの戦力もな。

冷凍状態から目覚めて間がないというのに、もう頭が動いているのか?

 差し出されたタオルを受け取ってから、ディートリヒは、相手に気付いた。

貴君と魔法使いがー緒にいるということは、少なくとも、良い状況ではないのだろうな。

こちらの戦力は、小型の魔道艇が2隻。ドルキマス軍は、戦艦を30隻ほど揃えている。

その圧倒的な戦力差を覆して見せろ……そう言いたいのかね?

 無理なのはわかっている。でも、この研究所には〈原石〉がある。それをドルキマスの手に渡したくない。

それにディートリヒの身も危ない。ドルキマスに捕まるのは、本意ではないはずだ。

ならば戦うしかないな……。幸いにも、このような事態を予想して準備しておいたものがある。レベッカ。

地下滑走路を使うのね?

こういうこともあろうかと、海底を通って別の孤島から出撃できる滑走路を用意しておいたの。

そんな大がかりな工事。ひとりでやったのかにゃ?

昔、ドルキマスにいたころ。ここを軍事拠点にする計画を立案してその時にね……。

その計画書は、不慮の事故ですべて燃えたことにしたわ。10年前のことだから、覚えてる人はほとんど居ないだろうし。

 10年前から、準備を進めていたというのか。

となると――レベッカさんはいま何歳なんですか、と君は曇りなき眼で訊ねた。

zキシャアアアアアアアアッ――ッ!

 〈メカシャルルリェアー改2〉に尖った爪で引っ掻かれた!?

私はこの施設を封鎖するわ。あなたたちは、敵の背後に回って時間を稼いでくれるかしら?

魔法使い。私を目覚めさせた代償をたっぷり支払ってもらうぞ。

 その言葉の裏に潜む圧力は強烈だった。君は、とんでもないことになったと後悔した。


 ***


失踪した男ひとりを捕らえるのに、これほど大がかりな戦力が必要だろうか。

なにごとだ!?

背後からの砲撃です!敵は、小型艇2隻!

背後だと!?あの孤島ではなかったというのか?

いや、元帥閣下のことだ。はじめから、我々を翻弄する気だったのかもしれん。

狼狽えるな。すぐさま反転して、敵を追撃するぞ。


あの艦影……。あれは、ジークユーベル殿下のナハト・クレーエ号。それにもう1隻は――

黒猫の魔法使いが乗っていた魔道艇……。となると、元帥閣下はあの艦に。

反転しろ!背後の所属不明艦を追撃する!


 ***


 魔道艇なら、大型の戦艦よりも速度がでる。敵を上回る速度で飛び回ることができる。

けれども、ドルキマス軍も簡単に逃してはくれない。しつこく追いすがり、砲撃を加えてくる。


ひとりで残ったレベッカは、大丈夫なのかにゃ?

彼女を侮るな。このような事態、想定済みだ。研究所を別の場所に移すための設備も当然用意してある。

 冷凍状態から目覚めたばかりのディートリヒは体調とか大丈夫なの、と君は訊ねた。

ディートリヒ?私は、そのような名前ではない。

テオドリクと呼べ……ということにゃ?

 ドルキマス第3王子。テオドリク・ハイリヒベルク。それが、空軍元帥ディートリヒの本名だ。

いまの私は元帥でもなく王子でもない。テオドリクという名のひとりの男だ。

”この先に空賊たちのアジトがある。ドルキマス軍を撒いたらそこで落ち合おう”

”逃げ切れるか微妙なところにゃ!”

”落ち着け。いま、奴らの目を奪う”

 突然、周囲の霧が濃くなった。ジークの持っているアーティファクトの効果が発動したのだ。

この際に君たちは、逃げ出した。


 ***


船渠には、君の魔道艇とナハト・クレーエ号が並んで停泊している。

こうしてみると、この2隻は形が似ている。そして、ドルキマスのどの艦にも似ていない。

〈原石〉のありかは教えてやった。次はお前が約束を果たす番だ。

 ドタバタに巻き込まれて〈原石〉は、いまだレベッカの手元にある。

完全には取り戻せていないが、ありかがわかっただけでも、前進したと言える……のか?

ドルキマス第4王子ジークユーベル……。まだ空賊ごっこを続けているのか?

第3王子テオドリク。あんたこそ軍人ごっこは、もうやらないのか?

戦いたくなれば、そのうち……な。

俺はいま、母と子分たちを人質に取られている。

あんたが眠っている間、アルトゥールは、実にドルキマスの王らしくなった。

 前のドルキマス王は、人心を踏みにじるひどい王だった。アルトゥールも似てきたと言いたいのだろう。

寝起きに聞かされるにしては、興味をそそる話だな。

 ずっと気だるげだったテオドリクの瞳に、わずかに生気が戻ったように見えた。

アルトゥール王は、武力にものを言わせてこの大陸をドルキマスの旗で埋め尽くそうとしている。

ほう……。この大陸を手に入れようとしているのか?

前線では規律を失った兵たちの略奪や暴行で、人々が苦しんでいる。

兵たちの規律が緩みきってるにゃ。ディートリヒがいた頃に比べるとひどいものにゃ。

空賊として見過ごせん。非道な軍人どもを空から駆逐したい。

奴らをぶっ潰すには、ドルキマス軍の内情に通じているあんたの頭脳が役に立つ。

俺に力を貸せ。

ドルキマスを潰すだと?幼稚で浅はかな願望だな。

なんだと?

ふう。まだ眠気が取れないな……。私は、もう少し眠りたい。

貴君の目的が達成したら起こしてくれ。花でも贈ろう。

結局あんたは、ドルキマスが愛しいわけか。自分がいたら、革命派の旗頭にされちまう――

アルトゥールやいまの支配体制を守るために、みずから身を引いた。そういうことか?

 それがディートリヒの本心ではない……と君は信じているが、ディートリヒは、否定も肯定もしなかった。

たとえドルキマスを滅ぼしたとしても、似たような国が台頭するだけだ。

それとも、貴君が王や皇帝になって、この世界を統べるかね?

空賊の王にはなりたいが……地上の王には、露ほどの興味もない。

権力を欲しがらない者が戦ったとて、先が知れている。

 でも、ジークには平和を愛する心がある、と君は口を挟む。

魔法使い。背中が痒くなるようなことを言うな。空賊が、平和主義者なわけないだろ?

 ジークは、軍人たちに支配されている空から、空賊たちが飛び回れる自由な空を取り戻したいと言った。

 つまり、戦争をなくしてしまえば、その願いは叶うのでは?と君は言う。

戦争の根絶など……それこそ、夢物語だ。

戦争をなくすか……。そのようなこと考えたこともなかったな。

 どうすればいいのか、わからないけどね、と、君は笑って誤魔化す。

できるできないはともかく、魔法使いの気宇壮大な夢に乗るのもおもしろいかもしれん。

 いや、今のはほんの冗談で――と君は咄嵯に取り消そうとした。

人々から戦争狂と郷楡された私が、戦争をなくすために動く……か。暇つぶしの喜劇にしては、おもしろそうだ。

私を目覚めさせた代償として平和が欲しいという魔法使いの願い、叶えてやってもいい。

 そんな夢叶えることができるのか?ディートリヒ……いや、できそうな気がする。

ふん。まるでランプに封じられていた魔人だな。

だが俺は、ドルキマスを叩きのめし、人質を助けられればそれでいい。手を組もう。

決まりだ。さっそく、策を練るとしよう。

 〈原石〉を取り戻したかっただけなのに、話が大事になってしまった。

この先、波瀾万丈の予感しかしなかった。



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