【黒ウィズ】空戦のドルキマス4 Story2
空戦のドルキマス4 Story2 殲滅兵器
空戦のドルキマス4 Story3 ボーディス奪還作戦
空戦のドルキマス4 Story4 黒衣の襲撃
空戦のドルキマス4 Story5 王都決戦
空戦のドルキマス4 Story6 ドルキマス
目次
story2-1 味方
テオドリクは、よく眠っていた。
軍人だった頃は、眠っている姿など決して見せなかったが、いまはもう関係ないとばかりに、安心しきった姿を君に見せていた。
キミが傍にいるから、きっと安心してるんだろうにゃ。信頼されたものにゃ。
むしろ、これまで安心して眠ることもできなかったのかもしれない。
そう思うと、彼が不憫に思えた。
それで、これからどうするつもりにゃ?
テオドリクという優秀な頭脳を手に入れたが、いくら天才といえど率いる戦力がなければ、でくの坊だ。
あの男が指揮する戦力が必要となる。安心しろ、心あたりはある。
ジークの空賊としての顔の広さが、ここにきて役に立つというわけにゃ?
空賊仲間。そして、今のドルキマスのやり方に反発を抱く者たちを集める。
じゃあ、その人たちを仲間に引き入れるのが、当面の目標だね、と君は答えた。
どいて~!轢かれたくなければ、どきなさ~い!
洞窟の奥から凄まじい勢いでトロッコが滑り込んできた。
ぐはっ!
ようやく追いついたわ。あら、ジークとテオドリク様は?
ジークはいま君が轢いたばかりにゃ。
殺されたいのか……っ!
あまりの騒がしさに、テオドリクの目が覚めた。
研究所の様子はどうかね?
ご安心ください。誰も足を踏み入れないように完全封鎖しておきました。
〈原石〉もそこにあるにゃ?
ええ。ちゃんとあるわよ。
……それと、テオドリク様。例のあれは、いかがしましょう。使える目処は立っておりますが。
ふむ……。魔法使い。今後私は貴君の艦に同乗しようと思う。空賊の艦よりも乗り心地はいいだろう。
好きにしろ。
ディートリヒを乗せて飛んだことはいままでもあった。だから別に構わない。
ところで質問だが、貴君はあの魔道艇の性能に満足しているかね?
満足もなにもあんなものだと思っている。でも、これからドルキマスと戦うことを考えると少し不安だ。
ならば、私に任せるがいい。
魔道艇の格納庫を借り受ける。レベッカ。頼む――
アレですね?かしこまりました。
アレ?アレってなんにゃ?
ひとを殺す兵器ならば必要ないよ。軍人ではないのだから、と君は言う。
心配ない。むしろ、誰も殺さずに済むようになる。
それ以上、テオドリクは答えてくれなかった。なんだか、とても嫌な予感がする。
魔道艇がしばらく使えないのなら、それまで俺とー緒に味方を集めにいくぞ。
まずは、ボーディスの王に会いに行く。
***
いまのドルキマスに比べたら、ボーディス王国は、吹けば飛ぶようなちっぽけな国だ。
けどよ。このまま荒波に呑み込まれるのを良しとするのは、いささか己を裏切ってる感がある。
ボーディス本国を守る傭兵たちから届けられた手紙が手元にあった。
傭兵王国ボーディスは、かつてドルキマスに傭兵として雇われていた経緯がある。
フェリクスもドルキマス軍とともに前線で何度も戦った。
そのドルキマス軍が、ボーディスの国土で好き勝手やってるってか……。
横暴なドルキマス兵たちは、地上で略奪をおこない、国民たちに苦難を強いている。
考えるまでもねえ。こいつは、ドルキマスの裏切りだ。
いますぐとって返してドルキマス軍を追い出したい。しかし、それでは全面戦争になる。
小国ボーディスでは、―晩で踏み潰されてしまうだろう。
だからってよぉ!国を躊踊されて、大人しくしてろってのかよ!
王よ。あなたの怒りは、我々の怒りでもある。王の決断を我々は支持する。
いまは、民のことは忘れて、あなたがどうしたいのか。それを教えてくれ。
どうしたいのか。そんなこと考えるまでもない。
ボーディスから……ドルキマス兵を追い払う!奴らはもう昧方じゃねえ!侵略者だ!
そうだ!侵略者を撃ち落とせ!母国の空を我等の手に取り戻すぞ!
へっ。いままででー番デカくて無謀な喧嘩になりそうだぜ。
というわけだ。俺たちは、ドルキマスと戦って国を守ることにした。
無謀な男だ。
ひとつ聞きたい。いま、目の前にいるのは、空賊ジーク・クレーエか?それとも、ドルキマスの第4王子か?
銃に手を置いている。疑念を払拭しておきたいという顔だ。
あいつらが、空でデカい顔をしているのは、俺も気にくわない。
そう言ってくれると思ったぜ。やっぱりあんたは、ナハト・クレーエのジークだ。
フェリクスたちボーディスが味方になってくれるのなら心強い。
それでも、戦力差はまだ天と地ほどもあるけど――
もっと仲間を集めなきゃな。いまのドルキマスに不満を抱いている奴は多い。味方には困らないはずだぜ。
たとえば?
フェルゼン王国の皇女メヒティルト。
イグノビリウムに侵略された祖国を救うために単身ドルキマスに援助を求めにきたあのお姫様か。
フェルゼン王国は、かっては大国だったが、イグノビリウムの侵略で国土が破壊され、いまはドルキマス軍に占領されていると聞く。
向こうも事情は同じだ。反ドルキマス同盟軍に誘えば、きっと乗ってくる。いや、乗せてみせる。
反ドルキマス同盟軍とにゃ?
そういうこったろ?ドルキマスを倒すための同盟。それが俺たちとあんたらを結ぶ繋がりだ。
好きに呼べ。空賊に同盟など必要ないが、その方が人をまとめられるのなら、それでいい。
同盟軍ってことは盟主がいる。それは、フェリクスがやってくれるの?と、君は訊ねる。
いやいやいやいや!俺なんかが、盟主だなんてとんでもねえ!
俺は、盟主なんて面倒なのはゴメンだ。前線で暴れられればそれでいい。
ええー?ジークも断るのかよ?じゃあ……俺?
いやいやいやいや!俺には荷が重いって~。でも~。国王なんだよな~俺って。
……。
……。
いや~。まいったなー。これって、国王の俺がやるしかない空気?引き受けざるを得ない流れ……みたいな?
しょうがねえ。そこまで言うなら引き受けてやるぜ!
フェリクスなら、きっといい盟主になれるよ。
そんな風に言われると照れちまうぜ。お前たちの協力が是非とも必要だ。支えてくれるよな?
盟主である以上、あの男を上手く使いこなしてもらわないとな。
あの男?
貴君の魔道艇への仕込みは、無事に終わった。あとは私が上手く転がしてみせよう。
いったいなにをされたのか、不安でしょうがないにゃ。
で……ででで、でえとりふぃ・べえるうくうううっ!?なんでここに!?生きてたのか!?
あまり騒ぎ立てないでもらえると助かる。いまの私は、ただのテオドリクという名の男だ。
フェリクスが、同盟のリーダーとして俺たちを導いてくださるそうだ。
ほう……?まあ、いいだろう。無能なら、蹴落とすだけだ。
あの……やっぱり、俺には荷が重いかも……。
story2-2 平和への思い
参謀総監殿。どうか、フェルゼン国民の願いをお聞き届けください。
皇女殿下。申し訳ありませんが、まだ軍は退けません。
イグノビリウムの残党はすでになく、フェルゼン王国は、復興に向けて進み出しております。
駐留を続けているおびただしい数のドルキマス軍が、今度は我々の脅威となりつつあります。
それは心外です。フェルゼンは大陸の中心部。フェルゼンが安定してこそ、大陸全土の平和に繋がります。
元帥閣下から受け継いだこの平和を確固たるものにするために、もうしばらくご辛抱いただけませんか?
カミルから見てメヒティルトは聡明で頭の回転の早い皇女だ。
外交官気取りで、ドルキマス本国に乗り込んでくる勇気も賞賛に値する。
決して、世間知らずのお姫様などではない。だから、どこかのタイミングで叩き潰しておかなければいけない。
今は、食糧自給もままならぬ状況です。駐留しているドルキマス軍の略奪に国民たちは、苦裏に喘いでおります。
もうー度お願いします。どうか、軍をお退きください。
ならば、こうしましょう――
我が軍が駐留している土地をドルキマスが買い上げます。あなたたちは、そのお金で食料を買うなり、復興に使うなりすればいい。
そ……それでは!フェルゼンの国土は未来永劫ドルキマスのもの……ということでしょうか?
ディートリヒ閣下は、戦では鬼神のような強さを発揮されましたが、決して心のないお人ではありませんでした。
元帥閣下が去ってからのドルキマスのやり方は、酷すぎます……。人の心が感じられません。
我々の提案を呑むも呑まないも、あなた次第です。決して強要はいたしません。
メヒティルト皇女が、部屋から去ったあとカミルは机の上に積み上げられた報告書を手にした。
どれもドルキマス軍が駐屯する地で発生した略奪や現地民への暴行が起きている状況を知らせるものだった。
カミルは、灰皿にそれらの書類を捨てて火をつけた。
ひとたび軍が駐留すれば、そこは平和な場所ではない。軍人は暴力を行使するために存在するのです。
だから、ドルキマス軍は、けっして正義の軍隊ではない。そうであっては困るのです。
ドルキマスは、いまや大陸の大半を支配するまでの軍事力を有している。
小国だった頃の面影は、どこにもない。
各国から軍を撤退させて欲しいという要求があったと聞いた。
彼らはすでに戦争は終わったと主張します。ですが、私はそうは思いません。
ドルキマス王制を打倒せんとする共和派は、いまだに勢い盛ん――
それに加えて、ドルキマスに抵抗せんとするレジスタンスどもが、各地に出没しております。
この大陸は、いまだ平和とはほど遠いというわけだな?
それは、お主らの強硬な方針が、各国の反発を招いておるからであろう?
ここで軍を引けば、ドルキマスは小国に逆戻りです。それでいいとおっしゃるので?
もう少しやり方を考えろと言っているのだ。
我々はこの国を強くする責任がある。それが民と伝統を守ることになる。
ドルキマス軍が撤退すれば、昔のように各国が争い合う時代に逆戻りだ。私たちは、この大陸の平和の番人とならなければ。
それは……その通りでありますが……。
アルトゥール陛下の平和への思いは、尊ぶべきもの。我々は、陛下の理想を実現するためにお仕えいたします。
うむ。よろしく頼むぞ。
……。
story2-3 戦端
……緊張するにゃ。
魔道艇の舵を握り、操縦する君たちのすぐ後ろに――
前を向いて操縦したまえ。
黙って背後に立っていられると、気になって操縦に集中できないんですけどね、と君は言う。
私は単なる同乗者だ。艦長の貴君が気にすることはない。もちろん命令とあらば、離れた場所にいるがな。
見えないところに居られると、それはそれで落ち着かない。ここにいてください、と君は答えた。
格納庫になにを積み込んだにゃ?
それは、言えんな。
そうあっさり返されてしまうと、問い詰める気も失せてしまう。
”これからどうすんだ?テオドリクさんには、なにか良い案でもあるんで?”
ないこともない。
”ドルキマス軍は大陸のどこにでもいる。飛んでいれば、そのうち出くわすはずだ”
”ひとつひとつ潰していっても平和にはほど遠いぜ”
”ある程度勢力を削ったのち、ドルキマス城に直接乗り込む”
”その前に俺たちは蜂の巣にされちまうよ。ここは、元ディートリヒ元帥閣下のお知恵を拝借したいものだな”
圧倒的な戦力差。はっきり言ってこちらからドルキマスに喧嘩をふっかけるなど、正気の沙汰じゃない。
それでも、わずかな希望は、こちらにディートリヒだった男がいること。
我々が望む平和は、恐怖をもって勝ちとるしかないだろう。
”恐怖?無差別テロでもやろうってのか?そんな策は、盟主として了承できねえぜ?”
そのような無粋なものではない。もっと美しく、創造的な恐怖だ。
ディートリヒの言葉はいつもわからないが、今回はいつも以上に意味不明だった。
”おっと、敵影発見だ!”
ドルキマス軍の哨戒艦が複数見えた。そして、ー緒にいるのは――
”その艦はもしかして、ボーディスの王様の艦かしら?”
よお。ライサ姉さん。ドルキマスの艦とつるんで楽しくお空のデートか?
南方の小島でドルキマス艦隊の包囲を攬乱して逃げた艦艇があるの。それを探している途中よ。
もしかして、私ってラッキーだったのかしら?
俺が率いる反ドルキマス同盟軍にあんたたち竜騎軍を誘おうと思っていたところなんだけどな。
反乱なんてあなたらしくないわね。もう傭兵は辞めたの?
勝つって分かってる方につくのはつまんねえ。負けそうな奴を勝たせてこそ、ボーディス傭兵団の価値があがるってものよ。
あなたとは考え方が合わないわね。私は、勝つ方につくわ。
案外、つまんない女だったんだな?
夢想家とは、付き合いたくないわ。
撃て!
竜騎軍の竜撃砲とフェリクスのゲヴィッター号。両者の放った砲弾が、空中でぶつかって弾けた。
”俺は、ドルキマスの哨戒艦をやる。味方を呼ばれたら面倒だ”
1隻は逃せ。
それだとドルキマス軍の本隊がやってくるにゃ。
それでいい。それが狙いだ。
わざと敵をおびき寄せて、包囲されるのが狙い?そんな戦い方など、あるのだろうか。
ドルキマス軍に宣戦布告する必要があるはずだ。堂々とやるなら来賓は多い方がいい。
キミ、どうするにゃ?
テオドリクに運命を預ける――彼を目覚めさせると決めた時、すでに覚悟は決めている。
”敵の集結を待つだと?そんな戦い方があるかよ?”
”俺は、賛成だ。ちまちま戦うよりも、面倒がなくていい”
”ジークまで……。もう、知らねえぞ俺は!”
***
哨戒艦から報告!ドルキマス南方上空で、目標の小型艇1隻と空賊艦2隻を捕捉!
よくぞみつけてくれた。クラリア公爵。
はっ。こちらに。
そなたに反逆者ディートリヒ・ベルクの捕縛を命じる。
わ、私めにそのような大役、務まりませぬ。
そなたは、ディートリヒ元帥の子飼いの将。誰よりも彼の性格や戦い方を熟知している。
この役目は、そなたにしか務まらん。それに、クラリア公爵こそ、彼と再会したいのではないのかね?
いえ……私は……。
ドルキマス王アルトゥール陛下のご命令だ。王への忠誠を示す時ではないか?
エルンストをお前につける。戦力としては申し分ないだろう。
は……はっ!
父とも、兄とも慕ってきたディートリヒを犯罪者のように捕縛せよとの命令は――
彼女にとって到底受け入れられるものではなかった。
だがここで断れば、ドルキマスにさからうも同然。きっと罰せられる。
自分ひとり罰せられるのであれば、まだいい。クラリアの犯した罪は、第3艦隊の部下たちにまで及ぶかも知れない。
クラリア・シャルルリエ!返事はどうした?まさか、本当にドルキマスヘの反逆を企てているのか?
……ここで逆らってなんになる?私もお前もドルキマスの軍人だろ?
軍人。その言葉が、クラリアに重くのしかかる。
つ……慎んでお受けいたします。
アルトゥールは、満足げに微笑んだ。
ブルーノ・シャルルリエから親子2代にわたって、ドルキマスヘ忠誠を誓ってきた股肱の臣。
私は、そなたを娘のように思っている。私の気持ちを裏切ってくれるな?
……失礼いたします。
傍にいたユリウスは、アルトゥールの表情の変化を見て先代の王グスタフに似てきたと感じていた。
やはり、血より濃いものはないか……。
***
バルフェット提督。なぜ、我々がいまさら第3艦隊の護衛になど?いまの戦力では、必要ないのでは?
「失踪していたディートリヒ元帥閣下が公に姿を現わし、ドルキマスと対決姿勢を示せば――
シャルルリエ中将は、ドルキマスを裏切る……。その時のための監視役だ。
まさか、あのお方がドルキマスを裏切りますかね?
わからんが、参謀総監どのはそう見ている。あの子が、バカでないことを祈っているよ。
それに、そのための保険も打っておいたしな。
えへん。シャルルリエ提督の側近。ロレッティです。
まさかこの娘が、内通者なのですか?
内通者とは心外だなー。
ドルキマスに忠誠を誓う兵として、バルフェット提督のために情報を集めているだけだよ。
ロレッティ・カナラ少尉は、シャルルリエ提督の首に付けた鈴だ。なにかあれば、鈴を鳴らして知らせてくれる。
信じられるのでしょうか?
あたしは、元空賊ですから。貰うものさえ貰えれば、なんでも言う事聞きますよ。わんわん!
大義だ信義だのを振りかざす奴よりも信じられる。
それで、クラリア・シャルルリエの本音はどうだ?聞かせてもらおうか?
提督は心中穏やかじゃない様子でした。いまもディートリヒ閣下への思いと、ドルキマスヘの忠誠心の間で揺れ動いています。
予想どおりだ。……それから?
しきりに誰かと連絡を取っていました。名前は確か……フェリクス?
ボーディス王フェリクス・シェーファーか?
さあ、そこまではわかりません。
貴重な情報だった。いったんシャルルリエ中将のところに戻ってくれ。
お役に立てたようで嬉しいです!それでは!
……シャルルリエ中将。バカなことは考えるな?
story2-4 テオドリクの戦争
あ、いた。元帥いたよ。
どこどこ?あ、あの小型艦端?
眼帯してないけど、あれは間違いなく失踪した元帥閣下だよ。
うそ?元帥なにしてるの?
なんか飲んでる。紅茶飲んでる!
あと、クッキー食べてる!紅茶とクッキー食べてる!膝に落ちたクッキーの粉、手で払ってる!
見たい見たい!あたしも見たい!
ロレッティ……。遠眼鏡を貸してくれ。
クラリアは、対峙している小型の魔道艇にレンズを向けた。
遠眼鏡の向こうに確かにディートリヒ・ベルク本人がいた。
ご無事でよかった……。
再会できたとはいえ、いまは、敵と味方。そしてクラリアは、彼を捕らえる任務を受けている。
どうして、ドルキマスに反逆したのでしょうね?
あのお方の考えていることは、いまも昔も……私にはわからん。
シャルルリエ提督!第10艦隊、第9艦隊も、到着しました!
カミル参謀総監が指揮する第9艦隊。レオナルト提督が指揮する第10艦隊。
そして、クラリアの第3艦隊。エルンストの第4艦隊も、同じ空域に艦を並べていた。
空軍の主力が、狭い空域にひしめいている。すべては、ディートリヒ・ベルクだった男を捕らえるために。
報告によると竜騎軍と小競り合いを繰り広げたあと。この空域に留まったまま動こうとしないらしい。
フロイセ少佐。彼は、なにを考えているのかわかりますか?
わかりません。ひとつ言えることは――我々は、ここにおびき寄せられました。
向こうは空賊艦です。ドルキマス空軍をー掃できる火力など持ち合わせていないように思えます。
ですが、この窮地に彼がなにをしてくるのか、とても興昧がありますね。
不敵な笑みを浮かべたカミルの横顔。敵がなにかを仕掛けてくるのを子どものように待ち望んでいる。
この男も、ディートリヒとは別の意味で戦争を好む人種なのだとローヴィは理解した。
砲撃しますか?
それはいけません。アルトゥール陛下からは、生きている彼を連れてくるように命じられております。
カミルもディートリヒ元帥が、テオドリク王子であることをアルトゥールから内々に聞かされていた。
虜囚の辱めに甘んじるようなお人ではありません。
戦場で安らかな眠りに就かせてあげるのが、あのお方にとっての幸福でしょう。
軍人としては、あなたはとても優しい。ですが、私もあの男に興味があります。
彼は――再びこの大陸に戦争の火種をまき散らしてくれる……そういう男です。
”望みどおり、敵をすべておびき寄せたぜ。いったいなにをしでかすつもりだ?”
”はやく号令を出せ。俺が、すべて撃墜してやろう。”
”おいおい、まともにやって勝てる数だと思ってるのかよ?”
”1隻で100艦ずつ撃墜すれば勝てる。”
”そうか!そいつは簡単な話だぜ――”
”……って、なるかぁ!?”
みんなを地獄ともいえる状況に引き摺り込んだ張本人は――
優雅に紅茶を飲んでいた。
軍人だった頃は、自由にお茶を飲む時間すら確保できなかった。
私はいま、とても解放された気分でいる。
テオドリク様。ドルキマス軍の無線の傍受に成功しました。これで、彼らにも声を届けられます。
レベッカは、無線のマイクを手渡した。
なにをするつもりにゃ?
もちろん戦争をするつもりだ。これから、世界中の人間たちに恐怖を植え付けてみせよう。
***
私はドルキマス第3王子テオドリク。死んだはずの私が舞い戻った理由はただひとつ。
この大陸から戦争を消し去るためだ――
テオドリクの声は、無線を通じてドルキマス全軍――そしてドルキマス本国にも届いていた。
古代魔法文明の遺産ともいえる聖なる石の〈原石〉には、膨大な魔法エネルギーが蓄えられている。
その〈原石〉は、いま私の手元にある。
そして、私が搭乗しているこの魔道艇には、〈原石〉のエネルギーを用いて放つ、殲滅兵器が搭載されている。
この兵器は、都市ひとつを破壊するほどの威力を持つ。
意味がわかるかね?すべての国家の安全と平和は、私の手の中にあるということだ。
私はこの大陸の無用な戦争――不必要な残虐行為――ひとがひとを踏みにじる悪行――
あらゆる理不尽に対して区別なく攻撃する意思がある。
つまり、私の要求はただひとつ。平和を私に委ねろ――ということだ。
もし、私の要求が気に入らないのなら、私に挑むがいい。
すべては、諸君らの意思ひとつだ。
テオドリクのメッセージは、終わった。
そのメッセージを聞いた者たちの反応は様々だった。
大量破壊兵器だと?そんなものブラフに決まっている。あのお方らしいやり方だ。
だが聖なる石の〈原石〉は、紛れもなくテオドリク殿下の手元にあるはず。あれを利用した兵器はすでに……。
戦争がなくなるなら、あたしは賛成だなー。クラリア提督もそうじゃない?
そう簡単にはいかんだろう。ひとりの男が、平和の鍵を握るなど……認められるはずがない。
そうきましたか!?素晴らしい……平和をー手に握ろうなど、なんという不遜。なんという大胆さ。
我々ドルキマス軍の矛先を、自分ひとりに集める作戦でしょうね。
テオドリク……。あのお方の考えていることは私にはわからない。
ただ……あのような頭の切れる人に平和の鍵を握らせておくのは、危険極まりない……。
平和は軍人が作るべきだと?
軍人たるもの、そう考えるのが当然でしょ?世界をひとりの独裁者に委ねるなど、あってはならないことです。
ご命令を……。
ただちに、小型艇を撃墜するように。向こうの安全は、考えなくてもいい……。
……はっ。
***
やはり、撃ってきたわね。
せっかく道化を演じたのに、思いが伝わらなかったとは悲しいことだ……。
本気でそう思っていないくせによく言うよ。と、君は呆れた。
なにもかも貴君には、わかってしまうのだな?
空で散るには、まだはやいわ。ここは逃げましょう。
魔法使い。あとは頼む。
この状況で頼まれてもなー!
逃げる……といっても、さすがにこれだけの敵に囲まれたら難しいにゃ!
四方八方から砲撃を受けている。墜落は秒読み状態。
”俺が囮になる、お前たちだけでもさっさと逃げろ。魔道艇には〈原石〉が積み込まれているのだろ?”
”そうだ。あの石が爆発したら、とんでもないことになる!俺たちに構わず先に行け!”
同盟を結んだばかりで、盟主を捨て石にする……そんな同盟ありえない。
ドルキマス軍は、私の言葉を信じないようだ。ならば……少し、信じさせてみるか。
魔法使いさん。右脇にある水色のレバーを引いてみて。
いつの間にか操縦席の隣に、色取り取りのレバーが設置されていた。
これを引くとどうなるにゃ?
あっ。
次の瞬間、魔道艇の砲門から、真っ赤な光のような弾が放たれた。
ままま……まさか、今のは殲滅兵器発射のレバーだったにゃ!
さあ、どうかしらね~?
***
敵の小型艇から謎の弾体が発射されました!
なんだと!?まさか、〈原石〉を使った殲滅兵器とやらか!?
赤く光る物体は、ドルキマス艦隊を目標に飛翔する。
なんでもいい!回避だ!回避しろ!
間に合いません!
赤い弾体は、ドルキマス艦隊の中央で弾けた。網膜をつんざくような白い光が、ドルキマス軍の視界を覆い尽くす。
終わりだぁ!
つまんねえ、人生だったぜ!
光が止んだ。
戻った景色には、いつもの空が残っている。
なんだったんだ?不発か……?
空賊と小型艇が消えています!
くそっ。いまのは単なる目くらましか!?追え!絶対に逃すな!
story2-5 恐怖の種
なんとか、敵艦隊からは逃げ切れたにゃ?
”逃げてばかりは性に合わん”
”戦力が整わない現状では、ドルキマスと正面からぶつからないように立ち回らないとな”
”いつになったら、ドルキマスと正面からぶつかれる?”
これからよ。テオドリク様が植えた恐怖の種が全世界に広まったら、世論は二分されるわ。
きっとテオドリクを支持する層も現われる。彼らを味方につけて勢力を増やす。ということだろうか?
今はのんびりと、混乱を眺めていればいいのだ。焦ることはない。
やがて、味方と討つべき敵がはっきりする。動くのはそれからでいい。
テオドリクの演説は、第3王子の声明として本国のラジオや新聞などで国民に伝播した。
ドルキマス国民は、死んだはずの第3王子が生きていたことにまず驚いた。
前のグスタフ王を暗殺したのも、ひょっとして第3王子じゃないか?
いったいどんなお人なんだろうな?
殲滅兵器とか、なんだか物騒だねえ。
ドルキマスに向けて撃たなきゃいいけど。だが、それで戦争が終わるなら俺は賛成だ。
いまのドルキマス王が戦争を終わらせられないなら、第3王子に任せてもいいんじゃないか?
アルトゥール王が無能だって言いたいのか!?いまも前線で戦っているドルキマス兵のことを少しは考えろ!
民から奪うことしかできない無能どもになにができるって言うんだよ!?
テオドリク第3王子がもたらす殲滅兵器によって訪れる〈恐怖による平和〉を求める者と――
それには従わず、ドルキマス軍による〈統制による平和〉を求める者とで国論は2分された。
私の想像を超える手を打つ人だ。あの人が、もたらす平和……。少しだけ見たい気持ちになりました。
おっと、アルトゥール王にお仕えする私が言っていい台詞ではありませんね。
カミルの眼の前には、目を閉じた女性が座っていた。
後宮に与えられた部屋からほとんど姿を現すことのない人物。
彼女の名はリント・クレーエ。ジークの実の母親だった。
私は世間から忘れられた身です。いまさらなんの用ですか?
古代魔法文明が繁栄していた時代、人々は日常的に魔法を使い、いまとは違つた文明が地上にあったと言われています。
そして、その文明の生き残りが、あなた方クレーエ族。
昔の話です。今の私には、ほとんど魔力が残っておりません。
クレーエ族のー族は、魔法を使えるという特殊な体質から、ほとんどが捕らえられ、殺された。
古代魔法文明の生き残りは、あなた方クレーエ族だけではありません。
かくいう私も、魔法の力を僅かに宿しています。
まさか……。それを私に教えてどうするつもりですか?
私とあなた、そしてあなたの息子のジークユーベル。我ら3人で古代魔法文明の復興を目指すのもおもしろいと思いまして。
私と……息子は関係ありません。もう長い時間会っておりません。
息子さんはそう思っていないようです。あなたを救うために、仲間を率いてこちらに向かってきます。
そうですか……。
このままでは、ジークユーベル殿が混乱を招くことになります。ですが、私にお任せください。
あなたとあなたの息子を、私が守って差し上げましょう。同じ魔法文明の力を受け継ぐもの同士です。
……このとおり、私は目が見えません。なにもできない無力な女です。どうか、私に代わって息子を助けてください。
わかっております。どうかご安心を……。
空戦のドルキマス4 Story2 殲滅兵器
空戦のドルキマス4 Story3 ボーディス奪還作戦
空戦のドルキマス4 Story4 黒衣の襲撃
空戦のドルキマス4 Story5 王都決戦
空戦のドルキマス4 Story6 ドルキマス