【白猫】オーバードライブ紅蓮2 Story3
オーバードライブ紅蓮2 Story3
story 過ぎ去りし日々
――ファビオラは俺とは違ってすべてを持っていた。優しい家族、あたたかい布団、友人、未来、夢、希望。
俺は彼女が憎かった。すべてを持ってる彼女の笑顔を真正面から見れなかった。
結論をいえば、俺はファビオラを憎みきることはできなかった。
太陽があるから日陰がある。日陰者が太陽に挑むのは、土台無理な話だ。
俺は、いつもなにかに怒っているはずだった。笑い方なんて知らないはずだった。
だが、ファビオラの前では自然と笑っていた。
俺には、なにもないと思っていた。自分が不幸なのだとふてくされていた。
生まれてはじめて幸せを感じた。彼女との出会いに希望を見出し、二人の未来に夢を抱いていた。
あの頃に戻れるのなら、俺はなんだってする。
なんだって――
どうした?ほうけた顔をして……
いや、少し昔を思い出していた。気にするな、よくあることだ。
…………
医者として忠告する。<励起薬>を使うのはやめろ。
…………
君の資料はレヴナントにもある。複数の禁忌を体に施術し、それを強引にコントロールしている。
俺も患者に禁忌を施術したことがあるから、わかる。
禁忌の術式はーつだけでもコントロールは難しい。だからこその禁忌なんだが……
術式の抑制と励起のために薬剤を投与しているんだろう?
……お前には関係ない。
記憶の混乱は励起薬の影響だ。まっとうに生きたいならすぐにでもやめたほうがいい。
……島の人間は、普通だな。
表面上の会話なら、まともだよ。だが、予想外の質問にはわからないという反応しか返さない。
(研究員を知る人間の反応がおかしかったのは、それが理由か……)
――コロセ――
……なるほど、たしかに普通じゃない。
彼らは操られてるだけだ。手心を加えてやるのが紳士的だと思うぞ。
……状況による。
コワセ。
(痛みを感じないのか?……痛みより命令が優先か)
……セーラが心配だ。
人工精霊を使う少女か?彼女なら、連れ去られるのを確認したぞ。
……こいつらにか?
ああ、君を安全な場所まで運ぶことを優先した。
…………
俺だって心は痛んだよ。だが、確実に戦力になる人間を選ばざるをえなかった。
…………
取捨選択は重要だ。危険な目にあわせたくないなら、そもそも子供など連れてこなければいい。
……ああ、わかってる。忘れてくれ。
追加だ。存外、反応が早い。
……対処する。
story きっと明日は……
とりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!
術式展開!ロート・テンペスタ!!
うわあああっ!!
え?
おい、レクト、なにやってんだ!スネ狙え、スネ!!
うああああっ!!
あ、スネ狙ったら本当に倒せた。
けっこうやるな、レクト。
でも、この量……
それでもやるっきゃねー。とりゃりゃりゃりゃりゃ!!
くっ!!
リネア!!
くっ!そこをどけよ!!
(リネアがあぶないっ!)
――変身!!
ジャアアアアアア!!!
<――コワセ――――コロセ――
この力に頼ればいい。願うがままに求めるがままにこの力を使え――>
(黙れ!!)
ジャアアアア!!
(やめろ!彼女は敵じゃない!!やめろ!!)
レクト……
(やめろおおおおおおおお!!)
はあ、はあ、はあ……
……大丈夫?
……ごめん。
…………
……
レクト、一人での行動は危険よ。
……リネアだってわかってるだろ。僕は君を攻撃しようとした。
でも、しなかったじゃない。……運がよかっただけだよ。
それに、戦ってわかったんだ。変身できなければ僕に価値なんてないって。
……それ、本気で言ってるの?
本気だよ。僕は、役に立ちたい。でも、かえって迷惑をかけてる。
リネアを傷つけるかもしれないってわかってたのに、僕はまた変身してしまった。
ふ~ん……レクトの価値が変身だけなら、あたしはそれを利用するために一緒にいるってことになるわね。
へ~、あたし、かなり嫌な奴だと思われてたのね。
ち、違うよ!ただ、変身して戦うこと以外、僕にできることなんてないし……
あのね、レクト。あんたは自己評価が低すぎ!あんたは優しいし、努力家でしょ?
あたしやセーラのために、使いたくない力を使ってくれた。
変身できなくても戦おうとした勇気だってある。充分、人として誇れることだわ。
あ、ありがとう。
偉ぶる奴もどうかと思うけど、ネガティブすぎるのも考えものよ。
……うん、気をつけるよ。
はい、じゃあ、この話はおしまい。さっさと術者見つけて、もとの世界に戻りましょう。
(リネアが僕を褒めてくれた……こんな幸運があるなら、明日は雨かな……)
……いや、明日はきっと晴れだ。
story 過去の飴玉
ファビオラの卒業式の日に、俺はプロポーズをした。彼女は笑顔で受け入れてくれた。
飴玉を口のなかで転がすように、過去を振り返ると、目頭が熱くなる。
熱を帯びた涙の予感は、胸へと滑り落ち、やがてそれが腹の辺りで灼熱に変わる。
――これは怒りの炎だ。
――この炎が消える時、俺はファビオラのもとへいくことができるのだろう。
――もう少しだ。
どうにか、ここまで来れたな……
…………
君は必要なこと以外、喋らないな。雑談は円滑な関係を築くのに有用だぞ?
情が移れば、お互い、やりづらくなるだろ?
……意外な答えだな。それでも、お互いを理解するのは重要だ。敵同士ならなおさらな。
宿で赤いヴァリアントの話をした時君の目の色が変わった。なにかあったのか?
……ただの私怨だ。
君もイングニウム・コードに首をつっこんだのか?
イングニウム・コード?
知らないのか?
知らん。説明しろ。
古代の大天才。コーニッシュ・イングニウム。彼の残した技術や道具はもれなく禁忌だ。特別にイングニウム・コードと呼んでいる。
そのイングニウム・コードをすべて解析すると、なんでも願いが叶う。
くだらない。
それが、あながち嘘じゃない。
赤いヴァリアントはイングニウム・コードを守るために現れる。
っ!
博士は超のつく天才だった。古代の人間のくせに今の俺たちよりはるかに高度な技術を開発していた。
なんでも願いが叶うというのは比喩だが、技術で不可能を可能にできる可能性はある。
赤いヴァリアントが現れたのなら、この島の禁忌もイングニウム・コードなのか?
ああ、そういうことだ。
だから、この島の禁忌は、持ち出さなければならない。そう厳命されている。
…………
最後にやりあう時は、手心をくわえてくれると俺としては助かるな。
story 男の覚悟
この世界に来てから声が聞こえるか……
そうなんだ。変身すると自分の声が戦うことを煽ってきて……
レクトも変身の術式を持ってるでしょ?ロアノク島の術式と反応してるのかもしれないわね。
反応?
魔術って互いに反応しあうことがあるの。共鳴したり、変質したり。
その応用で魔術で魔術を打ち消したりするんだけど……って、これ、基礎魔術学の話よ?
つい、ド忘れしちゃって……
ただでさえ禁忌は謎が多いわ。その禁忌同士が反応すれば、なにが起こるかなんて、誰にもわからない。
レクト、もう変身はやめて。あなたが思ってる以上にリスクが大きい。
……わかったよ。
それで、その術者ってのは見つかったのか?
探してみたけど、今のところは……セーラ、どうだった?
んー、そうだな。わかんねーな。
リネア、セーラは、ここにずっといたんだよね?
このなかに術者がいる可能性も否定できないでしょ?セーラにそれとなく探っておいてもらったの。
でも、どうして?
この世界が術者の作り上げた精神世界なら、街が元になってるわけでしょ?
黒幕は、村に長く住んでた人間と見るのが妥当だわ。
なるほど……
おい、これからどうするんだ?
ここはー回、襲撃を受けてるし、場所を……
<それは屋根を突き破って、落ちてきた。>
……どういうこと?どうしてレクトと同じ……
ジャアアアアア!!
ひいっ!!
リネア!!
スネがお留守だ、このヤロー!!
きゃっ!!
に、逃げろ!
ダメだ、外にも化け物が!!
ジャアアアアアアア!!
(この戦力で勝てる見込みはない。逃げるにしても、街の人を守りながら全員で撤退は不可能。なにかを切り捨てるしかないわね)
レクト、セーラと街の人を連れて、安全な場所まで逃げて。
あたしが時間を稼ぐから。大丈夫、やられたって、本当に死んじゃうわけじゃないし。
…………
レクト、聞いてる?
<レクトはリネアの前に出た。>
……役割は交代しよう、リネア。僕が戦う。
僕から離れてくれれば、誰も傷つけないで済むだろ?
レクト、変身は――
――変身。
story 喪失
この先に禁忌があるのか?
ああ、そのはずだ。遺跡の祭壇が術式の中心。そこに<コア>が置かれていたらしい。
コア?
魔術の術式が記録された器具だ。それを起点にして、島全体を覆う大規模な魔術を展開するらしい。
あくまで報告書の記載だから事実かどうかはわからないが……
奥に光が……
地下の大空洞か……
!
<遺跡の中央に三人の男女が倒れていた。>
君と一緒にいた少女と、セーラと少年。三人とも息はある。ソウルに問題も……
このソウルの反応……やはり、この子は……
赤い……ヴァリアント……
<赤いヴァリアントが、壁にはりつけられていた。>
ああ……お前は本当に変わらないな……
<ウェルナーは励起薬を取り出し、その針を自分の首に突き立てた。>
待て!なにかおかしい。どうして赤いヴァリアントが眠って――
第拾参術式装填――
――術式展開――
――変身――
グルアアアアアアアアッ!!!
(やっと、ここで!!仇を討てるっ!!)
持て!!
(体が動かない?なぜだ!?)
やはり、術は効いていたか。反応が乏しいから心配だったが……この距離なら問題ないようだな。
(レナートアラルコン!?)
(花園の研究員がなぜ!?死んだはずだ!)
レナート博士……報告ではレヴナントの襲撃で、死んでるはずだが?
ああ、だが、殺されかけましたよ。どうにか逃げ延びましてね。
<服をたくしあげた腹にはケロイド状の傷跡があった。>
この遺跡は広い。隠れて傷を治す場所は腐るほどあります。
傑作なのは私が動けるようになった時には、レヴナントの連中が皆、殺されていたことです。
……このはりつけの赤いヴァリアントにか?
そうです。連中が解析していた資料を読んでいたら、私も襲われましてね。
とっさにコアを手にし、術式を起動した。
結果がこれですよ!すばらしい力です!!
……貴様の不運は理解する。だが、なぜ未だに術を停止させない?花園にも報告をしない?
そんなの、必要ないからに決まっているでしょう?
わからないな。教えてくれ。
私は今、島中の人間と精神を共有しているんです。それがこの禁忌の力。
この全能感を知ってしまえば!かつての短小たる個人に戻れはしません!!
私は、この術式を全世界へと広げ!人類を超越した存在になるのだから!
そのためには優秀な脳が必要です。そこに眠っている三人は実にいい!
あなたの脳も私がていねいに使ってあげましょう。
……憐れな男だ。獣に堕ちたか。
お前の相手はこいつだ!ウェルナー!!やってしまえ!!
story 赤より紅く
レクト!
リネア、よそ見すんな!
ありがとう、セーラ。
術式起動。呪文はパス!
出てくる私がいけないんですかね?ほんと、詔証用の呪文をきちんと……
リネア、あたしと二号で魔物はぶっちめる。おまえはレクトのフォローに回れ。
あのままだと、レクト、負けるぞ。あたしの野生の部分がそう言ってる。
わかった。魔物は任せる!
あいよー。行くぞ、二号!
いいんですけど、呪文をね……
あとで言うから!ツケとけ!!
呪文のツケとか聞いたことないんですけど?
ジャアアアアア!!!
(強い……)
(重い、速い……受けされ……ないっ!?)
グウ……
<なにを我慢する必要がある?僕は強い。本気を出せば、こんな奴に負けたりはしない。>
(うるさい……)
<殴るために拳を握る。傷つけるために武器を持つ。敵を倒すために変身する。
素直になればいいだけだ。僕には欲求を満たすだけの力がある。>
(僕は違う!僕は、そんなこと望まない!!)
<――なら、死ぬだけだ。>
ガアアアアッ!!
(痛い……怖い……もう嫌だ……)
<暴力を振るわれるのは辛い。なのに、どうしてこの世から暴力はなくならないのだろう?
それは暴力を振るうことが楽しいからだ。生物には暴力を楽しむコードがある。
他の生物を殺し壊し、食らう。空腹を満たし、生存を勝ち取る。原始的な自己肯定の快楽がある。
それを否定するというのは、人間性の否定だよ。>
(それじゃあ、獣と変わらない!)
<でも、ほら、目の前にいるのは――
ジャアアアアア!!
<――獣以上の獣だ。>
グゥ……
<まだ素直になる気はないのか?無駄に頑固だね。>
(お前はいったいなんなんだ!?)
<僕は僕だよ。僕が押し殺してきた僕。このまま押し殺し続けたら、自分で自分を殺しちゃうよ?>
(お前は僕じゃない……僕は……)
エテルニタ・モメント!!
ジャアアア!!
くっ!この程度で!!負けたり!!しないんだから!!
ソウル充填!!術式展開!!いっけええええ!!
ジャアアア!!
(リネア!どうして、体が動かないんだよ!!)
<その傷で動こうってのが無理な話だよ。>
きゃあっ!
<――僕には不可能を可能にする力がある。>
(このままじゃあ……リネアが……)
<――だって僕はヒーローだからね。>
ジャアアアア!!!
ガッ!!
グルアアアアア!!ジャアアアア!!
レクト……?
グルアアアアアア!!
……倒したの?レクト……が?
ジャアアアアアアアアア!!