タツノシン・思い出
隻眼剣客 タツノシン・クロガネ 世界を放浪する剣客。 登り鯉のイレズミを背に、刀一本で渡世を送る。 |
2010/00/00 |
思い出1
俺ァ、タツノシン。しがない流れの傭兵でさァ。
<派手な着物をまとった隻眼の男が、
そう名乗って、ニヤリと笑った。>
不器用な性分でね……
斬った張ったくらいしかできやせんが、
それなら負けねェつもりでさァ。
よろしく頼んますぜ。主人公の旦那。
ちょ、ちょっと怖そうな人ねぇ……
そうかしら?朗らかでいい人そうだけど……
よしてくだせェ、お嬢さん。
俺ァ、めっぽうおだてに弱くてね。
<タツノシンは、照れくさそうに頬をかく。>
ま……俺の腕が必要な時ャぁ、いつでも呼んでくだせェ。
賃金の分は、きっちり働きますぜ。
思い出2
うわっ、すっごいイレズミ!
<背中に描かれた、大きな鯉のイレズミ―――
その持ち主が、くるりと振り向く。>
おや、キャトラのお嬢。
あいにく、この鯉はあげられやせんぜ。
いくら捨てたくっても、
身体に刻まれちまったもんは、ね……
後悔……してるんですか?
情けねェ話ですがね……
組から足を洗った今じゃ、邪魔なだけでさァ。
<タツノシンは、さびしそうに刀を持ち上げた。>
こいつも同じでさァ。
捨てられるもんなら捨ててェが……
俺ァ、こうつでしか食っていけねェ。
仕方ねェんです。こいつらは、
俺が一生背負っていかなきゃならねェ<業>なんでね……
思い出3
『組から足を洗った』って言ってたけど、
どんな事情があったのぉ~?
大したことじゃありやせん……
よくある話ってやつでさァ。
昔、裏の組織で用心棒をやってたんですがね……
ある女と出会って、抜ける決心をしたんでさァ。
ロマンチックじゃな~い!それで、その女の人は?
抜けるときのゴタゴタで、離れ離れになっちまって。
行方知れずでさァ。
そうなんですか……悲しいですね……
俺みてェなロクデナシにゃ、
似合いの結末かもしれやせんがね……
組を抜けたからって、
俺がやってきたことは帳消しにはできねェ。
アンタさんがたの手伝いで、
少しは罪滅ぼしできればと思いやすが……
それでも俺ァ、誰かに後ろから刺されたって文句は言えねェ。
そういう生き方をしてたんでさァ。
文句、言います。
お嬢さん……
もし、タツノシンさんを刺すような人がいたら、
私、文句を言います。
今のタツノシンさんは、とってもいい人なんですから……
……かたじけねェ。
<うつむくタツノシン。
その目元は見えないが、わずかに震えていた。>
俺なんかにゃ……もったいねェ言葉でさァ。
思い出4
あら、タツノシン。なんかうれしそうね。
おっと……顔に出てやしたか?いけねェ、いけねェ……
<タツノシンはゆるく崩れた表情をあわてて取りつくろった>
いいことがあったみたいですね。
ええ……先日、知り合いに頼まれて
若ェ忍者と仕事をしたんですがね。
小せェのに元気な娘っこでねぇ……
ついつい、世話を焼いちまって。
俺にもあんな娘がいたら、なんて、思うとね……
意外と子煩悩かもね、タツノシン。
へへ―――かもしれやせんねェ。
思い出5
…………
<タツノシンが、難しい顔で黙り込んでいる。>
タツノシンさん……何かあったんですか?
……昔、組を抜けた時にね、女に、短刀を預けてたんでさァ。
その短刀にゃ、俺の背中の登り鯉と同じ意匠を刻んであるんですが―――
『登り鯉の短刀』を持った若ェ女の剣客のウワサを聞いたんでさァ。
それって……
もしかしたら……アイツが生んだ、俺の娘なのかもしれねェ……
だったら、いつか会えるかも……
―――怖ェんでさァ。
娘からしたら、俺ァ、ロクデナシのクソ親父だ。
もし、恨まれてたら……
名乗り出ねェほうがいいんじゃねェかって……
笑ってくだせェ、主人公の旦那……
俺ァ―――しょせんどこまで行ってもロクデナシだ……
思い出6
こいつァ……あったけェ光だ―――
まるで勇気が沸くみてェだ……
ルーンは心を照らし出す輝き……
その光は――その勇気は、
あなたのなかにあるんです……タツノシンさん。
こんな光が……俺の、なかに……?
<タツノシンは驚いてこちらを見つめ――
――やがて、強く拳を握った。>
面目ねェ……情けねェところを見せちまった。
どうするの、タツノシン……?
そいつが俺の娘かどうか……
そもそも会えるかどうかもわかりやせん。
ですがね……俺がこの登り鯉を背負っていりゃあ、
あっちが俺を見つけてくれるかもしれねェ。
だから……迷惑でなけりゃあ、
引き続き厄介にならせてもらいますぜ。
迷惑なんてこと、ないです。
頼りにしてるんだからね?タツノシン。
任せてくだせェ。
<ニヤリとするタツノシン。
その笑みにはこれまで以上の凄味があった。>
このタツノシン――どこまでもお供いたしますぜ!
流浪の傾奇者
その他
[END]