【白猫】クロー・思い出
獅子髪の歌舞伎役者 スオウ・クロー・ヨシヤス cv.樋口智透 芸に生きる派手好きの歌舞伎役者。 何ものにも縛られない暮らしを好む。 | ||
2015/02/25 |
フォースター9th Story
思い出1
知らざぁ言ってきかせやしょう!
わわっ、なになに!?
浜の真砂と 盗人が 歌に残せし 悪神の 種は尽きねぇ アオイヶ浜
以前をいやぁ 神代の 宮の足下の境内を ねぐらに夜半の 濡れ鼠
願い下げだと 飛び出して 渡りに船の 海人舟や せめて避けたし 夜働き
いつしか骨身に染みこんだ 芸と能とが身を助け あれよあれよと看板の 上がっていくは 一の次
ソウル揺さぶる歌舞伎役者、クロー様たぁ俺のことよ!
よくわかんなかった。
歌舞伎役者のクローさん、ですね。よろしくお願いします。
あ、わかるところだけで良しとしたわねアイリス。
それで構わねえさ。これからこの島で厄介になるぜ。ま、一つよろしくな!
にしても、派手な格好よねぇ。
人生、一度っきりよ。華やかに咲きてぇもんじゃねぇかい?
ぱぁーっ!
なんでぇ?
精一杯咲いてみたんだけど。アタシ、着飾ろうにも着飾れないから。
即座の実行たぁ、いい心意気だ。傾(かぶ)いてんじゃねぇかい、気に入ったぜ!
カブク?
結構結構。ここでの暮らし、退屈しねぇで済みそうだ。
アタシに過度な期待をしないでよぅ……
思い出2
ねえねえ、『カブキヤクシャ』ってなんなの?
人さまの前で自分以外の誰かを演じる、役者の一種さ。そこそこ厳しい世界でなぁ。
いつ野垂れ死んでもおかしくねえ、その日暮らしの、いやしい職業っつうかね。
いやしいんですか?
ところが、幸いにも俺の芸にゃ客がついた。食うには困っちゃいねえ。
へー。スター?
そんな風に呼んでくれるお客様もいるかねぇ。
ふーん。で、そのスターは、具体的に何が出来るの?
俺の芸は、歌舞伎だけに留まりゃしねぇぜ。一通りのこたぁなんでも出来る。板の上でのことはな。
板?
舞台の上ってことさ。立ち回りでも、踊りでも唄でもな。ひはこうろをてらして~♪
おおー。
見事なのどですね!
びょうびょうびょう!
なんですか?
歌舞伎とは別のモンだが、犬の鳴き声の表現さ。面白ぇもんだろ?
うーん? 立ち回りってのは?
こういうやつさ。
<クローは斧を置き、どこからか取り出した木剣を握った。>
はあっ!
<唐竹に振り下ろし、手首を返して胴、翻し袈裟、逆風に切り上げ、刹那の残心。再び流れるように――>
へぇ~! すごいすごーい! ゆ~が~!
クローさんは、剣も使えるんですね。
見世物の剣さ。こんな筋じゃぁワラも斬れねえ。実戦じゃ役に立ちゃしねぇよ。
ふ~ん、そんなもんなのね。
相手の防具ごと叩き潰す! 戦場じゃそれが一番手っ取り早ぇ。そのためのコイツよ。
でっかいまさかりよね。扱い、不便じゃないの?
扱い辛さも、裏では魅力よ。慣れれば愛着も湧くってもんさ。
モノは言いようねぇ……
思い出3
む!? ちょっとそこいくクローがちどり足!
おっと、俺としたことがちと酔っ払っちまったぜ。
お酒を飲まれてたんですか?
しゃべる熊を見かけたもんでなぁ。こりゃ飲むっきゃねぇだろ?
その理論はわかんないけど……
コイツが中々話せる奴でよぉ。ついつい杯が乾いてなぁ。
どんちゃんやってるうちに、他にも色んな面白ぇ連中が後から後から混ざってきてよ。
やれ吸血鬼だの、王様だの、言ったところで酒の席。みんなして盛り上がってなぁ。
まさにブレーコーってカンジね。
愉快だったぜ。あの吸血鬼オヤジ、真面目なツラして、俺の舞についてくるんだからよ。
なにそれ……見てみたかったかも……!
それがまた人を呼んで、いつの間にやらどえれぇ人数になっててなぁ。
おかげで、一年分の稼ぎがパァよ!
えっ!? 一回の宴会で!? どんだけ高い酒飲んだのよ!
酒は一級。つまみに珍味。他にも楽団やら芸人やら、呼びまくったからなぁ。
清々しいくれぇにスカンピンだぜ。
な、なんて計画性のなさ……!
これでいいのよ。宵越しの銭なんざ、持ってても恥になるだけだからな。
これからの生活どうするのよ!
さてね。呼ばれりゃ板に上がるし、無一文になったところで、人間案外生きていけらぁ。
ちゃらんぽらんすぎるわ! 大人なんだから、もっとしっかりしなさい!
世の常識で、俺を縛ってくれるなぃ。
俺は俺で、好きなように生きるぜ。風の向くまま、気の向くまま、な。
思い出4
クロー、どう? 貧乏? お金なくって死にそう?
うんにゃ。そこそこでけぇ、舞台の仕事が入ってなぁ。どっこい生きてたぜ!
今度は、一日ですっからかんになっちゃダメよ。
そいつはどうかな。なるときはなるし、なってもまたなんか稼げらぁ。
クローってば、ホントにだらしのない大人なんだから……親の顔が見たいわ……
親はもういねぇよ。
ご、ごめん……
家族、誰もいないんですか?
兄貴と弟がいるぜ。
……ほっ。……で、クロー! アンタのことだから、ずいぶん迷惑かけてきたんでしょ!
弟にゃ、かけたかもなぁ。
お兄さんにはどうなんです?
兄貴は、俺とよく似ててなぁ。責任やらで縛られるのが大嫌いな人でよ。
故郷の島じゃあ、トップの地位だったんだが、ある日突然、弟に位を譲ってな。
クローに?
俺じゃねぇ、下の弟よ。でまぁ、町の外れで、道楽で呉服屋を始めてな。
俺が言うのもナンだが、飽きっぽい兄貴だからなぁ。いまも続けてるんだかどうだか……
これは、弟クンの苦労が思いやられるわぁ……
申し訳ねぇとは思うがよ。人にはそれぞれ、向き不向きってのがあらぁ。
俺と兄貴は派手なのが向いてて、弟は地味なことに向いてたのさ。
他人事みたいに、上から物言うんだから。
なんでぇ?
気ままに暮らしてても、いつの間にかお金稼げてて、それってアンタの才能なんだろうけどさ。
ちゃんと苦労しないと、人間性が磨かれないわ! アタシの言葉よ!
……俺だって、苦手なモンは、
いつまで経っても苦手さ。
クローさんの、苦手なもの?
……言い寄られることも、そこそこにある俺だがよ……
……初めてなんだよ。たった一人の女性(ひと)にこんな気持ちになったのはな……
え!? え!? アンタに、好きな人……!?
さて、どうしたもんかねぇ。
観衆を魅せる人気役者、奇抜を好む傾奇者……ってのが世間から見た俺だからよ。
何の工夫もなく攻めちゃァ、赤っ恥だからなぁ……
思い出5
……うぃ~、ひっく……
あ~! 酔っ払いはっけ~ん!
……けっ、なんだってんだ、ちきしょうめぇ……
クローさん? どうしたんですか?
てやんでぃ。どうもしちゃいねぇよ。
どうもしねぇから、倦(う)んでんじゃねえかぃ……
……どうしたのよ?
……俺の芸は、借り物よ。
譜面があって、台本があって、伝わってきた型があって……
……俺は、それをなぞってるに過ぎねえ。花型の歌舞伎役者、ったって、実態は、人形だ……
そんな、そんなのは言い過ぎなんじゃないの?
真実、そうさ。ある程度売れた俺だからわかる。役者は、無から有は創れねぇ。
……ちっ。俺に兄貴みてえな、詩文の才がありゃあ、この気持ちを歌にして、あの女性に届けられるのによぉ……
つくればいいじゃない、歌。
創れねえって言ってんだろ。
なんで?
あん?
アンタならつくれそう。
だから、俺には出来ねえんだよ。
ただ言われるがままに演じてるだけの役者だったら、売れてないと思うの。
たくさんのお客さんの心を動かしてきた、アンタなんだからさ。
その芸が本物だったんなら、オリジナルの詩、出来ないってことはないと思うの。
……身に着けてきた芸は、既に俺の一部になってる。
となりゃあかえって、新しい物を創ろうとする妨げになるんじゃねぇか……?
やる前からなに言ってんのよ。
…………
思い出6
こいつぁ……?
<煌めく光がクローを包む――>
……いい灯りだ。この柔らかいアタリは、そうあるもんじゃねぇ……
…………
取り消すぜ。
へ? なにを?
参った参った、どうかしてたぜ。俺の芸が借り物だなんて……
俺みてぇな若造に、芸の何がわかるって話だよな。先人たちに失礼この上ねぇ。
それによ、一つの道も極めてねぇのに、詩文に目移りするなんざ、全く、恥ずかしいったらねぇぜ。
と、言うと?
よそ見はやめだ。俺は派手好き、傾き者の歌舞伎役者。
俺の流儀で、あの女性を振り向かせてみせらぁ。
ぴーん! クローさんの舞台に、その方を招待しては?
そりゃ一等先に考えたさ……
どしたの?
だけどな、その女性、いつも目を閉じてるからよ……
な~る。それで、どうしたらいいか困ってたわけね。
ああ。そうだったん、だが……
……らしくなかったぜ。姿が駄目でも、俺には喉がある。気迫がある。
逆を言やぁ、そんくれぇのハンデでお手上げになっちまうなら、俺ぁその程度の役者よ。
びびってねぇであの女性を誘うぜ。声、熱、それだけでも心を揺さぶってみせらぁ!
ひゅーひゅー、その意気よ!
応援してます!
ってぇところで、俺の話は仲入りだ。世話んなった分、働くぜ。
三国一の歌舞伎者、名せぇ由縁の、スオウ・クロー・ヨシヤス!
俺の命、好きに使ってくれや!
観衆を魅せる千両役者 スオウ・クロー・ヨシヤス
その他