【白猫】聖女と風色のブーケ・贖罪編 Story
story1
罪に苦しむ人を救うため、世界を旅する『贖罪の聖女』
彼女の姿を一目見ようと、人々は町の広場に集まっていた。
私の心が、罪に穢れていると?
祈りましょう。あなたの魂に。
(聖霊教会……奴らが聖女を担ぎだして布教に力を入れ始めたとは聞いていたが。
俺の街で好き勝手はさせんぞ。せいぜい恥をかかせてやる。何が聖女だ……!)
罪があるのなら、喜んで悔い改めましょう。もし私に罪があるならば。
あなたの罪を――私にください。
<聖霊の御業により悩める人々を救うという聖霊教会。彼らが擁する『贖罪の聖女』ルウシェ――
故あってルウシェは教会の下より逃れた身であったが、聖霊教会は聖女の出奔を布教を行うためということで公にした。>
何だ――これは!?
がああああああ!!
<領主は己の魂が――聖女の背後に現れたそれに削ぎ落されるのを感じた。
その存在は罪を喰らう。その存在が罪と認識した感情を根こそぎ奪い、魂を改鋳する。>
おお、私は……私は今までなんということを……!
おお……!
<領主の悪行を知る人々は、目前の光景に息を呑んだ……>
ふーん、さすがっすね~。
……
…………
<島の者から案内された教会で、ルウシェは一人祈っていた。>
!!
?
セリーヌ……?いや、そんな……
私はルウシェと申します。
失礼しました、あなたが娘にそっくりだったもので……!
私が、ご息女様に?
私は興行師のウォーレンと申します。私は許されぬ罪を犯してしまいました……
愛する娘を、悪魔のいけにえとしてしまったのです……!
それは――どういうことですか。
<伯爵>と呼ばれる男について聞かれたことがあるでしょうか。
いいえ……
暗黒街の支配者の一人。あらゆる犯罪に手を染めた裏社会の大物です。
恥ずかしながら、この私が興行師としてやってこれたのも裏社会の大物です。
(どうしてでしょう――この方の言葉は痛ましいのに、どこか違和感が――)
伯爵は今までの見返りとして、娘を花嫁にと求めたのです。
私はあの悪魔に逆らえなかった。命よりも大切な娘に――死よりも辛い運命を招いてしまった。
望まれない契りは悲しいもの。わかりました――あなたの罪を、私に下さい――!
…………
……
<多くの催事でにぎわうその島には、住人たちが目を背ける場所がある――
数千年前の遺跡、地下競技場遺跡である。
花嫁は――ここに囚われているという。>
騎士様――ごめんなさい。でも私には、見過ごせません……!
story2
<ルウシェは、花嫁の少女を抱えながら走っていた――>
(また……何か見えないものが私に触れた――!)
早く……ここを離れないと!
……あなたは? どうしてこの私を連れ出すのです?
ルウシェと申します。あなたのお父様に頼まれて、助けに伺ったものです。
伯爵の使いじゃないのね。かしこまって損しちゃった。
はい。お気軽にどうそ。
え?え?あんた……あたしそっくりじゃん!それって変装か何か?
変装ではありません。
うっそ、やばくない!?すっごーい!
不思議ですね。ふふふ。まるで自分とお話をしているみたいです。
で、あんた……あたしを助けてくれるつもり?
はい。罪をあがなうために。
えーと、それいらないから、降ろして?
なぜ……ですか?
だってあたし、別に結婚を断る理由ないんだもん。
ですが……!
相手は大金持ちで権力者。裏社会のボスってのもロマンあるしねー。
結婚したらローラクして、骨抜きにして、実権奪って、あたしが裏社会のクイーンになったるってーの!
お父様の身を……案じてらっしゃるんですね。
だーれがあんなクズ男のことなんか!
伯爵という方について、私もいろいろと伺いました。私におまかせください。
駄目だよ……あたしが、背負わないとダメなんだ……
セリーヌさん……!
あたしのせいなんだよ。父さんがあいつの手下になったの。
<ルウシェが背負う<アルマ>。それは人によりつくソウルの化身である。
アルマはそれぞれ特性をもつ。ルウシェの<アラストル>は罪を喰らうアルマだった。>
(アラストル……セリーヌさんの罪の意識に反応を……)
だから、今度はあたしが――
幸せになる番です。だから安心してください。それから、私のことはルウシェと。
わかった。……あ、ちょっと待って!
<セリーヌは、辺りを見渡す。>
どうしましたか?
見ちゃ駄目……!!
これは……!
<ルウシェは、悟った――ここで、地下競技場で何が行われたかを。>
いったでしょ。あいつは悪魔。誰もあいつからは逃れられない――
もう少し、辛抱してください。着替えられる場所まで。
……あんた。
私が……身代わりになります。
story3
<そこには――清らかに装った花嫁がいた。
花嫁は静かに待つ――契りの時を。
参列者たちの目には生気が無い。どこか、人形めいている。>
(セリーヌさんの言う通りなら、ウォーレンさんは出席されてないはず。好都合ですが、どうして……?)
<チャンスは一度――アラストルの全力をもって、伯爵の罪を喰らう。
ルウシェは思い出す。地下競技場の光景を。>
<そこで行われていたのは、単純にいえば徒競走だ。
しかしコースにはー面、致命の罠が仕掛けられていた。挑戦者たちはおそらく――>
たとえ赦されない罪であろうとも、この私が救ってみせます――それが私の使命だから。
見違えたよ、我が花嫁。
――!
<ルウシェとアラストルは――目の前の男の抱える罪を目の当たりにした。
それは真っ暗な絶望だった。罪に穢れているのではない。罪そのものがそこにいた。>
どうしてこんな――こんな――魂が!
…………
……
汝――セリーヌ・ウォーレンを妻とし――神聖なる契約の下、いついかなると定めにあろうとも、共に寄り添い永久に結ばれることを誓いますか?
誓おう――我らは一つになる。
セリーヌ・ウォーレン。汝は神聖なる契約の下、いついかなる定めにあろうとも、共に寄り添い永久に結ばれることを誓いますか?
<ルウシェは、何も答えない。>
それでは、誓いの接吻を――
<十分な――間合いであった。
―― 一撃に全てを賭ける。そんなルウシェの意志を受け、アラストルは姿を変え、さらなる進化を遂げていた。>
あなたの罪を――!
惜しかったな、我が花嫁……
まさか――アルマ!?
その呼び名は嫌いでね。昔ながらの呼び名でお願いしたいものだな……
そう、悪魔とね――!
<ルウシェは、攻撃を避けようとしたが――>
あああああっ!!
<ルウシェは伯爵のー撃をまともにくらって、その場に倒れた。>
体が、動かない……!
<参列者たちの姿が、魔物に変わっていく……!>
さあ、抱きしめてやろう――我が花嫁!
……アラ、ストルっ!
<アラストルは、ルウシェの体を抱きかかえて、後退する――!>
逃さぬよ!
<アラストルは、地下競技場へ逃げ込んだ……>
ううっ……
<ルウシェは傷口を抑える。深手であった――>
story4
……父さん。
……セリーヌ!どうしてここに!
逃げよう、さあ、早く!
駄目だよ、私はここを離れることはできないんだ――
そんなに大会が大事なの!?
私は、見届けねばならない――それが興行師としての……いや、もうそんな衿持など無意味か。
私は……ただの弱い人間だ。すまない……本当にすまない。セリーヌ……!
何で今更謝るの!?父さんの馬鹿!
どうして……父さんを見捨ててくれなかったんだ……!
えっ……!?
――なんで、あんたがここに――
私とウォーレン氏とは、一心同体でね……!
どういうこと――
彼は私の部下ではない。乗り物兼、奴隷だよ。我々は――
君たち人間によりつけば、力を大幅に節約できるからね。
……ええっ!?
だからこんなこともできる。完全に支配することも――
父さん!
いいねえ。君たち父娘の絶望は最高だよ……力が満ちて来る。
あんた……一体何なの!?
<感情>を食べるものさ。君たちは我々の食料なんだよ。光栄だろう?
あたしを、食べるつもり?キモイんだけど。
君にはもっと誇らしい役目がある。実はウォーレン氏はもう限界でね。あと数年の命だ。
そんな……!
新しい乗り物が必要なんだ。それが君さ。我が花嫁。
乗り物にふさわしい人間は宝石よりも貴重だからな……さあ、私と一つになろう。
嫌っ……!!
…………
……
<ルウシェは――動かぬ体をアラストルに運ぱせて、ひたすらに、地上へと逃れた。>
あううっ……あああっ!
<ルウシェは、その場で倒れ伏した。>
<約束をした――無理はしないと。だが、見過ごせなかった――>
まだ、倒れては……いけないのに……
騎士様……ごめんなさい……ごめんなさい……
story5
<騎士は――黒い飛行艇の船内で、手紙をしたためていた。>
ルウシェ、俺はお前に、罪にまみれた世界を見せるといった。俺はその通りにした。
だがお前は変わらずに微笑むだけだった。そんなお前が初めて感情を見せたのは、あの母子にあったときだった。
生まれたばかりの子を抱く母親の姿を見て、お前はいった。この世界は優しいと。
お前が知っているのは、世界の醜さだけだった。俺はお前にそんなものを見せ続けた教会にこそ、怒りを向けるべきだったのだろう。
世界の優しさから目を背けていたのは、俺の方だった。
俺もお前も、もっと知らなければならない。この世界の優しさを。
騎士、様……私は知ってます……あなたは、優しい人。
…………
……
セリーヌ、セリーヌ!
…………
治療は終わったのに、意識が……このままじゃ!
くんくん……あっ!
どうしたんです?
なんかいる! セリーヌの中に、わるいかぜ!
わるいかぜ!?
ぷーってする!えーいっ!
<ルウシェの体を、風がとりまいた!>
はっ!? 皆様、どうしてここに!?
セリーヌさん! よかった!
だ、大丈夫なの!?
わるいかぜでてった!エクルえらい!
一体何がどうしたんです?
<ルウシェは、事情を説明した……>
…………
……
ルウシェさんがセリーヌさんで、セリーヌさんがルウシェさん。なるほど連環の計ですね?
大会の裏でそんなことが……!
よくわかんないけど……でも、よかったね!
これからどうするワケ?
罪に穢れた魂の元に向かいます。
待ってください!このパターンは罠です!
メイリンが賢いことを!?
確かに!?そうかもしれない気が!
エクルさん、さっき言っていた<悪いかぜ>って……どういうものなんですか?
もやもやー!いっぱい!そこにもここにも!
……そういえば、なにか周囲から忌まわしい気配を……
と、いうことは……!
こういう場合は油断をさせておいて意外なところから伏兵……いや、天井裏から?
セリーヌ!じゃなくて、ルウシェ!これ、おまもり!
<エクルはルウシェに美しく輝く羽根を手渡した。>
これは……!周囲の忌まわしい気配が、退いている……!
これで、わるいものばいばい!
ありがとう、エクルさん……!私、がんばります!
…………
……
<ルウシェは、関係者控室に走った。>
あっ!?
おお、セリーヌ……セリーヌ!
(私のことをセリーヌさんと……!)
<ウォーレンは………激しく衰弱している。>
私は嘘をついた……お前のためといいながら、結局は金と名声にすがっていたのだ……
当然の報いだ……グフッ……!
父さん、しっかりして――私は、ここにいるから――
<小さな嘘だった。人を、許すための……>
セリーヌ……愛している……
<――興行師はゆっくり目を閉じた。
あがないの聖女は――ゆっくりと立ち上がる。>
罪に――救いを!!
story6
ふふ、追ってくるがいい。我が地下競技場の死の罠を味わっていただこう。
この場に残る絶望を束ね――我が敵にさらなる絶望を。
罪深き魂よ――汝に救いを。
これは驚いた。君が来るとはな――
ルウシェ……来ちゃ駄目。こいつは……
(アラストルが罪を糧とするなら、この存在も、何かを糧にしているはずです)
<ルウシェは直感する。セリーヌとウォーレンに共通する感情――>
あなたは、絶望を――糧としているのですね。
その通り。――君の心も絶望に染めてあげよう。ところで――
我が花嫁は、この世に二つとないはずの貴重な宝石――それと生き写しのその姿。
それが何を意味すると思う。もう一人の我が花嫁……私は運がいい。
さあルウシェ……絶望になりましょう。
セリーヌさんから、離れなさい。
くっ……
動けんだろう。ははは、無策だったな――
<ルウシェの全身は、すでに伯爵の見えない霧に拘束されている……!>
アラストル!
<アラストルが、ルウシェの盾となるや……見えない霧はちぎれ飛んだ!>
なにっ……!
<罪を喰らう魔神の手には、嵐の鳥の羽根がある!>
はあ……はあ……
<伯爵の油断を誘うため、ルウシェはわざと霧に体を縛らせていたのだ――
全ては、セリーヌを救う一瞬を稼ぐため!
嵐の鳥の羽は輝き――アラストルの体を光で覆い尽くす!!>
ぐぬおおおおううう!!
<アラストルの拳をうけて、伯爵は吹き飛ぶ!>
誰かの罪を背負えるのならば、そんな人生でもいいと――そう思っていました。
<ルウシェは、へたり込むセリーヌの体を抱き上げた――>
でもそれは罪――傲慢の罪。だから、その罪をあがないたい。この命を使って……!
なかなかのじゃじゃ馬だな。もう一人の花嫁は。だがそれも一興。
……ルウシェ……
この命、あなたには渡しません!
最終話
<魔神と魔王――両者の挙が激突した!>
この力――アルマの――!
罪を喰らうだと――ははは――罪とは!
貴様ら家畜の言う罪とは!己への絶望から生まれるもの!
罪如き、絶望には勝てぬわ!
あなたの罪を――私にください。
ぬぁ……!?あっ……ヒッ……!?
ぐああああああ!!!
この罪に救いあれ……赦しあれ……!
…………
……
いやあ一時はどうなることかと思いましたねみなさん!
というわけで、気を取り直してエンディングでございます!
あーんっと……ムグムグっ。んんーっ、美味しいっ!!
やっぱり最高ね。絶望を乗り越えた希望の味は♪
<伯爵>に感謝しなきゃっ♪
めんどうなもんっすねえ。悪魔ってのも。
おかげで力が戻ったわっ♪
じゃあ、そろそろ行くっすかねえ。……あのピエロさんのとこに。
あいつ、一筋縄じゃいかなそうだけど?
そいつは楽しみっすねー。次こそは、本気出したいっす。
…………
……
”ヴィヴィズ ブレインウェイブ レイディオ!”
始まったわ!
なんと今回から、番組は公開録音になりました!しかも!新しい仲間が!
みなさん初めまして。みなさん初めまして。みなさん初めまして。
なんで三回いったんですか!?
<さんこの礼>です!今回から番組に参加する、軍師のメイリンです!
そして!
エクルだよ!わーい!みんなおそろい!!
なるほど、衣装をそろえるという作戦ですね!
今回からこの三人で、ラジオをやることになりました!!
これが三倍の輝きだ!まさにトリプルスター!!嵐を起こすぜ!
ねえねえラジオってなに?
私もよくわかりませんが、なにやら皆さん私たちを見てますね?
これから三人で、楽しく元気におしゃべりします。それがラジオです。
わかった!!
なるほどわかりました。これもライバルとの切磋琢磨ですね!
では最初のお便り!『結婚はもうこりごり』さんから!
ふいー?おたより?
『私はずっと、父親か嫌いでした、でも、父親か良くない仕事をしてるのは私のためでした。
私は昔から少し難しい病気を患っていて、父親はずっと高顧な治療費を払ってくれていました』
<ラジオから聞こえる放送に、少女たちは耳をそばだてる。>
そうだったんですね……
よくある話でしょ?
ルウシェ様……なんとお礼を申し上げたらいいか……!
私は、務めを果たしただけです。
ねールウシェ、あなたの騎子様、いつ帰ってくるの?
はい、明日にはこの島に。
帰ってくるとのことです。
あのドレスを着てお迎えしたら?そのままゴールインしちゃうとかどう?
ゴールイン?
”今度は、ルウシェとセリーヌもいっしょにラジオしよ!”
”あのお二人も、ライバルですしね!”
<興行の島イベン島――絶望の霧は晴れ、希望の嵐がやってきた。>
皆さんに、聖霊の祝福があらんことを!