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【黒ウィズ】ミコト編(黒ウィズGP2017)Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

目次


Story1

Story2

Story3




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story1


「新しい和歌の神様が誕生したことで、都の人々は大騒ぎですね。」

「まだ、騒いどるんですか?新しい八百万の神様も、落ち着いてられませんなぁ。」


新しい神様の社が決定し、神輿によってご神体も運ばれた。

その最後の締めとして、ある大行事の準備が進められていた。


「都一の歌人を決める『天下一お歌会』か……。

謳の大会にしては、ずいぶん物騒な名前ね。ハヅキは、この大会に出ないの?」

「それどころじやねえよ。近頃、財布は落とすわ、博打じゃからっきしダメだわ……。とことんツィてねえんだ。

なにがあった? なにが切っ掛けで、ツキが逃げちまったんだ?さっぱりわからねえよ。」

 「……。」

「悪い流れを変えるためにも、この大会に出てみたら?流れが変わる切っ掛けに、なるかもしれないわよ?」

「謳の大会か……。興味ねえけど、天下一の歌人を決めようって発想が気に入ったぜ。」

「じゃあ、決まりね。―緒に出場しましょう!」

「……って、ほんとうはツバキが、この大会に出たかったんじゃねえのか?」

「そ、そんなことないわ。わたしは、あくまでもハヅキに付き合ってあげるのよ。」

「そうだ。ツバキの雅号は、たしか、『浪漫竜胆』先生だったよなぁ?」

「なんで知ってるのよ!?ハヅキに教えた覚えないのに!?」

「殴ってから問いただすんじゃねえよ!いっててて。ほんと、最近ツイてないぜ。」


『天下一お歌会』の参加者は、一般からの応募だけではなく――

巷で、すでに名が知られている歌人たちからも『天下一歌人』の称号を勝ち取るべく、続々と参加の表明かあった。


「当然、いまー番人気の辻歌人ミコトも出るんだよな?」

「―番の優勝候補って言われてるからねえ。ミコトが出なきゃ、しまらないったらありゃしない。」


ミコトの謳は評判を呼び、都衆の間では、いまや一番の流行歌人になっていた。

天下―歌人の座はミコトで間違いないと、早くも断言するものもいた。

だけど――


「……はう。どうしたんだろう?頭がぼーっとして、足元がおぼつかないです……。」


ミコトは、体調を崩していた。

八百万の神だったころは、体調が悪くなることなど、ほとんどなかった。

なにしろ神なのだから、人間のように病気にかかることなんてめったにない。

なんとかは風邪引かない、という言葉はあるが、まさかミコトが風邪を引いてしまうとは。


「頭が熱いな……。喉も痛いし……。私、いったいどうしちゃったんだろう?

これが、人間になった弊害という奴でしょうか?へっ……へくちっ!」


ミコトには風邪という症状が、どうもよくわからない。

最初は、ちょっと頭がぼーっとするなぁぐらいにしか考えていなかった。

それがよくなかった。症状はますます悪化し、ミコトの思考能力は極限まで低下していた。


「でも、大会に行かなきゃ……紬姫さんのお祝いだもの……ううっ。」

限界に違したミコトは、その場で倒れ込む。

ここでもし医療に明るい人に出会えれば、まだよかったのだが――


「ミコトの奴、こんなところで寝てやがるぜ。」

「どこがおかしい?俺たちだって、眠かったら道ばたで寝るだろ?」


フウチは、赤い顔をして倒れているミコトを見て、風邪だとは思わなかった。

なぜなら妖怪であるフウチは、生まれてから一度も風邪に罹ったことがないからだ。


「もしかしてこれは、風邪という症状ではないか?」

「風邪か。風邪を引くと人間はどうなるんだ?」

「……知らん。」

キュウマも、知識では知っていたが、生まれてから一度も風邪に罹ったことがなかった。

こんなふたりに見つかってしまったのが、ミコトの運のなさだった。

「でも、ミコトは大会に出るつもりなんだろ?なら、眠ってるうちに会場へ連れて行ってやろうぜ。

目が覚めるころには、風邪とやらも治つてるだろうぜ。」

「そんな簡単に治るものなのか?」

「たぶんな。寝て起きたら治るものらしいぜ。俺は風邪に罹ったことがないからわからないけどな。」


かくしてミコトは、キュウマの手によって『天下一お歌会』の会場に運ばれた。



会場では、無撒の歌人が、流行歌人ミコトを倒すべく、手ぐすね引いて待ち受けている。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


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story2



勝負あり――。勝者『俳句読太郎』!

「やったぜ!」


都中の歌人たちが集結した『天下一お歌会』会場。

1回戦目から試合は白熱の展開を迎え、いよいよミコトの出番となった。


「はれ……?私、どうしてここにいるんだろう?

大会……。そうだ、大会に行く途中でした。……ここが大会の会場でしょうか?」


寝て起きても熱が下がらなかったミコトは、事情が飲み込めないまま1回戦目の舞台にあげられた。

ミコトの初戦の対戦相手は、以前からミコトの作った謳の新しい形式を批判し――

和歌の本来の技と心を大切にする老歌人――『和歌侍の翁』。


「ミコトよ。貴様の謳は、和歌の新機軸だかなんだか呼ばれて、たいそうもてはやされておるらしいが――

貴様の謳には、技もなければ心もない!わしが、ほんとうの和歌を教えてやるから襟をただしてよく聞けい!

「は……はあ?では、そちらからお先に……どうぞ。」


「震降り 鹿島の是空に 仰ぎ見る  扇雲垂れ 沈む我が心」

 (ふっ……きまったわい。和歌の重厚さ、言葉選びの感覚。申し分ない、会心のできじゃ)


見物に来ていた客たちから、忌憚のない感想が飛びかう。

「こりゃまた、カビの生えた古くさい和歌だぜ。」

「つまんねーぞ、じじい!」


和歌の好みはひとそれぞれとはいえ――

古典的な形式を貫いている和歌侍の翁の和歌は、集まった都の見物衆には、あまり評判がよくないようだ。


「これは、ミコトさまにとって追い風になりそうですね。」

「うちは、和歌のことなんも知らんから、なんとも言えません。

でも、ミコトさん、さっきから調子悪そうに見えませんか?」

「そうですね……。でもそのほうが、いつもとは違うミコトさまのー面が見れそうだとは思いませんか?」

「鬼や……ここに鬼かおる。退治せな。」


つづいてミコトの番。

ふらふらと立ち上がり、熱に冒された頭でミコトは謳を詠む。

 (考えようにも頭が沸騰したように熱くて……考えがまとまりません)

で、できました~。

仰ぎ見て 大きな富凛〈プリン〉 大竹に  降れや注げや 雨あられとな

ミコトが謳を詠み終わった直後――


「ちょっ見て。隣の竹藪に異国のお菓子が突き刺さってるわよ!?

「突然、ぷりんっていう異国の菓子が、空から降つてきやがったんだ!

大会そっちのけで、観客は大騒ぎとなった。

なにしろ、竹藪の天辺に巨大な“ぷりん”が突き剌さっているのである。

「そんなー生にー度見れるかどうかわからない珍景を!

ひとめ見ないことには、都つ子とはいえねえだろう!


 (なぜでしょう?一首謳っただけなのに、どっと疲れが押し寄せてきました……

あ、誤字が。「大竹に」ではなくて「大岳に」でした。ダメだな。考える力が、なくなってます……)


「まさか、ミコト殿が“ぷりん”の謳を詠んだ直後、ぷりんが空から降ってくるとはなぁ。」

「奇妙な偶然もあるもんだねぇ。」


ミコトの力を知らない客たちは、単なる偶然だと決めつけ面白かった。

もちろん客席の反応は上々。ミコトは、初戦を見事に勝ち抜いたのである。


「思わぬ偶然に救われたな。空から富凛が降ってこなければ、わしの勝ちであったわ。」


対戦相手は、そんな捨て台詞を残して去っていった。

優勝候補と目されているミコトの順当な初戦突破に、観客たちは満足げだった。


「さて、次のミコトさまのお相手は、どなたでしょう?」

「対戦表によると、次のミコトさんの対戦相手は雅号『天涯孤独ノ助』って人らしいですわ。」

「ほう?どこかで聞いたような名前ですね。」


「天涯孤独ノ助たぁ、アタシのことよ!」


「むう!? あれが最近、和歌界を賑わせている新進気鋭の歌人、天涯孤独ノ助か!」

「おじいさん、知ってるの?」

「わしの情報では、博打に明け暮れた荒々しい日々の生活から生み出される豪胆かつ剛毅な謳を詠むらしい。」

「ヘー、それは変わった歌人ねえ。」

「博打打ちが詠む謳……。どのような謳なのか、楽しみじゃ。」


「ミコト、ここは日頃の立場を忘れて正々堂々勝負だぜ!


ーーーーーーーーーーーーー


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story



「鉄火場や 意気揚々と 乗り込めど  またまた裏目 風すぎるなり

くそう! なんでだよ?どうして考えても考えても、辛気くさい謳しか浮かばねえんだよ!?


 空腹を 覚え懐 さぐれども  財布がなくて 哀愁がある

……こんな謳、アタシらしくねえ!心までしみったれちまったのかよ!?」


「ああ……ハヅキが苦しんでる。力を貸してあげたいけど、いまは応援することしかできない。

ハヅキ、頑張って。」



「剛毅な謳を詠むって聞いてたのに、前評判とずいぶん違うじゃねえか。」

客席から不満の声があがる。

ハヅキは、いたたまれなくなってミコトに救いを求めた。


「今日のアタシはダメだ。きっとなにかに憑かれてるんだ。あとでお祓いしてもらおう……。

ミコト、謳ってくれ!それでアタシを楽にしてくれよ!」

「……え? あ、はい……。」

(えっと……なんだっけ?どんな謳を詠むんでしたっけ?)

短冊の上で数度、筆を迷わせたあと、ミコトは思いついた謳をやっとのことで連ねた。


 めでたきを 祝う門出に いなびかり  寿司と甘酒 笑顔たえなん


謳を詠んだ直後、ハヅキの頭上にいなびかりが――

「うぎゃああああっーー!?

……ちくしょう、なんでアタシにだけ雷が降ってくるんだ……?


「おかしいわね?空はこんなに晴れてるのに、どうしてとつぜん雷が?

「まるで、詠まれた謳にあわせたかのような連携であったのう。まあ、偶然であろうがの。

本当に偶然か?俺はなんだか、寒々しいものを感じたぜ。

ミコトの謳には、なにか特別な力が宿ってるんじゃねえのか?

「ほほほっ。そんなこと、あるわけないじゃろ?謳は、あくまでも謳じゃ。


「ご当主さま。いまのは、どういうことですかいなぁ?」

「いつもと違うミコトさまを見ることができましたね。

きっと普段は、己の力を無意識のうちに制御なさっているのでしょう。」

「どういうことですか?」

トウマは、楽しそうに笑うばかりで、キリエの質問に答えなかった。


(しまった……!「いなりずし」と書こうとしたのに、「いなびかり」と誤字ってしまいました。

なんだか、心は焦ってるのに身体がついてこない感し、神様だったころを思い出します……)


雷は、ハヅキが無意味に差している8本の刀に落ちた。

あれだけ刀を差していれば、そういう不運に見舞われることもあるかと観客は納得していた。

雷に打たれたハヅキは、そのまま退場となる。

偶然とはいえ、またしてもミコトの勝利となった。


ここまで順調に勝ち上がってきたミコトだが、最後の相手は手強いぞ。

次の相手が、どんな奴か知ってるのか?

ミコ卜の最後の相手は、あの『浪漫竜胆(ろうまんりんどぅ)』先生じや。

異国からきた「ハイカラ」という概念を大胆に取り込んだ奇抜な謳を詠むらしい。

ヘー、それは楽しみだな。


ついに決勝の舞台に進んだミコト。

決勝の舞台では、雅号『浪漫竜胆』ことツバキが待ち受けていた。


「ミコトさんお手柔らかにね?」

「はれ? ツバキさんが……どうしてここに?」

「下手だなんだとバカにされながら、日々募る思いをゴツゴツ謳にして書き綴っていたの。

ハヅキには内緒にしてたけど、私か内緒で投書していた和歌は、現代和歌100選に選ばれたこともあるのよ。」


「わしが、発行している同人誌じゃ。」

「じーさん、意外と和歌界に貢献してるんだな。」


「しばらく覆面投稿者を続けていたけど、この大会を契機に、私は世間に正体を明かすことにしたわ!

すらりと筆を抜き払い、いつものように刀を構える調子で、筆を正眼に構える。

こんな日はミコトさん、ここであなたに勝ってハイカラ和歌を世間に浸透させてみせます!」


 からめるの 気持ちがわかる  えぷろんしめて おかしづくり


「ざ………斬新すぎて、俺にはわからねえ。」

「ふっ、甘いな小僧。いまの謳こそ、浪漫竜胆先生の真骨頂。異国からきたハイカラ和歌よ。

この内容のなさを楽しめないようでは、謳を心の底から楽しむことはできんだろうなあ。」


鍋のなか 固めて作る ちょこれいと  りぼんむすんで はあともむすぶ


ツバキによる謳の連打。流れは圧倒的に向こうが優勢だった。

対するミコトは、熱のため立っているのが、やっとだった。


ツバキの謳を聞いて、ミコトの本能は自然と筆を動かしていた。

熱があるとはいえ、ミコトの歌人の本能は死んでいない。

 (頭がくらくらしすぎて逆に極楽にいるような心地になってきました)


串団子 タレをからめて みたらしで  きなこまぶせば うぐいす団子


「むう。対するミコトは、ハイカラとは真逆の「和」で攻めてくるとは。

内容のなさは、どちらも対等!この勝敗のゆくえ、誰にもわからんぞ!」

「なかなかやるわね。さすがはミコトさん。私も負けていられないわ。」


つづいて繰り出されるツバキのハイカラ和歌。

相対するミコトも、和を強調したいつものお気楽和歌で対抗する。

(ツバキさんが、ここまで謳に情熱を持った人だったとは――驚きよりも、うれしさが勝ってます

でも、この勝負、元和歌の神様として負けられません!)


ミコトが謳い、ツバキも謳う。

ふたりの謳から発せられる「謳気(うたき)」がぶつかり合う。

その衝撃で、客たちは吹き飛ばされ、試合は大荒れとなった。


(あれ? そういえば‥…。いつの間にか気分が爽快に……。熱も引いたような気がします。

これで、誤字らずに謳を詠むことができます!)


熱消えて 気分爽快 心機一転  綿菓子ごとく 竜巻闘志


詠んでから、ミコトはなにかおかしいことに気づいた。

「おっと、ここは「竜巻闘志」じゃなくて、「立ち巻く闘志」でした。やっちゃいました。

ん?」


偶然か……。はたまたなにかの力が働いたのか。

会場に巨大な竜巻が迫っていた。

みんな、天下一お歌会どころではなくなり、我先に逃げはじめた。


「まさか、私のせいでしょうか?」


それは誰にもわからない。

ただ、この日を最後に『天下一お歌会』は、二度と開催されることはなかったといわれている。




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天下一の敬人は誰だ!?  ―END―


夏の風邪はしつこいと言います。私もこの前、大変苦しめられました。
皆様もお体大切にご自愛ください。ミコトでした!

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