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【黒ウィズ】若き戦神の受難 Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん
Legend with 願いのトリロジー
2016/04/28 20:00 ~ 5/13 15:59






story1


「ついに“お呼び”がかかった。」

若き戦神、サクト・オオカミは、そう呟いて、届いた文を懐に収めた。

「この日をどれだけ待ち望んだことか……。」

貧しい農村にある小さな社でありながら、彼は多くの民兵から信仰を集めていた。

そうした実績が認められたのか、数多き戦神の中でも圧倒的な力を持つ集団、戦神四十七柱から誘いが掛かったのである。

「悪しき強者の時代は終わりだ……。」

そう言って、彼は腰に下げたふた振りの刀を抜く。

その刹那、一刀から炎が、もう一刀からは水流が吹き出して、2頭の狼を形作った。

「焔狼、流狼、共にこの戦乱に名を刻もう。」

熱き炎の狼が宿る『焔狼刀』と、冷たき水の狼が宿る「流狼刀」――

その刀は彼の相棒であり、彼の象徴であった。

「正しき者が勝つ。そんな時代を創るんだ……。」

サクトは戦神としての使命に燃えていた。

『強い者が正義』という言葉を、彼は心底嫌っていた。

彼にとって、争いとは常にどちらかが正義であり、どちらかが愚であった。

そして彼は常に正義の味方であろうとしていた。

しかし、彼が味方する側が勝つことは稀であった。

『人の戦に直接介入してはならない』

そんな戦神の掟が、正義を貫こうとする彼をずっと縛り続けてきた。

「カタバ様なら、きっとボクの想いを分かってくれるはずだ……。」

戦神四十七柱の首領、自分の信念に従って人の戦乱に介入している。

そんな噂を耳にして以来、サクトにとってカタバは憧れの存在となった。

そして今日、そのカタバから、サクトを戦神四十七柱に迎え入れるという文が届いたのだ。

「さあ、行こう。」

サクトは2頭の狼が宿った刀を鞘に収め、勇んでカタバの元へと向かった。



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story2


「悪いが、もう戦の時代は終わった。」

「え!?」

正義を勝たせたい。

サクトの熱い決憲を聞いたカタバは、冷たくそう答えた。

「「喧嘩神輿とうなめんと」に優勝した阿呆どもが、全てを終わらせたからな。」

「そんな! 「正義」のために必死に戦ってきた兵士たちはどうなったんですか?」

「知ったことか。戦を離れた者に興味はない。」


『喧嘩神輿とうなめんと』

選ばれた神々によって行われるその『喧嘩』に優勝したものには、どんな願いでもひとつ叶う目録が与えられる。

前回の優勝者、和歌の神ミコト・ウタヨミの願いによって、人間界で行われていた戦が全て終わったのは、サクトが文をもらう数日前のことだった。


「じゃあ悪しき強者どもは?」

「戦は終わったんだ。悪しかろうが正しかろうが、強者は弱者の上に立ち続けているだろう。」

「……それじゃ正しき弱者が報われないじゃないですか?」

「恨むならセイとスオウを恨むんだな。」

「セイとスオウ?」

「四十七柱を抜けて歌の神なんぞの肩を持った、腑抜けの野良戦神どもだ。

まあ、あいつらが抜けたから、俺はお前に声をかけた訳だが……。」

「ボクちょっと行って来ます!

戦がないなんて、なんのために戦神やってるのか、分かんないですから!」

怒りの炎を瞳に宿して、サクトはカタバの社を後にした。


 ***


四十七柱を抜けて、戦乱で荒れ果てた土地を回っている戦神がいる。

そんな噂を聞きつけたサクトが、セイとスオウを見つけるまでに、さはどの時間はかからなかった。


セイ・シラナミ様、スオウ・カグツチ様とお見受け致します。」


ああ、そうだ。

誰だ? お前?

戦神四十七柱の一柱、サクト・オオカミと申します。

戦神四十七柱だと?

見ない顔だが、新入りか?

はい。おふたりが抜けた後、カタバ様よりお声を掛けて頂きました。

で、その新入りが俺たちに何の用だ?

なぜ、戦神でありながら、戦から逃げたのですか?

逃げた? 俺たちはカタバのやり方についていけなくなっただけだ。

なんつーか、無益な戦を止めたかったんだ。

無益な戦、だと!?

スオウの言葉に、サクトは怒りを露わにする。

正義を掲げ、悪を討つために命を賭した人々の戦いが、無益だと言うのか?

怒りに打ち震えるサクトは、腰の二刀を鞘から引き抜く。

その刹那、解き放たれた焔狼と流狼が、雄叫びを上げる。


ちょ、落ち着けって!

話の通じる雰囲気じゃないな。

しょうがねえ、ちょっと揉んでやるか。


うぉおおおお! 天誅!



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story3



はあ……はあ……。ボクの剣が通じないとは……。これが、戦神四十七柱の実力か……。

怒りに任せたサクトの太刀筋は、歴戦をくぐり抜けてきたセイとスオウに尽く見透かされ、勝負はあっという間に決した。

炎と水の二刀流か。中々いい太刀筋だったぞ。

なんつーか芯がある。カタバより強くなるかも知れねえぞ、お前。

戦を捨てたお前たちにすら通じない剣だ。いくら褒められたところで嬉しくない。

サクトはふてくされて刀を鞘に収めた。

それで、お前はどうして俺たちを憎む?

お前らが世の戦を無理やり終わらせたから、今でも悪がはびこってる。

お前の言う通り、悪人は死んでない。その分、善人も死ななくなった。

まあ、確かに辛い暮らしをしてる人だっているけどよ。それでも死ぬよりマシなんじゃねえか?

お前たち、本当に戦神か?

ああ。

ま、そうだな。お前と同じ、戦神だ。

ボクはお前たちとは違う。必ず正義が勝つような、正しい戦乱を作りたかった。

でもよ、悪いやつをどうこうするのに、戦は必要ないんじゃねえか?

でもボクは戦神だ。戦がなくなったら、何もできない……。

そう言って、サクトは深く肩を落とす。

周りを見てみろ。長く続いた戦乱で、土地も、人もボロボロだ。

俺たちは今、それをどうにかしようと踏ん張ってんだ。

スオウは農具鍛冶の神みたいなことを始めたし、俺は水車小屋とか水田の神みたいなことも始めた。

ま、戦神だけじゃ食っていけないからな。戦の後始末に必要なことなら何でも来いって感じでよ。

スオウは元々刀鍛冶が得意だったし、俺は水に絡んだ策略が得意だった。

お前には何がある? 戦のない世の中であっても、正義の為にできること、あるんじゃねえのか?

正義の為……。

そうだ。お前の言う、正義を背負って戦って、傷ついた人間が沢山いる。

ボクには、これしか……。

サクトは俯いたまま、手にした刀を見つめる。

炎と水を操る二刀流……か。

と、スオウが何かに閃く。

アッツいのとツメったいのねえ……あ、そうだ!

なんですか? 何閃いたんですか?

お前、いいお湯つくれるんじゃねえか?その水をアッツい炎で温めてさ。

熱すぎず、温すぎない、いいお湯をつくるか……。

……やってみます!

サクトは焔狼刀と流狼刀を構える。

いでよ、いいお湯!

ふた振りの刀から迸る水と炎は宙で絡みあい、瞬く間に3人の前に湯が溜まっていく。

……おお、いい湯だ!

これなら、戦で傷ついた人々を癒せるぞ。

戦のことしか考えてこなかったボクに、こんな力があったなんて……。


若き戦神サクト・オオカミは、こうして湯の神となり、多くの人々の心を癒やすこととなった。


今日もいい湯に入れそうだぜ!

自分で入ってどうすんだ?

沸け! 全ての疲れを癒す湯よ!

サクトの言葉に応えるように、焔狼刀と水狼刀が吠える!





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