【黒ウィズ】八百八町あやかし捕物帳 Story
八百八町あやかし捕物帳
2018/10/18
プロローグ
君はナイフで岩塩を削りながら、ため息をつく。
岩塩は素材の味を引き立てる優れた調味料だが、毎日同じ味が続くと飽きが来る。たまには違う味付けの食事をしたい。
そんな贅沢な願いが災いを呼んでしまったのだろうか――
君とウィズはこれから食事だというタイミングで異界の歪みに呑まれてしまった。
例によって、君は見慣れぬ場所で佇立している。
あたりを見回すと、ふたりの少女。樹に何かを塗りつけているようだ。
「コノハちゃん、うすーく広げ過ぎじゃない? もっと1か所にべったり塗ったほうがいいよ。」
「そうかな……。私、樹の幹にみそ塗るの、初めてだから……。」
「1か所にべちゃっと塗ったほうがいいんだ。」
「そういうものなんだ……ありがとうミオちゃん。」
「まあ、私もみそ塗るの初めてだけどね!」
ふたりの少女は”みそ”なる茶色い物体を樹に塗りつけて回っている。
「にゃにゃ……変な儀式の最中にゃ!」
ウィズの声に反応して、ふたりの少女が振り返った。
「ひゃあっ! みそなめ!
……じゃなかった。でもじろじろこっちを見てる。さては……あなた、みそは好きですか!?」
”みそ”とはなんだろう。君は正直に、わからないと答えた。
「ややっ、怪しいです怪しいです! みそが好きかと聞かれて『わからない』と答える人はいません!
普通、好きって答えますよね!?」
「私は別に好きじゃないよ……嫌いでもないけど。みそは……普通。」
「コノハちゃんは変わり者だから例外!
この、みそが好きかわからないって答えた人、きっとみそなめが化けてるんだよ! みそなんて知らないよーってとぼけてるんだ!」
どうやら君はみそなめなる存在と勘違いされてしまったようだ。
「……あれ、この人……知ってるかも。うっすら見覚えがある。」
言われてみれば、君のほうもフードを被った少女にうっすら見覚えがあった。
コノハと呼ばれていた彼女は、神々のれえす、ミコト杯に出場していたような気がする。
「猫神様と……お供の方ですよね。ミオちゃん。私、この人たちとうっすら知り合いだった。」
「うっすらお知り合いだったんですか。みそなめ扱いして失礼しました!
ていうか、え? 猫神様って神様なんですか!? うわわわわ! 全然みそなめと違いましたー!」
そんな大層なものじゃないよと言ってから、あ、弟子である自分が言うのは失礼だったかなと思ったが、ウィズは気にしてなさそうだった。
「コノハがいるってことは、ここはミコトたちのいる異界にゃ。ミコトたちの旅はどうなったにゃ?」
「あのミコトさんとも知り合いなんですか!? ということはハヅキさんのことも知ってますか!」
「知ってるもなにも、一緒に戦った仲にゃ。」
「なんだー。私たち知り合いの知り合いだったんですね。私、ミオって言いますー。」
君は改めて自己紹介する。自分たちは異界からやってきた存在で、この世界のことにはあまり明るくない。
とはいえ、ミコト杯に出場したり、都を守るための戦いに参加したり、何かと縁があると。
「瓦版のアマノ家いんたびゅーによると……ミコトさんたちの旅は順調だけど先は長いとのことです。」
それを聞いて君は胸をなでおろした。ミコトはしっかりがんばっているようだ。
「ところでコノハとミオは……どうして樹の幹にみそを塗っていたにゃ?」
ふたりの手から漂ってくる”みそ”の匂いからして、食品のようだが……。
「これは……妖怪みそなめをおびき寄せるためで。今、都ではみそなめが大屋発生してるんです。」
「私たち、あやかし専門の目明しなんですよー。」
「目明しってなんにゃ?」
「悪いあやかしが起こした問題を解決する、正義の味方みたいなやつです!」
「……あ、ミオちゃん。向こうからみそなめが来るよ。」
コノハが指さす先――舌を出したひとつ目の魔物がものすごい勢いでこちらに向かってくる。
「おい、みそなめ! 逃げるんじゃねえ!」
さらに、みそなめを猛追する男の姿が見える。
「アヤツグさんだ! おーい、アヤツグさーん!」
「コノハ! ミオ! みそなめを挟み撃ちだ!」
コノハとミオが進路を塞ぐように立ちはだかり、みそなめは逃げ場を失う。
「都のみそをなめまわす不埓なあやかしめ、これでも食らえ……って、またやっちまった。
手がみそだらけだから十手握りたくねえわ。コノハかミオ、頼む。」
「私も手がみそまみれで……護符をうまく扱えないです……。」
「手ぬぐい持って来ればよかったですねー。」
「仕方ねえ、今日はこれくらいにしとくか。」
よくわからないが、手がみそまみれではない君は炎の魔法を放ってみそなめを撃退した。
焼けたみその匂いが鼻をくすぐる。
「……あんたすげえな。何者だ?」
「猫神様とお供の方です……。私とうっすら知り合いで。ミオちゃんとは知り合いの知り合いらしいです。」
「俺の名前はアヤツグ。あやかし専門の目明しをやってる。
猫神さんとそのお供さんよ、ちょっくら仕事を手伝ってくれねえか?」
いいよと君は言った。我ながら軽いと思った。
しかし、度重なる不意の異界移動を乗り切るためには、これが一番なのだとも思った。
next
異界「和ノ国」にやってきた「君」とウィズは、あやかしにまつわる問題を解決する「目明し」のアヤツグ、コノハ、ミオと出会う。
妖怪みそなめをあっさり倒した「君」は腕を買われ、「目明し」の仕事を手伝うことになる――
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