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【黒ウィズ】Birth of New Order Story7

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最終更新者:にゃん

目次


最終話 人類の砦

エピローグ



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story



あんな大きな審判獣見たことない……。こりゃあ、ちょっとどころじゃないくらい、まずいかも!

最終審判……。

 攻め落とすべき聖都は、崩壊に向かっている。頭首マルテュスも姿をくらました。状況は絶望的だ。

イスカもボロボロだし……どうするのか、あたしたちが決めなきゃ。

俺たちはインフェルナ……。

そうね。元から審判獣に見捨てられた存在だもんね。

そうと決まれぱ、すぐに撤収しよ。荷駄を用意させるわ。イスカを安全な場所に移さないと。

 意識を失っていたイスカが、とつじょ目を覚ます。

……いいえ。メルテールたちは先に逃げて。私は、行かなきゃいけないの。

 イーロスが、聖皇を斬った。そして、エンテレケイアを縛っていた。戒めが解かれてしまった。

義父の行いの始末をつけるのは、娘のイスカしかいない。それが、死んだイーロスヘの手向けだ。

イスカは、人の手を借りながら傷ついてボロボロになった身体を。やっとのことで起こした。

私なら止められる。あの審判獣を……。いいえ、止めなきゃいけない……。

 審判獣と人間が共存して生きる世界。イスカは、それを追い求めてきた。

まだ理想の片鱗すら見えていないが、それでも諦めずに手を伸ばしていたかった。

信念を貢け。

ありがとうお兄ちゃん……。いつも私のわがままを聞いてくれて、ほんとうに感謝してる。

あ――

もちろん、メルテールもね。

ごほん……あたしから言うことはないわ。ちゃんと無事で帰ってくるのよ。待ってるから!

 イスカは願う。人を善と悪に、分かつことのない正しき世界を。

イスカは望む。審判獣と人が同じ大地で暮らす未来を。

求める純粋な心は、傷つき疲れ果てた少女に、再び立ち上がる力を与えてくれる。

審判獣アバルドロスの殻衣が、再びイスカの肉体を包み込んだ。

イスカは飛び立つ。煉獄の炎に向かって。


みんな、急いで。聖域の外に避難するの!

あなたたちを受け入れてくれる聖域は、他にもあるわ。いまは、生きることだけを考えなさい。

 なにがあろうと、どんなことがあろうと、聖域の民を守る執行騎士の役目を忘れない。

死んだサザに、かって交わした約束だった。

審判獣同調の代償としてサザとの思い出は、ほとんど消え去ったが――

交わした誓いは、ラーシャの生きる目的でもある。記憶から消えることはない。

あなたに代わって、自分の役目を全うしてみせるわ。だから、見守っていて……。

 空を見上げる。光の筋が、夜空に走った。

最初は、流れ星かと思った。だが違う。あれは――

あれは……リュオン。あなたは、止めるつもりなのね?大審判獣エンテレケイアを――

 曇っていた心に光が差した。エンテレケイアを鎮められるなど、ラーシャは、考えもしなかった。

けどリュオンは諦めていない。まだ希望はあることを示している。

魔法使いが、リュオンを先導するように、空を飛んでいた。

新参者の魔法使いですら諦めていないのに、なぜ、私は地上で燻っているのだろう?

私も行くわ。

 ラーシャは、執行器具と繋がった鎖を手にする。

あなたが守りたかった聖域が、危険に陥っている……。でも、リュオンはまだ諦めてないみたい。

あなたとの思い出は残りわずか。私は、それを失ってでも、執行騎士の責務を果たすことにしたわ。許して……。

 失いかけていた記憶の欠片が結合し、一瞬だけサザの面影が浮かび上がる。

審判獣ハーデス。契約に従い、その力を我に――

 民の誘導を聖都の兵たちに任せて、ラーシャは飛び立つ。

先を行く魔法の光跡。ネメシスがそれを追従する。

それにラーシャが加わる。光は、3条に混ざりあい、流星となって輝いた。


あれは……リュオン団長!?まさか、エンテレケイアを止めるつもりなのか!

そんなの無理だ……。僕たちに伝説の英雄のまねごとなんて、出来るわけない。

 シリスはわかっていた。出来る出来ないではない。ここで動かない奴は、ハナから執行騎士の資格がないことを――

リュオン団長……。僕も、あなたのように、ただ前だけを向いて生きていたかった……。

 でも裏切りものだ。いまさら、それは出来……ない。

奴ら、エンテレケイアを止めようとしているのか?

シリス、奴らを止めろ。私の計画が、すべて台無しになる!

……。

お前は、こちら側にいたいのだろ!?それとも、父や兄のように無様に死にたいのか!?

僕は、聖堂が滅びることをずっと願ってきました。

あなたたち聖職者も……戒律も、僕を縛りつけるだけの窮屈なものにすぎなかった。

なのに、火に包まれた聖都を見て、いまはとても悲しい気持ちなんです……。

きりきっと僕は、この聖域に暮らす人たちのことが好きだったんだ。父と兄が、命を賭けてでも守ろうとしたこの聖都が……。

私と共に来ないつもりか?そのようなこと、お前に出来るのか?シリス、お前は私に逆らえるのか?

……。

お前の心は、私が完全に支配している。お前のその肉体も、心もすぺて私のものだ。それとも、もう一度調整が必要かね?

 シリスの執行器具――蛇の先端が、突きつけられる。

ひっ!

あんたが、俺を支配?なにを勘違いしてんだか。俺が従っていたのは、お前じゃなくて戒律だよ!

でも、聖皇が死に、大聖堂が崩壊した。聖堂の支配も、もうお仕舞いだ!戒律なんて、もう意味がねえ!

 蛇の先端が、大教主の頬を突く。赤い血が、わずかに流れる。

私をこ……殺すつもりか?

命は奪わない……。なぜなら僕は聖域を守る執行騎士だから。でも、このあとあなたがどうなろうと、僕には関係ありませんので。

審判獣レヴァイアタン。聖域と神聖なる民を守るための力を僕に――!

僕は、もっと楽に生きたかったんだけどなあ。真面目な団長を持つと苦労するよ。

 でもいまは、リュオンのところに行きたい。彼と共に聖都を救うために戦いたい。

どうせ死ぬなら、父や兄のように処刑されて死ぬのではなく騎士らしく。戦って死にたかった。

巨体な蛇に身を変え、シリスもまた紅に焼けゆく夜の空へ、1条の光矢となって飛び立つ。

混ざり合う3体の審判獣。さながら、願いを宿し、地上へと落ちる星屑のよう。

光は、終末へと向かう時計の針を止めるために。人類へ下される天罰を阻止するために――

無皐の民の、最後の願いを乗せて進む。


あの光は、もしかして執行騎士様?

どうか、我々をお救いください。


 審判獣は、善と悪を世に示す。

彼らを尽き動かすものは、最早己の役割を果たす義務感ではない。

求めるのは、ひとつ。

人々を救う――その使命をまっとうするため……。執行騎士は聖都上空に再び集結する。


バ……バカな奴らだ。大審判獣エンテレケイアを止められるはずがないだろうがっ!

おっとこうしてはいられん。そろそろ避難しなければ、私も巻き込まれてしまう。

大教主様!どうして私たち〈善〉の刻印を持つものに罰が下るのです!?

な……なんだお前たち!?

家も、家族も失ってしまいました。俺はこれから、どうすればいいのですか!?

……どうすればいいか、私にはわからん。とにかく、いまは逃げねば……。

大教主様、お救いください!

お救いください!

ええい、離れろ!私は、忙しいのだ!

 エンテレケイアが放った光線が、側にあった建物を直撃する。

うえっ――!?

ぐ……っ、ぎゃあああああああああっ!?

 大教主――マルテュスは、崩れてきた建造物の下敷きになった。

はだけた僧衣の隙間から見えるもの。それは、肌に刻まれた〈悪〉の刻印であった。


 ***


 聖都は、すべて業火に包まれていた。これ以上の破壊は、都市そのものの死を意味する。

魔法が爆ぜる。ゆらぐことなく、ひたすら聖都への侵攻をつづけていた。エンテレケイアの巨躯が、小さく揺れた。

やった命中だぜ!

いや、浅いにゃ……。

 畢生のー撃のつもりで叩き込んだ魔法も、わずかな足止めにしかならなかった。

やな予感がする。魔法使い、避けろぉ!

 光芒の貫き。その光は、歴史を重ねた建造物を貫き、空へと吸い込まれていった。

人智を超えたー撃――聖都、数千年の時の流れによって紡がれた。歴史と文明を、慈悲もなくただ消滅させる。

それは、人に下された天罰であり、その攻撃を防ぐものなど。地上に存在しないかに思われた。

zああ、なんということだ……。

 無力な人は、なすすべもなく、ただ嘆くしかない。

審判獣の偉大さを噛みしめながら、ひたすら慈悲が与えられることを祈る他なかった。

再びエンテレケイアは、天に代わって罰を下す。

……鎮まれ、エンテレケイアよ!

 審判獣ネメシス――リュオンは、身の危険を顧みず、エンテレケイアの真理の光芒を正面から受け止めた。

輝きの筋は、盾となったネメシスによって妨害され、弾けた粒子の飛沫が、星のように煌めいて飛び散る。

よくやるなぁ、リュオン団長は……。死ぬのが恐くないのかな?

まあ、いいや。ラーシヤさん。この隙に中央にある本体を破壊しましょう。

一度裏切った癖に、よく戻ってくる気になったわね?

え?僕は誰も裏切ってませんよ。昔も、いまも戒律に忠実な聖域の執行騎士です。意地悪言わないでくださいよ。

 リュオンは、大教主とはちがい、シリスを玩具にしなかった。

思い出すだけで、怖気が走るようなおぞましい行為も求めず……執行騎士としての覚悟だけをシリスに求めた。

僕は、恐かった。自分の中に騎士としての覚悟がないことを見破られるのが……。

でも、そうやって逃げつづけてなにを得た?失ったものの方が大きかったよ。だから、僕は示す……執行騎士としての覚悟を!

 死線をかいくぐり、審判獣レヴァイアタンは、エンテレケイアに牙を突き立てる。

エンテレケイアの殻衣は、あらゆる物質よりも固く、物理的な破壊は困難に思えた。

ならば内側から腐食すればいい。レヴァイアタンの毒は、回りが早いからね。

 エンテレケイアにとって、体表にすがりつくシリスたち審判獣など、虫以下の存在だった。

気にもとめず、愚直なまでに前進を試みる。目につく生命体すべてを葬るために。

だが、シリスたちは執拗な攻撃をつづけた。突然、エンテレケイアの巨大な体躯が。がくっと沈み込んだ。

脚の一部が、破壊されただけだ。またすぐに動き出す。その前に、叩くぞ。

 完全なる存在だと思っていたエンテレケイアに膝を突かせることができた。好機だ。

リュオンは、瞬時に理解する。このチャンスをものに出来なければ、2度目は巡ってこないと。

狙うは、エンテレケイアの頭部。あそこを破壊できれば、真理の光芒を放つことはできなくなる。

君も、もてる魔力の全てを費やし、魔法を放つ。

これまでも、様々な敵と戦ってきた。命を失いかけたこともあった。

今回も、かなりの強敵だ。でも恐怖はない。なぜならウィズが側にいるから――

しかし――エンテレケイアは雄叫びをあげる。飢えた猛獣のように、君たちの耳を劈き、その悲鳴は地の果てまで届く。

リュオンが、肩から赤い液状のものを吹き出していた。

斬られた……?だけど、いつ、どうやって?

これは間違いなく、敵の攻撃。気をつけろ。

 すでに遅かった。

リュオンにつづき、シリス、ラーシャも次々に傷を負わされ、落下していく。

なにが起きているのか、君は必死に理解しようとした。けどわからない。人智を越えた存在それが大審判獣だというのか。

君は、小さな影の接近に気づいた。

力で審判獣を鎮めるのは無理よ。私が、会話を試みる。手を出さないで……。

イスカ、無茶にゃ。リュオンたちが攻撃を受けたのを見ていたはずにゃ。

ウィズちゃん。その人が、ウィズちゃんの相棒さんなの?

 君を見つめるイスカの表情は、親しい人に向けるように穏やかだった。

よかったね、ウィズちゃん。短い間だったけど、あなたに教えてもらったこと、私、忘れないから。

 戦いの心得。旅における必要なもの。魔法こそ教わらなかったが、ウィズには様々なことを教わった。

イスカが、戦士としての自分に自信が持てるようになったのも、ウィズの教えのお陰かもしれない。

大地を見守る大審判獣エンテレケイア、私は審判獣アバルドロス。あなたに言葉を伝えに来たの。お願い聞いて。

 イスカの接近に気づいた大審判獣は、拒絶するようにまばゆい真理の光芒を放つ。

そんな……っ!?

 真理の光芒に貫かれたイスカが、地上に落下していく。

傷ついたイスカの身体は、儚く舞い落ちる。

まだよ……。このぐらいで、くじけたりは……しない。

くうっ!?

 撃たれ。傷つき。イスカは、飛ぶ力を失い地上へ落ちる。

だが、落ちてもまだイスカは立つ。翼は折れても心は折れない。決して折れることはない。

なぜなら、イスカはインフェルナの戦士。

インフェルナには……絶対に行かせない!

あそこには、大勢のわたしの仲間がいるもの。家族同様に大切な人がいるから……だから、私の声よ届いて……届けぇ!

 飛び上がろうとしたイスカだったが、もはや自力で夜空にあがる力は残っていない。

それでもイスカは飛ぼうとする。エンテレケイアに向けて。崩壊へと進む時計の針を止めるために。

……つかまれ。

 イスカの手をリュオンがつかんでいた。

お前に、エンテレケイアを止められるのか?

止めてみせる!

 イスカの熱意は、まだ失われていない。まだ望みが繋がっていると信じている

ならば、俺が大審判獣の側まで連れていく。それまで、俺が盾になろう。

 赤い液体が、リュオンの肩から流れ落ちた。それをものともせず、再びエンテレケイアに。向かう。

その時、エンテレケイアの頭頂部に審判の刻印が浮かび上がった。

再度放たれる真理の光芒。狙いを違うことなくイスカに命中する。

だが、それを防ぐものがあった。みずからの体躯を光を防ぐ盾とし、イスカとリュオンを守るは、審判獣ハーデス。

言ったでしょ?私が守ってあげるって……。

 真理の光芒を真正面から受け止め、その身を盾にし、仲間への道を開く。

リュオンは、振り返らない。イスカを抱いたまま、夜の星の間を飛翔する。

つづけて放たれる2度目の光条。諦めぬ人の意思を砕こうとする天罰の光。

その熱と凝集した光子の密度は、大地が生まれる前の輝きにも似ていた。

zはあーあ。無茶する人を団長に担いだせいで、苦労しっぱなしです。

 審判獣レヴァイアタンが飛び出して、身代わりとなった。

どうか、先に行ってください。無様な姿は見られたくありません。

 レヴァイアタンは、怯むことなく真理の光芒を受け止めつづけた。

人であれば、蒸発するほどの膨大な熱量を受け、たちまち殼衣が爆ぜて飛び散った。

リュオン。あなたの仲間が……。

うしろを振り返る必要はない。俺たちは、執行騎士。聖域を守るのが役目だ。

 ようやく見えてきた。エンテレケイアの頭部が。リュオンは、つかんでいたイスカの手を離す。

イスカ。お前が、エンテレケイアを鎮めろ。俺は、ただお前の背中を守る――

 断固とした意思が宿る言葉。風は冷たく、死の匂いが立ち込めているのに。ただただ……暖かさだけが、イスカの中に広がっていった。

止めてみせる。あなたの分も……仲間たちの分も、背負って……。

 3度目の光芒を放つ準備が、整った。

リュオン……。私、やっぱり、あなたに会えてよかった。

 リュオンはなにも言わない。無言でイスカの背中をそっと押す――行けという合図だった。

そして、リュオンは、真理の光芒を受け止めにいく。

待ってくれリュオン。おいらも、お前に付き合う。魔法使い、あいつのところまでおいらを投げてくれ。

でも……。

そんな顔すんな。おいらを誰だと思ってる?そう簡単に死んだりしねえよ!

 君は言われたとおりに、マグエルをリュオンのところまで投げた。

じゃあな、魔法使い!また会おうぜ!

 まばゆい光の凝集。それは、人への裁き。聖典には天意だと。記されている。

ならば、それが、なんとしても防いでみせる――人としての意地だ。

人は、理由もなく裁かれるために、生まれてきたわけではない――

みずからの生き方で、善悪を示すために生まれてきた。俺が、それを証明してみせる!

 光帯が、放たれた。正面から受け止めるには、強大すぎる天の意思。

リュオンは、たじろぐことなく受け止めた。真理の光芒を。天の裁きを。

天地開関の輝きに相当する熱量の光芒が、リュオン――審判獣ネメシスの殻衣を焼く。

ひとの世に希望を繋ぐためにリュオンは盾となる。

背中には、死んだ仲間がいる。人であることの誇りがある。人類の未来がある。

腕を失おうとも、脚を失おうとも、リュオンの意思さえ残ればいい。

――ここで退く理由など、どこにもなかった。


……。

 イスカもまた背後を振り返らない。哀しみや絶望を置き去りにして、エンテレケイアの側へ行く。

大審判獣。止まって。お願い……。それ以上、私たちの住む大地を破壊しないで。

私の父も審判獣だった。母は、普通の人間。半分だけ人間の私が、どうやってこの大地で生きて来たか……それをいまから話すわ。

 イスカの言葉は、エンテレケイアに届いたのかどうかは、君にはわからない

ただ、その歩みが少しずつ……少しずつ、遅くなっていくのはわかった。


悲しい鳴き声にゃ……。

 払暁の空に轟く咆吼。君はウィズを力強く抱きしめた。

もし、大審判獣が止まらなければ、君もここでウィズと共に果てる覚悟だった。

 しかし、エンテレケイアは、再度叫ぶことはなかった。緩んだ足取りは、徐々に静止していく。

君は、エンテレケイアが、その身を地上に沈めるまで、じっと見守っていた。



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 海は哭き。大地は血を流す。

多くの魂を吸い込みつづけた空の下で、エンテレケイアは、完全に静止していた。

最終審判の静止。その代償として流れた血と慟哭の数は、計りしれないものだった。


聖都、なくなっちゃった……。いっぱい人が死んだんだろうなあ。

 力を使い果たしたイスカは、大地に横たわり静かな寝息を立てている。

聖都〈サンクチュア〉は消滅したけど、聖域はまだ残っているもんね。

戦争はつづく……。

でも、当分戦いたくないなー。のんびり晶血片でも採掘しながら、鋭気と財産を養いたいよ。

新頭首が、決めることだ……。

 イスカが目を覚ました。軽くあくびしながら、のんびりと身体を起こす。

おはよー。

よく眠れたみたいね。イスカが眠ってる間に、インフェルナのみんなが、集まってきたんだけど……。どうしよう?

 イーロスは死に、マルテュスは行方不明。インフェルナをまとめるには、あたらしい象徴が必要だった。


頭首を私に……?できるかな?

お金のことはあたしに任せて!たっぷり稼いでイスカを楽にさせてあげるから!

メルちゃん。ありがとー。お礼に抱っこしてあげる。

あ~もう、ウザい!暑苦しいから離れてよ~。離れなさいって、みんな見てるから~。

ふっ……。

 大勢の人間が近づいてくる足音を察知して、クロッシュは剣の柄に手をかけた。

インフェルナ兵たちも、周囲に緊張を走らせる。

あ、あんたらは……インフェルナ人か?

zおい、聖域の民だぜ。どうする?

 聖都〈サンクチュア〉を焼け出された聖域の民は、家を失い、身ひとつで行くあてもなく彷徨っていた。

これまで聖域の人間と交わることのなかったインフェルナのものたちは、突然の遭遇に警戒心を剥き出しにする。

待って。争う必要はないわ。大聖堂はもうなくなったんだから。

 仲間たちをなだめながら、イスカは聖域の民に向かって語りかける。

私は、インフェルナの代表イスカ。戦争は、もう終わりにしましょう。私たちが、争う理由はないもの。

 インフェルナとは、別の世界で生きていた聖域の民は、イスカの言葉をにわかには信じない。

でしたら、この子になにか食べ物を……。

おい!

私たちはいいのよ。でも、この子には関係ないじゃない。聖域とか、インフェルナとか……。

食べものぐらいいくらでも分けてあげます。他にも希望するものがあれば、なんでも言ってください。

 イスカの言葉が切っ掛けになった。

最初は警戒していた聖域の民は、ひとり、またひとりとインフェルナの野営地に救いを求める。

家を失い、疲れ果てた聖域の民は、イスカたちの保護を求めて殺到した。

zい……いいんでしょうか?

しょうがないよ。新しい頭首様が決めたんだから、あたしたちは、従うだけだよ。

 聖域から逃げてきた人々が、列を成してイスカの救いにすがっていた。

イスカは、彼らを分け隔てなく迎え入れている。

これが、望む……世界か?

これが、イスカが求めてる新しい世界なら――

あたしたちは、それが実現するように陰から支える。クロツシュ兄は、そう言いたいんでしょ?

ふっ……。


 家を失った者たちは、インフェルナの野営地へと向かっていた。

そこには救いがあった。水や食料。そして安心して眠れる場所があった。

……。

 リュオンたちは難民となった民の列を眺めていた。

命こそ残ったが、みすぼらしく落ちていく彼らを聖域の民だとは誰も思わないだろう。

彼らを見つめる執行騎士の中に、使命を果たせた高揚に胸を踊らせているものは誰もいない。

結局、聖都〈サンクチュア〉は、地上から消え去ってしまったのだから。

リュオンは、短くなった鎖を手にする。

執行騎士としての証がまだ残っているのは、奇跡だった。

完全にネメシスと同調したものだと思っていたのに……。

イスカだ。あの子が、救ってくれたんだ。

そうか……。

 意識が白濁し、人格がネメシスと完全に同調してしまう直前、深い意識の底でイスカの声を聞いたような気がした。

あの子は、仇だ。けど……みんなを救ってくれた。おいらは、嫌いになれねえな。

ふっ……。

 避難する聖域の民を見届けると、リュオンは踵を返した。

他の執行騎士どもと合流するのか?こんな事件のあとじゃ、他の聖域も、無事ではいられないだろうしな。

 リュオンが背負う磔剣に、月光が反射する。

その光を追うように、マグエル、ラーシャ、シリスがつづく。

それにしても、魔法使いはどこに行ったんだろうな?

 リュオンは、はるか向こうの地平線に目を向ける。

もう、魔法使いがリュオンに従う理由はない。きっと旅に戻ったのだろう。

聖典の一説にある。地上を救った英雄の側には、彼らを導く魔道士がひとり付き従っていたと……。

肩に黒猫を乗せて旅を続ける魔法使いの姿を思い浮かべ、リュオンはひっそりと微笑する。

そして、心の中で別れを告げた。


 北の森で、審判獣が鳴いていた。まるで仲間の死を悼むような鳴き声だった。

大地には、まだ悲しみが満ちていた。




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「も……戻ってきたにゃ。」

 いつ、向こうの世界から飛ばされたのか、はっきりと覚えていない。

エンテレケイアの動きが止まったのを見届けたのは確かだ。そこまでの記憶はある。

「イスカのことが心配にゃ。本当は、ああいう厳しい世界で生きていけるような子じゃないのに……。」

イスカのことを思うウィズの目は、親しい人を思う優しさに満ちていた。

君は君で、リュオンたちのことが心配だった。

生きていてくれればいいけど……。

「キミはキミで、あの世界に残してきたものが、たくさんありそうにゃ。」

 せめて、リュオンたちの無事をたしかめてから、戻ってきたかった。

だが、君がいくら望んだところで、異界の移動は、君の思いどおりにいったことはない。

「今回、私と離れて苦労したせいか、ひとまわり成長したように見えるにゃ。」

ウィズと離れていた日々は、本当に心細かったし、いろいろなことがあった。

「離れていたせいで、私のありがたみに改めて気づいたんじゃないかにゃ?なーんてにゃ……わわわっ!?」

君は、ウィズの小さな身体を抱き上げると、両手でカ一杯抱きしめた。

「な……なにするにゃ?こ、こら。みんな見てるからやめるにゃ。」

抵抗しながらも、ウィズもまんざらではない様子だった。

「本当に……キミは、いろいろ困らせてくれる弟子にゃ。心配させて申し訳なく思っているのなら、なにかお詫びが欲しいにゃ。」

お詫び?いったいなにがいいだろう?君には、適当なものが思いつかない。

「無事に戻れたお祝いに、普段食べない豪華なものが食べたいにゃ。」

そんなのでいいのか、と君は内心ほっとする。

「たまにはいいにゃ。師匠と弟子の仲直りの証しにゃ。」

そうだね、せっかくだしね。と、君は言うと、ウィズと共に街の中心部へと向かった。





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