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後藤田 杏

最終更新日時 :
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作成者: ゲストユーザー
最終更新者: ゲストユーザー


Illustrator:U10


名前後藤田 杏(ごとうだ あん)
年齢17歳
職業高校生
趣味バンド活動、DTM

ビッグなミュージシャンを夢見る女子高生。

夢への第一歩として有名投稿者を目指していく。

スキル

RANKスキル
1コンボエクステンド
5
10
15

include:共通スキル


スキルinclude:コンボエクステンド


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ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
~50
スキル
~100
スキル

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STORY

EPISODE1 伝説の始まり!「アタシの音楽……世界中に届けたい! まずは有名投稿者になってやる!」

 「どーも! 『杏チャンネル』をご覧のみなさん、こんにちは! 後藤田杏でっす!

 ……うーん。やっぱこういうテンションは違うなぁ。

 じゃっ、あらためて。アタシは後藤田杏! 17歳! 高2! 中学の頃からダチとギターやっててぇ、高校入ってからはDTMもやってる。

 夢は音楽でビッグになること! その第一歩として、アタシのオリジナル曲をこのチャンネルでドンドン発表していくから、みんな応援ヨロシクぅ!」


 「……こんな感じでいいのかな?」

 「ま、いーんじゃない。そのガサツな性格と言葉が受け入れられるか心配だけど。あと杏、緊張し過ぎ」

 「う、うっせーな! 男のくせに細かいんだよ!」

 こいつは幼馴染みっつーか、音楽仲間っつーか、ダチ? ツレ? よくわかんねーけど、腐れ縁!

 中学のときから一緒に音楽始めて、メンバー集めてバンドも組んでたんだけど、みんなヘタレばっかで逃げられちまった。

 残ったのはこいつだけ。うん、やっぱ腐れ縁だ。

 そんなわけでメンバーもいないし、アタシたちが今すぐ動き出せる場所としてネットに目をつけたワケ。その配信第1弾をこいつに撮ってもらってたところ。

 「分かった分かった。動画投稿はスピードが命だからな。さっさと一発目の曲をレコーディングしようぜ」

 「言われなくても! アタシの最強テク死ぬまで聴かせてやるよ!」

 「そんなんだからみんな逃げちまうんだよ……」

 「アァ!?」

 「……なんでもない」


 めんどくさいことはアタシには関係ない! このまま人気投稿者になって、絶対ビッグになる! 世界中にアタシの音をぶちかましてやるッ!!


 アタシはギターをかき鳴らした。アンプに繋いでないから、チャリーンって力のない音だったけど、初めてギターに触ったときみたいな気分になって、なんか……超ワクワクしたっ!!

EPISODE2 届き始めたアタシの歌!「曲作りって大変だけどさ、リスナーのためなら疲れなんて感じないぜ!」

 「ロックと言えば生音じゃなきゃ」とかいう大人もいるけどさ、そんなイメージに縛られてる方がよっぽどロックじゃないと思うんだよね。ま、メンバーがいないっていうのが本音だけど。

 でもさ、DTMってすごいんだ。あれもこれも自由にできるから、アタシの頭の中をそのまま出すみたいで、すっげー快感! って感じ。


 「うーん……ここの音しっくりこないなぁ。ねえねえ、どう思う?」

 ヘッドホンから聴こえてくるアタシの新曲。配信も次でもう4曲目だけど、人に聴かせることを意識すると毎回納得いかないところが出てくる。ミックス中はこうやって煮詰まることが何度もあって。

 「あー、杏の歌とギターの音が被ってるな。ギターの中音域だけちょっと下げて住み分けしてあげれば? あとバスドラのコンプ、もうちょっとアタック早くした方がパキッとして良いと思う」

 「えっと……ほんとだ! めっちゃいい感じになった!」

 「だろ? ま、杏は実際テクもセンスもあるから、ミックスしやすい方だけどさ」

 アタシの腐れ縁である相方は、壁に当たるといつも的確にアドバイスをくれる。正直、曲作りでもコイツのアイディアが入りまくってるから

『2人組で活動しようぜ』って言ったんだけど……

『俺は裏方に向いてるから』だって。暗いヤツ。


 「てか、さっきからスマホに通知きまくってるけど」

 「うん?」


 ミックス作業に夢中になって気づかなかったけど、アタシの投稿動画にコメントがついたという通知が大量に来ていた。そのどれもが『カッコイイ!』とか『ファンになった!』とかいう内容で……。

 「わっ、わっ、なにこれ、ヤバッ」

 「ほーう、やっとリスナーに届き始めたかぁ。どっかに転載でもされたかな」

 「ちょっ、これ、どうしよう!」

 「……お前、ほんっと根はヘタレだよな」

 「う、うるせーー!! こんなの余裕だし! つーかコメントくらい当たり前だし!!」


 届き始めたんだ……アタシの曲が!

 手のひらでブルブルと振動し続けるスマホがまるで大歓声みたいに感じて、アタシはそれをしっかりと握りしめた。

EPISODE3 アタシの時代、来た!?「リスナーも増えて絶好調! これからって時に……もっと喜んでくれてもいーじゃん!」

 曲をたくさん作って投稿を繰り返すごとに、リスナーはどんどん増えていった。最近じゃ生放送も始めて、ファンと直接コミュニケーションしちゃったり!

 アタシって短気で口も悪いから、当然カレシなんていたこともない。クラスの女子の中でもどちらかと言えば浮いてる方かも。だから、こんな風にたくさんの人に認められるってなーんか不思議な感じ! アタシの時代が来たんじゃねーの!?


 「でさっ! 前回の生放送をあの有名投稿者の『9Z』さんが観てくれたらしくてさ!」

 「おおっ、すごいじゃん」

 新曲作りのミーティングにやってきた相方に、アタシは嬉しさをぶちまけていた。

 9Zさんはアタシが音楽を始めた頃からもうとっくにネットで有名だったアーティスト。雲の上みたいな人。しかもイケメン。そんな人がアタシの曲を聴いてくれてたなんて、超驚いたし、超嬉しかった。

 「だろだろー? しかも直接メッセージ貰ってさ、曲作りとか投稿のアドバイスしてくれるってよ! マジやばくね!?」

 「……ふーん」

 「なんだよ。テンション低いじゃん」

 変なヤツ。もっと喜んでくれてもいーじゃねーか。

 「あー、もしかして嫉妬してんのかー? おらおらー!」

 「……じゃねえ、って……」

 「うん?」

 「ふう……そんなわけないだろ。ま、とにかくおめでとう。杏も一人前の投稿者になったわけだ。もう一人でもやっていけるよな」

 「は? なんだよそれ」

 「ほら、俺も受験とかあるしさ」

 「受験って、そんな話今までしたことなかったじゃん!」

 「俺だって色々考えてんの。じゃ、帰るわ。頑張れよ杏」

 「ちょ、ちょっと……おい!」


 混乱してるアタシを置いて、そのまま部屋から出て行きやがった。ムカついてドアに向かって思い切りクッションを投げつけてやったけど、何の反応も無い。

 ……なんだよ。なんだよなんだよ、なんなんだよ!!

 そりゃ約束とかはしてなかったけどさ……いつかでっかいステージで演るときは、アイツも一緒だと思ってたのに!

 マジワケわかんねぇーー!!!!

EPISODE4 絶対に外せないイベント!「デカいイベントに呼ばれてアタシも有名人!? このチャンス、アタシのモノにしてみせる!」

 ついに、ついに! この日が来た!!

 オファーされてた『配信サイト主催リアル大型イベント』その当日! これでアタシもマジでスターダムじゃね!?


 朝から会場入りしてリハーサル。場内はまだ照明も明るくて、スタッフさんたちがあちこち機材を運んで忙しそうにしてるのがこの高さだとよく見える。

 アタシが立っている大きなステージ。こんな大きなステージで演奏できるなんて……。


 「後藤田さーん、何か気になるところありますかー?」

 「あっ、はい」

 1曲通してリハーサルしたあと、PAさんがスピーカー越しに話しかけてきた。

 「えーっと、モニターなんですけど、ベースの音とアタシの声の返しもう少しください」

 「はーい、了解です。じゃあ2曲目お願いしまーす」

 言われるままに2曲目を演奏する。うん、いい感じ。こんなに大きいステージなんて初めてだから、どうなるかちょっと緊張したけど、これならやれそうじゃん。

 「はいオッケー。じゃあ、そこバミっておくんで、本番よろしくおねがいしまーす」

 「よろしくおねがいしまっす! って、バミ……? バミってなに!?」

 スタッフさんがアタシの足下でゴソゴソやってる中、PAさんの言葉の意味が分からずテンパっていると、

 「今貼った床のガムテープだよ。それが杏ちゃんの立ち位置の目印」

 突然後ろから声をかけられた。思わず振り返る。

 「……えっ、ええッッ!? 9Zさん!!」

 ヤバッ! ヤバヤバヤバッ!! 生9Zじゃん!! めっちゃイケメン!!

 「リハ聴いてたよ、めっちゃいい感じじゃん。アレンジも変えたんだね、良いセンスしてる」

 「あっ、ありがとうございます!」

 「つーかなにー? 今日おめかししてるじゃーん。超可愛いんだけど」

 「可愛いっ!? いやいや! そんなことないっス!!」

 「あはは、ウケる。じゃ、今日のトップバッター頑張ってね」

 「う、ウッス!!」

 ウッスってなんだよアタシ……ビビってめっちゃキョドったわ……。でも、9Zさんって結構チャラい感じなんだな……。って、それどころじゃない! そう、アタシは今日トップバッターなんだ。気合い入れていかねーと!


 デカいイベントってことは、つまりチャンスもデカいってこと。

 アタシから逃げていったバンドメンバー、それに……あのバカ。

 ここから絶対見返してやるぜッッ!!

EPISODE5 アタシのステージ!「経験不足だから、やっぱ緊張する……。でも、今のアタシを魅せるだけだ!」

 薄暗いステージの中央には、アタシのギターが出番を待っている。ストラップに肩を通し、足下のチューナーを一度踏んだ。

 セッティングはされているけれど、念には念を入れてもう一度。6弦から順番にチューニングをチェックし終えたら、チューナーのスイッチをオフにする。今度はギター本体のボリュームノブがマックスになっているのを指先で確認してから、適当なコードをかき鳴らす。

 同時に『ジャカッ!ジャカッ!』という歪んだ音がアンプから聴こえてくる。うん、大丈夫だな。

 アタシは小さく息を吐いた。

 ……正直、めっっっちゃ緊張してんだけど!!

 動画配信メインで活動してきたからライブ経験は少ない。最後にやったのは……中学の文化祭か? 

 そんなアタシがこのステージの上でたくさんの観客の視線を浴びてる。お客さん同士の話し声は聞こえるのに、なんだか客席の方を見ることができなくて、視線の置き場に困る。

『準備できたら始めてくれ』という意味の懐中電灯の光が、会場の奥でピカピカと光った。

 ……よしっ! ビビっててもしょうがねえ!!

 「どーも! 後藤田杏です! まずは1曲目いくぜぇーー!!」

 瞬間、熱いと感じるほどのストロボが焚かれて、アタシのライブが始まった。


 「ありがとーー!! イベント、最後まで楽しんでってくれーー!!」

 ラストの曲、ラストの音のサスティーンが会場に残る中、アタシは無意識でそう叫んでいた。

 出番ギリギリまで緊張していた自分が嘘みたいに、今のアタシ史上最高のパフォーマンス。夢みたいなのに頭の中はすげークリアで。それが気持ちよくて。

 お客さんの顔もハッキリ見えた。みんな笑顔だった。そりゃアタシよりもっともっと有名な投稿者が一番のお目当てだったんだろうけど、それでも何か伝わった気がする。いつだったかの動画で9Zさんが言ってた

『お客さんが一番大事』って言葉……こういうことだったんだ。

EPISODE6 これだけは許せねー!「憧れてた自分が恥ずかしい! アタシにだってプライドがあるんだよ!」

 トラブルもなくイベントが進んで、いよいよ9Zさんの出番。

 他の投稿者さんたちもそうだけど、やっぱり動画と生の魅力はまた違う! 今日は勉強させてもらいます! ウッス!

 ……なんて気持ちは、すぐに過去のものになった。

 パフォーマンスは一見違和感のないものだったけど、アタシや音楽をかじったことある人ならすぐに分かる。

 要所要所のフレーズ以外はほとんどアテフリで、しかもボロボロ。ちょっとしたミスとかじゃなく明らかに練習不足。それをごまかすように舌を出した表情だけは、完璧に練習したように感じるほどのタイミングだった。尚且つ演奏時間の半分はトークコーナー。

 なんだこれ。全然ロックじゃねえ。


 出番を終えた9Zさんをステージ裏で迎える。

 「……お疲れっした」

 「おー杏ちゃんおつかれー! どうだった? イイ感じに盛り上がったっしょー?」

 そう言いながら自然な手つきでアタシの方に手を回してくる。それを払いのけながら、アタシが感じたことをストレートに聞いてみた。

 「今日、調子悪かったんすか? その……すごく適当に見えたんすけど」

 アタシの言葉に一瞬顔が強ばったけど、すぐにヘラヘラとした表情に戻ってこう言った。

 「……出たぁ~素人発言~。ま、杏ちゃん若いからしょうがないか。

 「あのね、メジャーとかインディーとかの垣根がなくなったこの時代、人前で演奏する時点で俺たちもプロなわけ。お客さんが楽しんでくれるのが一番大事」

 「だったらちゃんとやった方が……!」

 「楽しんでくれるなら演奏とかどうでもいい。実際お客さんも盛り上がってたじゃん。俺たちはアイドルっつーか、そういうキャラ的な存在なわけよ。ねえ! みんなもそう思うでしょ?」

 話を突然振られたほかの共演者たちは、気まずそうに苦笑いしながら縮こまってる。

 「ちょっといい感じの曲を発注……じゃなくて作曲して、それっぽく振る舞っておけば楽勝よ。特に女の子はさ。杏ちゃんだってそうだったんじゃないの~? ねっ、それよりさ、杏ちゃん打ち上げ行くよね? そのあと二人で……どう?」

 身体が震える。確かに誰かさんに言われたようにアタシはヘタレだけどさ。そんなアタシでも絶対に許せないものが二つある!!


 気がつくと、鼻血を出して床にへたり込むクソヤロウへ向かって、アタシは拳を突き出して叫んでいた。

 「音楽を、女をナメんじゃねーぞッ!!」

EPISODE7 これってスランプ?「色々ありすぎて、ちょっと疲れてるかも……。アイツ、何してんだろ……」

 クズをぶん殴ってやったことで、アタシの周りにいくつかおかしな変化があった。

 どうやらアタシの他にもクズへ思うところがあった人がいたみたいで、あの時ステージ裏にいた共演者の内の一人が、SNSで事件をリークしたのが始まり。

 さらにクズは女の子のファンにも手を出していたみたいだ。あちこちから被害の声が上がって、あっという間に拡散してクズは大炎上。アカウントを消して逃げているらしい。


 同時に、アタシはちょっと有名になった。

 投稿ではアタシのことを伏せてくれてたんだけど、イメージのせいか『ぶん殴ったのって後藤田杏じゃないか』って話題になって、そこから投稿動画に流れてきた……って感じ。

 でも有名になった代わりに、コメント欄は曲じゃなくアタシのことばっかりで、なんだか変な盛り上がり方だった。


 そのせいか、動画の投稿ペースが落ちた。

 新曲はどんどん浮かんで、その度にアップしたんだけどコメント欄は相変わらず。なんだか音楽っていうより『アタシを配信』している気分になった。『可愛い』とか『カッコイイ』とか言われても、あのクズ野郎と同じになったみたいで喜べないんだ。


 それに、一人で作る曲はなんとなく味気ないものばかりな気がして、ピースが足りないパズルみたいにイマイチ締まらない。『ここ、どう思う?』って、すげー聞きたいのに、あれから一回も連絡よこさねーし!

 アタシから連絡したら……なんつーか、その……負けたみたいでムカつくじゃん!!


 最後にもう一つ。ため息をつきながら、デスクの上に並んだ手紙の束をチラリと見る。

 どうやってアタシの住所を特定したのか分からないけど、毎日のように手紙が届くようになった。始めは『応援しています』とかそんな内容だったけど、だんだんとアタシの私生活で起こったことまで書いてあって、すげー怖い……。

 束の上に置かれた今日届いた未開封の手紙を恐る恐る開けてみた。

 『コロスコロスコロスコロスコロス』

 ……ヤバい! これ絶対ヤバいやつだ!!


 今もどこからか見られてるかもしれないと思ったら、カタカタと震えが止まらなくなる。

 ムリヤリ抑えるように自分の肩を抱いて、スマホ片手にベッドに潜り込んだ。

 勝ちとか負けとかどうでもいい! アイツに連絡しよう!!

 数回のコール音の後、『どしたー』という声。

 久しぶりにアイツの声を聞いて、アタシはここ数週間で一番安心していることに気がついた。

EPISODE8 おでましストーカー!「マジモンのストーカーに狙われるなんて、こんな展開聞いてねーし!」

 「いやいや、完全にストーカーでしょ。これ」

 「だって、アタシがそんなことされるなんて想像もしてなかったからさ……」

 ストーカーからの『恐怖の手紙』にガチでビビったアタシは、仲違いしていたのも忘れて電話していた。すぐに飛んできてくれて、経緯を優しく聞いてくれる。

 やっぱ……頼りになるっちゃ、なる。

 「心当たりは? どっかで恨みかってるとか」

 「アタシが!? ないないない!」

 「……いや、あるだろ、9Zとか」

 「あっ……」

 そっか。『バチが当たったんだ、ざまあ』としか思ってなかったけど、超人気動画投稿者から、一気に転落したのはアタシのせいだと思われてもおかしくねーな。

 「順当に考えたらそいつだろうな。俺も探ってみるし、今のところ手紙だけだからな。様子見るしかないな」


 それから数日。本当にどこかで見られてるんじゃないかってくらい、毎日来ていた手紙はパタリと止んだ。

 同時に、沈黙を保っていた9Zが久しぶりにブログを更新していた。各方面への謝罪と、生まれ育った田舎に帰って人生やり直すという内容。事実上の引退宣言だ。

 タイミングもピッタリだったし、『やっぱりストーカーは9Zで、反省したんだろう』というのが私たちの出した答えだった。


 しばらくして、その日は電車に乗って楽器屋に行った帰り道だった。色々あったせいで出かけるのが億劫になってたから、弦とかの消耗品のストックを久しぶりに買いに出掛けていたんだ。

 一番不安だったストーカーもいなくなったし、それに……アイツとも仲直り? できたし……。

 浮かれ気味に鼻歌なんか歌って、注意力が散漫していたのかもしれない。もっと早く気づくことができたはずなんだ。

 アタシんちまであと数十メートルの路地。その向こう側に……誰かいる。

 影になっているのか横顔も見えない。

 如何にも不審者ですっていう見た目で棒立ちしていたそいつは、アタシに気づいて振り返る。

 顔が見えなかったのは髪の長い女だったからということに気づいた。

 そして、それぞれの手にはスマホと……包丁が握りしめられていることにも。

EPISODE9 恐怖の生放送!「思い込みってコエー……。ファンってコエー……」

 普段人通りの少ない路地で、包丁女と見つめ合う。どう考えても日常起こるはずのない危険な状況なのに、身体が硬直して動かない。

 包丁女はアタシの顔をじっと見ると、首をかしげながらニイと笑って言った。

 「いたあ。性悪女ぁ」

 ……やっぱアタシかよーーーー!!!

 勝手にクズ野郎が犯人だと決めつけて油断してた!!

 動揺しているのがバレちまわないように、冷静なフリして声をかける。

 「アタシに手紙送りつけてたのって、アンタ?」

 「正解ぃ。ねえ、怖かった? 怖かったでしょ? あはっあはははははは!!」

 うわ……マジの人だよ……これ……。

 「……で、アタシに何の用?」

 「性悪女を退治しに来たの」

 ふにゃふにゃした態度だったのに、突然真顔になってアタシにそう言い放つ。


 「女の色目使って9Z様に近づいて、罠にハメやがってぇ。9Z様が引退するように工作したのもぉ、お前なんでしょぉ? そのくせ自分はみーんなからアイドルみたいにチヤホヤされてぇ。ぜーんぶうまくいって嬉しい? 私の9Z様奪って、嬉しいぃぃ?」

 「ア、アタシはそんなこと……!」

 包丁女は遮るように鼻で笑うと、両手に持ったスマホと包丁をアタシに見せるように突き出した。

 「だからぁ、悪いヤツが成敗されるところをみんなに見てもらおうと思ってぇ。生放送中なのぉ」

 少し距離があってハッキリと見えないけど、スマホの画面には大量のコメントが流れているのが分かる。こいつ、本気だ……。

 「はじまりはじまりぃー」

 そう言って頭の横へ包丁を構えると、アタシに向かってゆっくりと歩き出してきた。

 逃げねーと! 分かってるはずなのに足が動かない。

 助けて!! 誰か助けて!!

 そう思いながら、『誰か』じゃない、アイツのことだけをアタシは考えて、目をつぶった。

EPISODE10 ずっと変わらないもの「ほんとは気づいてたけどさ。やっぱなんか恥ずかしかったっつーか……」

 切られる? 刺される? やっぱ痛てーのかな。

 そうだ、手だけは守らなきゃ。

 怖くて動けなくて、どうしようも無くて。覚悟を決めて目を閉じたアタシの耳に、聞こえてきたのは包丁女の呻き、それとよく知っている声だった。

 「ぎぃ……離せぇ……!」

 「うおぉっ! こいっつ……力つよっ!」


 ……やっぱ来てくれた!!

 アタシの……アタシの相方!!


 「杏! ボケッとしてないで包丁! 包丁!」

 「……お、おう!!」

 全力で抵抗する包丁女ともみ合いになりながらも、包丁を持った腕を抑えてくれている。その体勢のままアタシに合図する。

 アタシは抑えられている手を目がけて、クズ野郎をぶん殴ってやった時と同じようにパンチを食らわせた。

 反動で落とした包丁を、相方がすかさず踏みつけて拾えないようにする。しばらく喚いていた包丁女は、どうすることもできないと悟ったのか、その場にへたり込んだ。

 「はあっ……はあっ……あれだけ手紙の内容がエスカレートしてたのに、やけにあっさりだなと思って色々チェックしてたんだよ……そしたら杏が映ってんだもん。ビックリした」

 「……そっか。サンキューな」


 アタシは肩を上下させて、少しずつ息を整えた。

 正直ビビッちまってたせいで止まってた思考が、ダムが決壊したように一気に流れだして、頭の中を色んなことが駆け巡る。

 なんでこんな目に会わなきゃならねーんだ。

 クズ野郎が言ってたことを思い出す。アイドル? キャラ? アタシには関係ねえ。アタシはただ音楽でビッグになりたいだけ。最高にカッコイイ曲作って、みんなに夢中になってほしいだけ。それは……アタシ一人じゃできない!! コイツが必要なんだ!! それ以外は知ったこっちゃねー!!


 アタシは包丁女からスマホを取り上げると、相方の肩を抱いてカメラのレンズを自撮りするように自分たちへ向けた。一瞬、視聴者数がもの凄い数になっているのが見えたけど、どうでもいい。

 そのまま全世界へ向けて、アタシの気持ちをぶちかます!!


 「アタシはアイドルでもなんでもねえ! 今までも、これからも! アタシの人生の相方はロックと……コイツだけだー!!」

EPISODE11 二人の伝説の始まり!「やっぱり二人がいいんだ。二人だったら、どこまでも走っていけそうな気がする!」

 あれだけ物騒な目にも会って、変なイメージが加速すると覚悟していたのに。結果から言うと、ファンはさらに増えた。今度こそはマジで『リスナーって何考えてるか分かんねえ……』と思った。

 でも、今度は正式に『2人組』として活動し直したせいか、アタシをアイドル扱いしてたヤツはあっさり消えたし、曲のクオリティも上がって純粋な音楽ファンばかりになったのは単純に嬉しい。


 「……はいストップ。また同じとこでミスってるじゃん。杏の考えるソロ複雑すぎだって」

 「うるせー! テイク68! さっさとやるぞ!」

 「レコーディングのサポートする俺も大変なんだけど……」

 新曲のレコーディング。互いのパートを録り合う、いつもの風景。

 そのいつもの風景が、ずっとずっと楽しい。

 「分かったよ。じゃあ休憩な」

 確かにチェックし続けなきゃいけないレコーディングやミックス作業は、ただ音楽を聴くより疲れる作業だ。

 「ふう、やっと休憩だよ……そういえばさ」

 「……なに?」

 「あの時言ってた『人生の相方』って……あれどういう意味? 俺、杏とずっと音楽やるの?」

 「ハ、ハアァァァ??」

 ……聞くかよ普通!!

 つーか伝わってねーのかよ!!

 マジありえねー!!

 「お前、最悪だ!!」

 「な、なに突然キレてんの?」


 なんだか気が抜けちゃってダラダラしていると、デスクの上のスマホがブルブルと音を立てて、メールが届いたことを教えてくれる。

 特に気にせずそれを開いたアタシは目を見開いた。何度も何度も内容を読み返す。

 「……どしたの? またストーカー?」

 「……違う。フェス」

 「フェス?」

 「フェスの出演決まった!! アタシたち!!」

 「う、うっそ! マジで!!」


 抱き合って跳ねて喜びまくった。一度思いっきり転んでめちゃくちゃ痛かったけど、すぐ起き上がってまた跳ねた。

 アタシはこれでいい。アタシらしく音楽をやるのがいい!!

 まだまだアタシは突っ走っていく!! コイツと一緒に!!

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チュウニズム大戦

レーベル難易度スコア
スキル名/効果/備考
●リレイEXPERT0 / 270 / 540
ミスエスケープ(コンボ選択権)
自分の場にMISSが3枚以上で発動。
自分は、このカードをCOMBOにしてもよい。

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コメント (後藤田 杏)
  • 総コメント数12
  • 最終投稿日時 2021年02月16日 17:44
    • チュウニズムな名無し
    12
    2021年02月16日 17:44 ID:r46u1mwr

    初恋クエストの告知の並びを見て「この子もbadendなんか?」って思いながらストーリー見に来た奴は私です

    • チュウニズムな名無し
    11
    2019年07月13日 13:10 ID:b1eojg05

    kzは怒っていい

    • チュウニズムな名無し
    10
    2018年11月10日 16:35 ID:k2p6hklx

    +9確認です

    +3900でした

    • チュウニズムな名無し
    9
    2018年11月06日 20:34 ID:drlhqemw

    >>8

    なぜか画像が横になってしまっています(手元のiPhoneでは普通)

    申し訳ありません。

    • チュウニズムな名無し
    8
    2018年11月06日 20:32 ID:drlhqemw

    >>7

    +9、100上がりました

    かなり強くなったのではないでしょうか

    • チュウニズムな名無し
    7
    2018年11月04日 20:53 ID:drlhqemw

    コンボエクステンド+6.+7.+8

    100ずつ増えます

    +9まで育てたらまた報告します

    • チュウニズムな名無し
    6
    2018年10月31日 03:16 ID:sd8921xv

    今回追加された子で一番好き。相方くんもキャラとして出てほしいくらいだ

    • チュウニズムな名無し
    5
    2018年10月28日 21:47 ID:ojqmzk46

    ストーリーを編集して思ったがこの子とダオ・トッテナの二人なぜだか年齢やら職業やらが書かれていない

    どうしたものか

    • チュウニズムな名無し
    4
    2018年10月28日 21:44 ID:nc1kgplo

    >>1

    白サツキちゃん以来のU10さんの新規キャラというのに…!

    • チュウニズムな名無し
    3
    2018年10月28日 02:28 ID:i1ef3jve

    なんか画風他のと違くね?

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