チキ&ウリシュ
Illustrator:くるみつ
名前 | チキ(悪魔)/ウリシュ(天使) |
---|---|
年齢 | 外見年齢14歳(実年齢およそ100歳以上) |
職業 | 天上学園の学生 |
場所 | 天使と悪魔が暮らす天上界 |
- 2022年10月13日追加
- SUN ep.1マップ5(進行度1/SUN時点で○マス/累計○マス)課題曲「ガチ恋ラビリンス」クリアで入手。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
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1 | ジャッジメント【SUN】 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
- ジャッジメント【SUN】 [JUDGE]
- 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。オーバージャッジ【SUN】と比べて、上昇率-20%の代わりにMISS許容+10回となっている。
- ジャッジメント【NEW】と比較すると、同じGRADEでもこちらの方が上昇率が高い。
- 初期値からゲージ7本が可能。
- SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
効果 | |||
---|---|---|---|
ゲージ上昇UP (???.??%) MISS判定20回で強制終了 | |||
GRADE | 上昇率 | ||
▼ゲージ7本可能(190%) | |||
1 | 210.00% | ||
2 | 210.30% | ||
3 | 210.60% | ||
▼ゲージ8本可能(220%) | |||
35 | 220.20% | ||
101 | 239.90% | ||
▲NEW PLUS引継ぎ上限 | |||
推測データ | |||
n (1~100) | 209.70% +(n x 0.30%) | ||
シード+1 | 0.30% | ||
シード+5 | 1.50% | ||
n (101~?) | 219.70% +(n x 0.20%) | ||
シード+1 | +0.20% | ||
シード+5 | +1.00% |
開始時期 | 所有キャラ数 | 最大GRADE | 上昇率 | |
---|---|---|---|---|
SUN | 4 | 49 | 220.80% (本) | |
~NEW+ | 0 | 137 | 247.10% (本) | |
2022/10/27時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
我々の住む地上から遥か高く。
ビルを超え、山を超え、飛行機を超え――でも宇宙まではいかない、ちょうどイイ感じのとこにある高い空。
この空に浮かぶ分厚い雲の上に、天上人<てんじょうびと>が通う『天上学園』という名の学校がある。
天上では珍しく天使と悪魔の共学校であり、『恋の矢アーチェリー』は毎年インターハイ出場、
あらゆる不正が許される『バーリトゥード<なんでもアリ>学力テスト』は上位一桁をキープし続ける等、歴とした名門校である。
だが、どんな名門校でも必ず落ちこぼれはいるもので――
「あ、ポンコツ天使のウリシュじゃーん」
「そういうあなたはヘタレ悪魔のチキさん。休みだというのに追試で登校なんて。情けない」
「あんたも同じく追試だからいるんでしょーが!! どの口が言うか!!」
真っ赤な瞳にツインテールを揺らして怒る、悪魔見習いのチキ。
青い瞳に三つ編みをなびかせメガネを直す、天使見習いのウリシュ。
入学以来赤点、遅刻、うっかりミスを連発し、頑張ってはいるがそのどれもが空回りとなってしまうチキとウリシュ。
気づけば学園創立きっての“落ちこぼれ”のレッテルを貼られていた二人は、まさかの卒業試験まで揃って落ちてしまったため、特別措置として追試を受けることになっていた。
100年に一度行われる、一人前の証となる卒業試験。この追試も落ちればもう100年留年することが確定となる。
もしもそうなれば、クラスメイトから敬語とタメ口が微妙に混ざった口調で話しかけられる、なんとも気まずい学園生活を続けなくてはいけなくなるだろう。
もう後がないチキとウリシュは、並々ならぬ覚悟でここにいる。
――そう。二人はマジでヤバくなってから焦り出すタイプであった。
「まさか追試内容が“人間界での実技”だとは、少々驚きましたね」
「アタシらの筆記の点数がヤバすぎたから、考えてくれたんでしょ……」
「そんなに落ち込まないでくださいよ」
「アンタ、アタシより点数低かったからね!?」
「細かいことにうるさい悪魔ですね」
二人に課された最後のチャンス。
それは、人間界での実技試験であった。
天使は天使として、ターゲットの恋愛フラグを立てまくって恋を叶えること。
悪魔は悪魔として、フラグをへし折りまくり失恋させること。
それぞれの使命を実技形式で披露するこの試験は、一人前だと証明するにはピッタリといえるだろう。
「はあ……アンタにツッコミ入れてる場合じゃないわ。めんどくさいけど、そろそろ人間界に降りる時間だし」
「そうですね。ターゲットとなる人間の情報ファイルも受け取ったことですし」
「あ、そういえばどんな人だった!? 楽勝そ?」
「高校生の女の子でした。まあ、私にかかればどんな相手でも問題ないですが」
「あ~もう、そういうのいいから! ちょっとさ、見せっこしよーよ!」
「いいですよ。卒業したら会うこともないですから、こういう学生らしい無邪気な振る舞いをしておくのも悪くありません」
「いちいちチクチクすんな! それじゃいくよ……せーーのっ!!」
バインダーに挟まった一枚のコピー用紙を胸の前に伏せていた二人は、呼吸を合わせると互いに見えるように出し合う。
「……は?」
「これは……」
そこには、“絶対にあってはならないこと”が起こっていた。
二人に与えられたターゲットの情報。
名前も、年齢も、趣味も、特技も、顔写真までも、まったく同じ人物が記載されていたのだ。
「なにこれ、学園のミス?」
「そうとしか……なぜなら私は恋を叶えるのが目的で……」
「アタシは失恋させること」
「つまりどちらかは……」
ウリシュがそう言いかけた時、チャイムと共に大音量で校内放送が響き渡る。
『これより追試験を開始する! 我が校の恥とならぬよう全力で臨むように! 以上!!』
瞬間、チキとウリシュの足元の雲に大きな穴が開き、二人は追試の会場となる人間界へと落下していく。
「ちょっ、ちょっと待って~~!!」
「な、何か手違いがあるのですーー!!」
堕ちながら叫ぶものの、その声はもう学園には届かない。
かくして、恋愛フラグ立て折り合戦の火蓋が切って落とされた。
一人前の証である学園卒業をかけたチキとウリシュ。
そして、何も知らずロクでもない事情を押し付けられたターゲットの運命や、いかに――。
「……いました。あれがターゲットである人間の女学生です」
「『夢見乙女(ユメミ オトメ)』、高校一年生……フツーの子だねぇ」
青空市の住宅街にある一軒家。
登校前に朝食を食べる少女の様子を、チキとウリシュは庭先にぷかぷか浮かびながら窓から覗いていた。
「というか、なんでチキさんもここにいるんですか」
「なんでって、私だってあの子がターゲットだもん」
「本気で私と争う気ですか。諦めて留年したほうが賢明ですよ」
「そっくりそのままお返ししますぅ~~!」
「……なら、こちらからいかせてもらいます。“エンジェルスピーカー”!!」
ウリシュはなぜかクセの強い声で道具の名前を呼び上げると、どこからともなく小型の拡声器を取り出した。
それへ口を近づけ、おもむろにフロウを奏でだす。
「恋愛のはじ(まり)! 運命のまじ(わり)! 止(まり)はしないよ(はし)りだす(あい)!」
拡声器で増幅されたウリシュのラップが、窓を突き抜けてオトメへと飛んでいく。
チキとウリシュの姿や声は人間に感知できない。しかし、その“効果”は確実に届いていた。
「あれ!? もうこんな時間!? ゆっくりしすぎたー!」
突如慌てふためきはじめたオトメはテーブルの上の食パンを咥えると、そのまま玄関を飛び出し走り始めた。
「いっけな~い! 遅刻遅刻~~!!」
リュックを豪快に揺らし、パンを咥えているにも関わらずやけにしっかりと喋りながら走るオトメ。なぜか空いている両手は決して使おうとしない。
その姿を追いかけながら、チキは戦慄する。
「あ、あれは“食パンダッシュ”!! フラグ立ての中では基本の技だけど……完成度が高いッッ!!」
「ふふふ……私の得意技ですから」
「ポンコツ天使のくせにやるじゃん……」
「いいんですか、チキさん。このままフラグが立ったままだと、この先でオトメさんが運命の人とぶつかってしまいますよ」
「そんなことさせないもん! いくよ、“デビルスピーカー”!!」
ウリシュと同じように拡声器を取り出したチキ。
フラグを立てるためのウリシュのものとは違い、フラグを折るためにあるチキの拡声器。
それを使って、今度はチキがラップを披露する。
「(どう)しようもないことは (もう)しない! (あき)らめる (ひき)かえす それも大事!」
“フラグ折り音波”を浴びたオトメは突然真顔になると、ダッシュをやめて足を止める。
そして、その場で口元の食パンを全て食べ終えると、踵を返して来た道を戻り始めた。
「この時間じゃ走っても絶対間に合わないや……体操着も忘れちゃったし、どうせだから一回帰ろうっと……」
完全にフラグを折ることに成功し、高笑いするチキ。
「あははは! アタシにかかればこれくらい楽勝~!!」
「くっ……ヘタレ悪魔のまぐれだとは思いますが……」
その時、近くの交差路をひとりの男子生徒が駆け抜けていった。
オトメが走り続けていたら確実に衝突していたであろうタイミング。ベタベタなラブストーリーが始まっていたかもしれない。
それを見て悔しそうに指を鳴らしながらウリシュが言う。
「ちっ、惜しかったです。本来ならオトメさんは彼とぶつかってフラグが加速するはずでした」
「やーいやーい! ざまーみろー!」
「なんと幼稚な……! 笑っていられるのも今のうちですよ。私はきっちり成就させて無事卒業しますから」
「全部邪魔して失恋させてやる! 合格するのはアタシなんだから!」
「さて、先に行きますね。どんどんフラグを立てていかないと」
「待ってよ! 抜け駆け禁止!!」
その後もチキとウリシュにより、フラグを立てられては折られるを繰り返すオトメ。
初日から加減を知らない天使と悪魔に振り回され、一日を終える頃には彼女は訳もわからずグッタリと疲れ果てていた。
「はあ……なんか今日の私、呪われてる……?」
翌朝。
やはり偶然の出会いが恋の始まりにふさわしいと考えたウリシュは、今度こそ通学路でのフラグ立てを成功させようと、チキに見つからないようこっそりとオトメの家までやってきていた。
「偶然と衝撃、そしてちょっとのドキドキ。それが何よりの恋のスパイスなのです。そう、出会いはドラマチックであればあるほど燃え上がるもの……」
今日は時間に余裕を持って家を出たオトメを、ウリシュが追いかける。
これまで以上に熱を込めたラップをオトメにぶつけると、彼女の頭上に人間には見えない旗がにょきっと生えた。フラグが立った証拠だ。
「ふふふ……強烈な出会いをお見舞いしてあげましょう……」
ウリシュがそう呟いた瞬間、通学路に悲鳴が響き渡った。
「おい! 危ないぞ!!」
悲鳴は伝播し、すぐさま周囲は大混乱に陥っていく。
ウリシュはその理由をすぐに理解する。
明らかにコントロールを失ったと思われる大きなトラックが、左右にフラフラと揺れながら猛スピードでこちらへ向かってきていたからだ。撥ねられでもすれば無事では済まないだろう。
「あれ……? いくらなんでもこれは……強烈すぎ……」
想定以上の展開に呆然とするウリシュ。最悪なことに、寝ぼけているオトメは迫るトラックにまだ気付いていない。
そこへ後ろから追いかけてきたチキが、慌ててフラグ折りのラップをオトメにお見舞いする。
「キャラにあわ(ない) シリアスてん(かい)! そーゆーのは任(せる) 他のレー(ベル)!!」
瞬間、どこからか突然現れた男子学生がトラックの前に飛び出すと、間一髪のところでオトメを抱えて転げ回った。
あんなにフラついていたトラックは何事もなかったかのように正常運転となると、すぐに見えなくなっていく。
「ふー、危ないところだった。アタシがフラグを折ってなかったらシリアス展開になるとこだったよ」
「……いえ、計算通りでした。邪魔がなければ異世界へ送れたのに」
「まさかの転生モノっ!? 今思いついただけでしょ!!」
「しかし良いのですか? フラグを折られたとはいえドラマチックな出会いであるには違いないのですが」
「ふふん、アレを見れば分かるよ」
チキが得意げに指差した先。
そこには痛そうに尻もちをつくオトメと、そのオトメのスカートの中に頭を突っ込んでいる男子学生の姿があった。
「な、な、な、な~~~!!!」
「ち、違うんだ! 助けようと思って倒れた拍子に――」
「このっ……変態ッッ!!」
顔を真っ赤にしてそう叫んだオトメが走り去っていく。
言い訳も聞いてもらえず、残された男子学生はその場に立ち尽くしていた。
「どーだ! いきなりあんなことされたら恋愛に発展するはずないでしょ!」
「あの……あれは通称“ラッキースケベ”というオーソドックスなフラグなのですが……」
「ん? なんか言った?」
「あ、気付いてないなら結構です」
チキとウリシュはオトメを追って、当たり前のように学校に潜入する。
オトメをはじめ次々と生徒が登校してきて次第に賑やかになっていく教室。
やがて担任教師がやってくると、朝のホームルームが始まった。
「えー、突然だが今日から転校生がこのクラスに加わることとなった。さあ、入ってくれ」
ガラリと引き戸が開き、呼ばれた転校生らしき人物が教壇までやってくる。
教師は黒板にカツカツと文字を書いたかと思うと、生徒たちへ振り返ってこう言った。
「転校生の『古逸池輝(コイツ イケテル)』君だ。みんな仲良くするように!」
すると、誰よりもまっさきに反応したオトメが思わず立ち上がって叫ぶ。
「あ~~~!! 朝の変態男!!」
すかさずイケテルも返す。
「お前は! 恩知らずな女!!」
面白がって湧き立つクラスメイト達を尻目に、チキとウリシュはまた別の意味で驚いていた。
「こ、これは……一級フラグ術である“さっきのいけすかないヤツ”!」
「なんで~~!? フラグは完璧に折ったはずなのにぃ~~!!」
「無意識でこれほどの……チキさん、あなた天使の才能があるのかもしれませんよ」
「やだ~~! そんな才能いらないも~~ん!!」
「今日こそは二人の距離を縮めさせてもらいますからね」
「とか言ってるけど、それって上手くいってないってことじゃな~い?」
今日も今日とて煽り合うチキとウリシュ。
あれから数週間。
一進一退の攻防を繰り返しているのだが、互いの力が拮抗していることもあって、オトメとイケテルの親密度はいまだ平行線のままであった。
「きゃーー!! イケテル君かっこいいーー!!」
「今ので何点目!? プロサッカー選手みたい!!」
体育の授業。オトメ達のクラスは男女別れてサッカーをしている。
そんな中、イケテルのシュートがゴールネットを揺らすたび、大量の黄色い歓声がグラウンドを飛び交う。
「なにあれ。イケテルにあんな特技あったっけ?」
「実は昨日のうちに少し仕込んでおいたのですよ。フラグを立てるのは何もオトメさんだけである必要はありませんからね。少し能力をブーストさせて頂きました」
「ぐぬぬ……ポンコツ天使のくせに巧妙なマネを……」
「しかし、自分で仕込んでおいてなんですが、こんなにゲームバランス崩壊していたら他の生徒は普通やる気なくしますよね」
「それな。あと観戦してる女子もやけに多いし。授業中なのに」
「あれって漫画だから許されてますけど、現実では……」
「音ゲーのキャラストーリーぐらいは大丈夫でしょ」
などと二人が意味不明なことを言い合っている間に、1ゲーム終わらせたイケテルは水道で豪快に頭から水を被っている。
わざとらしいほど水しぶきをあげて髪をかきあげると、これまた周囲から悲鳴にも似た声があがった。
それを遠くから眺めていたオトメは、隣にいる友人から肘打ちされつつ茶化される。
「ねえ、オトメ。あんたの彼氏めちゃめちゃモテてるけど、いいの~?」
「か、彼氏なんかじゃないって!」
「え~? 転校してきたときもそうだけど、なんだかんだ二人でいるとき多いじゃん」
「それは……よく分からないけど、偶然あいつと遭遇することが多いだけ。こっちだって困ってるんだから」
「とかなんとか言っちゃって~!」
「もう! あんなヤツ、別になんとも思ってないんだからねっ!」
からかってくださいと言わんばかりの、100点満点のリアクションを見せるオトメの視線の先。
最高にモテまくりながらも、あまりにイケメンすぎるためか誰も近づかないイケテルの元に、一人の女子生徒が声をかけるのが見えた。
「イケテルさん。濡れたままでは風邪をひいてしまいますわ。このタオルをお使いになって」
「あ、ああ……ありがとう。えーっと、頼場さん」
「まあ! わたくしの名前を覚えてくださっていたのですね! こんなに嬉しいことはありませんわ!」
途端、ざわめきはじめる周囲の女子たち。
「ルナ様……頼場瑠奈(ライバ ルナ)様がアタックを仕掛けたわよ!」
「眉目秀麗、文武両道、最強金持ちお嬢様であるルナ様が!? あの方にアプローチされて、落ちない男子はいないわっ!」
一連の様子を見ていたウリシュは、眉を潜めて言う。
「やけに丁寧な説明のおかげで大体分かりましたが……この事態は一体……」
「へへーん。仕込んでたのはアンタだけじゃないってこと」
「くっ、チキさんの差し金ですか。全てにおいて上回るハイスペックライバルの登場とは、味なことを……!」
「でしょ~? でもね、これで終わりじゃないよ!」
チキが得意げに言うのと同時に、ルナはいきなりグラウンドの隅をビシッと指差すと、高らかに宣言する。
「オトメさん! 今ここに宣戦布告します! イケテルさんを賭けてわたくしと勝負なさい!!」
瞬間、湧き立つグラウンド。
授業中だというのになぜか教師の存在は消え去り、なし崩し的にオトメとルナの1VS1バトルが盛大に始まった。
「なんでこんなことに……みんな見てるし恥ずかしいよぅ……」
「ルールは簡単。互いに攻守交代しながら相手のディフェンスを抜いてゴールを決めるだけ。3本先取したほうが勝ちですわ!」
「全然話聞いてくれないし!」
ピピ――ッ!!
嘆くオトメを無視して、無情にも開始の笛が鳴る。
上空から満足げに眺めているチキは、ニヤニヤ顔を隠さず言う。
「こんなに注目されてる状態で惨めに負ければ、どんな恋だって終わりだね!」
「なんて卑怯な悪魔……これは由々しき事態です……」
チキの思惑通り、スポーツも得意なルナはあっという間に2本先取してしまう。
もうオトメには後がない。
「天使としてこの手は使いたくありませんでしたが、やるしかないようですね」
「ちょっと、何するつもり?」
「何って……こうするんですよぉぉぉ~~~~!!」
ウリシュはそう叫びながら、今まさに3本目のシュートを打とうとしているルナの元へ猛スピードで飛ぶと、認識阻害バリアを解いて――――タックルした。
天上人の力など一切使わず。
これ以上なく純粋な、物理で。
「何やってんのポンコツ天使~~!!」
大慌てでウリシュを羽交い締めにするチキ。
「人間に姿を見られたら試験は強制終了なんだよ!?」
「へへ……こうするしかなかったんですよ……いつだって最後はカチコミで決まるんです……」
「アンタ……典型的なキレたらヤバイやつじゃん……」
幸いにもオトメたちに存在がバレることなく、当然のようにルナの勝利でゲームは終わった。
なお、別にサッカーの勝ち負けで恋が発展したり終わったりすることはなかった。
「しかし頼場瑠奈……強力なライバルの登場は驚異ですね……」
「あーそれなんだけど、たぶんもう出番はないかな。残り話数が少ないから、さっさとストーリーを進めないと」
「なるほど。それもそうですね」
「しばらく邪魔しないからさ、フラグ立ててよ。盛り上がってからブチ折ったほうが効果的だし」
「させるつもりはありませんが、一進一退じゃ進みませんしね。いいでしょう」
やけに冷静なやりとりをするチキとウリシュをよそに、ルナの登場はオトメに少なくない影響を与えていた。
イケテルが誰かに本気で言い寄られる光景を見たことで、初めてオトメの中に小さな嫉妬心が芽生えていたのである。
(これって……好きってコト、なのかな……)
自分の中の感情をいまだ掴みあぐねているオトメ。
そんなある日の放課後。
オトメが学校から帰宅していると、突然の大雨に打たれてしまう。
雨に打たれながらなんとか駆け込んだ橋の下、そこにはしゃがみこんでいるイケテルの姿があった。
(何してるんだろう……?)
ゆっくり近づくと、イケテルのそばに段ボール箱があるのが見えた。
「いきなり降るんだもんなぁ……ほら、とりあえずここなら濡れないですむぞ。ははっ、元気にニャーニャー言ってらあ」
「イケテル……?」
「うわあ、びっくりした! なんだオトメか……」
「その子は?」
「向こうで捨てられてたから、とりあえず避難させたんだ。まだこんなに小さいのに、かわいそうだよな」
「へぇ……優しいとこ、あるじゃん」
そんな二人のやりとりを見ていたチキとウリシュは、なぜかやたらと興奮しながら熱を帯びた実況を繰り広げる。
「うわぁ~~!! “雨の中の捨て猫”シチュ!!」
「イケテルさんが不良でないところは惜しいですが、これほど鮮やかなのはなかなか見られませんよ!」
そのまま捨て猫を放っておけず、家で飼うことに決めたイケテル。
同時に「雨の中オトメをそのまま帰せない」というやたら紳士的な理由で、すぐ近くにあるという自宅に誘う。
戸惑いながらも、頷くオトメ。
「なーんでホイホイついてっちゃうんですかね」
「ヒロインに隙がないと話が展開しないからじゃない?」
猫が入った段ボールを抱えて歩くイケテル。その背中を見つめながら一歩後ろを歩くオトメ。
ほどなくしてたどり着いた先には、立派な一軒家が建っていた。
両親は海外で働いており、この家にはイケテルひとりで住んでいるのだと言う。
「出ましたね……“都合よく存在を消された両親”と“経済状況が読めない無駄な一軒家”のコンボですよ……」
「そのかわり“ちょっとファンキーな保護者役の親戚”がいるとこまでセットのやつね」
家に到着したものの、お互いすでに雨に濡れてしまっているため、イケテルはオトメに先に風呂に入るよう促す。
言われるままにおずおずと風呂に入るオトメ。
風呂から上がったオトメに、イケテルはラフなTシャツとハーフパンツを手渡すと、着替えるように言いながら自身も交代で風呂場へ入っていく。
「“彼の家のお風呂”かぁ……ちょっと弱いかな」
「いえいえ、これは“ブカブカの彼シャツ”までがセットですよ」
「……待って。どうしたんだろう……イケテルのやつ、湯船に潜ったまま全然出てこないんだけど!?」
「あれはッ! “さっきまでここにアイツが入ってたんだ……”です!! 煩悩を払おうとしているだけなので心配はいりません!」
雨に濡れた体も温まり、ようやく落ち着いてソファでまったりするオトメとイケテル。
そばにはぬるくした牛乳をペロペロと舐める猫もいる。
会話が弾むわけではない。とはいえ気まずいわけでもない。
微妙な距離感を保った、居心地の良い時間。
そんな中、ふとオトメが視線をやると、ガラス棚の中におもちゃのペンダントが飾られているのを見つける。
そのペンダントを「大切なものなんだ」と説明するイケテル。
なんでもイケテルは元々この街の生まれで、幼い頃引越しをする際、結婚を約束した女の子からおそろいのペンダントをもらったのだと言う。
話を聞いて驚いたオトメは、慌てて自分のバッグを開いて何かを取り出した。
それは、イケテルとまったく同じペンダント。
二人はかつてすでに出会っており、将来まで約束した仲だったのだ。
「これはまさか……って、もういいわ!! お腹いっぱい!!」
「自分で立てたフラグとはいえ、さすがに今どきないくらいベッタベタすぎますね……」
「もうセンスゼロ。いくらなんでもやりすぎ」
「反論はしないでおきましょう。もっと精進すると決めました」
チキとウリシュが勝手な感想を述べ合っている中。
それでもオトメとイケテルは何かがときめきはじめていることを感じていた――。
急速に仲が深まっていくオトメとイケテル。
いつしかふたりは、確実に芽生えた自分の中の恋心を認めるほどにまでなっていた。
一方ウリシュはフラグを立て続け、このまま恋愛が成就するまで逃げ切ろうと。チキは一番盛り上がった瞬間にどん底へ落とすべく、虎視淡々とタイミングを伺う。
“その瞬間”は遠くない。
誰もがそう思っていた。
「屋上なんかに呼び出してどうしたの?」
「あのさ、オトメに言わなきゃいけないことがあるんだ」
「うん……分かった、聞く」
「俺……実は来週オヤジ達のいる海外に行くことになった」
「えっ……」
「ずっと叶えたかった夢があってさ。向こうに行けばチャンスが掴めそうなんだ」
「そう、なんだ……すぐ帰ってくるんだよね?」
「たぶん……3年は戻れない」
やっと自分の中の恋心を認めた矢先の出来事。
とはいえ、まだ互いの思いを伝えるようなことはしていない。
突然知らされた衝撃の事実――それを事実上サヨナラの宣告だと捉えてしまったオトメは、思わずその場を走り去ってしまった。
これまでにないガチ空気に、チキとウリシュもつられて戸惑う。
「出た、“夢を叶えるため突然海外に”……とか言ってる雰囲気じゃないか……」
「この事態……まさか、チキさんがフラグを折ったんですか?」
「いやいやいや! アタシは何もしてないよ!」
「ということは、これは我々の干渉とは関係なく、イケテルさん自身の選択なのですね……」
それからというものの、オトメとイケテルはすれ違い続ける。
黙っていたこと。逃げ出したこと。互いに負い目のある二人はかける言葉が見つからず、一言も話すことのないまま時間は過ぎていく。
それは1日、もう1日と、変わらぬまま。
「まずい状況ですね……無理やりフラグを立てて海外行きを回避させることも可能かもしれないですが……」
「それだと、イケテルは夢を諦めることになっちゃう……」
「恋が成就したとしても、さすがに心が痛みます……」
「まずい状況なのはアタシも一緒だよ。まだ告白もしてないんだもん。このまま離れ離れになっても、もしもお互いに想い続けたとしたら……」
「あっ……まさか“失恋したこと”にならないのでは?」
「きっとそう。“想い想われ状態”のままじゃ、それこそ試験が終わるのに何年かかるか分かんない」
「困りましたね……」
試験に合格するという目的達成のために、強硬手段を取ることはいくらでもできる。
だが、人間界に降りてからオトメとイケテルを見守り続けてきた二人には、いつしか彼女らに対する情や親近感というものが湧いていたのだった。
オトメたちと同じように、チキとウリシュもどうすればいいか分からず動きあぐねる。
だが無情にも、すべてが決まる出発の日は刻一刻と近づいていた。
イケテルが海外に行く日が近づくにつれどんどんとふさぎこんでいくオトメは、やがて学校も休んで1日泣き暮れるまでになってしまっていた。
このままでは互いの気持ちを知ることもなく、切ない別れと傷を抱いたまま全てが終わってしまうだろう。
チキとウリシュはそんなオトメの姿を見て、大いに心を痛めていた。
そしてついにやってきた、出発の日の朝。
「あのさ、ポンコツ天使」
「なんですか、ヘタレ悪魔」
「今オトメの事情を知ってるのって、たぶんアタシたちだけじゃん?」
「そうでしょうね」
「そばにいるのも……」
「私たちだけです」
「ちょっとさ、考えてることがあるんだけど」
「……たぶん私も同じことを考えています」
「あはは、イカれた天使だなぁ」
「ふふ。そっくりそのままお返しします」
二人はそう言うと、おもむろに認識阻害バリアを解いた。
そして枕を濡らすオトメに近づいていき、その肩を叩く。
「え!? だ、誰!? お化け!?」
「落ち着いて、オトメさん。怪しいものではありません」
「えーっと、なんていうか……そう、オトメのことを応援しにきた者、ってとこかな」
「どうして私の名前を……でも不思議……よく知ってる人みたいな……なんだか怖くない」
「理解してもらってありがたいところですが……オトメさん、あなたはここにいていいのですか」
「そうだよ。イケテルのやつ、行っちゃうよ?」
「でも……」
本当はオトメ自身分かっているはず。だが、悲しみや失うことが怖くて煮え切らずにいる。
そんなオトメを鼓舞するように、チキとウリシュは必死になって声をあげた。
「自分の気持ち、伝えなきゃダメじゃん!!」
「そうです! ここでうやむやにできるほど、オトメさんの想いはその程度だったんですか!?」
「永遠の別れじゃないよ! きっとイケテルも空港で待ってる!」
「さあ早く立って! 走り出すんです!!」
二人の熱い言葉を聞いていたオトメは、静かに拳を握り、そして力強く頷く。
そして急いで着替えを済ませると、泣きはらした目のまま家を飛び出していった。
「二人ともありがとう! 私、後悔したくない!!」
しかしオトメが決意を固めるのは、少し遅かった。
このまま急いで駅まで走り、電車に乗って空港へ向かったとしても、イケテルの飛行機が飛び立つのに間に合わないだろう。
だがそれでも、オトメは走った。
諦めない。その気持ちだけで、たとえ間に合わないとしても。
その時だった。
「お乗りなさいな!!」
突然目の前を塞ぐようにして急ブレーキをかけた高級車。
その助手席の窓から顔を出して言ったのは、最強お嬢様であるルナだった。
言われるままにオトメが車に乗り込むと同時に、運転席の執事がペダルを思い切り踏み込む。
法定速度など完全に無視した超スピードで、車は街を走り抜けていく。
「あ、ありがとう、頼場さん……でもこんなに飛ばしたら……」
「問題ありませんわ! 頼場グループの力にかかれば、もみ消しどころか信号の操作だって楽勝ですのよ! じいや、もっとスピードをあげなさい!」
かっとばす車の外。
そこには、天上人の謎パワーで並走飛行するチキとウリシュの姿が。
「まさかルナさんのフラグが“元ライバルからの親友ポジ”フラグに変化していたとは……」
「アタシは手を加えてないからね! 元々いいやつだったんだよ、きっと!!」
空港に到着したオトメ。
ルナのおかげで、まだ時間に猶予がある。
ルナへのお礼もそこそこに空港内へ飛び込んだオトメは、スーツケースを転がすイケテルの姿を見つけると迷うことなく抱きついた。
「お、オトメ!? どうしてここに!?」
「ずっと話せなくてごめん! 私、イケテルに伝えなきゃいけないことがあるの!」
「……うん。聞かせてくれないか」
「私……イケテルが好き! すっごくすっごく、大好き!!」
人の目など気にせず、オトメはそう叫ぶ。
イケテルは一瞬驚いた様子を見せるも、すぐに柔らかな笑みを浮かべ、こう返した。
「ありがとう。俺もオトメが好きだ。向こうで修行して立派になったら、今度はあらためて俺から交際を申し込むから……それまで待っててくれないか」
「うん! ずっと待ってる!!」
オトメがそう答えると、途端に盛大な拍手が鳴り響き、空港内は祝福ムードに包まれる。
突然のことに照れまくっているオトメとイケテルの姿を眺めながら、チキとウリシュは肩の荷がおりたようにホッと息を吐いていた。
「お祭りみたいになってるけど……これは“保留”、ってことなのかな?」
「ええ、付き合うのはまだ先みたいですから。まあ、どちらでもいいのですが」
「だね。あーあ、人間に姿を見せちゃったし、これで二人揃って落第かぁ」
「不本意ではありますが、チキさんとの縁はもう100年続きそうですね」
「一言余計なんだよ! ま、よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
試験の結果より、勝負の行方より、二人はオトメが後悔しないように背中を押すことを選んだ。
人間に姿を見せた二人は落第が決定し、天上学園でもう100年留年生として生活することとなるだろう。
オトメたちの一応の大団円を見届けたチキとウリシュがそんなことを話していると、計ったかのように二人は眩い光に包まれる。
天上への帰還の合図だ。
「どうやらお迎えのようです」
「はぁ……留年するのはしょうがないけどさ~、家に居辛くなるのが嫌だよね……」
「気まずいですからね……ウチなんて弟が優秀な分、余計に……」
「うわぁキツー……ま、それでもなんとかやるしかないかぁ……」
二人が人間界から転送された先。そこは天上学園の学園長室だった。
嘘のように巨大で立派な机の向こうに、嘘のように大きな体躯の学園長が二人を見下ろしている。
「……チキ、ウリシュ。なにはともあれ、まずはご苦労であった」
「はい……」
「うぃーす……」
「追試を受けることになったのは己の研鑽が足りなかったせいではあるが、本来の試験にはない実技に正面からぶつかったのは称賛に値する。本来であれば一人前になってからである人間界での任務を先んじて行えたのは、これからのお前たちの人生において貴重な経験となり――」
つらつらと喋り続ける学園長に、「相変わらず話長い……」「結果は分かってるので早く言ってほしいです」などと二人はうんざりしながらふてくされている。
「――というわけで、結果は合格だ」
「はいはい、また100年頑張りまーす……って、ええっ!?」
「い、今なんとおっしゃったのですか!?」
「だから合格だと言っている」
「なんで……? 恋愛成就も失恋もしてないし、姿まで見せちゃったのに……」
「そもそもこちらに手違いがあったのも大きい。個別であれば上手くいっていた可能性もあるのでな。だが、どうなるものかとあえてそのままにさせてもらった」
「知っていて放置したのですか!」
「怒るな怒るな。それについては謝る。しかし、おかげで面白いものを見せてもらった。人間の恋路は1か0で割り切れるものではない。皆、その塩梅は卒業してから少しずつ学ぶものだが……お前達は初の実技で、さらには競いながら自らそれを学んだ。私はそこを大きく評価している。だから、合格だ」
「じ、じゃあ……年下の同級生に扱いづらそうにされなくてすむの!?」
「発言権のない食卓で気まずい思いをしながらご飯を食べる必要もないのですね!?」
「やけに生々しいな……とにかく合格といったら合格だ! 安心して卒業式に出席するがよい!!」
――1週間後。
無事に天上学園の卒業式が終わり、ひとり、またひとりと卒業生が帰っていく中。
他には誰もいない教室に、チキとウリシュが残っていた。
黒いガウンと帽子をかぶった二人は、どことなく照れ臭そうにしている。
「全然似合ってないね、それ」
「そちらこそ。馬子にも衣装とも呼べません」
「ほんと、最後までうるさいヤツなんだから。んで……アンタは就職決まってんの?」
「ええ、留年したらパアでしたが。祝祭の神の元で秘書見習いをすることになっています」
「へえ~、結構大手じゃん」
「そちらは?」
「こっちは煉獄震撼の神。使い魔からスタートなんだけど、研修キツイらしいわ……」
それから、少しの沈黙が流れる。
本当は言いたいことがあるのだが、上手く切り出せない。
言葉にするのが難しいのは一緒だったようで、手のひらを差し出したのは二人同時だった。
「ポンコツ天使と遊ぶのも悪くなかったよ。また会えるか分からないけど、その時はよろしく」
「はい。ヘタレ悪魔がどれくらい立派になってるか、楽しみにしてますね」
そう言って、硬い握手を交わした二人は未来を誓って別れた。
半年後、お互い早々に仕事をリタイアすることなど、今はまだ知らずに――。
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チュウニズムな名無し
62022年11月01日 13:43 ID:bsr6banj東方アーティストがウニオリに提供した時と同様、
この二人もあやぽんず*とあよをイメージしてるんかな。
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チュウニズムな名無し
52022年10月28日 04:03 ID:gatfv6ecメタ発言のオンパレードで草
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チュウニズムな名無し
42022年10月25日 17:07 ID:m34e8n9mep8の最後らへんの就職先、もしかしなくともトリスとGODやんけ
まあ、その後互いに仕事辞めたからシリアスフラグ回避してて結果オーライ?
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
22022年10月17日 01:20 ID:ga20qt4f「音ゲーのキャラストーリーぐらいは大丈夫でしょ」とか超メタくて草
2人ともかわいい!!
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チュウニズムな名無し
12022年10月14日 01:08 ID:s67tjqd7ポンコツかわいい