冴川 芽依
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通常 | ニュートゥモロー |
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Illustrator:姐川
名前 | 冴川芽依(さえかわ めい) |
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年齢 | 16歳 |
職業 | 高校生1年生 |
- 2022年10月13日追加
- SUN ep.1マップ1(進行度1/SUN時点で105マス/累計105マス)課題曲「インパアフェクシオン・ホワイトガアル」クリアで入手。
- トランスフォーム*1することにより「冴川 芽依/ニュートゥモロー」へと名前とグラフィックが変化する。
大物女優の娘として生まれた少女。
“無味無臭の冴川芽依”を演じ続けている。
…はずだった。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
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1 | オールガード【SUN】 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
- オールガード【SUN】 [GUARD]
- 固定ボーナスと回数制限付きのダメージ無効効果を持つ初心者向けスキル。天使の息吹と比べて、ダメージ無効効果の代わりに開始ボーナス量が少ない。
- オールガード【NEW】と比較すると、同じGRADEでもこちらの方がボーナスが多い。
- SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
効果 | |||||
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ゲーム開始時にボーナス +???? 一定回数ダメージを無効化 (??回) | |||||
GRADE | ボーナス | 無効回数 | |||
1 | +9000 | (20回) | |||
2 | +9300 | (20回) | |||
3 | +9600 | (20回) | |||
▼ゲージ5本可能(+18000) | |||||
31 | +18000 | (20回) | |||
101 | +29700 | (50回) | |||
▲NEW PLUS引継ぎ上限 | |||||
推定データ | |||||
n (1~70?) | +8700 +(n x 300) | (20回) | |||
シード+1 | +300 | ||||
シード+5 | +1500 | ||||
n (70~?) | +29700 | (n-70)回) | |||
シード+1 | (+1回) | ||||
シード+5 | (+5回) | ||||
推定理論値:86700(5本+8700/18k) [条件:GRADE70以上?] |
開始時期 | 所有キャラ数 | 最大GRADE | |
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SUN | 5 | 61 | |
~NEW+ | 0 | 161 | |
2022/10/13時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
バージョン | マップ | キャラクター |
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SUN | オンゲキ Chapter2 | 井之原 小星 /パンダ親分はサボりたい |
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
人は、“意識せずとも無数の自分を演じている”のだという。
学校、仕事、友人、恋人、親。
様々な場面で誰かと対峙するとき、程度の差はあれど人は相手に見せたい理想の自分を演じる。
あくまでも、“自分のために”――。
高校に入学してから早くも1ヶ月が過ぎた、ある日の昼休み。
私は登校途中で買ったコンビニのサンドイッチを義務的に流し込むと、本屋に平積みしてあっただけの大して興味もない小説を開く。
ひと月も経てば人間関係も十分構築されたのか、教室内はあちこちでおしゃべりの声が響いていて少し耳に障る。
案の定、本の内容なんてまったく頭に入らず、ただ目を流して読んでいる風を装っていると、クラスメイトの女子が声をかけてきた。
「ねえ、“委員長”。このあいだの提出物っていつまでだっけ?」
「今週いっぱいですよ。絶対厳守、と先生がおっしゃってたので、気をつけたほうがいいかもしれません」
私は柔和な笑顔を浮かべて、そう返す。
クラスメイトは「ありがと」と簡潔に言って仲良しグループの待つ席へと戻っていくと、顔を見合わせてクスクスと笑い出した。
声は聞こえないけど、内容は想像できる。
たぶん、私を笑っているのだろう。
私は――“委員長じゃない”。
本当の委員長は他にちゃんといるし、私がそんな面倒そうな役職を率先して担当するわけがない。
真面目で成績も良く、身なりもきちんと整えていて隙がない――“委員長”というのは、そんな私を形容してつけられた“あだ名”だ。
あだ名というには好意的なものじゃないかもしれない。
入学以来、同級生に対しても一貫して敬語で話す私の口調が滑稽に映ったらしく、「委員長」と呼ぶ声には同級生だけじゃなく先生まで、誰もが小馬鹿にしたようなニュアンスを含んでいる。
教壇側の扉がガラリと開くと、隣のクラスの男子が入ってきた。
早くも一部の女子の間で“学年一のイケメン”と認定されている男子生徒。
彼が入ってきたことに気づいた先ほどの女子達は、瞬時に髪を整えると下品なおしゃべりをパタと止める。やがて“イケメン”が友人と教室を出ると、今度は一斉にだらしなく背もたれに体を預けた。
――演じている。
誰だって演じている。
可愛く見られたい、立派に思われたい、高く評価されたい。
相手にとっての自分の価値をあげるため、自発的に。
それは私だって同じ。
でも、その度合いはまったく違う。
私は、ずっと“別の人間”を演じている。
成績優秀、品行方正な委員長という人間を。
――もちろん、そんなものはぜーーーーーーーーーんぶ嘘。
嘘という蝋を流し込んで作った仮面を被り、一言一句、立ち振る舞い、行動の全て、全てが偽物の『冴川芽依』という人物になりすましている。
そこに、本当の自分は微塵も存在しない。
そうすることでしか、私は生きてこれなかったから。
10代でデビューして以来、ドラマ、映画、舞台を問わず確かな実力でトップに上り詰めた大女優――そんな大物の娘として、私は生まれた。
物心がつく前に離婚した母と二人で過ごしてきた私は、常に期待の目を向けられ続けてきた。
「大女優の娘はどんな振る舞いをみせるのだろう」という好奇の目。
ゲームや漫画のキャラでもないのに、二言目には「才能」「血筋」「遺伝」。
さらには「可愛い」だとか「可愛くない」だとか、無遠慮に浴びせられる身勝手な評価。
母の関係者、街中、道端、小学校、中学校、ありとあらゆる場所で、私は期待される。
“何か面白いものが見られる”んじゃないか、そんなくだらない期待を。
母は守ってはくれなかった。というか、いつも仕事詰めで家に帰ってくることがほとんどなかったから、私がどんなことを思っているか気づきもしなかっただろう。
着飾って派手な言動を見せれば、「さすがあの人の娘」。
無愛想で反抗的な態度を見せれば、「あの人の娘なのに」。
何もかもにうんざりして、誰かに頼るとことも許されなかった私は、いつしか自分の思う“無味無臭の冴川芽依”を作り出していた。
無駄に喜ばせず、がっかりもさせず、女優の母など無縁そうな、無難な自分を。
そうして作り上げた冴川芽依を演じることで、私は私の心を守ってきた。
だけど、そんな歪なことを続けていたからか、守っていたつもりの心も近頃はなんだかおかしい。
いつからか私は、本当の自分というものがどんな人間だったのか、すっかり忘れてしまっていた。
ふと、教室の扉の窓からの視線に気がついて向くと、廊下からこちらを覗く別のクラスの男子達と目が合った。
彼らは冗談まじりに焦ったような素振りを見せると、笑いながら走り去っていく。
その様子を見た私は、気怠げに息を吐いた。
――私が女優の娘だと、バレはじめてるみたいだ。
どんなに自分が隠していても、人の噂というものは誰にも止められないのかもしれない。
小学校や中学校でもこの感覚は味わった。
無駄にちやほやされたり、よそよそしかったり。今回は、“なんとなく気に食わない”というタイプのやつだろう。
そんな空気がクラスだけじゃなく、学年全体に蔓延していくのを肌で感じる。
“委員長”などと小馬鹿にした呼び方をされる
もうひとつの理由は、これが原因だ。
わざわざ一人暮らししてまで地方に引っ越してきたのに、これじゃもうほとんど意味がない。
またつまらない学校生活が始まる。
こんなことなら東京に居続ければよかった。
再び小説へ目を落としながら、私は心の中でぼやいていた。
でも、私は“冴川芽依”を演じる自分を崩さない。
不愉快な気持ちを一切態度に出すことなく、口元はしっかり微笑を携えたままで。
新入生が学校生活に慣れてから、という思惑なのだろう。入学からひと月が過ぎるのを待って、部活を決めるための見学期間が始まった。
体育会文化系問わず、この学校は比較的部活動が盛んらしく、上級生による熱心な勧誘活動が繰り広げられている。
登校時、昼休み、放課後。私もあちこちから誘いを受けたが、どれもカドが立たないように丁重にお断りした。
興味のあるなしじゃなく、部活なんか最初から入るつもりがなかったからだ。
やがて、見学期間が始まってから1週間が経った。
勧誘活動が許可されている最終日だけれど、ほとんどの新入生はすでに入る部を決めているため、勧誘している上級生の姿はまばら。
つまり、ギリギリまで粘っているところは不人気な部ともいえる。
すでに部活を始めているクラスメイト達を尻目にさっさと帰り支度を済ませた私は、教室を出て校門へと向かう。
なぜか1年生は最上階。階段を上るのも下りるのもしんどくて嫌だな、なんてことを考えながら廊下を歩いていると、窓の外――中庭から声がすることに気がついた。
誰かがふざけて騒いでるようなものじゃない。お腹から声を響かせた、誰かに届けるための声。
なんとなく気になった私は、窓から顔を出してその声の出所を探してみる。
中庭の真ん中には、使い古した木製パレットを並べただけの、お世辞にも立派とは言えないステージのようなものが見えた。
その上に置かれた椅子には、女子生徒がひとり。
他には誰もおらず、たったひとりで何かセリフのようなものをしゃべっている。
「…………劇?」
まっすぐ帰ってもよかった。でも、急いで帰ったところで遊びに行くような友達もおらず、勉強くらいしかやることのない私は、なんとなくそれを見てみることにした。
明るく色を抜いた派手なショートカット。着崩した制服が妙に似合うその生徒は、椅子に座ったままセリフだけで物語を進行させていく。
見ているうち、どんな内容かはすぐに分かった。
教会の懺悔室で過ちを告白する男。自分の罪を自問自答するように話すうち、男は自分の中の狂気に気付いていく――そんな内容だ。
初めは特別に演技が上手いとも感じなかった。
ハスキーで、どちらかというと通りがいいわけでもない声だし、場面とはちぐはぐな動きをすることも時々ある。
それでも、なぜか私は彼女から目を離すことができずにいた。
なんてことはない片田舎の高校の中庭に、凶行に走ろうとする血走った目をした恐ろしい男が本当にいるような錯覚に陥っていく。
気づけばクライマックスを迎え、「本当の自分に戻ることができた」と言い残した男が部屋を出たところで、劇は終わった。
部屋から出る動作をステージから下りることで表現していたショートカットの生徒は、しばらくそのままじっとしていたかと思うと、突然首を起こし校舎を見上げて言う。
「見てくれてありがと~~~~!!」
それは観客への感謝の言葉。
最初から最後までたったひとりしかいなかった観客――つまり私への言葉だった。
舞台上の役者から客席の自分に突然指を指されたような気持ちになった私は、驚いて固まってしまう。でも、私からのリアクションも待たずにショートカットの生徒はこう続けた。
「ちょっとさ、話そ~よ~! そっち行くから待ってて~」
来る? ここへ? 私と話すために?
私はカバンを掴み、反射的に走り出した。
派手な髪、着崩した制服。
部活なのか趣味なのか分からないけど、ひとりであんな目立つことをやってのける心の強さ。
面倒なことになることは目に見えてる。
だから私は、逃げた。
間違っても遭遇しないように、中庭から一番遠いルートを選んで校門を目指し走る。
校門を抜けてからも追いつかれるのを警戒して、裏道に入ったところでやっと足を緩めた。
息があがる。
肩が上下する。
シャツも少し汗ばんでいる。
運動は苦手じゃないし、全速力で走ったわけじゃない。
なのに、どんなに呼吸を整えても胸のドキドキだけはおさまらないでいる。
「なんだったんだろう……あの人……」
その日から、私の頭の片隅にある風景にずっと。
ショートカットの前髪を揺らすあの人の姿が、こびりついていた。
春の空気はあっという間に消え去り、梅雨入り前だというのに、もう夏以外の何者でもないじゃないかと不満を言いたくなるほど暑い日のこと。
週終わりのロングホームルームで教壇に立つ先生が、どことなくばつの悪そうな顔でこう言った。
「えー、先週有志を募った毎年末の県内演劇コンクールだが、結局希望者がいないらしい。だが、ゼロというのは学校としても厳しいんだ。なのでこのクラスから誰か出てくれないかー」
先週、先生から事情を含めて説明された、この県で毎年行われるという演劇コンクール。
学校ごとに一組は強制的に参加を促されているこのコンクールは、例年自発的に参加する生徒が必ずいたのだが、今年はゼロ。だからこのクラスから募りたいと先生は話す。
改めて参加者を募るのはまだ分かる。だが、それがうちのクラスである必要はないはず。1年の他のクラス、それどころか上級生達からでもいいはずだ。
おそらくその口ぶりから察するに、教員の間で安請け合いしてしまったという気配がありありと伝わってきた。
当然、そんなものに出るつもりはない。
そもそも強制というのがおかしいし、やる気がない学校をコンクールに出させても無意味だ。
そんなことを考えながら、ぼんやりと傍観者を気取っていたその時だった。
「先生! そういうことなら、冴川さんがいいと思います!」
私のことを一番初めに“委員長”と呼び始めたクラスの女子が、高らかに声を上げて言った。
自分とは関係ない話だと決め込んでいたから、それが私のことを指しているのだと気づくまでに時間がかかった。
驚き、焦り出したときには、教室内はそわそわと盛り上がりはじめている。
「えっ? 私ですか?」
「そうだよ! 委員長にぴったりの話じゃん!」
「ええっと……よく分からないのですが……」
「いやもうトボケるのとかいいし! あの大女優、“佐江川明日香”の娘なら余裕でしょ!」
――ついに言われてしまった。それも、クラスみんなの前で。
これまではあくまで遠巻きにコソコソ言われるだけだったのに、今一線を超えた。
それがきっかけとなったのか、まるで勝手に“タブーを解禁”したように、クラス中が一気に湧き上がる。
「やっぱマジだったのか」「てゆーかめっちゃ似てるし」「イメージ違くね」など各々好きなことを言い、こちらは何も答えていないのにそれが“事実”ということになっていく。
「そうかそうか、冴川がやってくれるなら良いものになりそうだな!」
「ち、ちょっと……私は、違っ……」
「いやー親族ということは教員に伝達されていたんだが、みんな知っているようで安心したぞ!」
先生が満面の笑みでそう言った。
全力で「違う」と弁明し、シラを切り通すこともできたかもしれない。
でも、先生の一言でそれも断たれた。
今私にできることは娘だと認めた上で、多少怒りを込めてでも声を荒げて断ること。
もしくは――
「……分かりました。演技なんてしたことないので、あまり期待はしないでくださいね」
湧くクラスの雰囲気を壊し、息苦しさを味わい続ける勇気など、私にはない。
今の私が私でいられるための最も傷が少ない選択として、私は劇に出ることを選んだ。
クラス中が、満足そうに私を見る。
誰も彼も、悪気があるわけじゃない――むしろ悪気があれば私だって戦おうという気持ちになれた。
みんな、ただ知らないだけなんだ。
だから私は、いつも苦しい。
「よし、じゃあ冴川は明日の放課後から演劇部に行ってくれ。毎年合同練習することになっているから、色々教えてもらえるだろう!」
「はい……」
「有志は冴川ひとりになってしまったが……まあ心配するな。きっと演劇部の連中が迎えてくれるさ」
無責任な先生の一言でホームルームが終わり、私はそそくさと荷物をまとめて家に帰った。
やる気なんてない。ああ言ったのも、とりあえずその場の空気から逃げたみたいなものだ。
タイミングを見てすっぽかしてしまおうか、それとも当日風邪でもひいてみようか。
どれも悪目立ちしそうで気が引ける。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
家に帰った私は、ベッドに寝転びながら天を仰ぐ。
いつもいつもこんなことばかりだ。
女優の娘だからなんだ、私はこれといった才能もない普通の高校生なのに。
あれもこれもクラスメイトのせい、先生のせい、そして――母のせいだ。
私はスマホを取り出し、少ない登録メモリの中から母の名前を表示させる。
一度くらい思い切り文句をつけてやろうか。
あなたのせいで私はこんなに迷惑を被ってるんだ、って。
少しだけそんなことを考えて、私はスマホを手放した。ベッドの上で一度だけ跳ねて、フローリングの床に落ちる。
そんなことしたって何の意味もない。
それができるなら、とっくにやっている。
私は自分がとことん馬鹿らしくなって自嘲気味に笑うと、制服も脱がずに眠りに落ちた。
鬱々した気持ちで重い足を引きずるように廊下を歩く。
放課後の学校。1年生には馴染みのない、空き教室が並ぶ階だ。
私は『演劇部』とおざなりに書かれた紙が貼ってある教室につくと、おっかなびっくり扉を開けた。
「こんにちはぁ……」
開ける前からそんな気はしていたが、部屋の中に活気がない。
というか、人がいない。
なんだかステレオタイプな稽古の声が聞こえてくるものだと思っていたこともあって、面食らってしまう。
「教室を間違えたのかなぁ……」
そう思って踵を返そうとしたその瞬間。
部屋の隅にあった掃除用具ロッカーの扉が、けたたましい音を立てて開け放たれた。
「わあっ!!」
気の抜けた声をあげながら、中から飛び出してきた不審者が一人。
私は心臓が飛び出していないか胸に手を当てて確認しながら、こんなイタズラをする不届き者は何者だと観察する。
大きく開いたシャツの胸元には、だらしなくぶらさがった緑のリボンタイ。3年生だ。
裾も仕舞ってないし、スカートもかなり短い。
極め付けに、明るく脱色したショートカット――
「あっ」
私が続きを言う前に、先輩らしき人物は両手を頭上に大きく広げたまま言った。
「こないだのお客さんじゃ~ん!」
「あなたは中庭にいた……先輩」
「あたしは久野木梨生(くのぎりお)。よろしくぅ~」
「1年の冴川芽依です。よろしくお願いします、久野木先輩」
「長い長い~。リオちゃんって呼んで」
「梨生……先輩」
「リオちゃん」
「梨生先輩」
「あはっ、かてぇ~~~」
そう言って、梨生先輩は天を仰いで笑う。
どうやらなかなかフランクな性格の人みたいだ。周りにはあまりいないタイプ。
「んじゃ、あらためて。いらっしゃい~演劇部へよ~こそ~」
「お世話になります……あの、他の部員の方はいらっしゃらないんですか?」
「ん~、いないよ。演劇部は私ひとりだけ」
「え、それでは部として成り立ってないのでは……」
「どして? 別にひとりでも演劇はできるよ? ま、確かに来年新入部員が集まらなかったら廃部なんだけど。あたしは卒業しちゃうから、これはもう祈るしかないよね」
「はあ……」
梨生先輩が言うには、春までは多少部員がいたらしい。
だが、もともと熱心に打ち込んでいたわけではなかったようで、「受験勉強のため」先輩以外の3年生が退部。それに便乗するように2年生もやめてしまったのだそうだ。
「一応勧誘頑張ってみたんだけどさ~、誰も入部してくれなかったよ~」
「あのお芝居、部員勧誘だったんですね……」
演劇部が置かれている厳しい現状を聞いて、私は別の理由で戦慄する。
最悪の場合、木の役かなんかをもらって端っこでやり過ごそうと思っていたのに、ふたりじゃそれも許されない。
そして、これからの練習も舞台への出演も、私はこの先輩とふたりきり。
全てにおいてなんとなくやり過ごすことを信条としてきた私にとっては、かなり辛い状況だ。
「というわけで、このあたしがビシビシ鍛えてあげるから、覚悟しな~」
「はい……」
「じゃ、早速だけど“読み合わせ”でもやってみよっか」
「“読み合わせ”って確か……台本を読み合う、という……」
「そそ、それそれ。一緒に台本を読んで、状況とか立ち位置とか色々確認するコト。今回はお互いどんな感じか知ってみよ~ってテンションかな」
「ああ、何かで見たことがあります」
「だよねだよね。じゃ、これ台本。せっかくだから、ちょっとマジでやってみて~」
先輩はそう言って私に台本を渡すと、教室の中央に椅子を引きずってきて向かい合うようふたつ並べた。
タイトルを見ると、海外でアニメ映画にもなっていた有名作だった。私も子供の頃見たことがある。
多少なりともあらすじが分かっているのはありがたい。
「全部やると大変だから、ふたりの掛け合いが多いこのシーンだけね~」
ちょうど先輩のセリフからだ。
先輩が一言目を発した瞬間、私はドキリとする。
さっきまでのふにゃふにゃとした喋り方の人とはまるで別人みたいに、言葉が説得力をもって胸に響く。
中庭で見た時もそうだけど、もしかしたらこの人はすごい人なのかもしれない。
先輩がそれだけの熱量で始めたことに引っ張られるように、私も自分なりに感情を込めて演技してみる。
何かを本気で取り組んでる人の前で、おちゃらけるなんてできないから。
子供の頃、子役をやってみないかという話もあったけど、当然全部断ってきた。だから演技のやり方なんて知らない。それでも精一杯、気持ちを込めて。
「……はい、ここまで~」
「お疲れ様です」
「うんうん、おつかれ~」
「あの……どうでしたでしょうか。私、演技なんてしたことなくて……」
分からないなりに頑張った。
自分ではそれらしい風にはなったと思う。
心の隅に少しの期待を抱いて訪ねた私に、先輩は憎らしいくらい良い笑顔でこう言った。
「いや~~~~芽依ちゃんヘタだね~~!!」
「なっ!?」
いくら先輩だからって、なんて失礼なことを言うんだろうこの人は。
こっちは素人。ヘタなのは当たり前なのに。
「ああっと、ごめんごめん。演技がヘタって意味じゃないんだ。むしろ初めてとは思えないくらいグッときた~」
「……では、何がいけなかったのでしょうか」
「う~ん……なんていうか……力の使い方かなぁ。劇中劇って分かる? 劇の中の人が劇をするっていう、ちょっとややこしい見せ方なんだけど……なんかそんな感じがした」
「……もう少し具体的にお願いします」
「えっとね、劇中劇だってことをお客さんに分かりやすくするために、わざと大げさなお芝居をすることがあるのね。“もう演技してるけど、さらにしてるんですよ”~って。それに似てたのよ。上手なのにやりすぎ感あったから、ヘタとか言っちゃった。ごめんよ~」
「いえ……おっしゃった意味は分かりました」
冷静を装ってそう返したけれど、本当は内心驚いていた。
先輩はあくまで台本を読んだ私の力量について話していることは分かってる。
でも、“すでに演じている者が、さらに演じている”というその言葉が、まるで私がどうやって生きてきたのか見透かされているようで。
「まっ、今年のコンクールに芽依が来てくれてよかったよ。別にどんな子が来てもいいんだけどさ、芽依となら面白くなりそ~~って確信した」
「そう、ですか……」
「仕方なく来たんだろうけどさ、せっかくだから本気でやってみよ~よ!」
「な、なんで仕方なくって……あっ」
「あはっ、バレバレでしょ~! そんな顔してたら! とにかく、よろしくね芽依!」
「……はい。梨生先輩」
差し出してきた手を取ると、先輩がきゅっと掴んでくる。私もそれにならって、しっかりと掴み返した。
ついさっきまでクラスメイトや、先生や、分かりやすい芸名の母親を恨むくらいの気持ちだったくせに、自分でも調子いいなと思う。
でも、この先輩と一緒ならきっと“面白いこと”ができる。
そう思わせてくれるくらい梨生先輩の言葉は力強く、私の心にまっすぐ届いていた。
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