【非人類学園】昴日（スバル）のデータ

トリコプターにガラスを割られたことは、スバルの近隣にとって酒の肴みたいなものになった。

何の変わりもない普通の一日、近隣の一家は散らかったガラスの欠片とばたばた地面であがくトリコプターを目にしても何もなかったのように食事を続けて、あろうことか、米を一握り撒いてやった。

「どうせ弁償してもらうから、放っとけばいいよ」

「ただ、トリコプターがかわいそう。ほら、食べて」

ドアの外の草むらの中に隠れている昴日はほっぺたを膨らませながら、リモコンを乱暴に操ると、

「こけこっこ！！」

トリコプターが音を立て、プロペラがまわり、ガラスの割れる音とともに、別の窓から螺旋形に上昇して飛び出した。

それからプロペラが急に止まり、草むらに落っこちた。

昴日はクラクラしたトリコプターの体を揉みながら、不満そうにつぶやいた

「まったく、新しいアクション "日まわり大回転" のテストはまた失敗かぁ。バカなやつだ！」

いい天気なのでお母さんとピクニックに出かけた。小さい頃から、お母さんは晴れの日に私をつれて出かけることがよくあった。

太陽の光は花、木、川などのすべてのものを金色に縁取り、全てに新生の力が注力されたかのようだ。私たちと一緒に出かける老いた秋草もとてもご機嫌のようで、珍しく歌ってお米を１合も完食した。久しぶりにこんなに元気が出たのはきっと太陽のおかげだ。

太陽はいいね！

はい、決めた！大人になったら、エクストリームパイロットになる！

なんでかって？太陽の近くにいられるから！

西城に住む昴日と北城に住む如来は二人ともいたずらっ子である。

二人の家族が先代からお付き合いがあるので、彼らはたまに一緒に遊ぶことがある。二人は生活が豊かで、大人に甘やかされて育った子供だ。教養がないのとはちょっと違って、二人ともじっとっしていられなく、自分の "考え" をわがままに通す子供だ。だから、一緒に遊ぶと言うより、むしろ一緒にいたずらする、あるいはどちらがワンパクなのかを勝負すると言ったほうが正確なのだ。

如来は昴日が普段鶏を試験飛行させている芝生にいたずら地雷を埋めた。１号の爆響雷は怪我させないが、音が大きくてびっくりさせるには十分だ。２号のぶっ飛ばし雷は踏んできた人をぶっ飛ばす。３号の地雷は "絶対逃さないマン" と言って、地雷区から脱出しようとしている人を引き戻す。

この用意周到に設えられた地雷システムを相手にすれば、仏様も驚嘆するだろう。ましてや昴日ならなおさらだ。

「如ーー来ーー」

と、昴日は地雷に驚かされるなり、ぶっ飛ばされて足をふらつかせた。怒りのあまり、膨らんだ丸い顔が肉饅頭のようだった。

「ははははは！」

如来は自らの仕業が成功に運んだことにご満悦のようで、爆笑を上げた。しかし、それが間もなくして悲劇に転じた。

「あれっ！やめて！」

昴日のリモコントリコプターが如来を追いかけて、お尻をしきりにくちばしでつついてきたのだ。如来は狼狽えて逃げ回り、つつかれてはぴょんぴょんと飛び上がる。なんて滑稽な様だ。

「ははははは！」

いじめられてクヨクヨ嘆くはずの昴日が、まさか一瞬にして逆転に成功して勝利者の笑みを浮かべるとは！

「爆響雷！」

如来はいたずら雷を投げ出した。

「地雷を取り除け！」

昴日はトリコプターに命令していたずら雷を取り除かせた。

「ぶっ飛ばすぞ！」

如来は再び地雷を投げた。

「爆撃鶏！」

昴日は無造作にその攻撃を受け流した。

「逃がすか！」

「ドラム鶏！」

...

こうして、二人は日が落ちるまで騒いだ。そして、二人は

「あ、アンタ/お前はおかしいヤツだ！」

と文句をぶつぶつ言うけど

「でも、一緒に遊んだらちょっと面白い......」

と相手を仲間として認め合っている。

遠縁のいとこという関係だが、精衛と昴日はいつも犬猿の仲。

精衛は昴日にとって、親がよく褒めちぎる "隣のお子さん" である。

たまらないのはその本人の普段からのストイックな性格、家柄のいい子供にありがちな誇らしさと成績の良さだ。

否応なく親に引き合いに出され比べられるのだから、その憎しみといったらもはや限度を越えようとしている。

しかし、二人の不仲は "隣のお子さん" とは関係がないのだ。

日が暮れた。昴日はトリコプターと遊んで、汗まみれで家のドアを開けると

「ただいま......え？」

玄関に赤い絹チャイナドレスを身に纏う痩せこけている姿が見えた。その体の割には大きすぎるほどの精密なバスケットを持って、昴日の母である毗藍婆と話し合っていた。

「昴日、おかえり」

穏やかでしとやかな毗藍婆は、笑顔を浮かべると、かすかに眉をひそめた。

「ほら、こんなに汚くなって！早くお風呂に入りなさい。」

「はい！」

と、昴日は靴、靴下、小さなリュックサックを床に放り投げて、いつものように母の腰辺りに抱きついた。そして顔を上げて、母の向かいに立つ女の子をじろじろと不思議そうに見つめた。

「あなたのいとこの精衛さんよ。今は天高に通っていらっしゃるの」

毗藍婆は昴日の髪を撫でながら

「精衛姉さんは成績がとても優秀なんですって！昴日は姉さんを手本としてちゃんと見習いなさいね！」

「はーい！」

と、毗藍婆の前では、昴日はいつもおとなしい子供だ。普段は、だれかを見習ってだの聞かされるようでは癇癪を起こして反発するに違いない。

「お姉さん、こんにちは～」

「こんにちは......」

精衛が少しぎこちなく見えた。このような場面にあまり慣れていないようだ。そこで毗藍婆に形式的にたわいない話をしたら、バスケを提げて慌てていとまごいをした。

風呂上がりの昴日はソファーでくつろぎながら、

「お母さん！今日空輸のライチが届くんじゃなかったっけ？」

昴日はライチ、パイナップルのような熱帯果物を最も好んでいる。昴日は、こういった果物が太陽に近いところで育ってきたと感じているからだ。

一瞬、毗藍婆の服を片付けている手が止まったような気がした。

「ねぇ、まだ届いてないの？遅れてるのかな」

昴日はソファーから起きてあぐらをかき、ふくれて見せた。

「宅配会社を訴えようよ！今日中に届くって予約だったのに！」

毗藍婆はウサギリンゴを手際よく彫り上げ、昴日の前のテーブルの上に置いた。

「今日はりんごを食べましょう。ライチは改めて注文したら良いじゃない？えっと......明後日には届くはずよ〜」

「じゃ、じゃあ、今日届く予定だったはずのライチは？」

昴日は頬を膨らませた。

「実は、精衛姉さんが来た時に出しちゃったのよ。せっかく来てくれたんだから、何か出さないと失礼でしょう？他に出せるものがなかったから......」

あの女の子が持っていたあんなに大きなバスケに、私のライチが入っていただなんて！

「お母さん！あれは私のライチだよ！」

「また買えば良いでしょう。2、3日すれば届くわよ」

「じゃあ、今日は食べれないの！？今日食べるって約束してたのに......！」

昴日は怒りと悔しみを覚えた。どこかから来たかも知らない親戚なんて...嫌だ！お姉さんなんていらないよ！あんなの誰が見習うもんか！