【恋と深空】長瑕への旅

ふう。またワンダラーが現れたかと思ったけど、道に迷った観光客でよかった。

この地下鉄の駅は構造が複雑で、地元の人でも迷うことがあるそうだ。

たとえワンダラーが迷子になるくらい複雑でも、私は怖くないよ。

なんたって、全方位ナビゲーションもできる偉大なレイ先生がついてるから。

現代の科学技術を活用すれば、お前もできる。

ちょっと待ってーー私達、本当にこの入り口から入ってきたっけ？

この看板、見覚えがない気がするんだけど･･････

悪いニュースがある。私もだ。

そして悪いニュース第2弾だ。ナビが動かなくなった。

探査器のホログラムナビを試してみよう。役に立つかも。

･･････「全方位ナビゲーション」ができるのはお前の方だったようだな。

現代の科学技術を活用すれば、あなたもできるよ。

ただの下級ワンダラーでよかったな。特に被害も出なかった。

うん。特殊な磁線の痕跡も見当たらないし、これで一安心だね。

任務完了！まだ早いし、コーヒーとケーキがあれば最高だろうな。

そう思うなら、なぜ実際に試してみない？

ある人に口酸っぱく言われてるの。心臓のために、午後3時以降はカフェインをとるなって。

だからこのカフェからの綺麗な景色も、私はただ眺めることしかできない･･････

どこか恨みがましく聞こえるな。

まさか。レイ副統括に対して恨めしいなんて思うわけないよ。

席を確保しておいてくれ。注文してくる。

ちなみに今日はレイ副統括は非番で、ただのレイが代理でここに来ている。それで、何が飲みたい？

目撃者の話によると、ワンダラーは物凄い速さで移動して、電線にぶつかって姿を消したんだって。

私が聞いた情報も同様だ。一通り調べたが、怪我人はいなかった。

だが、停電が復旧するにはしばらくかかる。今は暗闇の中で待つしかない。

これもこれで悪くないかも。

普段明るい所に慣れてるから、たまには暗闇を感じるのも特別な体験だよ。

ああ。目が慣れて周囲のものも見えてきたから、あまり苦ではなくなった。

そうなの？結構経つけど、私はまだはっきり見えないよ。

あれ？これは何だろう？

･･････私の手だ。

じゃあ、これは何？

･･････私の顔だ。そんなにわかりづらいか？

そんなことないよ。じゃあこれは？

･･････お前、わざとやっているだろう。

襲撃に遭った人の数値は全て正常だ。コア介入症の症状も見られない。

つまりーーただ眠らされただけなのだろう。

眠らされた？ひょっとしてグーグーの仕業？

確かに最近、ワンダラーが色んな街に出現してるっていう話をよく聞く気がする。

被害者の話からしても、グーグーで間違いなさそうだ。

残業してる人達を強制的に寝かせる･･････グーグーのやってることは必ずしも悪いことじゃないのかも。

お前は他人の立場に立って考えることに長けている。

でもこれって、なぜか他人事とは思えないんだよね。

私のそばにも、みんなを早く寝かせることにこだわってる人がいるような･･････心当たりはない？

全くない

･･････

もしお前の主治医のことを言っているのだとしたら、確かにそうかもしれないな。

ただ、彼が心配しているのはお前だけだ。「みんな」ではない。

怪我はないか？

大丈夫。あのワンダラーはすばしっこいけど、ずっと私の攻撃をよけてるだけ。

追いかけようとしてもすぐ見失うから、怪我することはないよ。

それならいい。これを。

冷たいソーダ？あなた、本当にレイ？

そうだが、何か問題でもあるか？

普段のあなたなら、運動後はまずゆっくり歩いて、呼吸が落ち着いたら少量の水を飲めって言うよね？

既に今ゆっくり歩いているではないか。

･･････それもそっか。

それに、お前はまだ息切れしているだろう。

してないよ･･････

だから、これを渡した。

たまにはソーダを飲んでもいい。「融通のきく主治医であってほしい」とお前に言われたからな。

特異エネルギーの波動はないみたい。ただの誤報だったのかも。

ここで異音がすると報告があった時、具体的にどんな音だと聞いた？

時々「カサカサ」とか「トントントン」っていう音が聞こえるって。

それだと、近所の犬や猫の可能性もあるな。

ちょっと待って。あそこに何かいる！

･･････キツツキだ。

キツツキにしてはふっくらしてるね。

ここの環境は、思ったよりも快適なようだ。

ふふ、年中「晴天続き」の長瑕市だしね。

･･････お前の言いたいことがわかった気がする。

でも今回は二人で来てるから、連絡がつかなくて心配になることもないね。